JP2004262797A - インターロインキン−23遺伝子を利用した抗腫瘍剤 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】IL−23遺伝子の投与により抗腫瘍効果を発揮し、あるいはIL−23遺伝子導入腫瘍細胞の投与により著しい抗腫瘍効果が惹起され腫瘍特異的な獲得免疫が生じることから、IL−23遺伝子投与あるいはIL−23遺伝子導入腫瘍細胞投与が、癌治療を行う上で安全かつ効果的な手段となり、他の治療法との併用をはじめとして一段と優れた癌治療の方法となる。
【選択図】 なし
Description
【産業上の利用分野】
本発明は、IL−23遺伝子あるいはIL−23遺伝子を導入した細胞を有効成分とする抗腫瘍剤に関する。更に詳細には、IL−23遺伝子を発現し得るウイルスベクターあるいは非ウイルスベクター、あるいはIL−23遺伝子が導入された細胞で分裂能を欠落した腫瘍細胞またはIL−23遺伝子が導入された免疫担当細胞を有効成分とする抗腫瘍剤に関する。本発明の抗腫瘍剤は、従来の手術等のがん治療との併用あるいは単独で使用し、生体の細胞性免疫応答を高め、直接的な腫瘍縮小効果、遠隔転移巣、あるいはがん治療後の再発予防等に広く応用でき得るものである。
【0002】
【従来の技術】
従来のがん治療は生体への侵襲が強く、本来生体が備わっている抵抗力(免疫力)を著しく低下せしめ、ひいては長期的な予後の改善に寄与しない場合が有ることが知られている。抗癌剤による化学療法や放射線療法は骨髄機能に傷害を与え、生体防御反応を低下させ日和見感染を起しうることはしばしば経験するところであり、この結果がん細胞に対する抗腫瘍免疫応答も同様に低下する。また、手術侵襲自体も各種免疫反応を抑制し、手術を契機として微少転移巣の拡大がみられることも少なくない。また、がん患者ではいくつかの理由により、免疫系が腫瘍の攻撃に立ち至らない「免疫寛容」に陥り、本来腫瘍を攻撃すべき免疫系の能力が抑制されていることが知られている。したがって、この担がん状態における免疫寛容、各種治療後に惹起される免疫抑制状態を打破することが、現在の免疫応答強化に基づくがん治療にとって大きな課題である。
【0003】
上記の問題を解決する手段として、免疫応答の各段階において作用するサイトカイン分子を利用することによって、生体の免疫応答を操作しようとする試みが行われている。その一つが組換えサイトカインを人体に投与する方法であり、他の一つが遺伝子そのものを投与する遺伝子治療である(非特許文献1および非特許文献2)。サイトカイン分子は一般に半減期が短くまた生体におけるクリアランスが高いため、血中濃度の維持が難しく、また過剰投与による有害事象もあることから、組換えサイトカインを直接体内に投与する方法は著しい制限をうける。したがって体外における免疫担当細胞の培養に利用されることはあっても、人体への直接投与による抗腫瘍効果を期待することはできないのが現状である。それに対して、腫瘍細胞にウイルスやリポソーム脂質製剤等の利用、あるいは超音波や電気的穿孔法等物理的手法による方法で、容易に外来遺伝子を導入できることから、腫瘍細胞にサイトカイン遺伝子を導入し、この細胞よりサイトカインを分泌させることによって抗腫瘍効果を惹起させようとする試みなどがあり、これらはいわゆる遺伝子治療の範疇に入るものである。
【0004】
この治療方法では、腫瘍局所からサイトカインが持続的に分泌され、腫瘍に集積する細胞群が直接活性化される可能性があることから、組換え蛋白の投与よりも抗腫瘍効果が高まると想定されうる。また、実際にがん細胞に作用し抗腫瘍効果に関与するのは、腫瘍特異性を有する細胞傷害性T(キラーT)細胞や、非特異的なナチュラルキラー細胞であることから、これまで使用されたサイトカインは、これらの細胞の活性化と増殖に係わるものが大部分を占めている。
【0005】
近年一部の腫瘍で腫瘍抗原ペプチドが同定され、免疫応答を利用したがん治療の可能性が確かに示唆されている。この治療のエフェクター細胞であるキラーT細胞の誘導には、抗原提示細胞である樹状細胞が抗原を獲得し、適切に活性化される必要がある(非特許文献3)。従来より、IL−12が活性化樹状細胞より分泌され、タイプIヘルパーT細胞の誘導をはじめ、抗腫瘍効果の惹起に重要な役割を果たすことが知られていたが、最近になって、この樹状細胞より分泌される新規サイトカインIL−23が同定された(非特許文献4)。IL−23(p19分子+p40分子)はIL−12(p35分子+p40分子)とp40分子が共有する2量体で、p19サブユニットとp35サブユニットのアミノ酸配列の相同性が高いことなど、相互に構造が類似していることが明らかになっている。
【0006】
【非特許文献1】
Rosenberg SA, J Clin Oncol, 10;180−199 1992
【非特許文献2】
Tepper RI, Mule JJ, Hum Gene Ther, 5;153−164, 1994
【非特許文献3】
Banchereau J, Steiman RM, Nature 392;245−252, 1998
【非特許文献4】
Oppmann B et al., Immunity 13;715−725, 2000
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従来よりがん治療に実際に応用された組換えサイトカインは、IL−2、インターフェロン−α(IFN−α)、TNF−α(tumor necrosis factor−α)などのサイトカインであり、いずれも明確な治療効果を発揮しているとは言いがたい状況である。また、直接遺伝子を導入して抗腫瘍効果をみる臨床試験研究は開発段階にあり、未だその臨床効果における治療成績は得られていない。
そこで本発明では、これまで使用されてきたサイトカインと異なり、免疫応答の初期相に焦点をあて、抗腫瘍効果を惹起するキラーT細胞誘導の必須条件である樹状細胞の活性化に注目し、この活性化にともなって分泌されるIL−23の遺伝子導入細胞が強い抗腫瘍効果を発揮することを見い出し、本発明を完成させた。すなわち、IL−23はin vitroにおいてメモリーT細胞の増殖と活性化、T細胞よりのIFN−γの分泌を引き起こすことが報告されているが、実際に樹状細胞の活性化に伴って分泌され腫瘍特異的な獲得免疫をin vivoに惹起すること、さらにT細胞を欠く免疫不全のヌードマウスにヒト腫瘍を移植する系においても、IL−23は抗腫瘍効果を発揮することを明らかにした。
従って、本発明は、インターロイキン−23(IL−23)遺伝子を有効成分とする抗腫瘍剤に関する。
また、本発明は、IL−23遺伝子が導入された細胞を有効成分とする抗腫瘍剤に関する。
【0008】
【発明の実施の形態】
IL−23は、IL−12を構成するサブユニットであるp40分子と、IL−12を構成する他のサブユニットであるp35分子と相同性の高いp19分子とからなる、樹状細胞から分泌されるサイトカインである(非特許文献4参照)。本発明で用いるIL−23遺伝子は、例えば、配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列を有するヒトp19分子をコードする、配列番号1に示す塩基配列を有する遺伝子、および配列番号2に示すアミノ酸配列を有するヒトp40分子をコードする、配列番号2に示す塩基配列を有する遺伝子からなり、ヒトIL−23蛋白質を発現できる遺伝子である。
また、IL−23遺伝子としては、IL−23と同様の薬理作用を有するIL−23の変異体をコードする遺伝子を用いることもできる。このような変異体をコードする遺伝子としては、例えば、配列番号1に示すアミノ酸配列において1個から数個のアミノ酸残基が欠失、置換および/または付加したアミノ酸配列であってヒトp19分子と同様の薬理作用を有するヒトp19分子の変異体をコードする遺伝子、および配列番号2に示すアミノ酸配列において1個から数個のアミノ酸残基が欠失、置換および/または付加したアミノ酸配列であってヒトp40分子と同様の薬理作用を有するヒトp40分子の変異体をコードする遺伝子からなる遺伝子を挙げることができる。また、配列番号1に示す塩基配列を有する遺伝子とストリジェントな条件でハイブリダイズしヒトp19分子と同様の薬理作用を有するヒトp19分子の変異体をコードする遺伝子、および配列番号2に示す塩基配列を有する遺伝子とストリジェントな条件でハイブリダイズしヒトp40分子と同様の薬理作用を有するヒトp40分子の変異体をコードする遺伝子から遺伝子を挙げることができる。ここでいうストリジェントな条件とは、例えば、6×SSPE、2×デハルト溶液、0.5%SDS、0.1mg/mlサケ精巣DNAを含む溶液で65℃、12時間反応させる条件下でサザンハイブリダイゼーションを行なうことが挙げられる。
上記した遺伝子は、配列表に示したヒトp19分子およびヒトp40分子の遺伝子の塩基配列に基づきPCR法を利用する周知の方法により得ることができる。これらの方法は、例えばMolecular Cloning 2nd Edt., Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)等の基本書に従い、当業者ならば容易に行うことができる。また、上記した変異体をコードする遺伝子は、例えば部位特異的突然変異誘発法、PCR法あるいは通常のハイブリダイゼーション法などにより容易に得ることができ、具体的には上記Molecular Cloning等の基本書を参考にして行うことができる。
【0009】
本発明では、このようなIL−23遺伝子は、通常、IL−23蛋白質を発現できるウイルスベクターあるいは非ウイルスベクターの形態で用いられる。ウイルスベクターとしては、アデノウイルス、レトロウイルス等のウイルスベクターが代表的なものである。具体的には、例えば、無毒化したレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、センダイウイルス、SV40、免疫不全症ウイルス(HIV)等のDNAウイルスまたはRNAウイルスを挙げることができる。これらのうち、アデノウイルスの感染効率が他のウイルスを用いた場合よりもはるかに高いことから、アデノウイルスベクター系を用いることが好ましい。
非ウイルスベクターとしては、哺乳動物の生体内で目的遺伝子を発現させることのできるベクターであれば如何なる発現ベクターであってもよく、例えばpcDNA3.1、pZeoSV、pBK−CMV(Invitrogene社、Strategene社)やpCAGGS(Gene 108,193−200, 1991)などの発現ベクターが挙げられる。
これらのベクターに発現可能なように上記遺伝子を挿入することにより、本発明の抗腫瘍剤を調製することができる。これらの非ウイルスベクターおよびウイルスベクターの調製法、投与法などは既に当業者に公知であり、例えば、別冊実験医学、遺伝子治療の基礎技術、羊土社、1996;別冊実験医学、遺伝子導入&発現解析実験法、羊土社、1997;日本遺伝子治療学会編遺伝子治療開発研究ハンドブック、エヌ・ティー・エス、1999などが参考とされる。
【0010】
これらのIL−23遺伝子が発現可能なように挿入されたウイルスベクターあるいは非ウイルスベクターは、そのままの形態で、あるいは医薬的に許容できる通常使用されている賦形剤とともに、溶液、懸濁液、ゲル等の形態に製剤化したのちに投与することができる。投与形態としては、腫瘍患者の腫瘍病巣に対して、あるいは腫瘍の種類に対応した予想転移部位に対して、局所注射などにより投与することができる。また、通常の静脈内、動脈内等の全身投与により投与することもできる。投与量は、患者の症状、年齢、性別、投与経路、剤型などによって異なるが、一般に、成人では一日当たりIL−23遺伝子の重量として、通常、約10μgから500mgである。
【0011】
本発明では、上記したIL−23遺伝子を、患者に投与する前に、細胞に導入して該細胞がIL−23蛋白質を発現できるように形質転換した後に、この細胞を腫瘍患者に投与することもできる。このような細胞としては、腫瘍細胞あるいは免疫担当細胞を挙げることができる。腫瘍細胞としてはいずれでもよく、例えば、大腸癌細胞、膵癌細胞、腎癌細胞、メラノーマ細胞、乳癌細胞、扁平上皮癌細胞、移行上皮癌細胞、肉腫、神経膠腫細胞などが挙げられる。特に、治療しようとする腫瘍と同じ腫瘍の細胞が好ましく、また、同種の腫瘍細胞、即ちヒトに適用する場合にはヒトの腫瘍細胞が好ましく、特に同種同系の腫瘍細胞が好ましい。免疫担当細胞としては、リンホカイン活性化キラー細胞(LAK)、細胞障害性T細胞(CTL)、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、ナチュラルキラー細胞、NKT細胞、B細胞、あるいは抗原提示細胞をはじめ末梢血中のすべての有核細胞などが挙げられる。また、同種の免疫担当細胞、即ちヒトに適用する場合にはヒトの免疫担当細胞が好ましく、特に同種同系の免疫担当細胞が好ましい。
【0012】
腫瘍細胞にIL−23遺伝子を導入するには、IL−23遺伝子を含む上記したウイルスベクター、非ウイルスベクターにより導入することができる。例えば、LXSN(Miller AD, Rosman GJ, BioTechniques 7;980−990, 1989)、MGF、α−SCG、PLJ、pEm(特表平6−503968号公報)などのレトロウイルスのクローニング部位に、発現可能なように挿入し、次いでレトロウイルスをパッケージング細胞に導入し、培養して目的とするIL−23遺伝子を導入された細胞を採取し、この細胞の培養上清を用いて、腫瘍細胞を感染させることにより、腫瘍細胞にIL−23遺伝子を導入することができる。IL−23遺伝子が導入された腫瘍細胞は、通常、X線などの放射線照射等により細胞分裂能を欠落させた後に、投与される。
免疫担当細胞にIL−23遺伝子を導入するには、IL−23遺伝子を含む上記したウイルスベクター、非ウイルスベクターにより導入することができる。例えば、ヒト5型アデノウイルス由来のAdex1(Saito, I. et al., J. Viol., 54, 711−719, 1985)などのアデノウイルスベクターのクローニング部位にIL−23遺伝子を発現可能なように挿入して、得られるアデノウイルスベクターを用いて通常の方法により免疫担当細胞に導入することができる。
【0013】
これらのIL−23遺伝子が導入された腫瘍細胞あるいは免疫担当細胞は、そのままの形態で、あるいは医薬的に許容できる通常使用されている賦形剤とともに、溶液、懸濁液、ゲル等の形態に製剤化したのちに投与することができる。投与形態としては、腫瘍患者の腫瘍病巣に対して、あるいは腫瘍の種類に対応した予想転移部位に対して、局所注射などにより投与することができる。また、通常の静脈内、動脈内等の全身投与により投与することもできる。投与量は、患者の症状、年齢、性別、投与経路、剤型などによって異なるが、一般に、成人では一日当たり腫瘍細胞あるいは免疫担当細胞の個数として、通常、約105から109個である。
【0014】
本発明によれば、IL−23遺伝子あるいはIL−23遺伝子を導入した腫瘍細胞または免疫担当細胞を投与することにより、抗腫瘍免疫応答を活性化して、抗腫瘍効果を発揮し、腫瘍を治療し、腫瘍転移を抑制することができる。また、IL−23遺伝子を導入した腫瘍細胞を投与することにより、腫瘍特異的に抗腫瘍免疫応答を活性化することができる。更には、免疫不全の患者に対しても抗腫瘍効果を発揮することができる。
【0015】
【実施例】
以下に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
実施例1
活性化樹状細胞より分泌される IL−23 の量と IL−12 の量の比較
マウス骨髄よりT、B細胞、マクロファージ等を抗体を用いて除去した後、培養デッシュ非付着性細胞をIL−4とGM−CSF(各自20ng/ml, PeproTech社製)添加培地で10日間培養し、樹状細胞を調整した。この細胞の表面マーカーをセルソーターを用いて分析したところ、主要組織適合抗原クラスII分子やCD86等の活性化マーカーが弱陽性であり、未熟な樹状細胞の定義にあてはるものであることを確認した。
この細胞(6x105/24穴プレート)をCD40ligand遺伝子導入肺がんA11細胞(A11/CD40L)(2x105/24穴プレート)と24時間共培養すると、樹状細胞のCD86マーカー等が上昇し活性化されることが判明した。このときその培養上清中にp40サブユニット分子がELIZA法(BioSource社製)により検出されたが、コントロールとして用いたFasLigand遺伝子導入A11細胞(A11/FasL)と共培養した樹状細胞からは全く検出されなかった。(図1)。RT−PCR法を用いてこの細胞群における各サイトカイン遺伝子の発現を検討したところ、IL−23のサブユニットであるp19、IL−12のサブユニットであるp35のRNA発現が共に検出された(図2)。一定量のRNAより作成したcDNAを希釈してRT−PCRをおこなう定量法により、このIL−23p19の発現量は従来より抗腫瘍効果があるとされているIL−12 p35の発現量よりも多いものであることが判明した(図3)。
すなわち、抗腫瘍効果のエフェクター細胞の誘導の初期相において必須の役割を果たす活性化樹状細胞からは、IL−23の方がIL−12よりも分泌量が多く、このことはIL−23のほうがIL−12よりも重要である可能性を示唆している。
【0016】
実施例2
IL−23 遺伝子導入細胞の確立
BALB/cマウスに移植した皮下腫瘍のRNAからRT−PCR法によって、完全長の配列番号3に示す塩基配列を有するp19cDNAおよび配列番号4に示す塩基配列を有するp40cDNAを単離し、これをレトロウイルスベクターLXSN(Miller AD, Rosman GJ, BioTechniques 7;980−990, 1989)のクローニング部位(Eco RI/Bam HI)にinternal ribosomal entry site(IRES)(Duke GM et al., J Virol 66:1602−1609, 1992)を用いて挿入した。したがって、5’LTRの下流にp19/IRES/p40の順で遺伝子が並び、p19、p40共に5’LTRによって転写が行われることになる。
このDNAをパッケージング細胞Psi−2(American Type Culture Collection, ATCC)にリポフェクチン(Invitrogen社)を用いて導入後、G418(400μg/ml、Invitrogen社)添加培地で選択し、その培養上清とポリブレン(8μg/ml、Aldrich社)を用いてさらにPA317細胞(ATCC)に遺伝子導入をおこない、G418(400μg/ml、Invitrogen社)添加培地で選択し、PA317細胞培養上清中のレトロウイルスを得た。
このレトロウイルスをマウス大腸癌細胞(Colon 26)に感染させ、IL−23遺伝子導入細胞のクローン化を行った(樹立細胞:Colon 26/IL−23#1, #4, #9, #12)。この遺伝子導入細胞のp19, p35, p40遺伝子の発現と(代表的クローンのノザンブロット解析結果:図4)、培養上清中に分泌p40分子が存在することを確認した(分泌量はいずれのクローンも0.8−1.1ng/ml/1x106/48時間)。また腫瘍抗原の提示に重要な主要組織適合抗原のH−2K/H−2D発現が、親株と大差ないこと、さらに遺伝子導入細胞のin vitroにおける増殖も親株と同一であることを確認した。
【0017】
実施例3
IL−23 遺伝子導入細胞の抗腫瘍効果
2種類のColon 26/IL−23クローン(#1, #9)1x106個を同系マウスBALB/cの皮下に接種したところ、腫瘍は一旦生着するものの、時間経過とともに全例退縮し、最終的に腫瘍は完全に拒絶された(図5)。このときコントロールであるベクターDNA導入細胞、遺伝子未導入の親株細胞は腫瘍を形成し、この接種マウスは死亡した。また、この抗腫瘍効果は他のクローン(#4, #12)5x105個を接種しても同様であった(図6)。また、Colon 26(1x106個)を同系マウスの腹腔内に投与するとマウスは全例20日以内に死亡したが、Colon 26/IL−23#9あるいは#12を同数(1x106個)腹腔内投与した場合、大多数のマウスは40日を越えて生存した(χ2=3.5, df=1, P=0.037; log−rank test, P=0.046)。すなわちIL−23遺伝子導入によって著しい抗腫瘍効果が惹起された。
Colon 26/IL−23#9とColon 26を1:9の比率で混和して(総細胞数1x106個)同系マウスの皮下に接種すると、腫瘍は形成されたが、その増殖は親株のみを接種した場合(総細胞数1x106個)に比較して、有意に遅延していた(P<0.05)(図7)。すなわち、IL−23分泌細胞が腫瘍局所に投与されれば抗腫瘍効果が惹起されることが示された。
【0018】
実施例4
IL−23 遺伝子導入細胞による治療効果
同系マウスの腹側皮下にColon 26(1x106個)を接種し、他方の腹側にColon 26/IL−23#9(1x106個)を接種すると、Colon 26/IL−2#9腫瘍は拒絶され、さらに反対側のColon 26腫瘍の増殖は、Colon 26腫瘍のみを接種したマウスに比較して、有意に遅延していた(図8)。すなわち、IL−23遺伝子導入細胞の投与は遠隔に存在する親株の腫瘍に対しても十分な免疫応答を惹起し、治療効果を有することが判明した。
【0019】
実施例5
IL−23 遺伝子導入細胞接種による腫瘍特異的獲得免疫の成立
IL−23遺伝子導入Colon 26腫瘍を拒絶したマウスに対して、最初の腫瘍接種より60日後に、致死量(1x106個)のColon 26細胞を接種しても、マウスには腫瘍が形成されず、マウスは120日以降も長期生存した(表1)。しかし、Colon 26/IL−23を拒絶したマウスにColon 26とは同系マウス由来だが異なる腫瘍RLmale−1を致死量(1x106個)接種すると、腫瘍は形成され大部分のマウスは死亡した(表1)。すなわち、腫瘍へのIL−23遺伝子導入により惹起された免疫応答により、T細胞を中心とする腫瘍特異的獲得免疫の成立したことが判明した。
【0020】
【表1】
【0021】
実施例6
IL−23 遺伝子導入細胞接種後の IFN− γ産生
Colon 26/IL−23#9を接種し、腫瘍が退縮しつつあるマウス由来の脾臓細胞(1x107/ml)と、50Gyの放射線処理したColon 26細胞(1x106/ml)と24時間培養すると、その培養上清中に抗腫瘍効果に係わるIFN−γが大量に分泌されていた(表2)。しかし放射線処理したRLmale−1と培養した場合、分泌されるIFN−γは僅かであり、腫瘍未接種のナイーブなマウス由来の脾臓細胞との培養ではIFN−γは産生されなかった(表2)。したがって、IL−23産生細胞の接種により、その腫瘍特異的なキラーT細胞が誘導されていることが示唆された。
【0022】
【表2】
【0023】
この事実を確認するため、Colon 26/IL−23#9を拒絶したマウスの脾細胞を抗アシアロGM1抗体、抗CD4抗体、抗CD8抗体と補体で処理し、それぞれナチュラルキラー細胞、CD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞を除去した細胞群について、IFN−γ産生を検討した(図9)。放射線処理したColon 26細胞と共培養させた場合、抗CD8抗体処理をおこなった脾細胞群におけるIFN−γ産生は著しく低下したことから、IL−23によって誘導される抗腫瘍効果はCD8陽性のキラーT細胞によることが確認された。
【0024】
実施例7
免疫不全状態における IL−23 遺伝子導入細胞の抗腫瘍効果
T細胞を欠くBALB/cヌードマウスにColon 26/IL−23#9(1x106個)を接種した場合、immunocompetentなBALB/cマウスに接種した場合と異なり、腫瘍は形成された(図10)。すなわち、IL−23遺伝子導入によって腫瘍が拒絶されるにはα/βT細胞の関与が必須の条件であること判明した。また、Colon 26/IL−23#9腫瘍の増殖は、親株をBALB/cヌードマウスに接種して生着した腫瘍の増殖に比較して有意に遅延していた(P<0.001、図10)。したがって、IL−23遺伝子導入による抗腫瘍効果は、α/βT細胞が存在しない免疫不全状態においても観察された。
【0025】
ヒト膵がん細胞(AsPC−1)に実施例2で示した方法と同様な手法により、IL−23遺伝子を発現させたクローンを確立した(AsPC−1/IL−23#10、#6)。この細胞はp19、p40遺伝子を発現し(図11)、AsPC−1/IL−23#10細胞は培養上清中にp40分子を2ng/ml/5x105/48時間分泌する。この細胞を35S−メチオニン/システインで代謝的にラベルをして、抗P40抗体で免疫沈降を行った結果、p19+p40複合体であるIL−23が培養上清中に分泌されていることを確認した。またin vitroにおける細胞増殖、クラスI主要組織適合抗原(HLA−A, B, C)の発現も、遺伝子導入細胞と親株とでは変わらなかった。
この細胞を1x106個BALB/cヌードマウスの皮下に接種すると、その腫瘍増殖は親株腫瘍(1x106個接種)の増殖に比較して遅延していた(図12)。さらにAsPC−1/IL−23#10細胞をT細胞、B細胞、NKT細胞を欠くSCIDマウスに投与すると、抗腫瘍効果は観察されなかった(図13)。
したがって、この場合の抗腫瘍効果は、γ/δT細胞、B細胞、NKT細胞であることが推定された。またこのAsPC−1/IL−23#10を接種したヌードマウスの脾細胞(2x107個)を、50Gyの放射線処理したAsPC−1細胞(2x106)と5日間培養すると、ナイーブなマウスあるいは親株腫瘍を接種したマウス由来の脾細胞を培養した場合に比べて、AsPC−1細胞に対する細胞傷害活性が有意に高く検出された(図14)。またほぼ同様な条件で24時間培養した上清中にIFN−γが含まれていたが、50Gy放射線処理したヒト肺がん細胞QG−56と共に培養した場合の分泌IFN−γ量は少なかった(表3)したがってヒト腫瘍を用いた実験でも、α/βT細胞を欠くヌードマウスにおいてIL−23遺伝子導入細胞は抗腫瘍効果を惹起し、細胞傷害活性を誘導しうることが明かとなった。
【0026】
【表3】
【0027】
【発明の効果】
IL−23遺伝子の腫瘍への遺伝子導入、IL−23遺伝子導入細胞の投与により著しい抗腫瘍効果が惹起され腫瘍特異的な獲得免疫が生じることから、本発明のIL−23遺伝子導入、IL−23遺伝子導入細胞はがん治療を行う上で安全かつ効果的な手段となり、他の治療法との併用をはじめとして一段と優れたがん治療の方法を提供することができる。
【0028】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、CD40ligand刺激によって樹状細胞よりp40サブユニットが分泌されることを示すグラフである。
【図2】図2は、CD40ligand刺激によって樹状細胞よりp19、p35サブユニットが発現することを示すRT−PCR法の図である。MigはIFN−γ誘導モノカイン、GAPDHはグリセルアルデヒド3−ホスフェートデヒドロゲナーゼの略称で、GAPDHは解析したcDNA量が一定であることを示すコントロールである。
【図3】図3は、CD40ligand刺激によって活性化された樹状細胞より、p19サブユニットがp35サブユニットより多く分泌されることを示したRT−PCR法の図である。一定量のcDNAを希釈して鋳型として使用している。
【図4】図4は、IL−23遺伝子導入Colon 26細胞の代表的なクローンにおけるp19、p40サブユニットの発現をノザンブロット法にて示す図である。EF−1αは使用したRNA(15μg)が等しくブロットされていることを示すコントロールである。
【図5】図5は、IL−23遺伝子導入Colon 26細胞(1x106)をBALB/cマウスの皮下に接種後、その腫瘍体積を計測したもので、抗腫瘍効果が惹起されていることを示す図である。
【図6】図6は、IL−23遺伝子導入Colon 26細胞(5x105)をBALB/cマウスの皮下に接種後、その腫瘍体積を計測したもので、抗腫瘍効果が惹起されていることを示す図である。
【図7】図7は、IL−23遺伝子導入Colon 26細胞(1x105)と親株(9x105)を混和して接種した場合、その腫瘍体積の増加は親株(1x106)のみを接種した場合より低下していることを示す図である。
【図8】図8は、親株のColon 26細胞(1x106)を一側のBALB/cマウス腹部の皮下に、IL−23遺伝子導入Colon 26細胞(1x106)を対側の皮下に接種後、親株腫瘍体積を計測したもので、IL−23遺伝子導入Colon 26細胞接種によって抗腫瘍効果が惹起されていることを示す図である。
【図9】図9は、IL−23遺伝子導入Colon 26細胞(1x106)を拒絶したBALB/cマウス由来の脾細胞を抗アシアロGM1抗体、抗CD4抗体、抗CD8抗体と補体で処理し、放射線処理後のColon 26あるいはRL male−1細胞と共培養して、その培養上清中に分泌されたIFN−γ産生量を示した図である。
【図10】図10は、IL−23遺伝子導入Colon 26細胞(1x106)をBALB/cヌードマウスの皮下に接種後、その腫瘍体積を計測したもので、抗腫瘍効果が惹起されていることを示す図である。
【図11】図11は、IL−23遺伝子導入AsPC−1細胞の代表的なクローンにおけるp19、p40サブユニットの発現をノザンブロット法にて示す図である。EF−1αは使用したRNA(15μg)が等しくブロットされていることを示すコントロールである。
【図12】図12は、IL−23遺伝子導入AsPC−1細胞(1x106)をBALB/cヌードマウスの皮下に接種後、その腫瘍体積を計測したもので、抗腫瘍効果が惹起されていることを示す図である。
【図13】図13は、IL−23遺伝子導入AsPC−1細胞(1x106)をSCIDマウスの皮下に接種後、その腫瘍体積を計測したもので、抗腫瘍効果が惹起されていないことを示す図である。
【図14】図14は、未処理のヌードマウス、あるいはAsPC−1細胞またはIL−23遺伝子導入AsPC−1細胞(1x106)を接種したヌードマウスの脾細胞をエフェクター細胞とし、AsPC−1細胞をターゲット細胞としたときの、細胞傷害活性を51Cr放出法にて検討した図である。
Claims (9)
- インターロイキン−23(IL−23)遺伝子を有効成分とする抗腫瘍剤。
- IL−23遺伝子が、IL−23遺伝子を発現し得るウイルスベクターあるいは非ウイルスベクターの形態にある請求項1の抗腫瘍剤。
- 腫瘍に直接投与するための請求項1または2の抗腫瘍剤。
- IL−23遺伝子が導入された細胞を有効成分とする抗腫瘍剤。
- 細胞が、細胞分裂能を欠落された腫瘍細胞である請求項4の抗腫瘍剤。
- 腫瘍細胞が、治療しようとする腫瘍と同じ腫瘍の細胞である請求項5の抗腫瘍剤。
- 細胞が免疫担当細胞である請求項4の抗腫瘍剤。
- 抗腫瘍免疫応答を活性化して腫瘍を治療するための請求項1から7のいずれかの抗腫瘍剤。
- IL−23遺伝子が、IL−23と同様の薬理作用を有するIL−23の変異体をコードする遺伝子である請求項1から8のいずれかの抗腫瘍剤。
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