JP3973768B2 - コンクリート構造物中の鉄筋の腐食状態の評価方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ビル、橋梁或いはトンネル等の各種コンクリート構造物中に埋設された鉄筋の腐食状態を、非破壊的に検査して評価するコンクリート構造物中の鉄筋の腐食状態の評価方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術及びその課題】
一般にコンクリート構造物中には、該構造物の強度確保等の観点から鉄筋が埋設されている。
この埋設された鉄筋の腐食状態が進行すると、構造物自体の強度低下につながるために補修をする必要がある。
ところが、鉄筋は構造物中に埋設されているため、鉄筋が腐食しているか否かの診断は構造物表面からはできない。
【0003】
そこで従来から、非破壊的な方法で鉄筋の腐食状態を評価する方法が種々考えられ、その中の一つに自然電位法がある。
この自然電位法は、健全なコンクリート構造物中では強アルカリ性のために鉄筋は不動態化しており、その電位は−0.1〜−0.2V(CSE)を示すが、塩化物の進入や中性化によって鉄筋が活性状態となり、腐食が進行するとその電位は卑方向(−)へ変化することに着目し、この自然電位の測定値をもとに腐食の確率を評価する手法である。
【0004】
ここで、コンクリート構造物中の鉄筋の自然電位を測定する方法は、照合電極(例えば飽和硫酸銅電極、飽和塩化銀電極など)と電位差計とを用い、コンクリート構造物中の鉄筋とコンクリート構造物表面上の照合電極との電位差を測定することにより行われる。
また、求められた電位値から鉄筋の腐食状態を判断する基準としては、表1に示したASTM(American Society for Testing and Materials)によって測定された評価基準(ASTM C 876-91)が広く使用されている。
【0005】
【表1】
【0006】
ところが、上記した自然電位法は、簡易な方法ではあるが腐食しているか否かの判断が曖昧になるケースが多く、実際には必要以上の場所でコンクリート中から鉄筋をハツリ出して調査をせざるを得ない状況であり、信頼性に欠けると言う課題を有していた。
これは、そもそもコンクリート構造物中における鉄筋の電位は、コンクリート構造物表面においてコンクリートを介して測定されたものであるため、測定誤差が有ると共に、コンクリートの含水率、塩分量更には炭酸化深さ等の要因が測定値に影響を及ぼし、測定値は必ずしも鉄筋の真の電位を示すものとはなっていないことに大きく起因していた。
【0007】
そこで、近年においては、コンクリート構造物表面で測定した自然電位を、真の鉄筋表面における自然電位に近づける補正を行う研究が成されている。
例えば、「防錆管理」Vol.39,1995年11月号の第393頁〜第399頁には、コンクリート構造物表面で測定した自然電位と、鉄筋近傍で測定した自然電位との差を補正電位とし、これを用いてコンクリート構造物表面の他の場所で測定された自然電位を補正する手法が開示されている。
【0008】
しかし、この手法においては、補正電位を算出するための鉄筋近傍での自然電位の測定が不可欠となるが、この補正電位は、ひとつのコンクリート構造物において同じような環境下にある部位にしか有効ではなく、例えば南向き面と北向き面とではその乾燥度(含水率)が少なくとも異なっているため、それぞれ別個に鉄筋近傍での自然電位を測定しなければ正しい補正電位を得ることが出来ない。
【0009】
その結果、この手法においては鉄筋近傍での自然電位を測定するための孔をコンクリート構造物に対して多数穿設しなければならず、面倒かつ煩雑で作業性に劣ると言う課題を有する上、鉄筋近傍での自然電位の測定時においては孔の部位を濡らしてはならないと言う、コンクリート構造物表面から自然電位を測定する場合とは全く正反対の条件下での測定が強いられるため、測定自体も煩雑なものとなっていた。
【0010】
また、特開平9−329568号公報には、予め試験によってコンクリートの含水率、塩分量等がコンクリート構造物表面で測定した自然電位の測定値に及ぼす影響を把握し、実測したコンクリート構造物表面での自然電位に対し、実測した鉄筋の被り部分におけるコンクリートの含水率、塩分量等に基づいた補正を行い、この補正自然電位に基づいて鉄筋の腐食状態を評価する手法が開示されている。
【0011】
しかし、かかる方法においても、その補正精度を増すためにはコンクリート構造物の多くの部位におけるコンクリートの含水率、塩分量等を測定しなければならず、その作業はやはり面倒かつ煩雑なものとなっていた。
【0012】
本発明は、上述した従来の技術が有する課題に鑑み成されたものであって、その目的は、コンクリート構造物表面で測定した鉄筋の自然電位のみのデーターから、より正確な鉄筋の腐食状態の評価が容易に行えるコンクリート構造物中の鉄筋の腐食状態の評価方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した目的を達成すべく試験・研究を重ねた結果、コンクリート構造物表面において測定した自然電位を、自然電位の原理となるポテンシャル問題の3次元Laplace方程式を境界要素法による解析法によって解くことで鉄筋上の電位に変換し、更に該変換値を利用して電流量解析から鉄筋中の電流量を求めれば、より正確な鉄筋の腐食状態の評価が可能となるとの知見に基づき、本発明を完成させた。
【0014】
即ち、本発明は、コンクリート構造物中に埋設された鉄筋の腐食状態を、鉄筋の自然電位を測定することにより評価するコンクリート構造物中の鉄筋の腐食状態の評価方法において、上記鉄筋の自然電位をコンクリート構造物表面において測定すると共に、該測定値を、自然電位の原理となるポテンシャル問題の3次元Laplace方程式を境界要素法による解析法によって解くことで鉄筋上の電位に変換し、更に該変換値を利用して電流量解析から鉄筋中の電流量を求め、該鉄筋中の電流量に基づいて鉄筋の腐食状態を評価する、具体的には、例えば電流量解析により求めた鉄筋中の電流量が0mA以下の部位の鉄筋は腐食していると評価するコンクリート構造物中の鉄筋の腐食状態の評価方法とした。
【0015】
【発明の実施の形態】
先ず、本発明においては、コンクリート構造物に埋設された鉄筋の位置を、設計図面或いはレーダー法等によって確認する。
続いて、従来と同様に照合電極と電位差計とを用い、コンクリート構造物表面から鉄筋の自然電位U(q) を測定する。
【0016】
次に、得られた測定値U(q) を、自然電位の原理となるポテンシャル問題の3次元Laplace方程式を境界要素法による解析法によって解くことで鉄筋表面上の電位U(p) に変換する。
【0017】
この境界要素法の考え方、及びその解析手順を、以下に詳述する。
【0018】
図1において、境界要素法(Boundary Element Method、以下単にBEM)の解析領域をΩ、解析境界S、任意の解析内点p(X,Y,Z)のポテンシャルをU、pからSまでの距離をrとする。なお、図中×印は境界節点である。
【0019】
Uをポテンシャル関数とするDirichlet境界値問題の支配方程式は下記の式1で表される。
【式1】
【0020】
式1の右辺がDiracのデルタ関数δに等しいとき、その解としてのΩ内及びS上で微分可能なポテンシャル関数をGとすると下記式2を満足する。
【式2】
式2を満足する基本解(3次元Green関数G)は、
G=(1/4π)・(1/r3 )である。
【0021】
関数U及びVをΩ内及びS上で微分可能とすれば、一般にGreenの第2定理は下記の式3で表される。
【式3】
【0022】
式3でV=Gとすれば、Greenの定理は以下の式4のようになる。
【式4】
この式4が境界要素法の支配方程式である。
【0023】
コンクリート構造物内部の自然電位U(P) は、ラプラス方程式を満足することから境界要素法(BEM)により上記式4と表示される。
ここで、境界上の電位U(q) と電流強さ∂U/∂n(q) のみを考える場合には、上記式4の係数cは1/2であり、境界値問題として解くことができる。
【0024】
自然電位法の補正にも上記式4は適用可能であるが、この場合にはコンクリート構造物表面全てを境界要素としてモデル化する必要があり、実用的ではない。そこで、コンクリート構造物体Ωに対して、自然電位を測定した面のみをSh として式4を解くと、内部点(鉄筋上の点)pでの電位は、下記の式5として求められる。
【式5】
ここで、U(q) はコンクリート構造物表面から測定した鉄筋の自然電位の測定値である。従って測定面をメッシュに分解し、メッシュの中心点を測定点として式5にU(q) を与えて積分を実行すれば、鉄筋に接するコンクリート構造物内部での電位、即ち鉄筋表面上の電位U(P) が計算されることとなる。
これは、無限物体に境界面Sh を設定した解に相当する。
【0025】
上記した解析によって得られた鉄筋表面上の電位U(P) は、コンクリート構造物表面のポテンシャルを、鉄筋上のポテンシャルに直すことでその値が決定されたものであるため、測定誤差、また鉄筋の被り部分におけるコンクリートの含水率、塩分量更には炭酸化深さ等の測定値に影響を与える要因がある程度補正され、真の鉄筋表面の自然電位に近い値となる。
【0026】
続いて、上記解析によって得られた鉄筋表面上の電位U(P) と、オームの法則から下記の式6を用いて電流量解析を行い、鉄筋中の電流量を求める。
【式6】
そして、求めた鉄筋中の電流量が0mA以下の部位の鉄筋は、電流が流出している部位であり、アノードを形成していると考えることができるため、鉄筋中の電流量が0mA以下の部位の鉄筋は腐食していると評価する。
【0027】
なお、上記した解析によって得られた鉄筋表面上の電位U(P) を用いて従来と同様にASTMによって測定された評価基準に照らし合わせて鉄筋の腐食状態を評価しても、従来のコンクリート構造物表面で測定した自然電位をそのまま用いて評価した場合よりは腐食しているか否かの判断が曖昧になるケースは少なくなる。
【0028】
【実施例】
以下、上記した本発明にかかるコンクリート構造物中の鉄筋の腐食状態の評価方法の実施例につき説明する。
【0029】
(供試体)
図2に示した形状寸法の床版供試体(図中、鎖線で示したものが埋設された鉄筋を示す。)を使用した。
なお、供試体は2種類あり、埋設された鉄筋の腐食状態が相違する。
【0030】
(実施方法)
先ず、各供試体1及び2について、その表面から自然電位を図3に示した方法によって各々測定した。なお、測定点は、各供試体ごとに表1に示す20点を採り測定した。
自然電位の測定結果を、表2に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
次に、測定したコンクリート表面における自然電位を、自然電位の原理となるポテンシャル問題の3次元Laplace方程式を境界要素法による解析法によって解くことで鉄筋表面上の電位に変換した。
具体的には、下記の式7を用いて鉄筋表面上の電位に変換した。
【式7】
【0033】
続いて、電流量解析により鉄筋表面上の電位差から鉄筋中の電流量を求めた。具体的には、下記の式8を用いて各鉄筋中の電流量を求めた。なお、コンクリートの比抵抗は、10kΩ・mとして求めた。
【式8】
【0034】
得られた鉄筋中の電流量の内、各供試体とも鉄筋▲1▼及び鉄筋▲2▼についての電流量を図中にプロットした。その図面を図4〜図7に各々示す。また、各図面中にコンクリート表面において測定した自然電位も合わせてプロットした。
【0035】
また、得られた鉄筋中の電流量が0mA以下の部位の鉄筋は腐食している(×)と評価し、また得られた鉄筋中の電流量が0mAを越える部位の鉄筋は腐食していない(○)と評価した。
その評価結果中、各供試体とも鉄筋▲1▼及び鉄筋▲2▼についての評価結果を表3に実施例(電流量)として示す。また、比較のために、コンクリート表面において測定した自然電位をASTMによって測定された評価基準に照らして鉄筋の腐食状態を評価した結果を表3に従来例(自然電位)として併記した。
【0036】
【表3】
【0037】
なお、図4〜図7中、斜線を引いた部分の鉄筋は実際に各供試体から鉄筋をハツリ出し、目視によって腐食が確認された部位を示し、また表3においては、実測値(目視)として実際に腐食が確認された部位は(×)として示し、腐食が確認されなかった部位は(○)として示した。
また、上記した解析によって得られた鉄筋表面上の電位U(P) 中、各供試体とも鉄筋▲1▼及び鉄筋▲2▼について、ASTMによって測定された評価基準に照らして鉄筋の腐食状態を評価した結果を表4に参考例(変換電位)として示す。また、比較のために、コンクリート表面において測定した自然電位をASTMによって測定された評価基準に照らして鉄筋の腐食状態を評価した結果を表4に従来例(自然電位)として併記した。
【0038】
【表4】
【0039】
(結果)
図4〜図7、及び表3から、コンクリート表面で測定した自然電位をそのままASTMによって測定された評価基準に照らして鉄筋の腐食状態を評価するよりは、コンクリート表面で測定した自然電位を自然電位の原理となるポテンシャル問題の3次元Laplace方程式を境界要素法による解析法によって解くことで鉄筋上の電位に変換し、更に該変換値を利用して電流量解析から鉄筋中の電流量を求め、該鉄筋中の電流量が0mA以下の部位の鉄筋は腐食していると評価する方が、鉄筋の腐食状態をより正確に示していることが分かる。
また、表4から、解析によって得られた鉄筋表面上の電位を用いて従来と同様にASTMによって測定された評価基準に照らし合わせて鉄筋の腐食状態を評価しても、従来のコンクリート構造物表面で測定した自然電位をそのまま用いて評価した場合よりは腐食しているか否かの判断が曖昧になるケースが少なくなることが分かる。
【0040】
【発明の効果】
以上、説明した本発明にかかるコンクリート構造物中の鉄筋の腐食状態の評価方法によれば、コンクリート構造物表面で測定した鉄筋の自然電位のみのデーターから、より正確な鉄筋の腐食状態の評価が可能となる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】境界要素法モデルを示した図である。
【図2】実施例において使用した供試体の形状寸法を示した図で、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図を各々示す。
【図3】自然電位の測定法を概念的に示した側面図である。
【図4】供試体1の鉄筋▲1▼についての実施例結果を示した図である。
【図5】供試体1の鉄筋▲2▼についての実施例結果を示した図である。
【図6】供試体2の鉄筋▲1▼についての実施例結果を示した図である。
【図7】供試体2の鉄筋▲2▼についての実施例結果を示した図である。
Claims (2)
- コンクリート構造物中に埋設された鉄筋の腐食状態を、鉄筋の自然電位を測定することにより評価するコンクリート構造物中の鉄筋の腐食状態の評価方法において、上記鉄筋の自然電位をコンクリート構造物表面において測定すると共に、該測定値を、自然電位の原理となるポテンシャル問題の3次元Laplace方程式を境界要素法による解析法によって解くことで鉄筋上の電位に変換し、更に該変換値を利用して電流量解析から鉄筋中の電流量を求め、該鉄筋中の電流量に基づいて鉄筋の腐食状態を評価することを特徴とするコンクリート構造物中の鉄筋の腐食状態の評価方法。
- 上記電流量解析により求めた鉄筋中の電流量が0mA以下の部位の鉄筋は腐食していると評価することを特徴とする、請求項1記載のコンクリート構造物中の鉄筋の腐食状態の評価方法。
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