近年の省エネルギー化により、加熱装置は非加熱対象物を必要最小限な熱量で加熱できることが望ましい。ところが、例えば電子写真式の画像記録装置の定着装置においては、被加熱部材の熱容量が大きいため、必要な熱量以上の加熱を行っている。このため、所定の加熱ができる状態になるまでの時間(ウォームアップタイム)が長くなり、加熱装置使用上の利便性が悪いという問題がある。そこで、被加熱部材の発熱層の厚さを薄くして、熱容量を小さくし、さらに軽量化する等が考えられる。
しかしながら、ウォームアップタイムを短縮するために熱容量を小さく、すなわち発熱層(金属)を薄くしていくと、発熱層の固有抵抗値が小さいものが必要となる。例えば鉄やニッケルなどの強磁性金属は固有抵抗値が高いため、10μm程度に薄層化すると電磁誘導加熱が汎用性の高い高周波電源では困難になる。10μm程度の厚さでも電磁誘導加熱が可能な金属を挙げると、AL,Cu,Agなどに代表される非磁性金属であるが、この厚さの非磁性発熱層を電磁誘導加熱すると、表皮深さより十分に薄いために発熱層のコイルと反対側に磁界が漏れ出て広がり、効率低下や周囲への電磁誘導による悪影響を及ぼす。
また、電磁誘導加熱を利用した加熱装置は、電磁誘導加熱化に特有な機能部材が多いためコストが高くなるという課題もある。
さらに、従来の定着装置の場合には、次のような問題点を有している。すなわち、例えば特許文献1〜4に開示された定着装置の場合には、誘導加熱方式を採用しているため、ハロゲンランプ等の加熱源を使用した場合に比べて、ウォームアップ時間が速まる。しかし、加熱ロール自体が、剛性を保つためにある厚さ以上の肉厚の金属コアを有しているため、ある程度の熱容量を持っており、これによりウォームアップタイム短縮に対しては限界があり、未定着トナー像を定着する準備が完了するウォームアップタイムを10秒以下にすることが困難であるという問題点を有している。
一方、特許文献5〜7に開示された定着装置は、定着部材として導電性を有するフィルムを使用しており、フィルム自体の熱容量は、同等クラスの定着装置の定着ロールに対して1/2〜1/10程度まで小さくなっており、さらに、誘導加熱で直接フィルムを加熱することにより、20〜30秒程度で定着部材としてのフィルムを所望の温度にまで立ち上げることができる。
しかしながら、このように励磁コイルによって磁性体金属の発熱層を含む熱容量の小さい像加熱用フィルムを加熱した場合でも、未だウォームアップタイム短縮が十分に達成されていない。
同様に、特許文献8〜9に開示されたコイルやコアの配置を採用した定着装置においても、未だウォームアップタイム短縮が十分に達成されていない。
待機時間を極めて短くして、特に、ウォームアップタイム10秒以下を達成することは、実際に定着装置や画像記録装置を使用する際に、使用するときにだけ電力を投入すればよい、極めて使用上の利便性が高い装置を提供できることとなる。これは省エネルギーの観点からも重要な要素であり、使わないときに余熱を必要とせず、使うときにだけ、エネルギーを投入する加熱装置及びこれを用いた定着装置、画像記録装置を提供する意義は大きい。
また、以上示したような誘導加熱装置を、定着装置に適用する場合には、加熱する定着部材(加熱定着ベルト)の温度分布を均一にすることが重要となる。すなわち、加熱部におけるコイル長(加熱定着ベルトの回転軸方向に沿った加熱領域)に対する有効発熱長(温度均一化領域)の割合を大きくしなければならない。コイル長に対する有効発熱長は、磁路形成部材であるフェライトを採用しない場合や、またはフェライト小片部材を均等配置した後述する“千鳥配置”の場合においても、コイル長に対して依然として短く、端部の温度はゆるやかに下落している。これは、エネルギー使用の上で無駄な領域となっており、本来はコイル長と有効発熱長とが等しい状態が理想的な状態である。このような状態のときに、熱エネルギーの利用効率が最大化し、こうした理想状態に近づけることで同じ電力(熱エネルギー)における利用効率の向上(複写機やプリンターでは、生産性の向上に寄与し、同じ電力でも1分当たりに定着できるコピー枚数を多くすることができる)を図ることが可能となる。このためには加熱部の端部の温度分布を改善する必要が生じている。
そこで、本発明は上記のような従来技術の問題点に鑑みて、ウォームアップタイムを極めて短くしつつ、安定した誘導加熱状態を確保すると共に、加熱領域における無駄な領域を少なくするために端部温度勾配を大きくして、その有効発熱長を拡大し、熱エネルギーの利用効率を高めることができる加熱装置及びこれを用いた定着装置、画像記録装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の加熱装置は、導電性の発熱層の厚さがその表皮深さよりも薄い発熱層を有する被加熱部材を、この被加熱部材と非接触に配置された励磁コイルにより、該発熱層の厚さ方向に沿って変動磁界を発生させて電磁誘導加熱すると共に、この励磁コイルにより生成される変動磁界を、被加熱部材及び励磁コイルを挟んで励磁コイルの長手方向に沿って対向配置された磁路形成部材により遮蔽する加熱装置において、前記磁路形成部材は、励磁コイル側に配置された励磁コイル側磁路形成部材と、被加熱部材側に、この被加熱部材と非接触に配置された被加熱部材側磁路形成部材とを備え、該励磁コイル側及び被加熱部材側磁路形成部材のそれぞれは、前記長手方向において、小片部材が互いに間隙を設けて配置された小片部材郡から形成され、前記励磁コイル側及び被加熱部材側磁路形成部材の少なくとも一方を形成している小片部材郡における小片部材の配置密度は、前記長手方向において、その中間部よりも端部の方が高いことを特徴とする。
一般に、ウォームアップタイムを限りなく0に近づけて、10秒以下に短縮するためには、電磁誘導加熱される発熱層(金属)の熱容量を小さくすることが最も重要である。そのためには発熱に寄与する金属の層はトータルで30μm以下、望ましくは2〜20μmの範囲内であれば実現可能である。また、主に発熱する層が1層ある場合、その層は製造性(歩留りや層形成の均一性)やコストを考慮すると10μm前後が好適である。
例えば、発熱に寄与する層(金属層)は、製造上の理由または強度補強の理由などから複数存在することがある。電磁誘導作用により発熱する層はコストの観点から1つであることが望ましいが、上記理由等により発熱に寄与する層が複数存在する場合には各層のトータル厚さで30μm以下とすることが望ましい。本発明では、発熱に寄与する層が複数存在しても、全発熱量の5割以上の電磁誘導発熱量を得られる層を主に発熱する層として「主な発熱層」とよび、発熱に寄与するすべての層を総称して単に「発熱層」と呼称する。
発熱に寄与する主な発熱層を10μm程度に薄くした導体、すなわち金属または金属混合物を汎用性が高く低コストの高周波電源(例えば、電磁調理器等で用いられている準E級並列共振回路電源)で誘導加熱するためには、非磁性金属を用いる必要がある。磁性金属を薄膜化してゆくと、磁性金属は固有抵抗値が高いため誘導渦電流が流れにくくなり加熱が困難になる。流れにくい発熱層を誘導加熱しようとすれば、コイルに高電圧を印加しなくてはならず電源の高電圧化等の問題が生じるため実際に適応することが困難となる。すべての金属に交番電磁界を作用させれば電磁誘導による渦電流は流れるが、ジュール発熱による加熱装置を設計するためには、発熱しやすい条件を与えること重要である。これに対して、特にアルミや銅、銀などに代表される非磁性金属は固有抵抗値が低く、表皮深さより十分に薄くすることで誘導加熱に好適となる、具体的には例えば10μm程度に薄膜化することで加熱しやすくなる。
例えば単一の発熱層として、非磁性金属の銅を例にとると、周波数が20k〜100kHzの周波数帯において、電磁界が銅層に浸入する表皮深さδは、下式により、μ=1,ρ=1.67×10−8Ωmで、200〜500μmとなり、発熱層の厚さは十分に表皮深さより小さい。
しかし、アルミや銅、銀などに代表される低固有抵抗値を有する非磁性金属は、発熱層が表皮深さδより薄い金属を誘導加熱する場合、交番磁界発生手段である励磁コイルから発生する磁界と誘導渦電流による反作用磁界は、発熱層を挟んでコイルと反対側から漏れ出る。表1に磁路形成部材であるフェライトがある場合とない場合の磁束密度の違いを示すが、磁路形成部材がない場合には強磁界が発熱層周辺から発生していることがわかる。この磁界は、コイルによる磁界と発熱層に流れる渦電流による磁界によるもので、発熱層から漏れ出ている。
さらに、このような誘導加熱装置において、安定して安全な誘導加熱状態を得るためには、誘導加熱される被加熱部材の温度分布を均一にすることが重要となる。すなわち、コイル長(加熱定着ベルトの回転軸方向の加熱領域)に対する有効発熱長(温度均一化領域)の割合を大きくすることにより、熱エネルギーの利用効率が最大化する。
そこで、上述のように構成された本発明の加熱装置においては、励磁コイル側及び被加熱部材側磁路形成部材のそれぞれが、長手方向において、小片部材が互いに間隙を設けて配置された小片部材郡から形成され、励磁コイル側及び被加熱部材側磁路形成部材の少なくとも一方を形成している小片部材郡における小片部材の配置密度は、長手方向において、その中間部よりも端部の方が高いので、磁路形成部材の使用量を少なくしつつ、表皮深さより十分に薄い非磁性金属であっても安全で安定した誘導加熱状態を得ることができると共に、端部における磁束密度を高くして、その温度勾配を大きくすることができる。これにより、従来使用していない端部加熱領域の緩やかに下降していく温度領域を少なくして、端部温度を高めることが可能となり、熱エネルギーの利用効率が向上されると共に、加熱幅(励磁コイルの長手方向における加熱領域)における温度分布の均一性が実現されて、その有効発熱長を増大させることができる。
ここで、前記励磁コイル側磁路形成部材と前記被加熱部材側磁路形成部材との対向距離は、前記長手方向において、その中間部よりも端部の方が短くてもよい。
この場合は、励磁コイル側磁路形成部材と被加熱部材側磁路形成部材との対向距離が、長手方向において、その中間部よりも端部の方が短くなるように構成されているので、さらに加熱領域端部における温度特性が改善され、熱エネルギーの利用効率をより向上させることができる。
また、前記磁路形成部材の前記端部を構成している小片部材は、前記中間部を構成している小片部材よりも、透磁率の高い材質で形成されていてもよい。
この場合は、磁路形成部材の端部を構成している小片部材が、中間部を構成している小片部材よりも、透磁率の高い材質で形成されているので、加熱領域端部における磁束密度を高めることができ、これにより端部における温度下落を防止して、その有効発熱長の増大を図ることができる。
さらに、前記励磁コイル側及び被加熱部材側磁路形成部材の前記中間部を形成している小片部材のそれぞれは、互いに、対向する相手側の磁路形成部材の前記中間部を形成している小片部材群の各間隙に対応するように配置されていてもよい。。
この場合は、励磁コイル側及び被加熱部材側磁路形成部材の中間部を形成している小片部材のそれぞれは、互いに、対向する相手側の磁路形成部材を形成している小片部材群の各間隙に対応するように配置されているので、適切な磁路を形成して磁束の集中による温度ムラの発生を防止すると共に、高価な磁路形成部材の使用量を減少させつつ、その効果的な使用を可能とする安価で軽量な加熱装置を提供することができる。
さらにまた、前記被加熱部材は、無端ベルト形状であって、所定の方向に移動可能なように形成されており、その移動方向前後において、少なくとも励磁コイルと対向して被加熱部材側に配置されている前記磁路形成部材の両端部は、相対向する励磁コイルの両端部を越えてそれぞれ延在していてもよい。
この場合は、被加熱部材の所定の移動方向前後において、磁路形成部材の両端部が、相対向する励磁コイルの両端部を越えてそれぞれ延在しているので、磁路形成部材の幅が、コイルの幅(加熱幅)より大きくなり、発熱層が表皮深さδより薄い金属を誘導加熱する場合に、発熱層を挟んで励磁コイルと反対側から漏れ出る反作用磁界による磁束漏れをより効果的に防止し、漏洩の少ない磁束路を形成し、遮蔽効果を向上させることができる。
ここで、前記無端ベルト形状に形成された被加熱部材は、円筒状であってもよい。
以上において、前記磁路形成部材は、ソフトフェライトで形成されていてもよい。
この場合は、磁束を収集し遮蔽するために好適な材質を用いた磁路形成部材を有する加熱装置を提供することができる。
また、前記被加熱部材の発熱層は、主に発熱する層の厚さが2〜15μmの銅で形成されており、前記励磁コイルに印加される交流電流の周波数は20〜100kHzであってもよい。
この場合は、銅層厚さと印加周波数との関係において、安定した加熱が可能となる加熱装置を提供することができる。
また、本発明の加熱装置は、導電性の発熱層の厚さがその表皮深さよりも薄い発熱層を有する被加熱部材を、この被加熱部材と非接触に配置された励磁コイルにより、該発熱層の厚さ方向に沿って変動磁界を発生させて電磁誘導加熱すると共に、この励磁コイルにより生成される変動磁界を、被加熱部材及び励磁コイルを挟んで励磁コイルの長手方向に沿って対向配置された磁路形成部材により遮蔽する加熱装置において、前記磁路形成部材は、励磁コイル側に配置された励磁コイル側磁路形成部材と、被加熱部材側に、この被加熱部材と非接触に配置された被加熱部材側磁路形成部材とを備え、該励磁コイル側及び被加熱部材側磁路形成部材のそれぞれは、前記長手方向において、小片部材が互いに間隙を設けて配置された小片部材郡から形成され、前記励磁コイル側磁路形成部材と前記被加熱部材側磁路形成部材との対向距離は、前記長手方向において、その中間部よりも端部の方が短いことを特徴とする。
このように構成した本発明に係る加熱装置においては、励磁コイル側及び被加熱部材側磁路形成部材のそれぞれは、長手方向において、小片部材が互いに間隙を設けて配置された小片部材郡から形成され、励磁コイル側磁路形成部材と被加熱部材側磁路形成部材との対向距離は、長手方向において、その中間部よりも端部の方が短いので、磁路形成部材の使用量を少なくしつつ、表皮深さより十分に薄い非磁性金属であっても安全で安定した誘導加熱状態を得ることができると共に、端部における磁束密度を高くして、その温度勾配を大きくすることができる。これにより、従来使用していない端部加熱領域の緩やかに下降していく温度領域を少なくして、端部温度を高めることが可能となり、熱エネルギーの利用効率が向上されると共に、加熱幅(励磁コイルの長手方向における加熱領域)における温度分布の均一性が実現されて、その有効発熱長を増大させることができる。
また、本発明に係る定着装置は、上記加熱装置を用いた定着装置であって、回動自在に形成されて、少なくともその最表面に離型層を有する定着ベルトと、この定着ベルトの一部を電磁誘導加熱する加熱部と、未定着トナー像を担持した記録媒体を、加圧部材と前記定着ベルトとの間で加熱加圧して、この未定着トナー像を定着するニップ部とを備えることを特徴とする。
さらに、本発明に係る画像記録装置は、上記定着装置と、記録媒体に未定着トナー像を形成する画像形成手段とを備えることを特徴とする。
本発明によれば、主な発熱層が非磁性体(金属)で、発熱層がその表皮深さより薄いものを加熱する加熱装置において、熱エネルギーの利用効率が優れ、省エネ性が高く、安全かつ安定した加熱状態が得られる加熱装置を提供でき、これにより、ウォームアップタイムが10秒以下で、加熱に必要な時にのみエネルギーを投入すればよい省エネルギーでかつ利便性に富んだ定着装置及び画像記録装置を実現することができる。
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
<第一の実施形態>
まず、本発明に係る加熱装置が適用される定着装置の第一の実施形態について、図1を参照して説明する。図1は、本発明に係る定着装置の第一の実施形態を示す模式的断面図である。
本発明に係る定着装置の第一の実施形態10は、ウォームアップタイムの短縮化による省エネルギー性の向上や、記録媒体の剥離性能の確保を目的とし、トナー像を定着するための定着部材としては、熱容量の小さい柔軟(フレキシブル)なベルト状の部材を使用し、このベルト状部材の内部には、熱を奪う部材を極力配設しないように構成されている。すなわち、無端状のベルト部材(加熱定着ベルト)は、その内側に駆動ロール等の張架部材を設けずに、無張架で配置され、定着ニップ部を形成する加圧部材に対向配置されるパッド部材(押圧部材)のみしか、基本的には設けない構成を採用している。また、加熱対象となるベルト状部材を直接加熱できるように、ベルト状部材内部に発熱層を設け、励磁コイルにより生成される変動磁界によってこの発熱層を誘導加熱させる方式を用いている。
具体的には、図1に示されるように、発熱層を有する薄肉中空円筒状の加熱定着ベルト20と、この加熱定着ベルト20の図中下部外表面と圧接するように配設された加圧ロール28とを備え、この加圧ロール28と対向している加熱定着ベルト20の内側には、その内表面と当接する弾性部材27が、支持部材26により支持されていると共に、反対側(図中上部)では、加熱定着ベルト20の内表面と非接触で、この内表面の曲面形状に略沿って、この内表面の一部と対向するように形成されている略半円筒状の被加熱部材側磁路形成部材24が、この支持部材26により支持されている。さらに、被加熱部材側磁路形成部材24と対向している加熱定着ベルト20の外部には、周回移動する加熱定着ベルト20の外表面と非接触で、この外表面の一部と対向するように略半円筒状の励磁コイル支持部材23が配設されている。そして、この励磁コイル支持部材23の外側には、例えば、中空の渦巻き状に形成された励磁コイル21を介して、加熱定着ベルト20の外表面の曲面形状に倣うように形成された略半円筒形の励磁コイル側磁路形成部材22が配設されている。ここで、励磁コイル支持部材23は、その中間部の励磁コイル側磁路形成部材22と対向する側に、突起部23aを有し、この突起部23aに励磁コイル21の中空部を配置することにより、励磁コイル21を励磁コイル側磁路形成部材22との間で挟み込み、この励磁コイル21を保持するようになっている。
このように構成された定着装置10においては、加圧ロール28と、弾性部材27とで加熱定着ベルト20を挟持した状態に保持してニップ部1Yが形成され、このニップ部1Yに未定着トナー像Tが転写された記録媒体15を通過させることにより、熱及び圧力で未定着トナー像Tが記録媒体15上に定着され、定着画像が形成されるようになっている。そして、発熱層を有する薄肉の加熱定着ベルト20を、励磁コイル21により生成される変動磁界によって電磁誘導加熱することにより、未定着トナー像Tを定着する際の加熱が行われるように構成されている。
次に、定着装置10の構成部材の詳細について、以下に説明する。
まず、加熱定着部材としての加熱定着ベルト20は、発熱層を有する無端状のベルトとして形成されている。詳細には、図16に示されるように、その内側から、耐熱性の高いシート状部材からなる基材層20aと、この基材層20aの上に積層された単一の発熱層である発熱層20bと、例えばゴム硬度35°のシリコンゴム等からなる弾性層20dと、最も上層となる表面離型層20cの少なくとも4層を備え、直径φ30mmの無端状ベルトとして形成されている。なお、図17に示されるように、弾性層20dを省略し、基材層20aと、発熱層20bと、離型層20cとの3層からなるシート状ベルトを用いてもよい。また、本実施形態においては、図示しないが無端状の加熱定着ベルト20の両端部をエッジガイドに突き当てることにより、この加熱定着ベルト20の蛇行を規制して使用するように構成されている。
ここで、加熱定着ベルト20の基材層20aは、例えば、厚さ10〜100μm、さらに好ましくは厚さ50〜100μm(例えば、75μm)の耐熱性の高いシートであり、例えばポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルケトン、ポリサルフォン、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアミド等の耐熱性の高い合成樹脂から形成することができる。
また、発熱層20bは、励磁コイル21によって生成される磁界の電磁誘導作用により、誘導発熱する導電層であり、銅を2〜15μm程度の厚みで形成したものが用いられる。均一な層をめっきや蒸着などで形成しようとすれば、2μ以下であると製造上の歩留りの悪さや膜厚精度の確保、品質管理やコスト面で問題が発生する。また15μm以上であると、熱容量が大きくなり、10秒以下のウォームアップ達成に影響を及ぼし、発熱層の可撓性が悪化することから、定着装置の剥離性能を得るためにたわめることが困難となるため15μm以下が望ましい。さらに15μm以上の厚さになると、周波数20k〜100kHzにおける誘導加熱性能が悪化する。このことは、表皮深さより十分に薄い厚さの金属層には層全体に渦電流が流れるが、厚さ増加により抵抗値が低くなるため、渦電流によるジュール発熱損が得にくくなることに起因する。つまり、ジュール発熱は渦電流の2乗値と渦電流が流れる主経路の抵抗値の乗算により決定されるため、抵抗値が低すぎれば、いくら大きな渦電流が流れても発熱しない状態に至るためである。
また本実施の形態では、図16、図17には図示していないが、銅層である発熱層20bの表面離型層側に厚さがおよそ0.1〜5μm程度のニッケル層を設けた加熱定着ベルトでも実施した。ニッケル層は、加熱定着ベルトの強度の向上のために設けたもので、電磁誘導作用による発熱に寄与する層となるが、電磁誘導特性への影響が小さくなる(誘導状態におけるインダクタンスやレジスタンスの変化がおよそ10%以下となる)厚さで設けている。実際の一例として、10μmの銅層に5μmのニッケル層を設けた2つの発熱に寄与する層を有する加熱定着ベルトと単一の銅層10μmを有する加熱定着ベルトの電磁誘導特性を比較したところ、誘導状態におけるインダクタンス、レジスタンスの変化は5%以下で、単一の銅層との差は非常に小さい。このような層を設けても、主に発熱する層は発熱層20bの銅層となるため本発明の実施の形態上ほとんど問題はない。
ここで、銅層厚さと印加周波数との関係について、図18を参照してさらに説明する。図18は、周波数に対する力率相当量の変化を示した図であり、銅層厚さ2μ〜15μmにおける発熱のし易さを示す特性図である。
図18において、20k〜100kHzの周波数帯にわたって、力率相当量である発熱のファクターが0.5に達していれば安定した加熱が可能な状態であるが、図に示されるように、厚さが2μmの場合にはおよそ60kHz〜100kHzで、15μmではおよそ30kHz以下が適正であることがわかる。
従って、コイルに印可する電流の周波数は、20kHzから100kHzであることが望ましい。20kHz以下では、発振ノイズ音が人の可聴領域内に入るために採用できず、また、100kHz以上であると、コイルに電流を印可する誘導加熱電源のスイッチングロスが大きくなり、周辺機器に影響を及ぼす放射ノイズが大きくなると共に、コイルの表皮抵抗が増大し、これらによる損失が顕在化するためである。
また、本実施形態では、パッド部材と加圧ロールとで形成されるニップ部の内部で、加熱定着ベルト20が当該ニップ部の形状に倣う必要がある。このため、フレキシブルなベルトである必要があり、発熱層20bは、可能な限り薄層にすることが好ましい。そこで、本実施形態においては、発熱層20bとして、導電率の高い銅を、発熱効率が高くなるように10μm程度の極薄い厚さで、上述のポリイミドからなる基材層20a上にめっきしたものが用いられている。
さらに、離型層20cは、記録媒体15上に転写された未定着トナー像Tと、直接接する層であるため、離型性の良い材料を使用する必要がある。この離型層20cを構成する材料としては、例えば、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、シリコン共重合体、またはこれらの複合層等が挙げられる。この離型層20cは、これらの材料のうちから適宜選択されたものを、1〜50μmの厚さでベルトの最上層に設けたものである。また、離型層20cの厚さは、薄すぎると、耐磨耗性の面で耐久性が悪く、加熱定着ベルト20の寿命が短くなってしまい、逆に、厚すぎると、ベルトの熱容量が大きくなり、ウォームアップタイムが長くなってしまう。
本実施形態においては、耐磨耗性と、ベルトの熱容量のバランスを考慮して、加熱定着ベルト20の離型層20cとして、厚さ20μmのテトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル重合体(PFA)が使用されている。
また、上記の如く構成された加熱定着ベルト20の内部には、例えば、シリコンゴム等から形成された弾性部材27が設けられている。この実施形態では、弾性部材27として、ゴム硬度がJIS−Aで35°のシリコンゴムを、SUS・鉄等の金属や、耐熱性の高い合成樹脂等からなる剛性を有する支持部材26に積層したものが用いられている。このシリコンゴムからなる弾性部材27は、例えば、均一な厚さのものが使用される。また、支持部材26は、図示しない定着装置のフレームに固定した状態で配置されているが、弾性部材27が所定の押圧力で加圧ロール28の表面に圧接するように、図示しないスプリング等の付勢手段によって、加圧ロール28の表面に向けて押圧してもよい。
なお、本実施形態においては、加圧ロール28として、直径φ26mmの中実の鉄製ロールの表面に、離型層として、厚さ30μmのテトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル重合体(PFA)を被覆したものが使用されている。そして、この加圧ロール28は、図示しない加圧手段により、加熱定着ベルト20を介して弾性部材27に押圧された状態で、図示しない駆動手段によって回転駆動されている。
また、加圧ロール28の外側には、熱伝導性の良いアルミニウムやステンレス等の金属からなる金属ロール18が、加圧ロール28の外表面と接離可能なように設けられている。この金属ロール18は、定着装置10に通電が開始された朝一番などで、加熱定着ベルト20や加圧ロール28の温度が室温状態に冷えているときには、加圧ロール28から離れた位置に停止している。そして、上記定着装置10において、例えば、小サイズ用紙を連続して定着処理した場合など、当該定着装置が使用されるに伴って、加熱定着ベルト20や加圧ロール28に、軸方向に沿った温度差が生じたときには、この金属ロール18が加圧ロール28に当接される。
また、被加熱部材である加熱定着ベルト20は、加圧ロール28の回転に従動して、所定の方向に循環移動するものである。そこで、この実施形態では、加熱定着ベルト20と弾性部材27との間に、摺動性を良好とするため、耐摩擦性が強く、摺動性の良いシート材、例えばテフロン(登録商標)樹脂を含浸させたガラス繊維シート(中興化成工業:FGF400−4等)を介在させ、さらに潤滑剤として、シリコンオイルなどの離型剤を、加熱定着ベルト20の内面に塗布することで、摺動性を向上させるように構成されている。このようにすることで、実際の加熱時において、加圧ロール28の空回転時の駆動トルクを、約6kg・cmから約3kg・cmにまで低減することができる。従って、加熱定着ベルト20は、加圧ロール28と滑ることなく従動し、加圧ロール28の回転速度と等しい速度で循環移動することが可能となっている。
次に、図19に示されるように、励磁コイル21は、強磁性体からなる芯材を有する線状部材を巻回させて薄肉円筒状の加熱定着ベルト20の外表面に倣うように形成され、加熱定着ベルト20の回転方向(周方向)と直交する方向を長手方向としてコイル支持部材23により支持されている。そして、被加熱部材である加熱定着ベルト20の外表面と0.5mm〜3mm程度のギャップを保持して、加熱定着ベルト20の外側に設置されている。この励磁コイル21は、本実施形態においては、コイル支持部材23により、加熱定着ベルト20の外表面の形状に倣った湾曲した形状を保持して固定されている。さらに、磁路形成部材は、励磁コイル21を覆うように配置された励磁コイル側磁路形成部材22と、加熱定着ベルト20に対して励磁コイル21と反対側に、非接触で設けられた被加熱部材側磁路形成部材24とで構成され、加熱定着ベルト20及び励磁コイル21を介して互いに対向するように配置されている(図1参照)。
ここで、励磁コイル21としては、例えば、相互に絶縁された直径φ0.16mmの銅線材を90本束ねたリッツ線を直線状に、所定の本数だけ並列的に配置したものが用いられる。リッツ線の巻き方は、1つの巻き方に限定されるものではなく、例えば、渦巻き状に巻いてもよく、励磁コイル21に流す交流電流により生じる変動磁界Hが発熱層20bに対して図示したように作用すればよい。本実施形態においては、相互に絶縁された直径φ0.16mmの絶縁被覆された素線(銅線材)を90本束ねたリッツ線を渦巻き状に11ターン巻いてプレス成型してコイリングし、励磁コイル支持部材23により、湾曲した形状が保持されている。また、コイル支持部材23としては、耐熱性のある非磁性材料を用いるのが望ましく、例えば、セラミックス、耐熱ガラス、ポリカーボネート、LCP、ポリイミド、PPS等の耐熱性樹脂が用いられる。
この励磁コイル21に、励磁回路30を通じて所定の周波数の交流電流が印加されることにより、励磁コイル21の周囲には変動磁界Hが発生し、この変動磁界Hが、加熱定着ベルト20の発熱層20bを横切るときに、電磁誘導作用によって、この磁界Hの変化を妨げるように、加熱定着ベルト20の発熱層20bに渦電流Bが生じる。この渦電流Bが加熱定着ベルト20の発熱層20bを流れることにより、当該発熱層20bの抵抗に比例した電力(W=I2R)でジュール熱が発生し、被加熱部材(発熱体)である加熱定着ベルト20が加熱される。励磁コイル21に印加される交流電流の周波数は、例えば、20〜100kHzに設定されるが、この実施の形態では、交流電流の周波数が30kHzに設定されている。また、本実施形態においては、励磁回路30として、低コストの並列共振型の励磁回路電源を用いた場合でも極めて良好に電磁誘導加熱が可能であることが確認されている。このような並列共振型の高周波電源は電磁調理器などで実績があり、電磁誘導加熱用の電源としては安価に構成でき、実用性と汎用性が高いものである。
また、再び図1を参照して、磁路形成部材22,24としては、鉄、コバルト、ニッケル、フェライト等の磁性材料を用いることができるが、最も望ましいのはソフトフェライトである。ソフトフェライトは強磁性を有しており、透磁率が高く、電気抵抗値が非常に高いため、電磁誘導作用による渦電流が流れにくい。また交番磁界によるヒステリシス損も小さく、発熱層20bのコイル21と反対側の磁路を形成するには最も適している。この磁路形成部材22,24は、励磁コイル21により生成された磁界及び渦電流による反作用磁界の磁束密度が高い周辺の磁束を集めて、磁路を形成するものであり、効率の良い加熱を可能とすると同時に、磁束が定着装置10の外部に漏れて、周辺部材が不本意に加熱されるのを防止するためのものである。
さらに、被加熱部材側磁路形成部材24を支持している支持部材26は、非磁性絶縁部材または非磁性金属部材(樹脂またはアルミ・銅など)により形成されている。そして、この支持部材26は、定着ニップを形成する弾性部材27からの荷重を受けて支持もしている。そこで、支持部材26は、このように定着ニップの加圧荷重を併せて支持するため、剛性が高く、耐熱性、耐クリープ性の高い部材であることが必要であり、樹脂材料では困難なため金属部材で形成されることが望ましい。本実施形態では、コストや製造の容易性、剛性を考慮してアルミが使用されている。金属部材として非磁性金属である、アルミや銅などを使用する理由として、支持部材26は、励磁コイル21及び加熱定着ベルト20内の発熱層20bの渦電流が作る磁界が作用しやすい位置にあり、磁性金属であると、この磁界の作用により発熱しやすくなるため、表皮深さの大きい非磁性金属を採用することにより渦電流損を極めて小さくすることができる。
このように励磁コイル側磁路形成部材22と被加熱部材側磁路形成部材24とを、励磁コイル21及び加熱定着ベルト20を挟んで対向配置することにより、励磁コイル21で発生する磁束をさらに効率よく収集することができ、加熱効率を向上させることができる。これにより、励磁コイル21により生成されて、表皮深さよりも薄い発熱層20bを貫通する変動磁界及びこの変動磁界に対して発生する渦電流により生じる反作用磁界のいずれをも効果的に遮蔽し、励磁コイル21に交流電流を印加する高周波電源の周波数を下げたり、励磁コイル21の巻き数を減少させたりすることが可能となり、さらに、電源の小型化、励磁コイル21の小型化を通じて、コストダウンを実現することができる。
次に、励磁コイル21と磁路形成部材22,24の周方向(加熱定着ベルト20の回転方向)の幅について、図20を参照して説明する。
図20に模式的に示されるように、磁路形成部材の幅m2と、励磁コイル21のコイル幅m1との関係は、m2>m1となるように設定されている。これは、m2がm1よりも短いと、磁路形成が十分に行われず、効率低下や周辺部材への誘導を引き起こす虞が生じるためである。表2に、m1<m2とm1>m2の場合における加熱領域周辺の磁束密度の測定結果を示す。表2に示されるように、m1<m2であると漏れ磁束が少なくて、良好な遮蔽効果を得られることがわかる。
そこで、本実施形態においては、少なくとも加熱定着ベルト20側に配置されたフェライト24の周方向両端部24eは、励磁コイル21に対向している領域を越えて、さらにその周方向に延在するように形成されている。言い換えれば、フェライト24の周方向両端部24eは、相対向する励磁コイル21の両端部を越えてそれぞれ延在している(図1参照)。
これにより、発熱層20bが表皮深さδより薄い金属を誘導加熱する場合に、発熱層20bを挟んで励磁コイル21と反対側から漏れ出る反作用磁界による磁束漏れをより効果的に防止し、遮蔽効果を向上させることができる。
なお、より遮蔽効果を向上させるために、励磁コイル21側に配置されたフェライト22の周方向両端部を、励磁コイル21に対向している領域を越えて、さらにその周方向に延在するように形成してもよい。
次に、本発明に係る磁路形成部材22及び24の構成配置の詳細について、図2〜図5を参照して説明する。図2は、模式的な側面図であり、図3はA−A’線に沿った模式的な断面図、図4はB−B’線に沿った模式的な断面図及び図5はC−C’線に沿った模式的な断面図である。
励磁コイル側磁路形成部材22は、図2に示されるように、複数の小片弓形部材22aに分割され、これらの複数の小片弓形部材22aは、回転軸方向(励磁コイル21の長手方向)に亘って、互いに間隔を空けて配置されている。具体的には、加熱定着ベルト20の回転軸方向に互いに16mmの間隔を空けて14個配置されている。そして、それぞれの小片弓形部材22aは、図3、図5の断面図に示されるように、励磁コイル21の湾曲した外表面に沿って、この外表面を覆うように配置されている。
一方、被加熱部材側磁路形成部材24は、励磁コイル側磁路形成部材22と同様に、複数の小片弓形部材24aに分割され、各小片の厚さは3mmで、加熱定着ベルト20の回転軸方向に沿った各小片の幅は10mmに形成されている。また、この被加熱部材側磁路形成部材24は、図2に示されるように、両端部に配置された端部小片部材24a(E)以外は、幅10mmの小片弓形部材24aを2つ組み合わせて1組として形成された中間部小片部材24a(M)が、互いに約6mmの間隔を空けて11組分(小片24a合計22個)、回転軸方向に亘って配置されている。さらに、被加熱部材側磁路形成部材24の端部については、幅10mmの小片弓形部材24aを3つ組み合わせて1組として形成された端部小片部材24a(E)が、両端部に(小片24a×3×2=合計6個)配置されている。そして、それぞれの小片弓形部材24aは、図4、図5の断面図に示されるように、加熱定着ベルト20の内表面の形状に倣うように、この内表面と非接触で配置されている。
ここで、磁路形成部材の端部小片部材とは、最大通紙幅(例えば、図12参照)の端部に対応している領域に配置されている小片部材をいい、例えば、最大通紙幅±30mmに対応する領域に配置された小片部材をいう。さらに、中間部小片部材とは、この端部小片部材に挟まれた領域に配置されている小片部材をいう。そして、これら端部領域及び中間部領域は、温度分布を基準に、加熱領域における有効発熱長の端部領域が最大通紙幅の端部領域に対応して、この最大通紙幅をカバーするように設定される。
また、磁路形成部材22を構成している小片弓形部材22aと、磁路形成部材24を構成している中間部小片部材22a(M)とは、回転軸方向の配置において、互いの相対的な位置関係を考慮して配置されている。相対的な位置関係とは、互いに対向している磁路形成部材群22及び24の間隙が加熱定着ベルト20に対して非対称となるように、励磁コイル側磁路形成部材群22の各小片弓形部材22a間の間隙22sを中間部小片部材24a(M)が略補完するように配置されている。すなわち、小片弓形部材22a及び24aのそれぞれの中心位置22c,24cが、対向する相手側の間隙24s,22sの中心と略一致するように配置されている。本発明では、このような配置関係を以下で「千鳥配置」なる呼称で示すことがある。
このように磁路形成部材22,24を構成している小片弓形部材22a,24aを、回転軸方向に間隔を空けて配置したのは、加熱定着ベルト20の回転軸方向に亘って、均等に磁束を作用させて磁路を形成するためである。そこで、磁路形成部材群22a,24aは、それぞれ少ない個数で磁束漏れを防ぎ、周辺金属部材への電磁誘導を防止できればよい。
ただし、前述したように、被加熱部材側磁路形成部材24の端部については、端部小片部材24a(E)が配置されているので、この端部領域においては、小片部材24aの構成量が中間部領域よりも多く(小片部材24aの配置密度が高く)なっており、励磁コイル側磁路形成部材22の各小片弓形部材22aとの位置関係は上述の千鳥配置とはなっていない。
ところで、このように磁路形成部材22及び24を複数の小片弓形部材22a及び24aに分割して、互いに間隙を設けて配置した場合には、磁界の漏洩による周囲部材への電磁誘導の影響が考えられる。
そこで、小片弓形部材22a,24aの個数を変えて間隙を設けて配置した場合の周囲部材への電磁誘導の影響について、以下のような調査を実施した。調査結果を図21及び図22に示す。
まず、小片弓形部材22a,24aの個数による特性変化について、図21を参照して説明する。図21は、励磁コイル21に一定の交流電流を与えた場合の、励磁コイル21から5〜10mmの距離に励磁コイル21と同等の大きさの鉄やアルミ等の金属部材を近づけたときの、誘導状態におけるインダクタンス値やレジスタンス値、電流と電圧との位相差等の変化情報から、周囲金属部材への電磁誘導の影響度を調査した結果を示すものである。図21においては、コイル長を覆う割合に対する、周囲金属への誘導度を示す代表的特性として、磁路形成部材使用量に対する、金属部材を近づけたときの誘導状態のインダクタンス値(a)とレジスタンス値(b)の変化が示されている。例えば本実施形態では、コイル長350mmに対して、幅10mmの小片弓形部材22aを14個、間隙を与えてコイル21をカバーしているので、10mm×14個/350mm=40%の磁路形成部材使用量(図中では横軸のshare area 40%に相当)ということになる。ここで、近づけた金属はアルミと鉄である。これらの金属を近づけたとき、図21(a),(b)に示されるように、少なくとも磁路形成部材を40%以上使用していれば、周囲への影響が無視できるレベルであることがわかった。
次に、励磁コイル側磁路形成部材22の使用量を40%とし、同じように被加熱部材側磁路形成部材24の周囲部材への電磁誘導の影響度を調査した結果を図22に示す。被加熱部材側磁路形成部材24の周囲部材への電磁誘導の影響度は、これを保持する支持部材26をアルミや鉄などの金属とし、励磁コイル21の磁界や発熱層20bの渦電流Bが作る磁界Hの支持金属26への作用を調査した。この図でいう支持部材金属26への誘導度とは、小さいほど電磁誘導作用を受け、誘導度が1であれば電磁誘導作用の影響をほとんど受けていないということを示す特性である。これは図21で示した代表的特性とほぼ同じで、金属部材を近づけたときの誘導状態のインダクタンス値とレジスタンス値の変化の割合を調べることで影響度がわかる。ここで、誘導度は、0.9以上であれば、誘導に対する影響は無視できるレベルである。図22から理解されるように、被加熱部材側磁路形成部材24は35%前後の使用量であれば、誘導度が0.9以上となり、周囲部材への電磁誘導の影響を非常に少なくできることがわかった。
さらに、加熱定着ベルト20の加熱部における回転軸方向の温度分布は、被加熱部材側磁路形成部材24の端部24eにおいて、小片弓形部材24aの配置量を増加(配置密度を高く)させたことにより、有効発熱長を従来より長くすることができた。すなわち、従来は、図12に示されるように、コイル長に比し、その有効発熱長(温度均一化領域)が短かったのに対し、小片弓形部材24aの端部配置量を増加させたことにより、図13に示されるように、両端部における温度勾配の傾きが大きくなり、有効発熱長がコイル長とほぼ同等となって、有効発熱長を従来より長くすることができた。これにより、従来は無駄に捨てていた熱エネルギーを有効に活用することが可能となり、従来のコイル長より短くしても最大通紙幅の有効発熱長を得ることができ、コイルの小型化も実現できた。
以上、本発明に係る定着装置10の第一の実施形態について説明してきたが、磁路形成部材を構成する小片弓形部材の端部配置量は、上述に限定されるものではない。例えば、励磁コイル側磁路形成部材22の端部22eにおいて、小片弓形部材22aの配置量を増加させてもよいし、図6の変形例に示されるように、励磁コイル側磁路形成部材22及び被加熱部材側磁路形成部材24の双方の両端部22e及び24eの磁路形成部材群22a,24aの配置量を増加させてもよい。
この変形例における定着装置10Aは、第一の実施形態における励磁コイル側磁路形成部材22の両端部22eを、さらに、小片部材22aの2つを1組として配置したものであり、それ以外は、第一の実施形態と同じである。
この変形例10Aにおける端部の温度分布は、図14に示すようになり、さらに有効発熱長を広げることが可能となった。これにより、励磁コイル21の長さを、3〜10mm程度短くすることが可能になった。
ここで、端部における温度勾配の変化について、図15を参照してさらに説明する。図15は、従来と本発明における磁路形成部材の端部における温度勾配の変化の測定結果を示す図である。
図15に示されるように、従来は最大通紙幅の中心から片側約130mm程度の位置から緩やかに温度勾配の下落が開始されているのに対し、本発明の加熱装置を適用した定着装置の場合には、中心から片側約150mm程度まで、一定の温度(約170℃)が維持され、その後温度勾配の急峻な傾きにより、温度が下降していることがわかる。このことは、すなわち、本願発明を適用することにより、所定の温度を均一に維持する有効発熱長が拡大されていることを示しており、これにより励磁コイル21の長さを従来に比して、短縮することが可能となる。
本実施形態により、熱エネルギーの利用効率が、3〜5%向上することが確認できた。これにより、例えば、従来の電磁誘導加熱を利用した定着装置の定着時に必要な電力が700Wだとした場合、本発明を適用すれば、従来に比し、およそ20〜35Wの有効エネルギーが増大する。従って、この増大した有効エネルギーにより、1分当たりの定着枚数を向上させることで生産性を高めた設計にしたり、生産性は変えずに、定着時に使用するエネルギーを減少させることが可能となる。
以上のように構成した本発明の第一の実施形態に係る定着装置10では、次のように、ウォームアップタイムを10秒以下のほとんどゼロと同等にすることができると共に、良好な定着性を得ることができ、しかも剥離不良が生じるのを確実に防止することが可能となっている。
すなわち、図1に示されるように、この実施形態に係る定着装置10では、加圧ロール28が100mm/sのプロセススピードで、駆動源により回転駆動される。また、加熱定着ベルト20は、上記加圧ロール28に圧接されており、当該加圧ロール28の移動速度と等しい100mm/sの速度で循環移動するようになっている。
そして、上記定着装置では、図示しない転写装置により、未定着トナーTが転写された記録媒体15が、加熱定着ベルト20と加圧ロール28との間に形成されたニップ部1Yを通過し、当該ニップ部1Y内を記録媒体15が通過する間に、加熱定着ベルト20と加圧ロール28とによって加熱及び加圧されることにより、トナー画像Tが記録媒体15上に定着されるようになっている。
その際、上記定着装置では、加熱定着ベルト20の温度が、励磁コイル21に流す高周波電流の周波数などにより、定着動作時は、ニップ部1Yの入口において、160℃〜200℃程度に制御される。
この実施の形態に係る定着装置では、画像形成信号が入力されると同時に、加圧ロール28が回転を開始すると共に、励磁コイル21に高周波電流が通電される。上記励磁コイル21には、例えば、有効電力として1000Wの電力が投入されると、加熱定着ベルト20の温度は、誘導加熱作用によって、室温から約8秒以下で定着可能温度に達する。すなわち、記録媒体15が給紙トレイから、定着装置まで移動するのに要する時間内にウォームアップが完了してしまうことになる。よって、上記定着装置においては、ユーザーを待たせること無く、定着処理が可能となる。
また、定着装置のニップ部1Yに、60gms程度の薄紙にカラーのベタ画像などトナーが多量に転写された記録媒体15が進入した場合には、トナーと加熱定着ベルト20表面の離型層との間で、引き付け合う力が強くなり、加熱定着ベルト20の表面から記録媒体15を剥離するのが難しくなるのが通常である。しかし、この実施の形態の構成では、加熱定着ベルト20の形状がニップ部1Yの外では凸形状であるのに対して、ニップ部1Yの内部では凹形状となっている。すなわち、ニップ部1Yの内部では記録媒体15の方向は、加圧ロール28側に巻き付く方向であり、かつニップ部1Yの出口部では、加熱定着ベルト20の方向が凹形状から凸形状に急激に変化するため、記録媒体は、当該記録媒体自体のこし(剛性)により、加熱定着ベルト20の急激な形状の変化についていくことができず、加熱定着ベルト20から自然に剥離される。そのため、この実施の形態に係る定着装置では、記録媒体15の剥離不良の問題が生じるのを確実に防止することができる。
さらに、小サイズの記録媒体15を連続して定着した場合には、非通紙領域の加熱定着ベルト20、弾性部材27及び加圧ロール28などの温度が上昇してしまうが、加圧ロール28側に設けた金属ロール18を、当該加圧ロール28の表面に当接させることにより、加圧ロール28の高温部の熱を金属ロール18によって吸収することができ、その熱を低温部に移動させるので、軸方向での温度分布は小さくなり、加圧ロール28の温度及び加熱定着ベルト20の温度が、所定の温度以上の高温になるのを防止することができる。
<第二の実施形態>
次に、本発明に係る定着装置の第二の実施形態について図7〜図10を参照して説明する。図7は、第二の実施形態の模式的側面図であり、図8はD−D’線に沿った模式的断面図、図9はE−E’線に沿った模式的断面図、図10はF−F’線に沿った模式的断面図をそれぞれ示す。
この実施の形態に係る定着装置は、図2に示された第一の実施形態の構成と端部の磁路形成部材群の形態が異なり、それ以外の構成は同じであるので、第一の実施形態と同様の機能を有する部材には同様の符号を付し、詳細は省略する。
本実施形態における定着装置50は、図7に示されるように、被加熱部材側磁路形成部材24の両端部24eにおける端部小片部材24a(S)の1組(10mm幅2個で1組とした)のみが、加熱定着ベルト20の厚さ方向に近づけて配置されている。すなわち、励磁コイル側磁路形成部材22と被加熱部材側磁路形成部材24との対向距離は、中間部よりも端部の方が短くなるように形成されている。ここで、対向距離とは、励磁コイル側磁路形成部材22及び被加熱部材側磁路形成部材24を構成している小片弓形部材22a及び24aの各対向面間の径方向に沿った距離をいう。
図8に示される被加熱部材側磁路形成部材24の中間部小片弓形部材24a(M)と、図9及び図10に示される被加熱部材側磁路形成部材24の端部小片弓形部材24a(S)の配置位置の違いでおおよそ比較すると、加熱定着ベルト20までの平均距離で約1.5mm異なり、端部小片弓形部材24a(S)の1組の方が加熱定着ベルト20に接近して配置されている。
このように、磁路形成部材22,24間の端部対向距離をその中間部に比し、狭めることにより、図13に示されるように、有効発熱長が拡大されることを確認できた。さらに、図11に示される本実施形態の変形例50Aのように両端部24a(S)の端部配置量を増やして(10mm幅3個で1組とした)、かつ、加熱定着ベルト20に接近して配置した場合には、先の実施形態における変形例10Aと同様に、発熱分布特性が図14に示されるようになり、有効発熱長をさらに拡大することができた。これにより、励磁コイル21の長さを、3〜10mm程度短くすることが可能となった。
先の実施形態と同様に、本実施形態においても、熱エネルギーの利用効率が、3〜5%向上することが確認できた。これにより、例えば、従来の電磁誘導加熱を利用した定着装置の定着時に必要な電力が700Wだとした場合、本発明を適用すれば、従来に比し、およそ20〜35Wの有効エネルギーが増大する。従って、この増大した有効エネルギーにより、1分当たりの定着枚数を向上させることで生産性を高めた設計にしたり、生産性は変えずに、定着時に使用するエネルギーを減少させることが可能となる。
以上説明したように、第二の実施形態に係る定着装置50,50Aにおいても、端部における温度勾配の傾きを大きくすることで、有効発熱長を広げ、無駄な発熱領域を少なくすることが可能となり、省エネルギーで熱エネルギーの利用効率に優れた加熱装置・定着装置の構成を提供することができる。
なお、以上の実施形態においてはいずれも、磁路形成部材端部における小片弓形部材の物理的な配置構成(配置量、対向距離)を変化させることにより、コストの低減を考慮して簡易に有効発熱長の拡大を図っているが、例えば、端部小片弓形部材22a(E),24a(E)の材質を中間部小片弓形部材22a(M)の材質(例えば、初透磁率が2000)よりも、より透磁率の高い材質(例えば、初透磁率5000)により形成してもよい。これにより、配置量を増加させた場合、あるいは対向距離を狭めた場合と同様な作用・効果を得ることができる。
次に、本発明が適用される画像記録装置の一実施形態について、図23を参照して説明する。図23は、本発明の一実施形態に係る画像記録装置100の概略構成を示す図である。
図23に示されるように、この画像記録装置100は、例えば、図中矢印方向に回転する感光体ドラム121と、この感光体ドラム121を予め帯電するコロトロン等の帯電器122と、各色成分画像情報に基づいて感光体ドラム121上に各色成分に対応した静電潜像を書き込む不図示のレーザ走査装置(ROS)などの画像書込装置(本例では同装置からのビームに符号を付す)123と、イエロ(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)及びブラック(K)の各色に対応した現像器241〜244が回転ホルダ245に搭載されたロータリー型現像装置124とを備え、感光体ドラム121上にイエロ、マゼンタ、シアン、ブラックの各色成分毎の静電潜像を形成し、ロータリー型現像装置124における各現像器241〜244の対応する色トナーにて各静電潜像を可視像化した後、中間転写ベルト130に順次一次転写し、中間転写ベルト130上の各色成分トナー像の重ね転写像を記録媒体P上に二次転写し、定着装置160にて定着するようにしたものである。
ここで、記録媒体Pは、記録媒体トレイ150からフィードロール151にて所定の搬送経路へ向けて搬送され、搬送経路中のレジストレーションロール(レジストロール)152で一旦位置決め停止された後に、所定のタイミングで二次転写位置140へと搬送され、この記録媒体Pは二次転写後に搬送ベルト153へと導かれ、この搬送ベルト153にて定着装置160へと搬送されるようになっている。なお、二次転写工程が終了した時点では、感光体ドラム121上の残留トナーはドラムクリーナ125にて清掃され、中間転写ベルト130上の残留トナーはベルトクリーナ141にて清掃される。
このように構成した画像記録装置100において、加熱部や定着部に本発明に係る加熱装置及び定着装置を適用することにより、ウォームアップタイムが短く、かつ、安定して加熱定着が可能な画像記録装置を提供することができる。
なお当然に、本発明が適用可能な画像記録装置は、上述のロータリー型に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内で種々の画像記録装置に適用可能である。例えば、いわゆるタンデム型の画像記録装置に適用しても同様の作用効果を得ることができる。
以上説明してきたように、本発明の加熱装置を定着装置に備えることにより、ウォームアップタイムを10秒以下にすることが可能な省エネルギーの定着装置を設計することが可能となる。また、低コスト化を実現できる実用性の高い加熱装置の設計も可能とする。また、このような加熱装置及び定着装置を備えることにより、定着加熱の際の安定性や安全性に優れ、ウォームアップタイムの極めて短い画像記録装置を提供することができる。
1Y:ニップ部、10,10A:定着装置、15:記録媒体、18:金属ロール、20:加熱定着ベルト、20a:基材層、20b:発熱層、20c:表面離型層、20d:弾性層、21:励磁コイル、22:励磁コイル側磁路形成部材、22a:小片弓形部材、22s:間隙、22e:端部、23:コイル支持部材、23a:突起部、24:被加熱部材側磁路形成部材、24a:小片弓形部材、24a(E),24a(S):端部小片部材、24a(M):中間部小片部材、26:支持部材、27:弾性部材、28:加圧ロール、30:励磁回路、50,50A:定着装置、100:画像記録装置、121:感光体ドラム、122:帯電器、124:ロータリー型現像装置、125:ドラムクリーナ、130:中間転写ベルト、140:二次転写位置、141:ベルトクリーナ、150:記録媒体トレイ、151:フィードロール、153:搬送ベルト、160:定着装置、241-244:現像器、245:回転ホルダ、H:変動磁界、B:渦電流、P:記録媒体、T:トナー画像