JP3985366B2 - センサ装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、センシング用ブリッジ回路からの検出信号を、そのセンシング用ブリッジ回路の温度特性に応じて補正した状態で信号処理することにより物理量を検出するようにしたセンサ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、半導体チップ上に作り込まれる圧力センサ装置の一例として、以下のような構成のものが考えられている。即ち、この圧力センサ装置は、ピエゾ抵抗係数が大きな半導体より成るセンサチップ上に、被検出圧力に応じた電圧値の検出信号を発生する圧力検出用ブリッジ回路と、このブリッジ回路の温度に応じた電圧値の温度信号を発生する温度検出用ブリッジ回路とが拡散抵抗を利用して形成され、また、上記センサチップ若しくはこれと異なる半導体チップ上に、上記圧力検出用ブリッジ回路に作用する圧力及びそのブリッジ回路の温度と無関係に一定の電圧値となる基準信号を発生する基準電圧発生回路が拡散抵抗を利用して形成される。さらに、前記検出信号、温度信号及び基準信号を選択的に出力するアナログマルチプレクサと、このアナログマルチプレクサから順次出力される信号を増幅する差動増幅回路と、この差動増幅回路により増幅された前記検出信号、温度信号及び基準信号をデジタルデータに変換するA/D変換回路と、このA/D変換回路からのデジタルデータに基づいた演算処理により前記検出信号に応じた圧力検出値を前記温度信号及び基準信号により補正しながら算出する補正演算回路とが設けられる。
【0003】
このような構成により、検出信号、温度信号及び基準信号をアナログマルチプレクサを通じて時分割処理すると共に、それらの信号に対応した複数種類のデジタルデータを同一の差動増幅回路及びA/D変換回路を用いて採取し、斯様に採取したデジタルデータに基づいたデジタル的な補正演算により、感度やオフセットなどに対する温度補償を施した精度の高い圧力検出値を得るようにしている。この場合、最終的にデジタルデータに変換される検出信号、温度信号及び基準信号は、全て同じアナログ回路(アナログマルチプレクサ、差動増幅回路、A/D変換回路)を通過する構成であるから、その信号伝送系統での回路定数の変動に起因した各信号のドリフト成分が互いにキャンセルされることになり、結果的に、圧力検出値の精度を長期間に渡って良好な状態に維持できるようになる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような圧力センサ装置内の差動増幅回路は、オペアンプを利用して構成されるのが一般的である。ところが、理想オペアンプにあっては、差動入力電圧が同じであれば常に同じ出力電圧が得られるのに対して、実際のオペアンプにあっては、入力電位レベルの高低に応じてオフセット値などの温度特性が異なるという特性があるため、差動入力電圧が同じであっても入力電位レベルが相違する場合には出力電圧が変化するという事情が存在する。このため、前記圧力センサ装置においては、検出信号、温度信号及び基準信号の増幅に同一の差動増幅回路を利用することによって、当該差動増幅回路の温度特性などに起因した信号レベルの変動をキャンセルする構成としているにも拘らず、それら各信号の電位レベルが異なる場合には、上述した特性に起因した出力電圧の変動分をキャンセルできなくなる。従って、このような場合には、補正演算回路において、検出信号に応じた圧力検出値を温度信号及び基準信号により補正する際に、その補正が不正確になることが避けられず、結果的に感度やオフセットに対する温度補償が不十分になって、検出誤差が拡大するという問題点があった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、被検出物理量を示す検出信号の増幅及びその検出信号を温度補償するための温度信号の増幅に同一のオペアンプを利用する構成とすることにより物理量の検出精度の向上を図る場合に、最終的に得られる物理量検出値の誤差を十分に小さくできるようになるセンサ装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために請求項1に記載した手段を採用することができる。この手段によれば、センシング用ブリッジ回路から被検出物理量に応じた電圧値の検出信号が出力されると共に、温度検出用ブリッジ回路から上記センシング用ブリッジ回路の温度に応じた電圧値の温度信号が出力される。アナログマルチプレクサは、センシング用ブリッジ回路からの検出信号、温度検出用ブリッジからの温度信号を選択的に通過させるようになり、その通過信号が、オペアンプにより構成された差動増幅回路によって増幅されて出力されるようになる。このように、検出信号及び温度信号が同じ差動増幅回路により増幅される構成であるから、その差動増幅回路の回路定数の変動に起因した各信号のドリフト成分を互いにキャンセルできることになり、結果的に、当該差動増幅回路からの出力信号に基づいて得られる物理量検出値の精度を長期間に渡って良好な状態に維持できるようになる。また、アナログマルチプレクサが設けられているから、多数のオペアンプを必要としないものであり、以て全体の小型化を実現できるようになる。しかも、比較的大きな面積を占有することになる差動増幅回路を、検出信号及び温度信号の増幅用に兼用する構成となっているから、多数の差動増幅回路を設ける必要がなくなって、この面からも全体の小型化を実現できるようになる。
【0007】
この場合、抵抗素子を組み合わせて構成されたセンシング用ブリッジ回路及び温度検出用ブリッジ回路にあっては、それらの少なくとも一方に設けられたトリミング用抵抗によって、それぞれから出力される検出信号及び温度信号の電位レベルが互いに等しくなる状態に調整することができる。このように調整された状態では、前記差動増幅回路を構成するオペアンプの特性、具体的には、入力電位レベルの高低に応じて温度特性が異なるという特性が存在するという状況下にあっても、その特性が差動増幅回路からの出力電圧に悪影響を及ぼす事態を未然に防止できるようになり、結果的に最終的に得られる物理量検出値の誤差を十分に小さくできるようになる。
【0008】
アナログマルチプレクサは、センシング用ブリッジ回路からの検出信号及び温度検出用ブリッジ回路からの温度信号の他に、基準電圧発生回路からの基準信号を選択的に通過させるようになり、その通過信号が差動増幅回路によって増幅されて出力されるようになる。この場合、信号処理手段は、上記差動増幅回路により増幅された前記検出信号、温度信号及び基準信号に基づいた演算処理により当該検出信号に対応した物理量検出値を上記温度信号及び基準信号により補正した状態で算出するようになる。つまり、検出信号、温度信号及び基準信号をアナログマルチプレクサを通じて時分割処理すると共に、それらの信号を同一の差動増幅回路を通じて増幅し、斯様に増幅した信号に基づいた補正演算により、感度などに対する温度補償を施した精度の高い物理量検出値を得るようにしている。
【0009】
この場合、センシング用ブリッジ回路及び温度検出用ブリッジ回路の双方にトリミング用抵抗が設けられているから、それらトリミング抵抗によって、各ブリッジ回路から出力される検出信号及び温度信号の電位レベルを前記基準信号と等しくなる状態に調整することができる。このように調整された状態では、前記差動増幅回路を構成するオペアンプの特性、具体的には、入力電位レベルの高低に応じて温度特性が異なるという特性が存在するという状況下にあっても、その特性が差動増幅回路からの出力電圧に悪影響を及ぼす事態を未然に防止できるようになり、結果的に、信号処理手段での演算処理により算出される物理量検出値の誤差を十分に小さくできるようになる。
【0010】
請求項2記載の発明によれば、アナログマルチプレクサを選択的に通過した後に差動増幅回路により増幅された検出信号、温度信号及び基準信号がA/D変換回路によりデジタルデータに変換されると共に、信号処理手段が当該デジタルデータに基づいたデジタル演算処理を行うことにより、前記検出信号に応じた物理量検出値を前記温度信号及び基準信号により補正した状態で算出するようになる。つまり、検出信号、温度信号及び基準信号をアナログマルチプレクサを通じて時分割処理すると共に、それらの信号に対応した複数種類のデジタルデータを同一の差動増幅回路及びA/D変換回路を用いて採取し、斯様に採取したデジタルデータなどに基づいた補正演算(デジタル演算)により、感度などに対する温度補償を施した精度の高い物理量検出値を得るようにしている。このように、信号処理手段での演算をデジタル的に行う構成によれば、センサ感度に対し安定した温度補償機能が得られるようになる。
【0011】
請求項3記載の手段によれば、センシング用ブリッジ回路からの検出信号、温度検出用ブリッジ回路からの温度信号、基準電圧発生回路からの基準信号を、A/D変換回路内のリングゲート遅延回路に電源電圧として与えると、当該A/D変換回路は、このように電源電圧が与えられた各状態でリングゲート遅延回路にパルス信号が入力されたときのパルス信号周回数に基づいて上記検出信号、温度信号及び基準信号をデジタルデータに変換するようになる。
【0012】
このようなリングゲート遅延回路を利用したA/D変換回路にあっては、変換速度の大幅な向上を実現できるという利点があるため、物理量検出値の算出のために必要な時間の大幅な短縮を実現できるようになる。
請求項4記載の手段によれば、差動増幅回路は、増幅出力電圧を持ち上げるための定電圧電源を有して構成されている。
請求項5〜7記載の手段によれば、上述したセンサ装置の調整方法であって、基準信号の電位レベルを測定し、この測定結果を記憶する工程の後、検出信号の電位レベルを測定しながらセンシング用ブリッジ回路に設けられたトリミング用抵抗のレーザトリミングを開始し、検出信号の測定電位レベルが前記測定結果と所定の許容誤差範囲内まで近くなった時点でレーザトリミングを終了する工程、並びに温度信号の電位レベルを測定しながらセンシング用ブリッジ回路に設けられたトリミング用抵抗のレーザトリミングを開始し、温度信号の測定電位レベルが前記測定結果と所定の許容誤差範囲内まで近くなった時点でレーザトリミングを終了する工程を行うことを特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を半導体圧力センサ装置に適用した一実施例について図面を参照しながら説明する。
全体の電気的構成を示す図1において、本実施例による半導体圧力センサ装置は、圧力検出用のセンサ部1と、このセンサ部1からの出力を処理するための信号処理部2とを備えた構成となっており、これらセンサ部1及び信号処理部2は、異なる半導体チップ上に分離した状態で形成されている。
【0014】
センサ部1は、ピエゾ抵抗係数が大きな半導体チップ(例えばシリコン単結晶基板)を利用して形成されたもので、圧力検出用ブリッジ回路3(本発明でいうセンシング用ブリッジ回路に相当)と、この圧力検出用ブリッジ回路3の温度を検出するための温度検出用ブリッジ回路4とにより構成されている。
【0015】
これらのうち、圧力検出用ブリッジ回路3は、基本的には、半導体チップに設けたダイヤフラム上に拡散抵抗により形成した抵抗素子Rd1、Rd2、Rd3、Rd4をフルブリッジ接続して構成されるものであるが、本実施例では、上記半導体チップ上に薄膜抵抗により形成されたトリミング抵抗Rw1及びRw2を当該フルブリッジ回路中に挿入した構成となっている。
【0016】
具体的には、一対の入力端子P1及びP2間に、抵抗素子Rd1、Rd2及びトリミング抵抗Rw1の直列回路、並びに抵抗素子Rd3、Rd4及びトリミング抵抗Rw2の直列回路を接続した状態となっており、抵抗素子Rd1、Rd2の共通接続点が出力端子Q1、抵抗素子Rd3、Rd4の共通接続点が出力端子Q2となるように構成される。この場合、圧力検出用ブリッジ回路3においては、印加圧力の増大に応じて各抵抗素子Rd1、Rd2、Rd3、Rd4の抵抗値が図1に矢印で示す態様(上向きの矢印は抵抗値が増加することを示し、下向きの矢印は抵抗値が減少することを示す)で変化する構成となっている。また、圧力検出用ブリッジ回路3の入力端子P1は定電圧電源端子+Vccに接続され、入力端子P2はグランド端子に接続されている。
【0017】
従って、圧力検出用ブリッジ回路3の一方の出力端子Q1の電位は印加圧力の増大に応じて上昇し、他方の出力端子Q2の電位は印加圧力の増大に応じて低下するものであり、出力端子Q1及びQ2間からは、印加圧力に応じた電圧値の検出信号Sdが出力されることになる。また、この検出信号Sdの電位レベルは、トリミング抵抗Rw1及びRw2の抵抗値を変化させることにより調整できることになる。尚、上記検出信号Sdは、圧力検出用ブリッジ回路3の温度にも依存して変動するものであり、斯様な温度ドリフト除去用のデータを得るために前記温度検出用ブリッジ回路4が設けられている。
【0018】
この温度検出用ブリッジ回路4は、基本的には、拡散抵抗(温度係数は1500〜1700ppm/℃程度)により形成された感温抵抗素子Rt1、Rt2と、温度係数が零に近い材料である例えばCrSiにより形成された抵抗素子Rc1、Rc2とをフルブリッジ接続して構成されるものであるが、本実施例では、半導体チップ上に薄膜抵抗により形成されたトリミング抵抗Rw3及びRw4を当該フルブリッジ回路中に挿入した構成となっている。
【0019】
具体的には、一対の入力端子P3及びP4間に、抵抗素子Rc1、感温抵抗素子Rt1及びトリミング抵抗Rw3の直列回路、並びに感温抵抗素子Rt2、抵抗素子Rc2及びトリミング抵抗Rw4の直列回路を接続した状態となっており、抵抗素子Rc1及び感温抵抗素子Rt1の共通接続点が出力端子Q3、感温抵抗素子Rt2及び抵抗素子Rc2の共通接続点が出力端子Q4となるように構成される。また、温度検出用ブリッジ回路4の入力端子P3は定電圧電源端子+Vccに接続され、入力端子P4はグランド端子に接続されている。
【0020】
従って、温度検出用ブリッジ回路4の一方の出力端子Q3の電位は検出温度の上昇に応じて上昇し、他方の出力端子Q4の電位は検出温度の低下に応じて低下するものであり、出力端子Q3及びQ4間からは、圧力検出用ブリッジ回路3の温度に応じた電圧値の温度信号Stが出力されることになる。また、この温度信号Stの電位レベルは、トリミング抵抗Rw3及びRw4の抵抗値を変化させることにより調整できることになる。
【0021】
一方、前記信号処理部2は、半導体チップ上に以下に述べるような各回路要素を形成した構成となっている。
基準電圧発生回路5は、拡散抵抗により形成した抵抗素子Ra1及びRa2を備えたもので、それら抵抗素子Ra1及びRa2の直列回路を定電圧電源端子+Vcc及びグランド端子間に接続した構成となっている。この場合、抵抗素子Ra1及びRa2の温度係数は厳密に一致するものであり、従って、基準電圧発生回路5の出力端子Q5(抵抗素子Ra1及びRa2の共通接続点)からは、前記圧力検出用ブリッジ回路3に作用する圧力(被検出圧力)及び当該圧力検出用ブリッジ回路3の温度と無関係に一定の電圧値となる基準信号Saが出力されることになる。尚、この基準電圧発生回路5は、前記センサ部1側の半導体チップ上に形成することも可能である。
【0022】
アナログマルチプレクサ6は、上記圧力検出用ブリッジ回路3からの検出信号Sd、温度検出用ブリッジ回路4からの温度信号St、基準電圧発生回路5からの基準信号Saを、後述する制御ブロック7から与えられるセレクト信号に基づいて選択出力するためのものである。
【0023】
高入力インピーダンス差動増幅回路8は、CMOSオペアンプ8a、8b及び抵抗8c、8d、8eを組み合わせて成る周知構成のもので、前記アナログマルチプレクサ6から順次出力される信号を増幅してA/D変換回路9に与えるようになっている。この場合、差動増幅回路8には、その増幅出力電圧を持ち上げるための定電圧電源8f及び抵抗8gが付随して設けられている。尚、差動増幅回路8の電源は、前記定電圧電源端子+Vccから与えられるようになっている。
【0024】
上記A/D変換回路9は、基本的には特開平5−259907号公報に記載されたA/D変換回路と同様構成のものであり、詳細には図示しないが、反転動作時間が電源電圧に応じて変化するNANDゲート10a(本発明でいう反転回路に相当)と、同じく反転動作時間が電源電圧に応じて変化する偶数個のインバータ10b(本発明でいう反転回路に相当)とをリング状に連結して成るリングゲート遅延回路10(以下の説明では、リングゲート遅延回路をRGD(Ring Gate Delay )と略称する)、このRGD10内でのパルス信号の周回数をカウントするための周回数カウンタ11、この周回数カウンタ11の計数値を上位ビットとし、且つRGD10内の各インバータ10bの出力を下位ビットとして格納するためのスタックメモリ12などを含んで構成されている。
【0025】
このような構成のA/D変換回路9による変換原理の大略は以下の通りである。即ち、RGD10内のNANDゲート10aに対し、図2に示すようなパルス信号PAを与えると、NANDゲート10a及び各インバータ10bがその電源電圧に応じた速度で逐次的に反転動作を開始して、そのパルス信号PAの入力期間中は信号周回動作が継続して行われるものであり、斯様なパルス信号周回数を示す二進数のデジタルデータが、スタックメモリ12に対しリアルタイムで与えられることになる。この後、図2に示すように、一定のサンプリング周期Δt(例えば〜100μ秒)を得るためのパルス信号PBの立上がり毎にスタックメモリ12をラッチすれば、そのスタックメモリ12内の各ラッチデータの差に基づいて、インバータ10bに与えられている電源電圧を二進数のデジタルデータに変換した値が得られるようになる。
【0026】
この場合、RGD10内のNANDゲート10a及びインバータ10bには、前記差動増幅回路8から電源電圧が与えられる構成となっている。従って、A/D変換回路9にあっては、差動増幅回路8からの出力信号、つまり、アナログマルチプレクサ6を通じて選択出力される検出信号Sd、温度信号St及び基準信号Saをデジタルデータに変換することになる。
【0027】
尚、以下においては、A/D変換回路9による変換データのうち、検出信号Sdに対応したデジタルデータを圧力情報D、温度信号Stに対応したデジタルデータを温度情報T、基準信号Saに対応したデジタルデータを基準情報Aと呼ぶことにする。
【0028】
ここで、圧力情報Dと圧力検出用ブリッジ回路3に対する印加圧力Pとの間には次式▲1▼のような関係がある。
D={(ct+d)×P+et+f}×β(t) ……▲1▼
但し、t:圧力検出用ブリッジ回路3の温度
c:圧力検出用ブリッジ回路3の感度の温度係数
d:圧力検出用ブリッジ回路3の室温感度
e:圧力検出値のオフセットの温度係数
f:圧力検出値の室温オフセット値
また、β(t)は、差動増幅回路8の温度特性やRGD10の遅延時間の温度特性などに依存した非線形項であり、これが圧力検出値の精度劣化の要因となるものである。
【0029】
上記▲1▼式からPの解を得るためには、tが必要であり、また、非線形の係数であるβ(t)を除去する必要がある。このため、温度検出用ブリッジ回路4を通じて温度情報Tを得ると共に、基準電圧発生回路5を通じて基準情報Aを得るようにしている。
【0030】
この場合、温度情報Tと圧力検出用ブリッジ回路3の温度tとの間には次式▲2▼のような関係が存在するものである。
T=(at+b)×β(t) ……▲2▼
但し、a:温度検出値の温度係数
b:温度検出値の室温オフセット値
【0031】
また、基準情報Aは、圧力検出用ブリッジ回路3に作用する圧力及び温度と無関係に一定の電圧値となる基準信号Saを、差動増幅回路8により増幅し且つA/D変換回路9によりデジタル変換したデータであるから、次式▲3▼が成立することになる。
A=β(t) ……▲3▼
【0032】
従って、▲1▼、▲2▼、▲3▼式から、非線形項β(t)が削除された状態の次式▲6▼が得られる。
T/A=at+b ……▲4▼
D/A=(ct+d)×P+et+f ……▲5▼
【0033】
上記▲4▼、▲5▼の式を用いてPについて解くと次式▲6▼が得られる。
EPROM13には、▲6▼式に基づいた圧力Pの演算に必要な係数a、b、c、d、e、fが補正係数として予め記憶されている。
【0034】
補正演算回路14(本発明でいう信号処理手段に相当)は、前記▲6▼式を利用した圧力Pの演算を、制御ブロック7からの指令を受けて行うものであり、その演算時には、スタックメモリ12から読み出した圧力情報D、温度情報T及び基準情報A、並びにEPROM13から読み出した補正係数(a、b、c、d、e、f)を使用する構成となっている。そして、この補正演算回路14による演算結果は、センサ部1による検出圧力を示す圧力データとしてI/Oブロック15から出力される。
【0035】
さて、図3には、制御ブロック7による制御内容が概略的に示されており、以下これについて関連した作用と共に説明する。
即ち、制御ブロック7は、まず、アナログマルチプレクサ6に対して、基準電圧発生回路5からの基準信号Saを選択するためのセレクト信号を出力する(ステップS1)。すると、差動増幅回路8から上記基準信号Saを増幅した電圧信号が出力されるようになり、この電圧信号がA/D変換回路9内のRGD10に対しA/D変換対象信号として印加されるようになる。
【0036】
この後、制御ブロック7は、パルス信号PA及びPBの出力制御ルーチンS2を実行する。このルーチンS2では、図2に示す時刻t1〜t2の期間中においてパルス信号PAを出力すると共に、その時刻t1後においてパルス信号PBを図2に示すようなタイミング(具体的には、時刻t1〜t2の期間において4回立ち上がる状態)で出力する。
【0037】
これにより、パルス信号PAの出力期間中において、RGD10内で信号周回動作が継続して行われると共に、パルス信号PBの立上がり毎にスタックメモリ12がラッチされるものであり、そのラッチデータの差(例えば3回目の立ち上がりと4回目の立ち上がりにおける各ラッチデータの差)に基づいて、差動増幅回路8からの電圧信号(基準信号Saを増幅した電圧信号)に応じたデジタルデータが基準情報Aとして得られるようになる。
【0038】
制御ブロック7は、上記出力制御ルーチンS2の実行に応じて基準情報Aを取り込んだ後には、アナログマルチプレクサ6に対して、基準電圧発生回路5からの温度信号Stを選択するためのセレクト信号を出力する(ステップS3)。すると、差動増幅回路8から上記温度信号Stを増幅した電圧信号が出力されるようになり、この電圧信号が、A/D変換回路9内のRGD10に対しA/D変換対象信号として印加されるようになる。
【0039】
この後、制御ブロック7は、パルス信号PA及びPBの出力制御ルーチンS4を実行する。このルーチンS4では、図2に示す時刻t3〜t4の期間中においてパルス信号PAを出力すると共に、その時刻t3後においてパルス信号PBを図2に示すようなタイミングで出力する。
【0040】
これにより、パルス信号PAの出力期間中において、RGD10内で信号周回動作が継続して行われると共に、パルス信号PBの立上がり毎にスタックメモリ12がラッチされるものであり、そのラッチデータの差に基づいて、差動増幅回路8からの電圧信号(温度信号Stを増幅した電圧信号)に応じたデジタルデータが温度情報Tとして得られるようになる。
【0041】
制御ブロック7は、上記出力制御ルーチンS4の実行に応じて温度情報Tを取り込んだ後には、アナログマルチプレクサ6に対して、基準電圧発生回路5からの検出信号Sdを選択するためのセレクト信号を出力する(ステップS5)。すると、差動増幅回路8から上記検出信号Sdを増幅した電圧信号が出力されるようになり、この電圧信号が、A/D変換回路9内のRGD10に対しA/D変換対象信号として印加されるようになる。
【0042】
この後、制御ブロック7は、パルス信号PA及びPBの出力制御ルーチンS6を実行する。このルーチンS6では、図2に示す時刻t5〜t6の期間中においてパルス信号PAを出力すると共に、その時刻t5後においてパルス信号PBを図2に示すようなタイミングで出力する。
【0043】
これにより、パルス信号PAの出力期間中において、RGD10内で信号周回動作が継続して行われると共に、パルス信号PBの立上がり毎にスタックメモリ12がラッチされるものであり、そのラッチデータの差に基づいて、差動増幅回路8からの電圧信号(検出信号Sdを増幅した電圧信号)に応じたデジタルデータが圧力情報Dとして得られるようになる。
【0044】
尚、本実施例の場合、上述した出力制御ルーチンS2、S4、S6の実行時において、スタックメモリ12からラッチデータの差に基づいたデジタルデータを3回取り込むことができるから、それらを平均化した値をデジタルデータ(基準情報A、温度情報T及び圧力情報D)として得る構成とすることもできる。
【0045】
制御ブロック7は、上記出力制御ルーチンS6の実行後には、補正演算回路14に対して演算指令を出力する(ステップS7)。すると、補正演算回路14にあっては、スタックメモリ12から読み出した圧力情報D、温度情報T及び基準情報A、並びにEPROM13から読み出した補正係数(a、b、c、d、e、f)を使用して、前記▲6▼式の演算を行うものであり、その演算結果を、センサ部1による検出圧力を示す圧力データとしてI/Oブロック15から出力するようになる。
【0046】
この後、制御ブロック7は、所定の待機時間が経過するまで待機し(ステップS8)、当該待機時間が経過したときにステップS1へ戻るようになる。従って、一連の圧力検出動作(S1〜S7)は、上記待機時間が経過する毎に周期的に行われることになる。
【0047】
しかして、上記構成の半導体圧力センサ装置においては、その製造途中の段階(例えば、センサ部1のための半導体チップがウェハ状態にある段階、或いは当該半導体チップをウェハから切り出した後の段階)にて、トリミング抵抗Rw1〜Rw4をレーザトリミングすることによって、圧力検出用ブリッジ回路3からの検出信号Sdの電位レベル並びに温度検出用ブリッジ回路4からの温度信号Stの電位レベルを調整する工程が行われるようになっている。具体的には、上記検出信号Sd及び温度信号Stの各電位レベルが、基準電圧発生回路5からの基準信号Saの電位レベルと等しくなるようにトリミング抵抗Rw1〜Rw4をレーザトリミングするものである。このレーザトリミングの手順は以下の通りである。
【0048】
即ち、まず、基準信号Saの電位レベルを測定し、その測定結果をレーザトリミング装置に記憶する。その後、例えば検出信号Sdの電位レベルを測定しながらトリミング抵抗Rw1、Rw2のレーザトリミングを開始し、その検出信号Sdの測定電位レベルが上記記憶電位レベルと等しくなった時点で当該レーザトリミングを終了する。さらに、この後に、温度信号Stの電位レベルを測定しながらトリミング抵抗Rw3、Rw4のレーザトリミングを開始し、その温度信号Stの測定電位レベルが前記記憶電位レベルと等しくなった時点で当該レーザトリミングを終了する。尚、レーザトリミングの順序は逆でも良い。また、上記のようなレーザトリミングを行った場合には、検出信号Sd及び温度信号Stの電位レベルが上昇することになるから、センサ部1を形成する半導体チップのパターンレイアウト時において、上記検出信号Sd及び温度信号Stの電位レベルが基準信号Saの電位レベルより小さくなるように設計する必要がある。
【0049】
要するに上記した本実施例によれば、検出信号Sd、温度信号St及び基準信号Saをアナログマルチプレクサ6を通じて時分割処理すると共に、それらの信号Sd、St及びSaに対応した各デジタルデータ(圧力情報D、温度情報T、基準情報A)を同一の差動増幅回路8及びA/D変換回路9を用いて採取し、斯様に採取したデジタルデータを利用した▲6▼式の補正演算(デジタル演算)を行う構成としており、これによって、感度やオフセットなどに対する温度補償を施した精度の高い圧力検出値を得ることができるものである。
【0050】
この場合、本実施例では、▲6▼式の演算に供するために最終的に圧力情報D、温度情報T及び基準情報Aに変換される検出信号Sd、温度信号St及び基準信号Saは、全て同じアナログ回路(アナログマルチプレクサ6、差動増幅回路8、A/D変換回路9)を通過する構成であるから、その信号伝送系統での回路定数の変動に起因した各信号のドリフト成分が互いにキャンセルされることになって、上記T/A及びD/Aが経時変化することがなくなる。この結果、最終的に得られる圧力検出値の精度を長期間に渡って良好な状態に維持できるようになる。
【0051】
本実施例の大きな特徴は、圧力検出用ブリッジ回路3及び温度検出用ブリッジ回路4に設けたトリミング抵抗Rw1〜Rw4をレーザトリミングすることによって、それらブリッジ回路3及び4からの検出信号Sd及び温度信号Stの電位レベルと、基準電圧発生回路5からの基準信号Saの電位レベルとが等しくなるように調整した構成にある。即ち、このような調整状態では、差動増幅回路8を構成するオペアンプ8a、8bの特性、具体的には、オペアンプ8a、8bにおいては、図4に一例を示すように、入力電位レベルの高低に応じてオフセット値の温度特性が異なるという特性があるが、このような特性が存在する状況下であっても、その特性が差動増幅回路8からの出力電圧(検出信号Sd、温度信号St、基準信号Saを増幅した電圧)に悪影響を及ぼす事態を未然に防止できるようになり、結果的に、その出力電圧をデジタルデータに変換した後に行われる補正演算回路14での演算処理により算出される圧力検出値の誤差を十分に小さくできるようになる。
【0052】
尚、上記検出信号Sd、温度信号St及び基準信号Saの各電位レベルは厳密に一致させる必要はなく、例えば図4の縦軸において、温度特性の曲がりに1目盛り分程度の誤差が許容される場合には、その許容誤差範囲内に収まる電位レベルに設定すれば良いものである。
【0053】
また、本実施例においては、アナログマルチプレクサ6が設けられているから、多数のオペアンプを必要としないものであり、以て全体の小型化を実現できるようになる。しかも、比較的大きな面積を占有することになる差動増幅回路8を、検出信号Sd、温度信号St及び基準信号Saの増幅用に兼用する構成となっているから、多数の差動増幅回路を設ける必要がなくなって、この面からも全体の小型化を実現できるようになる。
【0054】
さらに、本実施例のように、RGD10を利用したA/D変換回路9にあっては、変換速度の大幅な向上(つまりサンプリング時間の大幅な短縮)を実現できるという利点があるため、圧力検出値の算出に必要な時間を短縮できるようになる。
【0055】
尚、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、次のような変形または拡張が可能である。
半導体圧力センサ装置に適用した例を説明したが、加速度、磁束、湿度などの他の物理量を検出するためのセンサ装置に広く適用することができる。A/D変換回路9内のRGD10は、基本的な構成例を示したものであり、これと異なる構成のRGDを設けることもできる。感度やオフセットに対する温度補償をアナログ的な補正演算により行うようにしたセンサ装置にも適用範囲を広げることができる。基準電圧発生回路5からの基準電圧Saの電位レベルを調整するためのトリミング抵抗を設ける構成としても良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示す全体の電気的構成図
【図2】作用説明用のタイミングチャート
【図3】制御ブロックによる制御内容を示すフローチャート
【図4】オペアンプの温度特性例を示す図
【符号の説明】
1はセンサ部、2は信号処理部、3は圧力検出用ブリッジ回路(センシング用ブリッジ回路)、Rd1、Rd2、Rd3、Rd4は抵抗素子、4は温度検出用ブリッジ回路、Rt1、Rt2は感温抵抗素子、Rc1、Rc2は抵抗素子、Rw1、Rw2、Rw3、Rw4はトリミング抵抗、5は基準電圧発生回路、6はアナログマルチプレクサ、7は制御ブロック、8は差動増幅回路、8a、8bはオペアンプ、9はA/D変換回路、10はリングゲート遅延回路、10aはNANDゲート(反転回路)、10bはインバータ(反転回路)、11は周回数カウンタ、12はスタックメモリ、13はEPROM(記憶手段)、14は補正演算回路(信号処理手段)を示す。
Claims (7)
- 抵抗素子を組み合わせて構成され被検出物理量に応じた電圧値の検出信号を発生するセンシング用ブリッジ回路と、
抵抗素子を組み合わせて構成され前記センシング用ブリッジ回路の温度に応じた電圧値の温度信号を発生する温度検出用ブリッジ回路と、
前記被検出物理量及び前記センシング用ブリッジ回路の温度と無関係に一定の電圧値となる基準信号を出力する基準電圧発生回路と、
前記検出信号、温度信号及び基準信号を選択的に出力するアナログマルチプレクサと、
オペアンプにより構成され前記アナログマルチプレクサから順次出力される信号を増幅する差動増幅回路と、
前記センシング用ブリッジ回路及び温度検出用ブリッジ回路の双方に設けられ、各ブリッジ回路から出力される前記検出信号及び温度信号の電位レベルを前記基準信号の電位レベルと等しくなる状態に調整可能なトリミング用抵抗と、
前記差動増幅回路により増幅された前記検出信号、温度信号及び基準信号に基づいた演算処理により当該検出信号に対応した物理量検出値を前記温度信号及び基準信号により補正した状態で算出する信号処理手段とを備えたことを特徴とするセンサ装置。 - 前記差動増幅回路により増幅された前記検出信号、温度信号及び基準信号をデジタルデータに変換するA/D変換回路を備え、
前記信号処理手段は、前記A/D変換回路からのデジタルデータに基づいたデジタル演算処理により前記検出信号に対応した物理量検出値を前記温度信号及び基準信号により補正した状態で算出するように構成されていることを特徴とする請求項1記載のセンサ装置。 - 前記A/D変換回路は、反転動作時間が電源電圧に応じて変化する複数個の反転回路をリング状に連結して成るリングゲート遅延回路を含んで成り、前記検出信号、温度信号及び基準信号が前記リングゲート遅延回路に電源電圧として与えられた各状態で当該リングゲート遅延回路にパルス信号が入力されたときのパルス信号周回数に基づいて前記検出信号、温度信号及び基準信号をデジタルデータに変換する構成のものであることを特徴とする請求項2記載のセンサ装置。
- 前記差動増幅回路は、増幅出力電圧を持ち上げるための定電圧電源を有して構成されていることを特徴とする請求項3記載のセンサ装置。
- 抵抗素子を組み合わせて構成され被検出物理量に応じた電圧値の検出信号を発生するセンシング用ブリッジ回路と、
抵抗素子を組み合わせて構成され前記センシング用ブリッジ回路の温度に応じた電圧値の温度信号を発生する温度検出用ブリッジ回路と、
前記被検出物理量及び前記センシング用ブリッジ回路の温度と無関係に一定の電圧値となる基準信号を出力する基準電圧発生回路と、
前記検出信号、温度信号及び基準信号を選択的に出力するアナログマルチプレクサと、
オペアンプにより構成され前記アナログマルチプレクサから順次出力される信号を増幅する差動増幅回路と、
前記差動増幅回路により増幅された前記検出信号、温度信号及び基準信号に基づいた演算処理により当該検出信号に対応した物理量検出値を上記温度信号及び基準信号により補正した状態で算出する信号処理手段とを備えたセンサ装置の調整方法であって、
前記基準信号の電位レベルを測定し、当該測定結果を記憶する工程の後、
前記検出信号の電位レベルを測定しながら前記センシング用ブリッジ回路に設けられたトリミング用抵抗のレーザトリミングを開始し、前記検出信号の測定電位レベルが前記測定結果と所定の許容誤差範囲内まで近くなった時点で当該レーザトリミングを終了する工程と、
前記温度信号の電位レベルを測定しながら前記センシング用ブリッジ回路に設けられたトリミング用抵抗のレーザトリミングを開始し、前記温度信号の測定電位レベルが前記測定結果と所定の許容誤差範囲内まで近くなった時点で当該レーザトリミングを終了する工 程とを行うことを特徴とするセンサ装置の調整方法。 - 前記センサ装置には、反転動作時間が電源電圧に応じて変化する複数個の反転回路をリング状に連結して成るリングゲート遅延回路を含んで成り、前記差動増幅回路により増幅された前記検出信号、温度信号及び基準信号が前記リングゲート遅延回路に電源電圧として与えられた各状態で当該リングゲート遅延回路にパルス信号が入力されたときのパルス信号周回数に基づいて前記検出信号、温度信号及び基準信号をデジタルデータに変換するA/D変換回路が備えられ、
前記信号処理手段は、前記A/D変換回路からのデジタルデータに基づいたデジタル演算処理により前記検出信号に対応した物理量検出値を前記温度信号及び基準信号により補正した状態で算出することを特徴とする請求項5記載のセンサ装置の調整方法。 - 前記差動増幅回路は、増幅出力電圧を持ち上げるための定電圧電源を有していることを特徴とする請求項6記載のセンサ装置の調整方法。
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