JP3969255B2 - 水性染料インク用インクジェット記録用紙 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は水性染料インク用インクジェット記録用紙に関し、詳しくは、インク吸収性が良好で、画像鮮明性が高く、写真画質を達成した高画質の記録が可能で、保存安定性に優れた水性染料インク用インクジェット記録用紙に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、インクジェット記録材料は、急速にその画質向上が図られ、写真画質に迫りつつある。特に、写真画質に匹敵する画質をインクジェット記録で達成するために、インクジェット記録用紙(以下、単に記録用紙ともいう)の面からもその改良が進んでおり、高平滑性の支持体上に顔料と親水性ポリマーからなる微小な多孔質層を設けた空隙型の記録用紙は、高い光沢を有し、鮮やかな発色を示し、インク吸収性及び乾燥性に優れていることから、最も写真画質に近いものの一つになりつつある。特に、非吸水性支持体を使用した場合は、吸水性支持体に見られるようなプリント後のコックリング、いわゆる「しわ」の発生がなく、高平滑な表面を維持できるため、より高品位なプリントを得ることができる。
【0003】
インクジェット記録は、一般にインク溶媒として水および水溶性溶剤を用いる水系インクを用いるものと、非水系の油性溶剤を用いるものとに分けられ、各々色材に染料を用いるタイプ、顔料を用いるタイプがあり、高画質の記録画像を得るためにはそれぞれのタイプに適応した専用紙が必要となる。インクに関しては、環境面、安全面での負荷の少ない水系インクが主流となっている。
【0004】
水系インクの中で、顔料インクは画像の耐久性が高いが、画像状に光沢が変化しやすく、その結果、写真画質に近いプリントを得にくく、一方、水溶性染料インクを用いると、画像の鮮明性が高く、かつ均一な表面光沢を有する写真画質に匹敵するカラープリントが得られる。
【0005】
しかしながら、この水溶性染料は高画質な画像が得られる反面、顔料に比較して保存性が悪く、太陽光あるいは室内光による褪色、空気中に存在するオゾン等の酸化性ガス等による褪色が大きいことが課題となっている。特に微小な多孔質層を設けた空隙型の記録用紙では、染料と室内の空気との接触面積が広くなるため、空気中の酸化性ガスによる影響を受け易く改良を望まれている。
【0006】
このような保存による劣化を改善する為に従来から褪色防止剤として、各種の酸化防止剤を添加することが多数提案されている。
【0007】
例えば、特開昭57−87989号、同57−74192号および同60−72785号には酸化防止剤として種々の化合物を含有するインクジェット記録用紙が、特開昭57−74193号には紫外線吸収剤を含有させたインクジェット記録用紙が、特開昭61−154989号にはヒドラジド類を添加することが、特開昭61−146591号にはヒンダードアミン系酸化防止剤を添加することが、特開昭61−177279号には含窒素複素環メルカプト系化合物を添加することが、特開平1−115677号および同1−35479号にはチオエーテル系酸化防止剤を添加することが、特開平1−36480号には特定構造のヒンダードフェノール系酸化防止剤を添加することが、特開平3−13376号にはヒンダードフェノール系酸化防止剤とヒンダードアミン系酸化防止剤を併用し添加することが、特開平7−195824号および同8−150773号にはアスコルビン酸類を添加することが、特開平7−149037号には硫酸亜鉛を添加することが、特開平7−314882号にはチオシアン酸塩類などを含有させることが、特開平7−314882号にはチオ尿素誘導体などを添加することが、特開平7−276790号および同8−108617号には糖類を含有させることが、特開平8−118791号にはリン酸系酸化防止剤を添加することが、特開平8−300807号には亜硝酸塩、亜硫酸塩、チオ硫酸塩などを添加することが、特開平9−267544号にはヒドロキシルアミン誘導体を添加することが記載されている。
【0008】
しかしながら、微細な空隙孔を有するインクジェット記録用紙においては、効果が必ずしも充分とは言い難く、充分な褪色防止効果を得るためにこうした各種の褪色防止剤を多量に添加すると、多孔質層のインク吸収性を低下させてしまう問題点を有していた。
【0009】
更に水溶性染料インクを用いた時の課題として、親水性が高いために滲みが発生したり、耐水性が劣るという弱点がある。すなわち記録後に高湿下に長期間保存した場合や、プリント面に水滴が付着した場合に染料が滲みやすい。この問題を解決するために、カチオン性物質のような染料固着性物質を多孔質層中に添加しておくことが一般的に行われている。例えば、カチオン性ポリマーを用いてアニオン性のインク染料と結合させ、強固に不動化する方法が好ましく用いられている。このようなカチオン性ポリマーとしては4級アンモニウム基を有する重合物が挙げられ、例えば「インクジェットプリンター技術と材料」((株)シーエムシー発行、1998年7月)や特開平9−193532号の[0008]項に挙げた文献に記載されている。また、水溶性の多価金属イオンを予めインクジェット記録用紙中に添加しておき、インクジェット記録時に染料を凝固固着させて不動化させる方法も提案されている。カチオン性ポリマー、多価金属イオンの使用により、滲みや耐水性の向上は認められるが、染料がカチオン性ポリマー、多価金属との結合により、インク吸収層中に不均一に染着されてしまうため、前述の褪色防止剤を添加してもインク吸収層中で拡散性が小さいものでは、その効果を十分に発揮できないことがある。
【0010】
一方、ブタジエンゴム等分子内に不飽和結合を有する樹脂はインクジェット記録用紙に使用できることは従来から知られている。例えば、主に油性インクの溶剤を吸収させる樹脂としての使用法が開示されている(例えば、特許文献1〜6参照。)。また、ジエン系重合体またはその水添加物をスルホン化し、親水化することにより、水系インクの吸収性を改善する使用法が開示されているが、微細な多孔質インク吸収層に不飽和結合を有する化合物を使用して保存性を改良することはこれまで知られていなかった。
【0011】
【特許文献1】
特開2000−177234号公報
【0012】
【特許文献2】
特開2000−238407号公報
【0013】
【特許文献3】
特開2001−205929号公報
【0014】
【特許文献4】
特開平11−165460号公報
【0015】
【特許文献5】
特開平11−99742号公報
【0016】
【特許文献6】
国際公開第00/41890号パンフレット
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は、インク吸収性が良好で、発色濃度、画像鮮明性が高く、写真画質を達成した高画質の記録が可能であり、且つ保存安定性に優れた水性染料インク用インクジェット記録用紙を提供することを目的としている。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意研究を行った結果、本発明の上記目的が、下記の各構成によって達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
1.分子内に非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を複数個有する化合物として数平均分子量500〜10,000のポリブタジエンと気相法シリカ、親水性バインダー、及びカチオン性樹脂とを含む、多孔質インク受容層を有することを特徴とする水性染料インク用インクジェット記録用紙。
【0020】
2.前記多孔質インク受容層が、平均粒径が30〜200nm以下の気相法シリカと親水性バインダーからなり、気相法シリカと親水性バインダーの比が3〜10であることを特徴とする前記1に記載の水性染料インク用インクジェット記録用紙。
【0021】
3.前記多孔質インク受容層が、多価金属塩を含有することを特徴とする前記1または2に記載の水性染料インク用インクジェット記録用紙。
【0025】
本発明のインクジェット記録用紙は、分子内に炭素−炭素不飽和結合を複数個有する化合物として数平均分子量500〜10,000のポリブタジエンを多孔質のインク受容層に含有させることにより、染料の保存性が改良され、特に多孔質のインク受容層で課題となっていた、酸化性ガス、特にオゾンガスによる水系染料インクの褪色が飛躍的に改善された。保存性が改善された理由は定かでは無いが、炭素−炭素不飽和結合が、室内の酸化性ガスと適度な反応性を有し、染料の褪色を防止しているものと推定している。例えば、ゴム系樹脂の劣化が、樹脂内の不飽和結合を反応性基として進行し、酸素、オゾン、ラジカル、過酸化物により引き起こされることは知られている。このゴムの劣化を防ぐため、ヒンダードフェノール類、アミン類、硫黄系化合物、リン系化合物が酸化防止剤として使用されているが、これらの酸化防止剤は、従来技術で記載したとおり染料の褪色防止剤として、インクジェット記録用紙への応用がなされてきた。しかしながら、これらの酸化防止剤は、反応性が高いとされるゴム系樹脂の不飽和結合よりも更に高い反応性を有するため、樹脂の劣化防止剤として使用されるもので、室内の酸化性ガスの影響を特に受けやすい、微細な空隙孔をインク吸収層に有する空隙型のインクジェット記録用紙では、その消費が早く持続的な効果が得られ難いものと推定している。ゴム系樹脂に内在するような不飽和結合は、染料に比較して酸化性ガスに対する反応性が高く、褪色防止効果を有するが、前述の酸化防止剤に比較すれば安定であるため、持続性がありより高い褪色防止能力を有するものと推定している。
【0026】
以下本発明を更に詳細に説明する。
本発明の記録用紙は水系染料インクの記録用紙として好適に使用される。水系染料インクとは、水溶性の染料あるいは水分散性の染料を色材に使用したインクで、インク溶媒として水あるいは水と混和性の高い有機溶剤を混合してなるインクである。染料としては、従来公知のアゾ系染料、キサンテン系染料、フタロシアニン系染料、キノン系染料、アントラキノン系染料等をスルホ基あるいはカルボキシ基を導入して水溶性を向上させた、酸性染料や直接染料あるいは塩基性染料が代表的に用いられる。また、水溶性の低い分散染料を水系溶媒に安定に分散した水系の分散染料インクを使用することもできる。インク溶媒としては、水あるいは水と混和性の高い有機溶剤を、単独あるいは水と混合して使用することができる。具体的には、エタノール、2−プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶剤、2−ピロリジノン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、トリエタノールアミン、N−エチルモルホリン、トリエチレンテトラミン等のアミン類、スルホラン、ジメチルスルホキシド、尿素、アセトニトリル、アセトン等が挙げられ、これらの溶剤は単独で用いても、併用しても良い。
【0027】
本発明のインクジェット記録用紙は、支持体上に親水性バインダーと無機顔料を含有する多孔質層を形成する水溶性塗布液を塗布し、空隙を有する多孔質層を形成したものである。本発明に係る多孔質層は、主に顔料と親水性バインダーから形成される。多孔質層を形成する顔料としては、無機顔料や有機顔料を用いることができるが、高光沢でかつ高発色濃度が得られ、更に微細粒子が容易に得やすいことから無機顔料が利用される。上記無機顔料は1次粒子のまま用いても、また2次凝集粒子を形成した状態で使用することもできる。
【0028】
本発明においては、インクジェット記録用紙で高品位なプリントを得る観点から、無機顔料として、気相法で合成された微粒子シリカ(気相法シリカともいう)を含有させる。この気相法で合成されたシリカは、表面がアルミニウムで修飾されたものであっても良い。表面がアルミニウムで修飾された気相法シリカのアルミニウム含有率は、シリカに対して質量比で0.05〜5%のものが好ましい。
【0029】
上記無機顔料の粒径は、いかなる粒径のものも用いることができるが、平均粒径が1μm以下であることが好ましい。1μmを越えると光沢性は、または発色性が低下しやすく、そのため200nm以下が好ましい。更には100nm以下のシリカが最も好ましい。粒径の下限は特に限定されないが、無機顔料の製造上の観点から、概ね3nm以上、特に5nm以上が好ましい。
【0030】
上記無機顔料の平均粒径は、多孔質層の断面や表面を電子顕微鏡で観察し、100個の任意の粒子の粒径を求めて、その単純平均値(個数平均)として求められる。ここで、個々の粒径は、その投影面積に等しい円を仮定した時の直径で表したものである。
【0031】
上記顔料は、1次粒子のままであるいは2次粒子もしくはそれ以上の高次凝集粒子で多孔質皮膜に存在していても良いが、上記平均粒径は、電子顕微鏡で観察した時に多孔質層中で独立の粒子を形成しているものの粒径をいう。
【0032】
上記顔料の平均1次粒子径は、多孔質膜中で観測される平均粒径以下である必要があり、顔料の1次粒子径としては100nm以下のものが好ましく、より好ましくは30nm以下、最も好ましくは4〜20nmの微粒子である。
【0033】
上記顔料の水溶性塗布液における含有量は、5〜40質量%であり、特に7〜30質量%が好ましい。上記顔料は、十分なインク吸収性があり、皮膜のひび割れ等が少ないインク吸収層を形成する必要があり、インク受容層中には、5〜50g/m2の付き量になることが好ましい。更には、10〜25g/m2になることが特に好ましい。
【0034】
多孔質層に含有される親水性バインダーとしては、特に制限は無く、従来公知の親水性バインダーを用いることができ、例えばゼラチン、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール等を用いることができるが、ポリビニルアルコールが特に好ましい。
【0035】
ポリビニルアルコールは、無機顔料と相互作用を有しており、無機顔料に対する保持力が特に高く、更に吸湿性の湿度依存性が比較的小さなポリマーであり、塗布乾燥時の収縮応力が比較的小さいため、塗布乾燥時のひび割れに対する適性が優れる。本発明に好ましく用いられるポリビニルアルコールとしては、ポリ酢酸ビニルを加水分解して得られる通常のポリビニルアルコールの他に、末端をカチオン変性したポリビニルアルコールやアニオン性基を有するアニオン変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコールも含まれる。
【0036】
酢酸ビニルを加水分解して得られるポリビニルアルコールは、平均重合度が300以上のものが好ましく用いられ、特に平均重合度が1,000〜5,000のものが好ましく用いられ、ケン化度は70〜100%のものが好ましく、80〜99.8%のものが特に好ましい。
【0037】
カチオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、特開昭61−10483号に記載されるような、第1〜3級アミノ基や第4級アミノ基を上記ポリビニルアルコールの主鎖または側鎖中に有するポリビニルアルコールであり、これらはカチオン性基を有するエチレン性不飽和単量体と酢酸ビニルとの共重合体をケン化することにより得られる。
【0038】
カチオン性基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えばトリメチル−(2−アクリルアミド−2,2−ジメチルエチル)アンモニウムクロライド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3,3−ジメチルプロピル)アンモニウムクロライド、N−ビニルイミダゾール、N−メチルビニルイミダゾール、N−(3−ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド、ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、トリメチル−(3−メタクリルアミドプロピル)アンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0039】
カチオン変性ポリビニルアルコールのカチオン変性基含有単量体の比率は、酢酸ビニルに対して0.1〜10モル%、好ましくは0.2〜5モル%である。
【0040】
アニオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば特開平1−206088号に記載されているアニオン性基を有するポリビニルアルコール、特開昭61−237681号および同63−307979号に記載されているビニルアルコールと水溶性基を有するビニル化合物との共重合体、および特開平7−285265号に記載されている水溶性基を有する変性ポリビニルアルコールが挙げられる。
【0041】
また、ノニオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば特開平7−9758号に記載されているポリアルキレンオキサイド基をビニルアルコールの一部に付加したポリビニルアルコール誘導体、特開平8−25795号に記載されている疎水性基を有するビニル化合物とビニルアルコールとのブロック共重合体等が挙げられる。
【0042】
ポリビニルアルコールは、重合度や変性の種類の違いなど、2種類以上を併用することもできる。特に、重合度が2,000以上のポリビニルアルコールを使用する場合には、予め無機顔料に対して0.05〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%添加してから、重合度が2,000以上のポリビニルアルコールを添加すると、著しい増粘が無く好ましい。
【0043】
多孔質層の親水性バインダーに対する気相法シリカの比率は、質量比で2〜20であることが好ましい。質量比が2倍以上であれば、充分な空隙率の多孔質膜が得られ、充分な空隙容量を得やすくなり、維持できる親水性バインダーによるインクジェット記録時の膨潤によって空隙を塞ぐ状況を招かず、高インク吸収速度を維持できる要因となる。一方、この比率が20倍以下であれば、多孔質層を厚膜で塗布した際、ひび割れが生じにくくなる。特に好ましい親水性バインダーに対する気相法シリカの比率は2.5〜12倍、最も好ましくは3〜10倍である。
【0044】
本発明に係る分子内に非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を複数個有する化合物として数平均分子量500〜10,000のポリブタジエンとは、エチレン性の2重結合を分子内で少なくとも2個以上有する化合物である。染料の保存性に効果があるのは、非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合部分であると推定している。多孔質インク吸収層を有するインクジェット記録用紙に多量の染料安定化剤を添加することは、空隙を塞いで空隙容量の低下を招き、インク吸収性の点から好ましくない。そのため染料安定化剤としては、より少ない添加量で染料の安定化効果の大きいものであることが必要になってくる。また、添加した染料安定化剤自身が多孔質層内に安定に留まっていることも必要である。例えば、分子内に非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有している化合物であっても、例えばエチレンそのものや、アリルアルコールといった比較的低分子量のものでは、揮発性が大きく多孔質層に安定に留まることができない。揮発性を小さくするには、分子量を増大するか、極性の高い置換基を導入していく必要が生じるが、単純に分子量を上げて、単位質量あたりの不飽和結合の割合は減少してしまうのは、空隙容量の低下を招き好ましくない。そのため分子内に非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を複数個もたせ、揮発性を下げながらも質量あたりの不飽和結合の割合を減少させないことが重要となる。一方、カチオン性ポリマー等により多孔質層内に固着した染料は、多孔質層内のある範囲で固定化されてしまう。極端な場合多孔質層の最表面に近い部位にのみ染着されることになる。そのような状態で染着された染料の保存性を効率よく上げるためには、染料安定化剤はそれ自身が、多孔質層内である程度拡散でき、固着された染料の近傍に常に存在にすることが望ましい。すなわち、多孔質層の最表面は、室内の酸化性ガスとの接触が最優先に起こる場所であり、染料安定化剤の消費も比較的速やかに起きやすい。染料定着剤の作用により、最表層付近に染料が局在化した場合でも、染料安定化剤がある程度多孔質層を拡散することができれば、多孔質層の比較的深い部分から染料安定化効果の高い状態で最表層に拡散する可能であり、より高い効果を得ることができる。分子内に非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有する化合物の拡散性を決める因子は、一概に決めることはできないが分子量は必要以上に高くならない事が好ましく、ポリマーのような高分子量のものでも数平均分子量で100,000以下であることが必要であり、その範囲は500〜10,000以下である。低分子量のものである場合には、沸点は200℃以上が好ましく、300℃以上であることがより好ましい。また、性状としては液状、または水またはインク溶剤に溶解して液状になりやすいものであることが拡散性の点で好ましい。
【0046】
数平均分子量500〜10,000のポリブタジエンとしては、インク溶剤に対する親和性や樹脂の粘度等を調整するのに、末端を水酸基、グリシジル基、アミノ基、マレイン酸無水物等で変性したポリブタジエン、あるいはスチレン、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステル等との共重合したポリブタジエン等も好ましい。このようなポリブタジエンは、例えばNisso PB(日本曹達(株)製)、日石ポリブタジエン(新日本石油化学(株)製)、Poly−bd(出光石油化学(株)製)、Hycar(宇部興産(株)製)、Polyoil(日本ゼオン(株)製)、JSR RB(JSR(株)製)等の商品シリーズ名で上市されており容易に入手することができる。
【0047】
数平均分子量500〜10,000のポリブタジエンの多孔質インク受容層への添加方法としては、インク吸収層を形成する塗布液に添加してもよいし、あるいは多孔質層を一旦塗布した後、特に塗布乾燥後した後、インク受容層にオーバーコート法により供給してもよい。前者のように塗布液に添加する場合、水や有機溶媒あるいはこれらの混合溶媒に均一に溶解して添加する方法、あるいは乳化分散や湿式粉砕法などの方法により微細な油滴(粒子)に分散して添加する方法を用いることができる。乳化分散の際には必要に応じて高沸点有機溶剤を添加してもよい。インク受容層が複数の層から構成される場合には、1層のみに添加してもよく、また2層以上の層、あるいは全ての構成層の塗布液に添加することもできる。
【0048】
また、後者のように多孔質インク受容層を一旦形成した後、オーバーコート法で添加する場合には、数平均分子量500〜10,000のポリブタジエンを溶媒に均一に溶解した後、インク受容層に供給するのが好ましい。
【0049】
数平均分子量500〜10,000のポリブタジエンの多孔質インク受容層への添加量は特に制限は無いが、好ましくは記録用紙1m2当り、0.01g〜3gの範囲で用いられる。3g以下であれば、当該化合物が多孔質インク受容層の空隙を塞ぐことを抑え、高インク吸収性を維持することができる。また0.01g以上であれば本発明の効果を充分に発揮することができる。この観点において、より好ましくは記録用紙1m2あたり、0.1〜2gの範囲で用いられる。
【0050】
(カチオン性樹脂の説明)
本発明のインクジェット記録用紙には、記録後の保存による画像のにじみを防止する目的でカチオン性樹脂(カチオン性ポリマーともいう)を含有させる。
【0051】
カチオン性ポリマーの例としては、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ジシアンジアミドポリアルキレンポリアミン縮合物、ポリアルキレンポリアミンジシアンジアミドアンモニウム塩縮合物、ジシアンジアミドホルマリン縮合物、エピクロルヒドリン・ジアルキルアミン付加重合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド・SO2共重合物、ポリビニルイミダゾール、ビニルピロリドン・ビニルイミダゾール共重合物、ポリビニルピリジン、ポリアミジン、キトサン、カチオン化澱粉、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド重合物、(2−メタクロイルオキシエチル)トリメチルアンモニウムクロライド重合物、ジメチルアミノエチルメタクリレート重合物、などが挙げられる。
【0052】
また、化学工業時報平成10年8月15,25日に述べられるカチオン性ポリマー、三洋化成工業株式会社発行「高分子薬剤入門」に述べられる高分子染料固着剤が例として挙げられる。
【0053】
(多価金属の説明)
また、本発明のインクジェット記録用紙は画像の耐水性や、耐湿性を改良するため、多価金属イオンを含有させることが好ましい。多価金属イオンは2価以上の金属イオンであれば特に限定されるものでは無いが、好ましい多価金属イオンとしては、アルミニウムイオン、ジルコニウムイオン、チタニウムイオン等が挙げられる。
【0054】
これらの多価金属イオンは、水溶性または非水溶性の塩の形態でインク受容層に含有させることができる。アルミニウムイオンを含む塩の具体例としては、フッ化アルミニウム、ヘキサフルオロアルミン酸(例えば、カリウム塩)、塩化アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム(例えば、ポリ塩化アルミニウム)、テトラクロロアルミン酸塩(例えば、ナトリウム塩)、臭化アルミニウム、テトラブロモアルミン酸塩(例えば、カリウム塩)、ヨウ化アルミニウム、アルミン酸塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩)、塩素酸アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、チオシアン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩基性硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム(ミョウバン)、硫酸アンモニウムアルミニウム(アンモニウムミョウバン)、硫酸ナトリウムアルミニウム、燐酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、燐酸水素アルミニウム、炭酸アルミニウム、ポリ硫酸珪酸アルミニウム、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、蓚酸アルミニウム、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムブチレート、エチルアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセトネート)等を挙げることができる。
【0055】
これらの中でも、塩化アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩基性硫酸アルミニウム、塩基性硫酸珪酸アルミニウムが好ましく、塩基性塩化アルミニウム、塩基性硫酸アルミニウムが最も好ましい。
【0056】
また、ジルコニウムイオンを含む塩の具体例としては、二フッ化ジルコニウム、三フッ化ジルコニウム、四フッ化ジルコニウム、ヘキサフルオロジルコニウム酸塩(例えば、カリウム塩)、ヘプタフルオロジルコニウム酸塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩やアンモニウム塩)、オクタフルオロジルコニウム酸塩(例えば、リチウム塩)、フッ化酸化ジルコニウム、二塩化ジルコニウム、三塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウム、ヘキサクロロジルコニウム酸塩(例えば、ナトリウム塩やカリウム塩)、酸塩化ジルコニウム(塩化ジルコニル)、二臭化ジルコニウム、三臭化ジルコニウム、四臭化ジルコニウム、臭化酸化ジルコニウム、三ヨウ化ジルコニウム、四ヨウ化ジルコニウム、過酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、硫化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、p−トルエンスルホン酸ジルコニウム、硫酸ジルコニル、硫酸ジルコニルナトリウム、酸性硫酸ジルコニル三水和物、硫酸ジルコニウムカリウム、セレン酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニル、リン酸ジルコニウム、炭酸ジルコニル、炭酸ジルコニルアンモニウム、酢酸ジルコニウム、酢酸ジルコニル、酢酸ジルコニルアンモニウム、乳酸ジルコニル、クエン酸ジルコニル、ステアリン酸ジルコニル、リン酸ジルコニル、シュウ酸ジルコニウム、ジルコニウムイソプロピレート、ジルコニウムブチレート、ジルコニウムアセチルアセトネート、アセチルアセトンジルコニウムブチレート、ステアリン酸ジルコニウムブチレート、ジルコニウムアセテート、ビス(アセチルアセトナト)ジクロロジルコニウム、トリス(アセチルアセトナト)クロロジルコニウム等が挙げられる。
【0057】
これらの化合物の中でも、本発明の目的とするプリント後の滲み防止効果を更に顕著に奏するという観点において、炭酸ジルコニル、炭酸ジルコニルアンモニウム、酢酸ジルコニル、硝酸ジルコニル、塩化ジルコニル、乳酸ジルコニル、クエン酸ジルコニルが好ましく、特に、炭酸ジルコニルアンモニウム、塩化ジルコニル、酢酸ジルコニルが好ましい。
【0058】
これらの多価金属イオンは、単独で用いても良いし、異なる2種以上を併用してもよい。多価金属イオンを含む化合物は、インク受容層を形成する塗布液に添加してもよいし、あるいは多孔質層を一旦塗布した後、特に多孔質層を一旦塗布乾燥した後に、インク受容層にオーバーコート法により供給してもよい。前者のように多価金属イオンを含む化合物をインク吸収層を形成する塗布液に添加する場合、水や有機溶媒あるいはこれらの混合溶媒に均一に溶解して添加する方法、あるいはサンドミルなどの湿式粉砕法や乳化分散などの方法により微細な粒子に分散して添加する方法を用いることができる。インク受容層が複数の層から構成される場合には、1層のみ添加してもよく、また2層以上の層、あるいは全ての構成層の塗布液に添加することもできる。また、後者のように多孔質インク受容層を一旦形成した後、オーバーコート法で添加する場合には、多価金属イオンを含む化合物を溶媒に均一に溶解した後、インク受容層に供給するのが好ましい。
【0059】
これらの多価金属イオンは、記録用紙1m2当り、概ね0.05〜20ミリモル、好ましくは0.1〜10ミリモルの範囲で用いられる。
【0060】
(硬膜剤の説明)
本発明のインクジェット記録用紙は、多孔質インク受容層を形成する水溶性バインダーの硬膜剤を添加することが好ましい。
【0061】
本発明で用いることのできる硬化剤としては、水溶性バインダーと硬化反応を起こすものであれば特に制限はないが、ホウ酸及びその塩が好ましいが、その他にも公知のものが使用でき、一般的には水溶性バインダーと反応し得る基を有する化合物あるいは水溶性バインダーが有する異なる基同士の反応を促進するような化合物であり、水溶性バインダーの種類に応じて適宜選択して用いられる。硬化剤の具体例としては、例えば、エポキシ系硬化剤(ジグリシジルエチルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ジグリシジルシクロヘキサン、N,N−ジグリシジル−4−グリシジルオキシアニリン、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル等)、アルデヒド系硬化剤(ホルムアルデヒド、グリオキザール等)、活性ハロゲン系硬化剤(2,4−ジクロロ−4−ヒドロキシ−1,3,5−s−トリアジン等)、活性ビニル系化合物(1,3,5−トリスアクリロイル−ヘキサヒドロ−s−トリアジン、ビスビニルスルホニルメチルエーテル等)、アルミニウム明礬等が挙げられる。
【0062】
ホウ酸またはその塩とは、硼素原子を中心原子とする酸素酸およびその塩のことをいい、具体的には、オルトホウ酸、二ホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸、五ホウ酸および八ホウ酸およびそれらの塩が挙げられる。
【0063】
硬化剤としてのホウ素原子を有するホウ酸およびその塩は、単独の水溶液でも、また、2種以上を混合して使用しても良い。特に好ましいのはホウ酸とホウ砂の混合水溶液である。
【0064】
ホウ酸とホウ砂の水溶液は、それぞれ比較的希薄水溶液でしか添加することが出来ないが両者を混合することで濃厚な水溶液にすることが出来、塗布液を濃縮化する事が出来る。また、添加する水溶液のpHを比較的自由にコントロールすることが出来る利点がある。
【0065】
上記硬化剤の総使用量は、上記水溶性バインダー1g当たり1〜600mgが好ましい。また、請求項3に対応する供給量としては、上記水溶性バインダー1g当たり100〜600mgが好ましい。
【0066】
(支持体の説明)
本発明に用いる支持体は従来インクジェット記録用紙用として公知のものを適宜使用でき、吸水性支持体であってもよいが、非吸水性支持体であることが好ましい。
【0067】
本発明で用いることのできる吸水性支持体としては、例えば一般の紙、布、木材等を有するシートや板等を挙げることができるが、特に紙は基材自身の吸水性に優れかつコスト的にも優れるために最も好ましい。紙支持体としては、LBKP、NBKP等の化学パルプ、GP、CGP、RMP、TMP、CTMP、CMP、PGW等の機械パルプ、DIP等の古紙パルプ等の木材パルプを主原料としたものが使用可能である。又、必要に応じて合成パルプ、合成繊維、無機繊維等の各種繊維状物質も原料として適宜使用することができる。
【0068】
上記紙支持体中には必要に応じて、サイズ剤、顔料、紙力増強剤、定着剤等、蛍光増白剤、湿潤紙力剤、カチオン化剤等の従来公知の各種添加剤を添加することができる。
【0069】
紙支持体は前記の木材パルプなどの繊維状物質と各種添加剤を混合し、長網抄紙機、円網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機等の各種抄紙機で製造することができる。又、必要に応じて抄紙段階または抄紙機にスターチ、ポリビニルアルコール等でサイズプレス処理したり、各種コート処理したり、カレンダー処理したりすることもできる。
【0070】
本発明で好ましく用いることのできる非吸水性支持体には、透明支持体または不透明支持体がある。透明支持体としてはポリエステル系樹脂、ジアセテート系樹脂、トリアテセート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリイミド系樹脂、セロハン、セルロイド等の材料を有するフィルム等が挙げられ、中でもOHPとして使用されたときの輻射熱に耐える性質のものが好ましく、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。このような透明な支持体の厚さとしては、50μm〜200μmが好ましい。
【0071】
又、不透明支持体としては、例えば、基紙の少なくとも一方に白色顔料等を添加したポリオレフィン樹脂被覆層を有する樹脂被覆紙(いわゆるRCペーパー)、ポリエチレンテレフタレートに硫酸バリウム等の白色顔料を添加してなるいわゆるホワイトペットが好ましい。
【0072】
前記各種支持体とインク吸収層の接着強度を大きくする等の目的で、インク吸収層の塗布に先立って、支持体にコロナ放電処理や下引処理等を行うことが好ましい。更に、本発明のインクジェット記録用紙は必ずしも無色である必要はなく、着色された記録シートであってもよい。
【0073】
本発明のインクジェット記録用紙では原紙支持体の両面をポリエチレンでラミネートした紙支持体を用いることが、記録画像が写真画質に近く、しかも低コストで高品質の画像が得られるために特に好ましい。そのようなポリエチレンでラミネートした紙支持体について以下に説明する。
【0074】
紙支持体に用いられる原紙は木材パルプを主原料とし、必要に応じて木材パルプに加えてポリプロピレンなどの合成パルプ或いはナイロンやポリエステルなどの合成繊維を用いて抄紙される。木材パルプとしてはLBKP、LBSP、NBKP、NBSP、LDP、NDP、LUKP、NUKPのいずれも用いることが出来るが短繊維分の多いLBKP、NBSP、LBSP、NDP、LDPをより多く用いることが好ましい。但し、LBSP及びまたはLDPの比率は10質量%〜70質量%が好ましい。
【0075】
上記パルプは不純物の少ない化学パルプ(硫酸塩パルプや亜硫酸塩パルプ)が好ましく用いられ、又、漂白処理を行って白色度を向上させたパルプも有用である。
【0076】
原紙中には、高級脂肪酸、アルキルケテンダイマー等のサイズ剤、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタンなどの白色顔料、スターチ、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール等の紙力増強剤、蛍光増白剤、ポリエチレングリコール類等の水分保持剤、分散剤、4級アンモニウム等の柔軟化剤などを適宜添加することが出来る。
【0077】
抄紙に使用するパルプの濾水度はCSFの規定で200〜500mlが好ましく、又、叩解後の繊維長がJIS−P−8207に規定される24メッシュ残分の質量%と42メッシュ残分の質量%との和が30〜70%が好ましい。尚、4メッシュ残分の質量%は20質量%以下であることが好ましい。
【0078】
原紙の坪量は30〜250gが好ましく、特に50〜200gが好ましい。原紙の厚さは40〜250μmが好ましい。
【0079】
原紙は抄紙段階または抄紙後にカレンダー処理して高平滑性を与えることも出来る。原紙密度は0.7〜1.2g/m2(JIS−P−8118)が一般的である。更に原紙剛度はJIS−P−8143に規定される条件で20〜200gが好ましい。
【0080】
原紙表面には表面サイズ剤を塗布しても良く、表面サイズ剤としては前記原紙中添加できるサイズと同様のサイズ剤を使用できる。
【0081】
原紙のpHはJIS−P−8113で規定された熱水抽出法により測定された場合、5〜9であることが好ましい。
【0082】
原紙表面及び裏面を被覆するポリエチレンは、主として低密度のポリエチレン(LDPE)及び/または高密度のポリエチレン(HDPE)であるが他のLLDPEやポリプロピレン等も一部使用することが出来る。
【0083】
特にインク吸収層側のポリエチレン層は写真用印画紙で広く行われているようにルチルまたはアナターゼ型の酸化チタンをポリエチレン中に添加し、不透明度及び白色度を改良したものが好ましい。酸化チタン含有量はポリエチレンに対して通常3質量%〜20質量%、好ましくは4質量%〜13質量%である。
【0084】
ポリエチレン被覆紙は光沢紙として用いることも、又、ポリエチレンを原紙表面上に溶融押し出してコーティングする際にいわゆる型付け処理を行って通常の写真印画紙で得られるようなマット面や絹目面を形成したものも本発明で使用できる。
【0085】
上記ポリエチレン被覆紙においては紙中の含水率を3質量%〜10質量%に保持するのが特に好ましい。
【0086】
(添加剤の説明)
本発明のインクジェット記録媒体には、各種の添加剤を添加することが出来る。例えば、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル類、ポリメタクリル酸エステル類、ポリアクリルアミド類、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、またはこれらの共重合体、尿素樹脂、またはメラミン樹脂等の有機ラテックス微粒子、カチオンまたはノニオンの各種界面活性剤、特開昭57−74193号、同57−87988号及び同62−261476号に記載の紫外線吸収剤、特開昭57−74192号、同57−87989号、同60−72785号、同61−146591号、特開平1−95091号及び同3−13376号等に記載されている退色防止剤、特開昭59−42993号、同59−52689号、同62−280069号、同61−242871号及び特開平4−219266号等に記載されている蛍光増白剤、硫酸、リン酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等のpH調整剤、消泡剤、防腐剤、増粘剤、帯電防止剤、マット剤等の公知の各種添加剤を含有させることもできる。
【0087】
(製造方法の説明)
次に、本発明のインクジェット記録媒体の製造方法について説明する。
【0088】
インクジェット記録媒体の製造方法としては、インク吸収層を含む各構成層を、各々単独にあるいは同時に、公知の塗布方式から適宜選択して、支持体上に塗布、乾燥して製造することができる。塗布方式としては、例えば、ロールコーティング法、ロッドバーコーティング法、エアナイフコーティング法、スプレーコーティング法、カーテン塗布方法、あるいは米国特許第2,761,419号、同第2,761,791号公報に記載のホッパーを使用するスライドビード塗布方法、エクストルージョンコート法等が好ましく用いられる。
【0089】
同時重層塗布を行う際の各塗布液の粘度としては、スライドビード塗布方式を用いる場合には、5〜100mPa・sの範囲が好ましく、さらに好ましくは10〜50mPa・sの範囲である。また、カーテン塗布方式を用いる場合には、5〜1200mPa・sの範囲が好ましく、さらに好ましくは25〜500mPa・sの範囲である。
【0090】
また、塗布液の15℃における粘度としては、100mPa・s以上が好ましく、100〜30,000mPa・sがより好ましく、さらに好ましくは3,000〜30,000mPa・sであり、最も好ましいのは10,000〜30,000mPa・sである。
【0091】
塗布および乾燥方法としては、塗布液を30℃以上に加温して、同時重層塗布を行った後、形成した塗膜の温度を1〜15℃に一旦冷却し、10℃以上で乾燥することが好ましい。塗布液調製時、塗布時及び乾燥時おいて、表層に含まれる熱可塑性樹脂が製膜しないように、該熱可塑性樹脂のTg以下の温度で塗布液の調製、塗布、乾燥することが好ましい。より好ましくは、乾燥条件として、湿球温度5〜50℃、膜面温度10〜50℃の範囲の条件で行うことである。また、塗布直後の冷却方式としては、形成された塗膜均一性の観点から、水平セット方式で行うことが好ましい。
【0092】
また、その製造過程で35℃以上、70℃以下の条件で24時間以上、60日以下保存する工程を有することが好ましい。
【0093】
加温条件は、35℃以上、70℃以下の条件で24時間以上、60日以下保存する条件であれば特に制限はないが、好ましい例としては、例えば、36℃で3日〜4週間、40℃で2日〜2週間、あるいは55℃で1〜7日間である。この熱処理を施すことにより、水溶性バインダーの硬化反応の促進、あるいは水溶性バインダーの結晶化を促進することができ、その結果、好ましいインク吸収性を達成することができる。
【0094】
【実施例】
以下、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、実施例中で「%」は、特に断りの無いかぎり質量%を表す。
【0095】
実施例1
[シリカ分散液D−1の調製]
予め均一に分散されている、1次粒子の平均粒径が約0.007μmの気相法シリカ(日本アエロジル社製;アエロジル300)を25%を含むシリカ分散液B−1(pH2.6、エタノール0.5%含有)の400Lを、カチオン性ポリマーP−1を12%、n−プロパノールを10%およびエタノールを2%含有する水溶液C−1(pH2.5、サンノプコ社製の消泡剤SN−381を2g含有)の110Lに、室温で3000rpmで攪拌しながら添加した。次いで硼酸とホウ砂の1:1質量比の混合水溶液A−1(各々3%の濃度)54Lを攪拌しながら、徐々に添加した。
【0096】
次いで、三和工業株式会社製の高圧ホモジナイザーで3000N/cm2の圧力で分散し、全量を純水で630Lに仕上げて、ほぼ透明なシリカ分散液D−1を得た。
【0097】
【化1】
【0098】
[シリカ分散液D−2の調製]
上記シリカ分散液B−1の400Lを、カチオン性ポリマーP−2を12%、n−プロパノール10%およびエタノールを2%含有する水溶液C−2(pH=2.5)の120Lに、室温で3000rpmで攪拌しながら添加し、次いで、上記混合水溶液A−1の52Lを攪拌しながら徐々に添加した。次いで、三和工業株式会社製の高圧ホモジナイザーで、3000N/cm2の圧力で分散し、全量を純水で630Lに仕上げて、ほぼ透明なシリカ分散液D−2を得た。
【0099】
上記シリカ分散液D−1、D−2を30μmの濾過精度を有するアドバンテック東洋社製のTCP−30タイプのフィルターを用いて濾過を行った。
【0100】
【化2】
【0101】
[オイル分散液−1の調製]
ジイソデシルフタレート20kgと酸化防止剤(AO−1)20kgとを45kgの酢酸エチルに加熱溶解し、これと酸処理ゼラチン8kg、カチオン性ポリマーP−1を2.9kgおよびサポニン5kgとを含有する水溶液210Lとを55℃で混合し、高圧ホモジナイザーで乳化分散した後、全量を純水で300Lに仕上げて、オイル分散液−1を調製した。
【0102】
【化3】
【0103】
[インク受容層塗布液の調製]
上記調製した各分散液を使用して、以下に記載の各添加剤を順次混合して、多孔質層用の各塗布液を調製した。なお、各添加量は塗布液1L当りの量で表示した。
【0104】
(第1層用塗布液:最下層)
シリカ分散液D−1 580ml
ポリビニルアルコール(クラレ社製;PVA203)10%水溶液 5ml
ポリビニルアルコール(平均重合度:3800 ケン化度88%)6.5%水溶
液 290ml
オイル分散液−1 30ml
ラテックス分散液(昭和高分子社製 AE−803) 42ml
エタノール 8.5ml
純水で全量を1000mlに仕上げる。
【0105】
(第2層用塗布液)
シリカ分散液D−1 580ml
ポリビニルアルコール(クラレ社製;PVA203)10%水溶液 5ml
ポリビニルアルコール(平均重合度:3800 ケン化度88%)6.5%水溶
液 270ml
オイル分散液−1 20ml
ラテックス分散液(昭和高分子社製 AE−803) 22ml
エタノール 8ml
純水で全量を1000mlに仕上げる。
【0106】
(第3層用塗布液)
シリカ分散液D−2 630ml
ポリビニルアルコール(クラレ社製;PVA203)10%水溶液 5ml
ポリビニルアルコール(平均重合度:3800 ケン化度88%)6.5%水溶
液 270ml
オイル分散液−1 10ml
ラテックス分散液(昭和高分子社製 AE−803) 5ml
エタノール 3ml
純水で全量を1000mlに仕上げる。
【0107】
(第4層用塗布液:最上層)
シリカ分散液D−2 660ml
ポリビニルアルコール(クラレ社製;PVA203)10%水溶液 5ml
ポリビニルアルコール(平均重合度:3800 ケン化度88%)6.5%水溶
液 250ml
カチオン性界面活性剤−1の4%水溶液 3ml
サポニンの25%水溶液 2ml
エタノール 3ml
純水で全量を1000mlに仕上げる。
【0108】
【化4】
【0109】
上記の様に調製した各塗布液を、20μmの濾過精度を持つアドバンテック東洋社製のTCPD−30フィルターで濾過した後、TCPD−10フィルターで濾過した。
【0110】
[記録用紙の作成]
次に、上記の各塗布液を下記に記載の湿潤膜厚となるよう、40℃で両面にポリエチレンを被覆した紙支持体(RC紙)上に、スライドホッパー型コーターを用いて4層同時塗布した。
【0111】
〈湿潤膜厚〉
第1層:42μm
第2層:39μm
第3層;44μm
第4層:38μm
なお、上記RC紙は幅が約1.5m、長さが約4000mのロール上に巻かれた下記の支持体を用いた。
【0112】
使用したRC紙は、含水率が8%で、坪量が170gの写真用原紙表面を、アナターゼ型酸化チタンを6%含有するポリエチレンを厚さ35μmで押し出し溶融塗布し、裏面には厚さ40μmのポリエチレンを厚さ35μmで押し出し溶融塗布した。表面側はコロナ放電した後、ポリビニルアルコール(クラレ社製 PVA235)を記録媒体1m2当り0.05gになるように下引き層を塗布し、裏面側にはコロナ放電した後、Tgが約80℃のスチレン・アクリル酸エステル系ラテックスバインダー約0.4g、帯電防止剤(カチオン性ポリマー)0.1gおよび約2μmのシリカ0.1gをマット剤として含有するバック層を塗布した。
【0113】
インク受容層塗布液の塗布後の乾燥は、5℃に保った冷却ゾーンを15秒間通過させて膜面の温度を13℃にまで低下させた後、複数設けた乾燥ゾーンの温度を適宜設定して乾燥を行った後、ロール状に巻き取って比較の記録用紙1を得た。
【0114】
記録用紙−2:「オイル分散液−1」の調製において、酸化防止剤(AO−1)をPoly bd R45HT(出光石油化学(株)製;数平均分子量2,800)に替えた以外は記録用紙−1と同様にして記録用紙−2を作製した。
【0115】
記録用紙−3:「オイル分散液−1」の調製において、酸化防止剤(AO−1)をPoly bd R15HT(出光石油化学(株)製;数平均分子量1,200)に替えた以外は記録用紙−1と同様にして記録用紙−3を作製した。
【0116】
記録用紙−4:「オイル分散液−1」の調製において、酸化防止剤(AO−1)をPoly oil 130 (日本ゼオン(株)製;数平均分子量3,000)に替えた以外は記録用紙−1と同様にして記録用紙−4を作製した。
【0117】
記録用紙−5:「オイル分散液−1」の調製において、酸化防止剤(AO−1)をPoly oil 110 (日本ゼオン(株)製;数平均分子量1,600)に替えた以外は記録用紙−1と同様にして記録用紙−5を作製した。
【0118】
記録用紙−6:「オイル分散液−1」の調製において、酸化防止剤(AO−1)をNisso PB B−1000 (日本曹達(株)製;数平均分子量900〜1,300)に替えた以外は記録用紙−1と同様にして記録用紙−6を作製した。
【0119】
記録用紙−7:「オイル分散液−1」の調製において、酸化防止剤(AO−1)を日石ポリブタジエン E−1000−8(新日本石油化学(株)製;数平均分子量約1,000)に替えた以外は記録用紙−1と同様にして記録用紙−7を作製した。
【0120】
記録用紙−8:「オイル分散液−1」の調製において、酸化防止剤(AO−1)をダイソーダップS(ダイソー(株)製ポリアリルフタレート、重量平均分子量約35,000)に替えた以外は記録用紙−1と同様にして記録用紙−8を作製した。
【0121】
記録用紙−9:記録用紙−1の作製において、第1層用塗布液〜第3層用塗布液のオイル分散液を同量の変性スチレン−ブタジエンラテックスLX438C(日本ゼオン(株)製)に替えた以外は、記録用紙−1と同様にして、記録用紙−9を作製した。
【0122】
記録用紙−10:記録用紙−2の作製において、シリカ分散液B−1の調製に用いた気相法シリカをアエロジル200(日本アエロジル社製)に代えてそのまま、シリカ分散液D−1およびシリカ分散液D−2の調製を行った以外は、記録用紙−2と同様にして、記録用紙−10を作製した。
【0123】
記録用紙−11:記録用紙−2の作製において、シリカ分散液B−1の調製に用いた気相法シリカをアエロジル50(日本アエロジル社製)に代えてそのまま、シリカ分散液D−1およびシリカ分散液D−2の調製を行った以外は、記録用紙−2と同様にして、記録用紙−11を作製した。
【0124】
記録用紙−12:記録用紙−1の作製において、第1層用塗布液〜第3層用塗布液にオイル分散液を添加しなかった以外は、記録用紙−1と同様にして、記録用紙−12を作製した。
【0125】
記録用紙−13:Poly bd R45HT(出光石油化学(株)製;数平均分子量2,800)を酢酸エチルに溶解し、10%の溶液を調製し、スプレー塗布を行い記録用紙−1にPoly bd R45HTの付き量が0.5g/m2になるように均一に塗布した後乾燥し、記録用紙−13を作製した。
【0126】
記録用紙−14:記録用紙−13の作製においてPoly bd R45HTに替えてPoly oil 130(日本ゼオン(株)製)を用いた以外は記録用紙−13と同様に記録用紙−14を作製した。
【0127】
記録用紙−15:記録用紙−13の作製においてPoly bd R45HTに替えてハイカーATBN1300×16(日本ゼオン(株)製;数平均分子量3,000〜3,500)を用いた以外は記録用紙−13と同様に記録用紙−15を作製した。
【0128】
記録用紙−16:記録用紙−13の作製においてPoly bd R45HTに替えてJSR RB−810(JSR(株)製;重量平均分子量150,000)を用いた以外は記録用紙−13と同様に記録用紙−16を作製した。
【0129】
記録用紙−17:ジルコゾールZA(第一稀元素化学工業(株)製;酢酸ジルコニル水溶液)を純水で希釈し、スプレー塗布を行い記録用紙−2に酢酸ジルコニルの付き量が0.5g/m2になるように均一に塗布した後乾燥し、記録用紙−17を作製した。
【0130】
以上のようにして得られたインクジェット記録用紙1〜17についてそれぞれ以下の項目の評価を行った。
【0131】
(画像保存性)
上記のようにして得られた記録用紙をキヤノン株式会社製BJ−F870を用い、シアンのベタ画像を記録した後、外気を直接プリント画像に1ケ月間吹き付けてシアン画像のガス褪色性を評価した。褪色性は初期濃度の残存率で示した。
【0132】
(観察粒径)
記録層の断面を電子顕微鏡で観察し、画像解析によって粒子径を求めた。
【0133】
(斑性)
キャノン製インクジェットプリンタBJ−F870にて緑のベタをプリントして、その均一性を目視評価した。
【0134】
◎;全く均一なベタ画像である
○;観察距離30cm以上で均一に感じられる
△;観察距離60cm以上で均一に感じられる
×;観察距離60cm以上でもまだらに感じられる。
【0135】
(ひび割れ)
塗布面を目視で観察し、ひび割れ状態を以下の基準で評価した。
【0136】
◎:ひび割れがほとんど観察されない
○:0.5mm未満の微小なひび割れが数点観察される
△:0.5mm以上の粗大なひび割れが数点観察される
×:0.5mm以上の粗大なひび割れが全面に観察される。
【0137】
(にじみ)
セイコーエプソン社製インクジェットプリンタPM900Cにてマゼンタの細線(幅1/300×2.54cm)をプリントし、23℃、80%RHの環境に一週間放置して、細線の線幅の増大率を求めた。すべての評価結果を表1に示す。
【0138】
【表1】
【0139】
表1によれば、比較例の記録用紙に対し、本発明の記録用紙は、褪色性、ひび割れ、斑、にじみの各特性が、いずれも優れており、総合的に高画質の画像が得られることが分かる。
【0140】
【発明の効果】
実施例で実証した如く、本発明による水性染料インク用インクジェット記録用紙は、画像保存性を改良し、インク吸収性に優れ、にじみのない、高画質の画像が得られる。
Claims (3)
- 分子内に非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を複数個有する化合物として数平均分子量500〜10,000のポリブタジエンと気相法シリカ、親水性バインダー、及びカチオン性樹脂とを含む、多孔質インク受容層を有することを特徴とする水性染料インク用インクジェット記録用紙。
- 前記多孔質インク受容層が、平均粒径が30〜200nm以下の気相法シリカと親水性バインダーからなり、気相法シリカと親水性バインダーの比が3〜10であることを特徴とする請求項1に記載の水性染料インク用インクジェット記録用紙。
- 前記多孔質インク受容層が、多価金属塩を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の水性染料インク用インクジェット記録用紙。
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