JP3978757B2 - 燃料電池用ガス拡散電極−電解質膜接合体およびその製造方法 - Google Patents

燃料電池用ガス拡散電極−電解質膜接合体およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電解質膜を備える固体高分子電解質型燃料電池および直接メタノール型燃料電池に用いる燃料電池用ガス拡散電極−電解質膜接合体およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
電解質膜を備える燃料電池には、固体高分子電解質型燃料電池、直接メタノール型燃料電池などがある。これらの燃料電池は、高分子電解質膜の片側にカソード、もう一方の側にアノードを配した構造をしており、高分子電解質膜とカソードもしくはアノードとは、互いに一体化されている場合とそうでない場合とがある。
【0003】
固体高分子電解質型燃料電池は、酸化剤として例えば酸素をカソードに、燃料として例えば水素をアノードに供給して電気化学的に反応させて、電力を得る電気化学装置である。カソードおよびアノードは触媒層とガス拡散層とからなり、カソードおよびアノードは触媒層が電解質膜と接触するように電解質膜に接合される。この触媒層は、白金属金属触媒粒子又は白金族金属触媒粒子を担持したカーボン粉末等の触媒体を結着剤等で結着して形成される。また、触媒層には電解質が添加されることもある。結着剤としては、一般にポリテトラフロロエチレン(PTFE)などのフッ素系の樹脂が用いられる。このフッ素系の樹脂は、触媒層に適度な撥水性を付与する撥水剤でもある。ガス拡散層としては撥水性を付与したカーボンペーパーなどが用いられる。
【0004】
直接メタノール型燃料電池は、酸化剤として例えば酸素をカソードに、燃料として例えばメタノールと水の混合物をアノードに供給して電気化学的に反応させて、電力を得る電気化学装置である。カソードおよびアノードは、例えば白金属金属触媒粒子又は白金族金属触媒粒子を担持したカーボン粉末等の触媒体をポリテトラフロロエチレンなどの結着剤等を用いて層状に形成したものを、電解質膜のそれぞれの面に接合される。
【0005】
電解質膜を備える固体高分子電解質型燃料電池や直接メタノール型燃料電池などの燃料電池では、カソード反応およびアノード反応の電気化学反応は、カソードやアノードの電極と電解質膜との界面で進行する。このために、これらの燃料電池の効率を向上するには、電極と電解質膜との界面の接触面積を増大することが要求される。
【0006】
そのために、電解質膜の表面に凹凸を設ける方法がある。例えば、特開平3―158486号では凹凸を有するロールを用いる方法、特開平4―169069号ではスパッタリングを用いる方法、特開平4―220957号ではプラズマエッチングを用いる方法や、 特開平6―279600号では布を埋め込んだ後に引き剥がす方法によって電解質膜の表面に凹凸を設けることが提案されている。
【0007】
あるいは、電解質膜の表面に孔を設けて電解質膜と触媒層との接触面積を増大する方法がある。例えば、特開昭58―7432号では、電解質を溶解する分散媒体を小滴に結晶化させた後これを取り除く方法、特開昭62―146926号では粒子を埋め込んだ後にこれを取り除く方法あるいは、特開平5―194764号には低分子有機材料を混合した後これを取り除く方法が提案されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような、ロールを用いる方法、スパッタリングを用いる方法、プラズマエッチングを用いる方法あるいは布を用いる方法では、凹凸を設ける処理工程が煩雑であり生産性に劣ることや、形成された凹凸が粗くて電極との界面の接触面積を増大させるには不十分であるという問題がある。
【0009】
また、結晶化した分散媒体、埋め込んだ粒子あるいは混合した低分子有機材料を取り除くことにより孔を形成する方法では、分散媒体、粒子あるいは低分子有機材料を完全に取り除くことは困難であり、これらの残留物は高分子電解質膜と電極との接触の妨げとなり活性の低下の原因となる。あるいは、これらの残留物は高分子電解質膜と電極との間のイオン伝導の妨げとなる。
【0010】
また、これらを取り除く工程において施される加熱や溶媒処理により高分子電解質の劣化がおこり、イオン伝導性が低下するという問題がある。もってこの高分子電解質膜を用いた電気化学装置の性能が低下するという問題もある。
【0011】
そこで、本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的とするところは、高分子電解質膜と電極との界面の接触面積を増大するとともに、不純物の混入や高分子電解質の劣化によるイオン導電性の低下がない燃料電池用ガス拡散電極−電解質膜接合体を提供することにある。加えて、生産性に優れた製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
アルコールを含有する溶媒に溶解した含水状態でプロトン伝導性を示す高分子電解質の溶液の濃度を調整した後、この溶液を基体上に層状に塗布したものを、アルコール性水酸基以外の極性基を有する有機溶媒に浸漬することにより、溶解している高分子電解質が固化して三次元連通性の孔を有する多孔質膜を形成できる。この方法を用いて、含水状態でプロトン伝導性を示す高分子電解質膜の少なくとも一方の面に三次元連通性の孔を有する含水状態でプロトン伝導性を示す高分子からなる多孔質高分子電解質層を形成し、高分子電解質膜の表面積を増大することにより、高分子電解質膜と電極との接触面積を増大して実質の反応面積を増大する。
【0013】
請求項1の発明は、燃料電池用ガス拡散電極−電解質膜接合体において、含水状態でプロトン伝導性を示す高分子電解質膜の少なくとも一方の面に、空孔部分の開口径が0.1〜10μmの範囲の三次元連通性の孔を有する含水状態でプロトン伝導性を示す高分子からなる多孔質高分子電解質層を備えることを特徴とする。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1記載の燃料電池用ガス拡散電極−電解質膜接合体の製造方法に関するもので、含水状態の前記高分子電解質膜をアルコールに浸漬し、取り出し、前記高分子電解質膜の少なくとも一方の面にアルコールを含有する溶媒に前記高分子電解質を溶解させた溶液を塗布した後、アルコール性水酸基以外の極性基を有する有機溶媒に浸漬して前記高分子電解質膜に前記多孔質層を形成し、前記高分子電解質膜の両面に触媒層 を形成し、ガス拡散層を積層したことを特徴とす
【0015】
本発明の燃料電池用ガス拡散電極−電解質膜接合体は、固体高分子電解質型燃料電池や直接メタノール型燃料電池などの燃料電池に使用する
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明の高分子電解質膜の製造方法について具体的に説明する。アルコールを含有する溶媒に高分子電解質を溶解した溶液として、たとえば市販のパーフロロスルホン酸樹脂の溶液である5wt%ナフィオン溶液(米国、アルドリッチ社)を用いることができる。このナフィオン溶液の溶媒を濃縮することにより、種々の濃度のナフィオン溶液を調製する。
【0017】
含水状態でプロトン伝導性を示す高分子電解質膜として、例えば市販のパーフロロスルホン酸樹脂膜であるナフィオン115膜(米国、デュポン社製)を用いることができる。ナフィオン115膜は無孔性膜である。この高分子電解質膜を精製水で1時間煮沸して含水状態にした後、たとえばエタノールなどのアルコールに浸漬して高分子電解質膜をさらに膨潤させる。この膨潤した高分子電解質膜をアルコールから取り出して膜の表面の余分なアルコールをペーパータオルなどで拭き取り、高分子電解質膜の少なくも片側面に、スプレーなどの手段を用いて、上述の濃度を調製したナフィオン溶液を塗布して高分子電解質膜前駆体を形成した後、アルコール性水酸基以外の極性基を有する有機溶媒として、たとえば酢酸ブチルに前述の高分子電解質膜前駆体を浸漬して放置する。その後、酢酸ブチルから高分子電解質膜前駆体を取り出して室温で乾燥すると、高分子電解質膜の少なくとも一方の面に、空孔部分の開口径が0.1〜10μmの範囲の三次元連通孔を有する高分子からなる多孔質高分子電解質層を形成した高分子電解質膜が作製できる。
【0018】
アルコールを含有する溶媒に高分子電解質を溶解した溶液として市販のパーフロロスルホン酸樹脂の溶液である5wt%ナフィオン溶液を用いて説明したが、本発明はこの溶液に限定されるものでなく、パーフロロスルホン酸樹脂の溶液であればよく、たとえばフレミオン(旭ガラス製)など他のパーフロロスルホン酸樹脂の溶液を用いることができ、また、この溶液の濃度は希釈あるいは濃縮などの方法により任意に変更することができる。アルコールあるいは水もしくはこれら混合物を高分子電解質の溶液に添加して希釈する方法や加熱などの方法により高分子電解質溶液の溶媒の一部を除いて濃縮する方法がある。
【0019】
高分子電解質膜としてナフィオン115を用いて説明したが、他のパーフロロスルホン酸膜、パーフロロカルボン酸膜などフッ素系の高分子電解質膜あるいはスチレンビニルベンゼンスルホン酸など炭化水素系の高分子電解質膜など含水状態でプロトン伝導性を示す高分子膜であれば、いずれの膜を用いても構わない。
【0020】
ただし、これらの高分子膜の中では、耐熱性に優れたパーフロロスルホン酸膜やパーフロロカルボン酸膜などのフッ素系高分子電解質膜が好ましい。
【0021】
高分子電解質膜への高分子電解質溶液の塗布は、スプレー以外の方法として例えばドクターブレード法、スクリーン印刷法などがあり、従来公知の方法を用いることができる。
【0022】
含水状態の高分子電解質膜を湿潤させるアルコールは、エタノールの他に炭素数が4以下のメタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールあるいは2−ブタノールを用いることもできる。
【0023】
アルコール性水酸基以外の極性基を有する有機溶媒は、上述の酢酸ブチルに限定されるものでなく、分子内にアルコキシカルボニル基を有する炭素鎖の炭素数が1〜7の有機溶媒、たとえば、ぎ酸プロピル、ぎ酸ブチル、ぎ酸イソブチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸アリル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、酪酸エチル、イソ酪酸エチル、メタクリル酸メチル、酪酸プロピル、イソ酪酸イソプロピル、酢酸2−エトキシエチル、酢酸2−(2エトキシエトキシ)エチル等の単独若しくは混合物、又は分子内にエーテル結合を有する炭素鎖の炭素数が3〜5の有機溶媒、たとえば、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン等の単独若しくは混合物、又は分子内にカルボニル基を有する炭素鎖の炭素数が4〜8の有機溶媒、たとえば、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルヘキシルケトン、ジプロピルケトン等の単独若しくは混合物、又は分子内にアミノ基を有する炭素鎖の炭素数が1〜5の有機溶媒、たとえば、イソプロピルアミン、イソブチルアミン、ターシャルブチルアミン、イソペンチルアミン、ジエチルアミン等の単独若しくは混合物、又は分子内にカルボキシル基を有する炭素鎖の炭素数が1〜6の有機溶媒、たとえば、プロピオン酸、吉草酸、カプロン酸、ヘプタン酸等の単独若しくは混合物、又はこれらの組み合わせから得られるものを用いることができる。
【0024】
このようにして作製した高分子電解質膜の少なくとも一方の面に、空孔部分の開口径が0.1〜10μmの範囲の三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層を備える本発明の高分子電解質膜の概略断面を図1に示す。この図において、1は無孔性の高分子電解質膜であり、2は三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層である。3は本発明の高分子電解質膜であり、無孔性の高分子電解質膜1および三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層2からなる。4は三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層2の電解質部分であり、5は三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層2の空孔部分である。電解質部分4および空孔部分5は、それぞれ三次元的に連通している。
【0025】
この図では無孔性の高分子電解質膜1の片側のみに三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層2を備えた複層電解質膜について説明したが、無孔性の高分子電解質膜1のもう一方の側にも同様の三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層2を備えた、多層電解質膜としてもよい。
【0026】
本発明になる高分子電解質膜3の、三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層2の表面の電子顕微鏡写真の一例を図2および図3に示す。また、図4は、三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層の表面の基本構造を示した模式図である。図4において記号4および5は図1と同じものを示しており、6は三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層の空孔部分の開口径を、7は三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層の電解質部分の径を示す。
【0027】
図2は13wt%ナフィオン溶液を用いて作製した本発明になる高分子電解質層の表面であり、三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層の空孔部分の開口径は0.3〜5.0μm、三次元連通性の孔を有する多孔質電解質層の電解質部分の径は0.2〜1.0μm、多孔度は70%である。図3は23wt%ナフィオン溶液を用いて作製した本発明になる三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層を備える高分子電解質膜の表面であり、三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層の空孔部分目の開口径は0.2〜0.5μm、三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層の高分子電解質部分の径は0.5〜2.0μm、多孔度は15%である。
【0028】
ナフィオン溶液の濃度によって、三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層の空孔部分の開口径を0.1〜10μmの範囲で、三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層の高分子電解質部分の径を0.1〜30μmの範囲で、多孔度を10〜90%に範囲で調整することができる。高分子電解質膜の面に形成する三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層の厚みは、塗布するナフィオン溶液の量によって、1〜50μmの範囲で調整することができる。
【0029】
本発明になる高分子電解質膜は、少なくとも一方の面に、空孔部分の開口径が0.1〜10μmの範囲の三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層を有しており、高分子電解質膜と電極との界面の接触面積を増大するとともに、不純物となる分散媒や粒子あるいは低分子有機材料などの混入がなく、作製のときに高分子電解質の劣化を引き起こす加熱等の処理を施さないためにプロトン導電性の低下がない。したがって、高分子電解質膜のプロトン導電性を高めることが可能となり、もってこの高分子電解質膜を用いることにより、たとえば固体高分子電解質型燃料電池直接メタノール型燃料電池などの高分子電解質膜と電極との界面の反応が関与するような燃料電池を高性能にすることができる。
【0030】
【実施例】
つぎに、本発明の好適な実施例を図面を参照して説明する。
【0031】
[実施例1]
図5は、本発明の高分子電解質膜の製造工程の一例を示したフロート図である。以下に五工程からなる本発明の高分子電解質膜の製造工程を説明する。
【0032】
第一の工程では、高分子電解質溶液の濃度を調製した。市販の5wt%ナフィオン溶液をサンプル瓶に取り、攪拌しながら60度に加熱して溶液を13wt%まで濃縮した。
【0033】
第二の工程では、高分子電解質膜に前処理を施した。市販のナフィオン115膜を精製水で3回洗浄した後、脱脂処理として3%過酸化水素水で1時間煮沸してから再び精製水で3回洗浄し、さらに、精製水で1時間煮沸から室温の精製水に移して高分子電解質膜に十分に含水させた。つぎに、この高分子電解質膜をエタノールに10分間浸漬してナフィオン115膜を十分に膨潤させた。
【0034】
第三の工程では、高分子電解質膜前駆体を形成した。前処理を施した高分子電解質膜をエタノール中から取り出し、ろ紙を用いて膨潤状態の高分子電解質膜の表面に存在する余剰のエタノールを拭き取った後、高分子電解質膜が乾燥しないように迅速に、およそ2.4mg/cmの13wt%ナフィオン溶液をスプレーにより高分子電解質膜の両面に塗布して、高分子電解質膜前駆体を形成した。
【0035】
第四の工程では、高分子電解質膜前駆体を多孔化処理して多孔質高分子電解質層を形成した。作製した高分子電解質膜前駆体を酢酸ブチルに10分間浸漬した後、取り出して室温で酢酸ブチルを乾燥すると、高分子電解質膜の両面に塗布した13wt%ナフィオン溶液は、固化して三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層を形成した。
【0036】
第五の工程では、高分子電解質膜に前処理を施した。作製した高分子電解質膜を精製水で3回洗浄した後、0.5Mの希硫酸で1時間煮沸して電解質の対イオンをプロトン型に置換する処理を施し、精製水で5回洗浄して精製水中に保存した。
【0037】
このようにして作製した高分子電解質膜を本発明による高分子電解質膜Aとして、その表面を示す電子顕微鏡写真を図2に示す。
【0038】
さらに、本発明になる高分子電解質膜Aを備える固体高分子電解質型燃料電池を作製した。以下にその作製方法を示す。
【0039】
白金を30wt%担持したカーボン触媒2.6gに精製水45ml加え、次いで2−プロパノール45mlを徐々に拡散しながら加えて、白金担持カーボン触媒を水/2−プロパノール混合溶媒に分散し、さらに攪拌器を用いて30分間混合する。この混合物にPTFEのディスパージョン溶液(三井デュポンフロロケミカル社製、PTFE固形成分:60%)0.5mlを攪拌しながら徐々に加えて、添加後30分間攪拌した後、5wt%ナフィオン溶液(米国、アルドリッチ社製)17.5mlを攪拌しながら徐々に加えて、さらに30分間攪拌して触媒分散液を作製した。
【0040】
スプレーによりこの触媒分散液を直径3cmの円形状に高分子電解質膜Aの両面に塗布し、乾燥して高分子電解質膜の両面に触媒層を形成した。この触媒層の白金触媒の含有量が約0.5mg/cm2になるように触媒分散物を塗布した。
【0041】
このようにして両面に触媒層を形成した高分子電解質膜Aに、ガス拡散層として直径3cmに裁断した撥水性を有するカーボンペーパーを両側に配置して、加熱圧接(120kg/cm、135℃、5分間)により一体に接合してガス拡散電極−電解質膜接合体Aを作製した。
【0042】
このようにして作製したガス拡散電極−電解質膜接合体Aを、ガス供給路が形成された金属製のセパレータで挟持して本発明の固体高分子電解質型燃料電池Aを構成した。
【0043】
この燃料電池をつぎの条件で作動させて、電流−電圧特性を測定した。燃料ガスには純水素を用いて60℃に設定したバブラー式の加湿器で加湿した後、利用率が70%になる流量で電池に供給した。酸化ガスには純酸素を用いて60℃に設定したバブラー式の加湿器で加湿した後、利用率が50%になる流量で電池に供給した。反応ガスは、それぞれ大気圧で供給した。電池には65℃のクーラントを循環して、電池温度を一定に保った。
【0044】
[実施例2]
実施例1と同様にして、市販のパーフロロスルホン酸樹脂の溶液である5wt%ナフィオン溶液から濃度が23wt%のナフィオン溶液を調製し、このナフィオン溶液を用いて、高分子電解質膜の両面に三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質を備える本発明の電解質膜Bを作製した。この高分子電解質膜Bの表面性状を示す電子顕微鏡写真を図3に示す。
【0045】
実施例1で調製した触媒分散物を、直径3cmの円形状に高分子電解質膜Bの両面にスプレー塗布して触媒層を形成した。この触媒層の白金触媒含有量は約0.5mg/cmとした。この触媒層を形成した高分子電解質膜Bにガス拡散層として撥水性を有するカーボンペーパーを両側に配置して加熱圧接(120kg/cm、135℃、5分間)により一体に接合してガス拡散電極−電解質膜接合体Bを作製した。
【0046】
このガス拡散電極−電解質膜接合体Bを、ガス供給路が形成された金属製のセパレータで挟持して、本発明の固体高分子電解質型燃料電池Bを構成し、実施例1と同じ条件で作動させて電流−電圧特性を測定した。
【0047】
比較例1
2000#のサンディングペーパーを用いてナフィオン115膜の両面を粗化した後、3%濃度の過酸化水素水で1時間煮沸してから精製水で5回洗浄し、つぎに0.5Mの希硫酸で1時間煮沸してプロトン型に置換した後、精製水で5回洗浄し、表面を粗化した高分子電解質膜を作製した。これを高分子電解質膜Cとした。
【0048】
この高分子電解質膜Cを備える固体高分子電解質型燃料電池を作製した。実施例1で調製した触媒分散物を、直径3cmの円形状に高分子電解質膜Cの両面にスプレー塗布して触媒層を形成した。この触媒層の白金触媒含有量は約0.5mg/cmとした。この触媒層を形成した高分子電解質膜Cに、ガス拡散層として直径3cmに裁断した撥水性を有するカーボンペーパーを両側に配置して加熱圧接(120kg/cm、135℃、5分間)により一体に接合してガス拡散電極−電解質膜接合体Cを作製した。
【0049】
このガス拡散電極−電解質膜接合体Cをガス供給路が形成された金属製のセパレータで挟持して従来の固体高分子電解質型燃料電池Cを構成し、実施例1と同じ条件で作動させて電流−電圧特性を測定した。
【0050】
比較例2
ナフィオン115膜を3%濃度の過酸化水素水で1時間煮沸してから精製水で5回洗浄し、つぎに0.5Mの希硫酸で1時間煮沸してプロトン型に置換した後、精製水で5回洗浄した。通常の表面の高分子電解質膜を高分子電解質膜Dとした。
【0051】
この高分子電解質膜Dを備えた固体高分子電解質型燃料電池を作製した。実施例1で調製した触媒分散物を、直径3cmの円形状に高分子電解質膜Dの両面にスプレー塗布して触媒層を形成した。この触媒層の白金触媒の含有量が約0.5mg/cmとした。この触媒層を形成した高分子電解質膜Dに、ガス拡散層として直径3cmに裁断した撥水性を有するカーボンペーパーを両側に配置して加熱圧接(120kg/cm、135℃、5分間)により一体に接合してガス拡散電極−電解質膜接合体Dを作製した。
【0052】
このガス拡散電極−電解質膜接合体Dを、ガス供給路が形成された金属製のセパレータで挟持して、従来の固体高分子電解質型燃料電池Dを構成し、実施例1と同じ条件で作動させて電流−電圧特性を測定した。
【0053】
実施例1、2および比較例1、2で作製した固体高分子電解質型燃料電池A、B、CおよびDの電流−電圧特性を図6に示す。図6から明らかなように、サンディングにより表面を粗化した高分子電解質膜を備える固体高分子電解質型燃料電池Cは、表面が平滑な通常の高分子電解質膜を備える固体高分子電解質型燃料電池Dより、高い電流密度での電池電圧の低下が少なく、高出力であり、優れた特性を示した。
【0054】
一方、本発明の高分子電解質膜を備える固体高分子電解質型燃料電池AおよびBは、従来の公知の高分子電解質膜を備えた固体高分子電解質型燃料電池CおよびDよりさらに高出力で特性が向上することを示した。また、本発明の高分子電解質膜を備えた固体高分子電解質型燃料電池AとBにおいては、高分子電解質膜の表面に形成した三次元連通性の孔を有する多孔質電解質層の多孔度が大きく、その表面積が大きい高分子電解質膜Aを備える方が、より高出力であり優れた特性を示すことがわかった。固体高分子電解質型燃料電池AおよびBにおいては高分子電解質膜の表面は三次元連通性の孔を有する多孔性であるために、ガス拡散電極と触媒層との界面の接触面積が増大し、もって実質的な反応面積の増大することにより電池の特性が向上したものと考えられる。本発明の高分子電解質膜は固体高分子電解質型燃料電池の高出力化に効果があると結論される。
【0055】
[実施例
実施例1で作製した本発明の高分子電解質膜Aを備える直接メタノール型燃料電池を作製した。はじめに、精製水50mlに白金黒3gを分散させた後、5wt%ナフィオン溶液5.3mlを加えて30分間攪拌してインク状の触媒分散物を調製した。これを触媒分散物Pとする。つぎに、精製水50mlにPt−RuOx(Pt:Ru=1:1)3gを分散させた後、5wt%ナフィオン溶液12.5mlを加えて30分間攪拌してインク状の触媒分散物を調製した。これを触媒分散物Rとする。高分子電解質膜Aの一方の面に、スプレーにより直径3cmの円形状に触媒分散物Pを塗布して乾燥し、カソードの触媒層を形成した。白金量は、約2.5mg/cmであった。
【0056】
この高分子電解質膜Aのもう一方の面に、スプレーにより直径3cmの円形状に触媒分散物Rを塗布して乾燥し、アノードの触媒層を形成した。白金量は、約2.0mg/cmであった。このカソードとアノードとを形成した高分子電解質膜Aに、カーボンペーパーを両側に配置して加熱圧接(120kg/cm、135℃、5分間)により一体に接合して、ガス拡散電極−電解質膜接合体Eを作製した。
【0057】
このようにして作製したガス拡散電極−電解質膜接合体Eを、ガス供給路が形成された金属製のセパレータで挟持して、本発明の直接メタノール型燃料電池Eを構成した。
【0058】
この燃料電池をつぎの条件で作動させて、電流−電圧特性を測定した。カソードに3気圧に加圧した酸素を供給し、アノードに2気圧に加圧した1Mのメタノール/水を供給した。電池には110℃のクーラントを循環して、電池温度を一定に保った。
【0059】
比較例3
比較例2で前処理を施した高分子電解質膜Dを備える直接メタノール型燃料電池を作製した。高分子電解質膜Dの一方の面に、スプレーにより直径3cmの円形状に実施例5で調製した触媒分散物Pを塗布して乾燥し、カソードの触媒層を形成した。白金量は、約2.5mg/cmであった。この高分子電解質膜Dのもう一方の面に、スプレーにより直径3cmの円形状に実施例5で調製した触媒分散物Rを塗布して乾燥し、アノードの触媒層を形成した。白金量は、約2.0mg/cmであった。このカソードとアノードとを形成した高分子電解質膜Dに、カーボンペーパーを両側に配置して、加熱圧接(120kg/cm、135℃、5分間)により一体に接合して、ガス拡散電極−電解質膜接合体Fを構成した。
【0060】
このガス拡散電極−電解質膜接合体Fを、ガス供給路が形成された金属製のセパレータで挟持して、直接メタノール型燃料電池Fを作製し、実施例5と同じ条件で作動させて電流−電圧特性を測定した。
【0061】
実施例および比較例3で作製した直接メタノール型燃料電池EおよびFの電流−電圧特性を図7に示す。図7から明らかであるように、本発明の高分子電解質膜を備える直接メタノール型燃料電池Eは、従来の公知の高分子電解質膜を備えた直接メタノール型燃料電池Fより高出力であり優れた特性を示した。本発明の高分子電解質膜を備える直接メタノール型燃料電池Eでは、高分子電解質膜の表面は三次元連通性の孔を有する多孔性であるために、カソードおよびアノードの触媒層との界面の接触面積が増大し、もって実質的な反応面積の増大することにより電池の特性が向上したものと考えられる。本発明の高分子電解質膜は、直接メタノール型燃料電池の高出力化に効果があることがわかる。
【0062】
【発明の効果】
本発明の燃料電池ガス拡散電極−電解質膜接合体では、高分子電解質膜と電極との界面の接触面積が増大して実質的な反応部分が増大する。もって、本発明の燃料電池ガス拡散電極−電解質膜接合体を用いた固体高分子電解質型燃料電池や直接メタノール型燃料電池の高出力密度化を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層を備えた電解質膜の断面を示す模式図である。
【図2】本発明の三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層の表面性状を示す図(電子顕微鏡写真)である。
【図3】本発明の三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層の表面性状を示す図(電子顕微鏡写真)である。
【図4】本発明の三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層の表面の基本構造を示す模式図である。
【図5】本発明の三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層を備えた電解質膜の作製工程を示す図である。
【図6】本発明の電解質膜を備えた固体高分子電解質型燃料電池AとBおよび従来公知の電解質膜を備えた固体高分子電解質型燃料電池CとDの電流−電圧特性曲線を示す図である。
【図7】本発明の電解質膜を備えた直接メタノール型燃料電池Eおよび従来公知の電解質膜を備えた直接メタノール型燃料電池Fの電流−電圧特性曲線を示す図である。
【符号の説明】
高分子電解質膜
2 三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層
3 本発明の高分子電解質膜
4 三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層の電解質部分
5 三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層の空孔部分
6 三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層の空孔部分の開口径
7 三次元連通性の孔を有する多孔質高分子電解質層の電解質部分の径

Claims (2)

  1. 含水状態でプロトン伝導性を示す高分子電解質膜の少なくとも一方の面に、空孔部分の開口径が0.1〜10μmの範囲の三次元連通性の孔を有する含水状態でプロトン伝導性を示す高分子からなる多孔質高分子電解質層を備えることを特徴とする燃料電池用ガス拡散電極−電解質膜接合体
  2. 含水状態の前記高分子電解質膜をアルコールに浸漬して取り出し、前記高分子電解質膜の少なくとも一方の面にアルコールを含有する溶媒に前記高分子電解質を溶解させた溶液を塗布した後、アルコール性水酸基以外の極性基を有する有機溶媒に浸漬して前記高分子電解質膜に前記多孔質層を形成し、前記高分子電解質膜の両面に触媒層を形成し、ガス拡散層を積層したことを特徴とする、請求項1記載の燃料電池用ガス拡散電極−電解質膜接合体の製造方法。
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