JP3969006B2 - メモリーカード用熱可塑性樹脂組成物、その製造方法、メモリーカード - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、メモリーカード用熱可塑性樹脂組成物、このメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物、並びにこの熱可塑性樹脂組成物を用いて得たメモリーカードに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
メモリーカードは基板に半導体メモリーを実装して形成されるものであり、メモリーカード基板の半導体メモリーを実装する凹所を形成するため、その部分を部分的に極薄肉部として成形する必要がある。そこでこのような部分的に極薄肉部を成形するのに適した図1のような射出圧縮成形法が本出願人等によって提案されている(特願2001−040730として特許出願)。
【0003】
すなわち図1において1は一対の分割金型1a,1bからなる成形金型であり、各分割金型1a,1bの対向面にはキャビティ2を形成するための半部2a,2bがそれぞれ凹設してある。3は圧縮成形用のコアであって、一方の分割金型1aにその先部をキャビティ2内に突出する状態で配設してあり、他方の分割金型1bの側へさらに突出するようにスライド移動自在にしてある。4は分割金型1a,1bの間に形成したゲートである。
【0004】
そして、射出成形機から射出された溶融状態の成形材料5は、まず(A1)及び(B1)に示すように均一な平行流となってキャビティ2内を流れるが、コア3が突出する部分に達すると、コア3の先端面とキャビティ2の内面との間の箇所は狭く流動抵抗が大きいので、コア3の先端面とキャビティ2の内面の間を流れる成形材料5aの流速よりコア3の両側を流れる成形材料5bの流速が遅くなり、(A2)及び(B2)に示すように、両成形材料5a,5bの先端位置に差ができ、このままでは(A3)及び(B3)に示すように未充填部分が生じたり、あるいは成形材料5b,5bがキャビティ2の末端部で先に合流してウエルドラインが生じたりするおそれがある。そこで、(A3)及び(B3)のように不完全な状態でキャビティ2内に成形材料5が充填された後、射出を停止し、さらにコア3を分割金型1bの側へスライドさせてキャビティ2内に突出させることによって、(A4)及び(B4)に示すように、コア3で圧縮成形を行ない、コア3の先端面とキャビティ2の内面の間に成形材料5を完全に充填させると共に極薄肉部11を成形することができるものである。
【0005】
このようにして、半導体メモリーを実装するための凹所12を極薄肉部11の成形によって形成したメモリーカード基板10を射出圧縮成形法で作製することができるものである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記のような射出圧縮成形法で極薄肉部を成形するにあたって、既存の成形材料の樹脂では成形性、特に射出時の流動性や圧縮時の圧縮性に問題があり、成形して得られたメモリーカード基板に変形が起こり易いという問題があった。
【0007】
また、射出圧縮成形法で極薄肉部を成形する技術に関連するものとして、特開平10−157358号公報で提案されたものがあり、この公報では使用する成形材料の原料樹脂としてポリカーボネート樹脂やABS樹脂などが挙げられているが、成形性の点でまだ十分に満足できるレベルではない。
【0008】
特に、ポリカーボネート樹脂は耐熱性や耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂として広く使用されているものであり、メモリーカード用の樹脂として好ましいものであるが、ポリカーボネート樹脂はその流動性が低く、又そのポリマー構造から0℃以下での耐衝撃性が低く、さらに成形品の肉厚によつて耐衝撃性に大幅に差があることなどの問題がある。このため従来からこれらの欠点を改良する方法が多く提案されており、例えばポリカーボネート樹脂にABS樹脂をブレンドする方法が特公昭38−5225号公報、特公昭55−27579号公報、特公昭57−21530号公報、特公昭58−12300号公報、特公昭58−46269号公報、特開昭57−40536号公報、特開平58−149938号公報及び特開平57−12047号公報等に開示されている。しかし、ポリカーボネート樹脂にABS系樹脂を添加することによって、成形性と耐衝撃性をある程度は改善できるものの、まだ十分なレベルでない。その原因は、両樹脂間の相溶性のレベルが低い為と考えられる。そこで、相溶性を高める為に相溶化剤の開発が進められており、例えば、特開平7−179741号公報で提案されている。しかしこのように相溶化剤を添加すると今度は流動性が低下してしまうとういう問題があった。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、流動性が良好であって薄肉部を成形性良く成形することができ、しかも耐熱性や耐衝撃性に優れたメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物、その製造方法、メモリーカードを提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1に係るメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂、(B)ABS系樹脂、(C)ポリカーボネート系樹脂セグメント(a)に対して、ビニル系樹脂セグメント(b)が、分岐、または架橋構造的に化学結合したグラフト共重合体、(D)結晶性樹脂、(E)結晶核剤を含有して成ることを特徴とするものである。
【0011】
また請求項2の発明は、請求項1において、上記(A)ポリカーボネート樹脂が、測定温度280℃、荷重2.1kgでのMFR値が20g/分以上のものであること特徴とするものである。
【0012】
また請求項3の発明は、請求項1又は2において、上記(B)ABS系樹脂が、アイゾット衝撃強度が200J/m以上のものであることを特徴とするものである。
【0013】
また請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかにおいて、(A)ポリカーボネート樹脂と(B)ABS系樹脂の合計中、(A)ポリカーボネート樹脂を30〜90質量%、(B)ABS系樹脂を70〜10質量%を含有して成ることを特徴とするものである。
【0014】
また請求項5の発明は、請求項1乃至4のいずれかにおいて、上記(D)結晶性樹脂が、融点が150℃以上のものであることを特徴とするものである。
【0015】
また請求項6の発明は、請求項1乃至5のいずれかにおいて、上記(D)結晶性樹脂が、溶融させたものを液体窒素中に急冷し、これをDSCを用いて、昇温速度10℃/分で30℃〜300℃の範囲で測定した際の、結晶化開始温度が100℃以上のものであることを特徴とするものである。
【0016】
また請求項7の発明は、請求項1乃至6のいずれかにおいて、上記(D)結晶性樹脂が、ポリエチレンテレフタレートであることを特徴とするものである。
【0017】
また請求項8の発明は、請求項1乃至7のいずれかにおいて、上記(D)結晶性樹脂の配合量が、(A)ポリカーボネート樹脂と(B)ABS系樹脂の合計量100質量部に対して、0.5〜10質量部であることを特徴とするものである。
【0018】
また請求項9の発明は、請求項1乃至8のいずれかにおいて、上記(E)結晶核剤が、タルク、カオリン、マイカ、シリカ、ガラスビーズ、フレーク、L/Dが50未満の無機繊維、ウイスカ−状無機充填材から選択された少なくとも1つであることを特徴とするものである。
【0019】
また請求項10の発明は、請求項9において、上記(E)結晶核剤のタルクが、焼成タルクと酸処理タルクの少なくとも一方であることを特徴とするものである。
【0020】
また請求項11の発明は、請求項9において、上記(E)結晶核剤のウイスカ−状無機充填材が、酸化亜鉛ウイスカーであることを特徴とするものである。
【0021】
また請求項12の発明は、請求項1乃至11のいずれかにおいて、上記(E)結晶核剤の配合量が、(D)結晶性樹脂100質量部に対して、0.05〜10質量部であることを特徴とするものである。
【0022】
また請求項13の発明は、請求項1乃至12の上記(C)グラフト共重合体において、ポリカーボネート系樹脂セグメント(a)とビニル系樹脂セグメント(b)の比率が、ポリカーボネート系樹脂セグメント(a)が5〜95質量%、ビニル系樹脂セグメント(b)が95〜5質量%であることを特徴とするものである。
【0023】
また請求項14の発明は、請求項1乃至13の上記(C)グラフト共重合体において、ビニル系樹脂セグメント(b)が、上記の一般式「化1」で示される繰り返し単位からなる重合体セグメント、又はN−置換マレイミド単位からなる重合体セグメント、又はα,β−不飽和酸のグリシジルエステル単位からなる重合体セグメントであることを特徴とするものである。
【0024】
また請求項15の発明は、請求項14の上記(C)グラフト共重合体において、ビニル系樹脂セグメント(b)のN−置換マレイミド単位からなる重合体セグメントが、N−シクロヘキシルマレイミド、又はN−フェニルマレイミド重合体から選択された少なくとも1つを含むことを特徴とするものである。
【0025】
また請求項16の発明は、請求項14の上記(C)グラフト共重合体において、ビニル系樹脂セグメント(b)のα,β−不飽和酸のグリシジルエステル単位からなる重合体セグメントが、メタクリル酸のグリシジルエステルの重合体を含むことを特徴とするものである。
【0026】
また請求項17の発明は、請求項1乃至16のいずれかにおいて、上記(C)グラフト共重合体が、熱重量分析において、昇温10℃/分、温度330℃での質量減少が、5質量%以下のものであることを特徴とするものである。
【0027】
また請求項18の発明は、請求項1乃至17のいずれかにおいて、上記(C)グラフト共重合体の配合量が、(A)ポリカーボネート樹脂と(B)ABS系樹脂の合計量100質量部に対して、0.5〜10質量部であることを特徴とするものである。
【0028】
また請求項19の発明は、請求項1乃至18のいずれかにおいて、スパイラルフロー金型(金型内の流路断面の厚み0.8mm、幅6.0mm)に、シリンダー温度300℃、射出圧力98.1MPa(1000kg/cm2)、金型温度85℃の条件で射出成形したときの、成形されたスパイラル長さが80mm以上であることを特徴とするものである。
【0029】
本発明の請求項20に係るメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、上記の請求項1乃至19のいずれかに記載のメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物を調製するにあたって、まず(D)〜(E)の成分を混練し、この後、この混練物を他の成分と2度めの混練をすることを特徴とするものである。
【0030】
本発明の請求項21に係るメモリーカードは、上記の請求項1乃至19のいずれかに記載のメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物を用いて、射出圧縮成形法により形成されて成ることを特徴とするものである。
【0031】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0032】
本発明に係るメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂、(B)ABS系樹脂、(D)結晶性樹脂、(E)結晶核剤、及び(C)グラフト共重合体からなるものである。
【0033】
本発明において用いられるポリカーボネート樹脂(A)は、ジヒドロキシジアリールアルカンから得られるものであり、任意に枝分かれしていてもよい。このポリカーボネート樹脂は公知の方法により製造することができるものであり、一般にヒドロキシ及び/又はポリヒドロキシ化合物をホスゲン又は炭酸のジエステルと反応させることにより製造される。ジヒドロキシジアリールアルカンはヒドロキシ基に関しオルトの位置にアルキル基、塩素原子又は臭素原子を有するものも含むものであり、ジヒドロキシジアリールアルカンの好ましい具体例としては4,4′−ジヒドロキシ−2,2−ジフエニルプロパン(ビスフエノールA)、テトラメチルビスフエノールA、ビス−(4−ヒドロキシフエニル)−p−ジイソフロピルベンゼン等を挙げることができる。また分岐したポリカーボネート樹脂は、例えばヒドロキシ化合物の一部、例えば0.2〜2モル%をポリヒドロキシで置換することにより製造される。ポリヒドロキシ化合物の具体例としては1,4−ビス−(4′,4,2′−ジヒドロキシトリフエニルメチル)−ベンゼン、フロログルシノール、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフエニル)−ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフエニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフエニル)−ベンゼン、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフエニル)−エタン、2,2−ビス〔4,4−(4,4′−ジヒドロキシフエニル)−シクロヘキシル〕−プロパン等を挙げることができる。
【0034】
またポリカーボネート樹脂(A)は、MFR(メルトフローレート;JIS K 7210)値が、測定温度280℃、荷重2.1kgの測定条件で20g/分以上のものが好ましい。MFR値が20g/分未満であると、流動性が不十分であって成形性が悪化するおそれがある。またMFR値が100g/分を超えると、樹脂の機械的強度が低下し実用上使用できなくなるおそれがあるので、MFR値が100g/分以下であることが好ましい。
【0035】
ポリカーボネート樹脂(A)は市販品を使用することができるものであり、例えば、住友ダウ(株)製の「カリバー」、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製の「ユーピロン」、帝人化成(株)製の「パンライト」等(いずれも商品名)を挙げることができる。
【0036】
上記ポリカーボネート樹脂(A)は1種を単独で用いる他、2種以上を混合して用いることができるものであり、ポリカーボネート樹脂(A)の配合量はポリカーボネート樹脂(A)と下記のABS系樹脂(B)の合計中において、30〜90質量%の範囲になるように設定するのが好ましい。ポリカーボネート樹脂(A)の配合量が30質量%未満では、耐熱性が不十分になり、逆に90質量%を超える場合は、成形性や耐薬品性等の点で劣るので、それぞれ好ましくない。
【0037】
次に、本発明において用いられるABS系樹脂(B)は、ゴム状重合体の存在下に、スチレン、α−メチルスチレン等で代表される芳香族ビニル系単量体、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル等で代表される(メタ)アクリル酸エステル系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等で代表されるシアン化ビニル系単量体、N−フェニルマレイミドで代表されるα,β−不飽和ジカルボン酸イミド系単量体などから選ばれた少なくとも1種のビニル系単量体を、グラフト共重合させて得られるものであり、その代表例としてはABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、MBS(メチルメタクリレート−スチレン−ブタジエン)樹脂、AES(アクリロニトリル−エチレン−スチレン)樹脂などを挙げることができる。
【0038】
ここでゴム状重合体としてはポリブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)等のジエン系ゴム、ポリブチルアクリレート、ポリプロピルアクリレート等のアクリル系ゴムおよびエチレン−プロピレン−ジエン系ゴム(EPDM)等を用いることができる。
【0039】
またこのゴム状重合体にグラフト共重合せしめるビニル系単量体は芳香族ビニル系単量体0〜90質量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体0〜100質量%およびシアン化ビニル系単量体及び/又はα,β−不飽和ジカルボン酸イミド系単量体0〜40質量%の割合が適当であり、この組成外においては耐衝撃性や他の機械的性質が阻害される場合がある。ゴム状重合体にグラフト共重合せしめるビニル系単量体の組合せとしてはスチレン/アクリロニトリル、スチレン/メタクリル酸メチル/アクリロニトリル、メタクリル酸メチル単独、メタクリル酸メチル/アクリロニトリル、スチレン/メタクリル酸メチル、α−メチルスチレン/メタクリル酸メチル/アクリロニトリルなどが挙げられる。ただしABS系樹脂(A)におけるゴム状重合体とビニル系単量体の割合は重要であり、ゴム状重合体5〜80質量部、特に15〜70質量部の存在下に、ビニル系単量体95〜20質量部、特に85〜30質量部(合計100質量部)を重合することが必要である。ゴム状重合体の割合が5質量部未満では得られるABS系樹脂の耐衝撃性が不充分になり、また80質量部を超えると、得られるABS系樹脂の機械的性質が劣り、耐衝撃性改良効果も発現しないため好ましくない。
【0040】
ABS系樹脂(B)は、アイゾット衝撃強度が、200J/m以上であるものが好ましい。アイゾット衝撃強度が200J/m未満であると、組成物を成形して得られた成形品の衝撃強度が不十分になるおそれがある。アイゾット衝撃強度の上限値は特に設定されるものではないが、実用上の上限は320J/mである。尚、このアイゾット衝撃強度の数値は、ASTM D256に従って、13mm×65mm×6.4mmのアイゾット試験片(ノッチ付き)について測定されたものである。
【0041】
尚、上記のABS系樹脂(B)は乳化重合、塊状重合および塊状−懸濁重合などの公知の重合法により製造することができるものであるが、ABS系樹脂としては上記のグラフト法によって得られたもののみならず、グラフト・ブレンド法によって得られたものも同様に使用できるものであり、この方法によって得られるABS系樹脂も同様に広く知られている。ABS系樹脂(B)は市販品を使用することができるものであり、例えば、日本エイアンドエル(株)製の「クララスチック」、「サンタック」、東レ(株)製の「トヨラック」等(いずれも商品名)を挙げることができる。
【0042】
上記のABS樹脂(B)は1種を単独で用いる他、2種以上を混合して用いることができるものであり、ABS樹脂(B)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)とABS系樹脂(B)の合計中において、10〜70質量%の範囲になるように設定8するのが好ましい。ABS樹脂(B)の配合量が10質量%未満では、成形性が悪化するおそれがあり、逆に70質量%を超える場合は、成形品の耐熱性が低下するおそれがある。
次に、本発明で(D)成分として用いる結晶性樹脂は、融点150℃以上のものが使用される。耐熱性を高く得る点で融点が150℃以上であることが好ましいのである。結晶性樹脂(D)はポリカーボネート樹脂(A)とABS系樹脂(B)と併用して使用されるため、融点が高すぎると成形温度が高くなって樹脂の分解が生じるので、結晶性樹脂(D)は350℃以下であることが好ましい。
【0043】
この結晶性樹脂(D)として具体的には、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、シンジオタクチック構造を有するポリスチレン共重合体等などを用いることができ、これらを1種単独で用いる他、複数種を併用することもできる。特に好ましいのは、溶融させたものを液体窒素中に急冷したサンプルを、DSC(Differential Scanning Calorimeter;差動走査熱量計)を用いて10℃/分の昇温速度30℃〜300℃の範囲で測定した際に、結晶化開始温度が100℃以上で観察されるものである。このように100℃以上で結晶化温度が観察されるものは、実際の成形時において、金型中での溶融状態が長くなり射出圧縮成形方法において外観良好な成形品を得ることができるものである。結晶性樹脂(D)として最も好ましいのは、結晶化の遅いポリエチレンテレフタレートである。これらは市販品を使用することができる。
【0044】
結晶性樹脂(D)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)とABS系樹脂(B)の合計量100質量部に対して、0.5〜10質量部の範囲が好ましい。結晶性樹脂(D)の配合量が0.5質量部満では、成形性の向上の効果を十分に得ることができず、逆に10質量部を超える場合は、成形品の外観が悪化する傾向がある。
【0045】
次に、本発明で(E)成分として用いる結晶核剤としては、タルク、マイカ、カオリン、ガラスビーズ、珪藻土、シリカ、炭酸カルシウム、フレーク、L/D(Lは平均長さ、Dは平均直径)<50の無機繊維、ウイスカー状無機充填材などを挙げることができ、これらは1種単独で用いる他、複数種を併用することもできる。結晶核剤(E)は粒径が50μm以下のものが好ましい。これらの無機粉末である結晶核剤(E)は市販のカップリング剤で処理をしておいてもよい。
【0046】
上記のタルクとしては、焼成タルクや酸処理タルクが好ましい。また無機繊維として、ガラスファイバー、ミルドファイバーなどを挙げることができるものであり、これらは市販品を使用できる。さらにウイスカー状無機充填材としては、例えば四国化成工業(株)製の「アルボレックス」、松下アムテック(株)製の「パナテトラ」などを挙げることができる。このウイスカー状無機充填材の中では、酸化亜鉛ウイスカーが特に好ましい。この酸化亜鉛ウイスカーの中でも、3次元構造を有するものが好ましい。3次元構造とは、核部とこの核部から異なる複数軸方向に伸びた針状結晶部とからなるものをいい、前期針状結晶部の基部の径が、0.3〜14μmであり、基部から先端までの長さが3〜200μmであるものが好ましく用いられる。これらは、pHが中性付近の為、ポリカーボネート樹脂の分子量低下等を引き起こし難いので適している。
【0047】
結晶核剤(E)の配合量は、結晶性樹脂(D)100質量部に対して、0.05〜10質量部の範囲が好ましい。結晶核剤(E)の配合量が0.05質量部満では、添加による効果を十分に得ることができず、逆に10質量部を超える場合は、成形時の外観が低下する傾向がある。
【0048】
次に、本発明において使用されるグラフト共重合体(C)は、ポリカーボネート系樹脂セグメント(a)とビニル系樹脂セグメント(b)から構成されるものであり、ポリカーボネート系樹脂セグメント(a)にビニル系樹脂セグメント(b)が分岐、または架橋構造的に化学結合したものである。
【0049】
ポリカーボネート系樹脂セグメント(a)には既述したポリカーボネート樹脂(A)と同じものを使用することができる。このときのポリカーボネート樹脂は粒径が0.1〜5mm程度の粉状又はペレット状であることが好ましい。粒径が0.1mm未満であると、グラフト共重合体(C)を合成する際の作業性が低下し、粒径が5mmを超えると、グラフト共重合体(C)を合成する際の懸濁液中での分散が困難であるばかりでなく、ビニル系樹脂セグメント(b)を構成するビニル単量体等の含浸時間が長くなる問題が生じる。またポリカーボネート樹脂は多孔質であることが含浸する上でより好ましい。
【0050】
また、ビニル系樹脂セグメント(b)とは、上記の一般式「化1」で示される繰り返し単位からなる重合体セグメント、N−置換マレイミド単位からなる重合体セグメント、α,β−不飽和酸のグリシジルエステル単位からなる重合体セグメントであり、具体的には、スチレン、核置換スチレン、α−置換スチレンなどの芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、(メタ)アクリル酸エステル単量体、マレイミド単量体から選択される1種以上の単量体を重合して得られるビニル系樹脂のことである。特に、芳香族ビニル単量体を50質量%以上含むビニル系重合体は、相溶化効果が良好なために好ましい。
【0051】
また、グラフト共重合体(C)において、ビニル系樹脂セグメント(b)のN−置換マレイミド単位からなる重合体セグメントとして、N−シクロヘキシルマレイミド、又はN−フェニルマレイミド重合体から選択された少なくとも1つを含むグラフト共重合体であるものが好ましい。このグラフト共重合体(C)は、耐熱性が高いので好ましい。
【0052】
さらにグラフト共重合体(C)において、ビニル系樹脂セグメント(b)のα,β−不飽和酸のグリシジルエステル単位からなる重合体セグメントとしては、メタクリル酸のグリシジルエステルの重合体を含むグラフト共重合体が好ましい。このグラフト共重合体(C)は、グリシジル基を有することで更に相溶性を高めることができる為好ましい。
【0053】
グラフト共重合体(C)中のビニル系樹脂セグメント(b)の数平均重合度は好ましくは10〜5000、さらに好ましくは100〜2000である。数平均重合度が10未満であると、熱可塑性樹脂組成物を成形して得られた成形品の耐衝撃性を向上させることは可能であるが、耐熱性が低下するため好ましくない。また、数平均重合度が5000を超えると、溶融粘度が高くなり、成形性が低下したり、表面光沢が低下したりするために好ましくない。
【0054】
またグラフト共重合体(C)において、ポリカーボネート系樹脂セグメント(a)とビニル系樹脂セグメント(b)の比率は、ポリカーボネート系樹脂セグメントが好ましくは5〜95質量%、さらに好ましくは30〜90質量%、最も好ましくは50〜80質量%、従って、ビニル系樹脂は好ましくは95〜5質量%、さらに好ましくは70〜10質量%、最も好ましくは50〜20質量%である。ポリカーボネート系樹脂セグメントが5質量%未満あるいは95質量%を超えると、グラフト共重合体(C)の相溶化能力が低下するため、耐衝撃性などの機械的物性や耐熱性が低下するとともに、外観が悪化して好ましくない。
【0055】
そしてグラフト共重合体(C)の配合量は、ポリカーボネート系樹脂(A)とABS系樹脂(B)との合計量100質量部に対して0.5〜10質量部が好ましく、さらに好ましくは1〜10質量部の範囲である。グラフト共重合体(C)の配合量が0.5質量部未満であると、ポリカーボネート系樹脂(A)とABS系樹脂(B)の相溶性が改善されにくく、層状剥離を起こしたり、充分な衝撃強度が得られ難くなる。また、グラフト共重合体(C)の配合量が100質量部を超えると、機械的物性や耐熱性が低下するおそれがあり、好ましくない。従って、グラフト共重合体(C)の配合量を0.5〜10質量部の範囲に設定することにより、ポリカーボネート系樹脂(A)とABS系樹脂(B)の相溶性を改善して、熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品の機械的物性や耐熱性、さらには成形加工性や外観を効果的に改善することができるものである。
【0056】
上記のグラフト共重合体(C)を調製する際のグラフト化法は、一般によく知られている連鎖移動法、電離性放射線照射法等いずれの方法によってもよいが、最も好ましいのは、下記に示す方法によるものである。以下の方法によれば、グラフト効率が高く、熱による二次的凝集が起こらないため、性能の発現がより効果的であり、また製造方法が簡便であるからである。
【0057】
すなわち、まず、ポリカーボネート系樹脂粒子100質量部を水に懸濁せしめる。この懸濁液に、別に調製した次の溶液を加える。この溶液はビニル単量体の1種又は2種以上の混合物5〜99質量部に、下記一般式「化2」又は「化3」で表されるラジカル重合性有機過酸化物の1種又は2種以上の混合物を該ビニル単量体100質量部に対して0.1〜10質量部と、10時間の半減期を得るための分解温度が40〜90℃であるラジカル重合開始剤をビニル単量体とラジカル重合性有機過酸化物との合計100質量部に対して0.01〜5質量部とを溶解せしめたものである。
【0058】
そして、ラジカル重合開始剤の分解が実質的に起こらない条件で加熱し、ビニル単量体、ラジカル重合性有機過酸化物及びラジカル重合開始剤をポリカーボネート系樹脂粒子中に含浸せしめる。次いで、この水性懸濁液の温度を上昇せしめ、ビニル単量体とラジカル重合性有機過酸化物とをポリカーボネート系樹脂粒子中で共重合せしめて、グラフト化前駆体を得る。このグラフト化前駆体を直接ポリカーボネート樹脂(A)とABS系樹脂(B)と共に溶融混合してもよい。
【0059】
また、グラフト化前駆体を150〜350℃の溶融下、混練することにより、グラフト共重合体(C)を得ることもできる。このとき、グラフト化前駆体に、別にポリカーボネート系樹脂、ビニル系重合体又はABS系樹脂を混合し、溶融下に混練してもグラフト共重合体(C)を得ることができる。最も好ましいのはグラフト化前駆体を混練し得られたグラフト共重合体(C)である。
【0060】
ここで、前記一般式「化2」で表されるラジカル重合性有機過酸化物を次に示す。
【0061】
【化2】
【0062】
(式中、R1は水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基、R2は水素原子又はメチル基、R3及びR4はそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基、R5は炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基、アルキル置換フェニル基又は炭素数3〜12のシクロアルキル基を示す。mは1又は2である。)
また、前記一般式「化3」で表されるラジカル重合性有機過酸化物を次に示す。
【0063】
【化3】
【0064】
(式中、R6は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、R7は水素原子又はメチル基、R8及びR9はそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基、R10は炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基、アルキル置換フェニル基又は炭素数3〜12のシクロアルキル基を示す。nは0、1又は2である。)
上記の一般式「化2」で表されるラジカル重合性有機過酸化物として、具体的には、t−ブチルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート;t−アミルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート;t−ヘキシルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート;1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート;クミルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート;p−イソプロピルクミルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート;t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート;t−アミルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート;t−ヘキシルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート;1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート;クミルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート;p−イソプロピルクミルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート;t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート;t−アミルペルオキシアクリロイロキシエトキシエチルカーボネート;t−ヘキシルペルオキシアクリロイロキシエトキシエチルカーボネート;1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシアクリロイロキシエトキシエチルカーボネート;クミルペルオキシアクリロイロキシエトキシエチルカーボネート;p−イソプロピルクミルペルオキシアクリロイロキシエトキシエチルカーボネート;t―ブチルペルオキシメタクリロイロキシエトキシエチルカーボネート;t−アミルペルオキシメタクリロイロキシエトキシエチルカーボネート;t−ヘキシルペルオキシメタクリロイロキシエトキシエチルカーボネート;1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシメタクリロイロキシエトキシエチルカーボネート;クミルペルオキシメタクリロイロキシエトキシエチルカーボネート;p−イソプロピルクミルペルオキシメタクリロイロキシエトキシエチルカーボネート;t−ブチルペルオキシアクリロイロキシイソプロピルカーボネート;t−アミルペルオキシアクリロイロキシイソプロピルカーボネート;t−ヘキシルペルオキシアクリロイロキシイソプロピルカーボネート;1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシアクリロイロキシイソプロピルカーボネート;クミルペルオキシアクリロイロキシイソプロピルカーボネート;p−イソプロピルクミルペルオキシアクリロイロキシイソプロピルカーボネート;t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシイソプロピルカーボネート;t−アミルペルオキシメタクリロイロキシイソプロピルカーボネート;t−ヘキシルペルオキシメタクリロイロキシイソプロピルカーボネート;1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシメタクリロイロキシイソプロピルカーボネート;クミルペルオキシメタクリロイロキシイソプロピルカーボネート;p−イソプロピルクミルペルオキシメタクリロイロキシイソプロピルカーボネート等が例示される。
【0065】
また上記の一般式「化3」で表されるラジカル重合性有機過酸化物としては、t−ブチルペルオキシアリルカーボネート;t−アミルペルオキシアリルカーボネート;t−ヘキシルペルオキシアリルカーボネート;1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシアリルカーボネート;p−メンタンペルオキシアリルカーボネート;クミルペルオキシアリルカーボネート;t−ブチルペルオキシメタリルカーボネート;t−アミルペルオキシメタリルカーボネート;t−ヘキシルペルオキシメタリルカーボネート;1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシメタリルカーボネート;p−メンタンペルオキシメタリルカーボネート;クミルペルオキシメタリルカーボネート;t−ブチルペルオキシアリロキシエチルカーボネート;t−アミルペルオキシアリロキシエチルカーボネート;t−ヘキシルペルオキシアリロキシエチルカーボネート;t−ブチルペルオキシメタリロキシエチルカーボネート;t−アミルペルキシメタリロキシエチルカーボネート;t―ヘキシルペルオキシメタリロキシエチルカーボネート;t−ブチルペルオキシアリロキシイソプロピルカーボネート;t−アミルペルオキシアリロキシイソプロピルカーボネート;t−ヘキシルペルオキシアリロキシイソプロピルカーボネート;t−ブチルペルオキシメタリロキシイソプロピルカーボネート;t−アミルペルオキシメタリロキシイソプロピルカーボネート;t−ヘキシルペルオキシメタリロキシイソプロピルカーボネート等が例示される。
【0066】
中でも好ましい化合物は、t−ブチルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート;t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート;t−ブチルペルオキシアリルカーボネート;t−ブチルペルオキシメタリルカーボネートである。
【0067】
また、グラフト共重合体(C)としては、熱重量分析において、昇温10℃/分、温度330℃での質量減少が、5質量%以下であるものが望ましい。これは、質量減少が5質量%を超えるものであると、材料溶融混練時や成形時に揮発分により成形性が悪化するおそれがあるためである。質量減少は小さい程好ましく、理想的には0質量%であるが、実用上の下限は0.1質量%である。このようなグラフト共重合体(C)としては、日本油脂(株)製の「モディパー」として市販されているものを使用することができる。
【0068】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、本発明の目的を損なわない限り、他の合成樹脂、エラストマー、酸化防止剤、結晶化促進剤、カップリング剤、着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等を配合することができる。合成樹脂やエラストマーとしては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリアミド樹脂(ナイロン6樹脂、ナイロン66樹脂、ナイロン610樹脂 、共重合ナイロン樹脂)、ポリアリレート樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、AS樹脂、石油樹脂、石炭樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂等の合成樹脂やポリオレフィンゴム、オレフィン系共重合体、水素添加ゴム等のエラストマーを挙げることができる。これらは、2種類以上を混合して使用することができる。
【0069】
また酸化防止剤としては、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤等があげられる。また、これらは、単独で使用しても良いし、2種類以上を混合して使用することができる。
【0070】
またカップリング剤としては、シラン系化合物、チタネート系化合物、アルミニウム系化合物等があげられ、特にシラン系化合物が好ましい。シラン系としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のビニルシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン、イミダゾールシラン、更に、エポキシ系、アミノ系、ビニル系の高分子タイプのシラン等がある。また、これらは、単独で使用しても良いし、2種類以上を混合して使用することができる。
【0071】
着色剤としては、公知の各種顔量又は染料を使用することができ、例えば、カーボンブラック等の黒色顔量、赤口黄鉛等の橙色顔量、弁柄等の赤色染顔量、コバルトバイオレット等の紫色染顔量、コバルトブルー等の青色染顔量、フタロシアニングリーン等の緑色染顔量等を使用することができる。更に、最新顔量便覧(日本顔料技術協会編、昭和52年発行)を参考にして適宜選択して使用することができる。
【0072】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物を製造するにあたっては、上記の各成分をヘンシェルミキサー等の混合機で混合・混練し、これをペレタイズすることによって行なうことができるが、予め必要成分の一部をマスターバッチ化して混合・混練した後、他の成分を加えてエクストルーダ等の混練機で再度混練し、これをペレタイズすることによっても行なうことができる。後者の方法では、まず結晶性樹脂(D)と結晶核剤(E)の成分を混練し、この後、この混練物をポリカーボネート樹脂(A)とABS樹脂(B)やグラフト共重合体(C)など他の成分と共に2度めの混練をするようにするのが好ましい。結晶性樹脂(D)と結晶核剤(E)を先に混合しておくことによって、結晶性樹脂と結晶核剤の分散性を向上させることができるものである。
【0073】
このようにして得られる熱可塑性樹脂組成物の成形の際の流動性は、スパイラルフロー試験によって評価することができるが、スパイラルフロー金型(金型内のスパイラル流路の断面の厚み0.8mm、幅6.0mm)に、シリンダー温度300℃、射出圧力98.1MPa(1000kg/cm2)、金型温度85℃の条件で射出成形したときに、成形されるスパイラル長さが80mm以上であることが好ましい。スパイラル長さが80mm未満であると、流動性が不十分であって良好な成形性を得ることができない。しかし、スパイラル長さが500mm以上ある場合には、得られた成形品は機械的強度が低下して実用上使用できなくなるおそれがあるので、これが上限である。
【0074】
そして上記のようにして調製した熱可塑性樹脂組成物を用い、既述の図1の方法で射出圧縮成形を行なうことによって、極薄肉部を有するメモリーカードの基板を作製することができるものである。
【0075】
【実施例】
次に、本発明を実施例によって説明する。
【0076】
(実施例1)
ポリカーボネート樹脂として住友ダウ(株)製「カリバー(品番301−30)」、ABS系樹脂として日本A&L(株)製「クララステック(品番GA501)」、結晶性樹脂としてクラレ(株)製ポリエチレンテレフタレート「クラペット(品番KL236R)」、結晶核剤として林化成(株)製タルク「ミクロンホワイト(品番5000R)」を用い、まず結晶性樹脂5質量部と結晶核剤1質量部とを混練した後、さらにこれにポリカーボネート樹脂75質量部とABS系樹脂25質量部を配合して溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0077】
そしてこの熱可塑性樹脂組成物を成形材料として用い、図1のようにして射出圧縮成形することによって、図2のような成形品を作製した。
【0078】
(実施例2〜27、比較例1〜4)
ポリカーボネート樹脂、ABS系樹脂、グラフト共重合体、結晶性樹脂、結晶核剤として、下記のものを用い、表1〜4に示す配合量で、まず結晶性樹脂と結晶核剤とを混練した後、さらにこれにポリカーボネート樹脂、ABS系樹脂、グラフト共重合体を配合して溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物を得た。そしてこの熱可塑性樹脂組成物成形材料として用い、上記実施例1と同様にして成形品を作製した。
○ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)
・樹脂A:ポリカーボネート樹脂(住友ダウ(株)製「カリバー(品番301−30)」、MFR:30g/分(280℃/2.1kg))
・樹脂B:ポリカーボネート樹脂(住友ダウ(株)製「カリバー(品番1080DVD)」、MFR:60g/分(280℃/2.1kg))
・樹脂C:ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製「ユーピロン(品番H4000)」、MFR:70g/分(280℃/2.1kg))
○ABS系樹脂
・樹脂A:日本エイアンドエル(株)製「クララステック(品番GA501)」(アイゾット衝撃強度294J/m)
・樹脂B:日本エイアンドエル(株)製「クララステック(品番GA704)」(アイゾット衝撃強度245J/m)
・樹脂C:日本エイアンドエル(株)製「クララステック(品番MVF1K)」(アイゾット衝撃強度373J/m)
○結晶性樹脂
・樹脂A:ポリエチレンテレフタレート(PET)(クラレ(株)製「クラペット(品番KL236R)」、融点260℃、結晶化温度139℃)
・樹脂B:ポリアセタール(POM)(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製「ユピタール(品番F40)」、融点165℃)
・樹脂C:シンジオタクチックポリスチレン(SPS)(出光石油化学(株)製「ザレック(品番S100)」、融点270℃、結晶化温度150℃)
・樹脂D:ポリブチレンテレフタレート(PBT)(三菱レイヨン(株)製「タフペット(品番N1300)」、融点230℃)
○結晶核剤
・核剤A:タルク(林化成(株)製「ミクロンホワイト(品番5000R)」、平均粒径2.8μm)
・核剤B:焼成タルク(富士タルク(株)製「品番ST100」、平均粒径6μm、pH8.6)
・核剤C:酸性処理タルク(日本タルク(株)製「品番ROSE TALC」、平均粒径15μm、pH7.5)
・核剤D:カオリン(富士タルク(株)製「品番特月中和」、平均粒径3μm、pH8.4)
・核剤E:マイカ(林化成(株)製「品番#8000)」、平均粒径5μm)
・核剤F:酸化亜鉛ウイスカ(松下アムテック(株)製「パナテトラ(品番WZ0501)」、針状短繊維長2〜50μm、針状短繊維径0.2〜3μm)
・核剤G:ウイスカ(四国化成工業(株)製「アルボレックス(品番M20)」、平均繊維長20μm、平均繊維径0.75μm)
○グラフト共重合体
・共重合体A:ポリカーボネート−ポリスチレングラフト共重合体(日本油脂(株)製流動性改善グレード「モディパ(品番C L150D)」、PC/PS=50/50、質量減少1.2%)
・共重合体B:ポリカーボネート−アクリロニトリルスチレングラフト共重合体(日本油脂(株)製「モディパ(品番C L430D)」、PC/AS=70/30、質量減少1.5%、MFR3g/分)
・共重合体C:ポリカーボネート−アクリロニトリルスチレングラフト共重合体(日本油脂(株)製「モディパ(品番C H430D)」、PC/AS=70/30、質量減少1.2%、MFR5g/分)
・共重合体D:ポリカーボネート−アクリロニトリルスチレン−フェニルマレイミドグラフト共重合体(日本油脂(株)製「モディパ試作品」、PC/AS/PMI=70/25/5、質量減少1.0%、MFR5g/分)
・共重合体E:ポリカーボネート−アクリロニトリルスチレン−シクロヘキシルマレイミドグラフト共重合体(日本油脂(株)製「モディパ試作品」、PC/AS/CHMI=70/25/5、質量減少1.0%)
・共重合体F:ポリカーボネート−アクリロニトリルスチレン−グリシジルメタクリレートグラフト共重合体(日本油脂(株)製「モディパ試作品)」、PC/AS/GMA=70/25/5、質量減少1.1%)
(評価)
(1)薄肉成形性
図2に示す、寸法が20mm×20mm×0.15mm、外周部分の厚みが2mmの薄肉成形品を10個射出圧縮成形し、外観を観察して変形の認められる成形品の個数をカウントすることによって、薄肉の成形性を評価した。結果を表1〜4に示す。
【0079】
(2)流動性
スパイラルフロー金型(金型内の流路断面の厚み0.8mm、幅6.0mm)に、シリンダー温度300℃、射出圧力98.1MPa(1000kg/cm2)、金型温度85℃の条件で射出成形を行ない、成形されたスパイラル長さを測定し、流動性の指標として評価した。結果を表1〜4に示す。
【0080】
(3)熱変形温度
ASTM D648に従って、1.82MPaの条件で評価した。結果を表1〜4に示す。
【0081】
(4)ノッチ付きアイゾット衝撃強度
ASTM D256に従って、13mm×65mm×3.2mmのアイゾット衝撃試験片(ノッチ付き)を成形し、これを23℃で評価した。結果を表1〜表4に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
【表4】
【0086】
表1〜表4にみられるように、各実施例のものは、流動性が良好であって、薄肉成形性が良く、また熱変形温度が高くで耐熱性に優れると共に耐衝撃強度も高いものであった。
【0087】
【発明の効果】
上記のように本発明に係るメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂、(B)ABS系樹脂、(D)結晶性樹脂、(E)結晶核剤を含有するので、流動性が良好であって、薄肉部を成形性良く成形してメモリーカードを得ることができ、また熱変形温度が高くて耐熱性に優れると共に耐衝撃強度も高いメモリーカードを得ることができるものである。
【0088】
また本発明に係るメモリーカードは、上記のメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物を用いて、射出圧縮成形法により形成されたものであるから、薄肉部を成形性良く成形して形成することができ、また熱変形温度が高くで耐熱性に優れると共に耐衝撃強度も高いものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】射出圧縮成形工法を工程順に示す説明図であり、(A)は概略平面図、(B)は概略断面図である。
【図2】実施例及び比較例で成形した薄肉成形品の形状及び寸法を示すものであり、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【符号の説明】
1 成形金型
2 キャビティ
3 コア
4 ゲート
5 成形材料
Claims (21)
- (A)ポリカーボネート樹脂、(B)ABS系樹脂、(C)ポリカーボネート系樹脂セグメント(a)に対して、ビニル系樹脂セグメント(b)が、分岐、または架橋構造的に化学結合したグラフト共重合体、(D)結晶性樹脂、(E)結晶核剤、を含有して成ることを特徴とするメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物。
- (A)ポリカーボネート樹脂が、測定温度280℃、荷重2.1kgでのMFR値が20g/分以上のものであることを特徴とする請求項1に記載のメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物。
- (B)ABS系樹脂が、アイゾット衝撃強度が200J/m以上のものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物。
- (A)ポリカーボネート樹脂と(B)ABS系樹脂の合計中において、(A)ポリカーボネート樹脂を30〜90質量%、(B)ABS系樹脂を70〜10質量%含有して成ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物。
- (D)結晶性樹脂が、融点が150℃以上のものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物。
- (D)結晶性樹脂が、溶融させたものを液体窒素中に急冷し、これをDSCを用いて、昇温速度10℃/分で30℃〜300℃の範囲で測定した際の、結晶化開始温度が100℃以上のものであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物。
- (D)結晶性樹脂が、ポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物。
- (D)結晶性樹脂の配合量が、(A)ポリカーボネート樹脂と(B)ABS系樹脂の合計量100質量部に対して、0.5〜10質量部であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物。
- (E)結晶核剤が、タルク、カオリン、マイカ、シリカ、ガラスビーズ、フレーク、L/Dが50未満の無機繊維、ウイスカ−状無機充填材から選択された少なくとも1つであることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物。
- (E)結晶核剤のタルクが、焼成タルクと酸処理タルクの少なくとも一方であることを特徴とする請求項9に記載のメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物。
- (E)結晶核剤のウイスカ−状無機充填材が、酸化亜鉛ウイスカーであることを特徴とする請求項9に記載のメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物。
- (E)結晶核剤の配合量が、(D)結晶性樹脂100質量部に対して、0.05〜10質量部であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載のメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物。
- (C)グラフト共重合体において、ポリカーボネート系樹脂セグメント(a)とビニル系樹脂セグメント(b)の比率が、ポリカーボネート系樹脂セグメント(a)が5〜95質量%、ビニル系樹脂セグメント(b)が95〜5質量%であることを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載のメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物。
- (C)グラフト共重合体において、ビニル系樹脂セグメント(b)のN−置換マレイミド単位からなる重合体セグメントが、N−シクロヘキシルマレイミド、又はN−フェニルマレイミド重合体から選択された少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項14に記載のメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物。
- (C)グラフト共重合体において、ビニル系樹脂セグメント(b)のα,β−不飽和酸のグリシジルエステル単位からなる重合体セグメントが、メタクリル酸のグリシジルエステルの重合体を含むことを特徴とする請求項14に記載のメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物。
- (C)グラフト共重合体が、熱重量分析において、昇温10℃/分、温度330℃での質量減少が、5質量%以下のものであることを特徴とする請求項1乃至16のいずれか記載のメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物。
- (C)グラフト共重合体の配合量が、(A)ポリカーボネート樹脂と(B)ABS系樹脂の合計量100質量部に対して、0.5〜10質量部であることを特徴とする請求項1乃至17のいずれかに記載のメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物。
- スパイラルフロー金型(金型内の流路断面の厚み0.8mm、幅6.0mm)に、シリンダー温度300℃、射出圧力98.1MPa(1000kg/cm2)、金型温度85℃の条件で射出成形したときの、成形されたスパイラル長さが80mm以上であることを特徴とする請求項1乃至18のいずれかに記載のメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物。
- 請求項1乃至19のいずれかに記載のメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物を調製するにあたって、まず(D)〜(E)の成分を混練し、この後、この混練物を他の成分と2度めの混練をすることを特徴とするメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
- 請求項1乃至19のいずれかに記載のメモリーカード用熱可塑性樹脂組成物を用いて、射出圧縮成形法により形成されて成ることを特徴とするメモリーカード。
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