JP3993255B2 - 複層成形品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、軟質層が耐表面傷つき性(耐スクラッチ性)、柔軟性、成形加工性に優れた熱可塑性エラストマーからなり、硬質層が剛性、耐衝撃性に富む熱可塑性樹脂層からなり、プッシュボタン、各種キートップ、つまみ、マッドガード、グリップなどに有用な複層成形品、特に二色射出成形法に優れた複層成形品に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、プッシュボタン、各種キートップ、つまみ、自動車のウインカーランプカバーなどには、同種のプラスチック、例えばABS樹脂の異なった色のペレットを二色射出成形法により成形した二色成形品が用いられている。しかしながら、これらの二色成形品は、ソフト感に乏しい欠点がある。また、異なった樹脂を使用して上記問題点を解決しようとする試みも行われているが、双方の樹脂の相溶性が良くないと、接着力が不足し、剥離の問題が生じたり、スクラップ処理が困難であったり、廃棄された製品のリサイクルができないという問題がある。最近では、これらを改善し、接着性、相溶性、ソフト感を改良した水添ブロック共重合体を外層に使用した二色成形品も提案されているが、これらは耐スクラッチ性が充分ではなく、改良が求められている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来技術の課題を背景になされたもので、柔軟性、接着性、相溶性を有し、特に耐スクラッチ性に優れた特定のミクロ構造を有する水添ジエン系重合体を軟質層に使用した複層成形品を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、(イ)下記(イ−1)、(イ−2)および(イ−3)の群から選ばれた少なくとも1種の水添ジエン系重合体を主成分とする層と、(ロ)ポリオレフィン系樹脂およびスチレン系樹脂の群から選ばれた少なくとも1種の熱可塑性樹脂を主成分とする層からなる、複層成形品を提供するものである。
【0006】
(イ−1);芳香族ビニル化合物重合体ブロックを主体とする重合体ブロック(A)と、共役ジエン部分に1,2−および3,4−結合を60%以上有する共役ジエン重合体を主体とする共役ジエン系重合体もしくは芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのランダム共重合体ブロック(B)とからなる、(A)−(B)もしくは(A)−(B)−(A)ブロック共重合体、または芳香族ビニル化合物と共役ジエンとからなり、芳香族ビニル化合物が漸増するテーパーブロック(C)からなる(A)−(B)−(C)ブロック共重合体、または該ブロック共重合体単位がカップリング剤残基を介して重合体分子鎖が延長または分岐されたブロック共重合体を水素添加してなり、該ブロック共重合体の共役ジエン部分の二重結合の水素添加率が80%以上である水添ジエン系重合体。
【0007】
(イ−2);芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック(D)と、共役ジエン部分に1,2−および3,4−結合を60%以上有する共役ジエンを主体とする重合体ブロック(E)、および1,2−結合が25%以下であるポリブタジエン重合体ブロック(F)とからなる(D)−(E)−(F)ブロック共重合体、または該ブロック共重合体単位がカップリング剤残基を介して重合体分子鎖が延長または分岐されたブロック共重合体を水素添加してなり、該ブロック共重合体の共役ジエン部分の二重結合の水素添加率が80%以上である水添ジエン系重合体。
【0008】
(イ−3);1,2−結合が25%以下であるポリブタジエン重合体ブロック(G)と、共役ジエン部分に1,2−および3,4−結合を60%以上有する共役ジエンを主体とする重合体ブロック(H)とからなる、(G)−(H)もしくは(G)−(H)−(G)ブロック共重合体、または該ブロック共重合体単位がカップリング剤残基を介して重合体分子鎖が延長または分岐されたブロック共重合体を水素添加してなり、該ブロック共重合体の共役ジエン部分の二重結合の水素添加率が80%以上である水添ジエン系重合体。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明は、上記のように、特定のミクロ構造を有する水添ジエン系重合体を軟質層に使用し、ポリオレフィン系樹脂およびスチレン系樹脂の群から選ばれた少なくとも1種の熱可塑性樹脂を硬質層に使用することで、耐スクラッチ性、柔軟性、成形加工性、意匠性に優れた軟質層と、強度、耐衝撃性に優れた硬質層とを有し、リサイクル性に優れ、軟質層と硬質層とが強固に接着し、ソフト感を有する複層成形品である。
【0010】
本発明の(イ)層は、共役ジエン部分に1,2−および3,4−結合を50%を超えて有し、ブロック成分を有する共役ジエン系重合体を水素添加した水添ジエン系重合体である。共役ジエン部分の1,2−および3,4−結合が50%以下であると、柔軟性、耐スクラッチ性が劣る。
【0011】
なお、(イ)層は、共役ジエン部分の二重結合の水素添加率が80%以上、好ましくは90%以上、かつ数平均分子量が5万〜70万、好ましくは10万〜60万である、水添ジエン系重合体から構成される。水素添加率が、80%未満では耐スクラッチ性、透明性、機械的強度、耐熱性、耐候性が劣る。また、数平均分子量が、5万未満では得られる水添ジエン系重合体をペレット化した場合、ブロッキングし易くなるほか、他の樹脂とブレンドした場合、機械的強度、成形外観が劣り、一方70万を超えると成形加工性が劣る。
【0012】
(イ)層としては、例えば共役ジエンの単独重合体、共役ジエンと芳香族ビニル化合物とのランダム共重合体、芳香族ビニル化合物の重合体ブロックと共役ジエンの重合体ブロックからなるブロック共重合体、芳香族ビニル化合物の重合体ブロックと芳香族ビニル化合物/共役ジエンの共重合体ブロックからなるブロック共重合体などの共役ジエン系重合体の水素添加物を主成分とする軟質層が挙げられる。
(イ)層としては、好ましくは下記(イ−1)、(イ−2)および(イ−3)の群から選ばれた少なくとも1種の水添ジエン系重合体を主成分とする軟質層であり、これを用いると、複層成形品の軟質層の耐スクラッチ性、柔軟性、成形加工性が一段と優れたものとなる。
以下の本発明の(イ)層の説明は、この水添ジエン系重合体(イ−1)、(イ−2)、(イ−3)を例にして説明する。
【0013】
(イ−1);
水添ジエン系重合体(イ−1)を構成する好ましい芳香族ビニル化合物としては、スチレン、t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、N,N−ジメチル−p−アミノエチルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、ビニルピリジンなどが挙げられ、より好ましくはスチレン、α−メチルスチレンであり、これらは1種単独であるいは2種以上併用して使用することができる。(イ−1)成分を構成する好ましい共役ジエンとしては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、クロロプレンなどが挙げられ、より好ましくは1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエンであり、最も好ましくは1,3−ブタジエンである。
【0014】
(イ−1)成分におけるブロック(A)は、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックであり、他に共重合可能な他のビニル化合物を好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下共重合してもよい。
【0015】
なお、(イ−1)成分中の全モノマーにおける芳香族ビニル化合物/共役ジエンの好ましい重量比は、5/95〜60/40、さらに好ましくは7/93〜50/50である。芳香族ビニル化合物が、5重量%未満(共役ジエンが95重量%を超える)では、機械的強度、加工性、耐熱性が劣り、また得られる水添ジエン系重合体をペレット化した場合、ブロッキングし易くなる。一方、芳香族ビニル化合物が、60重量%を超える(共役ジエンが40重量%未満)と、樹脂状となり、耐衝撃性、柔軟性、低温特性が劣る。
【0016】
また、ブロック(A)またはブロック(C)中の芳香族ビニル化合物の好ましい結合量は、(イ−1)成分を構成する全モノマーの3〜50重量%、さらに好ましくは5〜40重量%、特に好ましくは5〜30重量%である。なお、(A)−(B)−(A)ブロック共重合体のように、ブロック(A)が複数存在する場合には、合計の量を示す。芳香族ビニル化合物の結合量に限らず、ブロック(A)の量についても同様である(以下同じ)。
この芳香族ビニル化合物の結合量が、全モノマーの3重量%未満では、耐熱性、機械的強度が劣り、また得られる水添ジエン系重合体をペレット化した場合、ブロッキングし易くなるほか、他の成分とブレンドした場合、加工性に劣り、一方50重量%を超えると、柔軟性、加工性、低温特性が劣る。また、ブロック(A)中の芳香族ビニル化合物の好ましい結合量は、(イ−1)成分を構成する全モノマーの3重量%以上、さらに好ましくは5〜30重量%であり、3重量%未満では、他の成分とブレンドした場合、機械的強度、加工性、耐熱性が劣る。
【0017】
(イ−1)成分を構成するブロック(B)は、共役ジエン系重合体ブロックもしくは芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのランダム共重合体ブロックである。ブロック(B)に含まれる水素添加前の共役ジエン部分の1,2−および3,4−結合は、50%を超えて、好ましくは60%以上である。50%以下では、柔軟性、耐スクラッチ性が劣る。
【0018】
なお、(イ−1)成分を構成する水添ジエン系重合体中のブロック(A)、(B)、(C)の好ましい含量は、ブロック(A)3〜50重量%、さらに好ましくは4〜40重量%、ブロック(B)30〜97重量%、さらに好ましくは35〜94重量%、ブロック(C)0〜50重量%、さらに好ましくは2〜40重量%〔ただし、(A)+(B)+(C)=100重量%〕である。
また、ブロック(A)、(B)、(C)の好ましい数平均分子量は、ブロック(A)1,500〜350,000、さらに好ましくは4,000〜240,000、ブロック(B)15,000〜679,000、さらに好ましくは35,000〜564,000、ブロック(C)500〜350,000、さらに好ましくは2,000〜240,000の範囲である。
【0019】
(イ−1)成分の水添ジエン系重合体の数平均分子量は、好ましくは5万〜70万、さらに好ましくは10万〜60万である。また、水素添加率は、80%以上、さらに好ましくは90%以上である。
本発明に使用される水添ジエン系重合体(イ−1)は、例えば特開平3−72512号公報第4頁右上欄第13行〜第6頁左下欄第1行に開示されている方法によって得ることができる。
【0020】
本発明に使用される水添ジエン系重合体(イ−1)は、(A)−(B)もしくは(A)−(B)−(A)、または(A)−(B)−(C)ブロック構造を有するが、(A)−(B)−(A)ブロック構造を有する場合には、それぞれの(A)ブロックの割合は、等しくなくてもよい。また、カップリング剤を添加することにより、下記一般式で表されるような、重合体分子鎖が延長または分岐されたブロック共重合体であってもよい。
〔(A)−(B)〕l−X、
〔(A)−(B)−(A)〕l−X、または
〔(A)−(B)−(C)〕l−X
〔式中、(A)、(B)、(C)は上記に同じ。lは2〜4の整数、Xはカップリング剤残基を示す。〕
【0021】
この際のカップリング剤としては、例えばアジピン酸ジエチル、ジビニルベンゼン、テトラクロロシラン、ブチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、テトラクロロスズ、ブチルトリクロロスズ、ジメチルクロロシラン、テトラクロロゲルマニウム、1,2−ジブロムエタン、1,4−ジクロルメチルベンゼン、ビス(トリクロルシリル)エタン、エポキシ化アマニ油、トリレンジイソシアネート、1,2,4−ベンゼントリイソシアネートなどが挙げられる。
【0022】
(イ−2);
(イ−2)成分に使用される芳香族ビニル化合物、共役ジエンは、上記(イ−1)成分に使用されるものと同様である。
ここで、(イ−2)成分の水添ジエン系重合体を構成するブロック(D)は、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックであり、ほかに共重合可能なビニル化合物を好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下共重合してもよい。
【0023】
水添ジエン系重合体(イ−2)を構成するブロック(E)は、共役ジエン重合体ブロック、あるいは芳香族ビニル化合物−共役ジエン共重合体ブロックである。ブロック(E)に含まれる水素添加前の共役ジエン部分の1,2−および3,4−結合は、50%を超えて、好ましくは60%以上である。50%以下では、柔軟性、耐スクラッチ性が劣る。また、ブロック(E)に含有されることのある芳香族ビニル化合物の好ましい使用量は、ブロック(E)を構成するモノマーの30重量%以下、さらに好ましくは25重量%以下である。
【0024】
さらに、水添ジエン系重合体(イ−2)を構成するブロック(F)中の水素添加前のポリブタジエンの1,2−結合は、25%以下、好ましくは20%以下である。1,2−結合が25%を超えると、水素添加された後に樹脂的性質が失われ、またブロック共重合体としての熱可塑性エラストマーの性質が失われる。
【0025】
なお、水添ジエン系重合体(イ−2)中のブロック(D)、(E)、(F)の好ましい含量は、ブロック(D)5〜60重量%、さらに好ましくは5〜55重量%、ブロック(E)30〜90重量%、さらに好ましくは35〜90重量%、ブロック(F)5〜60重量%、さらに好ましくは5〜50重量%〔ただし、(D)+(E)+(F)=100重量%〕である。
また、ブロック(D)、(E)、(F)の好ましい数平均分子量は、ブロック(D)2,000〜420,000、ブロック(E)15,000〜630,000、ブロック(F)2,500〜420,000である。
さらに、水添ジエン系重合体(イ−2)の好ましい数平均分子量は、5万〜70万であり、さらに好ましくは10万〜60万である。
また、(イ−2)成分の水素添加率は、80%以上、さらに好ましくは90%以上である。
本発明に使用される水添ジエン系重合体(イ−2)は、例えば特開平2−133406号公報第4頁左下欄第13行〜第5頁左下欄第10行に開示されている方法によって得ることができる。
【0026】
本発明の水添ジエン系重合体(イ−2)は、(D)−(E)−(F)ブロック構造を有するが、カップリング剤を添加することにより、下記一般式で表されるような、重合体分子鎖が延長または分岐されたブロック共重合体であってもよい。
〔(D)−(E)−(F)〕m−Y、または
〔(D)−(E)−(F)〕Y〔(D)−(E)〕
〔式中、(D)、(E)、(F)は上記に同じ。mは2〜4の整数、Yはカップリング剤残基を示す。〕
この際のカップリング剤としては、上記(イ−1)成分で使用されるものと同様である。
【0027】
(イ−3);
(イ−3)成分に使用される芳香族ビニル化合物、共役ジエンは、上記(イ−1)成分に使用されるものと同様である。
(イ−3)成分を構成するブロック(G)は、水素添加前のポリブタジエンの1,2−結合が25%以下、好ましくは20%以下のポリブタジエン重合体である。
【0028】
また、(イ−3)成分を構成するブロック(H)は、共役ジエン単独重合体あるいは芳香族ビニル化合物−共役ジエン共重合体ブロックである。ブロック(H)に含まれる水素添加前の共役ジエン部分の1,2−および3,4−結合は、50%を超え、好ましくは60%以上である。50%以下では、柔軟性、耐スクラッチ性が劣る。なお、ブロック(H)に使用される芳香族ビニル化合物の使用量は、ブロック(H)を構成するモノマーの30重量%以下、好ましくは25重量%以下である。30重量%を超えると、ブロック(H)のガラス転移温度が上昇し、低温特性、柔軟性が劣る。
【0029】
なお、(イ−3)成分中のブロック(G)は、水素添加により、通常の低密度ポリエチレン類似の構造を示す結晶性の重合体ブロックとなる。ブロック(G)中の水素添加前のポリブタジエンの1,2−結合は25%以下であるが、25%を超えると、水素添加後の結晶融点の降下が著しく、機械的強度が劣る。
また、ブロック(H)は、共役ジエンを主体とし、詳細には共役ジエン単独重合体ブロック、あるいは芳香族ビニル化合物−共役ジエン共重合体ブロックであり、水素添加により、例えば共役ジエンがブタジエンの場合、ゴム状のエチレン−ブテン−1共重合体ブロック、あるいは芳香族ビニル化合物−エチレン−ブテン−1共重合体と類似の構造を示す重合体ブロックとなる。
【0030】
なお、(イ−3)成分のブロック(G)、(H)の好ましい含量は、ブロック(G)5〜90重量%、さらに好ましくは10〜80重量%、ブロック(H)95〜10重量%、さらに好ましくは90〜20重量%〔ただし、(G)+(H)=100重量%〕であり、(G)−(H)−(G)ブロック構造を有する場合には、それぞれの(G)ブロックの割合は、等しくなくてもよい。
また、ブロック(G)、(H)の好ましい数平均分子量は、ブロック(G)2,500〜630,000、さらに好ましくは10,000〜480,000、ブロック(H)5,000〜665,000、さらに好ましくは20,000〜540,000である。
さらに、(イ−3)成分の好ましい数平均分子量は、5万〜70万、さらに好ましくは10〜60万である。
また、(イ−3)成分の水素添加率は、80%以上、好ましくは90%以上である。
本発明に使用される水添ジエン系重合体(イ−3)は、例えば特開平3−128957号公報第4頁右下欄第8行〜第6頁左下欄第7行に開示されている方法によって得ることができる。
【0031】
本発明で使用される水添ジエン系重合体(イ−3)は、(G)−(H)もしくは(G)−(H)−(G)ブロック構造を有するが、カップリング剤を添加することにより、下記一般式で表されるような、重合体分子鎖が延長または分岐されたブロック共重合体であってもよい。
〔(G)−(H)〕n−Z、または
〔(G)−(H)−(G)〕nZ
〔式中、(G)、(H)は上記に同じ、nは2〜4の整数、Zはカップリング剤残基を示す。〕
この際のカップリング剤としては、上記(イ−1)成分で使用されるものと同様である。
【0032】
本発明に使用される(イ)層で使用される水添ジエン系重合体は、官能基で変性してもよく、酸無水物基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、イソシアネート基およびエポキシ基の群から選ばれた少なくとも1種の官能基を有する不飽和化合物を用いて、ニーダー、ミキサー、押出機などで変性することができる。
【0033】
次に、(ロ)層で使用されるポリオレフィン系樹脂は、1種または2種以上のモノオレフィンを高圧法または低圧法のいずれかによる重合から得られる樹脂であり、好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1である。このポリオレフィン系樹脂は、単独重合体であってもよく、次に示すような共重合可能な他のモノマーを共重合してある共重合体であってもよい。
【0034】
このポリオレフィン系樹脂において、好ましい共重合可能な他のモノマーとしては、例えばエチレン(主たる重合体がポリエチレンの場合を除く)、ブテン−1(主たる重合体がポリブテン−1である場合を除く)、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1などの直鎖状α−オレフィン、4−メチルペンテン−1、2−メチルプロペン−1、3−メチルペンテン−1、5−メチルヘキセン−1、4−メチルヘキセン−1、4,4−ジメチルペンテン−1などの分岐状α−オレフィン、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸などのモノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸などのジカルボン酸やそのモノエステル、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレートなどのアクリル酸またはメタクリル酸エステル、酢酸ビニルやプロピオン酸ビニルなどの飽和カルボン酸のビニルエステル、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水アコニット酸なの酸無水物、アクリロニトリルやメタクリロニトリルなどのα,β−不飽和ニトリル、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネンなどのジエンモノマー、さらにアクリルアミド、メタクリルアミド、マレイミドなどが用いられる。これらの共重合可能な他のモノマーは、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。これら共重合成分の量は、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。これらを共重合した場合の共重合体の様式については特に制限はなく、例えばランダム型、ブロック型、グラフト型、これらの混合型など、いずれであってもよい。
【0035】
(ロ)層に用いられるポリオレフィン系樹脂における好ましい共重合体としては、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、ブテン−1−エチレン共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルメタクリレート共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン−n−ブチルアクリレート共重合体などが挙げられる。これら(ロ)ポリオレフィン系樹脂は、単独であるいは2種以上を併用して用いることができる。
【0036】
なお、本発明に使用されるポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR)(ASTM D1238、230℃、2.16kg荷重)は、好ましくは0.01〜100g/10分、さらに好ましくは0.1〜80g/10分である。
【0037】
また、(ロ)層で使用されるスチレン系樹脂には、ゴム成分を2〜15重量%含有する耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS樹脂)、ポリブタジエン強化アクリロニトリル−スチレン樹脂(ABS樹脂)、エチレン−α−オレフィン共重合ゴム強化アクリロニトリル−スチレン樹脂(AES樹脂)などが含まれる。HIPS樹脂中のゴム成分は特に限定しないが、例えばポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体などのジエン系ゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−ブテンゴムなどの非ジエン系ゴムが挙げられる。
【0038】
ここで、ABS樹脂は、乳化重合法、塊状−懸濁重合法、または塊状重合法で製造した、アクリロニトリル10〜30重量%、ブタジエン5〜45重量%、スチレン50〜85重量%の組成を有し、スチレンの代わりにα−メチルスチレンを使用したものも含まれる。
【0039】
また、AES樹脂は、乳化重合法、塊状−懸濁重合法、塊状重合法、または溶液重合法で製造した、アクリロニトリル10〜30重量%、エチレン−α−オレフィン共重合ゴム5〜45重量%、スチレン50〜85重量%の組成を有し、スチレンの代わりにα−メチルスチレンを使用したものも含まれる。
【0040】
(ロ)層として使用される熱可塑性樹脂は、上述のポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂のいずれを使用しても、また併用してもよいが、リサイクル性、コストの点から、ポリオレフィン系樹脂を使用することが望ましい。
【0041】
本発明の複層成形品は、従来公知の方法、例えば二色射出成形、多層押し出し成形、多層中空成形、多層異形押し出し成形、多層圧縮成形、多層真空成形、多層スラッシュ成形、多層カレンダー成形などにより、実用上、有用な成形品に加工することができる。
また、必要に応じて、延伸、接着、印刷、塗装、メッキなどの加工を施すこともできる。
【0042】
(イ)層に使用される水添ジエン系重合体には、硬度や感触の調整、耐熱性、強度の向上、成形性の改良、また高価な水添ジエン系重合体の使用量を低減し、経済的に有利なものとするために、必要に応じてポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂などの熱可塑性樹脂を配合することができる。使用する樹脂は特に制限されないが、(ロ)層に使用する熱可塑性樹脂と同種のものを使用することが、(イ)層と(ロ)層の接着性、相溶性、リサイクル性の点で望ましい。
【0043】
また、(イ)層に使用される水添ジエン系重合体は、発泡させて使用することもできる。発泡させる方法は特に制限されないが、例えば水添ジエン系重合体に熱分解型発泡剤を配合する方法、加圧下で水を配合し発泡剤として利用する方法、射出成形時に高圧ガスを注入する方法など、従来公知の方法が利用可能である。
【0044】
さらに、(イ)層で使用される水添ジエン系重合体、(ロ)層で使用される熱可塑性樹脂には、必要に応じて、酸化防止剤、耐候剤、金属不活性化剤、紫外線吸収剤、光安定剤、ブリード・ブルーム剤、シール性改良剤、結晶核剤、難燃化剤、架橋剤、共架橋剤、加硫剤、加硫助剤、防菌・防かび剤、分散剤、軟化剤、可塑剤、粘度調整剤、着色防止剤、発泡剤、発泡助剤、酸化チタン、カーボンブラックなどの着色剤、フェライトなどの金属粉末、ガラス繊維、金属繊維などの無機繊維、炭素繊維、アラミド繊維などの有機繊維、複合繊維、チタン酸カリウムウィスカーなどの無機ウィスカー、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ガラスフレーク、アスベスト、マイカ、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、ケイ酸カルシウム、ハイドロタルサイト、カオリン、ケイソウ土、グラファイト、軽石、エボ粉、コットンフロック、コルク粉、硫酸バリウム、フッ素樹脂、ポリマービーズなどの充填材、またはこれらの混合物、あるいは他のゴム質重合体、例えばSBR、NBR、BR、NR、IR、1,2−ポリブタジエン、AR、CR、IIR、また、そのほか必要に応じて上記成分以外の熱可塑性樹脂、例えばジエン系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、POMなどを、適宜、配合することができる。
【0045】
本発明の複層成形品の好ましい実施態様は、次のとおりである。
▲1▼(イ)層を構成する水添ジエン系重合体中の、共役ジエンが1,3−ブタジエンであり、芳香族ビニル化合物がスチレンである複層成形品。
▲2▼(ロ)層を構成する熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である複層成形品。
▲3▼(イ)層が、水添ジエン系重合体とポリオレフィン系樹脂の混合物からなる複層成形品。
▲4▼.(イ)層および(ロ)層が、二色射出成形法によって得られてなる複層成形品。
▲5▼(イ)層および(ロ)層が、多層押し出し機によって得られてなる複層成形品。
【0046】
【実施例】
以下、実施例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するが、発明の主旨を越えない限り、本発明は、かかる実施例により限定されるものではない。なお、実施例中において、部および%は、特に断らない限り重量基準である。
また、実施例中の各種の測定は、以下の方法に拠った。
【0047】
▲1▼水添ジエン系重合体の芳香族ビニル化合物結合量
679cm-1のフェニル基の吸収を基に、赤外分析法により分析した。
▲2▼水添ジエン系重合体の共役ジエン部分の1,2−および/または3,4−結合量
赤外分析法を用い、ハンプトン法により算出した。
▲3▼水添ジエン系重合体の数平均分子量
トリクロルベンゼンを溶媒にして、135℃におけるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算で求めた。
▲4▼水添ジエン系重合体の水素添加率
四塩化エチレンを溶媒に用い、100MHz、 1H−NMRスペクトルから算出した。
【0048】
▲5▼耐スクラッチ性
(イ)層に使用する水添ジエン系重合体の耐スクラッチ性を評価するため、(株)東洋精機製作所製のテーパースクラッチテスター試験機を用い、荷重を変えながら引っ掻き試験を実施した。試料の表面が艶消し状態に傷ついたときの荷重を傷つき荷重とし、以下の基準で判定した。評価には、2mm厚の射出成形シートを用いた。
○;耐スクラッチ性に優れる;傷つき荷重が50g以上
×;耐スクラッチ性に劣る ;傷つき荷重が50g未満
▲6▼柔軟性
(イ)層に使用する水添ジエン系重合体の柔軟性を評価するため、JIS K6310に準拠し、JIS A硬度を測定した。
【0049】
▲7▼接着性
(イ)層に使用する材料と、(ロ)層に使用する材料とを、1mmの厚さにプレス成形したのち、一部分を重ねて熱融着させ、試験片を作製した。得られた試験片を剥離させたときの剥離面の状態から、接着強度を評価した。
▲8▼成形加工性
50mm幅のマルチマニホールドダイを使用し、50mm押し出し機にて、多層押し出し成形を行い、成形加工性を評価した。シートの成形状態から、下記の基準で成形加工性を評価した。
◎;幅広い条件で自由な厚み構成で、シート成形が可能であり、サージング、偏肉は無い。
○;加工条件は狭いが、得られるシートにサージング、偏肉は無い。
×;シート成形時に、厚み構成の調整が困難、偏肉、サージングなどが見られ、成形条件による改良が困難である。
【0050】
参考例
実施例および比較例の配合処方に用いられる各種の成分は、以下のとおりである。
水添ジエン系重合体P−1〜9
水添ジエン系重合体(P−1〜9)は、日本合成ゴム(株)製の試作ポリマーであり、これらP−1〜9のミクロ構造、数平均分子量、水素添加率は、表1に示すとおりである。
【0051】
熱可塑性樹脂Q−1〜6
Q−1(ポリプロピレン);三菱化学(株)製、MG03B
Q−2(ABS樹脂);日本合成ゴム(株)製、JSR ABS12NP
Q−3(AES樹脂);日本合成ゴム(株)製、JSR AES145NP
Q−4(耐衝撃性ポリスチレン);三井東圧(株)製、トーポレックス 860
Q−5(低密度ポリエチレン);東ソー(株)製、ペトロセン 349
Q−6(ポリプロピレン);昭和電工(株)製、ショウアロマー MD772H
【0052】
実施例1〜10、比較例1〜2
多層押し出し成形機を用い、表2〜3に示す組み合わせの複層成形品を作製し、その性能を評価した。すなわち、この多層押し出し成形の成形条件は、シリンダー温度200〜260℃、スクリュー回転数10〜150rpmであった。
結果を表2〜3に示す。接着性は、いずれの組み合わせにおいても、強固に接着されていた。表2〜3に示す実施例1〜10の結果から、本発明の特定のミクロ構造を有する水添ジエン系重合体を使用した場合には、表3に示す比較例に較べ、柔軟性、耐スクラッチ性、成形加工性に優れることが分かる。
【0053】
これに対し、比較例1は、本発明の特定のミクロ構造以外のエラストマー(P−5)を(イ)層に使用しており、柔軟性、耐スクラッチ性、成形加工性に劣る。また、比較例2は、ポリプロピレン(Q−1)、プロセスオイル〔パラフィン系オイル;出光興産(株)製、ダイアナプロセスオイルPW380〕、フィラー〔重質炭酸カルシウム;丸尾カルシウム(株)製、スーパー4S〕をエラストマー(P−5)に添加したものを、(イ)層に使用した例である。柔軟性、成形加工性は改良されるものの、耐スクラッチ性は改良されておらず、またプロセスオイルを添加したため、外装部分に、オイルによるべたつきがあり、ほこりが付着し易いという、問題を新たに生じており好ましくない。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
【発明の効果】
本発明の複層成形品は、軟質層に特定のミクロ構造を有する水添ジエン系重合体を使用することで、耐スクラッチ性、柔軟性、緩衝性、耐候性、成形加工性に優れ、硬質層に使用している熱可塑性樹脂によって、剛性、耐衝撃性が優れており、かつ両層が強固に接着されている。これによって、プッシュボタン、OA機器などの各種キートップ、つまみ、自動車ウインカーランプカバー、グリップ、マッドガードなどに利用した場合、極めて優れた性能を示し、工業的に価値の高い成形品である。
Claims (4)
- (イ)下記(イ−1)、(イ−2)および(イ−3)の群から選ばれた少なくとも1種の水添ジエン系重合体を主成分とする層と、(ロ)ポリオレフィン系樹脂およびスチレン系樹脂の群から選ばれた少なくとも1種の熱可塑性樹脂を主成分とする層からなる、複層成形品。
(イ−1);芳香族ビニル化合物重合体ブロックを主体とする重合体ブロック(A)と、共役ジエン部分に1,2−および3,4−結合を60%以上有する共役ジエン重合体を主体とする共役ジエン系重合体もしくは芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのランダム共重合体ブロック(B)とからなる、(A)−(B)もしくは(A)−(B)−(A)ブロック共重合体、または芳香族ビニル化合物と共役ジエンとからなり、芳香族ビニル化合物が漸増するテーパーブロック(C)からなる(A)−(B)−(C)ブロック共重合体、または該ブロック共重合体単位がカップリング剤残基を介して重合体分子鎖が延長または分岐されたブロック共重合体を水素添加してなり、該ブロック共重合体の共役ジエン部分の二重結合の水素添加率が80%以上である水添ジエン系重合体。
(イ−2);芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック(D)と、共役ジエン部分に1,2−および3,4−結合を60%以上有する共役ジエンを主体とする重合体ブロック(E)、および1,2−結合が25%以下であるポリブタジエン重合体ブロック(F)とからなる(D)−(E)−(F)ブロック共重合体、または該ブロック共重合体単位がカップリング剤残基を介して重合体分子鎖が延長または分岐されたブロック共重合体を水素添加してなり、該ブロック共重合体の共役ジエン部分の二重結合の水素添加率が80%以上である水添ジエン系重合体。
(イ−3);1,2−結合が25%以下であるポリブタジエン重合体ブロック(G)と、共役ジエン部分に1,2−および3,4−結合を60%以上有する共役ジエンを主体とする重合体ブロック(H)とからなる、(G)−(H)もしくは(G)−(H)−(G)ブロック共重合体、または該ブロック共重合体単位がカップリング剤残基を介して重合体分子鎖が延長または分岐されたブロック共重合体を水素添加してなり、該ブロック共重合体の共役ジエン部分の二重結合の水素添加率が80%以上である水添ジエン系重合体。 - (イ)層を構成する水添ジエン系重合単位中の、共役ジエンが1,3−ブタジエンであり、芳香族ビニル化合物がスチレンである請求項1記載の複層成形品。
- (ロ)層を構成する熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である請求項1または2に記載の複層成形品。
- (イ)層及び(ロ)層が、二色射出成形法によって得られる請求項1〜3いずれか1項に記載の複層成形品。
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