JP3992200B2 - 組換え体センダイウイルスを利用した膜融合性リポソーム - Google Patents
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Description
本発明は、組換え体センダイウイルスとリポソームとを融合して得られる膜融合性リポソームに関する。
技術背景
薬物治療、遺伝子治療、において薬物(特に高分子化合物)や核酸等の生理活性物質を、目的とする細胞または細胞内組織に到達させるシステム、すなわちドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System;以下単にDDSと言う)は重要な技術分野である。DDSは2つの方法に分類することができる。
ひとつは、ウイルスベクターを用いる方法である。これには、所望の外来性遺伝子をゲノム上に有するウイルスを細胞に感染させることにより、内部の核酸を細胞内に導入するという方法が含まれる。
もうひとつは、人工的なまたは半人工的な輸送担体(キャリアー)に、所望の生理活性物質を封入または担持させる方法である。この方法は、目的物の生体内挙動および輸送に関与する諸過程を、キャリアー自体の物理化学的性質に依存させることにより、生理活性物質を所望の臓器(標的臓器)、細胞(標的細胞)または細胞内器官(標的器官)に到達せしめる方法(デリバリーシステム)である。この方法におけるキャリアーとしては例えば、蛋白質(Human Gene Therapy,5,429,1994)、ペプチド(Proceedings of National Academy of Sciences of United States of America,90,893,1993)、高分子(The Journal of Biological Chemistry,269,12918,1994)およびリポソーム(Proceedings of National Academy of Sciences of United States of America,92,1744,1995)等を例示することができる。これらキャリアーは、分子量、粒径、表面電荷、特異的結合能等の物理化学的性質により、生体内においては固有の挙動および標的指向性を呈する。そのため、これらキャリアーに封入または担持された生理活性物質は、キャリアーと同様の生体内挙動および標的指向性を有することが可能となる。この方法を用いた例としては、癌細胞表面に多く発現したトランスフェリンレセプターを利用したデリバリーシステム(Proceedings of National Academy of Sciences of United States of America,89,7934,1992)、標的細胞表面に発現した特異的抗原を利用したデリバリーシステム(Biochim Biophys Acta,1152,231-242,1993)、肝細胞表面に存在するアシアロ糖蛋白レセプターを利用したデリバリーシステム(The Journal of Biological Chemistry,266,14338,1991)、センダイウイルスの膜融合性を利用したデリバリーシステム(Exp.Cell Res.,159,399,1985)等が挙げられる。
特に、センダイウイルスの膜融合性を利用したデリバリーシステムにおいては、エンドサイトーシス経路を介さず、生理活性物質を標的細胞質内に直接導入することが可能であるため、従来の方法では困難であった遺伝子等の高分子量で安定性の低い生理活性物質の送達において、高い有効性が示されている(「Trends and Future Perspectives in Peptide and Protein Drug Delivery」Lee,V.H.L. et al. eds. Harwood Academic Publishers,Switzerland, 337,1995)。しかしながら、このシステムに用いられるセンダイウイルスは野性株を紫外線処理したものであり、その安全性は必ずしも高いとは言えない。紫外線処理によらず完全に安全性を保つことのできる膜融合性リポソームの開発は、センダイウイルスの膜融合性を利用したデリバリーシステムにおいて切望されている。そして、そのためには野生型ウイルスとしての活性を有しないセンダイウイルスを実用的なレベルで生産できることが必要であった。
本システムの材料として用いられるセンダイウイルス(Sendai virus)は、HVJ(Hemagglutinating virus of Japan)とも呼ばれ、パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)、パラミクソウイルス属(Paramyxovirus)に属するパラインフルエンザウイルス1型の1株である。センダイウイルス粒子は多形性であり、直径150〜200nmのエンベロープを有し、中に翻訳の鋳型とはならないゲノムRNA(以下、「(−)鎖RNA」と称する)を有する。センダイウイルスは、歴史的に見ても産業上有用なウイルスとして知られており、とくに細胞のヘテロカリオンや雑種細胞の作製、すなわち細胞融合に広く利用されている。また、上述したように膜融合性リポソームの材料として好適に用いられている。
ゲノム核酸の形態による分類では、センダイウイルスは、RNAウイルスの、(−)鎖RNAウイルスの、(−)1本鎖RNAウイルスグルーブに属する。RNAウイルスは、dsRNAウイルス(double stranded RNA virus)、(+)鎖RNAウイルスおよび(−)鎖RNAウイルスの3者に分類される。dsRNAウイルスグループには、レオウイルス、ロタウイルス、植物レオウイルス等があり、分節型の複数の線状dsRNAゲノムを有している。(+)鎖ウイルスには、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、セムリキ森林ウイルス、日本脳炎ウイルス等があり、1本の(+)鎖RNAをゲノムとして有しており、このRNAゲノムは同時にmRNAとしても機能し、複製や粒子形成に必要な蛋白質を宿主細胞の翻訳機能に依存して生産することができる。言い換えれば、(+)鎖RNAウイルスが有するゲノムRNA自体が伝播力を有する。なお、本明細書において「伝播力」とは、「感染や人工的な手法で核酸を細胞内に導入した後、細胞内に存在する該核酸が複製後、感染性粒子またはそれに準ずる複合体を形成し、別の細胞に次々と伝播することのできる能力」を言う。(+)鎖RNAウイルスに分類されるシンドビスウイルスや(−)鎖RNAウイルスに分類されるセンダイウイルスは、伝播力を有するが、パルボウイルス科に分類されるアデノ随伴ウイルス(Adeno-associated virus)は、感染能は有するが、伝播力を有しない(ウイルス粒子が形成されるためには、アデノウイルスの同時感染が必要である)。また、試験管内で人工的に転写されたシンドビスウイルス由来の(+)鎖RNAは伝播力を有するが、試験管内で人工的に転写されたセンダイウイルスRNAは(+)鎖、(−)鎖ともに伝播力を有しない。
安全性の高いセンダイウイルス膜融合性リポソームを作製するためには、伝播力を有しない組換え体センダイウイルスを作出することが必要となる。これまでにも、DI粒子のような不完全ウイルスを利用して、膜融合リポソームを作ろうとする試みはなされてきたが、不完全ウイルスの増殖のためにはヘルパーウイルスが必要であったので、感染性のあるヘルパーウイルスが混入してしまうという問題があった。即ち、安全性の高いセンダイウイルス膜融合性リポソームの原料となる「有害なウイルスの混入のない、伝播力を有しないセンダイウイルス」を単離するためには、センダイウイルスゲノムからのウイルス粒子の再構成のための手法が確立している必要があったが、その方向の研究は精力的に行なわれていなかった。(ウイルス粒子の再構成とは、「ウイルスゲノムの核酸を人工的に作製し、試験管内または細胞内において、もとのウイルスまたは組換え体ウイルスを作製すること」である。)
DNAをゲノム核酸とするDNAウイルスの再構成は比較的早くから行なわれており、例えば、SV40(J. Exp. Cell Res.,43,415-425,1983)のように、精製したゲノムDNAそのものをサルの細胞に導入することにより行なうことが可能である。RNAをゲノム核酸とするRNAウイルスの再構成は、(+)鎖RNAウイルスにおいて開発が先行した。この理由は、ゲノムRNAが、同時にmRNAとして機能するからである。例えば、ポリオウイルスでは、精製したRNA自体が伝播力を有することが、すでに1959年に報告されている(Journal of Experimental Medicine,110,65-89,1959)。また、セムリキ森林ウイルス(Semliki forest virus; SFV)では、宿主細胞のDNA依存性RNA転写活性を利用することにより、cDNAを細胞内に導入することによってウイルスの再構成が可能であることが報告されている(Journal of Virology,65,4107-4113,1991)。
さらにはこれらの再構成技術を利用して、遺伝子治療用ベクターの開発も進められている[Bio/Technology,11,916-920,1993、Nucleic Acids Research,23,1495-1501,1995、Human Gene Therapy,6,1161-1167,1995、Methods in Cell Biology,43,43-53,1994、Methods in Cell Biology,43,55-78,1994]。
ところが、前述したとおり、センダイウイルスは産業的に有用なウイルスとして利用しうる長所を多数有しているにもかかわらず、(−)鎖RNAウイルスであるため、再構成系が確立していなかった。そのことは、ウイルスcDNAを経由したウイルス粒子再構成系がきわめて困難だったことに起因する。
前述したように(−)鎖RNAウイルスのRNA(vRNA; viral RNA)またはその相補鎖RNA(cRNA;complementary RNA)を単独で細胞内に導入しても(−)鎖RNAウイルスは生成されないことが明らかにされている。このことは、(+)鎖RNAウイルスの場合と決定的に違う点である。なお、特開平4-211377号公報には、「負鎖RNAウイルスのゲノムに対応するcDNAおよび感染性の負鎖RNAウイルスの製造方法」について記載があるが、該公報の実験内容がそのまま記載されている「EMBO.J.,9,379-384,1990」は、実験の再現性がないことが明らかとなり、筆者みずから論文内容を全面的に取り下げている(EMBO.J.,10,3558,1991参照)ことからして、特開平4-211377号公報に記載の技術が本発明の先行技術に該当しないのは明らかである。
(−)鎖RNAウイルスの再構成系について、インフルエンザウイルスに関しては報告がある(Annu.Rev. Microbiol.,47, 765-790,1993、Curr. Opin. Genet. DEV.,2,77-81,1992)。インフルエンザウイルスは、8分節ゲノムより構成される(−)鎖RNAウイルスである。これらの報告によれば、あらかじめそのうちの1つのcDNAに外来性遺伝子を挿入し、また外来性遺伝子を含む8本すべてのcDNAから転写されたRNAをあらかじめウイルス由来のNP蛋白質と会合させてRNPとした。これらのRNPと、RNA依存性RNAポリメラーゼとを細胞内に供給することにより、再構成が成立した。また、(−)鎖一本鎖RNAウイルスについては、ラブドウイルス科に属する狂犬病ウイルスでcDNAからのウイルス再構成についての報告がある(J. Virol.,68, 713-719,1994)。
従って、(−)鎖RNAウイルスの再構成系技術は基本的には公知のものとなったが、センダイウイルスの場合は、この手法をそのまま適用しても、ウイルスを再構成することができなかった。また、ラブドウイルスにおいてウイルス粒子が再構成されたという報告については、マーカー遺伝子の発現やRT-PCR等で確認を行なっているだけであり、生産量の面から十分とはいえなかった。さらには、従来は、再構成に必要な因子を細胞内で供給する目的で、天然型のウイルスや組換え型のワクチニアウイルス等のウイルスを、再構成するべきウイルスの核酸と同時に細胞に供給しており、再構成された所望のウイルスとそれらの有害なウイルスの分離が容易でないという問題があった。
発明の開示
本発明は、センダイウイルスの膜融合性を利用した、DDS、即ち生理活性物質のデリバリーシステムとして、安全性の高いものを開発することを課題とする。
もしセンダイウイルスにおいて、核酸を有しないウイルス粒子を製造することができるならば、安全性の高い膜融合性リポソームを作製することが可能である。しかし、核酸を有しないセンダイウイルス粒子を作製する方法は報告されていない。そこで、本発明者らはその代りに、伝播力を有しないセンダイウイルス粒子を製造し、安全性の高い膜融合性リポソームを作製することを目指して研究を進めた。伝播力を有しない組換え体センダイウイルスを原料として用いた場合、センダイウイルス由来の不活化されたRNAが膜融合性リポソーム内に残る可能性は否定できないものの、野生型のウイルスを材料として用いる場合よりもはるかに安全であることは明らかである。
本発明は、より具体的には、伝播力を有しないセンダイウイルスを製造することを課題とし、製造できるか否かは、センダイウイルスの再構成技術を構築できるか否かに依存している。
本発明者らは、組換え体センダイウイルス再構成系の確立に関して鋭意検討を行なった。特に、効率的な再構成条件すなわち細胞内に導入する核酸や補助因子等の量比等の詳細な検討を行なった。さらには、組換え型のワクチニアウイルス等の混入をなくするための検討も行なった。
本発明者らはまず、センダイウイルスの再構成試験に適用するため、センダイウイルスDI粒子(defective interfering particle/EMBO.J.,10,3079-3085,1991参照)由来のcDNAまたはセンダイウイルスミニゲノムのcDNAを用いて、種々の検討を行なった。その結果、細胞内に導入する、cDNA、転写複製に関するcDNA群、およびT7RNAポリメラーゼ発現ユニットである組換え体ワクチニアウイルスの量比について、効率の良い条件を見い出した。本発明者らは更に、センダイウイルス全長のcDNAを(+)鎖と(−)鎖の両者とも取得し、細胞内で(+)鎖または(−)鎖のセンダイウイルスRNAが生合成されるようなプラスミドを構築し、転写複製に関するcDNA群を発現している細胞内に導入した。その結果センダイウイルスcDNAよりセンダイウイルス粒子を再構成することに初めて成功した。なお、本発明者らによって、効率良い粒子再構成のためには、細胞内に導入するcDNAの形態が線状よりも環状のほうが適当であり、また(−)鎖RNAが細胞内で転写されるよりも、(+)鎖RNAが細胞内で転写されるほうが粒子形成効率が高いことが新たに見い出された。
さらに、本発明者らは、T7RNAポリメラーゼ発現ユニットである組換え体ワクチニアウイルスを用いない場合でもセンダイウイルスの再構成を行いうることを見い出した。すなわち、試験管内で転写したセンダイウイルス全長RNAを細胞内に導入し、初期転写複製酵素群のcDNAをT7プロモーター支配下で転写させた場合、ウイルス粒子が再構成された。このことは、初期転写複製酵素群をすべて発現する細胞を構築すれば、ワクチニアウイルスのようなヘルパーウイルスを全く使用せずに組換え体センダイウイルスを作出することが可能であることを示している。なお、初期転写複製酵素群をすべて発現する細胞は、「J.Virology, 68,8413-8417,1994」に記載されており、該記載を参照して当業者が作出することが可能である。なお、該文献記載の細胞は、センダイウイルス遺伝子のうち、NP,P/C,Lの3者を染色体上に有している293細胞由来の細胞であり、このものは、NP,P/C,Lの3者の蛋白質を発現している。
多くのウイルスベクターの例から、核酸からウイルス粒子の再構成が効率よくできるならば、所望のウイルス遺伝子を組み換えたり、外来性遺伝子を挿入したり、または所望のウイルス遺伝子を不活化させたり、欠失させることは、当業者にとって容易になしうることであることは明らかである。即ち、本発明において初めてセンダイウイルス粒子の再構成に成功したことは、本発明によってセンダイウイルスの遺伝子操作が可能となったことを意味することは、当業者には自明のことである。例えば、センダイウイルス構造体遺伝子の少なくとも一部を欠如させるDNAレベルでの遺伝子操作を常法に従って行い、該組換えDNAから伝播力を有しないセンダイウイルス粒子を再構成することが、本発明によって可能となった。
すなわち本発明は以下のものを含む。
(1) 1以上の機能蛋白質遺伝子が欠失または不活化しており、細胞感染能を有するが、伝播力を有しない組換え体センダイウイルスと、所望の核酸または薬物を封入したリポソームとを融合して得られる膜融合性リポソーム、
(2) 組換え体センダイウイルスが、センダイウイルスのM遺伝子、F遺伝子またはHN遺伝子のうち少なくとも1以上の遺伝子が欠失または不活化していることを特徴とする(1)に記載の膜融合性リポソーム、
(3) 組換え体センダイウイルスが外来性遺伝子を有することを特徴とする(1)または(2)のいずれかに記載の膜融合性リポソーム、
(4)(a)(1)〜(3)のいずれかに記載の膜融合性リポソームに含まれる組換え体センダイウイルスの、欠失または不活化している遺伝子に相当する遺伝子を染色体上に有し、該遺伝子を発現しうる宿主で、センダイウイルスの複製酵素群を発現しうるもの、(b)(1)〜(3)のいずれかに記載の膜融合性リポソームに含まれる組換え体センダイウイルスに含まれるRNAもしくは該RNAのcRNAを含むRNA、またはこれらのRNAを生合成しうるユニット、(c)所望の核酸または薬物を封入したリポソームの3者を含むキット、
(5) 宿主が動物、動物に由来する細胞、動物の組織または動物の卵であることを特徴とする(4)に記載のキット、
(6) 動物が哺乳類であることを特徴とする(5)に記載のキット、
(7) 動物が鳥類であることを特徴とする(5)に記載のキット、
(8) 1以上の機能蛋白質遺伝子が欠失または不活化しており、細胞感染能を有するが、伝播力および自律複製能を有しない組換え体センダイウイルス、
(9) センダイウイルスのM遺伝子、F遺伝子またはHN遺伝子のうち少なくとも1以上の遺伝子が欠失または不活化していることを特徴とする(8)に記載の組換え体センダイウイルス、および
(10) 外来性遺伝子を有することを特徴とする(8)または(9)のいずれかに記載の組換え体センダイウイルス。
本発明において、「1以上の機能蛋白質遺伝子が欠失または不活化しているセンダイウイルス」は、パラインフルエンザ1型に分類される株由来のものであれば良く、例えばZ株(Sendai virus Z strain)由来のもの、フシミ株(Sendai virus Fushimi strain)由来のもの等が挙げられる。また、DI粒子等の不完全ウイルスや、合成したオリゴヌクレオチド等も、材料の一部として使用することができる。また、該ウイルスでリポソームと融合されるものは、自律複製能を保持するもの、または自律複製能を保持しないもののどちらでも構わない。例えば、DI粒子等の不完全ウイルス、センダイウイルスのミニゲノムまたは合成したオリゴヌクレオチド等も使用することができるが、ゲノムRNAの両末端配列が、細胞内にトランスに供給された複製因子であるNP,P/CおよびL蛋白質により認識されて複製することが必要である。
組換え体センダイウイルスは、所望の外来性遺伝子を挿入したり、所望のゲノム遺伝子を欠失または改変することが可能である。組換え体センダイウイルスは、たとえば免疫原性に関与する遺伝子を不活性化したり、欠失させたりすることもできるし、RNAの転写効率や複製効率を高めるために、一部の遺伝子を改変したものでも良い。具体的には、例えば複製因子であるNP遺伝子、P/C遺伝子またはL遺伝子の少なくとも一つを改変し、転写、複製機能を高めることもできる。また、構造体蛋白質の1つであるHN蛋白質は、赤血球凝集素であるヘマグルチニン(hemagglutinin)活性とノイラミニダーゼ(neuraminidase)活性との両者の活性を有するが、例えば前者の活性を弱めることができれば、血液中でのウイルスの安定性を向上させることが可能であろうし、例えば後者の活性を改変することにより、感染能を調節することも可能である。むろん、これらの蛋白質の供給原としてはゲノムRNA由来のものを用いても構わないし、トランスに供給されたものを用いてもよい。また、膜融合に関わるF蛋白質を改変することにより、膜融合リポソームの融合能を調節することもできる。また、例えば、細胞表面の抗原分子となりうるF蛋白質やHN蛋白質の抗原提示エピトープ等を解析することが、再構成系の確立により可能となったため、これを利用して抗原提示能を弱めたセンダイウイルス、ひいては抗原提示能の弱まった膜融合性リポソームを作製することもできる。これらの改良もまた、蛋白質の供給原としてはゲノムRNA由来のものを用いても構わないし、トランスに供給されたものを用いてもよい。
なお、本発明に用いる組換え体センダイウイルスは、自立複製能を有しないものである方が望ましい。自立複製能を有しなければ、感染後細胞内でRNAが増殖することがなく、不要な蛋白質の合成が起こることがないなどの利点があるからである。
膜融合性リポソーム内に導入する核酸、薬剤としては、例えば、アンチセンス(Drug Delivery System,10,91-97,1995)、デコイ(The Journal of Biological Chemistry,267,12403-12406,1994)、リボザイム(The Drug Delivery System,10,91-97,1995)、三重鎖DNA(細胞工学、13巻、No.4、277-285、1994)、プラスミドDNA(Methods Enzymology,221,317-327,1993)、RNAベクター、および、これらとキャリアー(Proceedings of National Academy of Sciences of United States of America,89,7934-7938,1992)または、蛋白(Journal of Biological Chemistry,266(6),3361-3364,1991)との複合体、さらには、抗癌剤、抗ウイルス剤、トキシン(ジフテリアトキシン;Biochim Biophys Acta,1192,253-262,1994/リシン;Biochim Biophys Acta,1070,246-252,1991)、酵素(Immunology,81,280-284,1994)などが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
図1はpUC18/T7(+)HVJRz.DNAの構成を示す図である。
図2はpUC18/T7(-)HVJRz.DNAの構成を示す図である。
発明を実施するための最良の形態
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1] センダイウイルス転写ユニットpUC18/T7(-)HVJRz.DNAおよびpUC18/T7(+)HVJRz.DNAの作製
T7プロモーター、(-)鎖RNAが転写されるように設計されたセンダイウイルスcDNA、リボザイム遺伝子をこの順に保持するDNAを、pUC18プラスミドに挿入したプラスミドpUC18/T7(-)HVJRz.DNAを作製した。また、T7プロモーター、(+)鎖RNAが転写されるように設計されたセンダイウイルスcDNA、リボザイム遺伝子をこの順に保持するDNAを、pUC18プラスミドに挿入したプラスミドpUC18/T7(+)HVJRz.DNAを作製した。pUC18/T7(-)HVJRz.DNAおよびpUC18/T7(+)HVJRz.DNAの構成を図1および図2に示した。
[実施例2] cDNAからのセンダイウイルス再構成実験
直径6cmのプラスチックシャーレに通常のトリプシン処理を施したLLC-MK2細胞を2,000,000個とMEM培地(MEM+FBS 10%)2mlとを添加し、CO2 5%,37℃の条件下で24時間培養した。培養液を取り除き、1mlのPBSを用いて洗浄した後、多重感染度(moi/multiplicity of infection)が2となるように調製した、T7ポリメラーゼを発現する組換えワクチニアウイルスvTF7-3を0.1mlのPBSに懸濁したものを添加した。15分毎にウイルス液が全体にいきわたるようにシャーレを揺らし、1時間の感染を行った。ウイルス溶液を除去し、1mlのPBSを用いて洗浄した。このシャーレに、cDNA溶液を含む培地を添加した。cDNA溶液を含む培地の作製は、以下のように行なった。
表に記した核酸(センダイウイルスの複製に必要な因子を発現するプラスミド、pGEM-L,pGEM-P/C,pGEM-NPを含む)を1.5mlのサンプリングチューブにとり、HBS(Hepes buffered saline; 20mM Hepes pH7.4, 150mM NaCl)を加えて総量を0.1mlにした。表中の(-)または(+)cDNAは、プラスミドpUC18/T7(-)HVJRz.DNAまたはpUC18/T7(+)HVJRz.DNAそのものを示し、/Cは環状のまま、/Lは制限酵素MluIにより直鎖化した後に細胞に導入していることを示す。
他方、ポリスチレンチューブの中で、HBS 0.07ml, DOTAP(ベーリンガーマンハイム社製)0.03mlを調合し、核酸溶液をこのポリスチレンチューブに移した。この状態で、10分静置した。これに、細胞培養液(2ml MEM+FBS 10%)を添加した。さらにこの中にワクチニアウイルスの阻害剤であるリファンピシン(Rifampicin)とシトシンアラビノシドC(Cytosin arabinoside C/Ara C)を最終濃度がそれぞれ0.1mg/ml, 0.04mg/mlとなるように添加した。これにより、cDNA溶液を含む培地が作製された。
前記のシャーレを40時間CO2 5%, 37℃の条件下で培養した。ラバーポリスマンを用いてシャーレ内の細胞をかき取り、エッペンドルフチューブに移し6000rpm、5分間の遠心を行って細胞成分だけを沈殿し、再度1mlのPBSに懸濁した。この細胞液の一部をそのままの状態、あるいは希釈して10日齢の発育鶏卵に接種した。この細胞液を第1表に示した細胞数となるようにPBSで希釈し、0.5ml接種した卵を35℃72時間培養後4℃に移して一晩置いた。この卵の漿尿液をウイルス液として注射器と注射針を用いて回収した。
回収したウイルス液のHAU(hemagglutinin unit)と、PFU(plaque forming unit)の測定を以下に示す方法で行った。
HAUの測定は以下のように行なった。鶏の血液を、400x gで10分間遠心し、上清を捨てた。残る沈殿を、沈殿の100倍量のPBSで懸濁し、これをさらに400x g,10分間遠心し、上清を捨てた。この操作をさらに2回、繰り返し、0.1%血球溶液を作製した。ウイルス溶液を段階希釈法により2倍ずつに希釈し、その0.05mlずつを、96穴のタイタープレートに分注した。このタイタープレートに、さらに0.05mlずつの血球溶液を分注し、軽く振動させてよく混ぜた後、4℃で40分静置した。その後、赤血球の凝集を肉眼で観察し、凝集したもののうち、もっともウイルス溶液の希釈率の高いものの希釈率を、HAUとして示した。
PFUの測定は以下のように行なった。CV-1細胞を、6穴のカルチャープレート上に単層になるように生育させた。カルチャープレートの培地を捨て、段階希釈法により10倍づつに希釈したウイルス溶液0.1mlずつをそれぞれのカルチャープレート内ウエルに分注し、37℃、1時間感染させた。感染中に血清の含まれていない2×MEMと2%寒天を55℃で混ぜ合わせ、さらに最終濃度0.0075mg/mlとなるようにトリプシンを加えた。1時間の感染後、ウイルス溶液を取り除き、寒天と混合した培地3mlずつをそれぞれのカルチャープレート内ウェルに加え、5%CO2条件下で37℃3日間保温した。0.2mlの0.1%フェノールレッドを加え、37℃3時間保温した後、取り除いた。色の付いていないプラークの数を数え、ウイルスの力価をPFU/mlとして評価した。
表1には、LLC-MK2細胞に導入した鋳型となるセンダイウイルスcDNA、RNA複製に必要な因子のcDNAであるpGEM-L、pGEM-P/CおよびpGEM-NPの量、インキュベーション時間、鶏卵に接種した細胞数、HAU、PFUをそれぞれ示した。
HAU、PFUをともに示したサンプルを超遠心で沈渣とした後、再浮遊して20%〜60%のショ糖密度勾配遠心で精製し、12.5%SDS-PAGEで蛋白質を分離したところ、ここに含まれる蛋白質は、センダイウイルスの蛋白質と同じ大きさのものであった。
この結果から、cDNAを細胞に導入してセンダイウイルスを再構成できることが示された。また、(+)鎖を転写するcDNAを細胞内に導入したときには、(-)鎖を転写するcDNAを導入したときに比べてウイルス粒子が効率よく再構成されることが示された。さらに、cDNAを環状のままで導入したときには、直鎖状にして導入したときに比べてウイルス粒子が効率よく再構成されることが示された。
[実施例3] センダイウイルス再構成に必要なRNA複製因子の検討
L, P/C, NPを発現するプラスミドが三者ともに必要かどうかを調べる実験を行った。方法は実施例2と同様であるが、実施例2ではcDNAとともに、pGEM-L, pGEM-P/C, pGEM-NPの3者を細胞内に導入したのに対し、本実験では、pGEM-L, pGEM-P/C, pGEM-NPのうちの任意の2者または一者のみをcDNAとともに細胞内に導入した。
表2は、LLC-MK2細胞に導入した鋳型となるセンダイウイルスcDNA、RNA複製に必要な因子のcDNAであるpGEM-L、pGEM-P/CおよびpGEM-NPの量、インキュベーション時間、鶏卵に接種した細胞数、HAU、PFUをそれぞれ示した。
表2から、どの組合わせの2者を導入した場合もウイルスの生産が認められなかった。この結果、この3種の蛋白質すべてが、再構成には必須であることが確認された。
[実施例4] in vitro転写RNAからのセンダイウイルス再構成実験
実施例2で、cDNAからセンダイウイルスが再構成されることを示したが、さらにcDNAをin vitroで転写した産物、すなわちvRNAおよびcRNAでも同様のことができうるかどうかを検討した。
センダイウイルス転写ユニットpUC18/T7(-)HVJRz.DNAおよびpUC18/T7(+)HVJRz.DNAを制限酵素MluIで直鎖状にした後、これを鋳型として用い、精製T7ポリメラーゼ(EPICENTRE TECHNOLOGIES: Ampliscribe T7 Transcription Kit)によるin vitro RNA合成を行った。in vitro RNA合成の方法はキットのプロトコルに従った。ここで得られたRNA産物を、実施例2のcDNAの代わりに用い、同様の実験を行い、ウイルス生産の評価はHA試験により行った。結果を表3に示す。
この結果より、どちらのセンスのRNAを細胞内に導入しても、ウイルスを再構成することができた。
産業上の利用の可能性
本発明によって、センダイウイルスcDNAから効率よくウイルス粒子を再構成する系が確立され、センダイウイルスにおける遺伝子操作が可能となった。その結果、1以上の機能蛋白質遺伝子が欠失または不活化しており、細胞感染能を有するが、伝播力を有しない組換え体センダイウイルスが製造できるようになった。そして、センダイウイルスの膜融合性を利用した、DDS、即ち生理活性物質のデリバリーシステムとして、安全性の高いものを提供することが可能となった。
Claims (13)
- 1以上の機能蛋白質遺伝子が欠失または不活化しており、細胞感染能を有するが、伝播力を有しない組換え体センダイウイルスと、所望の核酸または薬物を封入したリポソームとを融合して得られる膜融合性リポソーム。
- 組換え体センダイウイルスが、センダイウイルスのM遺伝子、F遺伝子またはHN遺伝子のうち少なくとも1以上の遺伝子が欠失または不活化していることを特徴とする請求の範囲1に記載の膜融合性リポソーム。
- 組換え体センダイウイルスが外来性遺伝子を有することを特徴とする請求の範囲1または2のいずれかに記載の膜融合性リポソーム。
- (a)請求の範囲1〜3のいずれかに記載の膜融合性リポソームに含まれる組換え体センダイウイルスの、欠失または不活化している遺伝子に相当する遺伝子を染色体上に有し、該遺伝子を発現しうる宿主で、センダイウイルスの複製酵素群を発現しうるもの、(b)請求の範囲1〜3のいずれかに記載の膜融合性リポソームに含まれる組換え体センダイウイルスに含まれるRNAもしくは該RNAのcRNAを含むRNA、またはこれらのRNAを生合成しうるユニット、(c)所望の核酸または薬物を封入したリポソームの3者を含むキット。
- 宿主が動物、動物に由来する細胞、動物の組織または動物の卵であることを特徴とする請求の範囲4に記載のキット。
- 動物が哺乳類であることを特徴とする請求の範囲5に記載のキット。
- 動物が鳥類であることを特徴とする請求の範囲5に記載のキット。
- 1以上の機能蛋白質遺伝子が欠失または不活化しており、細胞感染能を有するが、伝播力および自律複製能を有しない単離された組換え体センダイウイルス。
- センダイウイルスのM遺伝子、F遺伝子またはHN遺伝子のうち少なくとも1以上の遺伝子が欠失または不活化していることを特徴とする請求の範囲8に記載の組換え体センダイウイルス。
- 外来性遺伝子を有することを特徴とする請求の範囲8または9のいずれかに記載の組換え体センダイウイルス。
- 1以上の機能蛋白質遺伝子が欠失または不活化しており、細胞感染能を有するが、伝播力を有しない組換え体センダイウイルスに、所望の核酸または薬物を封入したリポソームを融合する、膜融合性リポソームの製造方法。
- 組換え体センダイウイルスが、センダイウイルスのM遺伝子、F遺伝子またはHN遺伝子のうち少なくとも1以上の遺伝子が欠失または不活化していることを特徴とする請求の範囲11に記載の方法。
- 組換え体センダイウイルスが外来性遺伝子を有することを特徴とする請求の範囲11または12のいずれかに記載の方法。
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