JP3973833B2 - 加熱装置及び画像形成装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電磁誘導により渦電流を発生させて被加熱体を加熱する加熱装置に関し、特に、複写機、ファクシミリ、電子写真プリンタ、プロッタ等の電子写真方式の画像形成装置において、紙等の記録材面上に形成された加熱溶融性のトナーからなる画像を加熱・加圧して永久固着画像として記録材面上に定着する加熱定着装置に用いられる加熱装置、及びその加熱装置を像加熱手段として備えた画像形成装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置においては、電子写真方式等の作像プロセス機構により、シート状の記録媒体上に未定着トナー像を転写方式または直接方式で形成担持させる。この未定着トナー像のトナーは簡単に剥がれ落ちるので、トナーに熱もしくは圧力あるいは熱と圧力の両方を加えることによりシート状の記録媒体表面に永久的に固着させることが必要となる。そして、シート状の記録媒体表面にトナー像を永久的に固着させる工程は定着プロセスと呼ばれている。シート状の記録媒体の例としては、A4サイズやA3サイズなどにカットされた普通紙やOHPシートが一般的である。定着には色々な方法があるが、熱と圧力の両方を加える方法が最も普及しており、その際の加熱方式として、従来から、熱ローラ定着方式、フィルム(またはベルト)加熱定着方式などの接触加熱定着方式が一般に用いられている。
【0003】
熱ローラ定着方式及びフィルム加熱定着方式の定着装置は、中空円筒形の回転体と該回転体に圧接してシート状の記録媒体を挟持する加圧体(ローラ形状の場合は加圧ローラと呼ぶ)とを有している。シート状の記録媒体は前記回転体あるいは前記加圧体の回転運動に従動して回転体と加圧体の間のニップ部を搬送される。前記回転体は発熱体に接して加熱されるか、あるいは回転体の近傍に配置した発熱体により加熱されるか、あるいは自己発熱により加熱される。熱ローラ定着方式では、ハロゲンランプやニクロム線ヒータ等の棒管状発熱ヒータを、前記回転体である定着ローラ本体(ヒータを含めて定着ローラと称する場合があるため、定着ローラからヒータを除いた部分を定着ローラ本体と呼ぶことにする)の中心軸上に配設し、定着ローラ本体を加熱するのが一般的である。また、フィルム加熱定着方式では、前記回転体であるフィルムの回転方向に直交する方向に延ばした細長い板状の発熱体をフィルムに当接させて加熱するのが一般的である。
【0004】
従来、上記熱ローラ定着方式の定着装置では、定着ローラ本体の加熱に時間を要し、電源を投入してから定着ローラ表面の温度が定着に適した温度に達するまでの時間(以下、ウォームアップタイムと言う)が比較的長かった。このため、ウォームアップタイムの間、使用者は複写機を使用することができず、長時間の待機を強いられるという問題があった。また、待機時から使用可能状態に至るまでの待ち時間を短くするためには、待機中も定着ローラを比較的高温に保つために発熱体に通電する必要があり、無駄な電力を消費していた。すなわち、多量の電力を定着ローラに投入すればウォームアップタイムは短縮できるが、定着装置における消費電力が増大し、省エネルギーという観点から望ましくない。つまり消費電力を増やさずにウォームアップタイムを短縮することが、定着装置の省エネルギー化(低消費電力化)と、ユーザーの操作性(クイックプリント)との両立を図るために望まれていた。
また、フィルム加熱定着方式の定着装置はウォームアップタイムが短いが、トナーへの熱供給能力において高速な定着には対応できず、またフィルムが蛇行したり破損したりし易いため、記録媒体の搬送の安定性および耐久性の点で熱ローラ定着方式に劣っていた。
【0005】
そこで、定着ローラ本体あるいはフィルム(本節では以降、回転体と総称する)の加熱源として電磁誘導作用による発熱現象を利用した誘導加熱方式の定着装置が提案されている。これは、交番磁界中に導電体を置くと電磁誘導により導電体中に渦電流が流れ、その渦電流により発生するジュール熱により導電体が発熱する現象を利用して回転体を加熱するものである。すなわち、誘導加熱定着装置では、回転体の一部または全部を導電体で構成し、回転体の内部または外部に磁束生成コイルを配置し、この磁束生成コイルに交流電流を流して生じた交番磁界により回転体内の導電体に誘導渦電流を発生させ、その渦電流と回転体内の導電体自体の抵抗によって回転体内の導電体をジュール発熱させる。この誘導加熱定着装置は、電気−熱変換効率が大きく向上するため、また定着ローラにおいてはその表面近傍の薄い層のみを発熱させることができるため、ウォームアップタイムの短縮が可能となる。
【0006】
しかし、誘導加熱方式では、上記回転体をその回転軸方向(以後、回転軸方向を長手方向と称する)に均一に加熱することが難しい場合があった。すなわち、図29あるいは図30に示すような上記回転体の長手方向の幅と同程度に長い磁束生成コイル201(または202)により上記回転体に発熱させる場合、回転体にその長手方向に均一に発熱させるには、磁束生成コイルの形状を長手方向に均一なものにする必要があるが、低い製造コストで長手方向の寸法精度の高いコイルを作るのは困難であった。また、発熱量は上記回転体と磁束生成コイル201との距離、あるいは図30のようにコイル202にコア(磁性体の芯材)203を付加している場合はそのコアとの距離に鋭敏に依存するが、その距離を上記回転体の長手方向に均一にするのは困難であった。また、図31に示すように回転体204の長手方向に複数個のコイル205〜209を並べて加熱する場合は、複数個のコイル205〜209による回転体の発熱量が、複数個のコイル205〜209の巻線部に対向した位置で高く、コイル205〜209の周辺部に対向した位置で低くなるため、必然的に回転体の長手方向の発熱量が不均一になる。そして、上記のような発熱量の不均一は回転体に温度ムラを引き起こす。特に、回転体の熱容量を減らしてウォームアップタイムを短くするために、回転体を薄肉化している場合は、回転体の熱伝導率が低くなっているために、発熱量の不均一が温度ムラに直結する。そして、回転体の温度ムラは、その回転体によって加熱される被加熱体に加熱ムラを引き起こしてしまう。
【0007】
このような回転体の温度ムラを避けるために、従来、以下のような方法が提案されている。
(1)誘導発熱体を有する回転体に高熱伝導性部材からなる層を設け、長手方向に熱が伝わり易くして温度分布を均一化する(特開平10−207269号公報、特開平9−127810号公報)。
(2)ヒートパイプ等の高熱伝導性部材を回転体の長手方向に亘って付加することにより、長手方向に熱が伝わり易くして温度分布を均一化する(特開平10−207271号公報、特開平9−197855号公報、特開平9−319243号公報)。
(3)磁束生成コイルのコアを長手方向に多数個に分割し、その材質、大きさや誘導発熱体との距離を変えて均一化を図る(特開平8−16005号j公報)。
(4)回転体の長手方向に並べた複数個のコイルからなるコイル列を磁束生成手段として使用して加熱する場合に、コイル列を誘導発熱体の長手方向に複数個並置し、各コイル列のコイルが互いに千鳥状の位置関係になるようにする(特開平10−63126号公報)。
【0008】
上記の従来技術のうち、(1)および(2)の方法は、投入したエネルギーのうちの一部が高熱伝導性部材を加熱するのに消費され、そのため回転体の温度上昇速度が低下し、定着装置の省エネルギー化とウォームアップタイムの短縮という点からは好ましくない。また、熱運搬能力が桁違いに高いヒートパイプ以外では、温度を均一化する効果が限られる。特に、回転体の表面近傍のみに発熱させて表面を急速に高温にすることによりウォームアップタイムを短くしようとする場合は、熱伝導に頼ったのでは温度の均一化の速度が遅すぎて温度を十分に均一化できない。また、ヒートパイプは高価である。
上記(3)の方法は、コアの材質や大きさや誘導発熱体との距離を調整する作業が必要となり、また調整した値どおりに製造する必要上、製造コストがアップする。
上記(4)の方法は、コイルの千鳥状の位置関係を上手く調整して発熱分布を長手方向に均一にするのが非常に難しい。一般に円盤状のコイルによる発熱量の分布は中央が窪んだ山形になる。回転体の長手方向に複数個のコイルを持つコイル列を2つ用意してコイルが互いに千鳥状の位置関係になるように配置して発熱させた場合を例にとると、1つのコイル列による発熱分布は、図32に実線で示した分布211,212,213,214のようになり、もう1つのコイル列による発熱分布は、図32に破線で示した分布215,216,217のようになる。この図32から想像されるように、これらの各発熱部分の大きさや間隔を調整して、長手方向に均一な分布にするのは難しい。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、誘導加熱方式の定着装置あるいは一般の誘導加熱方式の加熱装置における回転体の長手方向の発熱量の不均一を、省エネルギー化と両立させながら、長手方向への熱の移動により低減することは困難である。したがって、回転体に長手方向の温度ムラを生じさせないためには、回転体の発熱量自体を長手方向に均一にする必要がある。
しかしながら、上述のように、回転体の長手方向で回転体を均一に発熱させるには、磁束生成コイルの形状および磁束生成コイルと回転体との距離を長手方向で高精度に均一にしなければならず、コストアップにつながる。また、複数個の磁束生成コイルを組み合わせて発熱分布を均一化することも、上述したように困難である。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、ウォームアップタイムが短く、コストが比較的安く、回転体の長手方向の温度ムラが少ない、誘導加熱方式の加熱装置を提供すること、及びその加熱装置を備えた画像形成装置を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明では以下のような手段を採っている。
(1):磁束生成手段による磁束の作用によって発熱する誘導発熱体を有する回転体と、該回転体と相互に圧接される加圧部材とを有し、前記回転体と前記加圧部材との間に被加熱体を通過させて被加熱体を加熱する加熱装置において、前記磁束生成手段を前記回転体の長手方向に往復移動させる手段を有し、該往復移動させる手段により、前記回転体の長手方向における誘導発熱体の発熱位置を時間的に変化させることを特徴とする。
【0012】
(2):(1)の加熱装置において、前記往復移動させる手段は、前記磁束生成手段を前記回転体の長手方向に往復運動させるクランク駆動機構であることを特徴とする。
【0013】
(3):(1)または(2)の加熱装置において、前記回転体の長手方向への磁束生成手段の往復移動の周期が前記回転体の回転の周期と異なることを特徴とする。
(4):(1)または(2)の加熱装置において、前記回転体の長手方向への磁束生成手段の往復移動の周期が回転体の回転の周期の正の整数倍でないことを特徴とする。
(5):(1)または(2)の加熱装置において、前記回転体の長手方向への磁束生成手段の往復移動の周期が回転体の回転の周期よりも短いことを特徴とする。
【0014】
(6):磁束生成手段による磁束の作用によって発熱する誘導発熱体を有する回転体と、該回転体と相互に圧接される加圧部材とを有し、前記回転体と前記加圧部材との間に被加熱体を通過させて被加熱体を加熱する加熱装置において、前記磁束生成手段が前記回転体の長手方向に複数個の磁束生成部を並べた磁束生成部列を複数列並置した構成であり、前記回転体の長手方向における磁束生成部の位置が磁束生成部列間で同一ではなく、各磁束生成部列への投入電力の列間比率を時間的に変動させることを特徴とする(請求項1)。
【0015】
(7):(6)の加熱装置において、投入電力の列間比率の時間変動の周期が、前記回転体の回転の周期の正の整数分の1でないことを特徴とする(請求項2)。
(8):(6)の加熱装置において、投入電力の列間比率の時間変動の周期が、前記回転体の回転の周期の2倍より短いことを特徴とする(請求項3)。
【0016】
(9):シート状の記録媒体上にトナー像を形成し担持させる像形成手段と、前記トナー像を担持した前記記録媒体を加熱処理する像加熱手段とを有する画像形成装置において、前記像加熱手段として(1)乃至(8)(特に(6)乃至(8))のうちのいずれか一つの加熱装置を備えたことを特徴とする(請求項4)。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の構成、動作及び作用について図面を参照して詳細に説明する。
本発明の加熱装置は、例えば図1に示すように、シート状の被加熱体6に対して熱を加えるための加熱用回転体1と、この加熱用回転体1との間で被加熱体6を挟持しつつ加熱用回転体1の回転により被加熱体6を搬送するための加圧部材3と、前記加熱用回転体1に磁束を侵入させて電磁誘導作用により回転体に渦電流を生ぜしめることにより前記加熱用回転体1にジュール熱を発生させるための磁束生成手段2とを備え、さらに前記加熱用回転体1のジュール熱発生位置をその長手方向に時間的に変化させる手段を設けたことを特徴とする。尚、ここで言う磁束生成手段とは、磁束生成コイルとその形状保持部材を合せたものであり、また磁束生成コイルにコアを付加している場合は、そのコアも含めて磁束生成手段と称する。
【0018】
本発明の加熱装置では、加熱用回転体1のジュール熱発生位置をその長手方向に時間的に変化させる手段を設けたことにより、磁束生成手段2が生成する磁束が前記加熱用回転体1の長手方向に不均一である場合でも、前記加熱用回転体1の発熱量の時間平均値をその長手方向に均一化することができる。
したがって、本発明の加熱装置を電子写真方式の画像形成装置の定着装置として使用した場合、加熱ムラによる定着ムラを防ぐことができ、被加熱体であるシート状の記録媒体(例えば、記録用紙、OHPシート等)の全面にわたって良好な定着が可能となる。また、本発明の加熱装置は、シート状の物体の乾燥用、シート状の物体のラミネート処理用、画像を担持したシート状の物体におけるつや等の表面性の改質用、等の用途に用いることができるが、そのような用途に用いた場合、シート状の物体の全面にわたって均一な処理が可能となり、処理ムラの発生を防止できる。
【0019】
次に、加熱用回転体のジュール熱発生位置をその長手方向に時間的に変化させる手段について説明する。
第1の手段としては、加熱用回転体1の長手方向(回転軸方向)に加熱用回転体1に対して磁束生成手段2を相対的に移動させる。そうすると、ある時刻において磁束生成手段が生成した磁束密度が、加熱用回転体1の表面において、図2の符号21で示すような分布をしていた場合、別の時刻では、図2の符号22で示すような分布になり、時間平均すると磁束密度は長手方向にほぼ均一な分布となる。この移動は、周期的な往復移動であってもよいし、図1に示すように加熱用回転体1に設置した温度センサー5により加熱用回転体表面の相対的に温度が低い位置を検出し、その位置に磁束密度の高い部分が来るように移動させるのであってもよい。
【0020】
第2の手段としては、加熱用回転体1の長手方向(回転軸方向)に磁束生成分布の異なる複数個の磁束生成手段2を並設し、磁束生成手段間の磁束生成比率を時間的に変化させる。一例として磁束生成手段が2つの場合を考えると、ある時刻において1つの磁束生成手段が生成した磁束密度が、加熱用回転体1の表面において、図3の符号31で示すような分布をし、別の磁束生成手段が生成した磁束密度が図3の符号32で示すような分布をしていたとき、別の時刻では、前者の磁束生成手段が生成した磁束密度が図3の符号33で示すような分布になり、後者の磁束生成手段が生成した磁束密度が図3の符号34で示すような分布になり、時間平均すると2つの磁束生成手段が生成した磁束密度の和は長手方向にほぼ均一な分布となる。
また、磁束生成比率を時間的に変化させるには、磁束生成手段への投入電力を時間的に変化させる。
尚、以後はこれら複数個の磁束生成手段からなる磁束生成手段の全体を単に磁束生成手段と呼び、その構成要素である複数個の磁束生成手段の各々は磁束生成部列と呼ぶことにする。また、磁束生成部列が複数個のコイルを並べて構成されている場合は、磁束生成部列をコイル・アッセンブリーとも呼ぶことにする。
【0021】
次に、加熱用回転体に対して該加熱用回転体の長手方向に磁束生成手段を相対的に移動させる場合の効果を加熱用回転体表面の温度分布の面から説明する。 図4は、加熱用回転体に仮想的に長手方向に切れ目を入れて切り開いて見た図である。図4の符号41は仮想的に切り開いた加熱用回転体である。図4の横方向が回転軸の方向であり、図4の矢印42は加熱用回転体の回転方向を示すものである。いま図4中に円43で示した領域だけが磁束密度が低く残りの部分は均一な高い磁束密度になっている場合を考える。そうすると、低磁束密度領域43では渦電流が少ないため発熱量が少なく、そのためその周囲に比べて温度が上がらない。そして、磁束生成手段を移動させなかった場合は、加熱用回転体41の回転に連れて、低磁束密度領域43は図4に矢印44で示したように移動する。加熱用回転体41が1回転する間にこの領域43が移動する距離は、図4の矢印44の長さに等しい。
【0022】
一方、磁束生成手段を図4に両端矢印45で示した範囲で往復運動させた場合は、低磁束密度領域43は図4の折れ線矢印46,47,48のように移動する。この移動距離は磁束生成手段を移動させなかった場合に比べて長い。このことは低磁束密度領域43がその通過路中の任意の位置の近傍に留まっている時間は、磁束生成手段を移動させた方が、移動させなかった場合よりも短いことを示している。また、低磁束密度領域43が一個所に留まっている時間が短いほどその位置の磁束密度の回復が早く、それだけその位置の発熱量の回復も早い。また、低磁束密度領域43にはその周りから熱が伝導してくるため、時間が経つにつれて温度が上昇するが、低磁束密度領域43が一個所に留まっている時間が短いほどこの熱伝導による温度の回復も速い。
【0023】
次に図5は図4と同様に加熱用回転体に仮想的に長手方向に切れ目を入れて切り開いて見た図であり、符号51は仮想的に切り開いた加熱用回転体であり、符号52は加熱用回転体の回転の向きを示す矢印である。図5に示すように、加熱用回転体51の回転方向における磁束生成手段の幅が狭い場合は、図5に斜線を付けて示した高磁束密度領域55を分断する形で低磁束密度領域53が存在するが、加熱用回転体51の長手方向(図5の横方向)に磁束生成手段を移動させない場合は、それ以前に低磁束密度領域53が存在していた領域(図5の54)に高磁束密度領域55が移動してくることがないので、領域54の磁束密度は回復しない。
【0024】
一方、磁束生成手段を長手方向に移動させれば、図5に示されているように領域54の一部に高磁束密度領域55が移動してくるので、領域54の磁束密度がある程度回復し、したがって領域54の発熱量もある程度回復する。このようにして磁束生成手段を移動させた方が、移動させなかった場合よりも低磁束密度領域53の温度とその回りの温度との差が小さくなる。このため、加熱用回転体51をこのような磁束密度にムラのある磁束生成手段により発熱させて、室温と同温度から所定の温度にまで達せしめると、そのときの加熱用回転体の温度分布は、磁束生成手段を移動させた場合の方が、移動させなかった場合より均一に近くなる。
【0025】
次に図6は、磁束生成手段の長手方向の往復移動の周期が加熱用回転体の回転周期と一致している場合について、加熱用回転体に仮想的に長手方向に切れ目を入れて切り開いて見た図である。図6の符号61は仮想的に切り開いた加熱用回転体である。図6の横方向が回転軸の方向であり、図6の矢印62は加熱用回転体61の回転方向を示している。いま図6中に円63で示した領域だけが磁束密度が小さく残りの部分は均一な磁束密度であるとする。磁束生成手段は図6の符号64に示した範囲で加熱用回転体61の長手方向に往復移動を繰り返すものとする。このときの低磁束密度領域63の移動の経路は、図6の65,66,67のようになる。磁束生成手段の長手方向の往復移動の周期が加熱用回転体61の回転周期と一致していた場合は、図6から明らかなように、低磁束密度領域63は加熱用回転体61が1回転した後、前と全く同じ位置に戻り、2回転めも1回転めと全く同じ経路上を動く。このため、この低磁束密度領域63の軌跡上では常に発熱量が低い。したがって、熱伝導等による加熱用回転体の温度回復力が弱い場合には、この軌跡上の温度はいつまでも周囲より低いままになる。
【0026】
一方、磁束生成手段の長手方向の往復移動の周期が加熱用回転体61の回転周期と異なっていた場合は、磁束生成手段の長手方向の往復移動の周期が加熱用回転体の回転周期の正の整数倍(例えば、1倍、2倍、3倍など)でない限り、低磁束密度領域63は2回転めに1回転めと異なる経路上を動く。したがって、1回転めに発熱量が少なかった部分も2回転めは強く発熱し、温度がある程度回復する。
【0027】
磁束生成手段の長手方向の往復移動の周期が加熱用回転体61の回転周期の2倍であれば、低磁束密度領域63は2回転毎に同じ経路上を動き、磁束生成手段の長手方向の往復移動の周期が加熱用回転体61の回転周期の3倍であれば、低磁束密度領域63は3回転毎に同じ経路上を動く。同様に磁束生成手段の長手方向の往復移動の周期が加熱用回転体61の回転周期のN倍であれば(但し、Nは正の整数)、低磁束密度領域63はN回転毎に同じ経路上を動く。上記図6での説明は、Nが1の場合に対応している。熱伝導等による加熱用回転体61の温度回復力が弱い場合には、低磁束密度領域63の軌跡上の温度を回復させるうえで、上記図6の場合と同様にNが2あるいは3の場合も好ましくない。また、熱伝導等による加熱用回転体の温度回復力が大きい場合は、Nが1の場合だけを避ければよい。
【0028】
磁束生成手段の長手方向の往復移動の周期が加熱用回転体61の回転周期の正の整数分の1であれば、低磁束密度領域63は2回転めも1回転めと全く同じ経路上を動く。しかしながら、この場合は、磁束生成手段の長手方向の移動により高磁束密度領域が長手方向に移動することによる発熱量の回復効果が大きいので、回転毎に経路が異ならなくても、温度が均一化する傾向が強くなる。このことを、図7を使って説明する。
【0029】
図7の符号71は仮想的に切り開いた加熱用回転体であり、矢印72は加熱用回転体の回転方向を示すものであり、符号73はある時刻における低磁束密度領域であり、符号74はそれより少し後の時刻における低磁束密度領域であり、符号75は後者の時刻における高磁束密度領域であり、符号76〜80は、磁束生成手段の長手方向の往復移動の周期が加熱用回転体の回転周期の2分の1である場合の磁束生成手段の移動の経路である。この場合は、ある時刻に符号73の位置にあった低磁束密度領域の大部分が新たに移動してきた高磁束密度領域75に覆われて、その領域の発熱量が回復する。
【0030】
次に、加熱用回転体のジュール熱発生位置をその長手方向に時間的に変化させる前記第2の手段を使用した場合、すなわち、加熱用回転体の長手方向に磁束生成分布の異なる複数の磁束生成部列を並設し、磁束生成部列間の磁束生成比率を時間的に変化させた場合の、加熱用回転体の表面での磁束密度分布について説明する。
【0031】
図8は加熱用回転体に仮想的に長手方向に切れ目を入れて切り開いて見た図であり、符号81は仮想的に切り開いた加熱用回転体であり、符号82は加熱用回転体の回転の向きを示す矢印である。図8に示すように、第1の磁束生成部列83が図中のAで示した位置にあるとする。この磁束生成部列83は加熱用回転体81の長手方向に並んだ6個のコイル部分からなり、この磁束生成部列83が生成する磁束密度は、各コイル部分に対応する図8の84から89の領域で高く、それ以外の領域では低い。この磁束生成部列83の磁束密度分布のムラを低減させるために、図8のBの位置に第2の磁束生成部列90を設ける。この磁束生成部列90は磁束生成部列83が生成する磁束密度が弱くなっている長手方向の位置に設けた5個のコイル部分からなる。この磁束生成部列90が生成する磁束密度は、その各コイル部分に対応する図8の91から95の領域で高く、それ以外の領域では低い。ここで、磁束生成部列83に電流を流し始めた時刻を0とすると、加熱用回転体81が回転しているため、電流を流し始めてT秒後には、その間に強い磁束密度がかかった領域は、図9に符号84から89で示したようになる。
【0032】
ここで、図9の符号81は、仮想的に切り開いた加熱用回転体であり、82は加熱用回転体の回転の向きを示す矢印であり、83は第1の磁束生成部列であり、83’は電流を流す直前に磁束生成部列83が存在していた領域である(磁束生成部列は、加熱用回転体から見ると、回転方向と逆向きに移動する)。また、LはT秒間に加熱用回転体が回転した距離である。時刻Tで磁束生成部列83の電流を切り、それからt秒経った時刻T+tでは、第1の磁束生成部列は図10の83の位置にあり、第2の磁束生成部列は図10の90の位置にあり、T+t秒間に強い磁束密度がかかった領域は、図10に符号84から89で示したようになっている。尚、図10において、符号81は、仮想的に切り開いた加熱用回転体であり、82は加熱用回転体の回転の向きを示す矢印である。この時刻T+tで第2の磁束生成部列90に電流を流しはじめ、それからs秒経った時刻T+t+sでは、第2の磁束生成部列は図11の90の位置まで移動し、その間に第2の磁束生成部列により強い磁束密度がかかった加熱用回転体の領域は、図11に符号91から95で示したようになる。
【0033】
ここで、図11の符号90’は第2の磁束生成部列に電流を流しはじめたときの第2の磁束生成部列の位置である。また、図11の符号84から89は第1の磁束生成部列により強い磁束密度がかかった上記領域である。また、符号81は、仮想的に切り開いた加熱用回転体であり、82は加熱用回転体の回転の向きを示す矢印である。その後、さらにある程度時間が経過した後で、再び第1の磁束生成部列に電流を流し、その少し後に第2の磁束生成部列の電流を切ると、その時点でそれまでに強い磁束密度がかかった加熱用回転体の領域は図12に楕円で示したようになる。ここで、加熱用回転体を仮想的に切り開く位置を回転方向の後方にずらして示した。図12の符号81は、仮想的に切り開いた加熱用回転体であり、82は加熱用回転体の回転の向きを示す矢印であり、93は第1の磁束生成部列であり、90は第2の磁束生成部列である。また、符号84〜89と96〜101は、第1の磁束生成部列により強い磁束密度がかけられた領域であり、符号91〜95は、第2の磁束生成部列により強い磁束密度がかけられた領域である。
【0034】
以上のサイクルを繰り返すと、加熱用回転体に強い磁束密度がかかった領域は、図13に楕円で示したようになる。図13の符号81は、仮想的に切り開いた加熱用回転体であり、82は加熱用回転体の回転の向きを示す矢印である。これらの領域では強い渦電流が流れるため、残りの領域に比べて発熱量が大きい。また、図13に楕円で示した領域で発生した熱量は周りの領域に拡散し、これらの領域自身と周りの領域とを加熱する。このように、加熱用回転体の長手方向に磁束生成分布の異なる複数の磁束生成部列を並設し、磁束生成部列間の磁束生成比率を時間的に変化させると、発熱量が大きい領域が空間的に分散して均等に近い形でうろこ状に分布するので、加熱用回転体の長手方向の温度分布が均一に近くなる。尚、加熱用回転体の回転方向における磁束生成部列の幅が広い場合は、図17のように、各磁束生成部列による発熱量が大きい領域が加熱用回転体の回転方向に重なるが、加熱用回転体の長手方向の温度分布を均一にするうえで支障はない。
【0035】
尚、この投入電力の時間変動の周期が加熱用回転体の回転の周期の正の整数分の1であると、加熱用回転体の常に同じ位置が加熱されることになり、好ましくない。図14に投入電力の時間変動の周期が加熱用回転体の回転周期の2分の1である場合の高磁束密度領域を示す。図14の符号81は、仮想的に切り開いた加熱用回転体であり、82は加熱用回転体の回転の向きを示す矢印であり、楕円が前記高磁束密度領域である。この場合、加熱用回転体が何回転してもこれらの領域の位置は変らない。しかし、投入電力の時間変動の周期が加熱用回転体の回転の周期より短くかつ加熱用回転体の回転の周期の正の整数分の1でなければ、加熱用回転体のn回転めとn+1回転めとでは、高磁束密度領域は加熱用回転体の回転方向にずれるので、この方が、加熱用回転体が周方向により均等に加熱されることになり好ましい。
【0036】
尚、投入電力の時間変動の周期が加熱用回転体の回転周期の2倍以上であると、加熱用回転体が1回転する間、加熱用回転体の長手方向の磁束密度の強度分布はほとんど変化しない。図15と図16に投入電力の時間変動の周期が加熱用回転体の回転周期の2倍の場合を示す。図15と図16の符号81は、仮想的に切り開いた加熱用回転体であり、82は加熱用回転体の回転の向きを示す矢印であり、図15の楕円102〜107と図16の楕円102〜106は高密度の磁束がかかった領域である。この場合、1回転ごとに図15の磁束密度分布と図16の磁束密度分布とが繰り返されるので、長手方向の温度分布が不均一になる。このことから、複数の磁束生成部列に常に一定の電流を流す場合に比べて長手方向の温度分布をより均一にする効果を強く出すためには、加熱用回転体が少なくとも1回転する間に長手方向に磁束密度分布が変化することが望ましい。したがって、投入電力の時間変動の周期が加熱用回転体の回転周期の2倍より短いことが望ましい。
【0037】
【実施例】
以下、本発明に係る加熱装置及びその加熱装置を備えた画像形成装置の具体的な実施例について説明する。
(実施例1)
図1は本発明に係る加熱装置の一実施例を示す図であり、加熱装置の長手方向に垂直な断面を示す概略断面図である。図1の符号1は誘導発熱体を有する加熱用回転体、2は磁束生成手段、3は加圧用回転体、4は加熱用回転体の回転の向きを示す矢印、5は温度センサ、6はシート状の被加熱体である。加圧用回転体3は図示しないバネ等により加熱用回転体1に圧接されている。また、加熱用回転体1は図示しない駆動機構により回転し、摩擦力によりその回転に従動して加圧用回転体3も回転する。
【0038】
図1に示す構成の加熱装置は、磁束生成手段2により生成された磁束により誘導発熱して高温になった加熱用回転体1と、加圧用回転体3との間のニップ部にシート状の被加熱体(例えば、記録用紙、OHPシート、その他のシート状物体)6を挟持搬送することによって該被加熱体6を加熱するものである。磁束生成手段2は加熱用回転体1の回転軸方向(図1の紙面に垂直な方向)の胴部の長さ全体にわたって加熱用回転体1の外側表面の周方向の半分近くを覆うように、加熱用回転体1の外側表面に面して設置してある。加熱用回転体1にはサーミスタや熱電対等の温度センサ5が取り付けてあり、その温度に基づいて、図示しない制御機構により加熱用回転体1の温度を所定の温度に制御する。尚、磁束生成手段2および温度センサ5の設置位置は、この図1に示した位置に限るものではない。
【0039】
加熱用回転体1は、図18に示すように、内側から、基体層1−1、断熱層1−2、磁性体からなる誘導発熱体層1−3、離型層1−4の4層で構成してある。基体層1−1は厚さ0.6mmのアルミニウム円管であり、断熱層1−2は厚さ0.5mmのシリコーンゴムからなる層であり、磁性体(ここで言う磁性体とは強磁性体のことである)からなる誘導発熱体層1−3は厚さ0.1mmの軟鋼からなる層であり、離型層1−4は厚さ15μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる層である。加熱用回転体1の外径は約40mmである。また、加熱用回転体1の胴部の長さは300mmである。尚、図18の各層は、分かり易いように実際の厚さとは異なった厚さで描いてある。
【0040】
加圧用回転体3は、直径30mmのアルミニウム製の芯金の回りに厚さ5mmのシリコーンゴム層を設け、さらにその外側を厚さ50μmのPTFEキャップで覆ったものである。加熱用回転体1と加圧用回転体3の接触部分(ニップ部)の回転体周方向の幅は4mmである。
ただし、本発明の適用対象はこの大きさと層構成の加熱用回転体1および加圧用回転体3に限るものではなく、任意の層構成と径と厚さと長さの加熱用回転体および加圧用回転体に適用可能である。またニップ部の幅も4mmに限るものではない。
【0041】
また、各回転体を構成する材料も上述の通りでなくても良く、例えば、加熱用回転体1の基体層1−1には、アルミニウム、銅、ステンレススチール(SUS)などの金属、あるいはセラミックス、ガラスなどの固体を使用してもよく、加熱用回転体1の断熱層1−2には、発泡ガラス、低熱伝導性セラミックス、発泡シリコーンゴムなどの非磁性体でかつ熱伝導率の小さい材料を使用してもよく、加熱用回転体1の誘導発熱体層1−3には、磁性金属等の強磁性体であれば何でも用いることができ、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、あるいはそれらの合金が使え、加熱用回転体1の離型層1−4にはフッ素樹脂、シリコーン樹脂、PTFE、PFA等の耐熱性と離型性の良い材料を使用できる。尚、加熱用回転体1の断熱層1−2は無くてもよく、また、加熱用回転体1の離型層1−4も無くてもよく、また、加熱用回転体1の基体層1−1が誘導発熱体層を兼ねていてもよく、さらには加熱用回転体1に弾性層等の層を追加しても構わない。
【0042】
加圧用回転体3の芯金は、鉄、鋼、銅、SUSなどの金属あるいはセラミックス、ガラスなどの固体を使用してもよく、加圧用回転体3のシリコーンゴム層に代えてフッ素ゴム層やフルオロシリコンゴム層を用いてもよく、加圧用回転体3のPTFEキャップに代えて各種のフッ素樹脂、シリコーン樹脂、PTFE、PFA等の耐熱性と離型性の良い材料からなる層を用いてもよい。また、加圧用回転体3は、芯金とその回りの弾性層だけにしてもよく、また、加圧用回転体3に断熱層等の層を追加して設けても良い。
【0043】
加熱用回転体1はその両端において、図19に示すように、直径を小さくしてあり、この部分(ジャーナル部と呼ぶ)に加熱用回転体の保持機構と駆動用ギアが取り付けてある。尚、図19において、符号11は加熱用回転体の胴部、12と13は加熱用回転体のジャーナル部、14と15は加熱用回転体の保持機構、16は加熱用回転体の駆動用ギアである。
【0044】
磁束生成手段2は、加熱用回転体1の外周面から約0.5mmの隙間を置いて、ニップ部以外の加熱用回転体外周面のうちのニップ部入口に近い側のほぼ半分を取り囲むようにして配置してある。磁束生成手段2は磁束生成コイルとコイル形状保持部材とからなる。磁束生成コイルの一例としては図20及び図21に示すように、コイル状に引き回した直径約2mmのリッツ線112を、加熱用回転体1の曲率に合わせて湾曲させた300mm×40mmの長方形状のセラミックス製のコイル形状保持部材111に接着させて形成してある。図21は、図20に破線113で示した位置での断面図である。磁束生成コイルは例えばリッツ線112を10巻き巻いて形成してある。コイル形状保持部材111は合成樹脂製でも良く、あるいはフェライトのような高透磁率の磁性体であっても良い。この磁束生成手段2は、リッツ線112が有る側の面を加熱用回転体1に向けて配置する。ただし、コイル形状保持部材111が磁性体でない場合は、図22に示すように、コイル形状保持部材111を図21に示したものとは逆向きに湾曲させたうえで、リッツ線112が無い側の面を加熱用回転体1に向けて配置しても良い。
【0045】
コイル形状保持部材111の両端は図20の符号114で示すように長手方向に延びており、その端で湾曲の内側方向に折れ曲がり、図23に示すように、加熱用回転体1のジャーナル部13に嵌め込んだ磁束生成手段保持リング117に接続している。この磁束生成手段保持リング117はジャーナル部13の長手方向にほとんど摩擦を生じることなく移動可能となっている。尚、図23において、符号13は図19に示した加熱用回転体1のジャーナル部であり、111は図20に示したコイル形状保持部材であり、114はコイル形状保持部材の一端から長手方向に延びた部分であり、117は磁束生成手段保持リングである。
【0046】
図24に図23の縦断面の一部を示す。図24において、符号11は加熱用回転体1の胴部であり、13は加熱用回転体1のジャーナル部であり、111はコイル形状保持部材であり、114はコイル形状保持部材の1端から長手方向に延びた部分であり、117は磁束生成手段保持リングである。コイル形状保持部材111の一端は、図20の符号115で示すクランク棒に接続してあり、このクランク棒115をその長手方向に往復運動させることが可能なようにクランク駆動機構116を設けてある。クランク駆動機構116によりクランク棒115が往復すると、それに連れて磁束生成手段2も加熱用回転体1の長手方向に往復運動する。また、磁束生成コイル(リッツ線)112には、図示しない電力供給手段により電力が供給される。
【0047】
以上のような構成からなる図1の加熱装置において、加熱用回転体1を線速190mm/secで回転させながら磁束生成コイルに周波数30kHzの交流電流を流した。このとき消費電力を1200Wに保つように投入電力を制御した。また、磁束生成手段2は静止させた。加熱用回転体1の表面温度は表面のいたるところで初期に25℃であったが、上記電流の供給を開始して15秒後に加熱用回転体1の胴部の1端から長手方向に50mm入った位置から20mm間隔で10個所、加熱用回転体1の表面の温度を測定したところ、最高温度が182℃であり、最低温度が174℃であった。次に、加熱用回転体1の表面温度がいたるところ25℃になるまで冷却した後、磁束生成手段2を振幅100mmで毎秒20回往復させたこと以外は前と同じ条件で加熱用回転体1を加熱し、電流の供給を開始して15秒後の同じ位置の温度を測定したところ、最高温度が180℃であり、最低温度が177℃であった。このように、磁束生成手段2を加熱用回転体1の長手方向に往復移動させ、加熱用回転体1の長手方向における誘導発熱層の発熱位置を時間的に変化させることにより、加熱用回転体1の長手方向の温度ムラを減少させることができた。
【0048】
(実施例2)
次に本発明の第2の実施例について説明する。
図25は本発明に係る加熱装置の第2の実施例を示す図であり、加熱装置の長手方向に垂直な断面を示す概略断面図である。図25の符号1は誘導発熱体を有する加熱用回転体であり、2Aは磁束生成手段の第1のコイル・アセンブリー、2Bは磁束生成手段の第2のコイル・アセンブリーであり、3は加圧用回転体、4は加熱用回転体の回転の向きを示す矢印、5は温度センサ、6はシート状の被加熱体である。本実施例では、加熱装置の構成は、磁束生成手段とクランク駆動機構以外は実施例1と同じである。
【0049】
図25に示す加熱装置では、磁束生成手段は2個のコイル・アセンブリー2A,2Bからなる。第1のコイル・アセンブリー2Aを図26に示す。図26において、符号121はコイル形状保持部材であり、長手方向の幅が300mmでそれに直角な方向の幅が40mmの長方形で厚さ1mmのセラミックス製の板である。符号122〜126はそのコイル形状保持部材121上に接着された直径40mmの円盤状のコイルである。これらのコイル122〜126は全て同じ形状と大きさであり、いずれも直径2mmのリッツ線を渦巻状に9回巻いて形成してある。また、これらのコイル122〜126は導線により電気的に直列に連結してある。また、これらのコイル122〜126は、その中心点がコイル形状保持部材121の長手方向の端からそれぞれ30mm、90mm、150mm、210mm、270mmの位置にあるように配置してある。さらに、各コイル122〜126の中心点は、コイル形状保持部材121の短手方向の端から20mmの位置にある。また、コイル形状保持部材121とコイル122〜126は、コイル形状保持部材121の短手方向に加熱用回転体1の外側表面とほぼ同じ曲率で湾曲させてある。
【0050】
第2のコイル・アセンブリー2Bを図27に示す。図27において、符号131はコイル形状保持部材であり、その大きさと形状は第1のコイル・アセンブリー2Aのコイル形状保持部材121に等しい。図27の符号132〜135は、第1のコイル・アセンブリー2Aを構成しているコイル122〜126と同様のコイルである。これらのコイル132〜135は、その中心点がコイル形状保持部材131の長手方向の端からそれぞれ60mm、120mm、180mm、240mmの位置にあるように配置してある。また、各コイル132〜135の中心点は、コイル形状保持部材131の短手方向の端から20mmの位置にある。本実施例では、これら2つのコイル・アセンブリー2A,2Bを磁束生成手段として加熱用回転体1の長手方向に並列に並べ、長手方向に垂直な断面での形状が図25のようになるように設置した。
【0051】
以上のような構成からなる図25の加熱装置において、加熱用回転体1を線速190mm/secで回転させながら2つのコイル・アセンブリー2A,2Bに周波数30kHzの交流電流を流した。このとき消費電力を1200Wに保つように投入電力を制御した。加熱用回転体1の表面温度は表面のいたるところで初期に25℃であったが、上記電流の供給を開始して15秒後に加熱用回転体1の胴部の一端から長手方向に50mm入った位置から20mm間隔で10個所加熱用回転体の表面の温度を測定したところ、最高温度が187℃であり、最低温度が172℃であった。
【0052】
次に、加熱用回転体1の表面温度がいたるところ25℃になるまで冷却した後、第1のコイル・アセンブリー2Aに周波数30kHzの交流電流を流し始めて0.2秒後に第2のコイル・アセンブリー2Bに周波数30kHzの交流電流を流し始め、その0.1秒後に第1のコイル・アセンブリー2Aに電流を流すことを止め、さらに0.2秒後に第2のコイル・アセンブリー2Bに電流を流すことを止めると同時に第1のコイル・アセンブリー2Aに電流を流し始めるというサイクルを繰り返したこと以外は前と同じ条件で平均の消費電力を1200Wに保つようにして加熱用回転体1を加熱し、電流の供給を開始して15秒後の同じ位置の温度を測定したところ、最高温度が183℃であり、最低温度が177℃であった。このように、加熱用回転体1の長手方向における磁束生成部の位置が互いに異なっている2つのコイル・アセンブリー2A,2Bを並置して、各コイル・アセンブリー2A,2Bへの投入電力の列間比率を時間的に変動させることにより、加熱用回転体1の長手方向における発熱位置が時間的に変動し、加熱用回転体1の発熱ムラが長手方向にならされ、そのため加熱用回転体1の長手方向の温度ムラを減少させることができた。
【0053】
(実施例3(画像形成装置の実施例))
次に、図28は本発明に係る画像形成装置の一実施例を示す概略構成図であり、実施例1または実施例2に記載の加熱装置を用いた画像形成装置の一例を示すものである。
この画像形成装置は、像担持体として円筒状に形成された光導電性の感光体141を有している。感光体141の周囲には、感光体を均一に帯電する帯電手段としての帯電ローラ142、感光体上の潜像をトナーで現像する現像装置144、感光体上に形成・担持されたトナー像を記録媒体149に転写する転写手段としての転写ローラ145、転写後の感光体表面をクリーニングするクリーニング装置147、クリーニング後の感光体表面を除電する除電装置148が配備されている。また、それらの他に、帯電ローラ142と現像装置144との間の感光体面で光走査による露光を行い静電潜像を形成する光走査装置2と、記録媒体149に転写された未定着トナー像を定着するための定着装置6を備えている。尚、帯電手段としては、コロナチャージャ、帯電ブラシ等を用いることができ、転写手段としては、転写チャージャ、転写ベルト等を用いることができる。また、定着装置146には、実施例1または実施例2に記載の加熱装置が用いられる。
【0054】
画像形成を実行する際は、像担持体である感光体141が図28の時計回りに回転され、その表面が帯電ローラ142により均一に帯電された後、光走査装置143の露光により感光体141の表面に静電潜像が形成される。この静電潜像は現像装置144により反転現像され、感光体141の表面にトナー像が形成される。このトナー像は、感光体141のトナー像が転写位置へ移動するのとタイミングを合わせて図示しない給紙機構により転写部へ送り込まれた記録媒体(例えば、記録用紙)149と重ね合わされて、転写ローラ145の作用により、記録媒体149へ静電転写される。トナー像を転写された記録媒体149は、定着装置146でトナー像を定着された後、装置外部へ排出される。ここで、定着装置146としては、実施例1または実施例2で説明した加熱装置を用いているので、温度ムラが殆ど無い良好な定着を行うことができる。トナー像が転写された後、感光体141の表面はクリーニング装置147によりクリーニングされ、残留トナーや紙粉などが除去され、さらに除電装置148により除電される。
【0055】
【発明の効果】
以上説明したように、前述の解決手段の(1)、(2)に記載の加熱装置においては、磁束生成手段を回転体の長手方向に往復移動させる手段(例えば磁束生成手段を回転体の長手方向に往復運動させるクランク駆動機構)を有し、該往復移動させる手段により、回転体の長手方向における誘導発熱体の発熱位置を時間的に変化させる構成としたので、回転体の長手方向の温度ムラを減少させることができる。
【0056】
(3)の加熱装置においては、(1)または(2)の構成に加えて、回転体の長手方向への磁束生成手段の往復移動の周期を、回転体の回転の周期と異ならせたので、回転体の1回転毎に回転体の長手方向の発熱分布が異なり、そのため回転体の長手方向の温度ムラを減少させる効果が高まる。
(4)の加熱装置においては、(1)または(2)の構成に加えて、回転体の長手方向への磁束生成手段の往復移動の周期を、回転体の回転の周期の正の整数倍でなくしたので、回転体の発熱分布が周期的に元の分布に戻るということがなくなり、そのため回転体の長手方向の温度ムラを減少させる効果がさらに高まる。
(5)の加熱装置においては、(1)または(2)の構成に加えて、回転体の長手方向への磁束生成手段の往復移動の周期を、回転体の回転の周期よりも短くしたので、回転体が1回転する間に、回転体の長手方向の発熱ムラの位置が1往復以上移動して発熱ムラが平均化され、そのため回転体の長手方向の温度ムラを減少させる効果が高まる。
【0057】
(6)の加熱装置においては、回転体の長手方向における磁束生成部の位置が互いに異なっている複数個の磁束生成部列を並置して、各磁束生成部列への投入電力の列間比率を時間的に変動させたので、回転体の長手方向における発熱位置が時間的に変動し、回転体の発熱ムラが長手方向にならされ、そのため回転体の長手方向の温度ムラを減少させることができる。
(7)の加熱装置においては、回転体の長手方向における磁束生成部の位置が互いに異なっている複数個の磁束生成部列を並置して、各磁束生成部列への投入電力の列間比率を時間的に変動させ、その際に、投入電力の列間比率の時間変動の周期を、回転体の回転の周期の正の整数分の1にならないようにしたので、回転体の1回転毎に回転体の発熱位置が異なり、そのため回転体の長手方向の温度ムラを減少させる効果が高まる。
(8)の加熱装置においては、回転体の長手方向における磁束生成部の位置が互いに異なっている複数個の磁束生成部列を並置して、各磁束生成部列への投入電力の列間比率を時間的に変動させ、その際に、投入電力の列間比率の時間変動の周期を回転体の回転の周期の2倍より短くしたので、回転体が1回転する間に回転体の長手方向の発熱位置が変化し、そのため回転体の長手方向の温度ムラを減少させる効果が高まる。
【0058】
(9)の画像形成装置においては、シート状の記録媒体上にトナー像を形成し担持させる像形成手段と、前記トナー像を担持した前記記録媒体を加熱処理する像加熱手段とを有する画像形成装置において、前記像加熱手段として(1)乃至(8)(特に(6)乃至(8))のうちのいずれか一つに記載の構成及び効果を有する加熱装置を備えているので、定着能力の高い高品質な画像形成を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る加熱装置の一実施例を示す図であり、加熱装置の長手方向に垂直な断面を示す概略断面図である。
【図2】図1に示す加熱装置において加熱用回転体の長手方向(回転軸方向)に加熱用回転体に対して磁束生成手段を相対的に移動させた場合の加熱用回転体表面における磁束密度の分布を示す図である。
【図3】図1に示す加熱装置において加熱用回転体の長手方向(回転軸方向)に磁束生成分布の異なる複数個の磁束生成手段を並設し、磁束生成手段間の磁束生成比率を時間的に変化させた場合の加熱用回転体表面における磁束密度の分布を示す図である。
【図4】加熱用回転体の長手方向に磁束生成手段を相対的に移動させた場合の加熱用回転体表面の温度分布の説明図である。
【図5】加熱用回転体の長手方向に磁束生成手段を相対的に移動させた場合の加熱用回転体表面の温度分布の説明図である。
【図6】加熱用回転体の長手方向に磁束生成手段を相対的に移動させた場合の加熱用回転体表面の温度分布の説明図である。
【図7】加熱用回転体の長手方向に磁束生成手段を相対的に移動させた場合の加熱用回転体表面の温度分布の説明図である。
【図8】加熱用回転体の長手方向に磁束生成分布の異なる複数の磁束生成部列を並設し、磁束生成部列間の磁束生成比率を時間的に変化させた場合の、加熱用回転体の表面での磁束密度分布の説明図である。
【図9】加熱用回転体の長手方向に磁束生成分布の異なる複数の磁束生成部列を並設し、磁束生成部列間の磁束生成比率を時間的に変化させた場合の、加熱用回転体の表面での磁束密度分布の説明図である。
【図10】加熱用回転体の長手方向に磁束生成分布の異なる複数の磁束生成部列を並設し、磁束生成部列間の磁束生成比率を時間的に変化させた場合の、加熱用回転体の表面での磁束密度分布の説明図である。
【図11】加熱用回転体の長手方向に磁束生成分布の異なる複数の磁束生成部列を並設し、磁束生成部列間の磁束生成比率を時間的に変化させた場合の、加熱用回転体の表面での磁束密度分布の説明図である。
【図12】加熱用回転体の長手方向に磁束生成分布の異なる複数の磁束生成部列を並設し、磁束生成部列間の磁束生成比率を時間的に変化させた場合の、加熱用回転体の表面での磁束密度分布の説明図である。
【図13】加熱用回転体に強い磁束密度をかけて発熱させる領域の説明図である。
【図14】加熱用回転体に強い磁束密度をかけて発熱させる領域の説明図である。
【図15】加熱用回転体に強い磁束密度をかけて発熱させる領域の説明図である。
【図16】加熱用回転体に強い磁束密度をかけて発熱させる領域の説明図である。
【図17】加熱用回転体に強い磁束密度をかけて発熱させる領域の説明図である。
【図18】図1に示す構成の加熱装置に用いられる加熱用回転体の一例を示す断面図である。
【図19】図1に示す構成の加熱装置に用いられる加熱用回転体の一例を示す概略構成図である。
【図20】磁束生成手段の一例を示す平面図である。
【図21】図20に示す磁束生成手段の断面図である。
【図22】図20に示す磁束生成手段の別の断面図である。
【図23】磁束生成手段の加熱用回転体への取り付け部の構造の一例を示す要部斜視図である。
【図24】磁束生成手段の加熱用回転体への取り付け部の構造の一例を示す要部断面図である。
【図25】本発明に係る加熱装置の別の実施例を示す図であり、加熱装置の長手方向に垂直な断面を示す概略断面図である。
【図26】図25に示す加熱装置の磁界生成手段を構成する第1のコイル・アセンブリーの平面図である。
【図27】図25に示す加熱装置の磁界生成手段を構成する第2のコイル・アセンブリーの平面図である。
【図28】本発明に係る画像形成装置の一実施例を示す概略構成図である。
【図29】従来の誘導加熱方式の加熱装置に用いられる磁束生成コイルの一例を示す平面図である。
【図30】従来の誘導加熱方式の加熱装置に用いられる磁束生成コイルの別の一例を示す斜視図である。
【図31】従来の誘導加熱方式の加熱装置において回転体の長手方向に複数個のコイルを並べて加熱する構成の説明図である。
【図32】回転体の長手方向に複数個のコイルを持つコイル列を2つ用意してコイルが互いに千鳥状の位置関係になるようにして発熱させた場合の発熱分布を示す図である。
【符号の説明】
1:加熱用回転体
1−1:基体層
1−2:断熱層
1−3:誘導発熱体層
1−4:離型層
2:磁束生成手段
2A:第1のコイル・アセンブリー(磁束生成手段)
2B:第2のコイル・アセンブリー(磁束生成手段)
3は加圧用回転体
4:加熱用回転体の回転方向
5:温度センサ
6:シート状の被加熱体
141:感光体(像担持体)
142:帯電ローラ
143:光走査装置
144:現像装置
145:転写ローラ
146:定着装置(加熱装置)
147:クリーニング装置
148:除電装置
149:記録媒体(被加熱体)
Claims (4)
- 磁束生成手段による磁束の作用によって発熱する誘導発熱体を有する回転体と、該回転体と相互に圧接される加圧部材とを有し、前記回転体と前記加圧部材との間に被加熱体を通過させて被加熱体を加熱する加熱装置において、
前記磁束生成手段が前記回転体の長手方向に複数個の磁束生成部を並べた磁束生成部列を複数列並置した構成であり、前記回転体の長手方向における磁束生成部の位置が磁束生成部列間で同一ではなく、各磁束生成部列への投入電力の列間比率を時間的に変動させることを特徴とする加熱装置。 - 請求項1記載の加熱装置において、
投入電力の列間比率の時間変動の周期が、前記回転体の回転の周期の正の整数分の1でないことを特徴とする加熱装置。 - 請求項1記載の加熱装置において、
投入電力の列間比率の時間変動の周期が、前記回転体の回転の周期の2倍より短いことを特徴とする加熱装置。 - シート状の記録媒体上にトナー像を形成し担持させる像形成手段と、前記トナー像を担持した前記記録媒体を加熱処理する像加熱手段とを有する画像形成装置において、
前記像加熱手段として請求項1乃至3のうちのいずれか一つに記載の加熱装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
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