JP3993652B2 - 感受性疾患剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、免疫担当細胞においてインターフェロン−γ(以下、「IFN−γ」と略記する。)の産生を誘導する新規なポリペプチドを有効成分として含んでなる感受性疾患剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
IFN−γは、抗ウイルス作用、抗腫瘍作用、免疫調節作用を有する蛋白質として知られ、抗原やマイトジェンによる刺激を受けた免疫担当細胞が産生すると云われている。これら生物作用ゆえに、IFN−γはその発見当初より抗腫瘍剤としての実用化が鶴首され、現在では脳腫瘍を始めとする悪性腫瘍一般の治療剤として精力的に臨床試験が進められている。現在入手し得るIFN−γは免疫担当細胞が産生する天然型IFN−γと、免疫担当細胞から採取したIFN−γをコードするDNAを大腸菌に導入してなる形質転換体が産生する組換え型IFN−γに大別され、上記臨床試験においては、これらのうちのいずれかが「外来IFN−γ」として投与されている。
【0003】
このうち、天然型IFN−γは、通常、培養株化した免疫担当細胞をIFN−γ誘導剤を含む培養培地で培養し、その培養物を精製することにより製造される。この方法では、IFN−γ誘導剤の種類がIFN−γの産生量や精製のし易さ、さらには、製品の安全性等に多大の影響を及ぼすと云われており、通常、コンカナバリンA、レンズ豆レクチン、アメリカヤマゴボウレクチン、エンドトキシン、リポ多糖などのマイトジェンが頻用される。しかしながら、これら物質は、いずれも分子に多様性があり、給源や精製方法に依って品質が変動し易く、誘導能の一定したIFN−γ誘導剤を所望量入手し難いという問題がある。くわえて、上記物質の多くは生体に投与すると顕著な副作用を示したり、物質に依っては毒性を示すものすらあり、生体に直接投与してIFN−γの産生を誘導するのが極めて困難な状況にあった。
【0004】
一方、最近では、IFN−γ以外にも、例えば、インターフェロン−α、インターフェロン−β、TNF−α、TNF−β、インターロイキン2、インターロイキン12などのサイトカインを有効成分とする医薬品が実用化されたり、実用化を目指して鋭意研究が進められている。その用途は抗腫瘍剤、抗ウイルス剤、抗菌剤及び免疫調節剤を包含し、必要に応じて他の医薬品と組合せて使用されている。
【0005】
サイトカインを有効成分とする医薬品の最大の特徴は、合成医薬品と違って、重篤な副作用を惹起することなく、長期間連用できることにある。問題点としては、疾患の種類や症状にも依るものの、一般に奏効率が低く、単独では疾患を緩解又は完治するのが難しい点にある。これにより、悪性腫瘍などの難治性疾患の治療においては、合成医薬品の補助手段としてか、あるいは、単に患者を延命するためだけの手段として用いられているのが実状である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
斯かる状況に鑑み、この発明の目的は、顕著な薬効が期待でき、かつ、重篤な副作用を惹起することなく、長期間連用可能な医薬品を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
この発明は、上記課題を配列表における配列番号1に示すアミノ酸配列又はそれに相同的なアミノ酸配列(ただし、符号「Xaa」を付して示したアミノ酸は、イソロイシン又はトレオニンを表わすものとする。)を有し、免疫担当細胞においてIFN−γの産生を誘導するポリペプチドを有効成分として含んでなる感受性疾患剤により解決するものである。
【0008】
この発明は、免疫担当細胞においてIFN−γの産生を誘導する新規なポリペプチドの発見に基づくものである。本発明者らが、哺乳類の細胞が産生するサイトカインにつき研究していたところ、コリネバクテリウム死菌体とリポ多糖で予処理したマウスの肝臓中にIFN−γの産生を誘導する物質が存在することを見出した。カラムクロマトグラフィーを中心とする種々の精製方法を組合せてこの物質を単離し、その性質・性状を調べたところ、その本質は蛋白質であり、次のような理化学的性質を有していることが判明した。
(1) 分子量
SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法又はゲル濾過法で測定すると、分子量19,000±5,000ダルトンを示す。
(2) 等電点
クロマトフォーカシング法で測定すると、4.8±1.0に等電点を示す。
(3) 部分アミノ酸配列
配列表における配列番号4及び5に示す部分アミノ酸配列を有する。
(4) 生物作用
免疫担当細胞においてIFN−γの産生を誘導する。
【0009】
斯かる理化学的性質を有する蛋白質は未だ知られておらず、新規物質であると判断される。そこで、本発明者が、引続き、マウス肝細胞を鋭意検索したところ、この蛋白質をコードするDNAを単離するのに成功した。解読したところ、このDNAは471塩基対からなり、配列表における配列番号6に示すアミノ酸配列をコードしていることが判明した。
【0010】
これら知見に基づき、ヒト肝細胞を引続き検索したところ、免疫担当細胞においてIFN−γの産生を誘導するさらに別の新規物質をコードするDNAが得られた。この物質の本質はポリペプチドであり、DNAを解読したところ、配列表における配列番号1に示すアミノ酸配列を含んでなることが判明した。その後、このDNAを大腸菌に導入し、発現させたところ、培養物中にポリペプチドが好収量で産生した。以上の知見は、同じ特許出願人による特願平6−184162号明細書(特開平8−27189号公報)及び特願平6−304203号明細書(特開平8−193098号公報)に開示されている。この発明は、この新規ポリペプチドの感受性疾患剤としての用途を提供するものである。
【0011】
【発明の実施の形態】
この発明の感受性疾患剤は、ヒトに投与すると、体内の免疫担当細胞においてIFN−γの産生を誘導し、IFN−γ感受性疾患の治療・予防に効果を発揮する。ポリペプチドがキラー細胞による細胞障害性の増強又はキラー細胞の生成を誘導する作用を兼備するときには、悪性腫瘍を始めとする難治性疾患の治療に格別の効果を発揮する。
【0012】
この発明で用いるポリペプチドは、配列表における配列番号1に示すアミノ酸配列又はそれに相同的なアミノ酸配列(ただし、符号「Xaa」を付して示したアミノ酸は、イソロイシン又はトレオニンを表わすものとする。)を有し、免疫担当細胞においてインターフェロン−γの産生を誘導する。配列表における配列番号1に示すアミノ酸配列に相同的なアミノ酸配列とは、免疫担当細胞におけるIFN−γの産生を誘導する性質を実質的に失わない範囲で、その配列番号1のアミノ酸配列におけるアミノ酸の1個又は2個以上を他のアミノ酸で置換したもの、配列番号1のアミノ酸配列におけるN末端及び/又はC末端にアミノ酸が1又は2個以上付加したもの及びそのN末端及び/又はC末端のアミノ酸が1個又は2個以上欠失したものを包含する。この発明においては、ポリペプチドが斯かるアミノ酸配列及び性質を有するかぎり、細胞培養法により天然の給源から分離したものであっても、組換えDNA技術やペプチド合成法により人工的に合成したものであっても構わない。
【0013】
経済的見地に立てば、組換えDNA技術による方法が有利であり、斯かる方法においては、通常、微生物又は動植物由来の適宜宿主に上記アミノ酸配列をコードするDNAを導入して形質転換体となし、これを常法により培養後、培養物をサイトカインを精製するための斯界における慣用の方法により精製して目的とするポリペプチドを得る。同じ特許出願人による特願平6−304203号明細書(特開平8−193098号公報)には、組換えDNA技術による当該ポリペプチドの製造方法が詳述されており、また、同じ特許出願人による特願平7−58240号明細書(特開平8−231598号公報)に開示された精製方法によるときには、高純度のポリペプチドが最少のコストと労力で得られる。
【0014】
前述のとおり、当該ポリペプチドは、免疫担当細胞においてIFN−γの産生を誘導する性質を有する。したがって、この発明の感受性疾患剤は、ヒトに投与すると、体内の免疫担当細胞がIFN−γを産生し、IFN−γ感受性疾患の治療・予防に効果を発揮する。また、例えば、配列表における配列番号1に示すアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドのように、ポリペプチドが免疫担当細胞においてIFN−γの産生を誘導する性質に加えて、NK細胞やLAK細胞(リンホカイン活性化キラー細胞)、細胞障害性T細胞などのキラー細胞による細胞障害性の増強又はキラー細胞の生成を誘導する性質を兼備するときには、キラー細胞も感受性疾患の治療・予防に関与することとなる。したがって、この発明でいう感受性疾患とは、IFN−γ感受性疾患を含む、IFN−γ及び/又はキラー細胞が直接又は間接に関与して治療及び/又は予防し得る疾患全般を意味するものとし、具体的には、例えば、肝炎、ヘルペス症、尖圭コンジロム、後天性免疫不全症候群(AIDS)などのウイルス性疾患、カンジダ症、マラリヤ症などの細菌感染症、腎細胞癌、菌状息肉腫、慢性肉芽腫などの固形悪性腫瘍、成人T細胞白血病、慢性骨髄性白血病、悪性リンパ腫などの血球系悪性腫瘍、さらには、アレルギー症、リウマチなどの免疫疾患を挙げることができる。また、インターロイキン3と併用するときには、白血病、骨髄腫、さらには、悪性腫瘍を治療する際の放射線照射や化学療法剤の投与に伴なう白血球減少症や血小板減少症の完治又は緩解にも効果を発揮する。
【0015】
斯くして、この発明の感受性疾患剤は、上記のごとき感受性疾患を治療・予防するための抗腫瘍剤、抗ウイルス剤、抗菌剤、免疫疾患剤、血小板増多剤、白血球増多剤などとして多種多様な用途を有することとなる。剤型並びに感受性疾患の種類及び症状にも依るが、この発明の感受性疾患剤は、通常、液状、ペースト状又は固状に調製され、当該ポリペプチドを0.000001乃至100%(w/w)、望ましくは、0.0001乃至0.1%(w/w)含んでなる。
【0016】
この発明の感受性疾患剤は当該ポリペプチド単独の形態はもとより、当該ポリペプチドとそれ以外の生理的に許容される、例えば、担体、賦形剤、希釈剤、免疫助成剤、安定剤、さらには、必要に応じて、インターフェロン−α、インターフェロン−β、インターロイキン2、インターロイキン3、インターロイキン12、TNF−α、TNF−β、カルボコン、シクロホスファミド、アクラルビシン、チオテパ、ブスルファン、アンシタビン、シタラビン、フルオロウラシル、テトラヒドロフリルフルオロウラシル、メトトレキセート、アクチノマイシンD、クロモマイシンA3 、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、マイトマイシンC、ビンクリスチン、ビンブラスチン、L−アスパラギナーゼ、金コロイド、クレスチン、ピシバニール、レンチナン及び丸山ワクチンを始めとする他の生理活性物質の1種又は2種以上との組成物としての形態をも包含する。このうち、インターロイキン2との併用は、インターロイキン2が、当該ポリペプチドが免疫担当細胞においてIFN−γの産生を誘導する際の補因子として機能するので特に有利である。天然型又は組換え型ヒトインターロイキン2を併用することにより、当該ポリペプチド単独ではIFN−γを産生し難い免疫担当産生細胞においても、所期のIFN−γ産生を誘導することができる。また、インターロイキン12と併用するときには、当該ポリペプチド又はインターロイキン12単独では容易に達成し得ない、極めて高レベルのIFN−γ産生を誘導することができる。しかも、当該ポリペプチドは、ヒト体内におけるインターロイキン12によるイムノグロブリンE抗体の産生阻害を高めるので、イムノグロブリンE抗体の産生を主因とする、例えば、アトピー性喘息、アトピー性気管支喘息、枯草熱、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、血管性浮腫、アトピー性消化器異常を始めとするアトピー性疾患を治療するための免疫疾患剤においても極めて有用である。なお、ヒトの体内には、微量ではあるが、インターロイキン12が存在することがあるので、斯かる場合には、当該ポリペプチドのみを投与すれば所期の治療効果が達成できる。
【0017】
さらに、この発明の感受性疾患剤は、投薬単位形態の薬剤をも包含し、その投薬単位形態の薬剤とは、当該ポリペプチドを、例えば、1回当りの用量又はその整数倍(4倍まで)若しくはその約数(1/40まで)に相当する量を含んでなり、投薬に適する物理的に分離した一体の剤型にある薬剤を意味する。このような投薬形態の薬剤としては、注射剤、液剤、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、舌下剤、点眼剤、点鼻剤、坐剤などが挙げられる。
【0018】
この発明の感受性疾患剤は経口的に投与しても非経口的に投与しても、また、以下に述べるように抗腫瘍細胞などを体外で活性化させる場合に用いてもよく、いずれの場合にも、感受性疾患の治療・予防に効果を発揮する。感受性疾患の種類や症状に依るが、具体的には、患者の症状や投与後の経過を観察しながら、成人当たり約0.1μg乃至50mg/回、望ましくは、約1μg乃至1mg/回のポリペプチドを1乃至4回/日又は1乃至5回/週の用量で1日乃至1年間に亙って経口投与するか、皮内、皮下、筋肉内又は静脈内に非経口投与すればよい。
【0019】
この発明の感受性疾患剤は、インターロイキン2を用いる、いわゆる「抗腫瘍免疫療法」にも有用である。抗腫瘍免疫療法は、一般に、(i)悪性腫瘍患者の体内に直接インターロイキン2を投与する方法と、(ii)インターロイキン2により生体外で活性化させた抗腫瘍細胞を患者の体内に移入する方法(養子免疫療法)に大別されるが、当該ポリペプチドを併用するときには、その効果を有意に高めることができる。具体的には、前記(i)の方法の場合、患者にインターロイキン2を投与するのと同時又は事前に当該ポリペプチドを成人当たり約0.1μg乃至1mg/回の用量で1乃至10回投与する。インターロイキン2の投与量は、悪性腫瘍の種類、患者の症状及びポリペプチドの用量にも依るが、通常、成人当たり約10,000乃至1,000,000単位/回とする。一方、前記(ii)の方法の場合には、悪性腫瘍患者から採取した単核球又はリンパ球をインターロイキン2の存在下で培養するに当たり、それら血球1×106 個当たり当該ポリペプチドを約1ng乃至1mg共存させておく。そして、一定時間培養後、培養物からNK細胞又はLAK細胞を採取し、これを元の患者に移入するのである。この発明による抗腫瘍免疫療法の対象となり得る疾患としては、例えば、結腸癌、直腸癌、大腸癌、胃癌、甲状腺癌、舌癌、膀胱癌、絨毛癌、肝癌、前立腺癌、子宮癌、喉頭癌、肺癌、乳癌、悪性黒色腫、カポジ肉腫、脳腫瘍、神経芽細胞腫、卵巣腫瘍、睾丸腫瘍、骨肉腫、膵臓癌、腎癌、副腎腫、血管内皮腫などの固形悪性腫瘍や白血病、悪性リンパ腫などの血球系悪性腫瘍が挙げられる。
【0020】
つぎの実験例では、組換えDNA技術により当該ポリペプチドを調製し、その生物作用と毒性について試験する。
【0021】
【実験例1 ポリペプチドの調製】
【0022】
【実施例1−1 形質転換体KGFHH2の作製】
0.5ml容反応管に25mM塩化マグネシウムを8μl、10×PCR緩衝液を10μl、25mM dNTPミックスを1μl、2.5単位/μlアンプリタックDNAポリメラーゼを1μl、特願平6−304203号明細書(特開平8−193098号公報)に記載された方法にしたがってファージDNAクローンから調製した配列表における配列番号2に示す塩基配列を有し、配列番号1に示すアミノ酸配列のポリペプチドをコードするDNAを含む組換えDNAを1ng、配列表の配列番号1におけるN末端及びC末端付近のアミノ酸配列に基づき化学合成した5´−ATAGAATTCAAATGTACTTTGGCAAGCTTGAATC−3´及び5´−ATAAAGCTTCTAGTCTTCGTTTTGAAC−3´で表わされる塩基配列のセンスプライマー及びアンチセンスプライマーの適量を加え、滅菌蒸留水で100μlとした。常法により、この混合物を94℃で1分間、43℃で1分間、72℃で1分間、この順序でインキュベートするサイクルを3回繰返した後、さらに、94℃で1分間、60℃で1分間、70℃で1分間、この順序でインキュベーションするサイクルを40回繰返しPCR反応させた。
【0023】
このPCR産物とストラタジーン製プラスミドベクター『pCR−Script SK (+)』を常法にしたがってDNAリガーゼにより連結して組換えDNAとし、これをコンピテントセル法によりストラタジーン製大腸菌株『XL−1 Blue MRF´Kan』に導入して形質転換した。形質転換体を50μg/mlアンピシリンを含むL−ブロス培地(pH7.2)に接種し、37℃で18時間振盪培養した後、培養物を遠心分離して形質転換体を採取し、通常のアルカリ−SDS法を適用して組換えDNAを単離した。この組換えDNAの一部をとり、ジデオキシ法により分析したところ、配列表の配列番号2に示す塩基配列における5´末端及び3´末端にそれぞれEco RI切断部位及びHindIII切断部位を、また、その配列番号2に併記したアミノ酸配列におけるN末端及びC末端のそれぞれ直前及び直後に対応する部位にポリペプチド合成開始のためのメチオニンコドン及びポリペプチド合成終止のためのTAGコドンを有するDNAを含んでいた。
【0024】
そこで、常法にしたがって残りの組換えDNAを制限酵素Eco RI及びHind IIIで切断後、宝酒造製DNAライゲーションキット『DNAライゲーション・キット・バージョン2』を使用して、得られたEco RI−Hind III DNA断片0.1μgと予め同じ制限酵素で切断しておいたファルマシア製プラスミドベクター『pKK223−3』10ngを16℃で30分間反応させて連結して複製可能な組換えDNA『pKGFHH2』を得た。コンピテントセル法により、この組換えDNA pKGFHH2で大腸菌Y1090株(ATCC37197)を形質転換し、得られた形質転換体『KGFHH2』を50μg/mlアンピシリンを含むL−ブロス培地(pH7.2)に接種し、37℃で18時間振盪培養した。培養物を遠心分離して形質転換体を採取し、その一部に通常のSDS−アルカリ法を適用して組換えDNA pKGFHH2を抽出した。ジデオキシ法により分析したところ、図1に示すように、組換えDNApKGFHH2においては、配列表における配列番号2に示す塩基配列を含むKGFHH2 cDNAがTacプロモータの下流に連結されていた。
【0025】
【実験例1−2 形質転換体KGFHH2によるポリペプチドの産生と精製】
オートクレーブによりアンピシリン50μg/mlを含むL−ブロス培地(pH7.2)を滅菌し、37℃に冷却後、実験例1−1で作製した形質転換体KGFHH2を接種し、振盪下、同じ温度で18時間種培養した。20l容ジャーファーメンタに新鮮な同一培地を18lとり、同様に滅菌し、37℃に冷却後、上記で得た種培養物を1%(v/v)接種し、同じ温度で8時間通気撹拌培養した。培養物を遠心分離して菌体を採取し、150mM塩化ナトリウム、16mM燐酸水素二ナトリウム及び4mM燐酸二水素ナトリウムを含む混液(pH7.3)に浮遊させ、超音波破砕後、遠心分離により菌体破砕物を除去し、上清を採取した。
【0026】
この上清に氷冷下で硫酸アンモニウムを40%(w/v)まで加え、均一に溶解し、暫時静置し、遠心分離後、上清を採取した。この上清を予め1.5M硫酸アンモニウムを含む10mM燐酸緩衝液(pH6.6)により平衡化しておいたファルマシア製『フェニル・セファロース』のカラムに負荷し、カラムを新鮮な同一緩衝液で洗浄後、1.5Mから0Mに下降する硫酸アンモニウムの濃度勾配下、10mM燐酸緩衝液(pH6.6)を通液した。
【0027】
別途、同じ特許出願人による特願平7−58240号明細書(特開平8−231598号公報)に記載された方法にしたがってイムノアフィニティークロマトグラフィー用ゲルを調製し、プラスチック製円筒管内部にカラム状に充填し、燐酸食塩緩衝液(以下、「PBS」と云う。)で洗浄後、上記カラムクロマトグラフィーにおいて硫酸アンモニウム濃度1.0M付近で溶出した画分10mlを負荷した。新鮮なPBSで洗浄後、カラムに1M塩化ナトリウムを含む0.1Mグリシン−塩酸緩衝液(pH2.5)を通液し、IFN−γ誘導能ある画分を採取した。採取した画分をプールし、PBSに対して4℃で一晩透析し、濃縮後、IFN−γ誘導活性及び蛋白質含量を測定したところ、純度95%以上の精製ポリペプチドが、培養液1l当たり、約25mgの収量で得られていた。
【0028】
特願平6−304203号明細書(特開平8−193098号公報)に記載した方法に準じて分析したところ、精製ポリペプチドは次のような理化学的性質を有していた。すなわち、非還元条件下でSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動すると、分子量18,500±3,000ダルトンに相当する位置にIFN−γ誘導能ある主たるバンドを示す一方、クロマトフォーカシングすると、4.9±1.0に等電点を示した。また、そのN末端は、配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列におけるN末端にメチオニンが結合した配列番号3に示すアミノ酸配列を有していた。
【0029】
【実験例2 生物作用】
【0030】
【実験例2−1 免疫担当細胞におけるIFN−γの産生】
ヘパリン加注射器により健常者から血液を採取し、血清無含有のRPMI1640培地(pH7.4)により2倍希釈した。血液をフィコール上に重層し、遠心分離して採取したリンパ球を10%(v/v)ウシ胎児血清を補足したRPMI1640培地(pH7.4)により洗浄した後、新鮮な同一培地に細胞密度5×106 個/mlになるように浮遊させ、96ウェルマイクロプレートに0.15ml/ウェルずつ分注した。
【0031】
別途、実験例1−2の方法により得たポリペプチドを10%(v/v)ウシ胎児血清を補足したRPMI1640培地(pH7.4)により適宜濃度に希釈して上記マイクロプレートに0.05ml/ウェルずつ分注し、2.5μg/mlコンカナバリンA又は50単位/ml組換え型ヒトインターロイキン2を含むか含まない新鮮な上記と同一培地を0.05ml/ウェル加えた後、5%CO2 インキュベータ中、37℃で24時間培養した。培養後、各ウェルから培養上清を0.1mlずつ採取し、通常の酵素免疫測定法によりIFN−γ含量を測定した。同時に、ポリペプチドのみを省略した系を設け、上記と同様に処置して対照とした。結果を表1に示す。なお、表1中のIFN−γ含量は、米国国立公衆衛生研究所から入手したIFN−γ標品(Gg23−901−530)に基づき国際単位(IU)に換算している。
【0032】
【表1】
【0033】
表1の結果は、当該ポリペプチドを作用させると、免疫担当細胞としてのリンパ球がIFN−γを産生したことを示している。また、表1の結果に見られるように、このIFN−γ産生は、補因子としてインターロイキン2又はコンカナバリンAを共存させると、一段と高まる。
【0034】
【実験例2−2 NK細胞による細胞障害性の増強】
ヘパリン加注射器により健常者から血液を採取し、140mM塩化ナトリウムを含む10mM燐酸緩衝液(pH7.4)により2倍希釈した。血液をパコール上に重層し、遠心分離後、パコール勾配遠心分離して高密度リンパ球を得た。
【0035】
このリンパ球を細胞密度1×106 個/mlになるように10μg/mlカナマイシン、5×10-5M 2−メルカプトエタノール及び10%(v/v)ウシ胎児血清を含むRPMI1640培地(pH7.2)に浮遊させ、12ウェルマイクロプレートに0.5ml/ウェルずつ分注した。そして、実験例1−2の方法により得たポリペプチドを新鮮な上記と同一培地に適宜希釈してマイクロプレートに1.5ml/ウェルずつ加えた後、さらに50単位/ml組換え型ヒトインターロイキン2を含むか含まない同培地を0.5ml/ウェル加えた後、5%CO2 インキュベータ中、37℃で24時間培養し、140mM塩化ナトリウムを含む10mM燐酸緩衝液(pH7.4)で洗浄して効果細胞としてのNK細胞を含む培養リンパ球を得た。
【0036】
別途、常法により51Cr標識したNK細胞感受性標的細胞としてのヒト慢性骨髄性白血病由来のK−562細胞(ATCC CCL243)を96ウェルマイクロプレートに1×104 個/ウェルずつとり、上記で調製した効果細胞を効果細胞/標的細胞比で2.5:1、5:1又は10:1の割合で加え、5%CO2 インキュベータ中、37℃で4時間培養した後、常法にしたがって培養上清の放射能を測定して死滅標的細胞数を求めた。そして、各々の系につき、試験に供した標的細胞数に対する死滅標的細胞数の百分率(%)を計算し、細胞障害性の目安とした。結果を表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
表2の結果は、当該ポリペプチドに、NK細胞による細胞障害性を増強する性質のあることを示している。また、表2の結果に見られるように、この細胞障害性の増強は、インターロイキン2が共存すると、一段と増強される。
【0039】
【実験例2−3 LAK細胞の生成誘導】
常法により51Cr標識したNK細胞非感受性標的細胞としてのヒトバーキットリンパ腫由来のRaji細胞(ATCC CCL86)を96ウェルマイクロプレートに1×104 個/ウェルずつとり、72時間培養した以外は実験例2−2と同様にして調製した効果細胞としてのLAK細胞を含む培養リンパ球を効果細胞/標的細胞比で5:1、10:1又は20:1の割合で加え、5%CO2 インキュベータ中、37℃で4時間培養した後、常法にしたがって培養上清の放射能を測定した。その後、実験例2−2と同様にして細胞障害性(%)を計算した。結果を表3に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
表3の結果は、当該ポリペプチドに、LAK細胞の生成を誘導する性質のあることを示している。また、表3の結果に見られるように、この誘導は、インターロイキン2が共存すると、一段と増強される。
【0042】
【実験例3 急性毒性試験】
常法にしたがって、8週齢のマウスに実験例1−2の方法により得た精製ポリペプチドを経皮、経口又は腹腔内に注射投与した。その結果、精製ポリペプチドのLD50は、いずれの投与経路によっても約1mg/kg以上であった。このことは、当該ポリペプチドがヒトへの投与を前提とする医薬品に配合して安全であることを裏付けている。
【0043】
周知のように、IFN−γはウイルス、細菌などに対する感染防御、悪性腫瘍の増殖抑制、免疫機能の調節作用を通じてヒトの生体防御、さらには、イムノグロブリンE抗体の産生阻害に多大の関与をしている。前述のとおり、IFN−γはヒトの感受性疾患剤としてすでに実用化されており、その対象疾患、用量、用法及び安全性はほぼ確立している。一方、フランセス・アール・バークウィル著、渡部好彦訳、『サイトカインとがん治療』、1991年、東京化学同人発行などにも記載されているように、NK細胞及びLAK細胞などのキラー細胞を利用する療法は、抗腫瘍免疫療法を始めとして、多種多様のヒト疾患において試みられ、総じて良好な成果が報告されている。最近では、サイトカインを用いるキラー細胞による細胞障害性の増強又はキラー細胞の生成の誘導と治療効果との関連性が注目されており、例えば、ティー・フジオカら『ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ユーロロジー』、第73巻、第1号、23乃至31頁(1994年)には、LAK細胞とインターロイキン2を併用する抗腫瘍免疫療法において、インターロイキン2がLAK細胞の生成を顕著に誘導し、重篤な毒性や副作用を惹起することなく、ヒトの転移癌に格別の効果を発揮したことが報告されている。
【0044】
このように、多種多様のヒト疾患の治療・予防にIFN−γやキラー細胞が深く関わり、その完治又は緩解への多大の寄与が明らかになっている。斯かる状況において、実験例2乃至3の結果に見られるように、当該ポリペプチドが、顕著な毒性を示すことなく、免疫担当細胞においてIFN−γの産生を誘導するとともに、NK細胞による細胞障害性の増強又はLAK細胞の生成を誘導したことは、この発明の感受性疾患剤が、重篤な副作用を惹起することなくヒトに長期間連用でき、IFN−γ及び/又はキラー細胞が関与する疾患の治療・予防に効果を発揮することを示している。
【0045】
以下、実施例に基づき、この発明の感受性疾患剤を説明する。
【0046】
【実施例1 液剤】
安定剤として1%(w/v)ヒト血清アルブミンを含む生理食塩水に実験例1−2の方法により得たポリペプチドを1mg/mlになるように溶解し、常法にしたがって精密濾過により滅菌して液剤を得た。
【0047】
安定性に優れた本品は、悪性腫瘍、ウイルス性疾患、細菌感染症及び免疫疾患を含む感受性疾患を治療・予防するための注射剤、点眼剤及び点鼻剤として有用である。
【0048】
【実施例2 乾燥注射剤】
安定剤として1%(w/v)精製ゼラチンを含む生理食塩水100mlに実験例1−2の方法により得たポリペプチドを100mg溶解し、常法にしたがって精密濾過により滅菌し、バイアル瓶に1mlずつ分注し、凍結乾燥後、密栓した。
【0049】
安定性に優れた本品は、悪性腫瘍、ウイルス性疾患、細菌感染症及び免疫疾患を含む感受性疾患を治療・予防するための乾燥注射剤として有用である。
【0050】
【実施例3 軟膏剤】
滅菌蒸留水に和光純薬工業製カルボキシビニルポリマー『ハイビスワコー104』と高純度トレハロースをそれぞれ濃度1.4%(w/w)及び2.0%(w/w)になるように溶解し、実験例1−2の方法により得たポリペプチドを均一に混合後、pH7.2に調整して、1g当たりポリペプチドを約1mg含むペースト状物を得た。
【0051】
延展性と安定性に優れた本品は、悪性腫瘍、ウイルス性疾患、細菌感染症及び免疫疾患を含む感受性疾患の治療・予防するための軟膏として有用である。
【0052】
【実施例4 錠剤】
林原製無水結晶α−マルトース粉末『ファイントース』に実験例1−2の方法により得たポリペプチドと細胞賦活剤としてのルミンを均一に混合し、得られる混合物を常法により打錠して製品1錠(約200mg)当たりポリペプチド及びルミンをそれぞれ約1mg含む錠剤を得た。
【0053】
摂取性、安定性に優れ、細胞賦活作用も有する本品は、悪性腫瘍、ウイルス性疾患、細菌感染症及び免疫疾患を含む感受性疾患を治療・予防するための錠剤として有用である。
【0054】
【実施例5 養子免疫療法剤】
悪性リンパ腫患者の末梢血から単核球を単離し、37℃に予温した10%(v/v)ヒトAB血清を補足したRPMI1640培地(pH7.2)に細胞密度約1×106 個/mlになるように浮遊させ、実験例1−2の方法により得たポリペプチドを約1.0μg/mlと組換え型ヒトインターロイキン2を約100単位/ml加え、5%CO2 インキュベータ中、37℃で1週間培養した後、遠心分離によりLAK細胞を採取した。
【0055】
このLAK細胞は、元の悪性リンパ腫患者の体内に移入すると、リンパ腫細胞に顕著な細胞障害性を示し、インターロイキン2のみ用いる養子免疫療法と比較して有意に高い治療効果を発揮する。なお、ヒト単核球に代えて腫瘍組織浸潤リンパ球を同様に処置して得られる細胞障害性T細胞も、元の患者体内に移入すると、LAK細胞と同様の効果を発揮する。本例の養子免疫療法剤は、悪性リンパ腫以外に、例えば、腎癌、悪性黒色腫、大腸癌、肺癌などの固形悪性腫瘍にも有利に適用できる。
【0056】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明の感受性疾患剤は、ヒトに投与すると、悪性腫瘍、ウイルス性疾患、細菌感染症及び免疫疾患を含む感受性疾患の治療・予防に効果を発揮する。また、キラー細胞による細胞障害性の増強又はキラー細胞の生成を誘導する性質を兼備するポリペプチドを有効成分とする感受性疾患剤は、悪性腫瘍などの難治性疾患の治療に格別の効果を発揮する。
【0057】
この発明は、斯くも顕著な作用効果を発揮するものであり、斯界に貢献すること誠に多大な意義のある発明であると云える。
【0058】
【配列表】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【図面の簡単な説明】
【図1】組換えDNA pKGFHH2の構造を示す図である。
【符号の説明】
KGFHH2 cDNA ポリペプチドをコードするcDNA
Ptac tacプロモータ
rrnBT1T2 リボゾームRNAオペロンの転写終止領域
AmpR アンピシリン耐性遺伝子
pBR322ori 大腸菌における複製開始点
Claims (1)
- 免疫担当細胞においてインターフェロン−γの産生を誘導するポリペプチドであって、配列表における配列番号1に示すアミノ酸配列(ただし、符号「Xaa」を付して示したアミノ酸は、イソロイシン又はトレオニンを表わすものとする。)又は免疫担当細胞においてインターフェロン−γの産生を誘導する性質を実質的に失わない範囲で配列番号1に示すアミノ酸配列におけるアミノ酸の1個又は2個以上が欠失、付加又は置換したアミノ酸配列を有するポリペプチドを有効成分とする、肺癌、悪性黒色腫、及び、卵巣腫瘍から選ばれる、キラー細胞に対して感受性を有する疾患の治療及び/又は予防剤。
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