JP3990740B2 - ミシンの油量制限部材 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、工業用ミシンのように回転数の高いミシンにおいて、端部に外釜を固定し回転駆動される下軸の潤滑油通路内に油量制限部材本体が通路をほぼ充塞するように配設されるミシンの油量制限部材に係り、特にその油量制限部材本体の形状の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
このような工業用ミシンにおいては、針が最高1分間当たり5500回程度往復動するので、この針の動作に関連した動作を行う釜機構等は最高11000回程度回転することになる。そこで、このように高速回転する各箇所の軸受けには、ポンプにより潤滑油を強制供給しないと、部材が過熱して焼付いたり、摩耗したりするおそれがある。
【0003】
ところで、ミシンにおいて、前記下軸、外釜および外釜の内側に支持されるボビンを収納する内釜からなる全回転釜構造は、一般に針を通している上糸に下糸を引掛けるためのものであるため、下糸を巻いているボビンを収納している内釜は針の往復動にもかかわらず静止しているのに対し、上糸を引掛けるフックを備えている外釜は針の往復動に関連して高速回転することになる。
【0004】
そこで、外釜を相対的に摺動する内釜の摺動面には、潤滑油を供給してやらなければならないが、この潤滑油は従来から外釜支持している下軸に形成されている潤滑油通路から外釜に形成されている他の潤滑油通路を介して内釜のレ−ス面に供給されるようになっていた。
まず、このようなミシンにおける全回転釜構造の一般的なものを第5図により説明する。
【0005】
第5図において、図示しないモ−タのような駆動手段により高速回転する下軸1が設けられ、この下軸1は軸方向に間隔を隔てて設けられた1対のメタル2(一方のみ図示)に組み込まれたスラスト受け3に軸方向の動きを規制され支持されている。この下軸1の中心部には、軸方向に延在する第1潤滑油通路4が形成され、この第1潤滑油通路4内には、図示を省略した下軸1の基端側から潤滑油を供給することができるようになっている。
【0006】
前記下軸1の先端部には外釜5が固定されている。この外釜5は、前記下軸1の先端部の外周にはめ込まれている円盤状の基部6と、この基部6の先端側に連設されたほぼ円筒形の外釜本体10によって構成され、前記基部6には前記下軸1の先端部が比較的密に挿入することが出来る中心孔7を設けている。また、前記基部6には、その外周面6aから前記中心孔7に連通する半径方向のねじ孔8が形成されており、このねじ孔8にねじ9をねじ込みそのねじ9の先端を下軸1の外周面1aに圧接することにより外釜5は下軸1と一体となって回転することができる。
【0007】
前記外釜本体10は、前記基部6より大径の基板11と、この基板11の先端側に連設されたほぼ円筒形の外周壁12によって構成され、この外周壁12の外周面12aには比較的薄肉のフック部材13が図示しないねじにより被着されている。さらに、前記外釜5の外周壁12の円周面には円環状のガイド溝14が形成されている。
【0008】
前記外釜5の内部空所15内には、この外釜5に対して相対的に回転可能な内釜16が配設されている。この内釜16は、全体的にほぼ円筒形に形成されており、この内釜16の外周面16aには、外釜5のガイド溝14内にはめ込み、かつ相対的に円周方向に摺動しうるほぼ円環状のガイド突起17が糸の抜ける部位を除いて周設されている。また、前記内釜16の基端部には、その直線方向に設ける支持板18が一体に取り付けられ、この支持板18の長手方向の中央部には内釜16の軸方向に延在する支持ピン19を同一軸上に設けている。この支持ピン19には、下糸を巻回した図示しないボビンが装着されるようになっている。
【0009】
前記外釜5の外釜本体10の基板11には、前記中心孔7に連通し中心孔7より大径の円形凹部20が形成されており、この円形凹部20には、前記外釜5内にある第2潤滑油通路21が連通している。この第2潤滑油通路21はほぼ放射方向に延びるように基板11に形成され、円形凹部20に連通されている放射方向通路22と、この放射方向通路22の外端に連通され、かつ基板11から外周壁12にかけてほぼ軸方向に延びるように形成されている軸方向の通路23により構成されている。
【0010】
軸方向通路23の先端は、前記ガイド溝14の近傍にまで到達しており、この部位の前記外周壁12内には、ガイド溝14および軸方向通路23にそれぞれ連通する円形の濾過室24が形成されている。なお、この濾過室24は外周壁12の外周面12aに開放され、図示しないふたによりおおわれている。そして、濾過室24内には、フェルト等からなる繊維を不織布のように固めている濾過部材が収納されている。
【0011】
一方、下軸1の先端部には、油量を制限するための油量制限部材26が装着され、この油量制限部材26は実際に油量を制限する油量制限部材本体26Aと、この油量制限部材本体26Aを保持する保持スリ−ブ27により構成している。この保持スリ−ブ27は、下軸1の第1潤滑油通路4をなす内周面に形成された図示しないねじ部にねじ込まれるねじ部を外周面に形成されたスリ−ブ本体28と、このスリ−ブ本体28に連設され第1潤滑油通路4より径の大きいフランジ29により構成され、このフランジ29にはスリ−ブ本体28の内側と円形凹部20とを連通する連通孔30が形成されている。スリ−ブ本体28の内側には連通孔30と連通し、連通孔30側が半径の小さい円錐台形に形成された凹部31が形成されている。そして、スリ−ブ本体28内に装着される油量制限部材本体26Aは、多孔質の焼結体によりなり、スリ−ブ本体28の内径とほぼ等しい円柱状に構成されている。
【0012】
以上のように述べた全回転釜構造において、以下の作用が得られる。
すなわち、下軸1が外釜5とともに高速回転し、図示しない針により縫製が行われている間、下軸2の第1潤滑油通路4内に図示しないポンプにより潤滑油が高圧で供給されるようになっている。この全回転釜構造を除く他の高速摺動部分は通常多量かつ高圧の潤滑油を供給する必要があるが、この全回転釜構造では、このまま高圧の潤滑油がそのまま外釜5のガイド溝14から噴射されると縫製中の布などを潤滑油で汚してしまうことになる。そこで、第1潤滑油通路4内には油量制限部材26を設けており、この油量制限部材26の油量制限部材本体26Aを潤滑油が通過する際の油量制限部材本体26Aの抵抗により、油量制限部材本体26Aを通過する潤滑油はその油圧ならびに油量が減少する。そして、高速回転している外釜本体10の放射方向通路22を通過する際に遠心力によりある程度の潤滑油の加速が行われ、外釜5のガイド溝14からは適量の潤滑油が内釜16のガイド突起17に供給される。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、従来から潤滑油をポンプから第1潤滑油通路4へ供給する機構は、第6図の示すように、メタル2内に上流側を図示しないポンプに連通した潤滑油供給路32と、前記潤滑油供給路32の下流側分岐の一方を第1潤滑油通路4内に連通し、他方をその先端を図示しない油溜りと連通するドレン通路33とを形成し、このドレン通路33の開口面積を調節し得る調節ねじ34をメタル2に進退可能に設けていた。
【0014】
そして、調節ねじ34を回すことによりドレン通路33の開口面積を調節し、第1潤滑油通路4に供給される油量、油圧を間接的に調節するようにした。
そこで、ミシンを高速回転で運転する際には、下軸1の高速回転による遠心力に抗して潤滑油供給路32から矢印で示すように潤滑油を第1潤滑油通路4へ供給する必要があるため、ポンプからかなり高圧で潤滑油を潤滑油供給通路32を介して第1潤滑油通路4へ供給していた。
【0015】
しかしながら、ポンプの油圧を上げると、第1潤滑油通路4内の潤滑油の供給量も増大する。ここで、第1潤滑油通路4内の油量制限部材26の潤滑油の流通方向における上流側端面26aは流通方向に対し直交する円形の平面に形成されているため、油量制限部材26の上流側端面26aの形状は潤滑油の流れにあまり影響を与えることなく、潤滑油は油量制限部材26の油量制限部材本体26Aを容易に通過して外釜5の第2潤滑油通路21方向へ流れるため、外釜5のガイド溝14から供給される油量は多量となり、縫製する布を汚したりするおそれがある。このため、ポンプの回転数の変動による潤滑油の供給量の調節は微妙で、調節範囲も狭く、調節しにくかった。
【0016】
この発明は、従来の油量制限部材における上記の問題点を解決し、供給する潤滑油の調節範囲を広くして潤滑油の供給量の調節を行いやすくしたミシンの油量調節制限部材を提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
この発明は前記課題を解決するために、
潤滑油の流れる方向における上流側端に角部を形成する上流側端面を有し潤滑油を通過する油量制限部材本体と、
該油量制限部材本体の一部を保持すると共に端部に外釜を支持し回転駆動され下軸内の潤滑油通路を充塞するように配設される保持スリーブとを備えるミシンの油量制限部材において、
前記油量制限部材本体が、基部とは径の異なる部分を有し、前記角部に加えて、前記保持スリーブより上流側の部分と前記上流側端面との間に少なくとも1個以上の角部を設けた形状としたミシンの油量制限部材を採用した。
【0018】
【作用】
この発明の構成によって、油量制限部材本体の回転により該油量制限部材本体の保持スリーブより上流側の部分に設けられた角部に集まる潤滑油が下軸の潤滑油通路内で円盤状に噴出するため、油量制限部材本体内の外周付近を流れる潤滑油の流れに抵抗を与えるので、給油量に制限を与え、かつ油量制限部材本体内の回転増加にともなう遠心力増大により給油量の増加を削減する。
【0019】
【実施例】
以下、この発明を図面に示す実施例により説明する。第1図乃至第2図はこの発明の第一実施例を示す図であり、下軸1の先端部には、油量を制限するための油量制限部材26が装着され、この油量制限部材26は実際に油量を制限する油量制限部材本体26Aと、この油量制限部材本体26Aを保持する保持スリ−ブ27により構成している。この保持スリ−ブ27は、下軸1の第1潤滑油通路4をなす内周面に形成された図示しないねじ部にねじ込まれるねじ部を外周面に形成されている。そして、スリ−ブ内に装着される油量制限部材本体26Aは、多孔質の焼結体によりなり、スリ−ブの内径とほぼ等しい円柱状に構成されている。また、この実施例では、油量制限部材26の油量制限部材本体26Aは、前記保持スリーブ27より上流側の部分に基部よりも径の大きい大径部26Bを設け該油量制限部材本体26Aの保持スリーブ27より上流側の部分に角部26bが形成されると共に該油量制限部材本体26Aの上流側端では潤滑油の流通方向に対して上流側端面26aが垂直に交わり、且つ円形平面状に形成されている。尚、この油量制限部材本体26Aは多孔質の焼結体によってできている。
【0020】
つぎに、この第一実施例の構成により次のような作用を得る。すなわち、第1潤滑油通路4内における潤滑油の流れは、油量が少ない場合は遠心力により、第2図の矢印xで示すように、第1潤滑油通路4の外側のみを流れる。これに対して回転数が増加し油量が多くなると第2図のyで示すように第1潤滑油通路4の中心軸にやや近い部分も流れるようになり、かつ多孔質の焼結体の孔を通して潤滑油の流通方向下流側に流れる。一方、油量制限部材本体26Aの中に入った潤滑油は遠心力により一部が外周方向に流れるが、その場合潤滑油の表面張力により角部26bに集まり多量の潤滑油を多く含む状態となり、加えて遠心力により大径部26Bの角部26bより第1潤滑油通路の外周方向に向かって潤滑油が飛散することになる。この結果、第1潤滑油通路4において、飛散する潤滑油によって潤滑油の流れが抵抗力を受け、潤滑油の流れが層流である場合より油量制限部材本体26Aを通過する油量が減少する。従って、外釜と内釜のレ−ス面に供給する潤滑油の油量の調節範囲を広くして潤滑油の供給量の調節を行いやすくすることが出来る。
【0021】
また、第1潤滑油通路4内における潤滑油の流れは図示しない潤滑油ポンプの回転数が増加すると多量に供給され、ほぼ比例関係にある。ところで、通常の工業用ミシンではこの潤滑油ポンプは図示しないミシンモ−タによって駆動されているので、下軸の回転数とこの潤滑油ポンプの回転数がほぼ等しい。従って下軸の回転数にほぼ比例して潤滑油量が増加する。
【0022】
他方、前述の円盤状に噴出する潤滑油は下軸の回転に基づく遠心力によって生じる。従って下軸の回転数の2乗にほぼ比例して潤滑油量が増加する。従って、下軸の回転数が増加すると、急激に前述の円盤状に噴出する潤滑油が強力となり、第1潤滑油通路4内の外周側に近い潤滑油の流れを急激に抑え、外釜と内釜のレ−ス面に供給する潤滑油の量の増加を小さくする。このため、潤滑油の供給量の適量ねじ位置の変化が小さい。
【0023】
第3図(A)はこの第一実施例の油量制限部材26と従来の油量制限部材26において潤滑油の油量を調節するためにドレン通路を開閉する調節ねじの許容回転範囲を示すものである。すなわち、油量制限部材26の油量制限部材本体26Aが従来例のように円筒状である場合は、調節ねじの許容回転範囲は、回転数5000SPMのとき約0.4回転、回転数が3000SPMのときに約1.1回転と調節ねじの許容回転範囲は狭い。これに対して、第一実施例の調節ねじの許容回転範囲は、回転数5000SPMのとき約0.9回転、回転数が3000SPMのときに約1.9回転と調節ネジの許容回転範囲は従来の場合と比較して広くなっている。従って潤滑油の油量調節が行いやすくなる。
【0024】
また第3図(B)は第一実施例と従来の調節ねじの適量回転位置を示すものである。すなわち、従来例の場合は、調節ねじの適量ねじ位置は、回転数が5000SPMのとき約4.4回転、回転数が3000SPMのときに約2.3回転と調節ねじの適量ねじ位置は大幅に変化する。これに対して、第一実施例の調節ねじの適量ねじ位置は、回転数5000SPMのとき約3.6回転、回転数3000SPMのとき約2.5回転と調節ねじ位置が従来例と比較して変化が小さくなっている。従って、潤滑油の供給量の適量ねじ位置の変化が小さい。
【0025】
第4図はこの発明の他の実施例を示す図である。
(A)は第一実施例の大径部26Bを円錐台状にした第二実施例である。
(B)は第一実施例に示したような大径部26Bを、円弧状に切り取った第三実施例を示す。この図(B)のX−X’部分の断面図を図(C)に示す。このように基部より大きい径の部分が約1/4ずつ2個が相対している。
【0026】
(D)は第一実施例の大径部26Bを、第二実施例とは逆に基部の径より小さくしている第四実施例を示す。
(E)は第一実施例の大径部26Bの一部を基部の径よりも小さくしている第五実施例を示す。
以上のような4個の他の実施例についても同様に、多く設けられた角部に潤滑油が集まり第一実施例と同様な作用を得る。
【0027】
【発明の効果】
この発明により、以下の効果が得られる。
(1)釜油量調節において、最適油量を得ることができる油量調節ねじの回転範
囲が広くなる。
(2)釜油量調節において、ミシン回転数が増加しても外釜に給油する油量の変
化が小さくでき、かつポンプにより他の機構への潤滑を確実にできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の第一実施例を示す略図である。
【図2】第1図の実施例において潤滑油の流れの状態を示す断面図である。
【図3】第一実施例と従来のものにおける調節ねじの許容回転範囲と適量ねじ位置を示す図である。
【図4】この発明の他の実施例を示す略図である。
【図5】一般的なミシンの全回転釜構造を示す断面図である。
【図6】第4図の全回転釜構造における潤滑油の油量調節構造を示す断面図である。
【符号の説明】
1 下軸
2 メタル
4 第1潤滑油通路
5 外釜
16 内釜
21 第2潤滑油通路
26 油量制限部材
26A 油量制限部材本体
26a 上流側端面
32 潤滑油供給路
33 ドレン通路
34 調節ねじ

Claims (1)

  1. 潤滑油の流れる方向における上流側端に角部を形成する上流側端面を有し潤滑油を通過する油量制限部材本体と、
    該油量制限部材本体の一部を保持すると共に端部に外釜を支持し回転駆動され下軸内の潤滑油通路を充塞するように配設される保持スリーブとを備えるミシンの油量制限部材において、
    前記油量制限部材本体が、基部とは径の異なる部分を有し、前記角部に加えて、前記保持スリーブより上流側の部分と前記上流側端面との間に少なくとも1個以上の角部を設けた形状であることを特徴とするミシンの油量制限部材。
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