JP4013702B2 - 調理用鍋 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、一般家庭及び業務用に使用される調理鍋に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
現在、広く世間一般に市販されている調理用鍋は、アルミニウムやステンレス単体、あるいはこれら金属の合わせ材からなることが多いが、熱伝導性が良好であることから銅を基材とした調理用鍋も盛んに使用されている。基材を銅とした場合、食品衛生上、通常は内面に錫鍍金が処理されており、外面は酸化防止剤を塗布するのみの場合もあるが、通常は酸化防止や外観性向上目的で、耐熱性の高いアクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂または、セラミック系の透明コーティングが処理されていることが多い。
【0003】
また、電磁誘導加熱調理器に使用可能とした調理鍋の中には、外観品位の向上や電磁誘導加熱効率の向上を目的に、フェライト系ステンレス等の磁性金属の外面に銅鍍金を施し、その上にクリアコート処理し、調理時の熱による銅の酸化を防止しているものもある。
【0004】
典型的的なものは、内面がフッ素樹脂コーティングで覆われ、その下層に熱伝導が良好なアルミニウムを配し、そして、その外面、つまり、鍋の最外面にはフェライト系ステンレス、鉄、パーマロイ等の磁性金属層を設け、この磁性金属層に銅鍍金を処理した、電磁誘導加熱式の炊飯器用鍋等である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の銅を基材に用いる、あるいは基材金属上に銅鍍金等の手法により銅の層を調理鍋外面に用いた構成では、調理時の熱により銅が酸化によって変色しまい、また、例えクリアコート等の塗装処理を銅表面にしていても、銅の酸化は完全には防止できず、調理を長期間繰り返すと銅と塗膜との間に酸化膜が成長し、ついには塗装が剥離してしまう現象が生じる。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明は、銅と他種金属との合わせ材を調理鍋の基材とし、銅の金属色が完全に失われない範囲の厚さで銅以外の金属薄膜層を鍍金や蒸着といった手法を用いて外面を構成する銅の表面に設けたものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
請求項1記載の発明によれば、銅の表面に銅以外の金属薄膜層を銅の色調が失われない厚さ分上層することにより、銅の意匠性は失われることなく、実使用においては銅が酸化しにくくなり、銅の酸化による変色を抑制することができる。
【0008】
銅の表面に上層される銅以外の金属薄膜層は銅の色調、光沢を隠蔽しない厚さとする必要があるが、この厚さ範囲は金属薄膜層の種類にもよるが、概ね5nm〜40nmであり、5nm以下では銅の色調がほぼ完全に保存されるが、酸化防止効果はさほど期待できない。一方、40nm以上では銅の酸化防止効果が高い反面、銅を隠蔽してしまい、上層される金属の色調となってしまう他、電磁誘導加熱を行う調理鍋では加熱性能や電気特性に悪影響を及ぼしかねない。
【0009】
また、金属薄膜層は調理鍋外面全体に略均一に処理してもよいが、調理時に加熱が強い部分のみに処理してもよいし、加熱が比較的弱い部位には加熱部位よりも薄めに処理することも可能である。
【0010】
なお、銅は純銅の他、真鍮や丹銅などの合金系のものであっても何ら問題はない。
【0011】
請求項1記載の発明によれば、銅の外面に設けられる金属薄膜層のさらに外面に樹脂コーティングを塗装してなることを特徴とした調理用鍋であり、特に樹脂コーティングを無色透明のクリアコーティングとすれば、銅独特の色調を保ったままにすることができ、銅の酸化を抑制可能であるとともに、樹脂コーティングにガスバリア性が高く、酸素を遮断する能力が高いものを使用すれば、銅の酸化防止効果は一段と向上する結果、樹脂コーティングの耐久性も向上する。
【0012】
請求項1記載の発明は、基材にフェライト系ステンレス等の磁性金属あるいは磁性金属とアルミニウム等の熱良導性金属の合わせ材を用い、その外面に銅薄膜を設けたことを特徴とする調理用鍋であり、この構成により電磁誘導可能でしかも高効率の発熱が得られる。
【0013】
一般的に、電磁誘導加熱を行なう場合、電磁誘導加熱用の調理鍋の発熱部には表皮電気抵抗値の高い金属材料を使用するのが普通である。例えば、代表的なフェライト系ステンレスの430ステンレスでは、25kHzの高周波電流を誘導コイルに流すと、表皮電気抵抗値が23.3*10−4Ω、鉄では9.4*10−4Ωと高く電磁誘導加熱に適していると言える。一方、銅は0.39*10−4と低く、通常は電磁誘導加熱には適さない材料である。そのため、通常、非磁性金属に磁界を作用させた場合、非磁性金属に反抗磁界が生じ反抗電流が流れて、磁界は非磁性金属を通過できず、電磁誘導加熱による発熱作用は期待できない。
【0014】
しかしながら、これらの非磁性金属層も厚みを薄くしていくと、ついには表皮抵抗が上昇し、電磁誘導加熱可能となる。即ち、これは、非磁性金属層である銅も十分に薄いと、表皮抵抗が高くなるために反抗磁界が生じにくくなり、磁界が非磁性金属を通過しやすくなる。その通過した磁界により磁性金属にも渦電流が生じ、銅とステンレス等の磁性金属層の両方が共に発熱するものである。本発明はこの現象を利用したものであり、銅と磁性金属層の組み合わせによって、非磁性金属である銅が鍋外面にあっても、単なる磁性金属層単層の場合に比べて、より効率よく発熱し、炊飯が可能となるものである。
【0015】
これは、磁性金属と銅の総発熱量を検証し、磁性金属単独で発熱させる場合よりも高い発熱量が得られる銅の厚さを詳細に検討した上で、最適な厚さの銅を鍍金等の手法により略均一に磁性金属層の外面に配し、従来よりも効率の良い発熱を得る事ができる、つまり、銅の厚さを詳細に検証し、磁性金属単体時よりも高い発熱を得るという効果を奏するものである。
【0016】
こうして高い発熱を得た調理鍋では、特に電磁誘導で発熱する部位の銅の酸化が激しいため、銅層に異種の金属薄層を鍍金や蒸着等の手法により上層し、これにより銅の酸化を抑制可能であるとともに、さらにその上に塗装する樹脂コート層の耐久性を向上することができる。
【0017】
請求項2記載の発明によれば、基材金属外面の銅層は銅鍍金処理されることによって得られることを特徴とする請求項1記載の調理用鍋であり、鍍金により比較的均一な銅の金属薄膜層を形成することができ、これにより、特に電磁誘導加熱時に安定した発熱が得られるほか、光沢剤を添加した銅鍍金を処理すれば、表面光沢に優れた調理鍋となる。なお、銅鍍金は真鍮等の銅合金系の鍍金であっても何ら問題はない。
【0018】
請求項3記載の発明は、銅の外面に設けられる金属薄膜層は鍍金あるいは蒸着により形成されることを特徴とする請求項1〜2記載の調理用鍋であり、金属薄膜層を電気鍍金や無電解鍍金により形成したり、化学的気層法(CVD)や真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリングに代表される物理蒸着(PVD)により形成することにより、極めて薄い金属薄膜を正確な厚さで銅に上層できる。
【0019】
請求項4記載の発明は、銅の表面に処理される金属薄膜層はクロム、ニッケル、銀、金、亜鉛、錫、アルミニウム、チタン、あるいはこれらの各種合金により設けられたことを特徴とする調理用鍋であり、これらの金属薄膜を銅表面に上層することにより銅の酸化を抑制し、樹脂コートとの密着性を高く維持できる。
【0020】
【実施例】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
(実施例1)
図1は電磁誘導加熱により鍋9を加熱し炊飯する方式の1.8L炊飯用の炊飯器であり、電磁誘導加熱コイル1、フェライト2、鍋底温度検知センサ3、加熱制御基板4、基板冷却ファン5、操作部6、加熱板7、蒸気キャップ8、及び本体に着脱自在に備えられる鍋9を主な構成部品とし、鍋内に米及び水を適量加えた後、炊飯及び保温工程を実行するが、この工程はマイクロコンピュータによるプログラム制御により実行される。
【0022】
鍋9は、1mm厚のアルミニウム10、0.8mm厚のフェライト系ステンレス11、クラッド材をプレス成形して得られるものであり、内面は非粘着性の高いフッ素樹脂コーティング13をアルミニウム上に処理している。磁性金属であるフェライト系ステンレス11の外面には光沢硫酸銅メッキが厚さ5μmで処理されており、この銅12はフェライト系ステンレスとともに電磁誘導加熱の発熱層を形成している。
【0023】
また、本実施例では電磁誘導加熱することを考慮し、鍋の金属層素材として、フェライト系ステンレスを用いたが、材料はこれに限定されるものではなく、電磁誘導可能な材質であればいかなる材料でも応用可能であるし、電磁誘導しない用途であれば必ずしも磁性金属は必要とされるものでもない。
【0024】
また、本実施例において、電磁誘導加熱コイルには炊飯中に25kHzの高周波電流が流れるが、このとき誘導コイルより発生する磁力線は鍋の誘導発熱部である銅及びフェライト系ステンレス層に進入する際に渦電流を生じ、鍋が発熱する仕組みであり、この熱によって炊飯工程が遂行され、ご飯が調理される。
【0025】
本実施例では、25kHzの高周波電流を用いたが、状況によってこの周波数を変更することは任意であるし、また、それに応じて銅の厚みを変えることも任意である。
【0026】
また、電磁誘導発熱部の銅の厚みを、磁性金属単独で用いる場合よりも高い発熱量が得られるようになる銅厚さを検討した結果、本実施例では5μm付近に発熱量の極大値を有することを見出しため、厚さ5μmの銅を鍋外面に処理した。
【0027】
本実施例の鍋において、銅メッキ層外面には鍋全体に略均一厚さでニッケル鍍金による金属薄膜層が処理されているが、このニッケル層は以下のごとき組成の塩化ニッケル浴を用いた電解ニッケル鍍金により形成されるものである。
【0028】
塩化ニッケル(NiCl2) 200g/l
塩酸(HCl) 80g/l
通常、この塩化ニッケル浴での鍍金処理に先立ち、200g/1の塩酸浴で10秒間程度調理鍋の銅表面を活性化し、その後、1〜3A/dm2の電流値で数秒から数十秒間、塩化ニッケル浴にてニッケル鍍金処理することにより所定のニッケル厚さが得られる。
【0029】
本実施例では、塩化ニッケル浴における電流値を1.5A/dm2とし、鍍金処理時間を5秒、10秒、20秒、30秒とすることにより、ニッケル鍍金厚さがそれぞれ8nm、17nm、30nm、44nmとなっていることが鍋蛍光エックス線による精密厚さ測定によって判明した。
【0030】
なお、この領域のニッケル鍍金厚さにおいては炊飯器本体からの電磁誘導加熱には何らの悪影響をもたらさず、正しく炊飯工程が実施されることを確認した。
【0031】
次に、鍍金して得られた金属薄膜層15であるニッケル層の表面にシリコーン/エポキシ樹脂混合系のクリアコーティング14を塗装し、170℃15分間の焼成を行って、焼成後約20μmの厚さとした。
【0032】
(表1)は、本実施例と、炊飯器用鍋の作製工程においてニッケル鍍金工程を実施せずに鍋外面の銅表面に直接に同様のシリコーン/エポキシ樹脂混合系のクリアコーティングを塗装した従来の鍋を比較して、鍋のニッケル鍍金厚さと外観色及び耐熱耐久性について比較を行った結果をまとめたものである。
【0033】
【表1】
【0034】
(表1)に示したのは、まず、本実施例で作製した、銅鍍金層上にニッケルが8nm、17nm、30nm、44nmの厚さで形成された、電磁誘導加熱可能なそれぞれの炊飯器用鍋No1〜4の外観色をニッケル鍍金層がない比較例のNo5と比較すると、ニッケル厚さ8nmではほとんど銅色が保存され、17nmと30nmと厚くなるにつれて銅色が淡くなるが、これらの領域ではまだ十分に銅色を呈している。しかし、44nmではほのかに銅色が残る程度で、ほとんどニッケル鍍金の色になってしまうため、銅色の外観を維持するためには概ね40nm以下の厚みが望ましい。
【0035】
次に、調理鍋は強い加熱条件下に曝されることを想定して、クリアコートの耐熱試験を実施したが、これは、これら調理鍋を200℃において所定時間保持後、鍋外面のクリアコート面でJIS試験法規格に基づいた碁盤目試験を実施した。
【0036】
試験は200℃で所定時間保持後、室温まで冷却してから試験面に縦横に1mm間隔で11本づつの切込みを入れ碁盤目を100マス作り、その後セロテープを碁盤目に密着し、90°方向に剥離した。
【0037】
また、セロテープ剥離時にクリアコートの残存率100/100を○、90/100以上を△、90/100未満を×として評価しているため、当然ながら加熱保持時間が長時間に渡り残存率が高いものが優れた耐熱耐久性があることを示している。
【0038】
ニッケル鍍金層を有しない比較例に比べて、ニッケル鍍金層を有する実施例の方が耐熱耐久性は高く、しかも、その傾向はニッケル層の厚さが厚いほど顕著であることが表1の結果から判定できるが、これはニッケル層が厚いほど銅の酸化が生じにくく、クリアコートの下層において脆い酸化銅の形成が抑制される結果と推定される。
【0039】
なお、Ni鍍金厚さは、平均値であり、部位により多少の変動がある。
【0040】
(実施例2)
本発明の第2の実施例について説明する。図2は加熱調理一般に供される調理鍋であり、基材は1.5mm厚の銅16で、内面は錫鍍金処理17が施されている。また、基材である銅16の外面には金属薄膜層18が処理されており、これは実施例1と同様の塩化ニッケル浴を用いて処理されたニッケル鍍金層であり、処理時間を変更することによって、12nm、25nm、33nm厚のニッケル層を鍍金処理したものであり、いずれの厚さにおいても銅の色調や光沢が十分に感知できる。
【0041】
(表2)は、本実施例と、調理鍋の作製工程においてニッケル鍍金工程を実施せずに鍋外面に銅酸化防止剤であるベンゾトリアゾールを塗布したのみの調理鍋を比較例2として比較し、耐熱試験における鍋外面の色差ΔE値の推移の結果をまとめたものである。
【0042】
【表2】
【0043】
(表2)に示したのは、本実施例と比較例2の調理鍋を130℃の炉内に投入したときの表面酸化色の変化を色差ΔEで示したものであり、ΔE値が大きくなるほど酸化による変色が大きいことを表わしている。銅表面に酸化防止剤を処理したのみの比較例2では、速やかに銅の酸化が進行し色相が酸化膜の厚みに応じて大きく変化していき酸化防止剤の効果は130℃では全く見られないのに対し、本実施例では色差の変化が遅く、銅独特の色調、光沢感が長期に渡り保持できることが判る。なお、いずれの試料も初期をΔE=0として、初期との比較を示している。
【0044】
【発明の効果】
以上のように、本発明の調理鍋は、外面を構成する銅独特の金属色が完全に失われない範囲の厚さで銅以外の金属薄膜層を鍍金や蒸着といった手法を用いて外面を構成する銅の表面に設けたものであり、この構成により銅そのものが有する美しい色調、光沢を損なわずに、銅の酸化を抑制する結果、銅の変色を防止する効果があるとともに、金属薄膜層に塗装された塗装も耐熱耐久性を向上できるという効果をもたらすものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例1の鍋が備えられる炊飯器と鍋の断面図
【図2】 本発明の実施例2おける調理用鍋とその断面図
【符号の説明】
9 鍋
10 アルミニウム
11 フェライト系ステンレス
12、16 銅
13 フッソ樹脂コーティング
14 クリアコーティング
15、18 金属薄膜層
17 錫鍍金
Claims (4)
- 磁性金属あるいは磁性金属と熱良導性金属の合わせ材を用い、その外面に銅薄膜を設けて電磁誘導加熱を可能とした基材とし、外面を構成する銅の表面に銅の金属色を消失しない範囲の厚さで、銅以外の金属薄膜層を設け、前記金属薄膜層のさらに外面に無色透明のクリアコーティングを塗装したことを特徴とする調理用鍋。
- 銅は鍍金によって基材金属の外面に処理させることを特徴とする請求項1に記載の調理用鍋。
- 銅薄膜の外面に設けられる金属薄膜層は鍍金あるいは蒸着により形成されることを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載の調理用鍋。
- 銅薄膜の表面に処理される金属薄膜層はクロム、ニッケル、銀、金、亜鉛、錫、アルミニウム、チタンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の調理用鍋。
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