JP3992687B2 - 湿潤時に通気性が向上する織編物 - Google Patents

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Description

本発明は、発汗によるムレやベトツキを低減することができる織編物に関する。さらに詳しくは、湿潤時に織編組織内の空隙率が向上することにより通気性が向上し、一方、乾燥時には織編組織内の空隙率が低下することにより通気性が低下する、湿潤時に通気性が向上する織編物に関するものである。
従来、合成繊維や天然繊維などからなる織編物を、スポーツウエアーやインナーウエアーなどとして使用すると、肌からの発汗によりムレやベトツキが発生するという問題があった。
かかる発汗によって生じるムレやベトツキを解消する方法として、発汗時に衣服内の湿度が上昇すると、織編物の通気性が向上し、衣服内に滞留する水分を効果的に放出させ、一方、発汗が停止し衣服内の湿度が降下しはじめると織編物の通気性が低下し、水分の過剰な放散による寒気を抑制し、常に着心地を快適に保つことのできる、通気性自己調節織編物が提案されている。
例えば、特許文献1では、ポリエステル層とポリアミド層の異質ポリマーを貼り合わせたサイドバイサイド型コンジュゲート繊維を用いた織編物が提案されている。異質ポリマーの吸湿差を利用して高吸湿時に繊維自体を変形させ、ムレやベトツキを解消させようとするものである。しかし、サイドバイサイド型コンジュゲート繊維のみでは高吸湿時における繊維形状変化が小さく、十分にその性能が発現されるものではなかった。さらに、2種のポリマーを同時に紡糸するため特別な製造設備が必要でありコストが高くなるという問題があった。
また、特許文献2では、吸湿性ポリマーから形成された糸条に加撚を施し、該糸条を用いて構成された織編物が提案されている。吸湿時に撚りトルクを発生させ、織編物の平面的な組織形状を立体的な組織形状に変化させることにより通気量を大きくするものである。しかしながら、かかる織編物では、吸湿時に織編物が平面状から立体状に大きく変化するため織編物の寸法が不安定となる恐れがあった。さらに、撚糸工程を必要とするためコストが高くなるという問題があった。
特開平3−213518号公報 特開平10−77544号公報
本発明は前記従来技術に鑑みなされたものであり、その課題は、乾燥時と比べて、湿潤時に織編物の寸法があまり変化することなく性能よく通気性が向上する織編物を提供することにある。
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とを用いて織編物を織編成する際、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とに特定の糸長差をもうけることにより、所望の、乾燥時に比べて、湿潤時に布帛の寸法があまり変化することなく通気性が性能よく向上する織編物が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
かくして、本発明によれば「吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とからなる織編物であって、温度20℃、湿度65%RHの雰囲気中における該織編物中の吸水自己伸張糸の糸長を(A)、他方、非自己伸張糸の糸長を(B)とするとき、A/Bが0.9以下であり、かつ前記織編物が下記(1)〜(4)の要件のうち少なくとも1要件を満足することを特徴とする湿潤時に通気性が向上する織編物。」が提供される。
(1)吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが、丸編組織の複合ループを形成してなる。
(2)吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが、引き揃えられて織組織の経糸および/または緯糸を構成してなる。
(3)吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが、各々織編物の構成糸条として、1本交互にまたは複数本交互に配列してなる。
(4)吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが、複合糸として織編物中に含まれる。
前記吸水自己伸張糸としては、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリオキシエチレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーからなるポリエーテルエステル繊維が好適である。他方、非自己伸張糸としては、ポリエステル繊維が好適である。
かかる織編物において、湿潤時と乾燥時とで空隙変化率が10%以上であることが好ましい。また、湿潤時と乾燥時とで通気性変化率が30%以上であることが好ましい。
また、かかる織編物の組織において、非自己伸張糸のみで構成される部分(以下、非自己伸張部分という。)と、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とで構成される部分が含まれ、かつ前記非自己伸張部分が、経方向および/または緯方向に連続していると、湿潤時に空隙率が向上するだけでなく、凹凸率も同時に向上し、その結果、肌との接触面積が小さくなりムレやベトツキをより一層小さくすることが可能になる。その際、湿潤時と乾燥時とで凹凸変化率が2%以上であることが好ましい。
本発明によれば、乾燥時と比べて、湿潤時に織編物の寸法があまり変化することなく性能よく通気性が向上する織編物が得られる。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明において、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸は以下に定義する糸である。すなわち、枠周:1.125mの巻き返し枠を用いて荷重:0.88mN/dtex(0.1g/de)をかけて一定の速度で巻き返し、巻き数:10回のかせを作り、かせ取りした糸を温度20℃、湿度65RH%の環境下に24時間放置し、これに非弾性糸の場合は1.76mN/dtex(200mg/de)、弾性糸の場合は0.0088mN/dtex(1mg/de)の荷重をかけて測定した糸長(mm)を乾燥時の糸長とする。該糸を水温20℃の水中に5分間浸漬した後に水中より引き上げ、該糸に乾燥時と同様に非弾性糸の場合は1.76mN/dtex(200mg/de)、弾性糸の場合は0.0088mN/dtex(1mg/de)の荷重をかけて測定した糸長(mm)を湿潤時の糸長とする。なお、前記非弾性糸とは破断伸度が200%以下の糸であり、前記弾性糸とは破断伸度が200%より高い糸である。そして、下記式で求められる繊維軸方向の膨潤率が5%以上のものを吸水自己伸張糸と定義する。他方、該膨潤率が5%未満のものを非自己伸張糸と定義する。
膨潤率(%)=((湿潤時の糸長)−(乾燥時の糸長))/(乾燥時の糸長)×100
ここで、吸水自己伸張糸としては、前記の膨潤率を有するものであれば特に限定されないが、6%以上(より好ましくは8〜30%)の膨潤率を有するものであることが好ましい。
かかる吸水自己伸張糸としては、例えば、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリオキシエチレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーからなるポリエーテルエステル繊維や、ポリアクリル酸金属塩、ポリアクリル酸およびその共重合体、ポリメタアクリル酸およびその共重合体、ポリビニルアルコールおよびその共重合体、ポリアクリルアミドおよびその共重合体、ポリオキシエチレン系ポリマーなどを配合したポリエステル繊維、5−スルホイソフタル酸成分を共重合したポリエステル繊維などが例示される。なかでも、かかる吸水自己伸張弾性繊維として、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリオキシエチレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーからなるポリエーテルエステル繊維が好適に例示される。
上記ポリブチレンテレフタレートは、ブチレンテレフタレート単位を少なくとも70モル%以上含有することが好ましい。ブチレンテレフタレートの含有率は、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。酸成分は、テレフタル酸が主成分であるが、少量の他のジカルボン酸成分を共重合してもよく、またグリコール成分は、テトラメチレングリコールを主成分とするが、他のグリコール成分を共重合成分として加えてもよい。
テレフタル酸以外のジカルボン酸としては、例えばナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルキシエタンジカルボン酸、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、アジピン酸、セバシン酸、1、4−シクロヘキサンジカルボン酸のような芳香族、脂肪族のジカルボン酸成分を挙げることができる。さらに、本発明の目的の達成が実質的に損なわれない範囲内で、トリメリット酸、ピロメリット酸のような三官能性以上のポリカルボン酸を共重合成分として用いても良い。
また、テトラメチレングリコール以外のジオール成分としては、例えばトリメチレングリコール、エチレングリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコールのような脂肪族、脂環族、芳香族のジオール化合物を挙げることができる。更に、本発明の目的の達成が実質的に損なわれない範囲内で、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールのような三官能性以上のポリオールを共重合成分として用いてもよい。
一方、ポリオキシエチレングリコールは、オキシエチレングリコール単位を少なくとも70モル%以上含有することが好ましい。オキシエチレングリコールの含有量は、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。本発明の目的の達成が実質的に損なわれない範囲内で、オキシエチレングリコール以外にプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、グリセリンなどを共重合させても良い。
かかるポリオキシエチレングリコールの数平均分子量としては、400〜8000が好ましく、なかでも1000〜6000が特に好ましい。
前記のポリエーテルエステルエラストマーは、たとえば、テレフタル酸ジメチル、テトラメチレングリコールおよびポリオキシエチレングリコールとを含む原料を、エステル交換触媒の存在下でエステル交換反応させ、ビス(ω−ヒドロキシブチル)テレフタレート及び/又はオリゴマーを形成させ、その後、重縮合触媒及び安定剤の存在下で高温減圧下にて溶融重縮合を行うことにより得ることができる。
ハードセグメント/ソフトセグメントの比率は、重量を基準として30/70〜70/30であることが好ましい。
かかるポリエーテルエステル中には、公知の有機スルホン酸金属塩が含まれていると、さらに優れた吸水自己伸張性能が得られ好ましい。
ポリエーテルエステル繊維は、前記ポリエーテルエステルを、通常の溶融紡糸口金から溶融して押し出し、引取速度300〜1200m/分(好ましくは400〜980m/分)で引取り、巻取ドラフト率をさらに該引取速度の1.0〜1.2(好ましくは1.0〜1.1)で巻取ることにより製造することができる。
他方、非自己伸張糸としては、木綿、麻などの天然繊維やレーヨン、アセテートなどのセルロース系化学繊維、さらにはポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレートに代表されるポリエステル、ポリアミド、ポリアクリルニトリル、ポリプロピレンなどの合成繊維が例示される。なかでも、通常のポリエステル繊維が好ましく例示される。
前記吸水自己伸張糸及び非自己伸張糸の繊維形態は特に限定されず、短繊維でもよいし長繊維でもよい。繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状が採用できる。吸水自己伸張糸及び非自己伸張糸の総繊度、単糸繊度、フィラメント数も特に限定されないが、風合いや生産性の点で総繊度30〜300dtex、単糸繊度0.6〜10dtex、フィラメント数1〜300本の範囲が好ましい。
本発明の織編物は、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とからなる。その際、両者の重量比として、本発明の主目的である、湿潤時の空隙率向上を効果的に得る上で、前者:後者で10:90〜60:40(より好ましくは20:80〜50:50)の範囲であることが好ましい。
織編物の構造としては、その織編組織、層数は特に限定されるものではない。例えば、平織、綾織、サテンなどの織組織や、天竺、スムース、フライス、鹿の子、デンビー、トリコットなどの編組織が好適に例示されるが、これらに限定されるものではない。層数も単層でもよいし、2層以上の多層であってもよい。
吸水自己伸張糸と非自己伸張糸との糸配列としては特に限定されないが、以下の糸配列が好適に例示される。
まず、その1として、吸湿自己伸張糸と非自己伸張糸とが引き揃えられて、編物のニードルループや、織物の経糸および/または緯糸を構成する糸配列があげられる。例えば、図1に示すように、吸湿自己伸張糸と非自己伸張糸とが丸編組織の複合ループ(2本の糸条で、同時にニードルループを形成する。添え糸編みとも言われる。)を形成してなる糸配列や、図2に示すように、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが、引き揃えられて織組織の経糸および/または緯糸に配された糸配列が例示される。
その2として、吸湿自己伸張糸と非自己伸張糸とが、織編物の経糸および/または緯糸において1本交互(1:1)や複数本交互(2:2、3:3など)に配された糸配列があげられる。例えば、図3に示すように、丸編物中に吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが1:1に配された糸配列、図4に示すように、織物中に吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが1:1に経糸および緯糸に配された糸配列などが例示される。
その3として、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが、混繊糸、複合仮撚捲縮加工糸、合撚糸、カバリング糸などの複合糸として織編物を構成する態様があげられる。
次に、本発明の織編物において、温度20℃、湿度65%RHの雰囲気中における該織編物中の吸水自己伸張糸の糸長を(A)、他方、非自己伸張糸の糸長を(B)とするとき、A/Bが0.9以下(好ましくは0.9〜0.2、特に好ましくは0.8〜0.3)である必要がある。該A/Bが0.9よりも大きいと、本発明の主目的である、湿潤時の通気性向上効果が得られず好ましくない。
ここで、糸長の測定は以下の方法で行うものとする。まず、織編物を温度20℃、湿度65%RHの雰囲気中に24時間放置した後、該織編物から、30cm×30cmの小片を裁断する(n数=5)。続いて、各小片から、吸水自己伸張糸及び非自己伸張糸を1本ずつ取り出し、吸水自己伸張糸の糸長A(mm)、非自己伸張糸の糸長B(mm)を測定する。その際、非弾性糸の場合は1.76mN/dtex(200mg/de)、弾性糸の場合は0.0088mN/dtex(1mg/de)の荷重をかけて測定する。そして、(糸長Aの平均値)/(糸長Bの平均値)をA/Bとする。ここで、小片から取り出す吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とは織編物中において同一方向のものである必要がある。例えば、吸水自己伸張糸を織物の経糸(緯糸)から取り出す場合、他方の非自己伸張糸も経糸(緯糸)から取り出す必要がある。また、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが、複合糸として織編物を構成する場合には、裁断された小片(30cm×30cm)から複合糸を取り出し(n数=5)、さらに複合糸から吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とを取り出して前記と同様にして測定するものとする。
前記のように、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸との糸長差をもうける方法としては、以下の方法が例示される。
例えば、その1として、前記の織編物を製編織する際、吸水自己伸張糸として、前記の弾性を有するポリエーテルエステル繊維を使用し、該ポリエーテルエステル繊維をドラフト(延伸)しながら非自己伸張糸と引き揃え、同一の給糸口に給糸して製編織する方法があげられる。その際、ポリエーテルエステル繊維のドラフト率としては、10%以上(好ましくは20%以上300%以下)が好ましい。なお、該ドラフト率(%)は、下記式で求められる。
ドラフト率(%)=((引き取り速度)−(供給速度))/(供給速度)×100
ポリエーテルエステル繊維は、通常弾性性能を有しているため、織編物中において、ポリエーテルエステル繊維は、弾性回復してその糸長が短くなり、他方の非自己伸張糸との糸長差をもうけることができる。
その2として、前記の織編物を製編織する際、吸水自己伸張糸の沸水収縮率を非自己伸張糸の沸水収縮率よりも大きくする方法があげられる。かかる織編物を通常の染色加工工程に供することにより、吸水自己伸張糸の糸長が短くなり、他方の非自己伸張糸との糸長差をもうけることができる。
その3として、非自己伸張糸をオーバーフィード(過供給)させながら吸水自己伸張糸と引き揃えて、通常の空気混繊加工、撚糸、カバリング加工なより複合糸を得て、該複合糸を用いて織編物を製編織する方法があげられる。
本発明の織編物において、非自己伸張糸のみで構成される部分(非自己伸張部分)が含まれ、かつ該非自己伸張部分が、経方向および/または緯方向に連続してなる織編組織パターンで織編成されていると、湿潤時に通気性が向上するだけでなく、織編物の凹凸率も向上し、肌との接触面積を小さくすることができ、ムレやベトツキをより一層小さくすることが可能になる。
例えば、単層構造の織編物の場合、図5に模式的に示すように、非自己伸張糸のみで構成される部分が格子状に連続し、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とで構成される部分が飛び島状に散在する織編組織パターンで吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが配されていると、該織編物の厚み方向の断面形状は、乾燥時には、図6の(1)に示すように凹凸はないが、湿潤時には、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とで構成される部分が伸張し、凹凸が発生する。かかる織編物を用いて、凸部が発生する面を肌がわに位置するようインナーウエアー(肌着等)やスポーツウエアーを作製すると、発汗時に肌との接触面積を小さくすることができ、ムレやベトツキをより一層小さくすることが可能となる。
なお、前記非自己伸張部分のパターンは、格子状には限定されず、縞状であってもよい。かかる非自己伸張部分のパターンにおいて、格子の巾や縞の巾は、経方向および/または緯方向に3〜15mm程度であると、湿潤時に凹凸が発生しやすく好ましい。
また、多層構造の織編物の場合、図7の(1)に織編物の厚み方向の断面形状を示すように、1層(X層)を非自己伸張糸だけで構成し、他層(Y層)を吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とで構成し、その際、Y層において、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とで構成される部分はX層から浮かせ、かつ、非自己伸張糸で構成される非自己伸張部分をX層と結合させることにより、湿潤時に、図7の(2)に示すように、Y層の吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とで構成される部分が伸張し凸状となり、その結果、湿潤時に凹凸が発生する。
次に、本発明の織編物において、乾燥時に比べて湿潤時に通気性が向上するメカニズムについて、以下説明する。
例えば、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが丸編組織の複合ループを形成している丸編物の場合、乾燥時、該丸編物の複合ループにおいて、図1の(1)に示すように非自己伸張糸からなるループはたるんでいる。そして、湿潤時、図1の(2)に示すように吸水自己伸張糸が自己伸長し、ループは膨潤して大きくなると同時に、たるんでいた非自己伸張糸からなるループは引き伸ばされて編物内の空隙が大きくなり通気性が向上する。
吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが、引き揃えられて織組織の経糸および/または緯糸を構成してなる織物の場合、乾燥時、図2の(1)に示すように非自己伸張糸はたるんでいる。そして、湿潤時に図2の(2)に示すように、吸水自己伸張糸が自己伸張すると同時に、たるんでいた非自己伸張糸が引き伸ばされて織物内の空隙が大きくなり通気性も向上する。その際、湿潤時の織物寸法は、乾燥時の織物寸法よりも、非自己伸張糸のたるみ分だけ大きくなる。なお、該たるみ分は、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸との糸長差を、適宜設定することにより、コントロールすることができる。
吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが1:1に配列してなる丸編物では、乾燥時、該丸編物の複合ループにおいて、図3の(1)に示すように大ループは非自己伸張糸からなり、他方、小ループは吸水自己伸張糸からなる。そして、湿潤時、図3の(2)に非自己伸張糸からなる大ループはほとんど寸法変化しないが、吸水自己伸張糸からなる小ループは膨潤してそのループが大きくなる。その結果、編物の寸法がほとんど変化することなく、編物内の空隙が大きくなり通気性が向上する。
吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが織物の経糸と緯糸に1:1に配列してなる織物では、乾燥時、図4の(1)に示すように非自己伸張糸はたるんでいる。そして、湿潤時に図4の(2)に模式的に示すように、吸水自己伸張糸が自己伸張すると同時に、たるんでいた非自己伸張糸は引き伸ばされて織物内の空隙が大きくなり通気性も向上する。その際、湿潤時の織物寸法は、乾燥時の織物寸法よりも、非自己伸張糸のたるみ分だけ大きくなる。なお、該たるみ分は、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸との糸長差を、適宜設定することによりコントロールすることができる。
本発明の織編物において、空隙率は以下の方法により測定されるものである。すなわち、光学顕微鏡により織編物表面を20倍に拡大して観察し、内田洋行社製デジタルプラニメーターを用いて織編物表面のうち糸条が占める面積と、糸条が存在しない面積を計測し、下記の式により空隙率(%)を算出するものとする。
空隙率(%)=(糸条が存在しない面積)/((糸条が占める面積)+(糸条が存在しない面積))×100
そして、上記の空隙率を、乾燥時と湿潤時についてそれぞれ測定(n数=5)し、下記式により空隙変化率(%)を算出する。ここで、乾燥時とは、温度20℃、湿度65%RHの環境下で24時間放置した後の試料の状態であり、湿潤時とは、上記試料を温度20℃の水中に5分間浸漬した後に水中から引き上げ、試料を2枚のろ紙の間にはさみ、490N/m(50kgf/m)の圧力で1分間加重し、繊維間に存在する水分を取り除いた状態を示す。
空隙変化率(%)=((湿潤時の空隙率)−(乾燥時の空隙率))/(乾燥時の空隙率)×100
かかる空隙変化率としては、10%以上(より好ましくは20〜200%)であることが好ましい。
また、本発明の織編物において、通気性は、JIS L 1096−1998、6.27.1、A法(フラジール形通気性試験機法)により測定されるものである。
そして、該通気性を、上記の乾燥時と湿潤時についてそれぞれ測定(n数=5)し、下記式により通気性変化率(%)を算出する。
通気性変化率(%)=((湿潤時の通気性)−(乾燥時の通気性))/(乾燥時の通気性)×100
かかる通気性変化率としては、30%以上(より好ましくは50〜300%)であることが好ましい。
本発明の織編物において、前記のように特定の糸配列を選定することにより、湿潤時に凹凸を発生させることが可能となる。ここで、本発明でいう凹凸変化率は下記で定義するものである。すなわち、まず、JIS L 1018−1998、6.5にて規定された厚さ測定方法で、上記の乾燥時と湿潤時についてそれぞれ厚さを測定(n数=5)する。ここで、湿潤時に凸部が形成されと、該厚さは大きな値となる。次いで、下記式により凹凸変化率(%)を算出する。
凹凸変化率(%)=((湿潤時の厚さ)−(乾燥時の厚さ))/(乾燥時の厚さ)×100
かかる凹凸変化率としては、2%以上(より好ましくは5〜50%)であることが好ましい。このように、湿潤時に織編物の凹凸が変化すると、肌との接触面積を小さくすることができ、ムレやベトツキをより一層小さくすることが可能になる。
本発明の織編物には、常法の染色仕上げ加工が施されてもよい。さらには、常法の撥水加工、起毛加工、紫外線遮蔽あるいは抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
<沸水収縮率>JIS L 1013−1998、7.15で規定される方法により、沸水収縮率(熱水収縮率)(%)をn数3で測定した。
<糸長の測定>織編物を温度20℃、湿度65%RHの雰囲気中に24時間放置した後、該織編物から、経緯の方向が織編物と同じになるよう30cm×30cmの小片を裁断する(n数=5)。続いて、各々の小片から、吸水自己伸張糸及び非自己伸張糸を1本ずつ取り出し、弾性糸である吸水自己伸張糸には0.0088mN/dtex(1mg/de)の荷重をかけ、非弾性糸である非自己伸張糸には1.76mN/dtex(200mg/de)の荷重をかけて吸水自己伸張糸の糸長A(mm)、非自己伸張糸の糸長B(mm)を測定する。そして、(糸長Aの平均値)/(糸長Bの平均値)をA/Bとする。
<空隙率>光学顕微鏡により織編物表面を20倍に拡大して観察し、内田洋行社製デジタルプラニメーターを用いて織編物表面のうち糸条が占める面積と、糸条が存在しない面積を計測し、下記の式により空隙率(%)を算出した。
空隙率(%)=(糸条が存在しない面積)/((糸条が占める面積)+(糸条が存在しない面積))×100
該空隙率を、乾燥時と湿潤時についてそれぞれ測定(n数=5)し、下記式により空隙変化率(%)を算出した。ここで、乾燥時とは、温度20℃、湿度65%RHの環境下で24時間放置した後の試料の状態であり、湿潤時とは、上記試料を温度20℃の水中に5分間浸漬した後に水中から引き上げ、試料を2枚のろ紙の間にはさみ、490N/m(50kgf/m)の圧力で1分間加重し、繊維間に存在する水分を取り除いた状態を示す。
空隙変化率(%)=((湿潤時の空隙率)−(乾燥時の空隙率))/(乾燥時の空隙率)×100
<通気性>JIS L 1096−1998、6.27.1、A法(フラジール形通気性試験機法)により通気性を測定した。そして、該通気性を、乾燥時と湿潤時についてそれぞれ測定(n数=5)し、下記式により通気性変化率(%)を算出する。
通気性変化率(%)=((湿潤時の通気性)−(乾燥時の通気性))/(乾燥時の通気性)×100
<凹凸変化率>JIS L 1018−1998、6.5にて規定された厚さ測定方法で、上記の乾燥時と湿潤時についてそれぞれ厚さを測定(n数=5)し、下記式により凹凸変化率(%)を算出する。
凹凸変化率(%)=((湿潤時の厚さ)−(乾燥時の厚さ))/(乾燥時の厚さ)×100
[実施例1]
ハードセグメントとしてポリブチレンテレフタレートを49.8重量部、ソフトセグメントとして数平均分子量4000のポリオキシエチレングリコール50.2重量部からなるポリエーテルエステルを、230℃で溶融し、所定の紡糸口金より吐出量3.05g/分で押出した。このポリマーを2個のゴデットロールを介して705m/分で引取り、さらに750m/分(巻取りドラフト1.06)で巻取り、44デシテックス/1フィラメントの弾性を有する吸水自己伸張糸を得た。この吸水自己伸張糸の湿潤時の繊維軸方向への膨潤率は10%であり、沸水収縮率は8%であった。
一方、非自己伸張糸として沸水収縮率が10%であり、湿潤時の膨張率が1%以下である、通常のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸(84デシテックス/24フィラメント)を用意した。
次いで、28ゲージのシングル丸編機を用いて、上記吸水自己伸張糸をドラフト率50%でドラフトさせながら上記非自己伸張糸と同時に該編機に給糸することにより、47コース/2.54cm、40ウェール/2.54cmの編密度にて天竺組織の丸編物を編成した。ついで、この丸編物を常法の染色仕上げ方法にて加工を行った。得られた丸編物において図1に模式的に示すように、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とで丸編組織の複合ループが形成されており、A/Bが0.7であった。また、得られた丸編物において、乾燥時では、空隙率15%、通気性210cc/cm/sであり、湿潤時には、空隙率23%(空隙変化率53%)、通気性380cc/cm/s(通気性変化率81%)と、湿潤時に通気性が大きく向上し満足なものであった。
[実施例2]
実施例1で用いたのと同じ吸水自己伸張糸を芯糸とし、沸水収縮率が10%であり、かつ湿潤時の膨張率が1%以下のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸(33デシテックス/12フィラメント)を鞘糸にし、芯糸のドラフト率30%(1.3倍)、鞘糸のカバリング数350回/m(Z方向)にてカバリング糸a(複合糸)を得た。該カバリング糸と、沸水収縮率が8%であり、湿潤時の膨張率が1%以下のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸b(84デシテックス/72フィラメント)を24ゲージダブル丸編機にて38コース/2.54cm、32ウェール/2.54cmの編密度で、図8に示す編組織で、編物を編成し、該編地を常法の染色仕上げ方法にて加工を行った。該編物においてA/Bが0.8であった。
該編物において、厚み方向の断面は、図7の(1)に示すように、1層(X層)は非自己伸張糸(ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸b)だけで構成され、他層(Y層)においては、カバリング糸a(吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とで構成)で構成される部分はX層から浮いており、かつ、非自己伸張部分はX層と結合していた。その際、Y層の非自己伸張部分は、緯方向に巾約7mmで連続していた。得られた編物において、乾燥時では、空隙率8%、通気性180cc/cm/s、厚み0.90mmであり、湿潤時には、布帛寸法が変化することなく、図7の(2)に示すように、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とで構成される部分(15−2)が凸状となり、空隙率10%(空隙変化率25%)、通気性240cc/cm/s(通気性変化率33%)、厚み0.98mm(凹凸変化率8.9%)と満足なものであった。
[比較例1]
実施例1で用いたのと同じ、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸(ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸)とを用いて、28ゲージのシングル丸編機にて該吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とを、ドラフトすることなく同じ給糸速度(同じ編歩)にて、40コース/2.54cm、35ウエール/2.54cmの編密度にて天竺組織の丸編物を編成した。ついで、この丸編物を常法の染色仕上げ方法にて加工を行った。得られて丸編物において、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とによって複合ループが形成されており、A/Bが1.0であった。得られた丸編物において、乾燥時では、空隙率30%、通気性350cc/cm/sであり、湿潤時には、布帛寸法が変化することなく空隙率25%(空隙変化率−17%)、通気性250cc/cm/s(通気性変化率−29%)と、湿潤時に通気性が低下しており不満足なものであった。
[比較例2]
実施例2において、カバリング糸をドラフト率0%(1.0倍)の合撚糸にかえること以外は、実施例2と同様に編物を得て、この編物を常法の染色仕上げ方法にて加工を行った。該丸編物においてA/Bが1.0であった。得られた編物において、乾燥時では、空隙率14%、通気性230cc/cm/s、厚み0.80mmであり、湿潤時には、布帛寸法が変化することなく空隙率12%(空隙変化率−14%)、通気性190cc/cm/s(通気性変化率−17%)、厚み0.81mm(凹凸変化率1.3%)と不満足なものであった。
本発明によれば、乾燥時と比べて、湿潤時に寸法があまり変化することなく性能よく通気性が向上する織編物が得られる。かかる織編物をインナーウエアーやスポーツウエアーなどとして使用すると発汗によるムレやベトツキを低減することができる。しかも、コンジュゲート繊維や撚糸工程を必要とすることがないため、安価に製造可能である。
本発明に係る織編物において、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが丸編組織の複合ループを形成する糸配列を模式的に示すものであり、(1)乾燥時、(2)湿潤時である。 本発明に係る織編物において、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが、引き揃えられて織組織の経糸および緯糸を構成する糸配列を模式的に示すものであり、(1)乾燥時、(2)湿潤時である。 本発明に係る織編物において、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが1:1に配列されて丸編物を構成する糸配列を模式的に示すものであり、(1)乾燥時、(2)湿潤時である。 本発明に係る織編物において、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが織物の経糸と緯糸に1:1に配列されて織物を構成する糸配列を模式的に示すものであり、(1)乾燥時、(2)湿潤時である。 本発明に係る織編物において、非自己伸張糸のみで構成される部分が格子状に連続する織編組織パターンを模式的に示したものである。 本発明に係る織編物において、織編物が単層構造で、かつ非自己伸張糸のみで構成される部分が経方向および/または緯方向に連続している場合の織編物の厚み方向の断面図を模式的に例示したものであり、(1)乾燥時、(2)湿潤時である。 本発明に係る織編物において、織編物が2層構造であり、1層(X層)が非自己伸張糸だけで構成され、他層(Y層)が吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とで構成され、その際、Y層において、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とで構成される部分はX層から浮いており、かつ、非自己伸張糸で構成される非自己伸張部分がX層と結合している場合のの織編物の厚み方向の断面図を模式的に例示したものであり、(1)乾燥時、(2)湿潤時である。 実施例2で、用いた編成図である。ここで、1〜24は給糸配列、Cはシリンダー側、Dはダイアル側、aはカバリング糸、bはポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント、〇はダイアル側ニット、×はシリンダー側ニット、¥はシリンダー側タックである。
符号の説明
1−1,1−2,3−1,3−2,5−1,5−2,7−1,7−2 吸水自己伸張糸
2−1,2−2,4−1,4−2,6−1,6−2,8−1,8−2 非自己伸張糸
9,11−1,11−2,14−1,14−2 非自己伸張糸のみで構成される部分(非自己伸張部分)
10,12−1,12−2,15−1,15−2 吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とで構成される部分
13−1,13−2 非自己伸張糸のみで構成される層(X層)

Claims (7)

  1. 吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とからなる織編物であって、温度20℃、湿度65%RHの雰囲気中における該織編物中の吸水自己伸張糸の糸長を(A)、他方、非自己伸張糸の糸長を(B)とするとき、A/Bが0.9以下であり、かつ前記織編物が下記(1)〜(4)の要件のうち少なくとも1要件を満足することを特徴とする湿潤時に通気性が向上する織編物。
    (1)吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが、丸編組織の複合ループを形成してなる。
    (2)吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが、引き揃えられて織組織の経糸および/または緯糸を構成してなる。
    (3)吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが、各々織編物の構成糸条として、1本交互にまたは複数本交互に配列してなる。
    (4)吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが、複合糸として織編物中に含まれる。
  2. 吸水自己伸張糸が、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリオキシエチレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーからなるポリエーテルエステル繊維である請求項1に記載の湿潤時に通気性が向上する織編物。
  3. 非自己伸張糸がポリエステル繊維である請求項1または請求項2に記載の湿潤時に通気性が向上する織編物。
  4. 湿潤時と乾燥時とで空隙変化率が10%以上である請求項1〜3のいずれかに記載の湿潤時に通気性が向上する織編物。
  5. 湿潤時と乾燥時とで通気性変化率が30%以上である請求項1〜4のいずれかに記載の湿潤時に通気性が向上する織編物。
  6. 織編物中に、非自己伸張糸のみで構成される非自己伸張部分と、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とで構成される部分が含まれ、かつ前記非自己伸張部分が経方向および/または緯方向に連続してなる請求項1〜5のいずれかに記載の湿潤時に通気性が向上する織編物。
  7. 湿潤時と乾燥時とで凹凸変化率が2%以上である請求項6に記載の湿潤時に通気性が向上する織編物。
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