JP3976616B2 - 成形用熱可塑性樹脂組成物、および該樹脂組成物から製造された成形品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、特定の溶融粘度挙動をとる非晶性熱可塑性樹脂、殊に芳香族ポリカーボネート樹脂を主体としてなり、押出成形、ブロー成形、および薄肉成形品の射出成形のいずれの成形にも好適に用いられる熱可塑性樹脂組成物、並びにかかる樹脂組成物より製造された押出成形品、ブロー成形品、および薄肉射出成形品に関する。中でも本発明は、層状珪酸塩を含んでなり、かつ熱安定性が良好な特定の溶融粘度挙動をとる芳香族ポリカーボネートを主体としてなり、押出成形、ブロー成形、および薄肉成形品の射出成形のいずれの成形にも好適に用いられる熱可塑性樹脂組成物、並びにかかる樹脂組成物より製造された押出成形品、ブロー成形品、および薄肉射出成形品に関する。
【0002】
【従来の技術】
エンジニアリングプラスチックなどを中心とした熱可塑性樹脂の組成物は、一般に優れた耐熱性、機械特性、寸法安定性を有しており、その射出成形品がOA機器分野や自動車分野、電気・電子部品分野などといった用途に広く用いられている。近年は製品の軽薄短小化といった動向の下、熱可塑性樹脂組成物にはより薄肉成形品を射出成形する必要性が高くなっている。しかし、特に芳香族ポリカーボネートに代表される耐熱性の高い非晶性熱可塑性樹脂は、その射出成形における溶融流動性は必ずしも良好とはいえず、流動性の改良が強く求められている。
【0003】
また、製品の軽薄短小化は、薄肉成形品の構造体としての強度をより必要とするため、樹脂材料自体には高い剛性(曲げ弾性率)が併せて求められている。従来、剛性を改良するためには、ガラス繊維などの各種強化充填材を混合する方法が用いられている。しかしながら通常強化充填材の配合は、樹脂組成物の溶融流動性を低下させるため、高い流動性と高い合成とを両立することは困難である。
【0004】
一般に熱可塑性樹脂組成物の成形時における流動性を改良する方法としては、分子量を低くして溶融粘度を下げる、および可塑化効果を発現する化合物を配合して溶融粘度を下げるなどの方法がある。しかし、分子量の低減は機械特性の低下をもたらし、また可塑化効果を発現する化合物の配合は一般に熱可塑性樹脂組成物の耐熱性の低下をもたらす。更に、通常溶融粘度を低減させた樹脂組成物は、射出成形時にいわゆる鼻たれ現象(ドルーリング)や糸引き現象(金型ゲート口付近に溶融樹脂が残って、成形品取り出し時にシリンダーノズルと成形品スプルー部分の間が伸ばされた樹脂でつながってしまう現象)などが起こりやすくなる。これは樹脂の溶融粘度の低下が溶融樹脂の流出を容易にし、また樹脂の固化を遅らせるためである。鼻たれ現象や糸引き現象は不要な樹脂を金型パーティング面にはさみこませ、所定の成形を困難にし、結果として生産性を大きく低下させ、多大なコスト増を生む。
【0005】
更に通常溶融粘度を低減させた樹脂組成物は、成形品にバリ発生の問題を生む。これはかかる樹脂組成物は高速から低速まですべてのせん断速度領域において溶融粘度が低下しているためである。
【0006】
一方、エンジニアリングプラスチックなどの熱可塑性樹脂は、シート・フィルムなどの押出成形やブロー成形などの成形加工法による用途にも幅広く使用されている。これらの成形加工法においては低せん断速度領域での溶融粘度を高くした材料が好ましく用いられている。これはかかる加工法において樹脂は溶融状態または軟化した状態で賦形されるためである。押出成形において、かかる材料は高温状態においてもその変形が抑制され、成形品を目的とする形状で製造することが容易である。ブロー成形において、かかる材料はドローダウンが抑制されるためブロー工程前の変形(特に肉厚の変化)が抑制され、成形品を目的とする形状で製造することが容易である。該材料は通常、分子量を高くする、分子量の極めて高い成分を導入する、または分岐構造を導入するなどの処方により低せん断速度領域での高い溶融粘度が付与されている。しかしながらかかる処方により低せん断速度領域の粘度を上昇させた材料は、高せん断速度領域の粘度をも上昇させる場合が多い。殊に芳香族ポリカーボネート樹脂などの非晶性熱可塑性樹脂であって、かつその耐熱性(熱変形温度)の高い樹脂は、その溶融粘度の高さに起因して粘度上昇が大きい。したがって低せん断速度領域の粘度を上昇させた材料は、押出機に不要な負荷をかけるため更なる粘度上昇を行うには限界があった。したがって、より良好な賦形性(目的形状の成形品の製造に対する容易さ)を求めるために材料を高粘度化すると、押出成形機中で高いせん断力をかけて材料を加熱・溶融させる過程において押出機および材料にかかる負荷がより大きくなる。かかるより大きな負荷は、樹脂温度の制御や成形品形状の制御を困難にするという相反する問題を抱えている。
【0007】
上記の如く、芳香族ポリカーボネートなどの非晶性熱可塑性樹脂からなる材料において、押出成形、ブロー成形、および薄肉成形品の射出成形といった成形加工法により好適な材料が求められているが、かかる材料は十分に達成されていないのが現状である。一方でこれら代表的な成形加工法に求められる要件をいずれも満足する材料は技術的に大変価値の高いものとなる。すなわち、従来成形加工法によってそれぞれに適正な溶融特性の樹脂材料を用いざるを得なかったところ、それらを一種の材料によって解決することは、高い汎用性および優れたリサイクル性を有する材料の提供を可能とすることになる。
【0008】
さて、無機充填剤として粘土鉱物、特に層状珪酸塩を用い、その層間イオンを各種の有機オニウムイオンにイオン交換させることにより樹脂中への微分散を達成させる技術は盛んに研究されており、層状珪酸塩の微分散により高流動性と高剛性が達成されることが期待される。これら研究は、特に結晶性樹脂が中心であり、機械特性などが大きく改良された材料が、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などにおいて達成されている。
【0009】
芳香族ポリカーボネートについての層状珪酸塩を微分散させる試みは、特開平03−215558号、特開平07−207134号、特開平07−228762号、特開平07−331092号、特開平09−143359号、および特開平10−60160号公報などに開示されている。特に、(i)特開平07−207134号、特開平07−228762号、および特開平07−331092号公報においては、特定の有機化剤で処理された層間化合物を配合したポリカーボネート樹脂による溶融流動性の向上(充填射出圧の低減)がなされている。また(ii)特開平09−143359号公報においては、層状珪酸塩化合物を含有したポリエステル系樹脂の配合による溶融粘度低減効果とそれによるバリの低減がなされている。更に(iii)特開2000−239397号公報には、特定の製造法から形成された芳香族ポリカーボネート樹脂および層状珪酸塩からなり押出成形により製造されたシートが開示されている。
【0010】
しかしながら、前者(i)に開示された樹脂組成物は、いずれも熱安定性が不十分であり、上記課題を解決するに十分なポリカーボネート樹脂組成物を開示していない。上記(i)には高せん断領域での溶融粘度低減が論じられているが、かかる低減は組成物の熱安定性の低下に基づく溶融粘度の低下に起因する部分が大きい。したがってその流動性の向上は従来の分子量低下や可塑剤の添加による処方と大きく変わるものではなかった。すなわち、かかるポリカーボネート樹脂組成物はその低せん断速度領域における溶融粘度が低下するため、押出成形およびブロー成形などにおいて必要な特性を有していない。またかかるポリカーボネート樹脂組成物は、成形品がより薄肉形状になることにより更に過酷な条件で射出成形を行う必要が生じた場合におけるバリ発生の問題を有し、その薄肉成形品の射出成形における適性は未だ不十分であるといえる。
【0011】
上記(ii)に開示された樹脂組成物においても同様に成形品がより薄肉形状になることにより更に過酷な条件で射出成形を行う必要が生じた場合におけるバリ発生の問題を有する。すなわちかかる樹脂組成物も未だ十分な熱安定性を有するものではなく、その溶融粘度の低下は熱安定性の低下に基づく溶融粘度の低下に起因する部分が大きいと考えられる。また熱安定性の低下に起因しかかる樹脂組成物の低せん断速度領域での溶融粘度は低下しており、その結果としてかかる樹脂組成物は押出成形およびブロー成形などにおいて必要な特性を有していない。
【0012】
上記(iii)に開示された樹脂組成物も同様に熱安定性は未だ十分とはいえず、押出成形、ブロー成形、および薄肉成形品の射出成形に好適な熱可塑性樹脂組成物、殊に芳香族ポリカーボネート樹脂を主体としてなる熱可塑性樹脂組成物を開示するものではなかった。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記問題点を鑑みた上で、押出成形、ブロー成形、および薄肉成形品の射出成形に好適な非晶性熱可塑性樹脂を主体としてなる熱可塑性樹脂組成物を提供すること、より好ましい目的として更に剛性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供すること、更に好ましい目的として芳香族ポリカーボネート樹脂を主体してなるかかる熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【0014】
本発明者らは、かかる目的を達成すべく鋭意検討した結果、芳香族ポリカーボネート樹脂、層状珪酸塩、及び特定の化合物からなる樹脂組成物が、極めて特異な溶融粘度特性を有し、かかる樹脂組成物が押出成形、ブロー成形、および薄肉成形品の射出成形に好適であることを見出した。本発明者らはかかる発見より更に鋭意検討を行い、本発明を完成するに至った。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明は、(1)(i)非晶性熱可塑性樹脂を主体としてなり、かつ(ii)240℃を基準として算出された複素粘性率が下記式(1)を満足する溶融粘度特性を有することを特徴とする押出成形用熱可塑性樹脂組成物にかかるものである。
log[ηa/ηb]≧0.5 (1)
(ここで、ηaは、平行円板形回転型レオメーターによる角周波数1rad/sにおける複素粘性率(Pa・s)、ηbは角周波数102rad/sにおける複素粘性率(Pa・s)を表す。)
【0016】
本発明の好適な態様の1つは、(2)上記熱可塑性樹脂組成物は、非晶性熱可塑性樹脂(A成分)100重量部あたり、50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有する層状珪酸塩(B成分)0.1〜50重量部を含んでなる樹脂組成物である上記(1)に記載の押出成形用熱可塑性樹脂組成物である。
【0017】
本発明の好適な態様の1つは、(3)上記B成分は、50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有し、かつ該陽イオン交換容量の40%以上の割合で有機オニウムイオンが層間にイオン交換されてなる層状珪酸塩である上記(2)に記載の押出成形用熱可塑性樹脂組成物である。
【0018】
本発明の好適な態様の1つは、(4)上記熱可塑性樹脂組成物は、更にA成分100重量部あたり、(C)A成分の非晶性熱可塑性樹脂との親和性を有しかつ親水性成分を有する化合物(C成分)0.1〜50重量部を含んでなる上記(2)または(3)のいずれか1つに記載の押出成形用熱可塑性樹脂組成物である。
【0019】
本発明の好適な態様の1つは、(5)上記A成分は芳香族ポリカーボネート樹脂である上記(2)〜(4)のいずれか1つに記載の押出成形用熱可塑性樹脂組成物である。
【0020】
本発明の好適な態様の1つは、(6)上記C成分は、カルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基を有するスチレン系重合体である上記(4)または(5)のいずれか1つに記載の押出成形用熱可塑性樹脂組成物である。
【0021】
本発明の好適な態様の1つは、(7)上記熱可塑性樹脂組成物は、本文中に規定する熱安定性評価法における粘度平均分子量の低下幅(ΔM)が3,000以内である上記(5)または(6)のいずれか1つに記載の押出成形用熱可塑性樹脂組成物である。
【0022】
本発明の好適な態様の1つは、(8)上記熱可塑性樹脂組成物は、更に(D)B成分以外の強化充填材(D成分)を含んでなり、該強化充填材は熱可塑性樹脂組成物100重量%あたり0.5〜50重量%である上記(2)〜(7)のいずれか1つに記載の押出成形用熱可塑性樹脂組成物である。
【0023】
本発明は、(9)(i)非晶性熱可塑性樹脂を主体としてなり、かつ(ii)240℃を基準として算出された複素粘性率が下記式(1)を満足する溶融粘度特性を有することを特徴とするブロー成形用熱可塑性樹脂組成物にかかるものである。
log[ηa/ηb]≧0.5 (1)
(ここで、ηaは、平行円板形回転型レオメーターによる角周波数1rad/sにおける複素粘性率(Pa・s)、ηbは角周波数102rad/sにおける複素粘性率(Pa・s)を表す。)
【0024】
本発明の好適な態様の1つは、(10)上記熱可塑性樹脂組成物は、非晶性熱可塑性樹脂(A成分)100重量部あたり、50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有する層状珪酸塩(B成分)0.1〜50重量部を含んでなる樹脂組成物である上記(9)に記載のブロー成形用熱可塑性樹脂組成物である。
【0025】
本発明の好適な態様の1つは、(11)上記B成分は、50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有し、かつ該陽イオン交換容量の40%以上の割合で有機オニウムイオンが層間にイオン交換されてなる層状珪酸塩である上記(10)に記載のブロー成形用熱可塑性樹脂組成物である。
【0026】
本発明の好適な態様の1つは、(12)上記熱可塑性樹脂組成物は、更にA成分100重量部あたり、(C)A成分の非晶性熱可塑性樹脂との親和性を有しかつ親水性成分を有する化合物(C成分)0.1〜50重量部を含んでなる上記(10)または(11)のいずれか1つに記載のブロー成形用熱可塑性樹脂組成物である。
【0027】
本発明の好適な態様の1つは、(13)上記A成分は芳香族ポリカーボネート樹脂である上記(10)〜(12)のいずれか1つに記載のブロー成形用熱可塑性樹脂組成物である。
【0028】
本発明の好適な態様の1つは、(14)上記C成分は、カルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基を有するスチレン系重合体である上記(12)または(13)のいずれか1つに記載のブロー成形用熱可塑性樹脂組成物である。
【0029】
本発明の好適な態様の1つは、(15)上記熱可塑性樹脂組成物は、本文中に規定する熱安定性評価法における粘度平均分子量の低下幅(ΔM)が3,000以内である上記(13)または(14)のいずれか1つに記載のブロー成形用熱可塑性樹脂組成物である。
【0030】
本発明の好適な態様の1つは、(16)上記熱可塑性樹脂組成物は、更に(D)B成分以外の強化充填材(D成分)を含んでなり、該強化充填材は熱可塑性樹脂組成物100重量%あたり0.5〜50重量%である上記(10)〜(15)のいずれか1つに記載のブロー成形用熱可塑性樹脂組成物である。
【0031】
本発明は、(17)(i)非晶性熱可塑性樹脂を主体としてなり、かつ(ii)240℃を基準として算出された複素粘性率が下記式(1)を満足する溶融粘度特性を有することを特徴とする薄肉成形品の射出成形用熱可塑性樹脂組成物にかかるものである。
【0032】
log[ηa/ηb]≧0.5 (1)
(ここで、ηaは、平行円板形回転型レオメーターによる角周波数1rad/sにおける複素粘性率(Pa・s)、ηbは角周波数102rad/sにおける複素粘性率(Pa・s)を表す。)
【0033】
本発明の好適な態様の1つは、(18)上記熱可塑性樹脂組成物は、非晶性熱可塑性樹脂(A成分)100重量部あたり、50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有する層状珪酸塩(B成分)0.1〜50重量部を含んでなる樹脂組成物である上記(17)に記載の薄肉成形品の射出成形用熱可塑性樹脂組成物である。
【0034】
本発明の好適な態様の1つは、(19)上記B成分は、50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有し、かつ該陽イオン交換容量の40%以上の割合で有機オニウムイオンが層間にイオン交換されてなる層状珪酸塩である上記(18)に記載の薄肉成形品の射出成形用熱可塑性樹脂組成物である。
【0035】
本発明の好適な態様の1つは、(20)上記熱可塑性樹脂組成物は、更にA成分100重量部あたり、(C)A成分の非晶性熱可塑性樹脂との親和性を有しかつ親水性成分を有する化合物(C成分)0.1〜50重量部を含んでなる上記(18)または(19)のいずれか1つに記載の薄肉成形品の射出成形用熱可塑性樹脂組成物である。
【0036】
本発明の好適な態様の1つは、(21)上記A成分は芳香族ポリカーボネート樹脂である上記(18)〜(20)のいずれか1つに記載の薄肉成形品の射出成形用熱可塑性樹脂組成物である。
【0037】
本発明の好適な態様の1つは、(22)上記C成分は、カルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基を有するスチレン系重合体である上記(20)または(21)のいずれか1つに記載の薄肉成形品の射出成形用熱可塑性樹脂組成物である。
【0038】
本発明の好適な態様の1つは、(23)上記熱可塑性樹脂組成物は、本文中に規定する熱安定性評価法における粘度平均分子量の低下幅(ΔM)が3,000以内である上記(21)または(22)のいずれか1つに記載の薄肉成形品の射出成形用熱可塑性樹脂組成物である。
【0039】
本発明の好適な態様の1つは、(24)上記熱可塑性樹脂組成物は、更に(D)B成分以外の強化充填材(D成分)を含んでなり、該強化充填材は熱可塑性樹脂組成物100重量%あたり0.5〜50重量%である上記(18)〜(23)のいずれか1つに記載の薄肉成形品の射出成形用熱可塑性樹脂組成物である。
【0040】
本発明の好適な態様の1つは、(25)上記熱可塑性樹脂組成物は、0.05mm以上2mm未満の厚みを有する薄肉成形品用である上記(17)〜(24)のいずれか1つに記載の薄肉成形品の射出成形用熱可塑性樹脂組成物である。
【0041】
本発明の好適な態様の1つは、(26)上記熱可塑性樹脂組成物は、その射出成形における射出速度が300mm/sec以上の条件であることを特徴とする上記(17)〜(25)のいずれか1つに記載の薄肉成形品の射出成形用熱可塑性樹脂組成物である。
【0042】
本発明の好適な態様の1つは、(27)上記(1)〜(8)のいずれか1つに記載の押出成形用熱可塑性樹脂組成物から押出成形法により製造された押出成形品である。
【0043】
本発明の好適な態様の1つは、(28)上記(9)〜(16)のいずれか1つに記載のブロー成形用熱可塑性樹脂組成物からブロー成形法により製造されたブロー成形品である。
【0044】
本発明の好適な態様の1つは、(29)上記(17)〜(26)のいずれか1つに記載の薄肉成形品の射出成形用熱可塑性樹脂組成物から射出成形法により製造された薄肉射出成形品である。
【0045】
以下本発明の詳細を説明する。
【0046】
本発明は、(i)非晶性熱可塑性樹脂を主体としてなり、かつ(ii)240℃を基準として算出された複素粘性率が下記式(1)を満足する溶融粘度特性を有することを特徴とする押出成形用熱可塑性樹脂組成物、ブロー成形用熱可塑性樹脂組成物、並びに薄肉成形品の射出成形用熱可塑性樹脂組成物にかかるものである。
【0047】
log[ηa/ηb]≧0.5 (1)
(ここで、ηaは、平行円板形回転型レオメーターによる角周波数1rad/sにおける複素粘性率(Pa・s)、ηbは角周波数102rad/sにおける複素粘性率(Pa・s)を表す。)
上記式(1)を満足する熱可塑性樹脂組成物は、低せん断速度領域での粘度が高せん断速度領域に比較して極めて高い。言い換えれば該熱可塑性樹脂組成物は極めてせん断速度依存性の高い溶融粘度特性を有する。かかる特性により以下の効果が達成される。すなわち該組成物は、押出成形やブロー成形などにおいて優れた賦形性を有する。該組成物は、射出成形において高流動性を持ちながらドルーリング、糸引き現象、およびバリ発生が抑えられるという効果を有する。結果として該組成物は薄肉成形品の射出成形に適する。尚、以後、押出成形やブロー成形における賦形性、並びに射出成形における高流動、かつドルーリング、糸引き現象、およびバリ発生の抑制される特性を、まとめて単に“成形加工特性”と称する場合がある。
【0048】
上記の如く本発明は、押出成形、ブロー成形、および薄肉成形品の射出成形のいずれにおいてもその成形加工特性が改良され、そしてこれら成形加工に好適な熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【0049】
本発明において、上記式(1)の右辺の0.5は、好ましくは0.7であり、より好ましくは0.8である。式(1)の条件を満足しない場合には、成形加工特性の改良効果が未だ十分ではなくなる。
【0050】
更に上記式(1)の左辺のlog[ηa/ηb]の上限は、1.2であることが好ましく、1.0であることがより好ましく、0.9であることが更に好ましい。かかる上限を超える場合にはηaの絶対値が相対的に低下するようになり、低せん断速度領域において十分な粘度を維持できない場合がある。
【0051】
更に上記式(1)において、ηa(Pa・s)の上限は15,000が好ましく、12,000がより好ましく、10,000が更に好ましい。一方ηb(Pa・s)の下限は、200が好ましく、400がより好ましく、500が更に好ましい。ηaの上限及びηbの下限がかかるの範囲にある場合にはその樹脂組成物は良好な成形加工特性を有する。
【0052】
上記式(1)における複素粘性率(ηaおよびηb)の算出方法は次のとおりである。すなわち平行円板形回転型レオメーターを用いて、240℃を含む種々の温度で複素粘性率の角周波数依存性のデータを求める。得られた各温度における該データを温度−振動数換算則(時間温度換算則)に基づいて合成する。その結果より広い角周波数範囲における複素粘性率のデータを求め、そのデータから角周波数1rad/sおよび102rad/sにおける複素粘性率を算出する。上記温度−周波数換算則に基づく合成曲線は、レオメーターに付属のコンピューターソフトウエアを用いて簡便に作成される。
【0053】
上記の方法を用いる理由は、通常使用される平行円板形回転型レオメーターの検出トルク精度が幅広いトルク領域に対応していないことによる。尚、平行円板形回転型レオメーターによる複素粘性率の測定においては、該粘性率の歪み依存性がない領域の一定歪みを入力することにより測定が行われる。
【0054】
本発明は、非晶性熱可塑性樹脂を主体としてなる押出成形用、ブロー成形用、および薄肉成形品の射出成形用の熱可塑性樹脂組成物にかかるものである。ここで非晶性熱可塑性樹脂を主体としてなるとは、樹脂成分100重量%中非晶性熱可塑性樹脂が40重量%以上、好ましくは50重量%以上、更に好ましくは60重量%以上、特に好ましくは75重量%以上含まれることをいう。
【0055】
押出成形は、原料を押出成形機で可塑化し、混練した後ダイから押出して所望の断面形状を与え固化させて、連続した製品を得る成形加工法である。押出成形品の形状は特に限定されるものではなく、Tダイおよびコートハンガーダイなどを用いたフィルム状およびシート状成形品、スパイラルダイなどを用いたチューブ状成形品、その他繊維状成形品、棒状成形品および異型押出成形による各種形状の成形品などが例示される。また押出成形にはサーキュラーダイを用いたインフレーション法によるフィルム、シート、またはチューブ状成形品の成形が含まれる。本発明における押出成形は、本発明において異なる構成を有する樹脂組成物、または他の樹脂との多層押出成形をすることが可能である。
【0056】
ブロー成形には、一般的には押出ブロー成形、射出ブロー成形がある。押出ブロー成形は、押出機で加熱溶融させた樹脂をダイヘッドからチューブ状(パリソン)に押出し、かかる溶融状態のパリソンを金型に挟んでパリソンの下部をピンチオフすると共に融着させ、かかるパリソン内部に空気を吹き込んでパリソンが金型内部表面と接触するように膨らませ、樹脂の冷却後金型を開き、成形品を取り出す成形方法である。押出ブロー成形は溶融押出したパリソンが冷却しないうちにブロー成形するため、ダイレクトブロー成形とも呼ばれる。射出ブロー成形は、射出成形によって試験管状の有底パリソン(プリフォーム)を成形し、このパリソンをガラス転移温度以上の温度でブロー成形する成形方法である。
【0057】
本発明の樹脂組成物はそのドローダウン特性が良好である点から、いわゆるダイレクトブロー成形において好適である。したがってより好適には本発明によれば、(i)非晶性熱可塑性樹脂を主体としてなり、かつ(ii)240℃を基準として算出された複素粘性率が上記式(1)を満足する溶融粘度特性を有することを特徴とするダイレクトブロー成形用熱可塑性樹脂組成物が提供される。
【0058】
本発明におけるブロー成形は、本発明において異なる構成を有する樹脂組成物、または他の樹脂との多層ブロー成形をすることが可能である。また本発明におけるブロー成形は延伸ブロー成形を含み、また3次元に屈曲した管状成形品を製造するためのブロー成形を含む。
【0059】
本発明の薄肉成形品とは、その主要部の厚みが2mm未満である成形品をいう。該厚みは好ましくは0.05mm以上2mm未満であり、より好ましくは0.1〜1.5mmの範囲であり、更に好ましくは0.1〜1mmの範囲である。尚、成形品中の一部に上記上限を超える厚みが存在していてもよい。ここで主要部とは成形品面積中60%を超える部分をいう。
【0060】
薄肉成形品の成形方法として近年いわゆる超高速射出成形法が使用されている。該成形法は樹脂のせん断速度依存性およびせん断発熱を利用して樹脂の溶融粘度を低下させる。その結果該成形法は射出成形時の流動性を向上させて、より薄肉の成形品の成形を可能とする。本発明の薄肉成形品の射出成形用熱可塑性樹脂組成物は、そのせん断速度依存性が極めて高いためかかる超高速射出成形において好適である。すなわち本発明の樹脂組成物はせん断速度の上昇による溶融粘度の低下は更に低いものとなり、その流動性は通常の樹脂に比較して更に向上する。また本発明の樹脂組成物では低せん断速度領域において十分な粘度も確保されるため、バリ発生などの成形不良も抑制されている。
【0061】
超高速射出成形法の射出速度は300mm/sec以上であることが好ましく、350mm/sec以上がより好ましい。一方上限としては800mm/secが適切である。
【0062】
本発明の樹脂組成物はその構成において好適には、非晶性熱可塑性樹脂(A成分)100重量部あたり、50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有する層状珪酸塩(B成分)0.1〜50重量部を含んでなる樹脂組成物である。
【0063】
本発明において非晶性熱可塑性樹脂としては、例えばポリスチレン、アクリル樹脂、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体から主としてなる樹脂)、SMA樹脂(スチレン−無水マレイン酸共重合体から主としてなる樹脂)、MS樹脂(メチルメタクリレート−スチレン共重合体から主としてなる樹脂)およびABS樹脂(アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体から主としてなる樹脂)、および芳香族ポリカーボネート樹脂などの非晶性エンジニアリングプラスチックなどが例示される。
【0064】
更に本発明において好ましい非晶性熱可塑性樹脂は、そのガラス転移温度(Tg)が120℃以上の非晶性熱可塑性樹脂である。かかるTgはより好ましくは130℃以上、更に好ましくは140℃以上である。一方かかるTgは280℃以下が適切であり、250℃以下が好ましい。かかる高いTgの非晶性熱可塑性樹脂は通常高い溶融粘度を有し、かつそのせん断速度依存性が十分でないことから、成形加工特性の改善が必要とされる場合がある。尚、本発明におけるガラス転移温度はJIS K7121に規定される方法にて測定されたものである。
【0065】
上記の非晶性熱可塑性樹脂の好ましい態様としては、例えば芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、およびポリアミノビスマレイミド樹脂、などが例示される。更に好ましくは、これらの中でも成形加工性に優れ、より広範な分野に適用が可能な芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、および環状ポリオレフィン樹脂が例示される。本発明の非晶性熱可塑性樹脂としては、上記の中でも機械的強度に特に優れる芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。また、芳香族ポリカーボネート樹脂に、ABS樹脂、芳香族ポリエステル樹脂などの他の熱可塑性樹脂を1種以上組み合わせても用いることができる。
【0066】
本発明のA成分の非晶性熱可塑性樹脂として特に好適な芳香族ポリカーボネート樹脂について説明する。
【0067】
本発明に用いられるA成分の代表例としての芳香族ポリカーボネート樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものであり、反応の方法としては界面重縮合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。
【0068】
二価フェノールの代表的な例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンおよびα,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼンなどを挙げることができる。特に、ビスフェノールAの単独重合体を挙げることができる。かかる芳香族ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性が優れる点で好ましい。
【0069】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、カーボネートエステルまたはハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。
【0070】
上記二価フェノールとカーボネート前駆体を界面重縮合法または溶融エステル交換法によって反応させて芳香族ポリカーボネートを製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールが酸化するのを防止するための酸化防止剤等を使用してもよい。また芳香族ポリカーボネート樹脂は三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐芳香族ポリカーボネート樹脂であってもよい。
【0071】
分岐芳香族ポリカーボネート樹脂を生ずる多官能性化合物を含む場合、かかる割合は、芳香族ポリカーボネート全量中、0.001〜1モル%、好ましくは0.005〜0.5モル%、特に好ましくは0.01〜0.3モル%である。また特に溶融エステル交換法の場合、副反応として分岐構造が生ずる場合があるが、かかる分岐構造量についても、芳香族ポリカーボネート全量中、0.001〜1モル%、好ましくは0.005〜0.5モル%、特に好ましくは0.01〜0.3モル%であるものが好ましい。尚、かかる割合については1H−NMR測定により算出することが可能である。
【0072】
更に芳香族または脂肪族の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネートであってもよい。脂肪族の二官能性カルボン酸としては、例えば炭素数8〜20、好ましくは10〜12の脂肪族の二官能性カルボン酸が挙げられる。かかる脂肪族の二官能性のカルボン酸は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。脂肪族の二官能性のカルボン酸は、α,ω−ジカルボン酸が好ましい。脂肪族の二官能性のカルボン酸としては例えば、セバシン酸(デカン二酸)、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸、イコサン二酸等の直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸が好ましく挙げられる。
【0073】
更にポリオルガノシロキサン単位を共重合した、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の使用も可能である。
【0074】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、上述した各種二価フェノールの異なるポリカーボネート、分岐成分を含有するポリカーボネート、各種のポリエステルカーボネート、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体など各種の芳香族ポリカーボネートの2種以上を混合したものであってもよい。更に下記に示す製造法の異なるポリカーボネート、末端停止剤の異なるポリカーボネートなど各種についても2種以上を混合したものが使用できる。
【0075】
芳香族ポリカーボネートの重合反応において界面重縮合法による反応は、通常二価フェノールとホスゲンとの反応であり、酸結合剤および有機溶媒の存在下に反応させる。酸結合剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物またはピリジン等のアミン化合物が用いられる。有機溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また、反応促進のために例えばトリエチルアミン、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド等の第三級アミン、第四級アンモニウム化合物、第四級ホスホニウム化合物等の触媒を用いることもできる。その際、反応温度は通常0〜40℃、反応時間は10分〜5時間程度、反応中のpHは9以上に保つのが好ましい。
【0076】
また、かかる重合反応において、通常末端停止剤が使用される。かかる末端停止剤として単官能フェノール類を使用することができる。単官能フェノール類の具体例としては、例えばフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノールおよびイソオクチルフェノールが挙げられる。また、末端停止剤は単独でまたは2種以上混合して使用してもよい。
【0077】
溶融エステル交換法による反応は、通常二価フェノールとカーボネートエステルとのエステル交換反応であり、不活性ガスの存在下に二価フェノールとカーボネートエステルとを加熱しながら混合して、生成するアルコールまたはフェノールを留出させる方法により行われる。反応温度は生成するアルコールまたはフェノールの沸点等により異なるが、通常120〜350℃の範囲である。反応後期には系を1.33×103〜13.3Pa程度に減圧して生成するアルコールまたはフェノールの留出を容易にさせる。反応時間は通常1〜4時間程度である。
【0078】
カーボネートエステルとしては、置換されていてもよい炭素数6〜10のアリール基、アラルキル基あるいは炭素数1〜4のアルキル基などのエステルが挙げられ、なかでもジフェニルカーボネートが好ましい。
【0079】
また、重合速度を速めるために重合触媒を用いることができ、かかる重合触媒としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、二価フェノールのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属化合物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の含窒素塩基性化合物などの触媒を用いることができる。更にアルカリ(土類)金属のアルコキシド類、アルカリ(土類)金属の有機酸塩類、ホウ素化合物類、ゲルマニウム化合物類、アンチモン化合物類、チタン化合物類、ジルコニウム化合物類などの通常エステル化反応、エステル交換反応に使用される触媒を用いることができる。触媒は単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの重合触媒の使用量は、原料の二価フェノール1モルに対し、好ましくは1×10-8〜1×10-3当量、より好ましくは1×10-7〜5×10-4当量の範囲で選ばれる。
【0080】
溶融エステル交換法による反応ではフェノール性の末端基を減少するために、重縮反応の後期あるいは終了後に、例えば2−クロロフェニルフェニルカーボネート、2−メトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートおよび2−エトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネート等の化合物を加えることができる。
【0081】
さらに溶融エステル交換法では触媒の活性を中和する失活剤を用いることが好ましい。かかる失活剤の量としては、残存する触媒1モルに対して0.5〜50モルの割合で用いるのが好ましい。また重合後のポリカーボネートに対し、0.01〜500ppmの割合、より好ましくは0.01〜300ppm、特に好ましくは0.01〜100ppmの割合で使用する。失活剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩などのホスホニウム塩、テトラエチルアンモニウムドデシルベンジルサルフェートなどのアンモニウム塩なとが好ましく挙げられる。
【0082】
芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は特定されない。しかしながら粘度平均分子量は、10,000未満であると強度などが低下し、50,000を超えると成形加工特性が低下するようになるので、10,000〜50,000の範囲が好ましく、12,000〜30,000の範囲がより好ましく、15,000〜28,000の範囲が更に好ましい。この場合粘度平均分子量が上記範囲外であるポリカーボネートとを混合することも当然に可能である。すなわち、粘度平均分子量が50,000を超える高分子量の芳香族ポリカーボネート成分を含有することができる。
【0083】
本発明でいう粘度平均分子量はまず次式にて算出される比粘度を20℃で塩化メチレン100mlに芳香族ポリカーボネート0.7gを溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求め、
比粘度(ηSP)=(t−t0)/t0
[t0は塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
求められた比粘度を次式にて挿入して粘度平均分子量Mを求める。
ηSP/c=[η]+0.45×[η]2c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10-4M0.83
c=0.7
【0084】
尚、本発明の樹脂組成物における粘度平均分子量を測定する場合は次の要領で行う。すなわち、該組成物を、その20〜30倍重量の塩化メチレンに溶解し、かかる可溶分をセライト濾過により採取した後、溶液を除去して十分に乾燥し、塩化メチレン可溶分の固体を得る。かかる固体0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液から、上式により算出される20℃における比粘度を、オストワルド粘度計を用いて求めることにより測定する。
【0085】
上記において、分岐芳香族ポリカーボネート樹脂、および粘度平均分子量50,000を超える高分子量成分の芳香族ポリカーボネートを含む芳香族ポリカーボネート樹脂は、その溶融時のエントロピー弾性を活かし押出成形およびブロー成形において好適な特性を有する。またかかる芳香族ポリカーボネート樹脂は低せん断速度領域における高い溶融粘度を有することから薄肉成形品の射出成形時においてバリ発生などの成形不良を抑制する。すなわち、かかる芳香族ポリカーボネート樹脂は通常使用される直鎖状かつ一般的な分子量範囲の芳香族ポリカーボネート樹脂に比較すれば、本発明において好ましい特性を有している。したがってかかる芳香族ポリカーボネート樹脂は、本発明に必要とされる特性が得られやすく好適な態様である。かかる芳香族ポリカーボネート樹脂は、少量の層状珪酸塩成分によって必要な特性が得られる利点および更にせん断速度依存性の高い特性が得られる利点を有する。
【0086】
分岐芳香族ポリカーボネート樹脂について説明する。かかる分岐芳香族ポリカーボネート樹脂を製造するためには通常三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合する方法が用いられる。
【0087】
三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、フロログルシン、フロログルシド、または4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキジフェニル)ヘプテン−2、2,4,6−トリメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、4−{4−[1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン}−α,α−ジメチルベンジルフェノール等のトリスフェノール、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)ケトン、1,4−ビス(4,4−ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼン、またはトリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸およびこれらの酸クロライド等が挙げられ、中でも1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましく、特に1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。
【0088】
分岐芳香族ポリカーボネート樹脂において、上記多官能性化合物に由来する分岐構造を有する繰り返し単位の割合は、芳香族ポリカーボネート樹脂における繰返し単位100モル%中、0.05〜0.3モル%の範囲が好ましく、0.05〜0.2モル%の範囲がより好ましく、0.05〜0.15モル%の範囲が更に好ましい。
【0089】
また特に溶融エステル交換法の場合、副反応として分岐構造が生ずる場合がある。すなわち上記多官能性芳香族化合物を含有しない場合であっても、重合反応中のモノマー成分の異性化反応などにより分岐構造が生ずる。本発明のA成分はかかる分岐芳香族ポリカーボネート樹脂も含むものである。尚、かかる割合については1H−NMR測定により算出することが可能である。
【0090】
更に上記分岐芳香族ポリカーボネート樹脂は、上記の好適な濃度範囲より更に高濃度である分岐成分を含有する芳香族ポリカーボネート樹脂と、分岐成分の含有量が少ないかまたは分岐成分を実質的に含有しない芳香族ポリカーボネート樹脂とを混合したものを使用することも可能である。
【0091】
本発明において、粘度平均分子量50,000を超える高分子量成分の芳香族ポリカーボネートを含む芳香族ポリカーボネート樹脂の好ましい態様として次の樹脂が例示される。すなわち粘度平均分子量70,000〜300,000の芳香族ポリカーボネート樹脂(A3−1成分)、および粘度平均分子量10,000〜30,000の芳香族ポリカーボネート樹脂(A3−2成分)からなり、その粘度平均分子量が16,000〜35,000である芳香族ポリカーボネート樹脂(A3成分)(以下、“高分子量成分含有芳香族ポリカーボネート樹脂”と称することがある)も使用できる。通常芳香族ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量/数平均分子量の比は約2弱〜3弱の数値範囲であることから、高分子量成分含有芳香族ポリカーボネート樹脂はGPC法による分子量分布チャートにおいて2つのポリマーピークを示す。
【0092】
高分子量成分含有芳香族ポリカーボネート樹脂(A3成分)において、A3−1成分の分子量は70,000〜200,000が好ましく、より好ましくは80,000〜200,000、更に好ましくは100,000〜200,000、特に好ましくは100,000〜160,000である。またA3−2成分の分子量は10,000〜25,000が好ましく、より好ましくは11,000〜24,000、更に好ましくは12,000〜24,000、特に好ましくは12,000〜23,000である。
【0093】
高分子量成分含有芳香族ポリカーボネート樹脂(A3成分)は上記A3−1成分とA3−2成分を種々の割合で混合し、所定の分子量範囲を満足するよう調整して得ることができる。好ましくは、A3成分100重量%中、A3−1成分が2〜40重量%の場合であり、より好ましくはA3−1成分が3〜30重量%であり、更に好ましくはA3−1成分が4〜20重量%であり、特に好ましくはA3−1成分が5〜20重量%である。
【0094】
また、A3成分の調整方法としては、(1)A3−1成分とA3−2成分とを、それぞれ独立に重合しこれらを混合する方法、(2)特開平5−306336号公報に示される方法に代表される、GPC法による分子量分布チャートにおいて複数のポリマーピークを示す芳香族ポリカーボネート樹脂を同一系内において製造する方法を用い、かかる芳香族ポリカーボネート樹脂を本発明のA−1成分の条件を満足するよう製造する方法、および(3)かかる製造方法((2)の製造法)により得られた芳香族ポリカーボネート樹脂と、別途製造されたA3−1成分および/またはA3−2成分とを混合する方法などを挙げることができる。
【0095】
次にB成分について説明する。
【0096】
本発明で用いられるB成分の層状珪酸塩は、SiO2連鎖からなるSiO4四面体シート構造とAl、Mg、Li等を含む八面体シート構造との組み合わせからなる層からなり、その層間に交換性陽イオンの配位した珪酸塩(シリケート)または粘土鉱物(クレー)である。これらは例えば、スメクタイト系鉱物、バーミキュライト、ハロイサイト、および膨潤性雲母などに代表される。具体的には、スメクタイト系鉱物としては、モンモリロナイト、ヘクトライト、フッ素ヘクトライト、サポナイト、バイデライト、スチブンサイト等が、膨潤性雲母としては、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、Na型四珪素フッ素雲母、Li型四珪素フッ素雲母等の膨潤性合成雲母等が挙げられる。これら層状珪酸塩は、天然のものおよび合成されたもののいずれも使用可能である。合成品は、例えば水熱合成、溶融合成、固体反応によって得ることができる。
【0097】
本発明に用いられる層状珪酸塩の陽イオン交換容量は、50〜200ミリ当量/100gである必要があるが、好ましくは80〜150ミリ当量/100g、さらに好ましくは100〜150ミリ当量/100gである。陽イオン交換容量は、土壌標準分析法として国内の公定法となっているショーレンベルガー改良法によってCEC値として測定される。層状珪酸塩の陽イオン交換容量は、非晶性熱可塑性樹脂、殊に芳香族ポリカーボネート樹脂への良好な分散性を得るためには、50ミリ当量/100g以上の陽イオン交換容量が必要であるが、200ミリ当量/100gより大きくなると、非晶性熱可塑性樹脂の熱劣化が大きくなり、殊に本発明において好適な芳香族ポリカーボネート樹脂の熱劣化への影響が大きくなってくる。
【0098】
本発明に用いられる層状珪酸塩は、そのpHの値が7〜10であることが好ましい。pHの値が10より大きくなると、本発明において好適な芳香族ポリカーボネート樹脂の熱安定性を低下させる傾向が現れてくる。
【0099】
これらの層状珪酸塩の中でも、陽イオン交換容量などの点から、モンモリロナイト、ヘクトライト等のスメクタイト系粘土鉱物、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、Na型四珪素フッ素雲母等の膨潤性を持ったフッ素雲母が好適に用いられ、ベントナイトを精製して得られるモンモリロナイトや合成フッ素雲母が、純度などの点からより好適である。更に、良好な機械特性が得られる合成フッ素雲母が特に好ましい。
【0100】
本発明で用いられるB成分の層状珪酸塩は、有機オニウムイオンが層状珪酸塩の層間にイオン交換されることにより、非晶性熱可塑性樹脂への配合時のせん断による層剥離が容易になり、良好な分散が促進される。したがって本発明のB成分の層状珪酸塩としては有機オニウム塩が層間にイオン交換されたものがより好適である。
【0101】
該有機オニウムイオンは、通常ハロゲンイオン等との塩として取り扱われる。ここで有機オニウムイオンとしては、例えばアンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、スルホニウムイオン、複素芳香環由来のオニウムイオン等が挙げられ、オニウムイオンとしては1級、2級、3級、4級のいずれも使用できるが、4級オニウムイオンが好ましい。またオニウムイオンとしてホスホニウムイオンを用いると、本発明において好適な芳香族ポリカーボネート樹脂の熱劣化が小さいという利点を得ることができる。したがって本発明の有機オニウムイオンとしては有機ホスホニウムイオンがより好適である。
【0102】
該イオン化合物には各種の有機基が結合したものが使用できる。有機基としてはアルキル基が代表的であるが、芳香族基をもったものでもよく、またエーテル基、エステル基、二重結合部分、三重結合部分、グリシジル基、カルボン酸基、酸無水物基、水酸基、アミノ基、アミド基、オキサゾリン環など各種官能基を含有したものでもよい。
【0103】
有機オニウムイオンの具体例としては、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等の同一のアルキル基を有する4級アンモニウム、トリメチルオクチルアンモニウム、トリメチルデシルアンモニウム、トリメチルドデシルアンモニウム、トリメチルテトラデシルアンモニウム、トリメチルヘキサデシルアンモニウム、トリメチルオクタデシルアンモニウム、およびトリメチルイコサニルアンモニウム等のトリメチルアルキルアンモニウム、トリメチルオクタデセニルアンモニウム等のトリメチルアルケニルアンモニウム、トリメチルオクタデカジエニルアンモニウム等のトリメチルアルカジエニルアンモニウム、トリエチルドデシルアンモニウム、トリエチルテトラデシルアンモニウム、トリエチルヘキサデシルアンモニウム、およびトリエチルオクタデシルアンモニウム等のトリエチルアルキルアンモニウム、トリブチルドデシルアンモニウム、トリブチルテトラデシルアンモニウム、トリブチルヘキサデシルアンモニウム、およびトリブチルオクタデシルアンモニウム等のトリブチルアルキルアンモニウム、ジメチルジオクチルアンモニウム、ジメチルジデシルアンモニウム、ジメチルジテトラデシルアンモニウム、ジメチルジヘキサデシルアンモニウム、およびジメチルジオクタデシルアンモニウム等のジメチルジアルキルアンモニウム、ジメチルジオクタデセニルアンモニウム等のジメチルジアルケニルアンモニウム、ジメチルジオクタデカジエニルアンモニウム等のジメチルジアルカジエニルアンモニウム、ジエチルジドデシルアンモニウム、ジエチルジテトラデシルアンモニウム、ジエチルジヘキサデシルアンモニウム、およびジエチルジオクタデシルアンモニウム等のジエチルジアルキルアンモニウム、ジブチルジドデシルアンモニウム、ジブチルジテトラデシルアンモニウム、ジブチルジヘキサデシルアンモニウム、およびジブチルジオクタデシルアンモニウム等のジブチルジアルキルアンモニウム、メチルベンジルジヘキサデシルアンモニウム等のメチルベンジルジアルキルアンモニウム、ジベンジルジヘキサデシルアンモニウム等のジベンジルジアルキルアンモニウム、トリオクチルメチルアンモニウム、トリドデシルメチルアンモニウム、およびトリテトラデシルメチルアンモニウム等のトリアルキルメチルアンモニウム、トリオクチルエチルアンモニウム、およびトリドデシルエチルアンモニウム等のトリアルキルエチルアンモニウム、トリオクチルブチルアンモニウム、およびトリデシルブチルアンモニウム等のトリアルキルブチルアンモニウム、トリメチルベンジルアンモニウム等の芳香環を有する4級アンモニウム、トリメチルフェニルアンモニウム等の芳香族アミン由来の4級アンモニウム、メチルジエチル[PEG]アンモニウム、およびメチルジエチル[PPG]等のトリアルキル[PAG]アンモニウム、メチルジメチルビス[PEG]アンモニウム等のジアルキルビス[PAG]アンモニウム、エチルトリス[PEG]アンモニウム等のアルキルトリス[PAG]アンモニウム、並びに上記アンモニウムイオンの窒素原子がリン原子に置き換わったホスホニウムイオンが挙げられる。なお、これらの有機オニウムイオンは、単独の使用および2種以上の組合せの使用のいずれも選択できる。尚、上記“PEG”の表記はポリエチレングリコールを、“PPG”の表記はポリプロピレングリコールを“PAG”の表記はポリアルキレングリコールを示す。ポリアルキレングリコールの分子量としては100〜1,500のものが使用できる。
【0104】
これら有機オニウムイオン化合物の分子量は、100〜600であることがより好ましい。より好ましくは150〜500である。分子量が600より多いときには、場合により芳香族ポリカーボネート樹脂など非晶性熱可塑性樹脂の熱劣化を促進したり、樹脂組成物の耐熱性を損なってしまう傾向が現れる。尚、かかる有機オニウムイオンの分子量は、ハロゲンイオン等のカウンターイオン分を含まない有機オニウムイオン単体の分子量を指す。また有機オニウムイオン化合物構造中のアルキル基として、高級アルキル基を用いず、炭素数10以下のアルキル基を用いることも、芳香族ポリカーボネート樹脂など非晶性熱可塑性樹脂の熱劣化を抑制する上で好ましい方法であるが、層状珪酸塩の良好な分散のためには、炭素数6〜8のアルキル基を有することが好ましい。
【0105】
有機オニウムイオンの好ましい態様としては、トリメチル−n−オクチルアンモニウム、トリメチル−n−デシルアンモニウム、トリメチル−n−ドデシルアンモニウム、トリメチル−n−ヘキサデシルアンモニウム、トリメチル−n−オクタデシルアンモニウム、メチルトリ−n−オクチルアンモニウム、エチルトリ−n−オクチルアンモニウム、ブチルトリ−n−オクチルアンモニウム、トリフェニルメチルアンモニウム、トリメチル−n−オクチルホスホニウム、トリメチル−n−デシルホスホニウム、トリメチル−n−ドデシルホスホニウム、トリメチル−n−ヘキサデシルホスホニウム、トリメチル−n−オクタデシルホスホニウム、メチルトリ−n−オクチルホスホニウム、エチルトリ−n−オクチルホスホニウム、ブチルトリ−n−オクチルホスホニウム、トリフェニルメチルホスホニウム等が挙げられる。
【0106】
層状珪酸塩への有機オニウムイオンのイオン交換は、極性溶媒中に分散させた層状珪酸塩に、有機オニウムイオンを添加し、析出してくるイオン交換化合物を収集することによって作製することができる。通常、このイオン交換反応は、有機オニウムイオン化合物を層状珪酸塩のイオン交換容量に対して、1.0〜1.5当量を加えて、ほぼ全量の層間の金属イオンを有機オニウムイオンで交換させるのが一般的であるが、この交換割合をより低い水準に抑えることも、芳香族ポリカーボネート樹脂など非晶性熱可塑性樹脂の熱劣化を抑制するうえで有効である。この有機オニウムイオンでイオン交換される割合は、層状珪酸塩のイオン交換容量に対して40%以上、好ましくは40〜80%である。この交換割合が40%より小さいと、イオン交換化合物の合成が困難になる。
【0107】
すなわち本発明の樹脂組成物はその構成において好適には、非晶性熱可塑性樹脂(A成分)100重量部あたり、50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有する層状珪酸塩(B成分)0.1〜50重量部を含んでなり、該B成分は、50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有し、かつ該陽イオン交換容量の40%以上の割合で有機オニウムイオンが層間にイオン交換されてなる層状珪酸塩である熱可塑性樹脂組成物である。
【0108】
有機オニウムイオンの交換割合は、交換後の化合物について、熱重量測定装置等を用いて、有機オニウムイオンの熱分解による重量減少を求めることにより算出することができる。
【0109】
本発明で用いられるB成分の層状珪酸塩の、A成分との組成割合は、A成分100重量部あたり0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜20重量部、更に好ましくは0.5〜10重量部である。この組成割合が0.1重量部より小さいときには芳香族ポリカーボネート樹脂など非晶性熱可塑性樹脂の機械特性の改良効果が見られず、また50重量部より大きくなると、組成物の熱安定性が低下し成形加工特性が劣ってくるため好ましくない。
【0110】
本発明の熱可塑性樹脂組成物はその構成において好適には、更にA成分100重量部あたり、(C)A成分の非晶性熱可塑性樹脂との親和性を有しかつ親水性成分を有する化合物(C成分)0.1〜50重量部を含んでなる熱可塑性樹脂組成物である。
【0111】
本発明のC成分は、非晶性熱可塑性樹脂(A成分)との親和性を有し、かつ親水性成分を有する化合物である。C成分のかかる構成は、非晶性熱可塑性樹脂および層状珪酸塩、殊に有機オニウムイオンが層間にイオン交換された層状珪酸塩(以下単に“有機化された層状珪酸塩”と称する場合がある)の双方に対する良好な親和性を生み出す。非晶性熱可塑性樹脂および層状珪酸塩双方に対する親和性は2種の成分の相溶性を向上させ、層状珪酸塩、殊に有機化された層状珪酸塩は非晶性熱可塑性樹脂中での微細かつ安定して分散するようになる。かかるC成分の働きは、異種ポリマー同士を相溶化させるために使用されるポリマーアロイ用相溶化剤(コンパティビライザー)と同様である。したがってC成分は低分子化合物よりも単量体が重合してなる重合体であることが好ましい。また重合体は混練加工時の熱安定性にも優れる。重合体の平均繰り返し単位数は2以上であることが必要であり、5以上が好ましく、10以上がより好ましい。一方、重合体の平均分子量の上限においては数平均分子量で2,000,000以下であることが好ましい。かかる上限を超えない場合には良好な成形加工性が得られる。
【0112】
本発明のC成分の基本的構造としては、例えば次の構造(i)および(ii)を挙げることができる。
【0113】
構造(i):非晶性熱可塑性樹脂に親和性を有する成分をα、親水性成分をβとするとき、αとβとからなるグラフト共重合体(主鎖:α、グラフト鎖:β、並びに主鎖:β、グラフト鎖:αのいずれも選択できる。)、αとβとからなるブロック共重合体(ジ−、トリ−、などブロックセグメント数は2以上を選択でき、ラジアルブロックタイプなどを含む。)、並びにαとβとからなるランダム共重合体。α、βはそれぞれ単一の重合体だけでなく共重合体であってもよい。
【0114】
ここでαおよびβは重合体セグメント単位、および単量体単位のいずれも示す。α成分は非晶性熱可塑性樹脂との親和性の観点から重合体セグメント単位であることが好ましい。
【0115】
構造(ii):非晶性熱可塑性樹脂に親和性を有する成分をα、親水性成分をβとするとき、αの機能は重合体全体によって発現され、βは該α内に含まれる構造を有する重合体。
【0116】
すなわちα単独では非晶性熱可塑性樹脂との親和性が十分ではないものの、αとβが組み合わされ一体化されることにより、非晶性熱可塑性樹脂との良好な親和性が発現する場合である。α単独の場合にも非晶性熱可塑性樹脂との親和性が良好であって、βとの組合せによって更に親和性が向上する場合もある。かかる態様は上記構造(i)に含まれる。したがって構造(i)および(ii)はその一部を重複する。一方、構造(i)はα単独では非晶性熱可塑性樹脂との親和性が十分ではあるが、αとβが組み合わされ一体化されることにより、非晶性熱可塑性樹脂との良好な親和性が逆に低下する態様もあり得る。当然のことながらかかる態様はC成分に含まれる。
【0117】
上記構造(i)および(ii)は本発明においていずれも選択できる。殊に構造(i)の条件および構造(ii)の条件を共に満足する態様、すなわちαのみでも非晶性熱可塑性樹脂に対する親和性が高く、βが付加したC成分全体において更にその親和性が高くなる態様が好適である。
【0118】
本発明における非晶性熱可塑性樹脂に親和性を有する成分(以下、上記に従いαと称する場合がある)について説明する。上記の如くC成分は、ポリマーアロイにおける相溶化剤との同様の働きをすることから、αには相溶化剤と同様の重合体に対する親和性が求められる。したがってαは大きく非反応型と反応型とに分類できる。
【0119】
非反応型では、以下の要因を有する場合に親和性が良好となる。即ち、非晶性熱可塑性樹脂とαとの間に、▲1▼化学構造の類似性、▲2▼溶解度パラメータの近似性(溶解度パラメータの差が1(cal/cm3)1/2以内、即ち約2.05(MPa)1/2以内が目安とされる)、▲3▼分子間相互作用(水素結合、イオン間相互作用など)、およびランダム重合体特有の擬引力的相互作用などの要因を有することが必要である。これらの要因は相溶化剤とポリマーアロイのベースになる重合体との親和性を判断する指標として知られている。
【0120】
また反応型では、相溶化剤において非晶性熱可塑性樹脂と反応性を有する官能基として知られた各種を挙げることができる。例えば非晶性熱可塑性樹脂として好適な芳香族ポリカーボネート樹脂に対しては、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、エポキシ基、オキサゾリン基、エステル基、エステル結合、カーボネート基、およびカーボネート結合などを例示することができる。
【0121】
一方で、非晶性熱可塑性樹脂とαが良好な親和性を得た場合、その結果として非晶性熱可塑性樹脂とαとの混合物において単一のガラス転移温度(Tg)を示すか、または非晶性熱可塑性樹脂のTgがαのTgの側に移動する挙動が認められることも広く知られるところである。本発明において親和性を有する成分(α)として、かかる挙動を有する成分をその態様の1つとして挙げることができる。
【0122】
上記の如く、本発明のC成分における非晶性熱可塑性樹脂と親和性を有する成分(α)は、各種の要因によりその親和性を発揮することが可能である。中でもαは非反応型であることが好ましく、殊に溶解度パラメータが近似することにより良好な親和性を発揮することが好ましい。これは反応型に比較して非晶性熱可塑性樹脂との親和性により優れるためである。また反応型は過度に反応性を高めた場合、副反応によって重合体の熱劣化が促進される欠点がある。
【0123】
非晶性熱可塑性樹脂およびαの溶解度パラメータは次の関係を有することが好ましい。即ち、非晶性熱可塑性樹脂(A成分)の溶解度パラメータをδA((MPa)1/2)、およびC成分におけるαの溶解度パラメータまたはC成分全体の溶解度パラメータをδα((MPa)1/2)としたとき、
δα=δA±2 ((MPa)1/2)
であることが好ましい。
【0124】
例えば、A成分として好適な芳香族ポリカーボネート樹脂の溶解度パラメータは通常約10(cal/cm3)1/2(即ち約20.5((MPa)1/2))とされていることから(「ポリマー・ハンドブック 第3版」(A WILEY−INTERSCIENCE PUBLICATION),VII/550頁、1989年、polycarbonate resinのSolvent Hydrogen Bondingがpoorのカテゴリーに記載の数値幅の中心値)、かかるA成分におけるδαは18.5〜22.5((MPa)1/2)の範囲が好ましく、19〜22((MPa)1/2)の範囲がより好ましい。
【0125】
例えばA成分として好適な芳香族ポリカーボネート樹脂におけるかかる溶解度パラメータδαを満足する重合体成分の具体例は、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、およびシクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレートなどに代表される)、および脂肪族ポリエステル(ポリカプロラクトンに代表される)などのポリエステル系重合体が挙げられる。またかかる具体例としては、スチレンポリマー、アルキル(メタ)アクリレートポリマー、およびアクリロニトリルポリマー(ポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリメチルメタクリレート、スチレン−メチルメタクリレート共重合体、およびスチレン−アクリロニトリル共重合体などに代表される)などのビニル系重合体を挙げることができる。本発明の組成物の耐熱性の保持のためには、Tgの高い重合体成分を用いることが好ましい。
【0126】
ここで溶解度パラメータは、「ポリマーハンドブック 第4版」(A WILEY−INTERSCIENCE PUBLICATION,1999年)中に記載されたSmallの値を用いた置換基寄与法(Group contribution methods)による理論的な推算方法が利用できる。また非晶性熱可塑性樹脂のTgはJIS K7121に準拠した示差走査熱量計(DSC)測定により求めることが可能である。
【0127】
上記のA成分の非晶性熱可塑性樹脂に親和性を有する成分αは、C成分中5重量%以上であることが好ましく、10重量%以上がより好ましく、30重量%以上が更に好ましく、50重量%以上が特に好ましい。C成分全体をαとする態様も可能であることから上限は100重量%であってよい。
【0128】
次に本発明におけるC成分の親水性成分(以下、上記に従いβと称する場合がある)について説明する。かかる親水性成分は、親水基(水との相互作用の強い有機性の原子団)を有する単量体および親水性重合体成分(重合体セグメント)より選択される。親水基は広く知られている。例えば化学大辞典(共立出版,1989年)によれば、下記の基が例示される。
【0129】
1)強親水性の基:
−SO3H、−SO3M、−OSO3H、−OSO3H、−COOM、
−NR3X (R:アルキル基、X:ハロゲン原子、M:アルカリ金属、−NH4) など
2)あまり親水性の強くない基:
−COOH、−NH2、−CN、−OH、−NHCONH2 など
3)親水性の小さい基:
−CH2OCH3、−OCH3、−COOCH3、−CS など
【0130】
上記1)〜3)の群の中で本発明における親水基は1)および2)に分類されるものが使用される。上記の例示以外にも、1)強親水性の基としてはスルフィン基などが例示され、2)あまり親水性の強くない基としては、カルボン酸無水物基、オキサゾリン基、ホルミル基およびピロリドン基などが例示される。
【0131】
上記2)の群は非晶性熱可塑性樹脂、殊に本発明において好適な芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融加工時の熱安定性により優れるため好ましい。親水性が高すぎる場合には芳香族ポリカーボネートなどの熱劣化が生じやすくなる。
【0132】
尚、本発明の親水基は1価および2価以上のいずれも含む。C成分が重合体の場合、2価以上の官能基とは該基が主鎖を構成しないものをいい、主鎖を構成するものは結合として官能基とは区別する。具体的には、主鎖を構成する炭素などの原子に付加した基、側鎖の基、および分子鎖末端の基は、2価以上であっても官能基である。
【0133】
親水基のより具体的な指標は、溶解度パラメータである。溶解度パラメータの値が大きいほど親水性が高くなることは広く知られている。基ごとの溶解度パラメータは、Fedorsによる基ごとの凝集エネルギー(Ecoh)および基ごとのモル体積(V)より算出することができる(「ポリマー・ハンドブック 第4版」(A WILEY−INTERSCIENCE PUBLICATION),VII/685頁、1999年、またはPolym.Eng.Sci.,第14巻,147および472頁,1974年)。かかる算出方法は簡便であり広く知られる。更に親水性の大小関係のみを比較する観点からは、凝集エネルギー(Ecoh)をモル体積(V)で除した数値(Ecoh/V;以下単位は“J/cm3”とする)を親水性の指標として使用できる。
【0134】
本発明のC成分におけるβに含まれる親水基は、Ecoh/Vが600以上であることが必要である。好ましくはEcoh/Vは800以上であり、800以上の場合には本発明のA成分として好適な芳香族ポリカーボネート樹脂におけるカーボネート結合のEcoh/Vを超え、カーボネート結合よりも高い親水性を有する。更にEcoh/Vは900以上がより好ましく、950以上が更に好ましい。
【0135】
上述のとおり、親水性が高すぎる場合には本発明において好適な芳香族ポリカーボネート樹脂の熱劣化が生じやすくなる。したがってEcoh/Vは2,500以下が好ましく、2,000以下がより好ましく、1,500以下が更に好ましい。
【0136】
C成分の親水性成分(β)として、親水性重合体成分(重合体セグメント)も選択される。したがってC成分の重合体中に含まれる親水性重合体のセグメントはβとなる。親水性重合体は広く知られ、例えばポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸金属塩(キレート型を含む)、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、およびポリヒドロキシエチルメタクリレートなどが例示される。これらの中でもポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、およびポリヒドロキシエチルメタクリレートが好ましく例示される。これらは良好な親水性と本発明において好適な芳香族ポリカーボネート樹脂に対する熱安定性(溶融加工時の芳香族ポリカーボネートの分解の抑制)とを両立できるためである。尚、ポリアルキレンオキシドとしては、ポリエチレンオキシドおよびポリプロピレンオキシドが好ましい。
【0137】
親水基を有する単量体および親水性重合体成分のいずれにおいても、βは酸性の官能基(以下単に“酸性基”と称する場合がある)を有することが好ましい。酸性基は本発明において好適な芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融加工時の熱劣化を抑制する。中でも窒素原子を含まない酸性基がより好適である。アミド基やイミド基などの窒素原子を含む官能基は溶融加工時の芳香族ポリカーボネート樹脂の熱劣化を十分には抑制しない場合がある。酸性基としてはカルボキシル酸、カルボン酸無水物基、スルホン酸基、およびスルフィン酸基以外に、ホスホン酸基およびホスフィン酸基などが例示される。
【0138】
本発明のC成分におけるβの割合は、βが親水基を有する単量体の場合、官能基1つ当たりの分子量である官能基当量として60〜10,000であり、70〜8,000が好ましく、80〜6,000がより好ましく、100〜3,000が更に好ましい。またC成分におけるβの割合は、βが親水性重合体セグメントの場合、C成分100重量%中βが5〜95重量%であり、10〜90重量%が好ましく、30〜70重量%がより好ましく、30〜50重量%が更に好ましい。
【0139】
非晶性熱可塑性樹脂に親和性を有する成分(α)と親水性成分(β)とを有する化合物の製造方法としては、βの単量体とαを構成する単量体とを共重合する方法、βの重合体成分をαとブロックまたはグラフト共重合する方法、およびβをαに直接反応させて付加する方法などが例示される。
【0140】
本発明のC成分の好ましい態様として、“芳香族ポリカーボネートとの親和性を有しかつ酸性の官能基を有する重合体”、“芳香族ポリカーボネートとの親和性を有しかつポリアルキレンオキシドセグメントを有する重合体”、“芳香族ポリカーボネートとの親和性を有しかつオキサゾリン基を有する重合体”、または“芳香族ポリカーボネートとの親和性を有しかつ水酸基を有する重合体”が例示される。これらのC成分として好ましい態様の重合体においては、その分子量は重量平均分子量において1万〜100万の範囲が好ましく、5万〜50万の範囲がより好ましい。かかる重量平均分子量は標準ポリスチレン樹脂による較正直線を使用したGPC測定によりポリスチレン換算の値として算出されるものである。
【0141】
上記の中でも芳香族ポリカーボネートとの親和性を有しかつ酸性の官能基を有する重合体が好ましく、更に好ましくは芳香族ポリカーボネートとの親和性を有しかつカルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基とを有する重合体である。また、芳香族ポリカーボネートの耐熱性保持効果の観点から、重合体は芳香環成分を主鎖に有するもの、およびスチレン成分を主鎖に有するものが好ましい。上記の点からカルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基を有するスチレン系重合体(C1成分)が本発明のC成分として特に好適である。
【0142】
本発明のC成分の組成割合は、A成分100重量部あたり0.5〜50重量部が好ましく、0.5〜20重量部がより好ましい。0.5重量部より少ない場合には層状珪酸塩の分散効果が十分でなく、また芳香族ポリカーボネートの熱劣化を抑制する効果も不十分となる場合がある。また50重量部を超えると耐衝撃性および耐熱性などが低下する場合がある。
【0143】
本発明のC成分として特に好適なカルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基を有するスチレン系重合体(C1成分)について詳述する。かかるカルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基の割合としては、0.1〜12ミリ当量/gが好ましく、0.5〜5ミリ当量/gがより好ましい。ここでC1成分における1当量とは、カルボキシル基が1モル存在することをいい、かかる値は水酸化カリウムなどの逆滴定により算出することが可能である。
【0144】
カルボキシル基の誘導体からなる官能基としては、カルボキシル基の水酸基を(i)金属イオンで置換した金属塩(キレート塩を含む)、(ii)塩素原子で置換した酸塩化物、(iii)−ORで置換したエステル(Rは一価の炭化水素基)、(iv)−O(CO)Rで置換した酸無水物(Rは一価の炭化水素基)、(v)−NR2で置換したアミド(Rは水素又は一価の炭化水素基)、並びに(vi)2つのカルボキシル基の水酸基を=NRで置換したイミド(Rは水素又は一価の炭化水素基)などを挙げることができる。
【0145】
カルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基(以下、単に“カルボキシル基類”と称する)を有するスチレン系重合体の製造方法としては、従来公知の各種の方法を取ることができる。例えば、▲1▼カルボキシル基を有する単量体とスチレン系単量体とを共重合する方法、及び▲2▼スチレン系重合体に対してカルボキシル基類を有する化合物又は単量体を結合または共重合する方法などを挙げることができる。
【0146】
上記▲1▼の共重合においては、ランダム共重合体の他に交互共重合体、ブロック共重合体、テーパード共重合体などの各種形態の共重合体が使用できる。また共重合の方法においても溶液重合、懸濁重合、塊状重合などのラジカル重合法の他、アニオンリビング重合法やグループトランスファー重合法などの各種重合方法を取ることができる。更に一旦マクロモノマーを形成した後重合する方法も可能である。
【0147】
上記▲2▼の方法は、一般的にはスチレン系重合体又は共重合体に必要に応じて、パーオキサイドや2,3−ジメチル−2,3ジフェニルブタン(ジクミル)などのラジカル発生剤を加えて、高温化で反応又は共重合する方法を挙げることができる。かかる方法はスチレン系重合体または共重合体に熱的に反応活性点を生成し、かかる活性点に反応する化合物または単量体を反応させるものである。反応に要する活性点を生成するその他の方法として、放射線や電子線の照射やメカノケミカル手法による外力の付与などの方法も挙げられる。更にスチレン系共重合体中に予め反応に要する活性点を生成する単量体を共重合しておく方法も挙げられる。反応のための活性点としては不飽和結合、パーオキサイド結合、および立体障害が高く熱的に安定なニトロオキシドラジカルなどを挙げることができる。
【0148】
上記カルボキシル基類を有する化合物又は単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド等の不飽和モノカルボン酸及びその誘導体、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド等の無水マレイン酸の誘導体、並びにグルタルイミド構造やアクリル酸と多価の金属イオンで形成されたキレート構造等が挙げられる。これらの中でも金属イオンや窒素原子を含まない官能基を有する単量体が好適であり、カルボキシル基およびカルボン酸無水物基を有する単量体がより好適である。これらの中でも特に好ましくは無水マレイン酸である。
【0149】
また、スチレン系化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、tert−ブチルスチレン、α−メチルビニルトルエン、ジメチルスチレン、クロルスチレン、ジクロルスチレン、ブロムスチレン、ジブロムスチレン、ビニルナフタレン等を用いることができるが、特にスチレンが好ましい。
【0150】
さらに、これらの化合物と共重合可能な他の化合物、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等を共重合成分として使用しても差し支えない。
【0151】
上記カルボキシル基類を有するスチレン系重合体のうち、本発明において好適であるのは、カルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基を有する単量体を共重合してなるスチレン系共重合体である。かかる共重合体においては比較的多くのカルボキシル基類を安定してスチレン系重合体中に含むことが可能となるためである。より好適な態様としてカルボキシル基類を有する単量体とスチレン系単量体とを共重合してなるスチレン系共重合体を挙げることができる。そして殊に好適な態様はスチレン−無水マレイン酸共重合体である。スチレン−無水マレイン酸共重合体は、層状珪酸塩中のイオン成分及び芳香族ポリカーボネート樹脂のいずれに対しても高い相溶性を有すると共に、それ自体の熱安定性が良好であるため、芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融加工に必要な高温条件に対しても高い安定性を有する。
【0152】
上記カルボキシル基類を有する単量体を共重合してなるスチレン系共重合体の組成については上述のβの割合における条件を満足する範囲内において何ら制限はないが、カルボキシル基類を有する単量体を1〜30重量%、スチレン系化合物99〜70重量%及び共重合可能な他の化合物0〜29重量%の範囲のものを用いるのが好ましく、カルボキシル基類を有する単量体を1〜30重量%、スチレン系化合物99〜70重量%のものが特に好ましい。
【0153】
また、本発明のC成分の好ましい態様であるC1成分の分子量は特に制限されない。C1成分の重量平均分子量は1万〜100万の範囲にあることが好ましく、5万〜50万の範囲がより好ましい。尚、ここで示す重量平均分子量は、標準ポリスチレン樹脂による較正直線を使用したGPC測定によりポリスチレン換算の値として算出されたものである。
【0154】
本発明のC成分として好適なポリアルキレンオキシドセグメントを有する重合体、殊に好ましいポリエーテルエステル共重合体(C2成分)について説明する。
【0155】
ポリエーテルエステル共重合体は、ジカルボン酸、アルキレングリコール、およびポリ(アルキレンオキシド)グリコール、並びにこれらの誘導体から重縮合を行うことで製造される重合体である。殊に好適な例としては、下記式(I)で示されるポリアルキレンオキシド単位を有するポリ(アルキレンオキシド)グリコールあるいはその誘導体(C2▲1▼成分)、テトラメチレングリコールを65モル%以上含有するアルキレングリコールあるいはその誘導体(C2▲2▼成分)、およびテレフタル酸を60モル%以上含有するジカルボン酸あるいはその誘導体(C2▲3▼成分)から製造される共重合体である。
【0156】
【化1】
【0157】
(ここで、Xは一価の有機基を表し、nおよびmはいずれも0を含む整数であり、かつ10≦(n+m)≦120である。mが2以上の場合Xは互いに同一および異なる態様のいずれも選択できる。)
上記式(I)においてXは−CH3、−CH2Cl、−CH2Br、−CH2I、および−CH2OCH3から選択される少なくとも1種の置換基が好ましい。Xがこれら以外の場合には置換基による立体障害が大きくなり共重合体の重合度を上げることが困難となる。またn+mが10未満の場合には層状珪酸塩が十分に分散しない場合があり、n+mが120を超える場合には、重合度の高いポリエーテルエステル共重合体が得られ難くなり、C2成分の相溶化機能が低下する場合がある。
【0158】
上記式(I)におけるポリアルキレンオキシド成分は、ポリエチレンオキシド成分と置換基Xを有する成分とのランダム共重合体、テーパード共重合体およびブロック共重合体のいずれも選択できる。上記式(I)におけるポリアルキレンオキシドは、特にm=0、すなわちポリエチレンオキシド成分のみからなる重合体成分が好ましい。
【0159】
C2▲1▼成分の共重合割合は、全グリコール成分の30〜80重量%であり、より好適には40〜70重量%である。C2▲1▼成分が30重量%より少ない場合には層状珪酸塩は十分に分散されず、機械特性の低下や外観の悪化を生ずる場合がある。C2▲1▼成分が80重量%より多い場合にも層状珪酸塩は十分に分散されず、またポリエーテルエステル共重合体自身の強度低下も加わることで、機械特性の低下や外観の悪化を生ずる場合がある。
【0160】
C2成分のポリエーテルエステル共重合体のC2▲2▼成分においては、テトラメチレングリコール以外のジオールを共重合することができる。かかるジオールとしては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールが例示される。C2▲2▼成分中テトラメチレングリコールは65モル%以上であり、75モル%以上が好ましく、85モル%以上がより好ましい。テトラメチレングリコールが65モル%未満のポリエーテルエステル共重合体は、樹脂組成物の成形性の低下を招く。
【0161】
ポリエーテルエステル共重合体のジカルボン酸あるいはその誘導体(C2▲3▼成分)においては、テレフタル酸以外のジカルボン酸(カルボキシル基が2を超えるものを含む)を共重合することができるるかかるジカルボン酸としては、イソフタル酸、フタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸が例示される。イソフタル酸を共重合したポリエーテルエステル共重合体はC成分として特に好適である。C2▲3▼成分中テレフタル酸は60モル%以上であり、70モル%以上が好ましく、75〜95モル%がより好ましい。テレフタル酸が60モル%未満のポリエーテルエステル共重合体は、共重合体の重合度が低下しやすく、十分な重合度のポリエーテルエステル共重合体の製造が困難となるため好ましくない。
【0162】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、A成分が芳香族ポリカーボネート樹脂の場合において、下記に示す熱安定性評価法における粘度平均分子量の低下幅(ΔM)が3,000以内である樹脂組成物が好適である。かかるΔMの値は上記A成分、B成分およびC成分からなる熱可塑性樹脂組成物において達成されるものであり、殊にC成分が上記C1成分またはC2成分において良好に達成され、殊にC1成分において極めて良好に達成される。上記の熱安定性を達成することにより、本発明の熱可塑性樹脂組成物は各種成形法において低せん断速度領域における十分な粘度を維持し、各種成形法における成形加工特性の改善を可能とする。
【0163】
ここで熱安定性評価法は、射出成形において、通常の特性評価や製品生産に用いられる適正範囲内の成形条件で得た成形品の粘度平均分子量と、樹脂溶融状態で成形機中に滞留する時間を10分間延長させて得た成形品の粘度平均分子量の差を求める方法である。ここで適正範囲内の成形条件として具体的には、実質的に成形機内滞留のない状態で測定された(例えばパージ直後に測定を行うなど)流路厚み2mmおよび射出圧力120MPaのアルキメデス型スパイラルフロー長測定において、その流路長が300mmとなる温度をいう。更にかかる測定における金型温度はその荷重たわみ温度(ISO 75 1.80MPa荷重)から30℃低い温度とする。尚、ΔMは温度が高いほど大きくなることから、その適正を判断する場合は必ずしも上記適正範囲内の条件で成形を行う必要はなく、荷重たわみ温度より30℃以上低い金型温度で、かつ300mm以上の流動長となる温度で上記ΔMを満足すれば、本発明の好適な樹脂組成物であるといえる。
【0164】
上記ΔMは2,500以下が好ましく、2,000以下がより好ましく、1,500以下が更に好ましい。
【0165】
本発明にD成分として、B成分以外の強化充填材を更に配合することも、より高い強度や寸法安定性を得ることに対して有効である。無機充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、ガラスフレーク、ワラストナイト、カオリンクレー、マイカ、タルクおよび各種ウイスカー類(チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカーなど)といった一般に知られている各種フィラーを併用することができる。ガラス繊維、炭素繊維およびガラスフレークなどは樹脂組成物の強度や耐衝撃性の向上のためには好適である。フィラーの形状は繊維状、フレーク状、球状、中空状を自由に選択できる。D成分の配合量は、全樹脂組成物100重量%あたり50重量%以下が適切であり、0.5〜50重量%の範囲が好ましく、1〜35重量%の範囲がより好ましい。かかる配合量が50重量%を超えると、成形加工性が悪化し、本発明の効果が得られないため好ましくない。
【0166】
さらに本発明の効果を発揮する範囲で、他の熱可塑性樹脂(例えば、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂およびポリフェニレンサルファイド樹脂等の結晶性熱可塑性樹脂)、難燃剤(例えば、臭素化エポキシ樹脂、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリカーボネート、臭素化ポリアクリレート、モノホスフェート化合物、ホスフェートオリゴマー化合物、ホスホネートオリゴマー化合物、ホスホニトリルオリゴマー化合物、ホスホン酸アミド化合物、有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩、シリコーン系難燃剤等)、難燃助剤(例えば、アンチモン酸ナトリウム、三酸化アンチモン等)、滴下防止剤(フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン等)、核剤(例えば、ステアリン酸ナトリウム、エチレン−アクリル酸ナトリウム等)、酸化防止剤(例えば、ヒンダ−ドフェノ−ル系化合物、イオウ系酸化防止剤等)、衝撃改良剤、紫外線吸収剤、光安定剤、離型剤、滑剤、着色剤(染料、無機顔料等)、および蛍光増白剤等を配合してもよい。
【0167】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、リン系熱安定剤を含むことが好ましい。かかるリン系熱安定剤としてはトリメチルホスフェート等のリン酸エステル、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリト−ルジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリト−ルジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、およびビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等の亜リン酸エステル、並びにテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト等の亜ホスホン酸エステルなど、芳香族ポリカーボネート樹脂のリン系熱安定剤として広く知られた化合物が好適に例示される。かかるリン系熱安定剤は全組成物100重量%中0.001〜1重量%を含むことが好ましく、0.01〜0.5重量%を含むことがより好ましく、0.01〜0.2重量%を含むことが更に好ましい。かかるリン系熱安定剤の配合によりさらに熱安定性が向上し良好な成形加工特性を得ることができる。
【0168】
本発明の樹脂組成物を製造するには、任意の方法が採用される。例えば各成分、並びに任意に他の成分を予備混合し、その後溶融混練し、ペレット化する方法を挙げることができる。予備混合の手段としては、ナウターミキサー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などを挙げることができる。予備混合においては場合により押出造粒器やブリケッティングマシーンなどにより造粒を行うこともできる。予備混合後、ベント式二軸押出機に代表される溶融混練機で溶融混練、およびペレタイザー等の機器によりペレット化する。溶融混練機としては他にバンバリーミキサー、混練ロール、恒熱撹拌容器などを挙げることができるが、ベント式二軸押出機が好ましい。
【0169】
更に、本発明の樹脂組成物の溶融混練機による溶融混練において次の態様がより好適である。すなわち、50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換能を有する層状珪酸塩(B成分)と、A成分の非晶性熱可塑性樹脂との親和性を有しかつ親水性成分を有する化合物(C成分)、殊に好適にはカルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基を有するスチレン系重合体(C1成分)とを予め溶融混練しておく。その後該溶融混練物とA成分の非晶性熱可塑性樹脂、殊に好適には芳香族ポリカーボネートとを溶融混練する。かかる溶融混練方法は非晶性熱可塑性樹脂の熱安定性を向上させるため好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂においてはその分子量低下が特に抑制されるため好ましい溶融混練方法である。
【0170】
より具体的には、例えば、(i)B成分とC成分をベント式二軸押出機にて溶融混練しペレット化したものを、再度A成分と溶融混練する方法や、(ii)B成分とC成分をベント式二軸押出機の主供給口より投入し、A成分の一部または全部を二軸押出機の途中段階に設けられた供給口から、B成分とC成分が既に溶融混練された状態の中へ投入する方法などが挙げられる。これらB成分とC成分を予め溶融混練する方法においては、その溶融混練時に、A成分の一部を含んでいても構わない。
【0171】
本発明の樹脂組成物は特定の溶融粘度特性を有することから、本発明によれば押出成形、ブロー成形、および薄肉成形品の射出成形に好適に用いられる熱可塑性樹脂組成物が提供される。更に本発明の好適な樹脂組成物、すなわち有機化された層状珪酸塩およびA成分の非晶性熱可塑性樹脂との親和性を有しかつ親水性成分を有する化合物を含む樹脂組成物は、剛性、良好な熱安定性、および表面平滑性に優れる。かかる樹脂組成物は充填材を含まない熱可塑性樹脂と同程度の表面平滑性を得た上で、成形品の薄肉化およびそれに起因する製品の軽量化を達成する。上記の効果は従来の分子量の調整や、分岐成分の導入のみでは得られない効果である。
【0172】
上記より本発明によれば、本発明の押出成形用熱可塑性樹脂組成物から押出成形法により製造された押出成形品が提供される。押出成形品の具体例としては、熱成形用シート、シート、フィルム、レール、カード、チューブ、繊維、および各種異型押出成形品が例示される。本発明によれば、本発明のブロー成形用熱可塑性樹脂組成物からブロー成形法により製造されたブロー成形品が提供される。ブロー成形品の具体例としては、ボトル、ドラム、タンク、および各種中空成形品が例示される。本発明によれば、本発明の薄肉成形品の射出成形用熱可塑性樹脂組成物から射出成形法により製造された薄肉射出成形品が提供される。薄肉射出成形品の具体例としては、電池ハウジングなどの各種ハウジング成形品、鏡筒、メモリーカード、スピーカーコーン、ディスクカートリッジ、面発光体、マイクロマシン用機構部品、銘板、およびICカードなどが例示される。
【0173】
更に上記の如く製造された樹脂組成物からなる成形品には、各種の表面処理を行うことが可能である。表面処理としては、加飾塗装、ハードコート、撥水・撥油コート、紫外線吸収コート、赤外線吸収コート、並びにメタライジング(メッキ、蒸着、スパッタリングなど)などの各種の表面処理を行うことができる。殊にメタライジングは好ましい表面処理である。
【0174】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳述する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0175】
なお、実施例中の各種特性の測定は、以下の方法によった。原料は以下の原料を用いた。
(1)溶融粘度特性
平行円板形回転型レオメーター(RDA−IIダイナミックアナライザー:Rheometric Scientific Inc.製)にて、厚み2mmの平板より切り出した直径25mm×厚さ2mmの試験片を用いて測定を行った。試験は、直径25mmのパラレルプレート、周波数範囲:100〜0.01rad/s、歪:5%、温度範囲:220℃〜280℃の条件にて、各測定温度において周波数の設定範囲:100〜0.1rad/sで行った。240℃を基準温度とし、その他の温度の測定値を温度−振動数換算則より換算して得た合成曲線より、角周波数1rad/s及び102rad/sにおける複素粘性率の値(それぞれηa、ηb(Pa・s))を求めた。
(2)層状珪酸塩の含有量
試験片を射出成形機(東芝機械(株)製:IS−150EN)によりシリンダー温度260℃、金型温度80℃、成形サイクル40秒で成形し、成形した試験片を切削してるつぼに入れて秤量し、600℃まで昇温し、そのまま6時間保持した後で放冷し、るつぼに残った灰化残渣を秤量することで層状珪酸塩量を測定した。
(3)粘度平均分子量および粘度平均分子量の低下幅(ΔM)の測定
試験片を上記(2)と同条件で成形し、試験片の粘度平均分子量を本文中記載の方法にて測定した。また、試験片の成形中に成形動作を10分間停止させることにより樹脂の溶融滞留時間を延長させ、その直後に得た成形品の粘度平均分子量と上記(2)の条件による試験片の粘度平均分子量の差(ΔM)を求めた。
(4)機械特性
試験片を上記(2)と同条件で成形し、成形された試験片に対してASTM D790に準拠して曲げ試験を行った(試験片形状:長さ127mm×幅12.7mm×厚み6.4mm)。
(5)耐熱性
試験片を上記(2)と同条件で成形し、成形された試験片に対してASTM D648に準拠して荷重たわみ温度を測定した(試験片形状:長さ127mm×幅12.7mm×厚み6.4mm)。
【0176】
[原料]
原料としては、以下のものを用いた。
(A成分)
(A−1、A−2、A−3):ホスゲン法で作成されたビスフェノールA及び末端停止剤としてp−tert−ブチルフェノールからなる直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂パウダー。粘度平均分子量、16,000(A−1)、23,700(A−2)、27,000(A−3)。
【0177】
A−4:ビスフェノールAおよび末端停止剤としてp−tert−ブチルフェノール、並びにホスゲンから界面重縮合法で合成した直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂において、粘度平均分子量15,200のものが10重量部、粘度平均分子量23,700のものが80重量部、および120,000のものが10重量部を溶融混合してなり、その粘度平均分子量が29,500の芳香族ポリカーボネート樹脂ペレット
A−5:分岐状芳香族ポリカーボネート樹脂ペレット(出光石油化学(株)製タフロンIB2500)
【0178】
(B成分)
合成フッ素雲母(コープケミカル(株)製:ソマシフ ME−100、陽イオン交換容量:110ミリ当量/100g)
また層状珪酸塩の層間陽イオンをイオン交換するのに用いた有機オニウムイオンは次のとおりであった。
▲1▼ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド(東京化成工業(株)製:1級試薬)
▲2▼トリ−n−ブチル−n−ヘキサデシルホスホニウムブロマイド(日本化学工業(株)製:ヒシコーリン PX−416B)
▲3▼トリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライド(東京化成工業(株)製:1級試薬)
【0179】
(C成分)
(C−1)スチレン−無水マレイン酸共重合体(ノヴァケミカルジャパン(株)製:DYLARK 332−80、無水マレイン酸量約15重量%)
(C−2)スチレン−無水マレイン酸共重合体(ノヴァケミカルジャパン(株)製:DYLARK 232、無水マレイン酸量約10重量%)
(C−3)(2−イソプロペニル−2−オキサゾリン)−スチレン共重合体((株)日本触媒製:EPOCROS RPS−1005、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン量約5重量%)
(C−4)後述の方法により作製したポリエーテルエステル共重合体
その他成分として、リン酸トリメチル(大八化学(株)製:TMP)を用い、また一部のサンプルにおいてワラストナイト(ナイコミネラルズ社製:NYGLOS4)を使用した。
【0180】
[層間化合物の作製方法]
合成フッ素雲母への、上記有機オニウムのイオン交換を次の方法により行った。
【0181】
合成フッ素雲母約100gを精秤しこれを室温の水10リットルに撹拌分散し、ここにオニウムイオンのクロライドまたはブロマイドを合成フッ素雲母の陽イオン交換当量に対して種々当量を添加して6時間撹拌した。生成した沈降性の固体を濾別し、次いで30リットルの脱塩水中で撹拌洗浄後再び濾別した。この洗浄と濾別の操作を3回行った。得られた固体は3〜7日の風乾後乳鉢で粉砕し、更に50℃の温風乾燥を3〜10時間行い(ゲストのオニウムイオンの種類により異なる)、再度乳鉢で最大粒径が100μm程度となるまで粉砕した。かかる温風乾燥により窒素気流下120℃で1時間保持した場合の熱重量減少で評価した残留水分量が2〜3重量%とした。オニウムイオンのイオン交換割合については、イオン交換された層状珪酸塩の、窒素気流下500℃で3時間保持した場合の残渣の重量分率を測定することにより求めた。作製した有機オニウムイオン交換合成フッ素雲母を表1に示す。
【0182】
【表1】
【0183】
[ポリエーテルエステル共重合体の作製方法]
ジメチルテレフタレート(DMT)、ジメチルイソフタレート(DMI)、テトラメチレングリコール(TMG)、エチレングリコール(EG)、及びポリエチレングリコール(PEG)、触媒としてテトラブチルチタネート(酸成分に対して0.090mol%)を反応器に仕込み、内温190℃でエステル化反応を行った。理論量の約80%のメタノールが留出した後、昇温を開始し、徐々に減圧しながら重縮合反応を行った。1mmHg以下の真空度に到達後、240℃で200分間反応を継続した。次いで酸化防止剤イルガノックス1010をポリエチレングリコールに対して5wt%添加し、反応を終了した。精製したポリマーの組成を表2に示す。
【0184】
【表2】
【0185】
[実施例4〜7および9〜11、比較例1〜3]各成分を表3記載の配合割合でドライブレンドした後、径30mmφ、L/D=33.2、混練ゾーン2箇所のスクリューを装備したベント付き二軸押出機((株)神戸製鋼所製:KTX30)を用い、シリンダー温度280℃にて溶融混練し、押出し、ストランドカットしてペレットを得た。
【0186】
なお、C成分として、C−1及びC−2を用いたときには、それらとB成分を表3記載の配合割合でドライブレンドした後、径30mmφ、L/D=33.2、混練ゾーン2箇所のスクリューを装備したベント付き二軸押出機((株)神戸製鋼所製:KTX30)を用い、シリンダー温度200℃にて溶融混練してペレットを得たのち、それらペレットをA成分などの他成分と先述の方法で、溶融混練、押出し、ストランドカットしてペレットを得た。
【0187】
尚、実施例11のサンプルは、実施例5のペレットとワラストナイトを95/5重量%の配合割合にてドライブレンドした後、径30mmφ、L/D=33.2、混練ゾーン2箇所のスクリューを装備したベント付き二軸押出機((株)神戸製鋼所製:KTX30)を用い、シリンダー温度280℃にて溶融混練し、押出し、ストランドカットしてペレットを得た(表3中記載せず)。
【0188】
得られたペレットを100℃で5時間熱風循環式乾燥機により乾燥した。乾燥後、試験片を射出成形機(東芝機械(株)製:IS−150EN)によりシリンダー温度260℃(比較例3及び実施例10は280℃)、金型温度80℃、成形サイクル40秒で成形した。
これらについての測定結果を表3および表4に示す。
【0189】
【表3】
【0190】
【表4】
【0191】
[射出成形性評価]また、実施例4〜7および9〜11、比較例1〜3のペレットを用いて、100℃で5時間熱風循環式乾燥機により乾燥後、ゲートを片側の端に有する厚さ0.8mmのUL燃焼試験用の試験片を射出成形機(住友重機械工業(株)製:SG260−HP)により金型温度80℃、成形サイクル40秒、射出速度350mm/secで成形した。その際、ドルーリング量は、射出成形における樹脂射出・計量後の冷却時間の間、ノズルを金型から離しておいた場合におけるノズル先端からの樹脂の滲み出し量を計量し、糸引き現象は、射出成形における樹脂射出・計量後の冷却時間の間、ノズルを金型に接触させておいた場合において、金型が開いて成形品を取り出すときに、成形品スプルー部とノズル部が30cm以上の糸状の樹脂で繋がったようになる現象の発生頻度を、またバリ発生有無は、成形品やランナー部における発生度合いを評価した。そのときの成形性を表5に示す。
【0192】
【表5】
【0193】
これらの結果からわかる通り、実施例の樹脂組成物では、分子量の低いポリカーボネート(比較例1)と分子量の高いポリカーボネート(比較例2)のいずれにおいても達成できない良好な成形性を示していることがわかる。尚、実施例11の樹脂組成物を除き得られた成形品は、比較例1および2のポリカーボネート樹脂のみからなる成形品と同等の表面平滑性を有していた。より具体的には、上記実施例において実施例1に記載のサンプルから得られた平板を表面粗さ計(東京精密(株)製SURFCOM 1400A)により測定したところ、算術平均粗さ(Ra)は0.03μmであった。
【0194】
[押出成形性評価]実施例4〜7及び9〜11、比較例1〜3のペレットを用いて、100℃で5時間熱風循環式乾燥機により乾燥後、先端にシート用Tダイを取付けた径40mmφの単軸押出機を用い、スクリュウ回転数40rpmにて押出し、厚み100μmのシートを押出成形した。押出性は、シート引取性と押出時のスクリュウモーター負荷電流によって評価した。そのときの押出性を表6に示す。
【0195】
【表6】
【0196】
これらの結果からわかる通り、実施例の樹脂組成物では、分子量の低いポリカーボネート(比較例1)と分子量の高いポリカーボネート(比較例3)のいずれにおいても達成できない良好な押出性を示していることがわかる。尚、実施例11の樹脂組成物を除き得られた成形品は、比較例1および2のポリカーボネート樹脂のみからなる成形品と同等の表面平滑性を有していた。
【0197】
[ブロー成形性評価]実施例4〜7および9〜11、比較例2のペレットを用いて、100℃で5時間熱風循環式乾燥機により乾燥後、ブロー成形機[住友重機械工業(株)製住友ベクームSE51/BA2]を用いて、パリソンを形成し、所定の長さになったときに切断し、その重量を測定することでドローダウン性を評価した。使用したブロー成形機のスクリュー径は50mmφ、ダイ外径は60mmφ、ダイ内径は56mmφであった。ドローダウン性(DD値)は、ブロー成形機のダイより押出されたダイ下、任意の長さに達したときの重量を測定し、図1に示すように横軸にパリソン長さ、縦軸にパリソン重量をとって曲線OPを作成し、この直線に原点で接線OBを引き、パリソン長さLiに対応する重量WPi、パリソン長さLiに対応する接線OBとの交点の重量をWBiとして下式より求めた。
【0198】
DD(%)={(WBi−WPi)/WBi}×100
成形条件は、シリンダー温度280℃で行い、Li=50cmの位置でドローダウン性を評価した。その結果を表7に示す。
【0199】
さらに、上記ドローダウン性の評価とは別に、上記シリンダー温度、金型温度80℃、ブロー空気圧0.5MPaの条件で、長さ300mm×幅100mm×奥行き40mmの箱型容器状成形品のブロー成形を行いかかる成形品を得た。実施例11を除き得られた成形品は良好な成形寸法を有し、かつポリカーボネート樹脂のみからなる成形品と同等の表面平滑性を有していた。
【0200】
【表7】
【0201】
これらの結果からわかる通り、比較例2のポリカーボネートでは、パリソンの長さが長くなるにつれてドローダウンが大きくなるため重量の増加が緩やかになるが、実施例4〜7および9〜11の樹脂組成物ではドローダウン性に優れ、良好なブロー成形性を示していることがわかる。
【0202】
【発明の効果】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、高い剛性、耐熱性、熱安定性のみならず、射出成形、押出成形、ブロー成形など、異なった特性を要求する各種成形法に広く適した溶融粘度特性を有しており、電気電子部品分野、ハウジング、機構部品などのOA機器部品分野、自動車部品分野などといった幅広い用途に有用であり、その奏する工業的効果は格別である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のドローダウン特性を測定するための図。
Claims (17)
- (i)(A)芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部あたり、(B)50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有し、かつ該陽イオン交換容量の40%以上の割合で有機オニウムイオンが層間にイオン交換されてなる層状珪酸塩(B成分)0.1〜50重量部および(C)カルボキシル基及び/又はその誘導体を有する単量体1〜30重量%、スチレン系化合物99〜70重量%及び共重合可能な他の化合物0〜29重量%から合成されるカルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基を有するスチレン系重合体(C成分)0.1〜50重量部を含んでなる樹脂組成物であって、かつ(ii)240℃を基準として算出された複素粘性率が下記式(1)を満足する溶融粘度特性を有し、かつ本文中に規定する熱安定性評価法における粘度平均分子量の低下幅(ΔM)が1,500以内であることを特徴とする押出成形用熱可塑性樹脂組成物。
log[ηa/ηb]≧0.5 (1)
(ここで、ηaは、平行円板形回転型レオメーターによる角周波数1rad/sにおける複素粘性率(Pa・s)、ηbは角周波数102rad/sにおける複素粘性率(Pa・s)を表す。) - 上記C成分が、官能基量が5〜15重量%であるカルボキシル基及び/またはその誘導体からなる官能基を有するスチレン系重合体である請求項1に記載の押出成形用熱可塑性樹脂組成物。
- 上記C成分が、無水マレイン酸量が10〜15重量%であるスチレン−無水マレイン酸共重合体である請求項1または2に記載の押出成形用熱可塑性樹脂組成物。
- 上記熱可塑性樹脂組成物は、更に(D)B成分以外の強化充填材(D成分)を含んでなり、該強化充填材は熱可塑性樹脂組成物100重量%あたり0.5〜50重量%である請求項1〜3のいずれか1項に記載の押出成形用熱可塑性樹脂組成物。
- (i)(A)芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部あたり、(B)50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有し、かつ該陽イオン交換容量の40%以上の割合で有機オニウムイオンが層間にイオン交換されてなる層状珪酸塩(B成分)0.1〜50重量部および(C)カルボキシル基及び/又はその誘導体を有する単量体1〜30重量%、スチレン系化合物99〜70重量%及び共重合可能な他の化合物0〜29重量%から合成されるカルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基を有するスチレン系重合体(C成分)0.1〜50重量部を含んでなる樹脂組成物であって、かつ(ii)240℃を基準として算出された複素粘性率が下記式(1)を満足する溶融粘度特性を有し、かつ本文中に規定する熱安定性評価法における粘度平均分子量の低下幅(ΔM)が1,500以内であることを特徴とするブロ-成形用熱可塑性樹脂組成物。
log[ηa/ηb]≧0.5 (1)
(ここで、ηaは、平行円板形回転型レオメーターによる角周波数1rad/sにおける複素粘性率(Pa・s)、ηbは角周波数102rad/sにおける複素粘性率(Pa・s)を表す。) - 上記C成分が、官能基量が5〜15重量%であるカルボキシル基及び/またはその誘導体からなる官能基を有するスチレン系重合体である請求項5に記載のブロー成形用熱可塑性樹脂組成物。
- 上記C成分が、無水マレイン酸量が10〜15重量%であるスチレン−無水マレイン酸共重合体である請求項5または6に記載のブロー成形用熱可塑性樹脂組成物。
- 上記熱可塑性樹脂組成物は、更に(D)B成分以外の強化充填材(D成分)を含んでなり、該強化充填材は熱可塑性樹脂組成物100重量%あたり0.5〜50重量%である請求項5〜7のいずれか1項に記載のブロー成形用熱可塑性樹脂組成物。
- (i)(A)芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部あたり、(B)50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有し、かつ該陽イオン交換容量の40%以上の割合で有機オニウムイオンが層間にイオン交換されてなる層状珪酸塩(B成分)0.1〜50重量部および(C)カルボキシル基及び/又はその誘導体を有する単量体1〜30重量%、スチレン系化合物99〜70重量%及び共重合可能な他の化合物0〜29重量%から合成されるカルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基を有するスチレン系重合体(C成分)0.1〜50重量部を含んでなる樹脂組成物であって、かつ(ii)240℃を基準として算出された複素粘性率が下記式(1)を満足する溶融粘度特性を有し、かつ本文中に規定する熱安定性評価法における粘度平均分子量の低下幅(ΔM)が1,500以内であることを特徴とする薄肉成形品の射出成形用熱可塑性樹脂組成物。
log[ηa/ηb]≧0.5 (1)
(ここで、ηaは、平行円板形回転型レオメーターによる角周波数1rad/sにおける複素粘性率(Pa・s)、ηbは角周波数102rad/sにおける複素粘性率(Pa・s)を表す。) - 上記C成分が、官能基量が5〜15重量%であるカルボキシル基及び/またはその誘導体からなる官能基を有するスチレン系重合体である請求項9に記載の薄肉成形品の射出成形用熱可塑性樹脂組成物。
- 上記C成分が、無水マレイン酸量が10〜15重量%であるスチレン−無水マレイン酸共重合体である請求項9または10に記載の薄肉成形品の射出成形用熱可塑性樹脂組成物。
- 上記熱可塑性樹脂組成物は、更に(D)B成分以外の強化充填材(D成分)を含んでなり、該強化充填材は熱可塑性樹脂組成物100重量%あたり0.5〜50重量%である請求項9〜11のいずれか1項に記載の薄肉成形品の射出成形用熱可塑性樹脂組成物。
- 上記熱可塑性樹脂組成物は、0.05mm以上2mm未満の厚みを有する薄肉成形品用である請求項9〜12のいずれか1項に記載の薄肉成形品の射出成形用熱可塑性樹脂組成物。
- 上記熱可塑性樹脂組成物は、その射出成形における射出速度が300mm/sec以上の条件であることを特徴とする請求項9〜13のいずれか1項に記載の薄肉成形品の射出成形用熱可塑性樹脂組成物。
- 上記請求項1〜4のいずれか1項に記載の押出成形用熱可塑性樹脂組成物から押出成形法により製造された押出成形品。
- 上記請求項5〜8のいずれか1項に記載のブロー成形用熱可塑性樹脂組成物からブロー成形法により製造されたブロー成形品。
- 上記請求項9〜12のいずれか1項に記載の薄肉成形品の射出成形用熱可塑性樹脂組成物から射出成形法により製造された薄肉射出成形品。
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