JP3969294B2 - 電磁誘導加熱用複合材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電磁誘導加熱用複合材に関し、さらに詳しくは、アルミニウム基材などの非磁性基材の片面に、高周波磁界により発生する誘導電流(渦電流)により発熱体となる磁性材料層が形成された、高出力が可能な電磁誘導加熱用複合材に関する。また、本発明は、高出力が可能な電磁誘導加熱用複合材からなるIH(電磁誘導加熱)ジャー炊飯器内釜などの電磁誘導加熱用調理器具に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の電気炊飯器は、ヒーターの熱を内釜に伝えて、中の米に熱を加える方式のものであったが、最近では、ヒーターを使用せずに、内釜自体を発熱させる電磁誘導加熱方式のIHジャー炊飯器が普及してきている。発熱体となる内釜は、一般に、アルミニウム層(内側)とステンレス層(外側)の二重構造となっている。このIHジャー炊飯器では、内釜の下にコイルが設けられている。このコイルに、周波数が約20〜40KHz程度となるように、インバーター回路中でスイッチのON/OFFを繰り返して、電流を断続的に流すと、スイッチのON時にはコイルの周囲に磁界が発生し、OFF時には消失するため、コイルの回りに磁力線が断続的に発生する。この磁力線の数(磁束)の変化に誘起されて、渦電流がステンレス層に発生する。ステンレスは、電気抵抗値が大きいため、ステンレス層には電流はわずかしか流れず、電気エネルギーのほとんどは熱に変換される。この熱は、熱伝導性の良いアルミニウム層を伝わって、内釜の全体に伝えられる。
【0003】
従来より、IHジャー炊飯器内釜や電磁調理器用鍋などの電磁誘導加熱用調理器具は、発熱を受け持つ鉄、ステンレスなどの磁性金属板と導熱を受け持つアルミニウム板とからなる複合材を、所定形状に打ち抜き加工した後、アルミニウム板を内側として深絞り等のプレス成形加工をすることにより製造されている。アルミニウム層側の表面(容器内面側に相当)には、炊飯等のこびりつきを防止するために、通常、フッ素樹脂被覆層が設けられている。このような複合材は、一般に、ロール圧延によって、磁性金属板とアルミニウム板とを複合化(クラッド化)することにより製造されている。
【0004】
しかしながら、このようなクラッド法による複合材は、(1)アルミニウム板を圧縮して接合するため、板厚のバラツキが大きく、このため、プレス成形加工時に割れやしわが発生しやすい、(2)複合材を所定形状に打ち抜き加工する際に多量に発生する打ち抜きしろも複合材であって、金属または合金の単独材ではないため、リサイクルが不可能である、(3)磁性金属板を発熱に必要な部分にのみ配置した複合材の製造が困難である、といった問題を抱えていた。
【0005】
これに対して、本発明者らは、アルミニウム基材などの非磁性基材の片面に、メッキにより磁性材料層を形成した電磁誘導加熱用複合材を提案している。例えば、(1)アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム基材と、(2)前記基材の片面の少なくとも一部に形成された亜鉛または亜鉛合金からなる中間層と、(3)前記中間層の上に形成された高周波の磁束により発生する渦電流が流れることにより発熱体となる導電層とを備えた電磁加熱用金属板を発明し、提案している(例えば、特許文献1参照。)。この導電層は、ニッケル、ニッケル合金、鉄、鉄合金、コバルト、コバルト合金などの磁性材料から形成し、より具体的には、これらの金属イオンを含有する溶液から電気化学的転化法(即ち、電気メッキ、無電解メッキなどのメッキ法)により形成しいる。中間層は、メッキ膜の密着性を高めるために、アルミニウム基材上に形成している。
【0006】
このような非磁性基材の片面に磁性メッキ層が形成された電磁誘導加熱用複合材は、(1)圧縮によるクラッド化工程を必要としないため、アルミニウム基材のプレス成形加工時に割れやしわが発生しない、(2)アルミニウム基材を単独で打ち抜き加工するため、打ち抜きしろの再利用が可能である、(3)アルミニウム基材を所望の形状にプレス成形加工した後、必要な部分に磁性メッキ層を形成することができる、といった利点がある。
【0007】
IHジャー炊飯器は、内釜の容量が大きいため、大きな発熱量を必要としている。一方、電磁誘導加熱用複合材や調理器具において、磁性メッキ層などの磁性材料層をできるだけ薄くすることが求められている。その理由のひとつは、Ni−Fe合金などの磁性材料が高価なため、磁性材料層の厚みを小さくすることがコスト削減に有効だからである。また、磁性材料層を電気メッキ法により形成する場合、その厚みは、電流密度とメッキ時間との積に比例するが、磁性メッキ層の厚みを薄くすることができれば、同一の電流密度でもメッキ時間を短縮することができるため、この点でも、生産性向上とコスト削減を図ることができる。他の理由としては、磁性材料層を薄くすることにより、省エネルギー化を達成できることを挙げることができる。より詳細には、電磁誘導加熱方式では、磁性材料層が発熱し、この熱が熱伝導性の良いアルミニウム層に伝わり、それによって、容器内容物が加熱される。したがって、磁性材料層が薄いほど、発生した熱がアルミニウム層に効率よく伝達され、小さなエネルギーでの加熱が可能となる。
【0008】
また、少なくともニッケルと鉄とを有し、膜厚を10〜100μmとした電磁誘導加熱用合金メッキ膜を、非磁性基材などのメッキ可能な基材上に形成した電磁誘導加熱用合金メッキ材が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この公報に開示された方法のみでは、十分な出力を得ることができない。すなわち、磁性メッキ層などの磁性材料層を薄くすると、電磁誘導加熱による出力が低下する。出力が小さな内釜を使用すると、発熱量が小さくなり、炊飯時、米が生煮えとなったり、飯に芯が残ったりする。
【0009】
一方、無理に高発熱を得ようとすれば、エネルギーの入力を大きくすれば不可能ではないが、電気回路に過負荷がかかり、回路の損傷を起こす可能性が高い。また、回路の工夫でそれがカバーできたとしても、エネルギーのロスが大きく、エネルギー変換効率を改善することができない。
【0010】
【特許文献1】
特開平8−191758号公報 (第1−2頁)
【特許文献2】
特開平9−157886号公報 (第1−2頁)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記問題を解決し、真のメッキ薄膜化を図ることである。すなわち、本発明の目的は、非磁性基材の片面の少なくとも一部に磁性材料層が形成された電磁誘導加熱用複合材において、磁性材料層などの発熱体層を薄くしても高出力が可能な電磁誘導加熱用複合材を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、このような高出力が可能な電磁誘導加熱用複合材により形成された電磁誘導加熱用調理器具を提供することにある。
【0013】
本発明者は、前記従来技術の問題点を克服するために鋭意研究した結果、非磁性基材の片面の少なくとも一部に磁性材料層が形成された電磁誘導加熱用複合材において、透磁率が高い合金からなる磁性材料層と、該磁性材料よりも電気抵抗率が低い金属材料(但し、Cuを除く)からなる金属材料層とを、交互に少なくとも2組形成することにより、磁性材料層と金属材料層とからなる発熱体層の合計膜厚を薄くしても、高出力が可能な電磁誘導加熱用複合材の得られることを見いだした。本発明は、その知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、非磁性基材の片面の少なくとも一部に、透磁率が高い合金からなる磁性材料層と、該磁性材料よりも電気抵抗率が低い金属材料(但し、Cuを除く)からなる金属材料層とが、交互に少なくとも2組形成されていることを特徴とする電磁誘導加熱用複合材が提供される。
【0015】
また、本発明によれば、非磁性基材からなる容器の外面の少なくとも一部に、透磁率が高い合金からなる磁性材料層と、該磁性材料よりも電気抵抗率が低い金属材料(但し、Cuを除く)からなる金属材料層とが、交互に少なくとも2組形成されていることを特徴とする電磁誘導加熱用調理器具が提供される。
【0016】
【発明の実施の形態】
非磁性基材上に、磁性材料層と、該磁性材料よりも電気抵抗率が低い金属材料層を2組以上形成することにより、高出力が可能な電磁誘導加熱用複合材が得られる機構は、現段階では、必ずしも全面的には明らかではないが、本発明者は、次のように考えている。
【0017】
電磁誘導加熱用調理器具では、外部に置かれたコイルに高周波電流を断続的に流して高周波磁界を発生させ、それにより、調理器具自体に誘導電流を発生させて、発熱させている。このような電磁誘導加熱用調理具の発熱体層は、高周波磁界に鎖交して誘導電流を発生する必要があるため、磁性材料から形成されることが必須の条件である。外部の高周波磁界に対し、発熱体層のうちで磁化されるのは、その表面から式(1)で表される深さ(t)の箇所であることが知られている。
【0018】
【数1】
【0019】
(μ=透磁率〔H/m〕、c=導電率〔s/m〕、f=周波数〔Hz〕)
すなわち、電磁誘導加熱において、発熱体層は、その表面から深さ(t)の箇所で主に発熱することになる。したがって、高出力を維持しながら発熱体層を薄くするには、この深さ(t)をできるだけ小さくする必要がある。周波数(f)は、電磁誘導加熱に使用する機器の種類によって決まるものであるから、この深さ(t)をできるだけ小さくするには、透磁率(μ)と導電率(c)とをできるだけ大きくすればよい。
【0020】
磁性金属単体の透磁率は、一般に、合金化することにより大きく向上することが知られている。磁性合金の中でも有名なのが、NiにFeを固溶させたパーマロイと呼ばれる高透磁率の合金である。ところが、固溶体のような合金では、いずれかの成分が単独の場合よりも大きい電気抵抗率を示し、導電率が低下する。そのため、透磁率と導電率が共に高い磁性材料を得るのは困難である。
【0021】
これに対して、透磁率が高い合金などからなる磁性材料層の上に、該磁性材料よりも電気抵抗率が低い(即ち、導電率が高い)金属材料層を形成すると、磁性材料層の高透磁率と金属材料層の高導電率とが組み合わされるため、これら各層からなる発熱体層の厚みを薄くしても、高出力が可能な電磁誘導加熱用複合材を得ることができる。
【0022】
本発明は、透磁率が高く磁性材料として優れていても、導電率が低いため発熱難となる磁性材料の難点を克服する技術である。このような透磁率の特に高い材料としては、パーマロイと呼ばれるNi−Fe合金、さらにスーパーマロイと呼ばれるNi−Fe合金にMo、Cr、Cuなどを添加した合金、センダストと呼ばれるFe−Si−Al合金、ケイ素鋼板が好ましい。他にも、透磁率の高い材料があれば、これらに限定されるものではない。
【0023】
磁性材料層を形成する磁性材料としては、特に限定されず、例えば、ニッケル(Ni)、ニッケル合金、鉄(Fe)、鉄合金、コバルト(Co)、コバルト合金などが挙げられる。本発明では、これらの中でも、高透磁率である点で、各種合金が用いられ、具体例としては、Ni−Fe合金、Ni−Co合金などが挙げられる。これらの中でも、生産性の点から、Ni−Fe合金(パーマロイ)が特に好ましい。これらの金属または合金に各種元素を添加した合金も使用することができる。このような元素としては、例えば、燐(P)、炭素(C)、及びホウ素(B)などを挙げることができる。これらの元素を磁性材料層中に分散させることにより、電磁誘導加熱したときの「固有抵抗/浸透深さ」の比で表される表皮抵抗を高めて、発熱量を高めることができる(特開平8−191758号公報)。これらの元素は、磁性材料層中に分散させるが、実質的には、例えば、Ni−P合金、Ni−B合金、Ni−C合金、Fe−C合金、Fe−B合金などの合金を形成していると推定される。
【0024】
金属材料層を形成する金属材料としては、磁性材料層に使用する磁性材料よりも電気抵抗率が低い金属材料(但し、Cuを除く)が用いられる。このような金属材料としては、前記磁性材料と同じものであってもよい。ただし、金属材料層に使用する金属材料は、磁性材料層に用いる磁性材料よりも、相対的に電気抵抗率が小さいものであることが必要である。これらの中でも、低電気抵抗率の点で、Ag、Al、Au、Co、Fe、Mg、Niなどの金属単体が好ましく、耐食性やコスト、生産性の点から、Niが特に好ましい。
【0025】
磁性材料層及び金属材料層は、メッキ、溶射、スパッタ、圧延のいずれの方法で形成してもよい。これらのなかでも、メッキ法(電気メッキ、無電解メッキなど)を採用すると、非磁性基材上に所望の厚みの各層を順次に形成することができるので好ましい。メッキ法では、金属イオンを含有する溶液からの電気化学的転化により、磁性材料層及び金属材料層を形成する。メッキ法で使用するメッキ浴の組成やメッキ処理条件などは、適宜、所望に応じて選択することができる。例えば、Ni−Fe合金層をメッキ法により形成するには、NiイオンとFeイオンを含有するメッキ浴を用い、電流の印加を高電流と低電流とに調整して行うことにより、所望の原子比を有する極めて薄いNi−Fe合金メッキ層を容易に形成することができる。
【0026】
磁性材料層の厚みは、特に限定されないが、熱伝導性と経済性とのバランス等の観点からみて、通常、10〜200μm、好ましくは30〜150μm程度である。発熱体の大幅な薄膜化を図るには、多くの場合、磁性材料層の膜厚を30〜100μm程度、さらには30〜70μm程度とすることにより、良好な結果を得ることができる。なお、磁性材料層は、1層としてだけではなく、所望により2層以上の多層に形成してもよい。多層に形成する場合は、各層の合金組成が異なっていてもよい。磁性材料層と金属材料層とは、非磁性基材上に、この順に交互に形成する。
【0027】
「磁性材料層/金属材料層」を1組とすると、磁性材料層と金属材料層とを2組以上の多層に形成する。この場合、磁界の発生源であるコイルに近い方、すなわち、最外面に磁性材料層より低電気抵抗の金属材料層が配置されることが好ましい。すなわち、磁界に近接する磁性材料層の表面近傍に渦電流が集中するため、低電気抵抗の金属材料層は渦電流の発生する表面層に接触させることにより、効率よく機能する。
【0028】
作業性や生産性の観点から、通常、2〜20組、好ましくは2〜10組程度の範囲内で形成するが、所望により、それ以上の多層で形成してもよい。多層中の各磁性材料層及び金属材料層の厚みは、0.1〜20μmの範囲で適宜の組み合わせが可能であり、全体としての厚みを、通常10〜200μm、好ましくは30〜150μm、より好ましくは30〜70μmの範囲にすればよい。磁性材料層と金属材料層とを形成する順番は、特に限定されないが、多くの場合、非磁性基材上に、「磁性材料層/金属材料層」をこの順で交互に2組以上形成することが発熱特性の点で好ましい。
【0029】
金属材料層の厚みは、特に限定されないが、磁性材料層と組み合わせて薄膜化を達成するには、通常、1〜30μm、好ましくは3〜25μm、より好ましくは5〜20μm程度とする。金属材料層は、1層としてだけではなく、所望により2層以上の多層に形成してもよい。多層に形成する場合は、各層の成分組成が異なっていてもよい。磁性材料層と金属材料層とを2組以上の多層に形成する場合、各金属材料層の厚みは任意であり、好ましくは0.1〜20μmの範囲から選択され、その全体の厚みを1〜30μmの範囲内にすることがより好ましい。また、「磁性材料層/金属材料層」の各組及び全体の磁性材料層と金属材料層との厚みの比は、通常、2:1〜15:1の範囲とすることが好ましい。
【0030】
本発明で使用する非磁性基材としては、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム基材、非磁性ステンレス基材等の各種の非磁性金属材料が任意に用いられ、また、セラミック基材、ガラス基材などを使用することができる。これらのなかでも、熱伝導性や加工性などの点で、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム基材が好ましい。IHジャー炊飯器の内釜の用途には、アルミニウム基材が特に好ましい。非磁性基材の厚みは、強度、熱伝導性、用途などに応じて、適宜定めることができるが、通常、0.5〜5mm程度である。
【0031】
非磁性基材の片面には、常法に従って、フッ素樹脂被覆層を形成して、非粘着性とすることができる。非磁性基材を容器の形状に成形する場合には、その内側の面にフッ素樹脂被覆層を形成する。フッ素樹脂被覆層は、非磁性基材を容器の形状に成形してから、その内側の表面に形成してもよいし、あるいは、アルミニウム基材などの場合には、フラットな板材(例えば、サークル板)の形状でフッ素樹脂被覆層を形成してから容器の形状にプレス成形加工してもよい。フッ素樹脂被覆層の厚みは、特に限定されないが、熱伝導性の観点から、通常5〜100μm、好ましくは10〜60μm程度とすることが望ましい。フッ素樹脂としては、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などを単独またはブレンド若しくは積層して用いることができる。
【0032】
非磁性基材の他面(容器の外側表面)に形成する磁性材料層と金属材料層とからなる発熱体層は、必ずしも全面に形成する必要はなく、例えば、IHジャー炊飯器の内釜として使用する場合は、コイルが配置されている底部領域(底面や底面から立ち上がる外側壁面の下部)にのみこれら各層を形成することができる。磁性材料層及び金属材料層は、非磁性基材を容器の形状に成形してから、その外側の表面にメッキ法により形成してもよいし、あるいは、アルミニウム基材などの場合は、フラットな板材(例えば、サークル板)の形状で、その片面にこれら各層を形成してから容器の形状にプレス成形加工してもよい。また、磁性材料層を底部領域のみに形成して、金属材料層を全面に形成してもよい。あるいは、その逆のパターンの組み合わせも可能である。
【0033】
非磁性基材としてアルミニウム基材を用いる場合は、その表面が酸化アルミニウムを主成分とする層で覆われているため、そのままでは磁性材料層との密着性に劣る場合がある。そのため、ジンケート処理により、アルミニウム基材の表面に亜鉛または亜鉛合金(鉄、ニッケル、コバルトなどとの合金)からなる中間層(亜鉛置換メッキ処理層など)を形成して、密着性を高めることができる。
【0034】
本発明の電磁誘導加熱用複合材をジャー炊飯器内釜などの用途に使用する場合には、耐食性を向上させるために、発熱体層の上に、クロムメッキ、ニッケルメッキ、クロメート処理被膜、亜鉛メッキ被膜などの耐食性金属被膜を形成することができる。発熱体層の上に、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂などの耐熱性樹脂の被覆層を形成することもできる。これらの耐食性金属被膜や耐熱性樹脂被覆層は、耐食層となる。特に、鉄(Fe)などの腐食性の金属層が発熱体層の最外層に配置される場合には、最外層を耐食層により被覆することが耐久性の観点から好ましい。
【0035】
本発明の電磁誘導加熱用複合材は、図1に示すように、非磁性基材1の片面に磁性材料層2を形成し、さらにその上に金属材料層3を形成した基本的な層構成を有しており、非磁性基材の他方の面には、フッ素樹脂層4などの非粘着層を形成することができる。また、金属材料層3の上には、耐食層を形成してもよい。基本的な層構成として、「アルミニウム基材/高透磁率の磁性材料層/低電気抵抗率の金属材料層」を有する電磁誘導加熱用複合材が好ましく、「アルミニウム基材/Ni−Fe合金層/Ni層」を有する電磁誘導加熱用複合材が特に好ましい。本発明の電磁誘導加熱用複合材は、図2に示すように、非磁性基材1の片面に磁性材料層2と金属材料層3を、交互に2組以上形成する。すなわち、「Ni−Fe合金層/Ni層」などの「高透磁率の磁性材料層/低電気抵抗率の金属材料層」を交互に2組以上形成する。本発明の電磁誘導加熱用複合材は、IHジャー炊飯器の内釜や電磁調理器用鍋などの電磁誘導加熱用調理器具の用途に好適である。
【0036】
【実施例】
以下に、参考例、実施例及び比較例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。
【0037】
[参考例1]
アルミニウム板〔材質=JIS3004系アルミニウム合金、厚み=2.4mm、100mm角〕に、NaCl水溶液中で電解エッチングを施し、その表面に微細な凹凸を設けた。その片面に、四フッ化エチレン樹脂分散液を塗布し、焼き付けて、四フッ化エチレン樹脂被覆層(厚み20μm)を形成した。
【0038】
このフッ素樹脂被覆アルミニウム板を、120g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に80℃で浸漬処理した後、AZ102(上村工業社製)の50g/Lの60℃水溶液に浸漬し、水洗後、ジスマッターAZ−201(上村工業社製)100g/L+硝酸800ml/Lを用いて、室温で処理を実施した。次いで、ジンケート処理を、AZ401(上村工業社製)を用いて行い、厚み0.1μmのジンケート層を形成した。
【0039】
上記で調製したアルミニウム基材を下記組成(1)の電気メッキ浴に浸漬し、窒素ガスバブリング中、浴温60℃、陰極電流密度20A/dm2の条件下で電気メッキ処理を行い、その片面に厚み40μmのNi−Fe(Fe=20%)合金メッキ層を形成した。
【0040】
<電気メッキ浴組成(1)>
硫酸ニッケル6水和物:100g/L
塩化ニッケル6水和物: 60g/L
硫酸鉄7水和物 : 10g/L
グルコン酸ナトリウム: 10g/L
ほう酸 : 30g/L
サッカリン : 4g/L
pH : 3.0
【0041】
次に、上記で調製したNi−Fe合金メッキ層を形成したアルミニウム基材を下記組成(2)のメッキ浴に浸漬し、窒素ガスバブリング中、浴温60℃、陰極電流密度20A/dm2の条件下で電気メッキ処理を行い、その片面に厚み10μmのNiメッキ層を形成した。
【0042】
<電気メッキ浴組成(2)>
硫酸ニッケル6水和物:100g/L
塩化ニッケル6水和物: 60g/L
ほう酸 : 40g/L
サッカリン : 4g/L
pH : 4.0
このようにして、図1に示す層構成の電磁誘導加熱用複合材を作製した。
【0043】
[実施例1]
参考例1と同様の方法で、アルミニウム基材の片面に厚み9μmのNi−Fe合金メッキ層を形成し、その上に厚み1μmのNiメッキ層を形成し、この1組の操作を5回繰り返すことにより、図2に示す層構成の電磁誘導加熱用複合材を作製した。
【0044】
[比較例1]
参考例1において、Ni−Fe合金メッキ層の厚みを50μmとし、Niメッキ層を形成しなかったこと以外は、参考例1と同様にして、図3に示す層構成の電磁誘導加熱用複合材を作製した。
【0045】
[比較例2]
参考例1において、Niメッキ層の厚みを50μmとし、Ni−Fe合金メッキ層を形成しなかったこと以外は、参考例1と同様にして、図4に示す層構成の電磁誘導加熱用複合材を作製した。
【0046】
[比較例3]
比較例1において、Ni−Fe合金の組成をFe=20%からFe=15%に変えたこと以外は、比較例1と同様にして、図3に示す層構成の電磁誘導加熱用複合材を作製した。
【0047】
〔発熱特性〕
参考例1、実施例1及び比較例1〜3で得られた各電磁誘導加熱用複合材を、そのメッキ層の面を下にして、電磁誘導加熱調理器KZ−P2〔松下電器産業(株)製〕上に載して出力最大で加熱した。その際の表面温度を測定した。ところが、加熱の途中でセンサーが作動し、操作パネル上の通電停止を表すランプが点滅し、表面温度は一定に保持された。そこで、センサー作動までの時間及びセンサー作動時の表面温度を測定した。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
本発明の各電磁誘導加熱用複合材(実施例1)は、センサー作動時までに115℃の温度に加熱することができた。これに対して、磁性材料層が単層の場合(比較例1及び3)は、15〜24秒でセンサーが作動し、60℃以上の温度に昇温することができなかった。金属材料層が単層の場合(比較例2)は、センサーが直ちに作動し、昇温することができなかった。
【0050】
[参考例2]
アルミニウム板〔材質=JIS3004系アルミニウム合金、厚み=1.5mm、直径=525mmφのサークル板〕に電解エッチングを施し、その表面に微細な凹凸を設けた。その片面に四フッ化エチレン樹脂分散液を塗布し、焼き付けて、四フッ化エチレン樹脂被覆層(厚み20μm)を形成した。このフッ素樹脂被覆板を油圧プレスを用いて、市販のIHジャー炊飯器に備えつけることができる1升炊き用の内釜状にプレス成形加工した。プレス成形加工により得られた内釜状成形物の外側の底部を120g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に80℃で処理した後、亜鉛置換メッキ(厚み0.1μm)処理を施した。
【0051】
次いで、参考例1に記載の組成(1)のNi−Fe合金メッキ浴を使用し、窒素ガスバブリング中、浴温60℃、陰極電流密度20A/dm2の条件下で電気メッキ処理を行い、前記内釜状成形物の外側の底部の亜鉛メッキ層の上に、厚み40μmのNi−Fe合金(Fe=20%)メッキ層を形成した。さらにその上に、参考例1に記載の組成(2)の電気メッキ浴を使用し、窒素ガスバブリング中、浴温60℃、陰極電流密度20A/dm2の条件下で電気メッキ処理を行い、Ni−Fe合金メッキ層の上に、厚み10μmのNiメッキ層を形成した。
このようにして得られた内釜を市販のIHジャー炊飯器にセットし、米の炊飯実験を行ったところ、生煮えや芯のない、良好な炊飯状態の飯を炊くことができた。
【0052】
【発明の効果】
本発明によれば、非磁性基材の片面の少なくとも一部に磁性材料層が形成された電磁誘導加熱用複合材において、透磁率が高い合金からなる磁性材料層と、該磁性材料よりも電気抵抗率が低い金属材料(但し、Cuを除く)からなる金属材料層とを交互に少なくとも2組形成することにより、磁性材料層などの発熱体層を薄くしても、高出力が可能な電磁誘導加熱用複合材が提供される。また、本発明によれば、このような高出力が可能な電磁誘導加熱用複合材により形成された電磁誘導加熱用調理器具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 電磁誘導加熱用複合材の層構成の一例を示す断面略図である。
【図2】 本発明の電磁誘導加熱用複合材の層構成の一例を示す断面略図である。
【図3】 比較例の電磁誘導加熱用複合材の層構成を示す断面略図である。
【図4】 他の比較例の電磁誘導加熱用複合材の層構成を示す断面略図である。
【符号の説明】
1:非磁性基材
2:透磁率が高い合金からなる磁性材料層
3:低電気抵抗率の金属材料層
4:フッ素樹脂被覆層
Claims (7)
- 非磁性基材の片面の少なくとも一部に、透磁率が高い合金からなる磁性材料層と、該磁性材料よりも電気抵抗率が低い金属材料(但し、Cuを除く)からなる金属材料層とが、交互に少なくとも2組形成されていることを特徴とする電磁誘導加熱用複合材。
- 非磁性基材の片面の少なくとも一部に、磁性材料層が形成され、該磁性材料層の上に、該磁性材料よりも電気抵抗率が低い金属材料層が形成されている請求項1記載の電磁誘導加熱用複合材。
- 非磁性基材がアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム基材であり、磁性材料層がNi−Fe合金層であり、かつ、金属材料層がNi層である請求項1または2に記載の電磁誘導加熱用複合材。
- 磁性材料層及び金属材料層が、それぞれメッキ層である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の電磁誘導加熱用複合材。
- 非磁性基材と磁性材料層または金属材料層との間に、亜鉛または亜鉛合金からなる中間層が付加的に形成されている請求項1ないし4のいずれか1項に記載の電磁誘導加熱用複合材。
- 非磁性基材の片面の少なくとも一部に、磁性材料層と金属材料層とが、交互に少なくとも2組形成され、かつ、最外層が耐食層により被覆されている請求項1ないし5のいずれか1項に記載の電磁誘導加熱用複合材。
- 非磁性基材からなる容器の外面の少なくとも一部に、透磁率が高い合金からなる磁性材料層と、該磁性材料よりも電気抵抗率が低い金属材料(但し、Cuを除く)からなる金属材料層とが、交互に少なくとも2組形成されていることを特徴とする電磁誘導加熱用調理器具。
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