JP3990207B2 - 石炭ガス化排水の処理方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、石炭ガス化排水の処理方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、石炭ガス化工程において発生するガス洗浄排水中に含まれるCOD起因物質を、効率よく除去することができる石炭ガス化排水の処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
石炭は、化石燃料の中で最も埋蔵量に富み、将来は火力発電用燃料の主力になると言われている。限られた化石燃料を有効に利用するために、従来型の火力発電に比べて効率の高いガスタービン発電と蒸気タービン発電を併用する石炭ガス化複合発電が注目されている。
石炭ガス化複合発電は、石炭を部分酸化することにより、一酸化炭素と水素を主成分とするガス燃料に変換する石炭ガス化炉、その生成ガスから煤塵、硫黄分などを除去するガス精製装置、その精製ガスを燃料とするガスタービン複合サイクル発電プラントを組み合わせた発電方式である。ガスタービン本体は、液化天然ガス焚きのガスタービンと同じものがそのまま使えることが石炭ガスに求められている。
図1は、石炭ガス化複合発電の一例の工程系統図である。本例においては、微粉炭搬送装置1から微粉炭が気流により搬送され、酸素とともに石炭ガス化炉2に送り込まれる。微粉炭は1,500〜1,800℃、2〜3MPaで部分酸化され、生成した一酸化炭素と水素を主成分とするガスは炉頂からシンガスクーラ3に送られる。発生したスラグは、炉底から排出される。ガスは、ダストフィルタ4を通過して煤塵が除去されたのち、水洗塔5において水により洗浄される。水洗塔で発生する排水は、排水処理装置6に送られる。水洗されたガスは、COS転換器7を経て脱硫塔8へ送られ、硫黄分が除去される。精製されたガスはガスタービン9に送られ、燃焼してタービンを駆動する。ガスタービンの排気は、排熱回収ボイラ10ヘ送られ、排熱が回収されて発生する蒸気により蒸気タービン11が駆動される。
水洗塔において発生する排水には、シアンやその他のCOD起因物質が含まれるので、COD起因物質を除去する必要がある。水洗塔の排水に含まれるCOD起因物質は、溶解状態で存在しているために、凝集沈澱や凝集加圧浮上処理などでは除去が困難である。次亜塩素酸ソーダなどの酸化剤による処理では効率が悪く、COD起因物質の除去率は最大でも50%程度である。また、処理水に酸化剤が残留するために、後処理により残留する酸化剤を除去する必要が生ずる。水洗塔の排水に含まれるCOD起因物質は、活性炭にも極めて吸着されにくく、10〜20%程度の除去率にしか達しないために、実用的な処理法とは言えない。特開平5−115887号公報には、硫黄の見かけの酸化数が+6未満の無機硫黄化合物を含有する廃水の簡便な処理方法として、350℃以下の温度かつ廃水が液相を保持する圧力下で、分子状酸素により湿式酸化する方法が提案されている。しかし、この方法は高温、高圧で処理するために、設備費が高価で運転管理が複雑であり、経済的な方法とは言えず、特に石炭ガス化排水のようにCOD起因物質の濃度が低い排水の処理には適していない。
このために、石炭ガス化工程において、水洗塔で発生する排水を処理し、含まれるCOD起因物質を効率的に除去することができる石炭ガス化排水の処理方法が求められていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、石炭ガス化工程において発生するガス洗浄排水中に含まれるCOD起因物質を、効率よく除去することができる石炭ガス化排水の処理方法を提供することを目的としてなされたものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、石炭ガス化排水中に含まれるCOD起因物質は、シアンの他、チオ硫酸イオン(S23 2-)、チオシアン酸イオン(SCN-)、フェロシアン酸イオン(Fe(CN)6 4-)などであり、かつ、これらのイオンは、酸化剤の存在下で紫外線を照射することにより、容易に酸化分解されることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)石炭の部分酸化により得られたガスを洗浄した際に生ずる石炭ガス化排水を凝集沈澱処理して懸濁物質を除去した後、懸濁物質を除去した石炭ガス化排水のpHを3〜6に調整して、酸化剤の存在下で行う紫外線照射を2槽の紫外線処理槽で処理する方法であって、1槽目で酸素ガス又は空気で曝気しつつ紫外線照射し、2槽目で過酸化水素を添加して紫外線照射することを特徴とする石炭ガス化排水の処理方法、
を提供するものである。
さらに、本発明の好ましい態様として、
(2)紫外線を照射したのち、pH7以上に調整して曝気する第1項記載の石炭ガス化排水の処理方法、
を挙げることができる。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明の石炭ガス化排水の処理方法においては、石炭の部分酸化により得られたガスを洗浄した際に生ずる石炭ガス化排水に、酸化剤の存在下で紫外線を照射する。石炭ガス化排水に、酸化剤の存在下で紫外線を照射することにより、排水中のCOD起因物質を酸化分解して除去し、排水のCOD値を低下させることができる。
本発明方法の実施に先立って、石炭ガス化排水中に含まれる懸濁物質を除去することが好ましい。石炭ガス化排水は、通常黒色の微細な懸濁物質を含有するので、懸濁物質を除去することにより、紫外線の透過率を高め、効率的にCOD起因物質を分解することができる。懸濁物質の除去方法に特に制限はなく、例えば、凝集沈殿処理及びろ過により、懸濁物質を除去することができる。凝集沈殿処理に用いる凝集剤としては、例えば、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩化第二鉄、硫酸第一鉄などの無機凝集剤、ポリジメチルジアリルアンモニウムクロライド、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウムなどの高分子凝集剤などを挙げることができる。ろ過方法に特に制限はなく、例えば、重力ろ過法、真空ろ過法、加圧ろ過法、遠心分離法などを挙げることができる。
本発明方法に用いる酸化剤に特に制限はなく、例えば、塩素ガス、次亜塩素酸ナトリウム、臭素酸カリウムなどのハロゲン化合物、亜硝酸、硝酸、二酸化窒素などの窒素化合物、過酸化水素、酸素ガス、オゾンなどの酸素化合物、過酢酸、過安息香酸などのペルオキシ酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸カリウムなどのペルオキソ酸などを挙げることができる。これらの中で、過酸化水素、酸素ガス及び酸素ガスが含まれる空気を好適に用いることができる。過酸化水素は、酸化力が強く、COD起因物質を効果的に酸化分解し、紫外線照射によって速やかに酸素ガスと水に分解するので、処理水中に不純物が残存せず、また、残留する過酸化水素を簡単に分析することができるので、過酸化水素の処理水中への残存を防ぐことができる。酸素ガスは、酸化力が強く、COD起因物質を効果的に酸化分解し、処理水中に不純物が残存しない。空気は、製造装置や貯留タンクなどを必要とせず、簡便に使用することができ、処理水中に不純物が残存しない。
【0006】
本発明方法に使用する紫外線発生装置に特に制限はなく、例えば、低圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、ルビーレーザー、YAGレーザー、エキシマレーザー、色素レーザーなどを挙げることができる。これらの中で、波長200〜300nmの遠紫外線を発生する低圧水銀ランプを好適に用いることができる。石炭ガス化排水に紫外線を照射する方法に特に制限はなく、例えば、紫外線照射槽を設けて石炭ガス化排水に紫外線ランプを浸漬して紫外線を照射することができ、あるいは、濡れ壁塔の内壁に沿って石炭ガス化排水を流下させ、濡れ壁塔の中央に設置した紫外線ランプにより紫外線を照射することもできる。
本発明方法において、酸化剤として過酸化水素を用いる場合は、紫外線照射槽へ過酸化水素を添加することができ、あるいは、紫外線照射槽の原水配管に過酸化水素を注入することもできる。酸化剤として酸素ガス、空気などを用いる場合には、散気装置を用いて、紫外線照射槽の下部から酸素ガス、空気などを供給することができる。本発明方法においては、過酸化水素、酸素ガス、空気などの酸化剤の1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。例えば、紫外線照射槽を2槽設け、1槽目で酸素ガス又は空気で曝気しつつ紫外線を照射したのち、2槽目において過酸化水素を添加して紫外線を照射することにより、処理水の水質を高めることができる。
本発明方法において、石炭ガス化排水のpHに特に制限はないが、石炭ガス化排水のpHを7以下に硫酸などで調整して紫外線照射することが好ましく、pHを3〜6に調整して紫外線照射することがより好ましい。石炭ガス化排水のpHを7以下に調整して紫外線照射することにより、COD起因物質の分解速度を速めて、COD値の低い処理水を得ることができる。石炭ガス化排水にはアンモニアが含まれるので、pH3〜6で紫外線を照射したのち、水酸化ナトリウムなどでpH7以上に調整し、水蒸気や空気で曝気して、未反応のアンモニアを除去することが好ましい。さらに、曝気排気ガス中のアンモニアを硫酸などで吸収することが好ましい。本発明方法において、紫外線を照射する際の温度に特に制限はなく、石炭ガス化排水の温度を制御する必要はない。
【0007】
図2は、本発明方法の実施の一態様の工程系統図である。原水を凝集沈澱槽12に導き、無機凝集剤と高分子凝集剤を添加して、懸濁物質の凝集沈殿処理を行ったのち、ろ過器13においてろ過する。次いで、pH調整槽14において、ろ過水にpH調整剤を添加してpHを3〜6に調整する。pHを酸性側に調整したろ過水を紫外線照射槽15に導き、過酸化水素を添加し、紫外線を照射することにより、COD起因物質を酸化分解して処理水を得る。
図3は、本発明方法の実施の他の態様の工程系統図である。原水を凝集沈澱槽12に導き、無機凝結剤と高分子凝集剤を添加して、懸濁物質の凝集沈殿処理を行ったのち、ろ過器13においてろ過する。次いで、pH調整槽14において、ろ過水にpH調整剤を添加してpHを3〜6に調整する。pHを酸性側に調整したろ過水を紫外線照射槽16に導き、酸素ガス又は空気で曝気しつつ、紫外線を照射することにより、COD起因物質を酸化分解する。COD起因物質が酸化分解された水のpHを、pH調整槽17でアルカリ剤を添加して7以上の調整する。pHを7以上に調整した水を、曝気塔18において、水蒸気又は空気で曝気することにより、残存するアンモニアを揮散させて処理水を得る。
本発明方法によれば、石炭ガス化排水中に含まれるCOD起因物質を90%以上除去することができる。本発明方法は、常温、常圧で実施することができるので、通常の材質で装置を製作することができ、運転管理も容易なので、低コストで石炭ガス化排水を処理することができる。石炭ガス化排水の主なCOD起因物質は、シアン、チオ硫酸イオン(S23 2-)、チオシアン酸イオン(SCN-)、フェロシアン酸イオン(Fe(CN)6 4-)などであり、これらはすべて溶解状態で存在している。酸化剤の添加又は紫外線の照射を単独に行った場合には、これらの物質の分解速度は遅いが、酸化剤の存在下に紫外線を照射することにより、酸化剤と紫外線のエネルギーがこれらの物質に相乗的に作用して、効果的に酸化分解が進行すると推定される。
【0008】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
なお、実施例においては、石炭ガス化パイロットプラントの水洗塔排水に、硫酸バンド2,000mg/Lを添加し、凝集沈殿処理により懸濁物質を除去した水を供試水とした。供試水のCODMnは180mgO/Lであり、TOCは39mgC/Lであり、pHは6.9であった。CODMnは、JIS K 0102 17.にしたがって測定し、TOCは、JIS K 0102 22.2にしたがって測定した。
実施例1
供試水への過酸化水素の添加量と、CODMn及びTOCの低下の状態の関係を調べた。
供試水各1.5Lを容量2Lのビーカー7個に入れ、1個のビーカーには過酸化水素水を添加せず、他の6個のビーカーには、過酸化水素の濃度がそれぞれ200mg/L、400mg/L、800mg/L、1,600mg/L、2,000mg/L、4,000mg/Lになるように過酸化水素水を添加して均一に混合した。次いで、ビーカーの中央部に出力450Wの低圧水銀ランプを浸漬し、室温で120分間紫外線を照射し、紫外線照射後の供試水のCODMnとTOCを測定した。結果を、図4に示す。
図4に見られるように、過酸化水素添加量2,000mg/L程度まで、CODMnは急速に低下し、それ以上はほぼ横ばいとなる。一方、TOCは約50%が除去される。
実施例2
供試水のpHと、CODMnの低下の状態の関係を調べた。
硫酸を加えてpH4.6に調整した供試水、pH6.9の供試水及び水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH9.0に調整した供試水に、過酸化水素の濃度が2,000mg/Lになるようにそれぞれ過酸化水素水を添加し、実施例1と同様にして、紫外線を120分照射したのちの供試水のCODMnを測定した。結果を、図5に示す。
図5に見られるように、pHが7以下であると、CODMnの低下の程度が大きい。
実施例3
供試水を酸素ガスで曝気し、紫外線照射時間と、CODMnの低下の状態の関係を調べた。
硫酸を加えてpH5.0に調整した供試水、pH6.9の供試水及び水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH9.0に調整した供試水各1.5Lを、底部にガラスろ過板つき散気管を備えた容量2Lのビーカーに入れ、酸素ガス1NL/minで曝気しながら、実施例1と同様にして紫外線を照射し、紫外線照射時間0分、15分、30分、60分、90分、120分及び180分のときに供試水をサンプリングしてCODMnを測定した。結果を、図6に示す。
図6に見られるように、酸素ガスで曝気しつつ紫外線を照射することにより、供試水のCODMnは低下する。また、供試水のpHが低いほど、CODMnの低下の程度が大きい。pH5.0に調整した供試水は、60分の紫外線照射によりCODMnが6mgO/Lまで低下している。
実施例4
供試水を空気で曝気し、紫外線照射時間と、CODMnの低下の状態の関係を調べた。
硫酸を加えてpH5.0に調整した供試水、pH6.9の供試水及び水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH9.0に調整した供試水各1.5Lを、底部にガラスろ過板つき散気管を備えた容量2Lのビーカーに入れ、空気1NL/minで曝気しながら、実施例1と同様にして紫外線を照射し、紫外線照射時間0分、15分、30分、60分、90分、120分及び180分のときに供試水をサンプリングしてCODMnを測定した。結果を、図7に示す。
図7に見られるように、空気で曝気しつつ紫外線を照射することにより、酸素ガスで曝気する場合よりもやや遅いが、供試水のCODMnは低下する。また、供試水のpHが低いほどCODMnの低下の程度が大きい。pH5.0に調整した供試水は、120分の紫外線照射によりCODMnが10mgO/Lまで低下している。
実施例1〜4の結果から、過酸化水素を添加し、あるいは、酸素ガス又は空気で曝気しつつ、紫外線を照射することにより、石炭ガス化排水中のCOD起因物質を効果的に酸化分解して除去し得ることが分かる。
【0009】
【発明の効果】
本発明方法によれば、石炭ガス化工程において発生するガス洗浄排水中に含まれるCOD起因物質を酸化分解して、効率よく除去することができる。COD起因物質の除去率は容易に90%以上に達し、常温、常圧での処理が可能であるために、通常の材質で装置を製作することができ、設備費と運転管理費を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、石炭ガス化複合発電の一例の工程系統図である。
【図2】図2は、本発明方法の実施の一態様の工程系統図である。
【図3】図3は、本発明方法の実施の他の態様の工程系統図である。
【図4】図4は、過酸化水素添加量とCOD及びTOCの関係を示すグラフである。
【図5】図5は、pHとCODの関係を示すグラフである。
【図6】図6は、紫外線照射時間とCODの関係を示すグラフである。
【図7】図7は、紫外線照射時間とCODの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 微粉炭搬送装置
2 石炭ガス化炉
3 シンガスクーラ
4 ダストフィルタ
5 水洗塔
6 排水処理装置
7 COS転換器
8 脱硫塔
9 ガスタービン
10 排熱回収ボイラ
11 蒸気タービン
12 凝集沈澱槽
13 ろ過器
14 pH調整槽
15 紫外線照射槽
16 紫外線照射槽
17 pH調整槽
18 曝気塔

Claims (1)

  1. 石炭の部分酸化により得られたガスを洗浄した際に生ずる石炭ガス化排水を凝集沈澱処理して懸濁物質を除去した後、懸濁物質を除去した石炭ガス化排水のpHを3〜6に調整して、酸化剤の存在下で行う紫外線照射を2槽の紫外線処理槽で処理する方法であって、1槽目で酸素ガス又は空気で曝気しつつ紫外線照射し、2槽目で過酸化水素を添加して紫外線照射することを特徴とする石炭ガス化排水の処理方法。
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