JP3972536B2 - エンジンのフリクション推定装置およびエンジンの燃料消費診断装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明はエンジンのフリクション推定装置およびエンジンの燃料消費診断装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
エンジンを車両から取り外すことなく、車両の走行中にエンジンの状態量としての燃料消費率を検出するようにした装置がある(特開平9−144592号公報参照)。この装置では、エンジン出力PEと、エンジン回転数Neと、燃料コントロールラックのラック位置Rと、このRとNeとの関数f(R、Ne)として特性曲線の形で予め設定している単位時間当たりの燃料噴射量とから、たとえば、
【0003】
【数1】
g=B×f(R、Ne)×γ/PE
の式により燃料消費率gを求めている。ただし、Bは係数、γは燃料の比重量である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、エンジンやエンジンにより駆動される補機(ラジエータファンなど)の各フリクションが経時劣化(たとえばエンジンオイルの劣化)や故障ほどでない軽度の支障(たとえばギヤや摺動面へのかみこみなど)によって増大すると、燃料の消費量が多くなり、燃費が悪化するので、補機を含めたエンジンのフリクションが増加したと判定できれば、この判定結果よりエンジンの燃料消費悪化の原因を特定できる。
【0005】
しかしながら、現在のところそうした提案はされていない。
【0006】
そこで本発明は、エンジン始動時にスタータモータの信号とエンジン回転数に基づいてエンジンフリクションを推定することにより、エンジンの燃料消費の悪化原因を特定できるようにすることを目的とする。
【0007】
また、エンジン始動時にスタータモータの信号とエンジン回転数に基づいてエンジンの燃料消費の悪化に関する診断を行うことにより、診断を簡易に行わせることをも目的とする。
【0008】
なお、上記の燃料消費率を用いても、これが大きくなれば燃料消費が悪くなったと診断することができる。しかしながら、燃料消費率を用いて燃料消費の悪化に関する診断を行うのでは、燃料消費率の計算が複雑である。たとえば、数1式のエンジン出力PEを求めるには次の操作が必要となる。まず、動力伝達トルク検出器の有するひずみゲージで推進軸等のひずみを測定することにより動力伝達トルクTPを検出する。そして、このTPを用いて
【0009】
【数2】
PE=(A×Ne×TP)/(η×K)
の式によりエンジン出力PEに換算する。ただし、Aは所定の係数、ηはエンジン出力端から動力伝達トルク検出器までの動力伝達効率、Kは逆転機構や減速機等の歯車比である。このように、燃料消費率を用いて燃料消費の悪化に関する診断を行うときは、上記の関数f(R、Ne)の設定に加えて、実際のエンジン出力PEを演算しなければならない。
【0010】
これに対して本発明では、診断に際してスタータモータの信号とエンジンの回転数をパラメータとしてこれらより簡単な計算をすれば足りるので、従来装置の燃料消費率を用いて診断を行う場合よりも構成を簡単にすることができる。
【0011】
【課題を解決するための手段】
第1の発明は、エンジンのクランキングを行うスタータを備え、エンジンの始動時にスタータモータの信号とエンジンの回転数に基づいてエンジンフリクションが経時劣化または故障ほどでない軽度の支障によって増加したかどうかを判定する。
【0012】
第2の発明では、第1の発明において前記スタータモータの信号がスタータモータに作用する電圧およびスタータモータを流れる電流である。
【0013】
第3の発明は、エンジンのクランキングを行うスタータを備えるとともに、図10に示すように、エンジンの始動時にスタータモータに与えた電気エネルギーを演算する手段21と、スタータよりエンジンに与えられた回転エネルギーをエンジンの回転数に基づいて演算する手段22と、前記電気エネルギーからこの回転エネルギーを差し引いた値と判定値の比較によりエンジンフリクションが増加したかどうかを判定する手段23とを備える。
【0014】
第4の発明では、第3の発明においてエンジンの完爆までに前記判定を行う。
【0015】
第5の発明では、第4の発明において前記判定のタイミングがエンジンの完爆タイミングである。
【0016】
第6の発明では、第5の発明において前記エンジンの完爆タイミングをスタータスイッチがONになってからの経過時間により予測する。
【0017】
第7の発明では、第5の発明において前記エンジンの完爆タイミングをエンジン回転数により予測する。
【0018】
第8の発明では、第5の発明において前記エンジンの完爆タイミングをエンジン回転数の変化割合より検出する。
【0019】
第9の発明では、第3の発明において前記判定が終わるまで燃料供給を停止する。
【0020】
第10の発明では、第3の発明においてエンジンにより駆動される補機を有する場合に、エンジンにより駆動される補機がない場合より前記判定値を大きくする。
【0021】
第11の発明では、第3の発明において前記判定値が始動時のエンジン温度または外気温に応じ、これら温度が低くなるほど大きくなる値である。
【0022】
第12の発明は、エンジンのクランキングを行うスタータを備え、エンジンの始動時にスタータモータの信号とエンジンの回転数に基づいてエンジンフリクションが経時劣化または故障ほどでない軽度の支障によって増加したかどうかを判定し、この判定結果より燃料消費が悪化したかどうかを判定する。
【0023】
第13の発明では、第12の発明において前記スタータモータの信号がスタータモータに作用する電圧およびスタータモータを流れる電流である。
【0024】
第14の発明は、エンジンのクランキングを行うスタータを備えるとともに、図11に示すように、エンジンの始動時にスタータモータに与えた電気エネルギーを演算する手段21と、スタータよりエンジンに与えられた回転エネルギーをエンジンの回転数に基づいて演算する手段22と、前記電気エネルギーからこの回転エネルギーを差し引いた値と判定値の比較により燃料消費が悪化したかどうかを判定する手段31とを備える。
【0025】
第15の発明では、第14の発明においてエンジンの完爆までに前記判定を行う。
【0026】
第16の発明では、第15の発明において前記判定のタイミングがエンジンの完爆タイミングである。
【0027】
第17の発明では、第16の発明において前記エンジンの完爆タイミングをスタータスイッチがONになってからの経過時間により予測する。
【0028】
第18の発明では、第16の発明において前記エンジンの完爆タイミングをエンジン回転数により予測する。
【0029】
第19の発明では、第16の発明において前記エンジンの完爆タイミングをエンジン回転数の変化割合より検出する。
【0030】
第20の発明では、第14の発明において前記判定が終わるまで燃料供給を停止する。
【0031】
第21の発明では、第14の発明においてエンジンにより駆動される補機を有する場合に、エンジンにより駆動される補機がない場合より前記判定値を大きくする。
【0032】
第22の発明では、第14の発明において前記判定値が始動時のエンジン温度または外気温に応じ、これら温度が低くなるほど大きくなる値である。
【0033】
【発明の効果】
第1、第2、第3の発明によれば、エンジンフリクションが増加したと判定したときには、この判定結果よりエンジンの燃料消費悪化の原因を特定できる。
【0034】
第4の発明によれば、エンジンの完爆のタイミングでは判定(推定)を終了しているので、始動時の運転性に影響を与えることがない。
【0035】
第5の発明は判定(推定)のタイミングを遅くするほどデータの信頼性が増すことに対応するもので、第5の発明によれば、いわゆる分解能が最もよくなる。
【0036】
第6の発明によれば、判定(推定)までの期間を一律に設定できる。
【0037】
第7、第8の発明によれば、始動時のクランキング回転数の上昇度合が急なものやゆっくりしたものがあっても、あるいはエンジンの経時劣化により始動時のクランキング回転数の上昇度合が当初より緩やかになるものがあっても判定(推定)タイミングを精度よく設定できる。
【0038】
推定中も燃料供給を行い、エンジン燃焼室内で燃焼を行わせると、燃焼熱による分がエンジンの回転エネルギーを演算する際の誤差として生じ、推定の精度が低下してしまうのであるが、第9の発明によれば、こうした誤差が生じることがないので、推定精度が向上する。
【0039】
第10の発明によれば、エンジンにより駆動される補機の有無に関係なく推定精度を向上できる。
【0040】
第11の発明はエンジンのフリクションはエンジン温度や外気温に応じ、これら温度が低下するほど大きくなるのに対応するもので、第11の発明によれば、エンジン温度や外気温に関係なく、推定精度を向上できる。
【0041】
第12、第13、第14の発明によれば、判定(診断)に際してスタータモータの信号とエンジンの回転数をパラメータとしてこれらより簡単な計算をすれば足りるので、従来装置の燃料消費率を用いて診断を行う場合よりも構成を簡単にすることができる。
【0042】
第15の発明によれば、エンジンの完爆のタイミングでは判定(診断)を終了しているので、始動時の運転性に影響を与えることがない。
【0043】
第16の発明は判定(診断)のタイミングを遅くするほどデータの信頼性が増すことに対応するもので、第16の発明によれば、いわゆる分解能が最もよくなる。
【0044】
第17の発明によれば、判定(診断)までの期間を一律に設定できる。
【0045】
第18、第19の発明によれば、始動時のクランキング回転数の上昇度合が急なものやゆっくりしたものがあっても、あるいはエンジンの経時劣化により始動時のクランキング回転数の上昇度合が当初より緩やかになるものがあっても判定(診断)タイミングを精度よく設定できる。
【0046】
診断中も燃料供給を行い、エンジン燃焼室内で燃焼を行わせると、燃焼熱による分がエンジンの回転エネルギーを演算する際の誤差として生じ、診断の精度が低下してしまうのであるが、第20の発明によれば、こうした誤差が生じることがないので、診断精度が向上する。
【0047】
第21の発明によれば、エンジンにより駆動される補機の有無に関係なく診断精度を向上できる。
【0048】
第22の発明によれば、エンジン温度や外気温に関係なく、診断精度を向上できる。
【0049】
【発明の実施の形態】
図1、図2において エンジン1にはクランキングのためスタータ(たとえばリダクション式スタータ)5を備える。スタータ5は、シャフト5b上を前後(図で左右)に移動できるピニオン5aを有し、このピニオン5aがエンジン1のフライホイールの外側にはめ込まれたリングギヤ3にかみ合うようになっている。つまり、始動時にスタータスイッチ11をONにすると、ピニオン5aがリングギヤ3にかみ合い、かつ大きな起動トルクと大きなスピードを有するスタータモータ5cにより、リングギア3に駆動力が与えられてエンジン1がクランキングされる。
【0050】
その一方で、コントロールユニット6からの燃料噴射弁2への燃料噴射信号と点火装置(図示しない)への点火信号により、エンジン1の回転に応じて所定のタイミングで燃料噴射と点火が行われると、燃焼室内で混合気が燃焼する。この燃焼によるエネルギーがエンジン回転を加速し、これによってエンジン回転が完爆回転数に達すると、エンジン1が自立運転に入る。このとき、スタータスイッチ11をOFFにすることで、ピニオン5aはリングギヤ3とのかみ合いから外れて元の位置に戻り、スタータモータ5cへの通電がやんでモータ5cが停止する。
【0051】
燃料噴射と点火を制御するため、主にマイコンからなるコントロールユニット6には、クランク角センサ12からのクランク角の基準位置信号と単位クランク角度毎の信号、水温センサ13からエンジン水温信号などが入力されている。
【0052】
さて、上述したところは一般的なエンジン始動時の動作であるが、本実施形態では、エンジン始動時に燃料噴射を停止した状態でスタータモータの信号とエンジン回転数に基づいて、エンジンフリクションを推定するか、またはエンジンの燃料消費の悪化に関する診断を行う。
【0053】
これについてさらに説明すると、スタータモータに与えた電気エネルギーがエンジンの回転エネルギーに変換されるとともに、電気エネルギーの一部はエンジンのフリクションに伴う熱として消失する。つまり、スタータモータに与えた電気エネルギーから、エンジンの有する回転エネルギーを差し引いた値がエンジンフリクション分であるから、両者をそれぞれ求めることができれば、エンジンフリクションの推定が可能になる。
【0054】
ここで、スタータに与えられる電気エネルギーSUMWは、スタータモータの単位時間当たりの仕事量である電力W(=I×V)を推定のタイミングまで積算することで求めることができる。また、エンジンの有する回転エネルギーEは推定タイミングにおけるエンジン回転数Neの二乗に比例する。したがって、推定タイミングで両者の差であるSUMW−Eを計算し、これと判定値(エンジンフリクションが標準的なエンジンに対する値)を比較することにより、SUMW−Eが判定値を超えれば標準エンジンよりもエンジンフリクションが大きくなっていると、またSUMW−Eが判定値以下であるときは標準エンジンと同等のエンジンフリクションであると推定できる。
【0055】
同様にして、スタータモータの単位時間当たりの仕事量である電力Wを診断タイミングまで積算することで、スタータに与えられる電気エネルギーSUMWを求めるとともに、診断タイミングでエンジン回転数Neの二乗に比例することで、エンジンの有する回転エネルギーEを求め、両者の差であるSUMW−Eを計算し、これと判定値を比較することにより、SUMW−Eが判定値を超えれば燃料消費が悪化していると、またSUMW−Eが判定値以下であるときは燃料消費が悪化していないと診断できる。
【0056】
上記のスタータモータに与える電力Wを計測するため、コントロールユニット6には、図2に示したように、スターモータ5cのプラス端子とマイナス端子の各電圧VA、VBのほか、マイナス端子側に接続した電流検出用の抵抗(シャント抵抗といわれる)15とアースの間の電圧VCが入力されている。
【0057】
コントロールユニット6で実行されるエンジンフリクションの推定または燃料消費悪化に関する診断の制御内容を、図3のフローチャートにしたがってさらに説明する。図3は一定時間毎(たとえば10msec毎)に実行する。
【0058】
なお、エンジンフリクションの推定と燃料消費悪化に関する診断とではほぼ同様の処理を行うので、エンジンフリクションの推定について主に説明し、その後に燃料消費悪化に関する診断に言及する。
【0059】
同図において、ステップ1、2では現在のスタータスイッチの状態と前回のスタータスイッチの状態をみる。スタータスイッチが前回はOFFで今回はONのときには(つまり始動開始)、ステップ3、4、5に進み、スタータに与えた電気エネルギー(総量)を表すSUMWとスタータON時間を計測するためのタイマをともにクリアした(SUMW=0、タイマ=0)あと、燃料噴射を停止する指令信号を出し(たとえば燃料噴射停止フラグを導入しこれを1にする)、今回の処理を終了する。図示しない燃料噴射制御フローでは、この指令信号を受けると、燃料噴射が禁止される。
【0060】
スタータスイッチが前回、今回ともONのときは、ステップ1、2よりステップ6に進み、タイマと所定値を比較する。ここで、所定値は、標準エンジン(エンジンフリクションが標準的なエンジンのこと)に対して燃料噴射すればエンジンが完爆するであろう電気エネルギーがスタータに供給されたと判断される時間であり、予め設定したものである。当初はタイマが所定値より小さいため、ステップ7に進んでタイマを演算周期(つまり10msec)の分だけインクリメントした後、ステップ8、9、10では3つの電圧VA、VB、VCを読み込み、このうちスタータモータに印加された電圧VをV=VA−VBの式により、またスタータモータを流れる電流IをI=(VB−VC)/R(ただしRは抵抗15の値)の式により計算し、これら電圧Vと電流Iを用いて、
【0061】
【数3】
SUMW=SUMWz+k1×I×V
の式によりスタータモータに与えた電気エネルギーSUMW[J]を計算する。これは、単位時間当たりの電気エネルギーを表す電力W(=I×V)[J/s]を積算するものである(図6参照)。ただし、数3式のk1は10msec当たりに換算するための係数である。
【0062】
タイマのインクリメントの繰り返しによりやがてタイマが所定値以上になると、推定タイミングになったと判断し、ステップ6よりステップ11以降に進む。ステップ11では燃料噴射停止を解除する指令を出す(燃料噴射停止フラグを0にする)。図示しない燃料噴射制御フローでは、この指令信号を受けると、燃料噴射(および点火)が開始される。
【0063】
このように、始動から診断タイミングまでのあいだ燃料噴射を行わないのは、この間も燃料噴射を行うと、燃焼熱による分がエンジンの回転エネルギーを演算する際の誤差として生じ、そのぶんエンジンフリクションの推定(または燃料消費悪化の診断)の精度が低下してしまうのでこれを避けるためである。
【0064】
ステップ12では推定タイミングでのエンジン回転数Neとエンジン水温Twを読み込み、このうちエンジン回転数Neからステップ13において
【0065】
【数4】
E=k2×Ne2
の式により推定タイミングでエンジンが有する回転エネルギーE[J]を計算する。ただし、数4式の係数k2はエンジン回転部分の慣性モーメントに応じた値である。
【0066】
ここで、推定タイミングでのこの回転エネルギーEは、推定タイミングまでにスタータに与えた電気エネルギーSUMWより小さく、その差であるSUMW−Eがエンジンフリクションのために熱として消失するエネルギー分である。したがって、SUMW−Eをエンジンフリクションとして推定することで、エンジンの燃料消費悪化の原因を特定できる。本発明ではこの推定結果を表示させるため、あるいはデータとして記憶するためステップ14、15でエンジン水温Twに応じた判定値を演算し、この判定値とエンジンフリクションを表すW−Eの値を比較する。ここで、W−Eを横軸とする頻度分布を図4に示すと、エンジン水温一定の条件のもとで、エンジンのフリクションが標準のエンジン(標準エンジン)に対してこの標準エンジンよりエンジンフリクションの増加したエンジンでは、頻度のピーク位置が右側にずれる。したがって、図示の位置に判定値を設定しておけば、W−Eが判定値を超えると、エンジンフリクションが標準エンジンよりも増加していると、またW−Eが判定値以下のとき、エンジンフリクションは標準エンジンと同等であると判断できる。このため、W−Eが判定値を超えるときだけステップ15よりステップ16、17に進み、エンジンフリクションが標準エンジンよりも増加していることを表す情報(図では「NG」で略記)をコントロールユニット6内のメモリ(たとえばEEPROM)に格納するとともに、その情報を警告表示装置7(図1参照)に表示させる。この表示によりドライバに対してエンジンフリクションが標準エンジンよりも増加している事態が警告されるとともに、整備工場やディーラーへの入庫が促されることになる。
【0067】
一方、W−Eが判定値以下のときはそのまま今回の処理を終了する(このときは、エンジンフリクションが標準エンジンよりも増加していることを表す情報がコントロールユニット6内のメモリに格納されることもないし、警告表示装置7に何も表示されない)。そして、次回からは、従来と同様に、図示しない燃料噴射制御フローにおいて、始動時の燃料噴射が実行され、やがてエンジンが自立運転に入る。
【0068】
エンジンフリクションはエンジン水温Twの影響を大きく受けるので、図5に示したように、実際には上記の判定値をエンジン水温Twに応じた値としている。同図において、エンジン水温Twが低くなるほど判定値を大きくするのは、エンジン水温Twが低くなるほどエンジンフリクションが大きくなることに対応させたものである。また、エンジン駆動の補機がない場合とエンジン駆動の補機(たとえばラジエータファン)がある場合とでは判定値を変え、エンジン駆動の補機がある場合のほうがエンジンフリクションが大きくなるためそのぶん判定値を大きくする必要がある。また、パワーステアリング装置(図では「パワステ」で略記)を備える車両では、始動時に、電磁クラッチを接続してパワーステアリング用のオイルポンプをエンジンにより駆動するようにしているので、このパワーステアリング用のオイルポンプの駆動分だけさらに判定値を大きくする。したがって、始動時のエンジン駆動の補機の有無を考慮して判定値のテーブルを予め作成しておき、このテーブルを上記のステップ14で検索させる。
【0069】
一方、燃料消費悪化に関する診断では、上記の推定タイミングが診断タイミングとなり、ステップ15でW−Eが判定値を超えると燃料消費が悪化していると判断し、ステップ16、17で燃料消費が悪化していることを表す情報(図では「NG」で略記)をコントロールユニット6内のメモリ(たとえばEEPROM)に格納するとともに、その情報を警告表示装置7(図1参照)に表示させる。この表示によりドライバに対して燃料消費が悪化している事態が警告されるとともに、整備工場やディーラーへの入庫が促されることになる。また、W−Eが判定値以下のとき、燃料消費が悪化していないと判断し、そのまま今回の処理を終了する(このときは、燃料消費が悪化していることを表す情報がコントロールユニット6内のメモリに格納されることもないし、警告表示装置7に何も表示されない)。
【0070】
このように本実施形態では、エンジンの始動時に推定タイミングまでにスタータモータに与えた電気エネルギーSUMWと、推定タイミングにおいてエンジンの有する回転エネルギーEとをそれぞれ演算し、これらの差であるSUMW−Eと判定値との比較により標準エンジンよりもエンジンフリクションが増加したかどうかを判定するので、エンジンフリクションが増加したと判定したときには、この判定結果よりエンジンの燃料消費悪化の原因を特定できる。
【0071】
また、燃料消費の悪化に関する診断に際してはスタータモータの信号とエンジンの回転数をパラメータとしてこれらより上記の数3式、数4式により簡単な計算をすれば足りるので、従来装置の燃料消費率を用いて診断を行う場合よりも診断装置の構成を簡単にすることができる。
【0072】
また、診断結果の表示される警告表示装置7をみれば、エンジンフリクションが増大していることやエンジンの燃料消費が悪化していることを容易に知ることができる。
【0073】
また、エンジンフリクションの推定中や燃料消費の悪化に関する診断中も燃料噴射を行いエンジン燃焼室内で燃焼を行わせると、燃焼熱による分がエンジンの回転エネルギーを演算する際の誤差として生じ、推定や診断の精度が低下してしまうのであるが、本実施形態では、推定や診断が終わるまで燃料噴射を停止するので、こうした誤差が生じることがなく、推定や診断の精度を向上できる。
【0074】
また、推定や診断の各タイミングをエンジンの完爆タイミングにほぼ合わせることにより完爆タイミングでは推定や診断を終了させるようにしているので、始動時の運転性に影響を与えることがない。
【0075】
なお、推定や診断のタイミングを完爆タイミングの前にもってきてもかまわない。ただし、推定や診断のタイミングを遅くするほどデータの信頼性が増すので、運転性に影響のない最も遅い時期であるエンジンの完爆タイミングに推定や診断のタイミングを近づけることで、いわゆる分解能が最もよくなる。
【0076】
図7のフローチャートは第2実施形態で、第1実施形態の図3と置き換わるものである。なお、図3と同一部分には同一のステップ番号をつけてその詳細な説明は省略する。この実施形態は、推定や診断のタイミングの判定方法が第1実施形態と異なり、エンジン回転数Neが所定値以上のとき推定や診断のタイミングになったと判定するものである(ステップ21、22)。ここで、所定値は、標準エンジンに対して燃料噴射すればエンジンが完爆するであろう電気エネルギーがスタータに与えられたと判断される回転数で、予め設定したものである。
【0077】
完爆回転数は同じでも始動時のクランキング回転数の上昇度合が急なものやゆっくりしたものなどや、エンジンの経時劣化により始動時のクランキング回転数の上昇度合が当初より緩やかになるものがあり、第1実施形態ではこうした場合にタイマと比較するための所定値のマッチングが困難であるが、第2実施形態によれば、始動時のクランキング回転数の上昇度合が急なものやゆっくりしたものがあっても、あるいはエンジンの経時劣化により始動時のクランキング回転数の上昇度合が当初より緩やかになるものがあっても推定や診断のタイミングを精度よく設定できる。
【0078】
ただし、スタータの故障などによりエンジンに対してスタータからエネルギーが与えられなくなると、所定値までエンジン回転が上昇せず、エンジン回転数が所定値以上とならないので、推定や診断を行うことができない。そこで、スタータの故障などによりエンジンにエネルギーが与えられなくなる場合までを考慮するのであれば、第1段階でまず第2実施形態による推定や診断を行い、スタータスイッチのOFF→ONから所定時間が経過しても推定や診断のタイミングにならなければ、第2段階に移り、今度は第1実施形態による推定や診断を行うことが考えられる。
【0079】
また、エンジンの完爆タイミングに推定や診断のタイミングを近づけることにより完爆タイミングになったときには推定や診断を終了させているので、第1実施形態と同様に、始動時の運転性に影響を与えることがない。
【0080】
図8のフローチャートは第3実施形態で、第1実施形態の図3と置き換わるものである。なお、図3と同一部分には同一のステップ番号をつけてその詳細な説明は省略する。
【0081】
第1、第2の各実施形態が、推定や診断が終わるまで燃料噴射を停止したのに対して、第3実施形態は始動の開始から燃料噴射を行いつつエンジンの完爆までに推定や診断を終了するようにしたものである。この実施形態では、エンジンが実際に完爆したタイミングを推定や診断のタイミングとするので(ステップ31)、図9に示したように、エンジン回転数の所定時間当たりの変化量(=エンジン回転数の変化割合)ΔNが所定値以上となったとき、エンジンが完爆したと判定させる。
【0082】
第3実施形態では完爆タイミングを実際に検出しているので、第2実施形態と同様に、始動時のクランキング回転数の上昇度合が急なものやゆっくりしたものがあっても、あるいはエンジンの経時劣化により始動時のクランキング回転数の上昇度合が当初より緩やかになるものがあっても推定や診断のタイミングを精度よく設定できる。
【0083】
なお、第3実施形態でも、エンジンの完爆のタイミングでは推定や診断を終了しているので、始動時の運転性に影響を与えることがない。
【0084】
実施形態では判定値をエンジン水温に応じて演算する場合で説明したが、外気温に応じて判定値を演算させてもかまわない。このときも、外気温が低くなるなるほど判定値が大きくなる特性である。
【0085】
最後に、スタータモータやバッテリが劣化しているときに本発明の推定や診断を行わない等の対策は必要でない。なぜなら電力計算によりエンジンに与えたエネルギーを演算するので、劣化等の影響を受けないからである。
【図面の簡単な説明】
【図1】一実施形態の制御システム図。
【図2】電気回路図。
【図3】推定や診断を説明するためのフローチャート。
【図4】W−Eに対する頻度分布図。
【図5】エンジン水温に対する判定値の特性図。
【図6】第1実施形態の作用説明図。
【図7】第2実施形態の推定や診断を説明するためのフローチャート。
【図8】第3実施形態の推定や診断を説明するためのフローチャート。
【図9】完爆判定を説明するための波形図。
【図10】第3の発明のクレーム対応図。
【図11】第14の発明のクレーム対応図。
【符号の説明】
1 エンジン
5 スタータ
5c スタータモータ
6 コントロールユニット
11 スタータスイッチ
12 クランク角センサ(エンジン回転数センサ)
Claims (22)
- エンジンのクランキングを行うスタータを備え、エンジンの始動時にスタータモータの信号とエンジンの回転数に基づいてエンジンフリクションが経時劣化または故障ほどでない軽度の支障によって増加したかどうかを判定することを特徴とするエンジンのフリクション推定装置。
- 前記スタータモータの信号はスタータモータに作用する電圧およびスタータモータを流れる電流であることを特徴とする請求項1に記載のエンジンのフリクション推定装置。
- エンジンのクランキングを行うスタータを備えるとともに、
エンジンの始動時にスタータモータに与えた電気エネルギーを演算する手段と、
スタータよりエンジンに与えられた回転エネルギーをエンジンの回転数に基づいて演算する手段と、
前記電気エネルギーからこの回転エネルギーを差し引いた値と判定値の比較によりエンジンフリクションが増加したかどうかを判定する手段と
を備えることを特徴とするエンジンのフリクション推定装置。 - エンジンの完爆までに前記判定を行うことを特徴とする請求項3に記載のエンジンのフリクション推定装置。
- 前記判定のタイミングはエンジンの完爆タイミングであることを特徴とする請求項4に記載のエンジンのフリクション推定装置。
- 前記エンジンの完爆タイミングをスタータスイッチがONになってからの経過時間により予測することを特徴とする請求項5に記載のエンジンのフリクション推定装置。
- 前記エンジンの完爆タイミングをエンジン回転数により予測することを特徴とする請求項5に記載のエンジンのフリクション推定装置。
- 前記エンジンの完爆タイミングをエンジン回転数の変化割合より検出することを特徴とする請求項5に記載のエンジンのフリクション推定装置。
- 前記判定が終わるまで燃料供給を停止することを特徴とする請求項3に記載のエンジンのフリクション推定装置。
- エンジンにより駆動される補機を有する場合に、エンジンにより駆動される補機がない場合より前記判定値を大きくすることを特徴とする請求項3に記載のエンジンのフリクション推定装置。
- 前記判定値は始動時のエンジン温度または外気温に応じ、これら温度が低くなるほど大きくなる値であることを特徴とする請求項3に記載のエンジンのフリクション推定装置。
- エンジンのクランキングを行うスタータを備え、エンジンの始動時にスタータモータの信号とエンジンの回転数に基づいてエンジンフリクションが経時劣化または故障ほどでない軽度の支障によって増加したかどうかを判定し、この判定結果より燃料消費が悪化したかどうかを判定することを特徴とするエンジンの燃料消費診断装置。
- 前記スタータモータの信号はスタータモータに作用する電圧およびスタータモータを流れる電流であることを特徴とする請求項12に記載のエンジンの燃料消費診断装置。
- エンジンのクランキングを行うスタータを備えるとともに、
エンジンの始動時にスタータモータに与えた電気エネルギーを演算する手段と、
スタータよりエンジンに与えられた回転エネルギーをエンジンの回転数に基づいて演算する手段と、
前記電気エネルギーからこの回転エネルギーを差し引いた値と判定値の比較により燃料消費が悪化したかどうかを判定する手段と
を備えることを特徴とするエンジンの燃料消費診断装置。 - エンジンの完爆までに前記判定を行うことを特徴とする請求項14に記載のエンジンの燃料消費診断装置。
- 前記判定のタイミングはエンジンの完爆タイミングであることを特徴とする請求項15に記載のエンジンの燃料消費診断装置。
- 前記エンジンの完爆タイミングをスタータスイッチがONになってからの経過時間により予測することを特徴とする請求項16に記載のエンジンの燃料消費診断装置。
- 前記エンジンの完爆タイミングをエンジン回転数により予測することを特徴とする請求項16に記載のエンジンの燃料消費診断装置。
- 前記エンジンの完爆タイミングをエンジン回転数の変化割合より検出することを特徴とする請求項16に記載のエンジンの燃料消費診断装置。
- 前記判定が終わるまで燃料供給を停止することを特徴とする請求項14に記載のエンジンの燃料消費診断装置。
- エンジンにより駆動される補機を有する場合に、エンジンにより駆動される補機がない場合より前記判定値を大きくすることを特徴とする請求項14に記載のエンジンの燃料消費診断装置。
- 前記判定値は始動時のエンジン温度または外気温に応じ、これら温度が低くなるほど大きくなる値であることを特徴とする請求項14に記載のエンジンの燃料消費診断装置。
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