JP3969030B2 - 水素を選択的に酸化する触媒、及びこれを用いる炭化水素の脱水素方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は水素及び炭化水素を含有するガス中の水素を、酸素で選択的に接触酸化するための非白金族系触媒に関するものである。また本発明は、炭化水素、水素及び酸素を含有するガスを、この触媒と接触させてガス中の水素を選択的に酸化する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
炭化水素をガス状で脱水素触媒に接触させて、オレフィン性不飽和結合を有する炭化水素を製造することは公知である。例えばスチレンの主たる製造方法は、エチルベンゼンをガス状で鉄系の脱水素触媒と接触させて脱水素する方法である。
しかしながら、この脱水素反応は吸熱反応なので、反応の進行と共にガスの温度が低下する。また、脱水素反応は平衡反応なので、副生する水素が反応の進行を阻害する。これらの理由により、エチルベンゼンからスチレンへの脱水素反応を高い反応率で行うことは困難である。
【0003】
この困難を回避する方法として、脱水素反応により生成したスチレン、水素及び未反応エチルベンゼンを含むガスに、酸素含有ガスを混合して酸化触媒と接触させ、ガス中の水素を選択的に酸化したのち、再び脱水素触媒と接触させることが検討されている。この方法によれば、水素の選択的酸化により反応物の温度が上昇し、かつ反応の進行を阻害する水素が除去されるので、後続する脱水素反応を有利に進行させることができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
脱水素反応により生成したガス中の水素を選択的に酸化する触媒としては、一般に白金族元素を活性成分とするものが好ましいとされており、白金族元素を含む触媒が多数提案されている。しかしながら、白金族元素は産出量が少なくて極めて高価なので、白金族元素を含まずに、しかも白金族元素を含むものと同等の性能を有する触媒が求められている。本発明はこのような要求に応えようとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、活性成分として元素の周期律表第11族の銅及び銀より成る群から選ばれた元素と、第5族のバナジウム、ニオブ及びタンタルより成る群から選ばれた元素とを含有し、白金族元素を実質的に含有していない触媒に、炭化水素、水素及び酸素を含有するガスを接触させることにより、炭化水素と共存している水素を選択的に酸化することができる。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明に係る水素の選択的酸化触媒は、活性成分として周期律表第11族及び第5族の元素を含んでいる。第11族の元素としては銅又は銀を用いるが、特に銅を用いるのが好ましい。所望ならば銅と銀を併用することもできる。第5族の元素としてはバナジウム、ニオブ又はタンタルを用いるが、ニオブ又はタンタルを用いるのが好ましい。特に好ましいのはニオブである。第11族元素も所望ならば2種又は3種を併用してもよい。
【0007】
触媒には、これらの活性成分に加えて、触媒活性の適正化及び触媒強度の向上を計るため、耐熱性無機担体を併用することもできる。耐熱性無機担体としてはアルミナ、シリカ、チタニアなどを用いるのが好ましいが、これら以外の耐熱性無機担体、例えば酸化ゲルマニウム、酸化スズ、酸化ガリウムなどを用いることもできる。所望ならば耐熱性無機担体はいくつかを併用してもよい。アルミナとしてはγ−アルミナやα−アルミナなどを用いるが、特にα−アルミナを用いるのが好ましい。シリカ及びチタニアは結晶性でも無定形であってもよい。
【0008】
触媒は活性成分である第11族元素を0.001〜10重量%、特に0.05〜5重量%含有しているのが好ましい。第11族元素の含有率が低いと触媒性能が低下する傾向がある。逆に第11族元素の含有率が10重量%を超えて高くなっても触媒性能には殆んど影響しない。第11族元素の触媒中での存在形態は不明であるが、1価又は2価の酸化物として存在するものと考えられる。一部は0価、すなわち金属として存在することも考えられる。
【0009】
触媒中の第5族元素の含有量は5価の酸化物に換算して5重量%以上であるのが好ましい。第5族元素は3〜5価の状態、特に5価の酸化物として存在しているものと考えられるが、ニオブ及びタンタルの一部は0価、すなわち金属として存在することも考えられる。
触媒の調製は常法により行うことができる。例えば第5族元素の化合物を焼成して酸化物とし、次いでこれに第11族元素の無機酸塩や有機酸塩を含む溶液を含浸させて乾燥・焼成することにより触媒を調製することができる。また担体付触媒の場合には、前述の耐熱性無機担体に第5族元素の化合物を含む溶液を含浸させて乾燥・焼成し、次いでこれに第11族元素の化合物を含む溶液を含浸させて乾燥・焼成することにより触媒を調製することができる。担体への第5族元素と第11族元素の担持順序は任意であり、担持操作を交互に複数回行ったり、両者を同時に担持させることもできる。また、所望ならば第11族元素を担持させたのち、水素その他の還元剤で処理してもよい。
【0010】
本発明に係る触媒を用いる水素の選択的酸化反応は、通常300〜800℃で行われる。これよりも温度が低いと選択性はあまり変化しないが活性が低下する。逆に温度が高過ぎると活性は向上するが選択性が低下する。好ましい反応温度は400〜700℃である。反応圧力は減圧から若干加圧、特に0.0049〜0.98MPaが好ましい。反応に供するガス中の水素と酸素との比率は、化学量論量ないしはそれ以下とするのが好ましい。この場合、酸素が全量消費されると触媒上にコーキングが起こることがあるが、水素の選択的酸化反応の障害とはならない。
【0011】
本発明に係る触媒を用いる水素の選択的酸化反応の代表的なプロセスでは、先ず脱水素触媒を充填した第1脱水素反応器に、原料の炭化水素を好ましくは水蒸気との混合物として高温で供給して、脱水素反応を生起させる。脱水素反応器から流出した反応生成ガスは酸素含有ガス、例えば空気を混合して、本発明に係る触媒を充填した酸化反応器に供給し、水素を選択的に酸化すると共に反応熱によりガス温度を上昇させる。酸化反応器から流出した反応生成ガスは、次いで脱水素触媒を充填した第2脱水素反応器に供給し、残存している原料炭化水素を脱水素する。なお第2脱水素反応器から流出した反応生成ガスは、更に酸素含有ガスを混合したのち第2酸化反応器及び第3脱水素反応器を順次通過させることにより、原料炭化水素の反応率を更に向上させることもできる。脱水素反応に供する原料炭化水素としては脱水素により炭素−炭素二重結合を形成し得る任意のものを用い得るが、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、エチルナフタレン、ジエチルナフタレンなどのような、脱水素可能な炭化水素置換基を有する芳香族化合物を用いるのが好ましい。特に好ましいのはエチルベンゼンであり、常用の鉄系脱水素触媒を充填した脱水素反応器と、本発明に係る活性成分として第11族元素と第5族元素とを含有し、かつ白金族元素を実質的に含有しない酸化触媒を充填した酸化反応器とを組合せて2〜5段階の脱水素反応を行わせることにより、エチルベンゼンから高収率でスチレンを製造することができる。
【0012】
【実施例】
以下に実施例により本発明を更に具体的に説明する。
実施例1
触媒の調製;五酸化ニオブ(Nb2O5)70gに水100gを加えて混練した。混練物を乾燥したのち押出し成型して直径3mmの円柱状の成型品とした。これを120℃で3時間乾燥し、次いでマッフル炉に装入し1200℃で3時間焼成したのち、長さ1〜5mmに切断してペレットとした。
ロータリーエバポレーターに硝酸銅水溶液21ml(銅として0.14g)を仕込み、これに上記で得た五酸化ニオブのペレットを投入し、減圧下に60℃で水を蒸発させてペレットに硝酸銅を担持させた。これを120℃で3時間乾燥したのち、大気中で650℃、3時間焼成して銅/酸化ニオブ触媒を得た。
【0013】
反応;内径6.7mmの石英製反応管に、触媒とほぼ同粒径の石英チップを充填し、その上に上記で調製した触媒2mlを充填し、更にその上に上記の石英チップを充填した。この反応管に、10%の水素を含む水素−窒素混合ガスを600℃で1時間通して、触媒の予備還元処理を行った。次いで反応管に、エチルベンゼン、スチレン、水蒸気、水素、酸素及び窒素を1:0.4:11.5:0.43:0.18:0.69(モル比)で含む原料ガスを、常圧下、580℃、SV=6550hr-1(0℃、1気圧換算)で通して、水素を選択的に酸化した。反応管流出ガスは冷却器で冷却して可凝縮成分を凝縮させた。反応開始2時間後に反応管出口ガス及び受器の凝縮液をガスクロマトグラフィーで分析した。その結果、酸素反応率は100%で、水素転化率49.0%、スチレン及びエチルベンゼン燃焼率1.1%であった。なお、スチレン及びエチルベンゼン燃焼率とは、反応管に供給したスチレン及びエチルベンゼンの合計モル数に対する反応で消失したスチレン及びエチルベンゼンの合計モル数の百分率である。
【0014】
比較例1
五酸化ニオブの代りにアルミナ(Al2O3)を用いた以外は実施例1と同様にして触媒調製を行い、銅/アルミナ触媒を得た。
この触媒を用いた以外は実施例1と同様にして水素の酸化反応を行った。反応開始2時間後に反応管出口ガス及び受器の凝縮液をガスクロマトグラフィーで分析した。その結果、酸素反応率は100%で、水素転化率10.5%、スチレン及びエチルベンゼン燃焼率1.5%であった。
Claims (9)
- 活性成分として、元素の周期律表第11族の銅及び銀より成る群から選ばれた元素と、第5族のバナジウム、ニオブ及びタンタルより成る群から選ばれた元素とを含有し、白金族元素を実質的に含有していないことを特徴とする、水素及び炭化水素を含有するガス中の水素を酸素で選択的に接触酸化するための触媒。
- 触媒全体に占める第11族の銅及び銀より成る群から選ばれた元素の割合が0.001〜10重量%であることを特徴とする請求項1記載の触媒。
- 触媒全体に占める第5族のバナジウム、ニオブ及びタンタルより成る群から選ばれた元素の割合が、5価の酸化物として5重量%以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の触媒。
- 第5族の元素としてニオブ及びタンタルより成る群から選ばれた元素を含有していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の触媒。
- 耐熱性無機担体を含有していることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の触媒。
- 請求項1ないし5のいずれかに記載の触媒に、炭化水素、水素及び酸素を含有するガスを接触させて、ガス中の水素を選択的に酸化することを特徴とする、炭化水素と共存する水素の選択的酸化方法。
- 炭化水素、水素及び酸素を含有するガスを300〜800℃で触媒と接触させることを特徴とする請求項6記載の水素の選択的酸化方法。
- 原料炭化水素を含むガスを脱水素触媒と接触させて未反応の原料炭化水素、脱水素された炭化水素及び水素を含むガスを生成させる第1脱水素工程、第1脱水素工程から流出したガスに酸素含有ガスを混合したのち請求項1ないし5のいずれかに記載の触媒と接触させてガス中の水素を選択的に酸化する酸化工程、及び酸化工程から流出したガスを脱水素触媒と接触させてガス中の原料炭化水素の脱水素を行う第2脱水素工程の3工程を少なくとも含むことを特徴とする炭化水素の脱水素方法。
- エチルベンゼンを含むガスを脱水素触媒と接触させてエチルベンゼン、スチレン及び水素を含むガスを生成させる第1脱水素工程、第1脱水素工程から流出したガスに酸素含有ガスを混合したのち請求項1ないし5のいずれかに記載の触媒と接触させてガス中の水素を選択的に酸化する酸化工程、及び酸化工程から流出したガスを脱水素触媒と接触させてガス中のエチルベンゼンをスチレンに脱水素する第2脱水素工程の3工程を少なくとも含むことを特徴とするエチルベンゼンの脱水素によるスチレンの製造方法。
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