JP3970755B2 - 分岐状ポリカーボネート樹脂 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は分岐状ポリカーボネート樹脂に関する。さらに詳しくは、色調、生産性および成形性が改善された分岐状ポリカーボネート樹脂に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、ビスフェノールA等から製造されるポリカーボネート樹脂は、透明性、耐熱性、機械特性に優れることから、幅広い用途で使用されている。しかし、該ポリカーボネート樹脂については、ブロー成形、押出成形等の用途に用いた場合、溶融張力が低いため満足な成形品が得られず、また射出成形等において転写性等を向上させるため比較的分子量の低いポリカーボネート樹脂を用いた場合には、糸引き等により満足な成形品が得られないという欠点がある。
これを解決する方法として4個の官能基を有する分岐剤を添加して得た分岐状ポリカーボネート樹脂を用いる方法が知られている。(例えば特許文献1参照)しかしながら、この方法によって得た分岐状ポリカーボネート樹脂は、確かに溶融張力は増加するものの、色調、生産性等が十分とは言えないレベルである。
【0003】
【特許文献1】
特開平11−60717号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、溶融張力や成形性が高く、また、色調や生産性に優れ、良好な成形品を効率良く生産することが可能な分岐状ポリカーボネート樹脂を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、分岐状ポリカーボネート樹脂を重合するにあたり、特定の構造を有する多価フェノールシラン化合物を分岐剤として用いることにより、上記目的を達成しうることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
即ち本発明は、以下の分岐状ポリカーボネート樹脂を提供する。
1.二価フェノール、カーボネート前駆物質、分岐剤及び末端停止剤から得られ、分岐剤が下記一般式(I)で表される化合物からなるものであることを特徴とする分岐状ポリカーボネート樹脂。
【0007】
【化3】
【0008】
(式中、R1 およびR2 は炭素数1〜8のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基を示し、nは1〜100である。)
2.一般式(I)で表される化合物からなる分岐剤を、二価フェノール1モルに対して0.0001〜4モル用いて反応させて得られたものであり、粘度数が37〜132の範囲である上記1の分岐状ポリカーボネート樹脂。
3.分岐剤が下記式(II)で表される化合物からなるものである上記1又は2に記載の分岐状ポリカーボネート樹脂。
【0009】
【化4】
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の分岐状ポリカーボネート樹脂は、二価フェノール及びカーボネート前駆物質、分岐剤及び末端停止剤から製造される。
原料の二価フェノールとしては、ハイドロキノン、4,4'−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン等やそれらのハロゲン誘導体があげられ、中でも2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)が好ましく用いられる。これらの2価フェノールは単独で用いても、2種以上併用して用いてもよい。また、2価フェノール以外の2官能性化合物(例えば、デカンジカルボン酸のような2価カルボン酸等)を上記2価フェノールと一緒に用いてもよい。
【0011】
カーボネート前駆物質としては、ホスゲン又は炭酸エステル化合物が用いられる。
炭酸エステル化合物としては、ジフェニルカーボネート等のジアリールカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネートがあげられる。これらの炭酸エステル化合物も単独で用いても、2種以上併用して用いてもよい。
【0012】
本発明は分岐剤として下記一般式(I)で表される化合物を使用するものである。
【0013】
【化5】
【0014】
(式中、R1 およびR2 は炭素数1〜8のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基を示し、nは1〜100である。)
R1 およびR2 のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが挙げられ、アリール基の例としては、フェニル基等が挙げられる。これらは、互いに同一でも、異なっていても良い。特に分岐剤として一般式(I)においてR1 およびR2 がメチル基である下記一般式(II)表されるテトラ(4−ヒドロキシフェニル−ポリメチルシロキサン)シリコンが好適に用いられる。nは好ましくは1〜50である。
【0015】
【化6】
【0016】
分岐剤の使用量は2価フェノール1モルに対して、0.0001〜4モルが好ましく、更に好ましくは0.001〜3モルである。
分岐剤が0.0001モルより少ないと分岐剤による効果が見られず、溶融張力や成形性が不十分となる。また、4モルより多いと得られるポリカーボネートの溶解性が低下し、生産上好ましくない。
【0017】
末端停止剤としては1価フェノールであればどのような構造のものでもよく、特に制限はない。例えばp−tert−ブチルフェノール、p−tert−オクチルフェノール、p−クミルフェノール、p−tert−アミルフェノール、p−ノニルフェノール、p−クレゾール、2,4,6−トリブロモフェノール、p−ブロモフェノール、4−ヒドロキシベンゾフェノン、フェノール、長鎖アルキルフェノール等が用いられる。これらの末端停止剤は単独で用いても、2種以上併用して用いてもよい。
【0018】
本発明の分岐状ポリカーボネート樹脂は、特に制限なく、上記の原料を用いて製造することができる。具体的には、例えば、2価フェノール、ホスゲン又は炭酸エステル化合物及び特定の分岐剤、その他反応に必要な成分を存在させることにより、ポリカーボネートオリゴマーを製造し、ついで、該ポリカーボネートオリゴマーと2価フェノールを反応させることが好ましく行われる。さらには、この場合、ポリカーボネートオリゴマーに末端停止剤を添加する際に、2価フェノールと同時に添加するのではなく、まず2価フェノールのみ添加してポリカーボネートオリゴマーに2価フェノールを反応させ、ついで末端停止剤を添加することが望ましい。
【0019】
すなわち、次の製造方法にて製造するのが好ましい。まずポリカーボネートオリゴマー、好ましくはクロロホーメート基を有するポリカーボネートオリゴマーを製造する。この際、末端停止剤を添加することなく、2価フェノール、カーボネート前駆物質、好ましくはホスゲン、分岐剤、及びその他反応に必要な成分を存在させることにより、ポリカーボネートオリゴマー、好ましくはクロロホーメート基を有するポリカーボネートオリゴマーを製造する。ついで、該ポリカーボネートオリゴマーと2価フェノール及び末端停止剤を反応させることが好ましい。原料である2価フェノール、カーボネート前駆物質、分岐剤及び末端停止剤のすべてを一度に投入してポリカーボネート樹脂を製造した場合、分子量は同等であっても、溶融張力が低くなるおそれがある。
【0020】
さらに好ましくは、該ポリカーボネートオリゴマーに2価フェノール及び末端停止剤を添加する際に、末端停止剤については2価フェノールと同時に添加するのではなく、まず2価フェノールのみ先に添加してポリカーボネートオリゴマーに2価フェノールを反応させ、ついで末端停止剤を添加することが望ましい。即ち、末端停止剤を添加することによりポリマーの成長は停止するが、まずポリカーボネートオリゴマーを2価フェノールと反応させることによりポリマー鎖を少し伸ばし、しかる後に末端停止剤を添加する。この方法をとることにより、分岐状ポリカーボネート樹脂全体の粘度平均分子量及び分岐剤含有率は同等でも、分岐剤から伸びる最も短い鎖がより長くなり溶融張力が増加することが期待できる。一方、末端停止剤を2価フェノールと同時に添加した場合には、分岐剤からの鎖が2価フェノールと反応して伸びる前に末端停止剤と反応してしまうため、分岐剤から伸びる鎖を長くすることが困難になり、粘度平均分子量及び分岐剤含有率が同等であっても、溶融張力が増加しないことがある。
【0021】
末端停止剤を添加する時期については、具体的には、クロロホーメート基を有するポリカーボネートオリゴマーの場合、ポリカーボネートオリゴマー中のクロロホーメート基が、加える末端停止剤の等モル量以上残存している時点において添加をすることが望ましく、クロロホーメート基がすべて2価フェノールと反応した後にならないようにするのがよい。別言すれば、2価フェノールを添加する前のポリカーボネートオリゴマーがもともと有しているクロロホーメート基のモル量を100%とした場合、残存するクロロホーメート基のモル量が60〜5モル%になった時点で末端停止剤を加えることが望ましい。
【0022】
このようにして得られる本発明の分岐状ポリカーボネート樹脂は、粘度数(VN) が30〜150のものが好ましく、37〜132のものが更に好ましい。粘度数が30未満では得られる成形品の強度が弱くなり、150より高くなると溶融粘度および溶液粘度が高くなり、取扱いが困難となる。
【0023】
また、本発明の分岐状ポリカーボネート樹脂の製造において、特性を損なわない範囲で、酸化防止剤、離型剤、耐候剤、着色剤、核剤等の各種添加剤を配合してもよい。シート分野で建材用途として用いる場合は耐候剤を配合することが望ましく、また、発泡シートでは、核剤を配合することが望ましい。
本発明の分岐状ポリカーボネート樹脂は、特定の分岐剤を使用することで、溶融張力、溶融樹脂による糸引き、樹脂の色調および生産性に優れており、優れた成形品を効率良く生産することができる。
【0024】
【実施例】
以下に、本発明を実施例及び比較例により更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
なお、ポリカーボネートの性状については、次のように測定、評価した。
(1)分岐剤量(mol%):フレークをアルカリ分解し、液体クロマトグラフィーにより求めた。
(2)粘度数(VN):ISO 1628−4に準拠して行なった。
(3)溶融張力:温度280℃、押出速度10mm/分、引取速度157mm/秒、オリフィスL/D=8/2.1で生じる張力(g)として測定した。
(4)外観:得られたポリカーボネートのフレークを280℃でプレス成形し(厚さ:3mm)、色調を目視で比較した。
(5)糸引き:得られたポリカーボネートのフレーク5グラムを280℃に加温した10mm径のシリンダー内に充填した後、L/D=10/1mmのノズルから押出し、ストランドを作製した。押出し終了時に固化したストランド部分とノズルとの間に溶融したポリカーボネートによる糸引きが生じるか否かを評価した。ここで糸引きが見られると、射出成形の際にノズル先端から糸引きが生じ、成形不良を引起し易くなる。
【0025】
実施例1
(オリゴマー合成工程)
5.6重量%水酸化ナトリウム水溶液に、後に溶解するビスフェノールAに対して2000ppmの亜二チオン酸ナトリウムを加え、これにビスフェノールA濃度が13.5重量%になるようにビスフェノールAを溶解し、ビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液を調製した。
このビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液40リットル/hrと塩化メチレン15リットル/hrおよびホスゲン4.0kg/hrを、内径6mm、管長30mの管型反応器に連続的に通した。管型反応器はジャケット部分を有しており、ジャケットに冷却水を通して反応液の温度を40℃以下に保った。
管型反応器を出た反応液は後退翼を備えた内容積40リットルのバッフル付き槽型反応器へ連続的に導入し、これに更にビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液2.8リットル/hr、25重量%水酸化ナトリウム水溶液0.07リットル/hr、水17リットル/hrおよび1重量%トリエチルアミン水溶液を0.64リットル/hrを添加して反応を行なった。
槽型反応器から溢れる反応液を連続的に抜出し、静置することで水相を分離除去し、塩化メチレン相を採取した。得られたポリカーボネートオリゴマーは濃度346g/l、クロロホーメート基濃度は0.73mol/lであった。
【0026】
(重合工程)
邪魔板、パドル型攪拌翼及び冷却用ジャケットを備えた1リットル槽型反応器に、上記オリゴマー溶液130ミリリットル、塩化メチレン95ミリリットル、トリエチルアミン53マイクロリットル、テトラ(4−ヒドロキシフェニルーポリメチルシロキサン)シリコン(HU−058B、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)315mgを仕込み、6.4重量%水酸化ナトリウム水溶液25.6gを攪拌下に添加し、20分間反応を行なった。この反応工程において反応温度が20℃以上にならないように冷却により制御した。
次いでp−tert−ブチルフェノール(末端停止剤、PTBP)889mgとビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液(NaOH:4.90gと亜二チオン酸ナトリウム16mgを水72ミリリットルに溶解した水溶液にビスフェノールA8.20gを溶解させたもの)を添加し、1時間重合反応を実施した。
希釈のため塩化メチレン600ミリリットルを加えた後、静置することでポリカーボネートを含む有機相と過剰のビスフェノールA及びNaOHを含む水相に分離し、有機相を単離した。
得られたポリカーボネートの塩化メチレン溶液を、その溶液に対し順次15容量%の0.03mol/NaOH水溶液と0.2N塩酸で洗浄し、次いで洗浄後の水相中の電気伝導度が0.01μS/m以下になるまで純水で洗浄を繰り返した。
【0027】
(フレーク化工程)
洗浄により得られたポリカーボネートの塩化メチレン溶液を濃縮・粉砕し、得られたフレークを減圧下120℃で乾燥した。得られたポリカーボネートの性状を第1表に示す。
【0028】
比較例1
実施例1において分岐剤としてα、α、α’、α’−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)−p−キシレン(TEP−TPA)を用いた他は実施例1と同様に行なった。但し、TEP−TPAは塩化メチレンへの溶解性が低いため、6.4重量%水酸化ナトリウム水溶液に溶解して添加した。
得られたポリカーボネートの性状を第1表に示す。洗浄工程で水相と有機相の分離が遅く、また水相と有機相の間に泡状の相が形成され、洗浄に多くの時間を要した。
【0029】
比較例2
実施例1において分岐剤を用いなかった以外は実施例1と同様に行なった。得られたポリカーボネートの性状を第1表に示す。
【0030】
実施例2〜4
実施例1において分岐剤、6.4重量%水酸化ナトリウム水溶液および末端停止剤(PTBP)の添加量を変えて実施例1と同様に行なった。得られたポリカーボネートの性状を第1表に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
実施例5〜8
実施例1において分岐剤、6.4重量%水酸化ナトリウム水溶液および末端停止剤(PTBP)の添加量を変えて実施例1と同様に行なった。得られたポリカーボネートの性状を第2表に示す。
【0033】
比較例3
実施例7において分岐剤を用いなかった以外は実施例7と同様に行なった。得られたポリカーボネートの性状を第2表に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
実施例9〜11
実施例1において分岐剤、6.4重量%水酸化ナトリウム水溶液および末端停止剤(PTBP)の添加量を変えて実施例1と同様に行なった。得られたポリカーボネートの性状を第3表に示す。
【0036】
比較例4
実施例7において分岐剤を約5倍量用いた以外は実施例7と同様に行なった。得られたポリカーボネートの性状を第3表に示す。重合工程の途中で塩化メチレンに難溶のゲル状物が生成し、重合工程以降の工程は実施できなかった。
【0037】
【表3】
【0038】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、分岐状ポリカーボネート樹脂を重合するにあたり、特定の構造を有する多価フェノールシラン化合物を分岐剤として用いることにより、溶融張力や成形性が高く、また、色調や生産性に優れ、良好な分岐状ポリカーボネート樹脂の成形品を効率良く生産することができる。
Claims (3)
- 一般式(I)で表される化合物からなる分岐剤を、二価フェノール1モルに対して0.0001〜4モル用いて反応させて得られたものであり、粘度数が37〜132の範囲である請求項1に記載の分岐状ポリカーボネート樹脂。
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