JP6504039B2 - エンジン始動装置 - Google Patents
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Description
同文献1には、エンジンの停止状態からシリンダにおける最初の空気及び燃料の混合気を燃焼させる燃焼サイクルを予測し、その予測された最初の燃焼サイクル中にスタータのピニオンをエンジンのリングギヤから離脱させる方法が開示されている。この方法によれば、エンジンが完爆するまでピニオンをリングギヤに噛み合わせておく必要がなく、ピニオンをリングギヤから早く離脱させることができる。その結果、スタータの劣化、電流消費、オーバーランによるクラッチの劣化、エンジンのノイズ及び振動を低減することが可能である。
これに対し、エンジンが惰性回転で最初の燃焼サイクルにおける圧縮上死点を越えられるタイミングを推定できれば、そのタイミングでピニオンをリングギヤから離脱させることができる。この場合、上記のタイミングでスタータによるクランキングを停止しても、エンジンの惰性回転で初爆を迎えることが可能である。
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、エンジンの始動に必要なエネルギーを低減できるエンジン始動装置を提供することにある。
本発明では、エンジンに蓄えられたエネルギーが初爆までに必要なエネルギーを上回ったときは、エンジンの初爆より前のタイミングでもモータの回転速度を減速させるので、最小の始動エネルギーでエンジンの始動を行うことが可能である。このため、スタータによるエンジンのクランキングを初爆後まで継続して行う特許文献1の従来技術と比較して、エンジンを始動するために必要な始動エネルギーを低減できる。
実施例1のエンジン始動装置1は、図1に示すように、モータ3の回転力によってエンジンをクランキングするスタータ2と、モータ3の動作を制御するモータ制御装置4とを備える。スタータ2は、モータ3の他に、以下に説明するピニオン5、減速機(図示せず)、クラッチ6、ソレノイド(図示せず)などを備える。
ピニオン5は、モータ3に駆動される出力軸7の軸上にヘリカルスプライン嵌合して出力軸7の軸上を移動可能に配置され、出力軸7上を反モータ方向(図示左方向)へ移動して、エンジンのクランク軸に連結されるリングギヤ8に噛み合うことができる。
クラッチ6は、モータ3とピニオン5との間に配置されて、モータ3からピニオン5へトルクを伝達する際に連結し、ピニオン5がエンジンにより回された時に非連結となってトルクの伝達を遮断する一方向クラッチである。
ソレノイドは、電磁力によってピニオン5を反モータ方向へ押し出す働きを有する。
モータ3は、ステータ巻線3aに三相交流が印加されて回転磁界を発生し、その回転磁界に連れてロータ(図示せず)が回転する交流モータである。
このモータ制御装置4は、エンジンECU(図示せず)より出力されるエンジン始動信号を受けてモータ3への通電を開始した後、所定の条件(後述する)が成立したときにモータ3の回転速度を減速させるモータ速度制御を行う。
以下、モータ制御装置4によるモータ速度制御の手順を図2に示すフローチャートに基づいて説明する。
ステップS1で初期クランク角θ0を取得する。例えば、図3に示すように、4気筒4サイクルエンジンで点火順序が気筒1→気筒3→気筒4→気筒2の順に行われる場合、気筒1の圧縮行程における初期位置θ0=50[deg]を取得する。
ステップS2でモータ3の回転数ωm、回転角θm、及びトルクTmを取得する。
ステップS3でモータ3の出力エネルギーPm、およびモータ3の運動エネルギーPke_mを算出する。モータ3の出力エネルギーPmは、数式(1)に示されるように、モータトルクTmを初期位置θ0から演算タイミングθ1までの角度で積分すればよい。
数式(1)
数式(2)…Pke_m=1/2・Jm×ωm2
ステップS4では、エンジンの入力エネルギーPeを算出する。先の数式(1)で求めたモータ3の出力エネルギーPmは、下記の数式(3)に示されるように、自身の運動エネルギーPke_mとエンジンの入力エネルギーPeとに変換できる。従って、エンジンの入力エネルギーPeは、数式(4)に示されるように、モータ3の出力エネルギーPmから運動エネルギーPke_mを減算して求めることができる。
数式(3)…Pm=Pke_m+Pe
数式(4)…Pe=Pm−Pke_m
ステップS6では、圧縮行程におけるシリンダ内容積vを算出する。ここでは、クランク角θとシリンダ内容積vとが関係付けられたマップを使って求めることができる。
ステップS7では、圧縮行程におけるシリンダ内の気体エネルギーPcと、エンジンの運動エネルギーPke_eを算出する。
数式(5)
数式(6)…Pke_e=1/2・Je×ωe2
ステップS8では、エンジンのフリクションTlを数式(7)より算出する。αはフリクションの重み付け係数であり、初期値は「1」である。
数式(7)…Tl=αPl/(θ1−θ0)
数式(7)に含まれるPlはエンジン負荷の損失エネルギーであり、下記の数式(8)に示されるように、エンジンの入力エネルギーPeと、エンジンの運動エネルギーPke_eと、シリンダ内の気体エネルギーPcより算出できる。
数式(8)…Pl=Pe−Pke_e−Pc
ング(図3のθ1=120[deg]の位置)における初爆までの必要エネルギーPnを
数式(9)より算出する。図3の行程図では、気筒3の圧縮上死点に付与した▽印が初爆
のタイミングを示している。
数式(9)
Pe_tを数式(10)より算出する。
数式(10)…Pe_t=Pke_e+Pc
ステップS11では、数式(11)により定義される所定の条件が成立したか否かを判
定し、成立した場合(判定結果YES)にステップS12へ進む。数式(11)に含まれ
るXは閾値であり、初期値を「0」とする。
数式(11)…Pe_t−Pn>X
ステップS12でモータ3の回転速度を減速させる。具体的には、モータ3への通電を
停止する。あるいは、モータ3の回転方向に対し逆向きのトルクを発生させる、つまり、
モータ3に制動トルクを与えて減速する。
実施例1のエンジン始動装置1は、エンジンが惰性回転で最初の燃焼サイクルの圧縮上
死点を越えられるタイミングを推定し、そのタイミングでモータ3の回転速度を減速させる。すなわち、クランキングが開始されてからエンジンに蓄えられたエネルギーPe_tとエンジンの初爆までに必要なエネルギーPnとを算出し、Pe_tがPnを上回った時にモータ3の回転速度を減速させる。これにより、初爆より前のタイミングでモータ3の回転速度を減速できるので、スタータ2によるエンジンのクランキングを初爆後まで継続して行う特許文献1の従来技術と比較して、エンジンを始動するために必要な始動エネルギーを低減できる。
さらに、モータ3の回転方向に対して逆向きのトルクを発生させる場合は、モータ3への通電を停止する場合よりクラッチ6の連結期間を短くできるので、ピニオン5とリングギヤ8との歯打ち音を更に低減でき、耐久性も更に向上する。また、モータ3に逆向きのトルクを発生させることで、モータ3の運動エネルギーを電気エネルギーに変換してバッテリVに戻すことができるので、省エネルギーにも寄与する。
また、ステップS7では、シリンダ内の気体エネルギーPcを求める際に、数式(5)に大気圧p0を算入することで気圧の変化による演算誤差を補正できるので、気体エネルギーPcの演算精度が向上する。
なお、実施例1と共通する部品および構成を示すものは、実施例1と同一の符号を付与して詳細な説明は省略する。
〔実施例2〕
この実施例2は、実施例1に記載したステップS12でモータ3の回転速度を減速させるためにモータ3への通電を停止した後、クラッチ6が連結したと推定され、且つモータ3の回転数が所定の回転数まで低下した時に、再びモータ3への通電を開始する事例である。所定の回転数とは、エンジンが完爆可能な最低回転数である。
なお、クラッチ6が非連結の状態から連結すると、モータ3の回転数が変化するため、そのモータ3の回転数の変化からクラッチ6の連結を推定できる。
この実施例3は、実施例1に記載したステップS12でモータ3の回転速度を減速させるためにモータ3の回転方向に対し逆向きのトルクを発生させた後、初爆時のエンジン目標回転数より低い所定回転数を指令値としてモータ3を駆動する事例である。
具体的には、図5に示すように、時刻t1でモータ3の回転数指令値をAからB(但し、A>B)へ変更してモータ3を駆動する。回転数指令値Bは、初爆時のエンジン目標回転数ωe_refより低い所定回転数である。これにより、モータ3は、時刻t0(通電開始)から時刻t1まで回転数指令値Aで駆動された後、時刻t1からt2の間で減速され、それ以降(t2以降)、回転数指令値Bで駆動される。
ところで、実際のフリクションが推定したフリクションより大きいと、図6に示すように、圧縮上死点におけるエンジン回転数がモータ3の回転数指令値Bを下回ってクラッチ6が連結する場合がある。そこで、次回のエンジン始動時には、数式(7)に含まれる重み付け係数αを大きくしてフリクションTlを算出する。また、運転者のキー操作によりIG(イグニッション)がオフされた場合、すなわち、モータ制御装置4への電源供給が遮断された場合は、αを初期化する。
実施例1に記載したモータ3は、交流電圧の周波数に応じて回転速度を可変する交流モータであるが、本発明は直流モータにも適用できる。モータ制御装置4は、例えば、スイッチング素子4aのオンオフ動作をPWM制御して直流モータに印加する直流電圧を任意の電圧に変換することにより直流モータの回転速度を調整できる。
実施例1では、数式(1)〜(11)の演算をモータ制御装置4で行っているが、別のECUが演算を行っても良い。例えば、エンジンECUが演算を行い、モータ制御装置4にモータ3の速度指令値や電圧DUTY指令値を通信等で送ることにより、同様な制御が実現できる。
実施例1では、モータ制御装置4がインバータを構成する事例を説明したが、モータ制御装置4をインバータと別に構成することもできる。
3 モータ 4 モータ制御装置
5 ピニオン 6 クラッチ
8 リングギヤ
Claims (9)
- モータ(3)の回転をピニオン(5)に伝達するためのクラッチ(6)を有するスタータ(2)と、
前記モータの動作を制御するモータ制御装置(4)とを備え、
エンジンのクランク軸に連結されるリングギヤ(8)に前記ピニオンを噛み合わせ、前記モータに発生する回転力を前記ピニオンに伝達して前記リングギヤを回転させることで前記エンジンをクランキングするエンジン始動装置(1)であって、
前記モータ制御装置は、前記クランキングが開始されてから前記エンジンに蓄えられたエネルギー(Pe_t)および前記エンジンの初爆までに必要なエネルギー(Pn)を算出し、前記エンジンに蓄えられたエネルギーが前記初爆までに必要なエネルギーを上回ったときに前記モータの回転速度を減速させることを特徴とするエンジン始動装置。 - 請求項1に記載したエンジン始動装置において、
前記モータ制御装置は、前記モータへの通電を停止することで前記モータの回転速度を減速させることを特徴とするエンジン始動装置。 - 請求項1に記載したエンジン始動装置において、
前記モータ制御装置は、前記モータの回転方向に対して逆向きのトルクを発生させることで前記モータの回転速度を減速させることを特徴とするエンジン始動装置。 - 請求項1〜3のいずれか一項に記載したエンジン始動装置において、
前記モータ制御装置は、前記モータへの通電を開始した後、前記初爆までに必要なエネルギーを算出する際に、前記エンジンのフリクション(Tl)によるエネルギーロスを加味することを特徴とするエンジン始動装置。 - 請求項2に記載したエンジン始動装置において、
前記モータ制御装置は、前記モータへの通電を停止した後、前記クラッチが連結したと推定され、且つ、前記モータの回転数が所定の回転数まで低下した時に前記モータへの通電を再開することを特徴とするエンジン始動装置。 - 請求項3に記載したエンジン始動装置において、
前記モータ制御装置は、前記モータの回転方向に対して逆向きのトルクを発生させた後、初爆時の前記エンジンの目標回転数(ωe_ref)より低い所定回転数を指令値として前記モータを駆動することを特徴とするエンジン始動装置。 - 請求項6に記載したエンジン始動装置において、
前記モータ制御装置は、前記モータへの通電を開始した後、前記初爆までに必要なエネルギーを算出する際に、前記エンジンのフリクション(Tl)によるエネルギーロスを加味し、初爆より前に前記クラッチが連結したと推定される場合は、前記フリクションを算出する際に付与される重み付け係数(α)を大きくすることを特徴とするエンジン始動装置。 - 請求項1〜7のいずれか一項に記載したエンジン始動装置において、
前記モータ制御装置は、前記エンジンの運動エネルギー(Pke_e)とシリンダ内の気体エネルギー(Pc)とを合算して前記エンジンに蓄えられたエネルギーを算出し、前記シリンダ内の気体エネルギーを気圧の変化に応じて補正することを特徴とするエンジン始動装置。 - 請求項5または7に記載したエンジン始動装置において、
前記モータ制御装置は、前記モータの回転数の変化から前記クラッチが連結したと推定することを特徴とするエンジン始動装置。
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