JP3975614B2 - リチウム二次電池用正極活物質及びその製造方法並びにこれを用いたリチウム二次電池 - Google Patents

リチウム二次電池用正極活物質及びその製造方法並びにこれを用いたリチウム二次電池 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、リチウム二次電池に用いられる正極活物質及びその製造方法と、この正極活物質を用いたリチウム二次電池に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般的に、リチウム二次電池の概念は、図4に示すように、内部がセパレータ1により第1室2a及び第2室2bに区画された容器2に電解液3が貯留され、第1室2aに正電極4が電解液3に浸漬した状態で収容され、更に第2室2bに負電極5が電解液3に浸漬した状態で収容される構造となっている。このリチウム二次電池1では、正電極4はアルミメッシュ板に活物質を含むスラリーを塗布又は含浸させた後に、この塗布物又は含浸物を加熱・乾燥してアルミメッシュ板に活物質を付着させることにより形成され、負電極5は黒鉛等に代表される炭素又は金属リチウム等により板状に形成される。
【0003】
上記正電極4に付着させる活物質としては、従来よりLiCoO2又はLiNiO2が使用されているが、近年、斜方晶LiMnO2がリチウム二次電池用正極活物質として機能することが報告されている(I.Koetsushau,et.al.,J.Electrochem.Soc.,142(1995)2906-2910)。
しかし、この斜方晶LiMnO2からなる正極活物質を正電極に付着させ、この正電極をリチウム二次電池に組込んで充放電を繰返すと、充放電サイクルの進行に伴って、組成式がLiMn24で代表される立方晶系に属する結晶構造を有するスピネル相的な相、若しくはスピネル相が正方晶に歪んだと考えられる相の生成が進行し、上記活物質の特徴である充放電の高容量性が次第に失われるという問題が指摘されている(I.Koetsushau and J.R.Dahn,J.Electrochem.Soc.,145(1998)2672-2677)。
【0004】
この点を解消するために、特開平6−349494号公報には、斜方晶LiMnO2に対して元素添加を行い、安定化した組成物、即ち組成式LixyMnOzで表される化合物(但し、AはH,Na,K,Mg,Ca,Sr,Ti,V,Cr,Fe,Ni,Co及びAlからなる群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、0<x<1.5であり、0<y<1であり、2<z<3である。)からなる非水二次電池の固溶体材料の製造方法が開示されている。
この非水二次電池の固溶体材料の製造方法では、元素添加を行うことにより安定化した正極活物質を正電極に付着させ、この正電極を組込んだリチウム二次電池において充放電を繰返すと、斜方晶LiMnO2が安定化するので、スピネル相の生成が阻止され、リチウム二次電池のサイクル寿命を向上できるようになっている。
【0005】
また特許第2547137号公報には、斜方晶に同定されていないが、Li−Mn−O系活物質の充放電サイクル特性を高める方法として、Mn酸化物にLiを含有させたMn−Li合成物からなるリチウム二次電池用正極活物質の、Mnの一部を周期律表6A族に属するMo及びWのいずれか一方又は双方の元素で置換してなる正極活物質、即ち複数元素による置換で特性の改善に効果のある正極活物質が開示されている。この正極活物質では、複数元素による置換でMn−Li合成物の結晶構造が安定化するため、充放電サイクル特性が高まると考察されている。
更に特開平8−78007号公報には、LiNiO2系の正極活物質の放電容量を改善するために、LiaNib1 c2 d2で示される層状構造を有する複合酸化物のうち、M1がMn,Fe,Ti,V,Cr又はCuのいずれかの元素であり、M2がAl,In及びSnからなる群より選ばれた1種又は2種以上の元素であるリチウム二次電池が開示されている。このリチウム二次電池では、課題解決手段の一つとしてAl,In,Sn等の元素でNiの一部を置換する際に、Mn,Fe,Ti,V,Cr,Cuを加えると、容易に置換化合物を生成できることが記載されている。このイオン半径の異なる2元素で置換すると、置換が容易になることは本発明でも結果的に利用しているけれども、上記公報では、2元素で置換すると、充電時の酸素原子間の反発を抑制できるので、層状構造の安定化、即ち放電容量を改善できると説明している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記従来の特開平6−349494号公報に示された非水二次電池の固溶体材料の製造方法では、所定の元素を添加することにより安定化した正極活物質が得られ、この正極活物質は未添加のLiMnO2と比較して、初期充放電容量を改善することができるけれども、充放電サイクル特性は未だ改善されていない。
この充放電サイクル特性が改善されない理由としては、充放電反応においてMnの価数が3価と4価との間を変化する際にヤーンテラー効果(元素の価数が変化することにより、結晶が部分的に伸びたり縮んだりして歪むこと。)により結晶に与えられる歪みや、斜方晶からスピネル相的な第2相への相変態の進行に伴って生じる体積変化により与えられる結晶粒子の歪みが充放電サイクルを重ねる毎に蓄積され、これらの歪みが活物質相互や活物質と導電材との電気的接合を阻害するように変化したり、或いは上記相変態により生成したスピネル相的な第2相が充放電に寄与しないため、充放電サイクルの進行に伴って充放電の容量が次第に低下するものと考えられる。
【0007】
また上記従来の特許2547137号公報に示されたリチウム二次電池用正極活物質では、測定電圧範囲が2〜3.8Vであることから、活物質の放電電位が3.8V以下であると推察され、活物質の体積エネルギ密度を高められない問題点がある。
更に上記従来の特開平8−78007号公報に示されたリチウム二次電池では、正極活物質がNi基であり、結晶構造がLiaNib1 c2 d2で示される層状構造であるため、充放電を繰返すと、やはり上記と同様に充放電容量が次第に低下するものと考えられる。
【0008】
本発明の目的は、充放電を繰返しても、斜方晶の相変化がないか、或いはあっても相変化により生成されるスピネル相的な第2相が一定の転化率で安定化させることができ、充放電容量及び体積エネルギ密度の低下を抑制することができる、リチウム二次電池用正極活物質及びその製造方法並びにこれを用いたリチウム二次電池を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、充放電時の活物質内を移動するLiイオンの通路を十分に確保できれば、充放電サイクル特性及び放電容量をともに改善できるのではないかと考え、以下のような取組みで置換すべき元素の絞込みを行った。
充放電サイクルに対して活物質は、充電時にLiイオンを放出し、かつ放電時にLiイオンを取込むという反応を起こす。活物質の結晶内部は、Mnが酸素に対して6配位した八面体からなる層と、Liが酸素に対して6配位した八面体からなる層とが交互に積み重なった層状構造をなしている。充電反応では、Liは酸素と結合を断ち切り、酸素原子の最密面(八面体の面の部分に相当する。)を通り抜けながら活物質の表面まで伝導し、反対に放電反応では活物質の表面からLiの空孔を埋めるように活物質の内部へ向ってLiが伝導する。
【0010】
従って、放電容量がサイクル劣化するということは、活物質内部へ向けてのLiの伝導が阻害されることが原因であると考えられる。ここで代表的な活物質の一つであるLiNiO2[Hiramo,et.al,Solid.state.ionics,86/88(1996)791]と、開発対象の一つである単斜晶LiMnO2[A.R.Armstrong & P.G.Brice,Nature381(1996)499]の構造の相違点を比較検討した結果、Liの活物質内部の伝導において、障壁になる酸素原子の最密面内の酸素原子の間隔に違いのあることが明らかになった。LiMnO2の最密酸素面の隙間の半径は0.264Åであり、LiMnO2の最密酸素面の隙間の半径は0.244Åであった。Liの伝導に最も適した酸素最密面内の酸素原子の間隔は、LiNiO2又はLiMnO2で異なるが、Liの伝導現象の障壁を小さくすれば、放電反応においてLiがスムーズに伝導すると推察される。
【0011】
またLiの伝導が容易に起これば、障壁を越える活性化過程で活物質の構造との相互作用も小さくなり、構造体自体の安定性も増すと考えられる。そこで、酸素がLiと同時にMnとも結合していることを利用し、Mnの一部を元素置換することで、その置換された原子と酸素との間隔が変化することにより、酸素最密面内の酸素原子の間隔を間接的に制御することを検討することとした。
換言すれば、Liの伝導に最も適した酸素最密面内の酸素原子の間隔を得るために、MnとこのMnを置換した原子の平均イオン半径をパラメータとして、平均イオン半径を大きくする方向で置換元素の選定を行い、実験で確認した結果、本発明をなすに至った。
【0012】
請求項1に係る発明は、マンガン酸リチウム化合物の改良である。
その特徴ある構成は、Mnの一部を、Mnよりイオン半径の大きい元素Aと、Mnよりイオン半径の小さい元素Bとに置換して、次の式(1)で表される組成物を含むところにある。
LiAxyMn1-x-y2 ……(1)
但し、AはIn,Yb,Y及びScからなる群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、BはCrからなる元素であり、0.001≦x≦0.07であり、0.001≦y≦0.1であり、0.02≦(x+y)≦0.17である。
【0013】
この請求項1に記載されたリチウム二次電池用正極活物質では、充放電サイクルに伴う体積変化が小さい、即ち相変化が起こり難くかつ相変態により生成された第2相においても充放電反応を示す。この結果、充放電を繰返しても、斜方晶の相変化がないか、或いはあっても相変化により生成されるスピネル相的な第2相が一定の転化率で安定化させることができるので、充放電容量の低下を抑制することができるとともに、体積エネルギ密度を低下させることはない。
また初回充電前の結晶系は斜方晶系で指数付けされることが好ましい。
【0014】
請求項3に係る発明は、被秤量物の総量を100重量%とするとき、Mnの酸化物又は酢酸塩3.9〜5.2重量%と、In,Yb,Y及びScからなる群より選ばれた1種又は2種以上の酸化物,水酸化物,塩化物又は酢酸塩のいずれか又はこれらの混合物により構成された添加物C0.1〜1.5重量%と、Crからなる群より選ばれた1種又は2種以上の酸化物,水酸化物又は塩化物のいずれか又はこれらの混合物により構成された添加物D0.15〜0.3重量%とをそれぞれ秤量する工程と;秤量して直ちに、或いはMnの酸化物又は酢酸塩と添加物C又はDのいずれか一方又は双方とを750〜850℃の所定温度で5〜25時間空気中で焼成して中間体を生成した後に、秤量物の混合物,又は秤量物及び中間体の混合物、或いは中間体に、水酸化リチウム1水和物を、Mnに対するLiの比で7〜60倍となるように添加し、140〜280℃の所定の温度で2〜30時間保持する水熱条件下で反応させる工程と;反応物を水又はエタノールで洗浄した後に真空乾燥する工程とを含むリチウム二次電池用正極活物質の製造方法である。
この請求項3に記載された方法で正極活物質を製造することにより、請求項1ないし3いずれかに記載された正極活物質を得ることができる。
また上記請求項1又は2に記載された正極活物質を用いてリチウム二次電池を製造することにより、このリチウム二次電池の充放電容量の低下を抑制することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
次に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、リチウム二次電池10はこの実施の形態ではシート状の積層体であり、正極集電板11と、正極活物質を含む正電極12と、電解質シート13と、負極活物質を含む負電極14と、負極集電板15とをこの順序で積層したものである。正極集電板11はアルミニウム板からなり、負極集電板15は銅板からなる。また正電極12に含まれる正極活物質としては斜方晶系に指数づけされるマンガン酸リチウム化合物が用いられ、負電極14に含まれる負極活物質としてはグラファイト系の活物質が用いられる。更に電解質シート13としては電解液が含まれるポリエチレンオキシド系のシートが用いられる。
【0016】
一方、上記正極活物質として用いられるマンガン酸リチウム化合物のMnの一部が、Mnよりイオン半径の大きい元素Aと、Mnよりイオン半径の小さい元素Bとに置換されて、次の式(1)で表される組成物を含む。
LiAxyMn1-x-y2 ……(1)
上記としてはIn,Nd,Sm,Eu,Gd,Dy,Y,Ho,Er,Yb,Lu及びScからなる群より選ばれた1種又は2種以上の元素が考えられ、BとしてはTi,Cr,Fe及びAlからなる群より選ばれた1種又は2種以上の元素が考えられる。また0<x<0.3好ましくは0.01<x<0.12であり、0<y<0.3好ましくは0.01<y<0.15であり、0<(x+y)<0.3好ましくは0.02<(x+y)<0.17であることが考えられる。
【0017】
上記元素Aは斜方晶LiMnO2内では原子価が変化せず、リチウムイオンの挿入脱離反応(充放電反応)には直接的には寄与しない。このため、高濃度の元素置換を行うと、正極活物質の実効充放電容量が低下するので、実用上の観点から実効充放電容量の低下を30%以内に抑える必要性と固溶限とを検討した結果、置換の上限を0.3、即ちx<0.3とした。また元素BのうちAlは斜方晶LiMnO2内では原子価が変化しないので、上述の理由により置換の上限を0.3、即ちy<0.3とした。Al以外の元素Bは斜方晶LiMnO2内では原子価が変化し、リチウムイオンの挿入脱離反応に寄与できているが、斜方晶への固溶限の問題もあるので、置換の上限を0.3、即ちy<0.3とした。更に元素A及びBを混合して置換する場合、実効充放電容量の維持と結晶構造を保つという要件を満たすため、やはり上限を0.3、即ち(x+y)<0.3とした。
【0018】
上記のような置換組成の範囲内においても、2つの元素A及びBの群から選び出す元素の組合せによっては、一部の元素が主として酸化物の形態で斜方晶から析出し、斜方晶と析出物との混合物を形成する場合のあることが試験の結果、明らかになった。この場合、得られた斜方晶と析出物の混合物を詳細に検討すると、元素A及びBは確かに斜方晶に固溶しているが、固溶限を越えた分の元素A及びBが主に酸化物の形態をとって析出していることが明らかになった。
また正極活物質の結晶系(初回充電前)は斜方晶系で指数付けされることが好ましい。即ち、得られた正極活物質の粉末を粉末X線回折で測定して得られる回折ピークが斜方晶の面指数で同定されることが好ましい。
【0019】
従って、上記元素AとしてはIn,Yb,Y及びScからなる群より選ばれた1種又は2種以上の元素が好適であり、元素BとしてはCrが好適である。この場合、0.001≦x≦0.07好ましくは0.01≦x≦0.05であり、0.001≦y≦0.1好ましくは0.01≦y≦0.06であり、0.02≦(x+y)≦0.17好ましくは0.02≦(x+y)≦0.11である。0.001≦x≦0.07に限定したのは、0.001未満では充放電サイクル特性の安定化という効果が得られず、0.07を越えるとIn等の酸化物の析出量が多くなり、相対的に単位重量当たりの放電容量が減少してしまうからである。また0.001≦y≦0.1に限定したのは、0.001未満ではLiMnO2化合物中にIn等を固溶させることができず、即ち充放電サイクル特性の安定化という効果が得られず、0.1を越えるとCrの酸化物の析出量が多くなり、相対的に単位重量当たりの放電容量が減少してしまうからである。更に0.01≦x≦0.05に限定したのは、0.01未満では体積エネルギ密度が低く、0.05を越えても体積エネルギ密度が殆ど変化しないからである。
【0020】
このように構成された正極用活物質の製造方法を説明する。
先ず被秤量物の総量を100重量%とするとき、Mnの酸化物又は酢酸塩3.9〜5.2重量%好ましくは4.0〜5.0重量%と、元素Aの酸化物,水酸化物,塩化物又は酢酸塩のいずれか又はこれらの混合物により構成された添加物C0.1〜1.5重量%好ましくは0.12〜1.35重量%と、元素Bの酸化物,水酸化物又は塩化物のいずれか又はこれらの混合物により構成された添加物D0.15〜0.3重量%好ましくは0.16〜0.25重量%とをそれぞれ秤量する。次いで秤量して直ちに、或いはMnの酸化物又は酢酸塩と添加物C又はDのいずれか一方又は双方とを750〜850℃の所定温度で5〜25時間空気中で焼成して中間体を生成する。次に上記秤量物の混合物,又は秤量物及び中間体の混合物、或いは中間体に、水酸化リチウム1水和物を、Mnに対するLiの比で7〜60倍となるように添加し、140〜280℃の所定の温度で2〜30時間保持する水熱条件下で反応させる(水熱合成法)。更にこの反応物を水又はエタノールで洗浄した後に真空乾燥する。これにより正極用活物質が製造される。
【0021】
Mnの酸化物又は酢酸塩としては、MnOOH,Mn23,Mn(CH3COO)2・4H2O等が挙げられ、その平均粒径は5〜50μmであることが好ましい。また添加物CとしてはInCl3・4H2O,Yb(CH3COO)3・4H2O,Sc23等が挙げられ、その平均粒径は8〜60μmであることが好ましい。更に添加物DとしてはCr23,TiO2,FeOOH,Al(OH)3等が挙げられ、その平均粒径は10〜30μmであることが好ましい。なお、上述のようにして製造された正極活物質の平均粒径は0.3〜10μmであることが好ましい。
【0022】
LiをMnの40倍量仕込む水熱合成において、Mnの酸化物等を3.9〜5.2重量%に限定したのは、3.9重量%未満ではMnに対して相対的にLiが過剰になり、結晶粒子の粗大化が起こり放電容量の低下に繋がる不具合があり、5.2重量%を越えるとMnに対してLiが相対的に不足し、Mn酸化物が過剰分として析出し、放電容量が低下する不具合があるからである。また添加物Cの酸化物等を0.1〜1.5重量%に限定したのは、0.1重量%未満では充放電サイクル特性の改善に効果がなく、1.5重量%を越えるとIn等の酸化物が析出し、相対的に単位重量当たりの放電容量が低下するからである。更に添加物Dの酸化物等を0.12〜1.35重量%に限定したのは、0.12重量%未満では充放電サイクル特性の改善に効果がなく、1.35重量%を越えるとCr等の酸化物が析出し、相対的に単位重量当たりの放電容量が低下するからである。
【0023】
秤量して直ちに反応槽に供給する化合物には、添加物Cの群ではInCl3・4H2O,Yb(CH3COO)3・4H2O等があり、添加物Dの群ではTiCl4,Al(OH)3等がある。またMnの酸化物又は酢酸塩と、添加物C又はDとのいずれか一方又は双方を、750〜850℃の温度で5〜25時間空気中で焼成して中間体を形成させるための化合物には、添加物Cの群ではY23,Sc23等があり、添加物Dの群ではFeOOH,Fe23,Cr23等がある。
【0024】
反応槽としてはフッ素樹脂製のものを用いることが好ましい。水酸化リチウム1水和物を、Mnに対するLiの比で7〜60倍となるように添加するのは、7倍未満では斜方晶に属するLiMnO2構造への転換が十分に起こらず、60倍を越えると添加しても製品の質や形態に及ぼす効果に差異がなくなるからである。この水酸化リチウム1水和物の添加量は35〜45倍であることが更に好ましい。また水熱条件下における反応温度を140〜280℃に限定したのは、反応温度が140℃に達しないと斜方晶系に属するLiMnO2構造への転換が十分に起こらず、280℃を越えるとオートクレーブを用いた合成においては臨界状態に近くなるためである。この水熱条件下における反応温度は200〜250℃であることが更に好ましい。更に水熱条件下における反応時間を2〜30時間に限定したのは、2時間未満ではLiMnO2構造への転換が十分に起こらず、30時間を越えて保持しても、製造される正極活物質に特に差異がないという理由によるものである。この水熱条件下における反応時間は4〜6時間であることが更に好ましい。
【0025】
このように製造された正極用活物質では、充放電サイクルの進行に伴うスピネル相の生成を効果的に阻止することができる。この充放電サイクル特性の向上に最も寄与した理由としては以下の2つの理由が考えられる。
第1の理由は、斜方晶LiMnO2の相の安定化にあると考えられる。斜方晶LiMnO2の金属イオンと酸化物イオンとの結合距離はLiCoO2やLiNiO2と比較して短く、リチウムイオンの拡散経路の障壁エネルギは他の正極活物質と比較して高いと考えられる。Mnの一部をMnより大きなイオン半径の元素で置換することにより、金属イオンと酸化物イオンとの結合距離の平均値がやや大きくなり、リチウムイオンの拡散障壁のエネルギが少し低下することで、リチウムが拡散し易い、充放電の安定した活物質が得られたためであると考えられる。
【0026】
ここで、元素置換においては単純にMnよりイオン半径の大きな元素による置換だけでは、所望の固溶体を生成することができず、必ずMnとイオン半径が同等か若しくは小さい元素との組合せで置換する必要がある。これは大きなイオン半径を有する元素による置換で生じる歪みが小さいイオン半径を有する元素による置換で緩和することができ、固溶限が広がるためであると考えられる。
【0027】
第2の理由は、斜方晶LiMnO2の相変態の結果、生成されるスピネル相的な第2相が充放電反応に寄与しているためであると考えられる。一般的な知識として、いわゆるLiMn24の組成式を有するスピネル相の充放電特性の安定化のためには、Mnの占める位置の原子の平均イオン半径を小さくすると、効果的であることが知られている。具体的にはMnの一部をAlで置換した組成物である。本発明の斜方晶LiMnO2を充放電した後の電極に含まれる活物質の構成相をX線回折測定で同定しようとすると、正極を構成するバインダや導電助剤等の影響によって、斜方晶LiMnO2相や第2相の格子定数の測定が困難で、置換元素がどのような配分でそれぞれの活物質中に存在するかは今もって不明ではある。Mnよりイオン半径の小さいCr,Al,Ti等はLiMnO2相が第2相へ相変化した後も、第2相を安定化し、充放電に寄与していると考えられる。
【0028】
【実施例】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
先ずMnの酸化物(Mn23:平均粒径44.7μm)を4.674重量%と、Crの酸化物(Cr23:平均粒径20.0μm)を0.245重量%とをそれぞれ秤量した後に混合し、この混合物を800℃の温度で10時間空気中で焼成して中間体を作製した。次いでこの中間体をフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン:以下、PTFEという)製の反応槽に供給し、Inの塩化物(InCl3・4H2O:平均粒径50.4μm)を0.566重量%秤量した後、このInの塩化物(InCl3・4H2O)を直ちに上記反応槽に供給した。次に水酸化リチウム1水和物(LiOH・H2O)を、Mnに対するLiの比で35倍(94.515重量%)となるように添加し、230℃の所定の温度で6時間保持する水熱条件下で水熱反応させた。更にこの反応物を水で洗浄した後に真空乾燥した。これにより正極活物質(LiIn0.03Cr0.05Mn0.922)を得た。この正極活物質を実施例1とした。
【0029】
<実施例2>
先ずMnの酸化物(Mn23:平均粒径46.2μm)を4.785重量%と、Crの酸化物(Cr23:平均粒径2.5μm)を0.245重量%と、Inの塩化物(InCl3・4H2O:平均粒径50.5μm)を0.741重量%とをそれぞれ秤量して混合した後に、PTFE製反応槽に供給した。次に水酸化リチウム1水和物(LiOH・H2O)をMnに対するLiの比で35倍(94.229重量%)となるように添加し、220℃の所定の温度で6時間保持する水熱条件下で水熱反応させた。更にこの反応物を水で洗浄した後に真空乾燥した。これにより正極活物質(LiIn0.05Cr0.05Mn0.902)を得た。この正極活物質を実施例2とした。
【0030】
<実施例3>
先ずMnの酸化物(Mn23:平均粒径46.2μm)を4.785重量%と、Crの酸化物(Cr23:平均粒径2.5μm)を0.245重量%とをそれぞれ秤量した後に混合し、この混合物を800℃の温度で10時間空気中で焼成して中間体を作製した。次いでこの中間体をPTFE製反応槽に供給し、Ybの酢酸塩(Yb(CH3COO)3・4H2O:平均粒径12μm)を0.272重量%秤量した後、このYbの酢酸塩(Yb(CH3COO)3・4H2O)を直ちに上記反応槽に供給した。次に水酸化リチウム1水和物(LiOH・H2O)を、Mnに対するLiの比で35倍(94.515重量%)となるように添加し、実施例1と同一の水熱条件下で水熱反応させた。更にこの反応物を水で洗浄した後に真空乾燥した。これにより正極活物質(LiYb0.01Cr0.05Mn0.942)を得た。この正極活物質を実施例3とした。
【0031】
<実施例4>
先ずMnの酸化物(Mn23:平均粒径46.2μm)を4.732重量%と、Crの酸化物(Cr23:平均粒径25μm)を0.244重量%とをそれぞれ秤量した後に混合し、この混合物を800℃の温度で10時間空気中で焼成して中間体を作製した。次いでこの中間体をPTFE製反応槽に供給し、Ybの酢酸塩(Yb(CH3COO)3・4H2O:平均粒径12μm)を0.543重量%秤量した後、このYbの酢酸塩(Yb(CH3COO)3・4H2O)を直ちに上記反応槽に供給した。次に水酸化リチウム1水和物(LiOH・H2O)を、Mnに対するLiの比で35倍(94.481重量%)となるように添加し、実施例1と同一の水熱条件下で水熱反応させた。更にこの反応物を水で洗浄した後に真空乾燥した。これにより正極活物質(LiYb0.02Cr0.05Mn0.932)を得た。この正極活物質を実施例4とした。
【0032】
<実施例5>
先ずMnの酸化物(Mn23:平均粒径44.7μm)を4.694重量%と、Crの酸化物(Cr23:平均粒径20μm)を0.246重量%と、Scの酸化物(Sc23:平均粒径8.6μm)を0.134重量%とをそれぞれ秤量した後に混合し、この混合物を800℃の温度で10時間空気中で焼成して中間体を作製した。次にこの中間体をPTFE製反応槽に供給した後に、水酸化リチウム1水和物(LiOH・H2O)を、Mnに対するLiの比で35倍(94.926重量%)となるように添加し、実施例1と同一の水熱条件下で水熱反応させた。更にこの反応物を水で洗浄した後に真空乾燥した。これにより正極活物質(LiSc0.03Cr0.05Mn0.922)を得た。この正極活物質を実施例5とした。
【0033】
<実施例6>
Mnの酸化物(Mn23:平均粒径46.2μm)を4.794重量%と、Crの酸化物(Cr23:平均粒径20μm)を0.246重量%と、Yの酸化物(Y23:5μm)と、水酸化リチウム1水和物(LiOH・H2O)を94.887重量%とをそれぞれ秤量し、これらの混合物をオートクレーブ内のPTFE製ビーカーに供給し、実施例1と同一の水熱条件下で水熱反応させて、正極活物質(LiY0.02Cr0.05Mn0.932)を得た。この正極活物質を実施例6とした。
【0034】
<実施例7>
Mnの酸化物(Mn23:平均粒径46.2μm)を4.742重量%と、Crの酸化物(Cr23:平均粒径20μm)を0.245重量%とをそれぞれ秤量して混合した後に、大気中800℃で10時間焼成して中間体を作製した。この中間体に、Yの酸化物(Y23:5μm)を0.146重量%と、水酸化リチウム1水和物(LiOH・H2O)を94.887重量%とをそれぞれ秤量した後に添加し、これらの混合物をオートクレーブ内のPTFE製ビーカーに供給し、実施例1と同一の水熱条件下で水熱反応させて、正極活物質(LiY0.02Cr0.05Mn0.932)を得た。この正極活物質を実施例7とした。
【0035】
<比較例1>
Mnの酸化物(Mn23:平均粒径44.7μm)を5.101重量%と、LiOH・H2Oを94.899重量%とをそれぞれ秤量(Mnに対してLiが85倍当量となる。)し、これらをPTFE製の反応槽に供給し、実施例1と同一の水熱条件で水熱反応させた。次にこの反応生成物を水で洗浄した後に真空乾燥して正極活物質を得た。この正極活物質を比較例1とした。
【0036】
<比較試験及び評価>
実施例1〜7及び比較例1の正極活物質を製造するための化合物の配合比と、製造された正極活物質の組成を表1に示した。
また実施例1〜7及び比較例1の正極活物質をバインダ及び導電助剤と混合してスラリーを調製し、このスラリーをドクタブレード法により正極シートに引き伸ばして乾燥させることにより、正極集電体上に正極シートをそれぞれ積層し、正電極とした。これらの正電極を図2に示すように、充放電サイクル試験装置21に取付けた。この装置21は容器22に電解液23(リチウム塩を有機溶媒に溶かしたもの)が貯留され、上記正電極12が負電極14(金属リチウム)及び参照極24(金属リチウム)とともに電解液23に浸され、更に正電極12,負電極14及び参照極24がポテンシオスタット25(ポテンショメータ)にそれぞれ電気的に接続された構成となっている。この装置を用いて充放電サイクル試験を行い、各正極活物質の放電容量を測定した。その結果を表2及び表3に示す。更に実施例1〜7及び比較例1の正極活物質のX線回折パターンを銅のKα線を用いて測定した結果を図3に示す。
【0037】
【表1】
Figure 0003975614
【0038】
【表2】
Figure 0003975614
【0039】
【表3】
Figure 0003975614
【0040】
表2及び表3から明らかなように、比較例1では充放電を繰返したところ、次第に放電容量が低下し、6回繰返した時点で放電容量が1回目に対して約40%低下した。これに対し、実施例1では次第に放電容量が増大し、50回目で最大(1回目に対して約12%増加)となった後に、次第に低下して80回目で1回目とほぼ同一の放電容量となった。また実施例2及び4では充放電を28回及び45回それぞれ繰返したが、放電容量は殆ど変化せず、実施例3では12回目で最大(1回目に対して約31%増加)となった後に次第に低下したが、58回目でも放電容量が1回目に対して約18%増加していた。更に実施例5では2〜6回目で急激に増加し急激に低下したが、以後76回まで繰返しても、1回目とほぼ同一の放電容量を示し、実施例6及び7ではそれぞれ18回繰返したが、徐々に放電容量が増加した。
また図3から明らかなように、比較例1では相対的なピーク強度が最大でも400以下であったのに対し、実施例1〜7では最大で1000を越えていた。この結果、実施例1〜7の正極活物質は結晶系が斜方晶系で指数付けされていることが分かった。
【0041】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、マンガン酸リチウム化合物のMnの一部を、Mnよりイオン半径の大きい元素A(In等)と、Mnよりイオン半径の小さい元素B(Cr)とに置換して、式(LiAxyMn1-x-y2)で表される組成物を含むので、充放電サイクルに伴う体積変化が小さい、即ち相変化が起こり難くかつ相変態により生成された第2相においても充放電反応を示す。この結果、充放電を繰返しても、斜方晶の相変化がないか、或いはあっても相変化により生成されるスピネル相的な第2相が一定の転化率で安定化させることができるので、充放電容量及び体積エネルギ密度の低下を抑制することができる。
また初回充電前の結晶系を斜方晶系で指数付けしたり、或いはAとしてIn,Yb,Y又はScを用い、BとしてCrを用い、0.001≦x≦0.07であり、0.001≦y≦0.1であり、0.02≦(x+y)≦0.17であれば、上記効果をより顕著に奏することができる。
【0042】
またMnの酸化物又は酢酸塩と添加物Cと添加物Dとをそれぞれ秤量し、直ちに,或いはMnの酸化物又は酢酸塩と添加物C又はDのいずれか一方又は双方を所定の条件で熱処理して中間体を生成した後に、上記秤量物の混合物,又は上記秤量物及び中間体の混合物,或いは上記中間体に、水酸化リチウム1水和物を所定量添加し、所定の温度で所定時間保持する水熱条件下で反応させ、更にこの反応物を洗浄した後に真空乾燥すれば、上記正極活物質を得ることができる。
更に上記正極活物質を用いてリチウム二次電池を製造すれば、充放電サイクルの進行に伴うスピネル相の生成を効果的に阻止できるので、充放電容量の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明実施の形態のリチウム二次電池の要部断面構成図。
【図2】実施例及び比較例のリチウム二次電池用正極活物質の充放電サイクル試験に用いられる装置。
【図3】実施例1〜7及び比較例1の正極活物質のX線回折パターンを示す図。
【図4】リチウム二次電池の構造を模型的に示す断面拡大説明図。
【符号の説明】
10 リチウム二次電池

Claims (4)

  1. マンガン酸リチウム化合物において、
    Mnの一部を、Mnよりイオン半径の大きい元素Aと、Mnよりイオン半径の小さい元素Bとに置換して、次の式(1)で表される組成物を含むことを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。
    LiAxyMn1-x-y2 ……(1)
    但し、AはIn,Yb,Y及びScからなる群より選ばれた1種又は2種以上の元素であり、BはCrからなる元素であり、0.001≦x≦0.07であり、0.001≦y≦0.1であり、0.02≦(x+y)≦0.17である。
  2. 初回充電前の結晶系が斜方晶系で指数付けされることを特徴とする請求項1記載のリチウム二次電池用正極活物質。
  3. 被秤量物の総量を100重量%とするとき、Mnの酸化物又は酢酸塩3.9〜5.2重量%と、In,Yb,Y及びScからなる群より選ばれた1種又は2種以上の酸化物,水酸化物,塩化物又は酢酸塩のいずれか又はこれらの混合物により構成された添加物C0.1〜1.5重量%と、Crの酸化物,水酸化物又は塩化物のいずれか又はこれらの混合物により構成された添加物D0.15〜0.3重量%とをそれぞれ秤量する工程と;
    秤量して直ちに、或いは前記Mnの酸化物又は酢酸塩と前記添加物C又はDのいずれか一方又は双方とを750〜850℃の所定温度で5〜25時間空気中で焼成して中間体を生成した後に、前記秤量物の混合物,又は前記秤量物及び前記中間体の混合物、或いは前記中間体に、水酸化リチウム1水和物を、Mnに対するLiの比で7〜60倍となるように添加し、140〜280℃の所定の温度で2〜30時間保持する水熱条件下で反応させる工程と;
    前記反応物を水又はエタノールで洗浄した後に真空乾燥する工程と
    を含むリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
  4. 請求項1又は2記載のリチウム二次電池用正極活物質を用いて製造されたリチウム二次電池。
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