JP3979679B2 - プロモーター機能を有するdna断片 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明はコリネ型細菌染色体由来のプロモーター機能を有するDNA断片に関する。
コリネ型細菌は、グルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノ酸や、イノシン酸等のプリンヌクレオチドを生産する際に用いられる工業的に重要なグラム陽性細菌であるが、組換えDNA技術の導入による菌株の育種改良は大腸菌(Escherichia coli)に比べて遅れており、遺伝的改良に利用可能な工業的に有用なベクター、特にその構成要素として用いるプロモーター、例えば強力な遺伝子発現機能を有するプロモーターや遺伝子発現の制御が可能なプロモーター等の開発が強く望まれている。
【0002】
【従来の技術】
コリネ型細菌内で機能するプロモーターの改良に関する研究については、大腸菌由来のプロモーターを用いた例が報告されているのみである[Journal of Biotechnology, 5, 305(1987); Gene, 102, 93(1991)]。それによると、大腸菌由来のtrpプロモーターとlacプロモーターを融合させたtacプロモーター[Gene, 20, 231(1982)]がコリネ型細菌内で構成的(constitutive)に最も強い機能を有するプロモーターとして記載されている。しかしながら、本願発明者等の知るかぎり、コリネ型細菌内でtacプロモーターよりも強い機能を有するプロモーターは現在のところ開発されていない。
【0003】
また、コリネ型細菌で人為的に有用遺伝子の発現を制御する方法については、大腸菌由来の制御可能なプロモーターをそのままコリネ型細菌に適用した例がある[Bio/Technology, 6, 428(1988)]。しかし、該発現制御法は大腸菌を宿主とした場合に比べて遺伝子産物の蓄積量が少なく十分に強力な発現方法とは言い難い。
従って、コリネ型細菌内で有用遺伝子を効率よく発現させるためには、コリネ型細菌内で種々の機能、例えば、強力な発現機能を有するプロモーターあるいは培地の組成条件を変えることにより発現制御可能な機能を有するプロモーターを新たに取得する必要がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、コリネ型細菌内で有用遺伝子を高効率に発現させうるプロモーター機能を有するDNA断片、即ち大腸菌由来のtacプロモーターより強い機能を持つプロモーターDNAをコリネ型細菌染色体から見いだすこと、およびコリネ型細菌内で有用遺伝子の発現を人為的に制御可能なプロモーターDNAをコリネ型細菌染色体から見いだすことにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本願発明者等は、上記目的を達成するために鋭意検討の結果、本願発明者等が新たに構築したプロモーター検出用ベクター(promoter probe shuttle vector)、即ち、
a)大腸菌(Escherichia coli)内で機能するプラスミド複製増殖DNA領域、
b)コリネ型細菌内で機能するプラスミド複製増殖DNA領域、
c)プラスミドマーカー遺伝子(selectable marker gene)を含むDNA領域、
d)レポーター遺伝子(reporter gene)を含むDNA領域(それ自身のプロモーター領域が欠如している上記c)プラスミドマーカー遺伝子と異る表現型を示す遺伝子を含むDNA領域)、
e)上記d)レポーター遺伝子(reporter gene)を含むDNA領域の上流に位置する転写終結因子、
の5つのDNA領域を有するプロモーター検出用ベクターを用いれば、上記した特性を有するプロモーターDNA断片をコリネ型細菌から検出可能なことを見い出し本発明を完成するに至った。
【0006】
かくして、本発明によれば、
(1)コリネ型細菌染色体から得られるコリネ型細菌内でプロモーター機能を有するDNA断片であって、コリネ型細菌内でtacプロモーターよりも強いプロモーター機能を有するDNA断片、
特に、 a)大腸菌内で機能するプラスミド複製増殖DNA領域、
b)コリネ型細菌内で機能するプラスミド複製増殖DNA領域、
c)プラスミドマーカー遺伝子を含むDNA領域、
d)レポーター遺伝子を含むDNA領域(それ自身のプロモーター領域が欠如している上記c)プラスミドマーカー遺伝子と異る表現型を示す遺伝子を含むDNA領域)、
e)上記d)レポーター遺伝子を含むDNA領域の上流に位置する転写終結因子、
の5つのDNA領域を有するプロモータ検出用ベクターを用いてコリネ型細菌染色体から得られるコリネ型細菌内でプロモーター機能を有するDNA断片であって、コリネ型細菌内でtacプロモータよりも強いプロモータ機能を有するDNA断片;
DNA断片を下記の5つのDNA領域を有するプロモーター検出用ベクターに連結させた後、電気パルス法でブレビバクテリウム・フラバムMJ−233株に形質転換したときに、得られた形質転換株が、tacプロモータを連結した該プロモータ検出ベクターを電気パルス法によりブレビバクテリウム・フラバムMJ−233株に形質転換したものよりも強いカナマイシン耐性を付与するプロモーター機能を有する該DNA断片:
a)大腸菌内で機能するプラスミド複製増殖DNA領域、
b)コリネ型細菌内で機能するプラスミド複製増殖DNA領域、
c)プラスミドマーカー遺伝子を含むDNA領域、
d)レポーター遺伝子としてカナマイシン耐性遺伝子を含むDNA領域(それ自身のプロモーター領域が欠如している上記c)プラスミドマーカー遺伝子と異る表現型を示す遺伝子を含むDNA領域)、
e)上記d)レポーター遺伝子を含むDNA領域の上流に位置する転写終結因子;
配列番号:1〜配列番号:12で示される塩基配列及び配列番号:1〜配列番号で示される塩基配列に対して1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列より成る群から選ばれる少くとも1つの塩基配列からなるコリネ型細菌内でtacプロモーターよりも強いプロモーター機能を有するDNA断片、
(2)コリネ型細菌染色体から得られるコリネ型細菌内でプロモーター機能を有するDNA断片であって、宿主コリネ型細菌が利用可能な培地中の少くとも1つの物質を宿主コリネ型細菌が利用可能な少くとも1つの他の物質に変更することにより、該DNA断片の有するプロモーター機能が制御可能なDNA断片が提供される。
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0007】
本明細書において、いくつかの術語を用いるが、ここで用いるときそれらの術語は次の意味を有する。
「プロモーター」とは、遺伝子の転写を開始するためにRNAポリメラーゼが特異的に結合するDNA上の領域のことを言う。
「tacプロモーター」とは、大腸菌(Escherichia coli)のトリプトファン・オペロン・プロモーター(tryptophan operon promoter)の−35領域の配列とラクトース・オペロン・プロモーター(lactose operon promoter)の−10領域の配列を融合させたプロモーターを言う。
「プロモーター機能を有するDNA断片」とは、天然に存在する染色体DNAから得られるDNA断片または人工的に合成されたDNA断片であり、該DNA断片は遺伝子の転写を開始する機能を有し、すなわち遺伝子の転写能力を有しており、該DNA断片中に上記プロモーターが含まれていると推定されるDNA断片を意味する。
【0008】
「tacプロモーターよりも強いプロモーター機能を有するDNA断片」とは、上記プロモーター機能を有するDNA断片であって、遺伝子の転写能力がtacプロモーターの転写能力よりも強い転写能力を有するDNA断片を意味する。「プロモーター機能が制御可能なDNA断片」とは、上記したプロモーター機能を有するDNA断片であって、該DNA断片を保有する宿主コリネ型細菌が利用可能な培地中の物質を変更することにより、該DNA断片の有する遺伝子の転写を開始する機能を自由に誘導しうる、すなわち抑制されていた該機能を解除・誘導することができ又は解除・誘導されていた該機能を抑制することができるDNA断片を意味するものである。
「コリネ型細菌(Coryneform bacteria)」とはバージーズ・マニュアル・オブ・デターミネイティブ・バクテリオロジー(Bargeys Manual of Determinative Bacteriology)第8版599頁(1974)に定義されている一群の微生物であり、好気性、グラム陽性、非抗酸性、胞子形成能を有しない桿菌を意味する。このようなコリネ型細菌のうち特に以下に述べるようなコリネ型細菌が本発明においてプロモーターDNAの遺伝子源あるいは宿主微生物として好ましいものである。
【0009】
ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス(Brevibacterium ammoniagenes)ATCC 6871
ブレビバクテリウム・ディバリカタム(Brevibacterium divaricatum)ATCC 14020
ブレビバクテリウム・サッカロリティカム(Brevibacterium saccharolyticum)ATCC 14066
ブレビバクテリウム・イマリオフィリカム(Brevibacterium immariophilium)ATCC 14068
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)ATCC 13869
ブレビバクテリウム・ロゼウム(Brevibacterium roseum)ATCC 13825
ブレビバクテリウム・リネンス(Brevibacterium linens)ATCC 9174
ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)ATCC 13826
ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)MJ−233(FERM BP-1497)
ブレビバクテリウム・スタチオニス(Brevibacterium stationis)IFO 12144 (FERM BP-2515)
ブレビバクテリウム・チオゲニタリス(Brevibacterium thiogenitalis)ATCC 19240
コリネバクテリウム・アセトアシドフィリウム(Corynebacterium acetoacidophilum)ATCC 13870
コリネバクテリウム・アセトグルタミカム(Corynebacterium acetoglutamicum)ATCC 15806
コリネバクテリウム・カルナ(Corynebacterium callunae)ATCC 15991
コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC 13032, ATCC 13060
コリネバクテリウム・リリウム(Corynebacterium lilium)ATCC 15990
コリネバクテリウム・メラセコラ(Corynebacterium melassecola)ATCC 17965
【0010】
また、これらのコリネ型細菌の培養は、それ自体既知の通常用いられるコリネ型細菌培養用の培地で培養し、培養物から菌体を取得することができる。
本願発明のプロモーター機能を有するDNA断片は、その塩基配列が決定された後においては合成することも可能であるが、通常は天然に存在する微生物染色体から得られる場合が多く、その供給源となる微生物としては、上記コリネ型細菌、殊にブレビバクテリウム・フラバムMJ−233(FERM BP-1497)が有利に使用される。
上記コリネ型細菌からプロモーター機能を有するDNA断片を単離する方法としては、まず染色体DNAを抽出し(例えば、Biochimica et Biophysica Acta., 72, 619(1963)の方法が使用できる)、これを適当な制限酵素で、染色体DNAを比較的短いDNA断片になるように切断する。そのためには、4塩基配列を認識する制限酵素例えば、AluI、HaeIII 、AccII、AfaI等を用い、単独あるいは数種類の組み合わせで切断することが好ましい。
【0011】
このようにして得られた染色体DNA切断物からプロモーター機能を有するDNA断片を単離するために、プロモーター検出用ベクターを用いて行うことができる。このプロモーター検出用ベクター(promoter probe shuttle vector)としては、下記(a)〜(e)の5つのDNA領域を有する本願発明者等が新たに構築したベクターが好ましい。
a)大腸菌(Escherichia coli)内で機能するプラスミド複製増殖DNA領域、
b)コリネ型細菌内で機能するプラスミド複製増殖DNA領域、
c)プラスミドマーカー遺伝子(selectable marker gene)を含むDNA領域、
d)レポーター遺伝子(reporter gene)を含むDNA領域、
e)上記d)レポーター遺伝子を含むDNA領域の上流に位置する転写終結因子。
【0012】
上記プロモータ検出用ベクターの構築に必要とされる、a)大腸菌内で機能するプラスミド複製増殖DNA領域(以下これを「a領域」と言うことがある)としては、大腸菌内でプラスミドの自律複製を司る機能を有するDNA断片であれば特に制限はないが、例えば、プラスミドpBR322(宝酒造社製)、プラスミドpACYC184(日本ジーン社製)等から得られるDNA断片等を用いることができる。
上記b)コリネ型細菌内で機能するプラスミド複製増殖DNA領域(以下これを「b領域」と言うことがある)としては、コリネ型細菌内でプラスミドの自律複製を司る機能を有するDNA断片であれば特に制限はないが、例えばプラスミドpCRY3[ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)MJ233 GE102(FERM BP-2513)が保有するプラスミド;米国特許第5,185,262号参照]、プラスミドpCRY2[ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)MJ233 GE101(FERM BP-2512)が保有するプラスミド;米国特許第5,185,262号]、プラスミドpAM330(特開昭58−67679号公報参照)、プラスミドpMH1519(特開昭58−77895号公報参照)等を用いることができる。
【0013】
上記c)プラスミドマーカー遺伝子(selectable marker gene)を含むDNA領域(以下これを「c領域」又は「マーカー遺伝子(marker gene)」と言うことがある)としては、プラスミドのマーカーとして用いることができ、かつ上記d)レポーター遺伝子(reporter gene)を含むDNA領域と異なる表現型を示す遺伝子を含むDNA断片であれば特に制限がなく、例えば、プラスミドpBR322の制限酵素BamHI、PvuII部位にトランスポゾン(Transposon)9[Nature, vol.293, pp.309-311(1981)参照]のクロラムフェニコール耐性遺伝子を含むサイズ(大きさ)が約3.0kbのBamHI−PvuII断片を挿入することにより構築されたプラスミドpJCM1を制限酵素BamHIで切り出すことによって得られるサイズ(大きさ)が1,300bpのクロラムフェニコール耐性遺伝子を含むDNA断片、プラスミドpCM7(ファルマシア社製)を制限酵素HindIIIで切り出すことによって得られる大きさが7876bpのクロラムフェニコール耐性遺伝子を含むDNA断片、大きさが792bpのクロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ・ジンブロック(Chloramphenicol Acetyltransferase GenBlock;ファルマシア社製)、プラスミドpBR322(宝酒造社製)を制限酵素EcoRIとAvaIで切り出すことによって得られるサイズ(大きさ)が1,426bpのテトラサイクリン耐性遺伝子を含むDNA断片等を用いることができる。
【0014】
上記d)レポーター遺伝子(reporter gene)を含むDNA領域(以下これを「d領域」又は「レポーター遺伝子(reporter gene)」と言うことがある)としては、プラスミドのマーカーとして用いることができ、かつそれ自身のプロモーターが欠如している遺伝子であって、上記c)のプラスミドマーカー遺伝子と異る表現型を示す遺伝子を含むDNA領域であれば特に制限がなく、例えば、プラスミドpBR322の制限酵素BamHI、SalI部位にトランスポゾン(Transposon)5[Molecular and General Genetics, vol.177, p.65(1979)参照]のNPTII(カナマイシン耐性遺伝子)を含むサイズ(大きさ)が約5.9kbのBamHI−SalI断片を挿入することにより構築されるプラスミドpKPG13を制限酵素BglIIとBamHIで切り出すことによって得られるサイズ(大きさ)が約1.6kbのカナマイシン耐性遺伝子を含むDNA断片、プラスミドpNEO(ファルマシア社製)を制限酵素HindIIIとBamHIで切り出すことによって得られるサイズ(大きさ)が1,494bpのカナマイシン耐性遺伝子を含むDNA断片、大きさが1282bpのカナマイシン・レジスタンス・ジンブロック(Kanamycin Resistance GenBlock;ファルマシア社製)、プラスミドpMC1871(ファルマシア社製)あるいはpSGMU32(ファルマシア社製)をそれぞれ制限酵素BamHIまたはSacIとSalIで切り出すことによって得られるサイズ(大きさ)がそれぞれ3,117bpあるいは約3.3kbのβ−ガラクトシダーゼ(β-galactosidase)遺伝子を含むDNA断片等を用いることができる。
【0015】
さらに、上記e)レポーター遺伝子(reporter gene)(d領域)の上流に位置する転写終結因子(transcriptional terminator)(以下これを「e領域」または「転写終結因子」と言うことがある)としては、次の塩基配列(配列番号:21):
5’AATTCTCGCGATAATTAATTAATAGCCCGCCTAATGAGCGGGCTTTTTTTTGATATCAATT 3'
3’TTAAGAGCGCTATTAATTAATTATCGGGCGGATTACTCGCCCGAAAAAAAACTATAGTTAA 5'
を有する大腸菌トリプトファンオペロンの転写終結因子であるtrpAターミネーターをDNA合成機で化学合成したものを用いることができる。
次に、上記a領域〜e領域の5つのDNA領域を有する本願発明のプロモーター機能を有するDNA断片の取得に用いるプロモーター検出用ベクターの構築方法を述べる。
【0016】
まず、a領域とc領域(以後、このマーカー遺伝子をプラスミド選択の指標として用いてプロモーター検出用ベクターを構築する)をDNAリガーゼで連結させてマーカー遺伝子を保有する大腸菌内で複製増殖可能なプラスミドを作成する。次に、このa領域とc領域を保有するプラスミドを適当な制限酵素で開裂し、そこに転写終結因子(e領域)をDNAリガーゼにより連結し、さらにe領域(レポーター遺伝子)を転写終結因子の下流に連結する。最後に、この転写終結因子の下流にレポーター遺伝子(d領域)が連結されたマーカー遺伝子(c領域)を保有し大腸菌内で複製増殖可能なプラスミドを適当な制限酵素で開裂し、b領域をDNAリガーゼで連結することにより、プロモーター検出用ベクターを構築することができる。
【0017】
かくして構築されるプロモーター検出用ベクターの具体例としては、
a)大腸菌内で機能するプラスミド複製増殖領域(プラスミドpBR322を制限酵素BstY1とPvuIIで切断して得られるサイズが1.1kbのDNA断片にプロモーターを結合したDNA断片)、
b)コリネ型細菌内で機能するプラスミド複製増殖領域(プラスミドpCRY3を制限酵素XhoIで切断して得られるサイズが4.0kbのDNA断片)、
c)クロラムフェニコール耐性遺伝子マーカー(プラスミドpJCM1を制限酵素BamHIで切断して得られるサイズが1.3kbのDNA断片)、
d)プロモーターが欠如しているカナマイシン耐性遺伝子(プラスミドpKPG13を制限酵素BglIIとBamHIで切断して得られるサイズが3.3kbのDNA断片)、
e)カナマイシン耐性遺伝子の上流に存在する転写終結因子trpAターミネーター(前記した61bpの合成DNA断片)、
より成るプラスミドpPROBE17、ならびに、
a)大腸菌内で機能するプラスミド複製増殖領域(上記pPROBE17と同一のDNA断片)、
b)コリネ型細菌内で機能するプラスミド複製増殖領域(上記pPROBE17と同一のDNA断片)、
c)クロラムフェニコール耐性遺伝子マーカー(上記pPROBE17と同一のDNA断片)、
d)プロモーターが欠如しているβ−ガラクトシターゼ遺伝子(プラスミドpSGMU22を制限酵素SacIとSalIで切断して得られるサイズが3.3kbのDNA断片)、
e)カナマイシン耐性遺伝子の上流に存在する転写終結因子trpAターミネーター(上記pPROBE17と同一のDNA断片)、
より成るプラスミドp17Bgalを挙げることができる。
【0018】
なお、図2および図3に示すプラスミドpPROBE17の構築方法の詳細については後記実施例1で述べる。またプラスミドp17Bgalの制限酵素切断点地図を図4に示す。
以上のようにして作成したプロモーター検出用ベクターを用いて、コリネ型細菌染色体から本願発明のプロモーター機能を有するDNA断片を単離する方法を述べる。
【0019】
上記プロモーター検出用ベクターを、それ自体既知の通常用いられる形質転換法、例えば電気パルス法[Agricultural and Biological chemistry., 54, 443(1990)参照]等でコリネ型細菌へ導入し、形質転換株を適当な培地で培養し、レポーター遺伝子(c領域)が発現しない(レポーター遺伝子はプロモーター領域が欠如しているのでこの状態では発現しない)ことを確認しておく。ここで、レポーター遺伝子の発現の有無および発現強度の測定は、レポーター遺伝子が薬剤耐性遺伝子である場合はその薬剤を含有する選択培地で培養し、形質転換株の薬剤感受性を調べることで容易に行うことができる。また発現の有無および発現強度は、形質転換株を通常用いられる培地で培養し、培地中のレポーター遺伝子の発現産物を、レポーター遺伝子の発現産物の性質を利用して調べることもできる。
【0020】
例えば、レポーター遺伝子がβ−ガラクトシダーゼである場合は、β−ガラクトシダーゼの基質となる5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトシダーゼ(X−gal)を含有する選択培地で培養し、形質転換株の形成するコロニーの色、即ち、β−ガラクトシダーゼの発現によりX−galが分解され、コロニーが青色を呈色することにより判別することができる。
【0021】
レポーター遺伝子がコリネ型細菌内で発現していないことが確認できたプロモーター検出用ベクターの、レポーター遺伝子(d領域)と転写終結因子(e領域)の間を該部位を認識する適当な制限酵素で開裂する。このDNA断片と前記コリネ型細菌染色体を4塩基配列を認識する制限酵素で切断して得られるDNA断片とをDNAリガーゼで連結し、コリネ型細菌へ電気パルス法等により導入する。
かくして得られる形質転換株を培養し、前記したレポーター遺伝子の確認法によりレポーター遺伝子の発現が認められる形質転換株を採取することにより、プロモーター機能を有するDNA断片を保有するプロモーター検出用ベクターで形質転換されたコリネ型細菌を取得することができる。このレポーター遺伝子発現能を有するコリネ型細菌から、次に述べる方法により、本願発明のDNA断片を取得することができる。
【0022】
先ず、本願発明のtacプロモーターよりも強いプロモーター機能を有するDNA断片の取得法について述べる。
プロモーター機能の強さの指標となる前記tacプロモーターを前記プロモーター検出用ベクターのレポーター遺伝子(d領域)と転写終結因子(e領域)の間に前記方法で挿入し、このプラスミドでコリネ型細菌を前記電気パルス法により形質転換し前記方法によりレポーター遺伝子の発現強度を調べる。ここでtacプロモーターは、プラスミドpDR540(ファルマシア社製)を制限酵素HindIIIとBamHIで切り出すことによって得られる96bpのDNA断片またはDNA合成機で人工的に合成されたDNA断片を用いることができる。
【0023】
上記で得られたtacプロモーターが導入されたプロモーター検出用ベクターで形質転換されたコリネ型細菌のレポーター遺伝子発現強度より強いレポーター遺伝子の発現強度を有する前記コリネ型細菌染色体から得られたDNA断片が導入されたプロモーター検出用ベクターで形質転換されたコリネ型細菌を選ぶことにより、tacプロモーターよりも強いプロモーター機能を有するプロモーターを保有する形質転換株を取得することができる。
得られた形質転換株が、プロモーター検出用ベクターに挿入されたプロモーターに依存してレポーター遺伝子の発現が強化されたのかどうかを判定するために、即ち、該プロモーター以外の機能として宿主染色体上に変異が起きレポーター遺伝子の発現が強化された場合と区別するために、得られた形質転換株よりプラスミドDNAを抽出し、新たにコリネ型細菌に再度形質転換し同様にレポーター遺伝子の発現強度を測定し、レポーター遺伝子の発現の強化が、導入されたコリネ型細菌染色体から得られるDNA断片に依存する形質転換株を取得する。
【0024】
かくして得られる形質転換株の具体例としては、前記プロモーター検出用ベクターpPROBE17の制限酵素EcoRV部位に、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)MJ−233(FERM BP-1497)染色体DNAを制限酵素AluIおよびHaeIIIで切断して得られるDNA断片が挿入されたプラスミドで形質転換されたブレビバクテリウム・フラバムMJ−233であって500 μg/ml 以上のカナマイシン耐性濃度を有する(カナマイシン500 μg/ml を含有する培地で生育する)形質転換株12株が挙げられる。これら形質転換株および保有するプラスミドを次のとおり命名した。
【0025】
【表1】
Figure 0003979679
【0026】
これら形質転換株のカナマイシン耐性濃度は下記第1表に示すとおりである。なお、プロモーター検出用ベクターpPROBE17のEcoRV部位にtacプロモーターが挿入されたプラスミドで形質転換されたブレビバクテリウム・フラバムMJ233のカナマイシン耐性濃度は500 μg/ml 未満であり、カナマイシン500 μg/ml を含有する培地で形質転換株は生育しなかった。
【0027】
【表2】
Figure 0003979679
【0028】
このようにして得られる形質転換株からの本願発明のtacプロモーターよりも強いプロモーター機能を有するDNA断片のサイズ(大きさ)および塩基配列の決定は次のとおり行うことができる。
まずプロモーター検出用ベクターの前記コリネ型細菌染色体から得られるDNA断片が挿入された制限酵素部位(d領域とe領域の間の制限酵素部位)の上流および下流の配列に相当する塩基配列を化学合成し、プライマーDNAとする。この場合、プロモーター検出用ベクターがpPROBE17である時は、pPROBE17の制限酵素EcoRV部位の上流および下流、即ち5’側および3’側の配列に相当する以下に示す塩基配列:
GATCAGATCCCAGAATTGAT (5’側プライマーDNA)(配列番号:22)
TGAGCGGGCTTTTTTTTGAT (3’側プライマーDNA)(配列番号:23)
を化学合成しプライマーDNAとする。
【0029】
次に、前記で得られた形質転換株からプラスミドDNAを抽出し、上記プライマーDNAを鋳型とし、DNAサーマルサイクラー480型(パーキンエルマー・シータス社製)を用い、PCR法[Nature, 324, 163(1986)参照]により挿入されたDNA断片部分のみを増幅することができる。この増幅されたDNA断片のサイズはアガロースゲル電気泳動により、分子量既知のDNA断片(例えばpHYマーカー;宝酒造社製等)の同一アガロースゲル上での泳動距離で描かれる標準線に基づき算出することができる。次に上記で得られた挿入DNA断片の塩基配列は、上記PCRに用いたプライマーを再度用いまた上記PCR産物を鋳型にし、ジデオキシヌクレオチド酵素法[Dideoxy Chaintermination method;Proceedings of the National Academy Sciences of the United States of America, 74, 5463(1977)参照〕により決定することができる。
【0030】
かくして決定された前記で得られた形質転換株12株のプロモーター検出用ベクターpPROBE17に挿入されたDNA断片のサイズ(大きさ)および塩基配列は次のとおりである。
【0031】
【表3】
Figure 0003979679
【0032】
上記の塩基配列を含有して成る本発明のtacプロモーターよりも強いプロモーター機能を有するDNA断片は、天然のコリネ型細菌染色体DNAから分離されたもののみならず、通常用いられるDNA合成装置、例えばアプライド・バイオシステムズ社製、380A型DNA合成機を用いて合成されたものであってもよい。
また前記の如くブレビバクテリウム・フラバムMJ−233(FERM BP-1497)の染色体DNAから取得される本発明のDNA断片は、tacプロモーターよりも強いプロモーター機能を実質的に損なう事がない限り、塩基配列の一部の塩基が他の塩基と置換されていてもよくまたは削除されていてもよく、あるいは新たに塩基が挿入されていてもよく、これらの誘導体のいずれもが、本発明のtacプロモーターよりも強いプロモーター機能を有するDNA断片に包含されるものである。
次に、本発明のコリネ型細菌染色体から得られるコリネ型細菌内でプロモーター機能を有するDNA断片であって、宿主コリネ型細菌が利用可能な培地中の物質を宿主コリネ型細菌が利用可能な他の物質に変更することにより、該DNA断片の有するプロモーター機能が制御可能なDNA断片について説明する。
【0033】
ここで、「コリネ型細菌が利用可能な培地中の物質」とは、コリネ型細菌の生育に必要な炭素源、窒素源、その他の栄養素となり得る物質を意味するものであり、例えば、グルコース、フルクトース、エタノール、メタノール、カゼイン加水分解物、酵母抽出物、アミノ酸、尿素、廃糖密、硫酸アンモニウム等を挙げることができる。これらの中で特にグルコース、フルクトース、エタノール、カゼイン加水分解物、酵母抽出物を好適に用いることができる。これらの物質は、最少培地に、単独にあるいは数種類に組合せて添加して用いることができる。培地中のこれらの物質の濃度は、コリネ型細菌が利用可能な濃度であれば特に制限はないが、通常、グルコースの場合は5%〜0.01%、エタノールの場合は5%〜0.01%、フルクトースの場合は5%〜0.01%、カゼイン加水分解物の場合は1%〜0.01%、酵母抽出物の場合は1%〜0.01%の範囲内が適当である。
【0034】
また、最少培地とはコリネ型細菌の生育に必須な化学構造が既知の培地成分よりなる培地のことを意味し、具体的にはグルコースやエタノール等の化学構造が既知の炭素源;アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素等の窒素源;リン酸一水素カリウム、リン酸二水素カリウム、硫酸マグネシウム等の無機塩;ビオチン、ビタミン等のその他栄養素等のコリネ型細菌の生育に必須な成分のみからなる培地を意味するものである。
本願発明のプロモーター機能が制御可能なDNA断片は次のとおり取得することができる。
【0035】
まず、前記のコリネ型細菌染色体から得られるDNA断片が挿入されたプロモーター検出用ベクターが導入されたコリネ型細菌を、最少培地で培養し、マーカー遺伝子の発現を前記方法により確認し、プロモーター検出用ベクターが導入された形質転換株を得る。次に、最少培地に前記コリネ型細菌が利用可能な物質を加えた培地で上記で得られた各形質転換株を培養し、レポーター遺伝子の発現の有無および発現強度を調べる。さらに最少培地に加えるコリネ型細菌が利用可能な物質を変更して各形質転換株のレポーター遺伝子の発現の有無および発現強度を調べる。かくして、宿主コリネ型細菌が利用可能な培地中の物質を、宿主コリネ型細菌が利用可能な他の物質に変更することにより、レポーター遺伝子の発現が制御可能な形質転換株を得ることができる。
【0036】
次に、得られた形質転換株が、プロモーター検出用ベクターに挿入されたDNA断片に依存し上記レポーター遺伝子の発現の制御が可能となったのかどうかを判定するために、即ち該プロモーター以外の機能として宿主染色体上に変異が起きたためにレポーター遺伝子の発現の制御が可能となる場合と区別するために、得られた形質転換株よりプラスミドDNAを抽出し、新たにコリネ型細菌に再度形質転換し、上述と同様に最少培地に加えるコリネ型細菌が利用可能な物質を変更してレポーター遺伝子の発現の有無および発現強度を調べる。
【0037】
ここで、宿主コリネ型細菌が利用可能な培地中の少くとも1つの物質を、宿主コリネ型細菌が利用可能な少くとも1つの他の物質に変更する方法については特に制限されるものではなく、例えば次のような方法も含まれる。
(1)利用可能な物質を含有する培地で細胞を培養し、通常用いられる遠心分離または濾過分離により集菌し、得られた菌体を、利用可能な他の物質を含有する培地に植え代えるか、もしくは(2)培地中の利用可能な物質を完全に消費した後に、利用可能な他の物質を培地に添加する。
【0038】
このようにして、宿主コリネ型細菌が利用可能な培地中の物質を他の物質に変更することによりプロモーター機能が制御可能なDNA断片が挿入されたプロモーター検出用ベクターが導入された形質転換株を得ることができる。
この形質転換株の具体例としては、前記プロモーター検出用ベクターpPROBE17の制限酵素EcoRV部位に、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233(FERM BP-1497)染色体DNAを制限酵素AluIおよびHaeIIIで切断して得られるDNA断片が挿入されたプラスミドで形質転換されたブレビバクテリウム・フラバムMJ−233であって、次の性質を有する菌株を挙げることができる。それらの形質転換株および保有するプラスミドをそれぞれ次のとおり命名した。
【0039】
(i)培地中のグルコースによりレポーター遺伝子の発現が抑制され(カナマイシン感受性を示し)、培地中のグルコースをエタノールに変更することによりレポーター遺伝子が発現する(カナマイシン耐性濃度100 μg/ml 以上を示す)形質転換株:
Figure 0003979679
【0040】
(ii)培地中のエタノールによりレポーター遺伝子の発現が抑制され(カナマイシン感受性を示し)、培地中のエタノールをグルコースに変更することによりレポーター遺伝子が発現する(カナマイシン耐性濃度100 μg/ml 以上を示す)形質転換株:
Figure 0003979679
【0041】
(iii)培地中のグルコースによりレポーター遺伝子の発現が抑制され(カナマイシン感受性を示し)、培地中のグルコースをフルクトースに変えることによりレポーター遺伝子が発現する(カナマイシン耐性濃度100 μg/ml 以上を示す)形質転換株:
Figure 0003979679
【0042】
(iv)培地中のカゼイン加水分解物、酵母エキスおよびグルコースの混合物によりレポーター遺伝子の発現が抑制され(カナマイシン感受性を示し)、培地中のカゼイン加水分解物、酵母エキスおよびグルコースをグルコースに変更することによりレポーター遺伝子が発現する(カナマイシン耐性濃度100 μg/ml 以上を示す)形質転換株:
Figure 0003979679
【0043】
(v)培地中のグルコースによりレポーター遺伝子の発現が抑制され(カナマイシン感受性を示し)、培地中のグルコースをカゼイン加水分解物、酵母エキスおよびグルコースの混合物に変更することによりレポーター遺伝子が発現する(カナマイシン耐性濃度100 μg/ml 以上を示す)形質転換株:
Figure 0003979679
【0044】
このようにして得られる本発明のプロモーター機能が制御可能なDNA断片のサイズ(大きさ)および塩基配列は前記したと同様の方法で決定することができる。前記方法で決定された上記形質転換株のプロモーター検出用ベクターpPROBE17に挿入されたDNA断片のサイズ(大きさ)および塩基配列は次のとおりである。なお、挿入DNA断片を各種の制限酵素で切断して得られる切断断片のサイズ(大きさ)はアガロースゲル電気泳動で求めた値である。
【0045】
【表4】
Figure 0003979679
【0046】
上記の塩基配列およびDNA断片を含有して成る本発明の制御可能なプロモーター機能を有するDNA断片は、天然のコリネ型細菌染色体DNAから分離されたもののみならず、通常用いられるDNA合成装置、例えばアプライド・バイオシステムズ社製380A型DNA合成機を用いて合成されたものであってもよい。また前記の如くブレビバクテリウム・フラバムMJ−233(FERM BP-1497)の染色体DNAから取得される本発明のDNA断片は、プロモーター機能および該プロモーターの制御機能を実質的に損なう事がない限り、塩基配列の一部の塩基が他の塩基と置換されていてもよくまたは削除されていてもよく、あるいは新たに塩基が挿入されていてもよく、これらの誘導体のいずれもが、本発明の制御可能なプロモーター機能を有するDNA断片に包含されるものである。
【0047】
上記で詳述したコリネ型細菌由来の本発明のプロモーター機能を有するDNA断片の下流に発現させるべき目的の遺伝子を連結し、それをコリネ型細菌内で複製増殖可能なプラスミドベクターに挿入後、このプラスミドをコリネ型細菌へ導入し、該コリネ型細菌を用いて目的とする遺伝子を高効率に発現させることが可能となる。本発明のプロモーター機能を有するDNA断片に直接接続されるところの発現させるべき遺伝子は、微生物起源のもの、植物起源のもの、動物起源のもの、人工的に合成されたもの等いずれでもよい。また発現されるべき遺伝子の発現産物は、アミノ酸、有機酸、ビタミン、脂質等の生体内物質の生合成あるいは代謝に関わる酵素、タンパク質、油脂、抗生物質等の生理活性物質の生合成あるいは代謝に関わる酵素である。
【0048】
また、本発明のプロモーター機能を有するDNA断片を組み込むことができるプラスミドベクターとしては、コリネ型細菌内で機能するプラスミド複製増殖DNA領域を有するものであれば特に制限はない。コリネ型細菌内で機能するプラスミド複製増殖DNA領域を有するプラスミドベクターとしては、例えば、
(1)pAM330[Agricultural and Biological Chemistry, 48, 2901(1986)]
(2)pCG4[Journal of Bacteriology, 159, 306(1984)]
(3)pSR1[Journal of Bacteriology, 162, 591(1985)]
(4)pBY503[Journal of Industrial Microbiology, 5, 159(1990)]
(5)pBL1[Journal of Bacteriology, 162, 463(1985)]
(6)pHM1519[Gene, 39, 281(1985)]
(7)pCG1[Molecular and General Genetics, 196, 175(1984)]
(8)pCG100[Journal of General Microbiology, 137, 2093(1991)]
等を挙げることができる。もちろん、これらのプラスミドベクターから得られたコリネ型細菌内で機能するプラスミド複製増殖DNA領域が組み込まれたプラスミドベクターもまた好適に用いることができる。
【0049】
【実施例】
以上に本発明を説明してきたが、下記の実施例によりさらに具体的に説明する。
実施例1 プロモーター検出用ベクターpPROBE17の構築
作成は図2および図3に示すスキームにより行った。
先ず、大腸菌プラスミドpBR322 DNA 10μgを、制限酵素PvuIIとBstYIの両酵素で37℃、1時間保温することにより切断し、アガロースゲル電気泳動にかけ分離後、大腸菌内で複製増殖能を担うDNA領域(ORI)1.1kb断片をゲルから切り出し溶出精製し、DNA 1.5μgを得た。
【0050】
次に得られたDNA断片は、pBR322の複製制御因子であるRNAIのプロモーター部分が欠けているため、以下に示す合成DNA(配列中に制限酵素BamHI部位を含む)
▲1▼ 5’GATCTCAAGA AGATCCTTTG ATCTTTTCTA CGGATCCCAG 3’(配列番号:24)
▲2▼ 3’ AGTTCT TCTAGGAAAC TAGAAAAGAT GCCTAGGGTC 5’
を、▲1▼と▲2▼の一本鎖DNAを、それぞれ化学合成(アプライド・バイオシステムズ社製380A型DNA合成機を使用)し、両一本鎖DNAを混合後、50℃にて5時間保温することによりアニーリングし、上記に示す二本鎖DNAを5μg得た。得られた合成DNA 5μgと前述の1.1kbDNA断片 1.5μgとを混合し、ATPおよびジチオスレイトール存在下、T4ファージ由来のDNAリガーゼによって16℃で24時間保温し、両DNA鎖を連結せしめた(a領域)。
【0051】
次に連結物を制限酵素BamHIで37℃、1時間保温することにより切断し、トランスポゾンTn9のクロラムフェニコール耐性遺伝子を持つプラスミドpJCM1 1μgを制限酵素BamHIで37℃、1時間保温することにより切断した(c領域)。65℃で10分間加熱した後、両反応液を混合し、ATPおよびジチオスレイトール存在下、T4ファージ由来のDNAリガーゼによって16℃で24時間保温し、両DNA鎖を連結せしめた。得られた連結物を用い、塩化カルシウム法[Journal of Molecular Biology, 53, 159(1970)参照]によりエシェリヒア・コリHB101株(宝酒造製)を形質転換し、クロラムフェニコール 50mgを含む選択培地[トリプトン 10g、酵母エキス 5g、塩化ナトリウム 5gおよび寒天 16gを蒸留水 1リットルに溶解]に塗沫した。上記培地上の生育株から常法により[Nucleic Acids Research, 9, 2989(1981)参照]、プラスミドDNAを抽出し、該プラスミドDNAを制限酵素により切断し、アガロースゲル電気泳動を用いて調べたところ、図2に示すpBRCM102と命名したプラスミドが得られた。
【0052】
次に、得られたプラスミドpBRCM102のDNA 5μgを制限酵素PvuIIを用い37℃、5分間保温により部分切断を行い、複製増殖能を担うDNA領域(ORI)の3’側のPvuII部位に、以下に示す配列(配列番号:21) ▲3▼ 5'AATTCTCGCGATAATTAATTAATAGCCCGCCTAATGAGCGGGCTTTTTTTTGATATCAATT3'
▲4▼ 3'TTAAGAGCGCTATTAATTAATTATCGGGCGGATTACTCGCCCGAAAAAAAACTATAGTTAA5'
からなる大腸菌トリプトファンオペロンの転写終結因子trpAターミネーター(e領域、以下これを「term」と称す)を、▲3▼と▲4▼の一本鎖DNAを、それぞれ化学合成(アプライド・バイオシステムズ社製380A型DNA合成機を使用)し、両一本鎖DNAを混合後、50℃にて5時間保温することによりアニーリングし、上記に示す二本鎖DNAを5μg得た。
【0053】
上記部分切断物5μgと合成DNA 5μgを混合し、ATPおよびジチオスレイトール存在下、T4ファージ由来のDNAリガーゼによって16℃で24時間保温し、両DNA鎖を連結せしめた。得られた連結物を用い、塩化カルシウム法[Journal of Molecular Biology, 53, 159(1970)参照]によりエシェリヒア・コリHB101株を形質転換し、クロラムフェニコール 50mgを含む選択培地[トリプトン 10g、酵母エキス 5g、塩化ナトリウム 5gおよび寒天 16gを蒸留水 1リットルに溶解]に塗沫した。上記培地上の生育株から常法により[Nucleic Acids Research, 9, 2989(1981)参照]、プラスミドDNAを抽出し、該プラスミドDNAを制限酵素により切断し、アガロースゲル電気泳動を用いて調べたところ、図2に示すpCMT44と命名したプラスミドが得られた。
【0054】
次に、図3に示す、プラスミドpKPG13 DNA 10μgを制限酵素BglIIとBamHIで37℃、1時間保温により、カナマイシン耐性遺伝子自身のプロモーターを含まないように切断し、アガロースゲル電気泳動し、1.5kb断片のカナマイシン耐性遺伝子の構造遺伝子部分のみをゲルから切り出し、溶出精製し、DNA 1μgを得た(d領域:レポーター遺伝子)。得られたDNA断片を、プラスミドpCMT44 DNA 1μgを制限酵素BamHIで37℃、5分間保温し部分切断を行ったものと混合し、ATPおよびジチオスレイトール存在下、T4ファージ由来のDNAリガーゼによって16℃で24時間保温し、両DNA鎖を連結せしめた。得られた連結物を用い、塩化カルシウム法[Journal of Molecular Biology, 53, 159(1970)参照]によりエシェリヒア・コリHB101株を形質転換し、クロラムフェニコール 50mgを含む選択培地[トリプトン 10g、酵母エキス 5g、塩化ナトリウム 5gおよび寒天 16gを蒸留水 1リットルに溶解]に塗沫した。上記培地上の生育株から常法により[Nucleic Acids Research, 9, 2989(1981)参照]、プラスミドDNAを抽出し、該プラスミドDNAを制限酵素により切断し、アガロースゲル電気泳動を用いて調べたところ、図3に示すpCKT11と命名したプラスミドが得られた。
【0055】
次に、コリネ型細菌内で複製増殖能を持つプラスミドpCRY3を保有するブレビバクテリウム・フラバムMJ233 GE102(FERM BP-2513)から常法により[Nucleic Acids Research, 9, 2989(1981)参照]、プラスミドDNAを抽出し、該プラスミドDNA 10μgを制限酵素XhoIを用い、37℃、1時間保温により切断し、アガロースゲル電気泳動を行い、4.0kbのコリネ型細菌内で複製増殖能をもつDNA断片をゲルから切り出し、溶出精製し、2.5μgを得た(b領域)。得られたDNA断片2.5μgと、プラスミドpCKT11 DNA 1μgを制限酵素XhoIで37℃、1時間保温により切断したものを混合し、65℃で10分間加熱した後、ATPおよびジチオスレイトール存在下、T4ファージ由来のDNAリガーゼによって16℃で24時間保温し、両DNA鎖を連結せしめた。
【0056】
得られた連結物を用い、塩化カルシウム法[Journal of Molecular Biology, 53, 159(1970)参照]によりエシェリヒア・コリHB101株(宝酒造製)を形質転換し、クロラムフェニコール 50mgを含む選択培地[トリプトン 10g、酵母エキス 5g、塩化ナトリウム 5gおよび寒天 16gを蒸留水 1リットルに溶解]に塗沫した。上記培地上の生育株から常法により[Nucleic Acids Research, 9, 2989(1981)参照]、プラスミドDNAを抽出し、該プラスミドDNAを制限酵素により切断し、アガロースゲル電気泳動を用いて調べたところ、図3に示すpPROBE17と命名したプラスミドが得られた。
【0057】
以上のようにして構築したプラスミドpPROBE17は、
a)大腸菌内で機能するプラスミド複製増殖領域、
b)コリネ型細菌内で機能するプラスミド複製増殖領域、
c)クロラムフェニコール耐性遺伝子マーカー、
d)カナマイシン耐性遺伝子(但し、プロモーター領域が欠如)、
e)カナマイシン耐性遺伝子の上流に存在する転写終結因子trpAターミネーター、
から構成される。
【0058】
実施例2 プラスミドpPROBE17のコリネ型細菌への形質転換
ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233(FERM BP-1497)株を100mlのA培地[尿素2g、(NH4)2SO4 7g、K2HPO4 0.5g、KH2PO4 0.5g、MgSO4 0.5g、FeSO4・7H2O 6mg、MnSO4・4〜6H2O 6mg、酵母エキス 2.5g、カザミノ酸 5g、ビオチン 200μg、塩酸チアミン 200μg、グルコース 20gおよび蒸留水 1リットル]を用い33℃で対数増殖中期まで培養し、ペニシリンGを1ユニット/mlになるように添加して、さらに2時間培養後、遠心分離により集菌し、菌体を20mlの滅菌水およびパルス用緩衝液[272mM シュークロース、7mM KH2PO4、1mM MgCl2:pH7.4]でそれぞれ洗浄した。
【0059】
さらに菌体を遠心分離により集菌し、2mlの上記パルス用緩衝液に懸濁し、120μlの菌体懸濁液と前記実施例1で得られたプラスミドpPROBE17DNA 5μlとを混合し、氷中に10分間静置した。ジーンパルサ(バイオラッド社製)を用いて、1950ボルト、25μFDに設定しパルスを印加後、氷中に10分間放置した。全量を3mlの前記A培地にて懸濁し、懸濁液を33℃にて1時間培養後、クロラムフェニコールを3 μg/ml(最終濃度)含む前記A寒天培地[寒天はA培地1リットル当たり16gを添加]に塗沫し33℃で2日培養した。出現したクロラムフェニコール耐性株から常法により[Nucleic Acids Research, 9, 2989(1981)参照]、プラスミドDNAを抽出し、該プラスミドDNAを制限酵素により切断し、アガロースゲル電気泳動を用いて調べたところ、前記実施例1で構築した図3に示すプラスミドpPROBE17であることを確認した。
【0060】
次に、プラスミドpPROBE17は、カナマイシン耐性遺伝子のプロモーター領域が欠如しているため、同プラスミドのみをコリネ型細菌内に導入した場合カナマイシン感受性を示すことを確認するために、カナマイシンを30 μg/ml(最終濃度)含有する前記A寒天培地に塗沫し33℃で4日培養したところ同培地上では全く生育しなかった。このことより、プラスミドpPROBE17のカナマイシン耐性遺伝子の上流に挿入した転写終結因子trpAターミネーターの有効性、即ち、コリネ型細菌内でのプラスミド上のリードスルーによるカナマイシン耐性遺伝子の発現が全く無いことを確認した。
【0061】
実施例3 大腸菌由来tacプロモーターのコリネ型細菌内での強度測定
tacプロモーターの調製は、プラスミドpDR540(ファルマシア社製)から得る事とし、同プラスミドDNA 25μgを制限酵素HindIIIとBamHIで37℃、一時間保温し、アガロースゲル電気泳動し、96bpのtacプロモーターを含むDNA断片をゲルから切り出し、溶出精製し、0.5μgを得た。得られたDNA断片0.5μgをS1ヌクレアーゼで37℃、1時間保温することにより平滑末端化し、また前記実施例2で調製したプラスミドpPROBE17 DNA 5μgを制限酵素EcoRVで37℃、1時間保温することにより切断平滑末端化したものと混合し、65℃で10分間加熱した後、ATPおよびジチオスレイトール存在下、T4ファージ由来のDNAリガーゼによって16℃で24時間保温し、両DNA鎖を連結せしめた。
【0062】
得られた連結物を用い、前記実施例2に記載の方法によりブレビバクテリウム・フラバムMJ−233(FERM BP-1497)株に形質転換した。形質転換株の選択は、カナマイシンを30 μg/ml(最終濃度)を含有する前記A寒天培地に塗沫し33℃で2日培養した。出現したカナマイシン耐性株から常法により[Nucleic Acids Research, 9, 2989(1981)参照]、プラスミドDNAを抽出し、該プラスミドDNAを制限酵素により切断し、アガロースゲル電気泳動を用いて調べたところ、前記実施例1で構築した図3に示すプラスミドpPROBE17の制限酵素EcoRV部位に270bpのtacプロモーターを含むDNA断片が挿入されていることを確認した。
【0063】
次に得られたカナマイシン耐性株を用い、カナマイシン濃度(培地に添加するカナマイシンの濃度)を調べる事により、導入したtacプロモーターのコリネ型細菌内での強度について調べた。その結果、カナマイシンを500 μg/ml(最終濃度)含有する前記A寒天培地に塗沫し33℃で4日間培養したところ、上記カナマイシン耐性形質転換株は生育しない(カナマイシン100 μg/ml を含有する培地で生育する)ことを確認した。
【0064】
実施例4 コリネ型細菌染色体DNAの調製
ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233(FERM BP-1497)株を100mlの前記A培地に植え、33℃にて対数増殖後期まで培養し、遠心分離により集菌した。得られた菌体を10 mg/ml の濃度にリゾチームを含むリゾチーム反応液[10mM NaCl、20mMトリス緩衝液(pH8.0)、1mM EDTA−2Na]15mlに懸濁した。次に、プロテナーゼKを最終濃度が100 μg/ml になるように添加し、37℃で1時間保温した。さらにドデシル硫酸ナトリウムを最終濃度が0.5%になるように添加し、50℃で1時間保温して溶菌させた。この溶菌液に、等量のフェノール・クロロフォルム溶液を添加し、室温で10分間ゆるやかに振とうした後、全量を遠心分離し、上清画分を分取した。上清画分に酢酸ナトリウムを0.3Mとなるように添加した後、2倍量のエタノールを加え、遠心分離し、70%エタノールで洗浄した後、乾燥させた。乾燥させたDNAを、10mM トリス緩衝液(pH7.5)および1mM EDTA−2Naの混合液5mlに溶解させ染色体DNAを得た。
【0065】
実施例5 コリネ型細菌染色体からの大腸菌由来tacプロモーターより強いプロモーター機能を有するDNA断片の単離
上記実施例4で得られた染色体DNA 20μgを、4塩基認識の制限酵素AluIおよびHaeIIIを用い、37℃で10時間保温することにより完全切断を行い、また前記実施例2で調製したプラスミドpPROBE17 DNA 10μgを制限酵素EcoRVを用い、37℃で1時間保温することにより切断を行った。両切断物を混合し、65℃で10分間加熱した後、ATPおよびジチオスレイトール存在下、T4ファージ由来のDNAリガーゼによって16℃で24時間保温し、両DNA鎖を連結せしめた。得られた連結物を用い、前記実施例2に記載の方法によりブレビバクテリウム・フラバムMJ−233(FERM BP-1497)株に形質転換した。形質転換株の選択は、カナマイシンを500、750、
1000、1500 μg/ml(最終濃度)をそれぞれ含有する前記A寒天培地に塗沫し33℃で3日培養した。その結果、前記第1表に示したとおり、500 μg/ml 以上のカナマイシンを含有する培地で生育する形質転換株が12株得られた。それらの形質転換株および保持するプラスミドを次のとおり命名した。
【0066】
【表5】
Figure 0003979679
【0067】
上記12株のカナマイシン耐性株から、それぞれ常法により[Nucleic Acids Research, 9, 2989(1981)参照]、プラスミドDNAを抽出した。
得られたプラスミドDNAを用い、再度ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233(FERM BP-1497)株に形質転換し、カナマイシンを500 μg/ml(最終濃度)を含有する前記A寒天培地に塗沫し33℃で3日培養したところ、前記12株から抽出したプラスミドDNAを用いた場合、いずれも生育することが判明し、全てプラスミドpPROBE17に挿入されたコリネ型細菌染色体由来のDNA断片に依存すること、即ち挿入されたDNA断片はtacプロモーターより強いプロモーター機能を有するDNA断片であることを確認した。
【0068】
次に、tacプロモーターよりも強いプロモーター機能を有するDNA断片を特定するために、プラスミドpPROBE17に挿入されたDNA断片のサイズを決定した。まずプラスミドpPROBE17の制限酵素EcoRV部位の上流および下流、即ち5’側および3’側の配列に相当する以下に示す塩基配列のプライマーDNAをそれぞれ化学合成した。
5’側プライマーDNA GATCAGATCCCAGAATTGAT (配列番号:22)
3’側プライマーDNA TGAGCGGGCTTTTTTTTGAT (配列番号:23)
【0069】
次に、上記で得られた12株の形質転換株からプラスミドDNAを鋳型DNAとし、DNAサーマルサイクラー480型(宝酒造社製)を用い、PCR法[Nature, 324, 163(1986)参照]により挿入されたDNA断片部分のみを増幅させ、1%アガロースゲル電気泳動によりサイズを決定した。DNA断片のサイズは、pHYマーカー(宝酒造社製)の同一アガロースゲル上での泳動距離で描かれる標準線に基づき算出した。また、これらDNA断片の塩基配列を、上記PCRに用いたプライマーを再度用い、上記で得られたPCR産物を鋳型にし、ジデオキシヌクレオチド酵素法[Dideoxy Chain termination method:Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 74, 5463(1977)参照]により決定した。その結果は次のとおりであった。
【0070】
【表6】
Figure 0003979679
【0071】
実施例6 コリネ型細菌染色体からの制御可能なプロモーター機能を有するDNA断片の検索
実施例4で得られた染色体DNA 20μgを、4塩基認識の制限酵素AluIおよびHaeIII を用い、37℃で10時間保温することにより完全切断を行い、また前記実施例2で調製したプラスミドpPROBE17 DNA 10μgを制限酵素EcoRVを用い、37℃で1時間保温することにより切断を行った。両切断物を混合し、65℃で10分間加熱した後、ATPおよびジチオスレイトール存在下、T4ファージ由来のDNAリガーゼによって16℃で24時間保温し、両DNA鎖を連結せしめた。得られた連結物を用い、前記実施例2に記載の方法によりブレビバクテリウム・フラバムMJ−233(FERM BP-1497)株に形質転換した。
【0072】
形質転換株の選択は、BT培地[尿素2g、(NH42SO4 7g、
2HPO4 0.5g、KH2PO4 0.5g、MgSO4 0.5g、FeSO4・7H2O 6mg、MnSO4・4〜6H2O 6mg、ビオチン200 μg、塩酸チアミン 200μg、寒天 16gおよび蒸留水 1リットル]にクロラムフェニコールを5mgおよびグルコースを20gを添加した培地(最少培地)に塗沫し33℃で3日培養した。これによりクロラムフェニコール耐性株100,000株を得た。
次に、それぞれ性質の異なる制御可能なプロモーター機能を有するDNA断片の検索法について順次説明する。
【0073】
実施例7 培地中のグルコースをエタノールに変更することにより誘導される、制御可能なプロモーター機能を有するDNA断片の検索
上記実施例6で得られた形質転換株を、前記BT培地にグルコース(20 g/l)とカナマイシン(100 μg/ml)を添加した培地(以下GK培地と呼ぶ)と、BT培地にエタノール(20 ml/l)とカナマイシン(100 μg/ml)を添加した培地(以下EK培地と呼ぶ)の両培地にそれぞれレプリカし、33℃で3日培養した。その結果、GK培地には生育しないが、EK培地には生育する形質転換株を2株得た。それらの形質転換株を次のとおり命名した。
Figure 0003979679
【0074】
次に、得られた形質転換株が、プラスミドpPROBE17に挿入されたプロモーターに依存しカナマイシン含有培地に生育したものかどうかを判定するために、得られた2株よりプラスミドDNAを抽出し、新たにコリネ型細菌に再度形質転換し、上述と同様にGK培地およびEK培地での生育の有無を調べたところ、2株いずれもEK培地でのみ生育することが判明し、この性質は全てプラスミドpPROBE17に挿入されたプロモーター機能を有するDNA断片に依存することを確認した。
次に、上記で得られたプロモーターを特定するために、プラスミドpPROBE17に挿入されたDNA断片のサイズおよび塩基配列を前記実施例5で述べた方法にて決定した。それらの結果は次のとおりであった。
【0075】
【表7】
Figure 0003979679
【0076】
実施例8 培地中のエタノールをグルコースに変更することにより誘導される、制御可能なプロモーター機能を有するDNA断片の検索
前記実施例6で得られた形質転換株を、前記実施例7と同様にGK培地とEK培地の両培地にそれぞれレプリカし、33℃で3日培養した。その結果、GK培地には生育するがEK培地には生育しない形質転換株を1株得られ、その形質転換株をブレビバクテリウム・フラバムMJ233KG101、この形質転換株が保持するプラスミドをpPROBE17KG101と命名した。
【0077】
次に、得られた形質転換株が、プラスミドpPROBE17に挿入されたDNA断片に依存しカナマイシン含有培地に生育したものかどうかを判定するために、得られた形質転換株よりプラスミドDNAを抽出し、新たにコリネ型細菌に再度形質転換し、上述と同様にGK培地およびEK培地での生育の有無を調べたところ、この形質転換株KG101はGK培地でのみ生育することが判明し、この性質はプラスミドpPROBE17に挿入されたプロモーター機能を有するDNA断片に依存することを確認した。
次に、上記で得られたプロモーター機能を有するDNA断片を特定するために、KG101株のプラスミドpPROBE17に挿入されたDNA断片のサイズおよび塩基配列を前記実施例5で述べた方法にて決定したところ、DNA断片のサイズは約550bpであり、塩基配列は配列番号:15に示したとおりであった。
【0078】
実施例9 培地中のグルコースをフルクトースに変更することにより誘導される、制御可能なプロモーター機能を有するDNA断片の検索
前記実施例6で得られた形質転換株を、GK培地とBT培地にフルクトース(20 g/l)とカナマイシン(100 μg/ml)を添加した培地(以下FK培地と呼ぶ)の両培地にそれぞれレプリカし、33℃で3日培養した。その結果、GK培地には生育しないがFK培地には生育する形質転換株を1株得られ、その形質転換株をブレビバクテリウム・フラバムMJ233KF101、この形質転換株が保持するプラスミドをpPROBE17KF101と命名した。
【0079】
次に、得られた形質転換株が、プラスミドpPROBE17に挿入されたDNA断片に依存しカナマイシン含有培地に生育したものかどうかを判定するために、得られた形質転換株よりプラスミドDNAを抽出し、新たにコリネ型細菌に再度形質転換し、上述と同様にGK培地およびFK培地での生育の有無を調べたところ、この形質転換株KF101はFK培地でのみ生育することが判明し、この性質はプラスミドpPROBE17に挿入されたプロモーター機能を有するDNA断片に依存することを確認した。
次に、上記で得られたプロモーター機能を有するDNA断片を特定するために、KF101株のプラスミドpPROBE17に挿入されたDNA断片のサイズおよび塩基配列を前記実施例5で述べた方法にて決定したところ、DNA断片のサイズは約2500bpであり、塩基配列は配列番号:16に示したとおりであった。
【0080】
実施例10 培地中のカゼイン加水分解物、酵母エキスおよびグルコースの混合物をグルコースに変更することにより誘導される、制御可能なプロモーター機能を有するDNA断片の検索
前記実施例6で得られた形質転換株を、GK培地とBT培地にグルコース(
20 g/l)、酵母エキス(1 g/l)、カゼイン加水分解(カザミノ酸)(1 g/l)およびカナマイシン(100 μg/ml)を添加した培地(以下GYCK培地と呼ぶ)の両培地にそれぞれレプリカし、33℃で3日培養した。その結果、GK培地には生育するがGYCK培地には生育しない形質転換株を1株得られ、その形質転換株をブレビバクテリウム・フラバムMJ233KG102、この形質転換株が保持するプラスミドをpPROBE17KG102と命名した。
【0081】
次に、得られた形質転換株が、プラスミドpPROBE17に挿入されたDNA断片に依存しカナマイシン含有培地に生育したものかどうかを判定するために、得られた形質転換株よりプラスミドDNAを抽出し、新たにコリネ型細菌に再度形質転換し、上述と同様にGK培地およびGYCK培地での生育の有無を調べたところ、この形質転換株KG102はGK培地でのみ生育することが判明し、この性質はプラスミドpPROBE17に挿入されたプロモーター機能を有するDNA断片に依存することを確認した。
次に、上記で得られたプロモーター機能を有するDNA断片を特定するために、KG102株のプラスミドpPROBE17に挿入されたDNA断片のサイズおよび塩基配列を前記実施例5で述べた方法にて決定したところ、DNA断片のサイズは約570bpであり、塩基配列は配列番号:17に示したとおりであった。
【0082】
実施例11 培地中のグルコースをカゼイン加水分解物、酵母エキスおよびグルコースの混合物に変更することにより誘導される、制御可能なプロモーター機能を有するDNA断片の検索
前記実施例6で得られた形質転換株を、GK培地とGYCK培地の両培地にそれぞれレプリカし、33℃で3日培養した。その結果、GK培地には生育しないがGYCK培地には生育する形質転換株を3株得られ、それぞれの形質転換株および保持するプラスミドを次のとおり命名した。
【0083】
Figure 0003979679
【0084】
次に、得られた形質転換株が、プラスミドpPROBE17に挿入されたDNA断片に依存しカナマイシン含有培地に生育したものかどうかを判定するために、得られた3株よりプラスミドDNAを抽出し、新たにコリネ型細菌に再度形質転換し、上述と同様にGK培地およびGYCK培地での生育の有無を調べたところ、3株いずれもGYCK培地でのみ生育することが判明し、この性質は全てプラスミドpPROBE17に挿入されたプロモーター機能を有するDNA断片に依存することを確認した。
次に、上記で得られたプロモーターを特定するために、プラスミドpPROBE17に挿入されたDNA断片のサイズおよび塩基配列を前記実施例5で述べた方法にて決定した。それらの結果は次ぎのとおりであった。
【0085】
【表8】
Figure 0003979679
【0086】
【配列表】
【0087】
Figure 0003979679
【0088】
Figure 0003979679
【0089】
Figure 0003979679
【0090】
Figure 0003979679
【0091】
Figure 0003979679
【0092】
Figure 0003979679
【0093】
Figure 0003979679
【0094】
Figure 0003979679
【0095】
Figure 0003979679
Figure 0003979679
【0096】
Figure 0003979679
【0097】
Figure 0003979679
Figure 0003979679
【0098】
Figure 0003979679
【0099】
Figure 0003979679
Figure 0003979679
【0100】
Figure 0003979679
【0101】
Figure 0003979679
【0102】
Figure 0003979679
Figure 0003979679
【0103】
Figure 0003979679
【0104】
Figure 0003979679
Figure 0003979679
【0105】
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【0106】
Figure 0003979679
Figure 0003979679
【0107】
Figure 0003979679
【0108】
Figure 0003979679
【0109】
Figure 0003979679
【0110】
Figure 0003979679

【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明で用いるプロモーター検出用ベクターの構成図。
【図2】 本発明で用いるプラスミドpBRCM102およびpCMT44の構築操作図。
【図3】 本発明で用いるプラスミドpCKT11およびpPROBE17の構築操作図。
【図4】 プロモーター検出用ベクターp17B−galの制限酵素切断点地図。

Claims (1)

  1. 配列番号1及び配列番号4で示される塩基配列並びに配列番号1及び配列番号4で示される塩基配列に対して1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列より成る群から選ばれる少なくとも1つの塩基配列からなるDNA断片であり、当該DNA断片をプロモーターとして用い、カナマイシン耐性遺伝子をレポーター遺伝子としてコリネ型細菌内で発現させた場合、tacプロモーターを用いた場合よりも高い濃度のカナマイシン耐性を示す程度の強いプロモーター機能を有するDNA断片。
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