本発明は、ICカードまたはICタグの構成材料として好適な熱接着性ポリエステルフィルムに関するものである。
近年、ICチップを内蔵したカードやタグによる情報の管理運用システムが普及しはじめている。これらに用いられるカードやタグは一般に「ICカード」や「ICタグ」と呼ばれ、従来の印刷・筆記式、磁気記録式のカード・タグなどに比べて、多量の情報を記録・保持できる点で有用であることから、人や物品の各種情報を管理運用する諸分野で活用され始めている。
ICカードまたはICタグを構成するプラスチック材料としては、従来、ポリ塩化ビニル(PVC)が主流であった。しかしながら、近年、環境問題の点から市場からハロゲンを用いない素材への代替の要望が高くなり、カードの素材はポリエステル系樹脂に主流が代わってきている。ポリエステル系樹脂からなるシートまたはフィルムとしては、非晶性でPVCに近い加工特性を有する点から1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合成分として含む共重合ポリエステル(PETG)からなる無配向シート、あるいは、汎用性の点から二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが主に用いられている。しかしながら、現状のこれらシートおよびフィルムでは、それぞれに解決が困難な問題点がある。
例えば、無配向のPETGシートの場合、耐熱性が不十分である。これはシートを構成するポリエステルの分子鎖が延伸配向されていないために、前記シートが加熱された際にガラス転移温度近傍で急激に軟化して変形するためである。そのため、ICカードまたはICタグを炎天下で自動車のダッシュボードなどに長時間放置した場合、洋服などのポケットに保管したままで誤ってその洋服を洗濯・熱風乾燥した場合、貨物船の船倉などに格納して熱帯地域へ輸出した場合、ICカードまたはICタグが、熱による寸法変化や変形やカール、剥がれなどを生じて、外観や機能を損なう場合があった。
この耐熱性を改善するため、近年、PETGにポリカーボネートなどを添加した無配向シートを用いる場合もある。しかしながら、このシートは耐薬品性が若干劣り、ICカードまたはICタグの製造時に溶剤系接着剤や溶剤系インクを用いた場合、変形や変色が生じる場合があり、外観や機能を損なうという問題があった。
一方、二軸延伸PETフィルムでは、耐薬品性や耐熱性の点で優れている。しかしながら、二軸延伸PETフィルムは弾性率が大きくて容易に変形しないため、ICカードまたはICタグの内部構造(ICチップや回路など)から生じる凹凸を吸収することができず、チップや回路の形状がICカードまたはICタグの表面に浮き出るという問題があった。このような凹凸がICカードまたはICタグの表面に存在すると、外観が美麗でないことはいうまでも無く、持ち運びの際に生じる他の物品との擦過により印刷面がかすれたり、他の物品に引っかかって表層が剥がれたりするなど、外観や機能を損なう場合があった。
また、二軸延伸PETフィルムはPVCシートやPETGシートのように自己接着性を有しておらず、熱プレスや熱ラミネートでは接着しない。このため、二軸延伸PETフィルムを積層してICカードまたはICタグを製造するには、各フィルム間にホットメルト系接着剤などを挿入した上で加工せざるを得ない。そのため、二軸配向フィルムを用いてICカードまたはICタグを形成する工程は煩雑であり、作業性や収率が悪くなるという問題があった。
これら各素材の短所を相互に補うため、二軸延伸PETフィルムと無配向のPETGシートを貼り合わせる方法も提案されている。しかしながら、これらを貼り合わせるためには、ホットメルト接着剤を用いることが必要であり、上記の問題は依然として解消していない。また、一般に無配向のPETGシートでは、薄いシートを精度良く製造することは困難である。また、通常、市場に流通する無配向のPETGシートは100μmを超える厚みを有する。このため、ICカードまたはICタグを構成する厚みの割合の多くを無配向のPETGシートが占めることになる。そのため、無配向のPETGシートを上記のように貼り合わせた構成としても、カード全体としては耐熱性が十分に改善されない。さらに、複数のフィルムやシートを貼り合わせる工程が必要となる。そのため、製造工程が複雑になり、品質安定性や製造コストの面で好ましくない。
本発明は、従来の二軸延伸PETフィルムと無配向のPETGシートを貼り合わせる方法に比べ、耐熱性、耐薬品性、凹凸吸収性、熱接着性のバランスに優れる、二軸延伸ポリエステルフィルムの片面または両面に、特定の熱接着性樹脂層を積層した構成からなるICカードまたはICタグ用熱接着性ポリエステルフィルムを提案するものである。
本発明に層構成が類似したフィルムとして、主として包装材料に用いられる熱接着性ポリエステルフィルムが従来から使用されている。例えば、以下のような熱接着性ポリエステルフィルムに関する発明が開示されている。
(1)空洞含有ポリエステルフィルム表面に、ポリブチレンテレフタレート/ポリテトラメチレンオキサイド共重合体を積層した構成からなる断熱性包装材料用フィルム(例えば、特許文献1を参照)
(2)ポリエステルフィルムの表面に、結晶性ポリエステルと低結晶性の共重合ポリエステルの混合物を積層した構成からなる包装材料用または電気絶縁用フィルム(例えば、特許文献2を参照)
(3)ポリエステルフィルムの表面に、二種類の共重合ポリエステル樹脂を混合した樹脂を積層してなる包装材料用フィルム(例えば、特許文献3〜4を参照)
(4)空洞含有ポリエステルフィルムの表面に少なくとも一種類の共重合ポリエステル樹脂を混合した樹脂を塗布した包装材料用または印刷材料用フィルム(例えば、特許文献5〜6を参照)
(5)ポリエステルフィルムの表面に共重合ポリエステル樹脂とシリカ粒子の混合物を積層した金属板ラミネートまたは包装材料用フィルム(例えば、特許文献7〜10を参照)
(6)ポリエステルフィルムの表面に共重合ポリエステル樹脂または共重合ウレタン樹脂と、シリカ粒子または炭酸カルシウム粒子、ゼオライト粒子などの混合物を塗布したコンデンサー用フィルム(例えば、特許文献11〜14を参照)
特開昭56−4564号公報
特開昭58−12153号公報
特開平1−237138号公報
特許3484695号公報
特許3314814号公報
特許3314816号公報
特開平7−132580号公報
特開2001−293832号公報
特開2004−188622号公報
特開2004−203905号公報
特開2000−30969号公報
特開2001−307945号公報
特開2002−79637号公報
特開2003−142332号公報
これらの発明は、構成こそ類似するものの、本発明の熱接着性ポリエステルフィルムの課題の1つである凹凸吸収性を満足しないものであった。すなわち、結晶性の共重合ポリエステルを熱接着層の主たる構成成分として用いた発明(特許文献2、7〜10)では、熱接着層の変形が不十分である。そのため、ICカードまたはICタグのコアシートとして使用するために必要な凹凸吸収性が不十分である。一方、塗布法によって熱接着層を設けた発明(特許文献5、6、11〜14)では、熱接着層の厚みが薄いため、ICカードまたはICタグのコアシートとして使用するために必要な凹凸吸収性が不十分である。一方、非晶性の共重合ポリエステルを熱接着層の主たる構成成分として使用した発明(特許文献1、3、4)では、熱接着層の厚みを厚くすることによって、凹凸吸収性は改善される。しかしながら、熱接着層の厚みを厚くするとともに、フィルムの滑り性が悪化し、通常のフィルムを取り扱う上で要望される滑り性が得られない。さらに、熱接着層の厚みを厚くした場合、基材と熱接着層の組成が異なるため、フィルムの製造直後、保管後、後加工工程で熱処理される際にフィルムにカールが生じやすくなる。そのため、フィルムのカール(平面性)の制御に特段の注意が必要となる。しかしながら、前記の特許文献に記載された技術の範囲では、カールを安定して制御することができない。
すなわち、従来の技術では、凹凸吸収性と、熱接着性、滑り性を両立させることが困難であった。その技術的理由は、以下のように考えられる。
通常、樹脂の変形によって凹凸を吸収させんとする場合、樹脂として非晶性のものを用いることが有利である。また、熱接着性の観点からも、樹脂は結晶化の程度が適度に低く、軟化温度の低いものを用いるのが有利である。
しかしながら、このような樹脂を用いて二軸延伸フィルムを製造する場合、滑り性を発現させることが困難であることが知られている。すなわち、一般にフィルムの滑り性を改良するために用いられている、数μm以下の大きさの無機粒子や有機粒子をフィルム中に含有させるという方法を用いても、非晶性樹脂をフィルム原料として用いた二軸延伸フィルムでは、フィルム表面に十分な凹凸が得られない。そのため、フィルムの滑り性が不十分となる。
この原因は明確ではないが、結晶性の低い樹脂は、延伸フィルムの熱固定処理の工程において実質的に溶融に近い状態となる。この時、フィルム表面の凹凸を小さくして表面積すなわち表面自由エネルギーを小さくするように表面張力が働き、樹脂中に粒子が埋没すると考えられる。
また、滑り性を改善するために、粒径の大きな粒子を用いた場合には、大粒子に起因する高い突起により、フィルムの地肌部分において接触が不良となる領域が生じ、熱接着性が十分発現しない場合がある。さらに、フィルムの製造工程や加工工程において、大きな粒子が脱落して、製造工程を汚染する場合や、フィルムやシートの強度が低下する場合がある。
これに対して、無配向のPETGシートに代表される無配向シートでは、シート自体をエンボス加工することで巨視的な凹凸を形成させ、滑り性を発現させることができる。しかしながら、本発明のように、耐薬品性や耐熱性に優れる二軸延伸ポリエステルフィルムを用いた場合には、剛性を有するフィルムであるために、エンボス加工そのものが困難であり、無配向シートと同様の方法を用いることができなかった。
本発明の目的は、ICカードまたはICタグを構成するプラスチック材料として環境適性(ハロゲンを含まない)、耐熱性、耐薬品性を維持しながら、熱接着性と凹凸吸収性、滑り性を改善した、ICカードまたはICタグ用熱接着性ポリエステルフィルムを提供することである。さらに、上記の課題に加えて、カールが小さく、平面性に優れる、ICカードまたはICタグ用熱接着性ポリエステルフィルムも提供する。
前記課題を解決することができる、本発明における第1の発明は、二軸延伸ポリエステルフィルムの片面または両面に、熱接着層を積層してなる熱接着性ポリエステルフィルムであって、熱接着層は、厚みが5〜30μmであり、ガラス転移温度が50〜95℃の非晶性ポリエステル樹脂Aとこれに非相溶な熱可塑性樹脂Bの混合物からなり、熱可塑性樹脂Bは、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、環状オレフィンあるいはその共重合体、低密度のポリプロピレンやポリエチレンあるいはその共重合体から選ばれる、ガラス転移温度が−50〜150℃の非晶性樹脂であり、熱接着層中に1〜30質量%含有され、熱接着性ポリエステルフィルムの表面と裏面間の静摩擦係数が0.2〜0.7であり、熱プレスによる賦形性が下記(1)及び(2)を満足することを特徴とするICカードまたはICタグ用熱接着性ポリエステルフィルムである。
(1)賦形率:60〜105%
(2)賦形部の外縁の勾配:100〜350%
ここで賦形率とは、アンテナ回路または銅箔片を熱接着層の表面にのせ、熱プレスした後、常温常圧でアンテナ回路または銅箔片を取り除いた際に、アンテナ回路または銅箔片によって生じた熱接着層のくぼみの深さであり、賦形部の外縁の勾配とは、このくぼみの外縁における壁面の勾配である。
第2の発明は、熱接着性ポリエステルフィルムが、二軸延伸ポリエステルフィルムの両面に熱接着層を積層し、一方の熱接着層を熱接着層aとし、他方の熱接着層b(厚みが熱接着層aと同じか、熱接着層aよりも薄い)とした際に、前記熱接着層の厚みの比(熱接着層aの厚み/熱接着層bの厚み)が1.0〜2.0で、かつフィルムの加熱処理後(110℃、無荷重下で30分間)のカール値が5mm以下であることを特徴とする第1の発明に記載のICカードまたはICタグ用熱接着性ポリエステルフィルムである。
本発明のICカードまたはICタグ用熱接着ポリエステルフィルムは、従来のICカード用の各種素材や熱接着性フィルムでは達成できていなかった、(a)凹凸吸収性と、環境適性(ハロゲンを含まない)、耐熱性、耐薬品性、(b)凹凸吸収性と熱接着性、(c)熱接着性と、滑り性や平面性(カール低減)など相反する特性を両立させることができる。
(各構成と作用効果)
本発明の熱接着性ポリエステルフィルムは、基材として二軸延伸ポリエステルフィルムを用いているため、ICカードまたはICタグに用いた際に、環境適性(ハロゲンをを含まない)、耐熱性、耐薬品性に優れている。
また、本発明の熱接着性ポリエステルフィルムは、二軸延伸ポリエステルフィルムの片面または両面に、非晶性ポリエステル樹脂とこれに非相溶である熱可塑性樹脂の混合物からなる、特定の熱接着層を適切な厚みで設けているため、ICカードまたはICタグのコアシートに用いた際に、熱接着性と凹凸吸収性に優れている。
また、本発明の熱接着性ポリエステルフィルムは、熱接着層の厚みを特定の範囲に調整し、また非晶性ポリエステル樹脂ながらも分子鎖が延伸配向された構造としているため、加工後のICカードまたはICタグの熱変形を実用上問題ない範囲まで改善することができる。
また、本発明の熱接着性ポリエステルフィルムは、熱接着層に特定のポリエステルと非相溶である特定の熱可塑性樹脂を含有させ、フィルム表面の表面張力(表面自由エネルギー)と表面粗さ(表面突起)を適切な状態に制御できるため、フィルムの製造から使用にわたって、必要なハンドリング性、すなわち滑り性を得ることができる。
また、熱接着層において、熱可塑性樹脂によって形成された突起は、大突起であっても脱落することがほとんどなく、工程の汚染を引き起こす恐れが小さい。また、低い熱プレス温度によっても、熱接着する際には軟化変形して平坦化するため、従来のような大粒径の無機・有機粒子を添加した際に生じたような熱接着性の低下が生じない。また、無機・有機粒子に比べて変形の尤度も大きいため、フィルムの強度低下が生じる懸念も小さい。
さらに、本発明の熱接着性ポリエステルフィルムを用いて製造したカードやタグでは、ICカードまたはICタグを構成するのに必要な電気部品・回路を確実に内包することができる。これは、本発明が、熱プレス加工時に適度に軟化して変形する熱接着層を有し、またそれを阻害しない、融点やガラス転移温度を有するポリマーを熱接着層において島成分(粒子状の分散体)として含有させているためである。したがって、本発明の熱接着性ポリエステルフィルムは、滑り性を維持しながら、ICチップや金属箔回路などの凹凸を確実に吸収する賦形性を有する。
また、本発明において好適な熱接着性ポリエステルフィルムでは、ICカードまたはICタグの構成材料として用いる際に必要な平面性を得ることができる。これは、熱接着層の厚みと基材フィルムの厚みを調整し、またフィルムの表裏における熱収縮率や線膨張係数を適切な範囲に制御することによって、後加工工程などで生じるカールを減じたためである。
また、本発明の熱接着性ポリエステルフィルムでは、空洞含有ポリエステルフィルムを製造する公知技術によって、フィルム中に微細空洞を多数含有させることができる。これは、従来のPVCやPETGシートでは困難であった技術である。これによって、熱接着性ポリエステルフィルムの見かけ密度、すなわち空洞含有量を適切な範囲に調節することができる。
フィルム中に微細空洞を適度に含有させることは、ICカードまたはICタグに軽量性や柔軟性、クッション性、筆記性を付与するために有効である。また、空洞含有ポリエステルフィルムを材料として用いたICカードまたはICタグは、水中や海中に落としても直ぐに沈まない。そのため、ICカードまたはICタグを遺失する事故を多くの場合において回避することができる。また、空洞含有ポリエステルフィルムは、空洞を含有しないポリエステルフィルムまたはシートに比べ、見掛けの誘電率が低い。そのため、HF帯ないしSHF帯の高周波による通信において、誘電損失が少ない。すなわち、空洞含有ポリエステルフィルムを材料として用いたICカードまたはICタグは、利得が高いため、通信精度や通信距離、省電力化において有効である。
一般に、実用性が重要なICカードまたはICタグにおいては、光線透過率が低く、隠蔽性の高いものが、印刷鮮明性や保安上の観点から好まれる。しかしながら、ファッション性やイベント性を要求される用途では、内部の電気回路などを積極的に見せる透明性のものが好ましく用いられる場合もある。その場合、熱接着性ポリエステルフィルムの基材は、透明な二軸延伸ポリエステルを用いる。また、本発明において、熱接着層を、非晶性ポリエステル樹脂と、これに非相溶な非晶性熱可塑性樹脂の混合物から構成させることにより、熱接着層の透明性が向上する。これは、熱接着層が光学的異方性と高屈折率を有する結晶性樹脂成分を含まないからである。
本発明のICカードまたはICタグ用熱接着性ポリエステルフィルムは、二軸延伸ポリエステルフィルムの片面または両面に、熱接着層を積層してなる熱接着性ポリエステルフィルムであって、熱接着層は、厚みが5〜30μmであり、ガラス転移温度が50〜95℃の非晶性ポリエステル樹脂Aとこれに非相溶な熱可塑性樹脂Bの混合物からなり、熱可塑性樹脂Bは、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、環状オレフィンあるいはその共重合体、低密度のポリプロピレンやポリエチレンあるいはその共重合体から選ばれる、ガラス転移温度が−50〜150℃の非晶性樹脂であり、熱接着層中に1〜30質量%含有され、熱接着性ポリエステルフィルムの表面と裏面間の静摩擦係数が0.2〜0.7であり、熱プレスによる賦形性が下記(1)及び(2)を満足することを特徴とするICカードまたはICタグ用熱接着性ポリエステルフィルムである。
(1)賦形率:60〜105%
(2)賦形部の外縁の勾配:100〜350%
ここで賦形率とは、アンテナ回路または銅箔片を熱接着層の表面にのせ、熱プレスした後、常温常圧でアンテナ回路または銅箔片を取り除いた際に、アンテナ回路または銅箔片によって生じた熱接着層のくぼみの深さであり、賦形部の外縁の勾配とは、このくぼみの外縁における壁面の勾配である。
また、本発明の熱接着性ポリエステルフィルムを用いてICカードまたはICタグを製造する際には、プラスチックフィルムにアンテナ回路及びICチップを設けたインレットの片面または両面に、前記の熱接着性フィルムを配置し、熱接着性フィルムの熱接着層を介してインレットを熱プレスして接着させたコアシートを構成要素として用いることが好ましい。
以下に、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
[フィルムの構成]
本発明の熱接着性ポリエステルフィルムは、基材とその基材の片面または両面に熱接着層が積層された構成からなる。基材としては、二軸延伸ポリエステルフィルムを用いることが、環境適性(ハロゲン化合物を含まない)のほか,耐熱性や耐薬品性、強度、剛性などの点から重要である。これによって、従来使用されてきた無配向のPVCシートやPETGシートなどに比べ、これらの特性が飛躍的に向上する。
また、本発明の熱接着性ポリエステルフィルムは、その片面または両面に熱接着層を有することが肝要である。ここでいう熱接着層とは、加熱条件下において、ICカードまたはICタグを構成するプラスチックフィルムまたはシート、金属膜、これら表面に形成された各種塗布層と熱接着が可能な層である。この熱接着層を基材に積層することで、従来のICカードまたはICタグの素材であるPVCやPETGなどと同様の熱接着性を付与することができる。この熱接着層の厚みは一層あたり5μm以上かつ30μm以下とすることが重要である。熱接着層の厚みが5μm未満の場合、熱接着性と凹凸吸収性が不十分となる。一方、熱接着層の厚みが30μmを超える場合には、従来のPETGシートを材料として用いたカードと同様に、耐熱性や耐薬品性が低下する。熱接着層の厚みの下限は、8μmが好ましく、10μmより好ましい。一方、熱接着層の厚みの上限は、25μmが好ましく、20μmがより好ましい。
熱接着層を基材の表面に設ける手段は特に限定されないが、上記の厚みにおいて安定的に積層するためには、二軸延伸ポリエステルフィルムの製造工程において、原料の溶融押出し工程で、2種類の樹脂を共押出しし、積層させる方法、いわゆる共押出し法を用いて、未延伸シートを製造することが好ましい。また、熱接着層に適度の耐熱性を付与する観点からも延伸工程以前において積層し、熱接着層と基材(二軸延伸ポリエステルフィルム)層を共に延伸加工することが好ましい。
また、本発明の熱接着性ポリエステルフィルムにおいて、基材の両面に熱接着層を設けることが、フィルムのカールを抑制する点から、好ましい実施の形態である。本発明において、熱接着層は主として非晶性樹脂から構成され、結晶性ポリエステル樹脂を主体とする基材とは熱膨張係数が大きく異なる。このため、基材の片面のみに熱接着層を設けた場合、加工条件や使用条件によってはバイメタルのようにカールする場合があり、平面性やハンドリング性の不良が懸念される。基材の両面に熱接着層を設ける場合、表裏の熱接着層の厚み比率は0.5以上かつ2.0以下であることが好ましい。この範囲を外れる場合には、上記の理由によってカールが発生する場合がある。なお、カールが発生した場合においても、無荷重の状態で110℃、30分間の加熱処理をした後のカール値が5mm以下であればハンドリング性に実質的な支障は生じない。より好ましくは、カール値が3mm以下であり、特に好ましくは1mm以下である。
また、カールを抑制するもう一つの方法としては、フィルムの表面と裏面に与える温度や熱量に積極的に差をつけ、結果としてカール値をゼロに近づける方法がある。具体的には、縦延伸や横延伸などの延伸工程及び熱固定工程で、フィルム表裏の温度又は熱量を異なる値とすることによって、フィルムの表面と裏面の配向度を独立して制御し、フィルムの表面と裏面の構造や物性をバランスさせる。その結果、カールを低減させることができる。この方法を用いる場合、フィルムを縦延伸する工程の加熱・冷却過程において、フィルムの表面と裏面を加熱するロールや赤外線ヒーターの温度を調整することは容易であり、好ましい方法である。
また、本発明の熱接着性ポリエステルフィルムは、フィルム全体の厚みが50μm以上かつ350μm以下であることが好ましい。フィルム全体の厚みの下限は、70μmがより好ましく、90μmがさらに好ましい。一方、フィルム全体の厚みの上限は、280μmがより好ましく、200μmがさらに好ましい。フィルム全体の厚みが50μm未満の場合には、ICカードまたはICタグの基材として十分な厚みをなさなくなり、カード全体の耐熱性向上などに寄与しない。一方、フィルム全体の厚みが350μmを超える場合には、カードの標準的な厚み(JIS規格におけるカードは0.76mm)の中で、他のシートやフィルム、電気回路との組み合わせが制限される。
また本発明の熱接着性ポリエステルフィルムでは、熱接着性や滑り性をより改善するために、あるいは、帯電防止性などの他の機能を付与するために、フィルムの表面に塗布層を設けることも可能である。塗布層を構成する樹脂や添加剤としては、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、アクリル系樹脂など、通常のポリエステルフィルムの接着性を向上させるために用いられる樹脂、あるいは帯電防止性を向上させる帯電防止剤などが挙げられる。これらの樹脂や添加剤の中から好ましいものを選ぶ目安としては、本発明の熱接着性ポリエステルフィルムと、それに積層する材料に対して親和性が高いことが好ましい。具体的には、表面張力や溶解度パラメーターが近い樹脂や添加剤を選ぶことが好ましい。ただし、硬化性の樹脂を厚く塗布した場合には、本発明の重要な効果である凹凸吸収性に支障をきたす恐れもあり、注意が必要である。
塗布層を設ける方法としては、グラビアコート方式、キスコート方式、ディップ方式、スプレイコート方式、カーテンコート方式、エアナイフコート方式、ブレードコート方式、リバースロールコート方式など通常用いられている方法が適用できる。塗布する段階としては、フィルムの延伸前に塗布する方法、縦延伸後に塗布する方法、配向処理の終了したフィルム表面に塗布する方法などのいずれの方法も可能である。
[熱接着層]
本発明の熱接着性ポリエステルフィルムにおいて、熱接着層は非晶性ポリエステル樹脂Aを主たる構成成分とすることが重要である。
ここでいう非晶性ポリエステル樹脂Aとは、融解熱量が20mJ/mg以下のポリエステル樹脂である。なお、融解熱量は、JIS−K7122に記載の「プラスチックの転移熱測定方法」にしたがって、DSC装置を用いて、窒素雰囲気下、10℃/分の速度で加熱して測定される。本発明において、前記の融解熱量は10mJ/mg以下が好ましく、実質的に融解ピークが観察されないことがより好ましい。融解熱量が20mJ/mgを超える場合には、熱接着層が変形しにくくなり、凹凸吸収性が十分に得られない。
また、非晶性ポリエステル樹脂Aは、ガラス転移温度が50℃以上かつ95℃以下であることが重要である。なお、前記のガラス転移温度は、JIS−K7121に記載の「プラスチックの転移温度測定方法」にしたがって、DSC装置を用いて、窒素雰囲気下、10℃/分の速度で加熱し、得られたDSC曲線をもとに求められる中間点ガラス転移温度(Tmg)を意味する。非晶性ポリエステル樹脂Aのガラス転移温度の下限は、60℃が好ましく、70℃がより好ましい。一方、ガラス転移温度の上限は90℃が好ましく、85℃がより好ましい。ガラス転移温度が50℃未満の場合には、ICカードまたはICタグとして用いた際に耐熱性が不足して変形する、あるいはわずかな加熱で熱接着層が再剥離する。一方、ガラス転移温度が95℃を超える場合には、ICカードまたはICタグを製造する際により高い温度で加熱する必要が生じるため、電気回路などへの負担が大きくなる。
非晶性ポリエステル樹脂Aの種類は特に限定されないが、汎用性やコスト、耐久性あるいはPETGシートなどに対する熱接着性の観点から、ポリエチレンテレフタレートに代表される芳香族ポリエステル樹脂の分子骨格に種々の共重合成分を導入したものが好ましく用いられる。導入する共重合成分のうち、グリコール成分としては、エチレングリコールやジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール(NPG)、シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、プロパンジオール、ブタンジオールなどが挙げられる。一方、酸成分としては、テレフタル酸やイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などが挙げられる。共重合成分としては、ガラス転移温度を低くし、低温での熱接着性を向上させることができるモノマーを選択する。このような重合成分としては、直鎖成分の長いグリコール、あるいは立体障害の大きい非線状構造の成分が挙げられる。後者の成分は、熱接着層の結晶性を効果的に低減させて凹凸吸収性を向上したい場合に用いる。本発明においては、PETGシートに対する熱接着性の観点から、CHDMやNPGが好ましく、NPGがより好ましい。
また、非晶性ポリエステル樹脂Aとしては、一般に接着剤用途として開発され、市販されているものもある。このような接着剤用樹脂を使用した場合、本来、接着剤として開発されたものであるため、幅広い素材に接着できる可能性がある。しかしながら、このような接着剤用樹脂は、二軸延伸フィルムの製造工程において安定的に共押出しすることが困難な場合がある。このような場合、押出機の温度の制御や熱接着層の厚みなどを十分に調整することが必要である。
また、本発明において、熱接着層は、非晶性ポリエステル樹脂Aと、これに非相溶な非晶性の熱可塑性樹脂Bを含み、海・島構造を形成している。熱可塑性樹脂Bは、熱接着層において分散体(島構造)として存在する。また、この海・島構造の島構造に起因する突起は、熱接着性ポリエステルフィルムに滑り性を付与し、熱接着の工程で該突起は潰れて平坦になり、熱接着性や透明性を阻害しない、という作用効果を有する。
以下、熱可塑性樹脂Bとして用いることができる非晶性熱可塑性樹脂について説明する。
上記の非晶性の熱可塑性樹脂とは、融解熱量が20mJ/mg以下の熱可塑性樹脂である。なお、融解熱量は、JIS K 7122「プラスチックの転移熱測定方法」にしたがって、DSC装置を用いて、窒素雰囲気下、10℃/分の速度で加熱して測定される。
非晶性の熱可塑性樹脂は、熱接着層の内部において非晶性ポリエステル樹脂中において島構造を形成し、これに起因する突起が熱接着層の表面に形成される。この突起は、室温においては十分な硬さを維持して、フィルムの滑り性を向上させる必要がある。そのため、本発明において、島成分となる熱可塑性樹脂Bとして非晶性の熱可塑性樹脂を用いる場合には、樹脂のガラス転移温度が−50℃以上かつ150℃以下であることが重要である。なお、上記のガラス転移温度は、JIS K 7121に示される「プラスチックの転移温度測定方法」にしたがって、DSC装置により窒素雰囲気下で10℃/分の加熱過程で測定した、中間点ガラス転移温度を意味する。
非晶性の熱可塑性樹脂のガラス転移温度の下限は、−20℃が好ましく、0℃がより好ましい。非晶性の熱可塑性樹脂のガラス転移温度が−50℃未満の場合には、フィルムを取り扱う際に必要な滑り性が得られない場合や、ICカードまたはICタグを製造した後に熱可塑性樹脂成分が表面に滲出する場合がある。
また、この海・島構造による突起は、熱接着の工程で潰れて平坦になり、熱接着性や透明性を阻害しないように働く。通常、ICカードまたはICタグを製造する際に行われる熱プレスは、80〜150℃で実施される。そのため、上記の非晶性の熱可塑性樹脂のガラス転移温度の上限は、130℃がより好ましく、100℃以下がさらに好ましい。一方、非晶性の熱可塑性樹脂のガラス転移温度が150℃を超える場合には、(a)十分な熱接着性が得られなくなる、(b)より高い温度で熱接着することが必要となり、電気回路などへの負担が大きくなる、あるいは(c)接着界面の平坦性が不十分となり、接着後の透明性が悪化する、という問題がある。
本発明において、熱接着層に用いられる熱可塑性樹脂は、特に限定されないが、非晶性ポリエステル樹脂と混合して用いることから、溶解度パラメーターがポリエチレンテレフタレートに比べて2.0(J/cm3)1/2以上大きいかまたは小さい樹脂が好適である。
非晶性で汎用性の高い樹脂としては、ポリスチレンやポリカーボネート、アクリル類、環状オレフィン類やその共重合体、立体規則性の低い低密度のポリプロピレンやポリエチレンなどオレフィン類やその共重合体を用いる。なかでも、熱や紫外線、酸素に対する安定性が高く、より汎用的であることから、ポリスチレンやポリオレフィン類が好ましく、耐熱性が高い点からポリスチレンまたは環状オレフィン共重合体がより好ましい。
また、本発明において、熱接着層に含有させる熱可塑性樹脂Bの量は、熱接着層を構成する材料に対して、1質量%以上で、かつ30質量%以下である。熱可塑性樹脂Bの含有量の下限は、3質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。一方、熱可塑性樹脂Bの含有量の上限は、25質量%が好ましく、20質量%がより好ましい。熱可塑性樹脂Bの含有量が、1質量%未満の場合には、必要な滑り性が得られなくなる。一方、熱可塑性樹脂Bの含有量が、30質量%を超える場合には、粗大突起となり、フィルムの表面から脱落する場合、逆に滑り性が悪くなる場合、あるいは熱プレスで十分に平坦化せずに熱接着性が悪くなり、透明性も低下する場合がある。
また、本発明において、熱接着層の表面の最大高さが1.0μm以上で、かつ10μm以下であることが好ましい。熱接着層の表面の最大高さの下限は、1.2μmがさらに好ましく、1.5μmが特に好ましい。一方、熱接着層の表面の最大高さの上限は、8.0μmがより好ましく、5.0μmが特に好ましい。熱接着層の表面の最大高さが1.0μm未満の場合、十分な滑り性が得られず、フィルムのハンドリング性が困難になる。一方、熱接着層の表面の最大高さが10μmを超える場合には、擦過によってフィルムの表面の突起が脱落して工程を汚染したり、逆に滑り性が悪くなったりする。
熱接着層の表面における最大突起高さを適切な範囲に調節する方法としては、(1)非晶性ポリエステル樹脂Aの溶融粘度やガラス転移温度を選択する方法、(2)熱可塑性樹脂Bの溶融粘度やガラス転移温度、融点、表面張力、溶解度パラメーター、添加量を選ぶ方法、(3)熱接着層の樹脂をフィルム表面に押出す際の温度を選ぶ方法などが挙げられる。これらの方法のなかでも、非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度と、熱可塑性樹脂の種類や添加量、押出温度を調節する方法が容易で確実である。
また、本発明の熱接着性ポリエステルフィルムでは、フィルムの表面と裏面を対向させ、その界面における静摩擦係数が0.2以上で、かつ0.7以下である。摩擦係数の上限は0.6が好ましく、0.5が特に好ましい。フィルムの表面と裏面との間の静摩擦係数を0.1未満にすることは、本発明の技術の範囲では困難である。一方、上記の静摩擦係数が0.8を超える場合には、フィルムのハンドリング性が著しく悪くなる。静摩擦係数を0.2〜0.7の範囲に調節するためには、上記のようにして、熱接着層の表面の最大高さを調節することや、熱接着層の弾性率や表面張力を調節することが好ましい。
また、ICカードまたはICタグのコアシートの内部に配置されるICチップや電気回路の凹凸吸収性は、熱プレスによる賦形性の尺度として、賦形率及び賦形部の外縁の勾配というパラメータで表現することができる。ここで賦形率とは、アンテナ回路または銅箔片を熱接着層の表面にのせ、熱プレスした後、常温常圧でアンテナ回路または銅箔片を取り除いた際に、アンテナ回路または銅箔片によって生じた熱接着層のくぼみの深さを意味し、賦形部の外縁の勾配とは、このくぼみの外縁における壁面の勾配を意味する。
また、本発明の熱接着性ポリエステルフィルムでは、熱プレスによる賦形率が60%以上で、かつ105%以下である。本発明では、ICチップや電気回路の凹凸を吸収するという観点から、賦形率の下限を60%とする。
この観点からは、賦形率の上限が高いほど理想的であることは言うまでもない。しかしながら、熱プレス工程で熱接着層が軟化・流動した場合に加工安定性が低下する懸念があることから、現実的には102%以下、より現実的には98%以下に留めることがより好ましい。なお、賦形率を40〜105%以下に調整する方法としては、熱接着層の厚みを5μm以上に調整する以外に、熱接着層を構成する非晶性ポリエステル樹脂Aや熱可塑性樹脂Bのガラス転移温度や融点、混合比率、粘度、弾性率などを適宜調整することが重要である。
また、本発明において、熱プレスによる賦形部の外縁の勾配が、100%以上で、かつ350%以下である。本発明において熱接着層がICチップや電気回路の凹凸を吸収するという観点から、賦形されるくぼみの形状は、電気回路などの外形に一致していることが好ましい。賦形部の外縁の勾配が、20%未満の場合とは、電気回路などの凸部に対して、その周辺までがつられて変形しているか、もしくは凸部の形状を十分に吸収していない状態を意味する。
凹凸吸収性の観点からは、熱プレスによる賦形部の外縁の勾配が大きいほど理想的な変形であることは言うまでもなく、幾何学的には無限大となることが最も好ましい。しかしながら、本発明で開示した技術範囲で現実的に達成されるのは、1000%までであり、より一般的な加工工程で現実的に達成できるのは500%以下である。なお、本発明において、熱プレスによる賦形部の外縁の勾配を100〜350%の範囲内に調整する方法としては、熱接着層の厚みを5μm以上に調整する以外に、熱接着層を構成する非晶性ポリエステル樹脂Aや非晶性熱可塑性樹脂Bのガラス転移温度や混合比率、粘度、弾性率などを適宜調整することが重要である。
また、本発明の熱接着性ポリエステルフィルムにおいて、特に透明性を必要としない場合や、特に白色で隠蔽性の必要なカードやタグの素材として用いる場合には、熱接着性や滑り性、凹凸吸収性を阻害しない範囲で熱接着層に白色顔料を含有させることは、好ましい実施形態の一つである。熱接着層に含有させる白色顔料としては、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム及びこれらの複合体よりなるものが好ましく、隠蔽効果の観点から酸化チタンを用いることがより好ましい。これらの無機粒子は、基材の二軸延伸ポリエステルフィルムの構成材料に対して30質量%以下の範囲で含有させることが好ましく、20質量%以下とすることがより好ましい。上記の範囲を超えて添加した場合、上記の特性が阻害される場合がある。
また、本発明の熱接着性ポリエステルフィルムでは、熱接着性や滑り性、凹凸吸収性を阻害しない範囲で、熱接着層に有機粒子を含有させても構わない。熱接着層に有機粒子を含有させることによって、熱接着層の表面に突起を形成することが可能であり、熱プレスにより熱接着させてカードを製造する際に、フィルム間の気泡を効果的に排出することが可能になる。有機粒子としては、メラミン樹脂や架橋ポリスチレン樹脂、架橋アクリル樹脂及びこれらを主体とする複合粒子が好ましい。なお、これらの無機粒子は、熱接着層の構成材料に対して30質量%以下の範囲で含有させることが好ましく、20質量%以下とすることがより好ましい。上記の範囲を超えて添加した場合、上記の特性が阻害される場合がある。
[二軸延伸ポリエステルフィルム層(基材フィルム)]
本発明の熱接着性ポリエステルフィルムは、少なくとも一層の二軸延伸ポリエステルフィルム層を基材とする。この層は従来公知の方法によって容易に光学特性や力学特性を調節することができる。すなわち、本発明の熱接着性ポリエステルフィルムを白色または高隠蔽性のICカードまたはICタグとして用いる際には、基材フィルム中に微細空洞を多数含有させたり、白色顔料を含有させたりすることが好ましい実施形態の一つである。また、隠蔽性を必要としない場合で、透明性や強度が優先的に求められる場合には、極力、無機粒子や異物などを含まない二軸延伸ポリエステルフィルムを用いることが好ましい実施形態の一つである。
本発明の熱接着性ポリエステルフィルムを白色または高隠蔽のICカードまたはICタグの素材として用いる場合には、基材フィルムとして、その内部に微細な空洞を多数含有する、空洞含有ポリエステルフィルムが好ましい。フィルム内部の多数の微細な空洞によって、フィルムの見かけ密度が0.7g/cm3以上かつ1.2g/cm3以下に制御されていることが好ましい。フィルムの見かけ密度の下限は、0.8g/cm3がより好ましく、0.9g/cm3がさらに好ましい。一方、フィルムの見かけ密度の上限は1.2g/cm3がより好ましく、1.1g/cm3がさらに好ましい。フィルムの見かけ密度が0.7g/cm3未満の場合には、フィルムの強度や耐座屈性、圧縮回復率が低下し、ICカードまたはICタグの加工や使用に適切な性能を得られなくなる。一方、フィルムの見かけ密度が1.2g/cm3を超える場合には、ICカードまたはICタグとしての軽量性や柔軟性が得られなくなる。
フィルムの内部に空洞を含有させる方法としては、(1)発泡剤を含有せしめ押出時や製膜時の熱によって発泡、あるいは化学的分解により発泡させる方法、(2)押出時又は押出後に炭酸ガスなどの気体又は気化可能な物質を添加し、発泡させる方法、(3)ポリエステルと該ポリエステルに非相溶性の熱可塑性樹脂を添加し、溶融押出後、一軸又は二軸に延伸する方法、(4)有機もしくは無機の微粒子を添加して溶融押出後、一軸又は二軸に延伸する方法などを挙げることができる。
前記のフィルムの内部に空洞を含有させる方法の中で、前記(3)の方法、すなわちポリエステルと非相溶性の熱可塑性樹脂を添加し、溶融押出後、一軸又は二軸に延伸する方法が好ましい。ポリエステル樹脂に非相溶の熱可塑性樹脂としては、何ら制限されるものではないが、ポリプロピレンやポリメチルペンテンに代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂などが例示される。
これらの熱可塑性樹脂は単独で用いてもよく、また複数の熱可塑性樹脂を組合せて用いてもよい。これらポリステル樹脂に非相溶性の熱可塑性樹脂の含有量は、空洞含有ポリエステル層を形成する樹脂に対し3〜20質量%が好ましく、さらに好ましいのは5〜15質量%である。そして、ポリエステル樹脂に非相溶性の熱可塑性樹脂の含有量が、空洞含有ポリエステル層を形成する樹脂に対し3質量%未満では、フィルム内部に形成される空洞含有量が少なくなるため、隠蔽性が低下する。一方、非相溶性の熱可塑性樹脂の含有量が、白色ポリエステル層を形成する樹脂に対し20質量%を超える場合には、フィルム製造工程での破断が多発する。なお、空洞含有ポリエステルフィルムの内部の空洞含有率は10〜50体積%が好ましく、20〜40体積%がより好ましい。
また、本発明の熱接着性ポリエステルフィルムを白色または高隠蔽のICカードまたはICタグの素材として用いる場合には、基材フィルムとして二軸延伸ポリエステル層に白色顔料を含有させた、白色ポリエステルフィルムも好ましい実施形態の一つである。ここで用いる白色顔料は特に限定されないが、汎用性の観点から、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム及びこれらの複合体よりなるものが好ましく、隠蔽効果の観点から酸化チタンを用いることがより好ましい。これらの無機粒子は、白色ポリエステル層の構成材料に対し、25質量%以下の範囲で含有させることが好ましく、20質量%以下とすることがより好ましい。上記の範囲を超えて添加した場合、フィルム製造時に破断が多発して工業レベルの安定生産が困難になる場合がある。
また、本発明の熱接着性ポリエステルフィルムを白色または高隠蔽のICカードまたはICタグの素材として用いる場合には、微細空洞や白色顔料の含有量を適宜調節して、光学濃度が0.5以上で、かつ3.0以下とすることが好ましい。光学濃度の下限は0.7がより好ましく、0.9がさらに好ましい。また、光学濃度の上限は2.5がより好ましく、2.0がさらに好ましい。光学濃度が上記の範囲に満たない場合には、ICカードまたはICタグとした際に、隠蔽性の不足からICチップや電気回路などの内部構造が透けて見える場合があり、意匠上また保安上好ましくない。また、光学濃度が上記の範囲を超えるようにフィルムを製造するためには、フィルム内部の微細空洞や白色顔料の含有量を非常に多くせざるを得ず、フィルム強度などが低下する。
なお、本発明の熱接着性ポリエステルフィルムを白色または高隠蔽のICカードまたはICタグの素材として用いる場合には、ポリステル樹脂に非相溶である熱可塑性樹脂を配合して空洞を形成する方法と、白色顔料を配合する方法を併用する方法が最も好ましい。
一方、本発明の熱接着性ポリエステルフィルムを透明なICカードまたはICタグの素材として用いる場合には、フィルムの光線透過率が25%以上98%以下であることが好ましい。フィルムの光線透過率を前記の範囲に調整することにより、クリアで美麗な意匠性に優れたカードを得ることができる。フィルムの光線透過率の下限は、30%がより好ましく、40%がさらに好ましい。フィルムの光線透過率の下限が25%未満の場合には、透明性が十分でなく意匠性が得られない。一方、フィルムの光線透過率の上限は、90%がより好ましく、80%がさらに好ましい。意匠性の観点からは光線透過率が高いほど好ましいことは言うまでもない。しかしながら、フィルムの光線透過率が98%を超えるものを製造する場合、実用に耐えうる滑り性を得ることが困難である。
本発明の熱接着性ポリエステルフィルムにおいて、熱接着層を除く各層は結晶性のポリエステルを主体として構成されることが好ましい。ここでいう結晶性ポリエステル樹脂とは、融解熱量が20mJ/mgを超えるポリエステル樹脂である。融解熱量の測定方法は、前記と同様である。
このような結晶性ポリエステルは、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸又はそのエステルとエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどのグリコールとを適切な割合で重縮合させて製造されるポリエステルである。これらのポリエステルは芳香族ジカルボン酸とグリコールとを直接反応させる直重法のほか、芳香族ジカルボン酸のアルキルエステルとグリコールとをエステル交換反応させた後、重縮合させるエステル交換法か、あるいは芳香族ジカルボン酸のジグリコールエステルを重縮合させるなどの方法によって製造することができる。
前記の結晶性ポリエステルの代表例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートあるいはポリエチレン−2,6−ナフタレートが挙げられる。前記のポリエステルはホモポリマーであってもよく、第三成分を共重合したものであってもよい。これらのポリエステルの中でも、エチレンテレフタレート単位、トリメチレンテレフタレート単位、あるいはエチレン−2,6−ナフタレート単位が、70モル%以上、好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上であるポリエステルが好ましい。
[ICカードまたはICタグ、およびその製造方法]
本発明のICカードまたはICタグは、プラスチックフィルムにアンテナ回路及びICチップを設けたインレットの片面または両面に、前記の熱接着性フィルムを配置し、熱接着性フィルムの熱接着層を介してインレットを熱プレスして接着させたコアシートを構成要素として用いることで製造できる。また、ICカードまたはICタグのより好ましい製造方法は、前記のコアシートの両面に、さらにポリエステルシート(例えば、無配向のPETGシート)または二軸延伸ポリエステルフィルムを積層し、次いで熱プレスして、各部材を貼り合わせて一体化させる方法である。
なお、インレットとは、アンテナ回路または金属コイルにICチップを実装した状態までの製品形態を示すものであり、プラスチックフィルムの片面にアンテナ回路及びICチップを設けた構成からなる。製品形態としては最も基本的なものであり、アンテナ回路または金属コイル、ICチップはむき出しの状態になっている。
通常、二軸延伸ポリエステルフィルムを芯材としてカードを構成する場合、ホットメルトシートなど接着剤の使用が必須であるが、本発明の熱接着性ポリエステルフィルムではこれが不要であり、カードやタグの生産効率を向上し、製造コストを減じることができる。
また、本発明のICカードまたはICタグは、プラスチックフィルムにアンテナ回路及びICチップを設けたインレットの片面または両面に、前記の熱接着性フィルムを積層し、熱接着性フィルムの熱接着層を介してインレットと接着させたコアシートを構成要素として含むことを特徴とする。さらに好ましい実施形態は、コアシートの両面にポリエステルシートまたは二軸延伸ポリエステルフィルムを積層されたICカードまたはICタグである。
なお、カードやタグは物品の形状や用途を示すものであり、プラスチックフィルムにアンテナ回路または金属コイル及びICチップを設けたインレットを含むものであれば、ICカードやICタグなどと形態や用途が異なったものも本発明に包含される。
本発明の熱接着性ポリエステルフィルムは、片面または両面に非晶性ポリエステルからなる熱接着層を有するため、接着剤を使用しなくても、既知のポリエステルシートやポリエステルフィルムに接着させることが可能である。ポリエステルシートは、特に限定されるものではないが、イソフタル酸やシクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコールなどの成分をポリエチレンテレフタレートに共重合した低結晶性または非晶性のポリエステルシートを用いることが好ましい。また、二軸延伸ポリエステルフィルムを用いる場合もその種類は特に限定されないが、カードやタグに好適な、白色ポリエステルフィルムまたは空洞含有ポリエステルフィルムを用いることが好ましい。さらに、印刷性や接着性を改良した表面処理層を形成させた二軸延伸ポリエステルフィルムを用いることが、さらに好ましい実施態様である。
また、本発明によってICカードまたはICタグを製造する際、アンテナ回路やICチップを有するインレットは、本発明の熱接着性ポリエステルフィルムの少なくとも片面に隣接させて配置することが好ましい。本発明の熱接着層は熱プレス工程において容易に変形することが可能であり、回路やチップに起因する凹凸を効果的に緩和することが可能であり、これによって外観が美麗なカードやタグを製造することが可能である。
本発明において、熱プレス接着法でカードやタグを製造する場合、熱プレス時の温度は90〜160℃が好ましく、110〜150℃がさらに好ましい。熱プレス時の温度が90℃未満の場合、十分な接着力を得ることが出来ない。一方、熱プレス時の温度が160℃を超える場合、フィルムが著しく熱収縮してカードの形状が美麗でなくなり、意匠の点で好ましくない。
また、熱プレス時の圧力は0.1〜20MPaが好ましく、0.3〜10MPaがより好ましい。熱プレス時の圧力が0.1MPa未満の場合、カードの平面性が十分でなく、美麗な外観が得られない。一方、熱プレス時の圧力が20MPaを超える場合、空洞含有ポリエステルフィルムを基材とする熱接着性ポリエステルフィルムを用いても、その優れたクッション性や凹凸吸収性の効果が、高い圧力によって小さくなる。その結果、ICチップなどの回路にかかる負担が過大になり、電気的故障が発生しやすくなる。
本発明のICカードまたはICタグの好ましい実施形態の一つは、フィルム内部に多数の微細空洞を含有させた空洞含有フィルムを基材とする熱接着性ポリエステルフィルム(見かけ密度が0.7〜1.3g/cm3)を用いたものであって、見かけ密度を0.7g/cm3以上、1.3g/cm3未満としたICカードまたはICタグである。カードまたはタグの見かけ密度の下限は0.8g/cm3がより好ましく、0.9g/cm3がさらに好ましい。一方、カードまたはタグの見かけ密度の上限は1.2g/cm3がより好ましく、1.1g/cm3がさらに好ましい。カードまたはタグの見かけ密度が、0.7g/cm3未満の場合には、カードやタグの強度や耐座屈性、圧縮回復率が低下し、加工時や使用時に適切な力学性能を得られなくなる。一方、カードまたはタグの見かけ密度が1.3g/cm3以上の場合には、ICカードまたはICタグとしての軽量性や柔軟性が得られなくなる。また、見かけ密度を0.7g/cm3以上、1.3g/cm3未満としたICカードまたはICタグは、水没事故の際に水面に浮き上がるか、もしくは沈没までの間に回収するに十分な時間を得ることができる。そのため、本形態のカードは、例えば、個人がその情報を記録して日常的に所持使用する個人情報の記録カードとして好適である。
また、本発明のICカードにおけるもう一つの好ましい実施形態は、光線透過率が25%以上、98%以下の本発明の熱接着性ポリエステルフィルムを用いたものであって、光線透過率(電子回路部分を除く)が10%以上、98%以下であるICカードである。カードの光線透過率を25〜98%の範囲に制御することによって、ファッション性やイベント性に優れたICカードを提供することができる。カードの光線透過率の下限は20%がより好ましく、30%がさらに好ましい。光線透過率の下限が25%未満の場合には、透明性が十分でなく好ましい意匠性が得られない。一方、光線透過率の上限は90%がより好ましく、80%がさらに好ましい。意匠性の観点からは光線透過率が高いほど好ましいことは言うまでもない。しかしながら、光線透過率が98%を超えるものを製造した場合、実用に耐えうる滑り性を得ることが困難であり、現実的でない。
本発明のICタグの好ましい実施形態の一つは、光線透過率が25%以上、98%以下の本発明の熱接着性ポリエステルフィルムを用いたものであって、タグの光線透過率(電子回路部分を除く)が10%以上、98%以下であるICタグである。タグの光線透過率を25〜98%の範囲に制御することによって、タグの裏側部分などに記入された管理情報や、貨物のあて先、個人名などを効率的に視認することができる。このため、光線透過率の下限は20%がより好ましく、30%がさらに好ましい。一方、光線透過率の上限は90%が好ましく、80%がより好ましい。視認性の観点からは光線透過率が高いほど好ましいことは言うまでもない。しかしながら、光線透過率が98%を超えるものを製造した場合、実用に耐えうる滑り性を得ることが困難であり、現実的でない。
次に、本発明の技術要件と効果との結びつきを実施例と比較例により詳しく説明する。なお、本発明で用いた特性値は下記の方法を用いて評価した。
[評価方法]
(1)樹脂の融点とガラス転移温度
JIS K 7121に記載の「プラスチックの転移温度測定方法」により、DSC測定を行った。サンプルは、拡大鏡つきミクロトームを用いてフィルムより熱接着層を切削した小片約10mgを、アルミパンに密封して300℃で3分間溶融し、液体窒素でクエンチしたものを用いた。測定器には示差走査熱量計(セイコーインスツルメント社製、EXSTAR6200DSC)を用い、乾燥窒素雰囲気下で実施した。室温より10℃/分の速さで加熱して中間点ガラス転移温度を求めた後、融解ピーク温度(融点)を求めた。
(2)樹脂の融解熱量
JIS K 7122に記載の「プラスチックの転移熱測定方法」により融解熱量を求めた。DSC測定の詳細は上記の融点の測定と同様にした。
(3)フィルム厚み
JIS K 7130に記載の「発泡プラスチック−フィルム及びシート−厚さ測定方法」により測定した。測定器は電子マイクロメーター(マール社製、ミリトロン1240)を用いた。測定すべきフィルムの任意の4箇所より5cm角サンプル4枚を切り取り、一枚あたり各5点(計20点)測定して平均値を厚みとした。
(4)フィルムの積層厚み
測定すべきフィルムの任意の3箇所より小片を切り取った。ミクロトームを用いてこの小片を切削し、フィルム表面に直交するフィルム断面を作成した。この断面に白金パラジウム合金をスパッタリングしてサンプルとし、走査型電子顕微鏡(日立製作所製、S2500)を用いて断面を検鏡した。フィルム全厚みが一視野に含まれる適切な倍率で観察して、各層の厚みを測定した。測定は各視野あたり3箇所で行い、合計9箇所の平均値をもって積層厚みとした。
(5)フィルムの表面粗さ
測定すべきフィルムの任意の3箇所より小片を切り取り、除電ブロワーで塵などを注意深く取り除いた。この熱接着層表面を非接触型三次元形状測定装置(Micromap社製、Micromap557)で測定した。光学系にはミロー型二光束干渉対物レンズ(10倍)とズームレンズ(Body Tube,0.5倍)を使用し、5600オングストロームの光源を用いて、2/3インチCCDカメラで受光した。測定はWAVEモードで行い、1619μm×1232μmの視野を640×480ピクセルのデジタル画像として処理した。画像の解析には解析ソフトウェア(Micromap123、バージョン4.0)を用いて、1次関数モードで傾斜除去(Detrending)した。これにより上記3サンプルの表裏それぞれ5視野(合計30視野)の算術平均表面粗さを測定して、その平均値を表面粗さ(Sa)とした。
(6)賦形率と賦形部外縁の勾配
作成したICカードまたはICタグについて、インレットの回路面と熱接着層との間の接着面を注意深く剥離した。この熱接着層の剥離面において界面剥離している部分を選び、プリント回路の圧痕の段差を視野に含むようにして上記(5)と同様に三次元形状の画像を得た。同ソフトウェアの断面解析機能によって、圧痕の段差と直交する断面形状プロファイルを得た。このプロファイルから、プリント回路による圧痕の深さを求め、もとのプリント回路の高さ(10μm)で除して賦形率を求めた。また、圧痕の外縁部分において、圧痕部から非圧痕部に至る段差について勾配(段差中央部を含み、段差の約1/3部分での勾配)を求め、賦形部外縁の勾配とした。なお、観察は3視野について行って合計15プロファイルの平均値を評価した。
(7)フィルムの静摩擦係数
JIS K 7125に記載の「発泡プラスチック−フィルム及びシート−摩擦係数の試験方法」により測定した。測定器は引張り試験機(島津製作所製、AG1KNI)を用いた。測定すべきフィルムの任意の5箇所よりサンプル10枚を切り取り、フィルムの表裏両面を対向させて測定した。滑り片に加える荷重は1500gとし、合計5回の平均値を静摩擦係数とした。
(8)フィルムおよびカード・タグの見かけ密度
任意の5箇所より切り取った100mm四方のサンプル5枚について、JIS K 7222に記載の「発泡プラスチック及びゴム−見かけ密度の測定」により測定した。測定は室温で行い、平均値をもって見かけ密度とした。なお、表記を簡便にするため単位はg/cm3に換算した。
(9)フィルムおよびカード・タグの光線透過率
透過光学濃度計(マクベス社、RD−914)を用いて、白色光での光学濃度を測定した。測定すべきサンプルの任意の5箇所より切り取った50mm四方のサンプル5枚について測定を行い、その平均値を光線透過率(%)に換算した。
(10)フィルムのカール値
測定すべきフィルムを任意の3箇所より長手方向に100mm、幅方向に50mmに枚葉状に切り出し、無荷重の状態で、110℃で30分間加熱処理した後、フィルムの凸部を下にして水平なガラス板上に静置して、ガラス板と立ち上がったフィルム4隅の下端との垂直距離を最小目盛り0.5mm単位で定規を用いて測定し、この4箇所の測定値の平均値をカール値とした。3枚について測定を行い、この平均値をカール値とした。
(11)凹凸吸収性
作成したICカードまたはICタグで、アンテナ回路または銅箔を配した部位の外縁部を三次元形状測定装置(菱化システム社製、マイクロマップTYPE550、対物レンズ10倍)を用いて、WAVEモードで観察した。アンテナ回路または銅箔の有無によって生じる段差を三視野(一視野あたり三箇所)観測し、その平均値を求めた。段差が小さいほど凹凸吸収性に優れると評価し、段差が3μm未満の場合を◎、3μm以上6μm未満の場合を○とし、6μm以上の場合を×とした。なお、銅箔を用いた場合、ICカードまたはICタグとしての機能はないが、熱接着性フィルムを用いてカードまたはタグを作成した際の凹凸吸収性のモデル評価法として用いることができる。
(12)フィルムの熱接着性
作成したICカードまたはICタグについて、手作業により剥離した。全く熱接着していないものを×、全面的に界面剥離するものを△、熱接着層が大部分で凝集破壊するものを○、材料破壊するものを◎とした。
(13)ICカードまたはICタグの耐熱性
作成したICカードまたはICタグを清浄で平らなステンレス鋼板(SUS304、厚さ0.8mm)上に静置し、オーブンを用いて空気雰囲気下、120℃で24時間加熱保持した。加熱前後の試料外観(光沢損失や変色、曇り、ひび割れ、変形、融解、融着)を目視評価し、加熱前後で差異の認められないものを○、差異の認められるものを程度に応じて△または×とした。
(14)ポリエステル樹脂の固有粘度
JIS K 7367−5に記載の「プラスチック−毛細管型粘度計を用いたポリマー希釈溶液の粘度の求め方−」により、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(60/40;質量部)の混合溶媒を用いて、30℃で測定した。
(15)粒子の平均粒子径
粒子を走査型電子顕微鏡(日立製作所製、S2500)で観察し、粒子の大きさに応じて適宜倍率を変え、写真撮影したものを拡大コピーした。次いで、ランダムに選んだ少なくとも200個以上の粒子について、各粒子の外周をトレースした。画像解析装置にてこれらのトレース像から粒子の円相当径を測定し、それらの平均値を平均粒子径とした。
実施例1
[ポリエチレンテレフタレート樹脂の製造]
エステル化反応缶を昇温して200℃に到達した時点で、テレフタル酸を86.4質量部及びエチレングリコールを64.4質量部含むスラリーを仕込み、撹拌しながら、触媒として三酸化アンチモンを0.017質量部及びトリエチルアミンを0.16質量部添加した。次いで加熱昇温を行い、ゲージ圧0.34MPa、240℃の条件で加圧エステル化反応を行った。
その後、エステル化反応缶内を常圧に戻し、酢酸マグネシウム4水和物を0.071質量部、次いでリン酸トリメチルを0.014質量部添加した。さらに、15分かけて260℃に昇温した後、リン酸トリメチルを0.012質量部、次いで酢酸ナトリウムを0.0036質量部添加した。得られたエステル化反応生成物を重縮合反応缶に移送し、減圧下で260℃から280℃へ徐々に昇温した後、285℃で重縮合反応を行った。重縮合反応終了後、孔径5μm(初期濾過効率95%)のステンレススチール焼結体製フィルターで濾過処理を行った。
次に、空気中に存在する径が1μm以上の異物を、ヘパフィルターで減少させた密閉室内で、上記重縮合反応生成物であるポリエチレンテレフタレート(PET)をペレット化した。ペレット化は、予め濾過処理(孔径:1μm以下)を行った冷却水を流しながら、冷却水槽中に溶融PETを押出機のノズルから押出し、形成されたストランド状PET樹脂をカットする方法で行った。得られたPETのペレットは、固有粘度が0.62dl/g、Sb含有量が144ppm、Mg含有量が58ppm、P含有量が40ppm、カラーL値が56.2、カラーb値が1.6であり、不活性粒子及び内部析出粒子は実質的に含有していなかった。
[非晶性ポリエステル樹脂の製造]
上記PET樹脂について、エチレングリコールの15モル%をネオペンチルグリコールに、テレフタル酸の15モル%をイソフタル酸に変えて製造を行い、非晶性ポリエステル樹脂A1を得た。この樹脂のDSC装置による分析では融点は観測されず、ガラス転移温度は78℃であった。
上記PET樹脂について、エチレングリコールの30モル%をシクロヘキサンジメタノールに変えて製造を行い、非晶性ポリエステル樹脂A2を得た。この樹脂のDSC装置による分析では融点は観測されず、ガラス転移温度は81℃であった。
[空洞形成剤含有マスターペレットの調製]
メルトフローレートが1.5のポリスチレン樹脂(日本ポリスチレン社製、日本ポリスチ G797N)20質量%、メルトフローレートが3.0の気相法重合ポリプロピレン樹脂(出光石油化学社製、IDEMITSU PP F300SP)20質量%及びメルトフローレートが180のポリメチルペンテン樹脂(三井化学社製、TPX DX−820)60質量%をペレット混合し、二軸押出機に供給して十分に混練りし、ストランドを冷却、切断して空洞形成剤含有マスターペレットを調整した。
[酸化チタン含有マスターペレットの調製]
上記で得たポリエチレンテレフタレート樹脂50質量%に、平均粒径0.3μm(電顕法)のアナターゼ型二酸化チタン(富士チタン社製、TA−300)50質量%を混合したものをベント式二軸押出機に供給して予備混練りした後、溶融ポリマーを連続的にベント式単軸混練り機に供給して混練りして酸化チタン含有マスターペレットを調整した。
[有機粒子含有マスターペレットの調製]
上記で得られたポリエチレンテレフタレート樹脂70質量%に、平均粒径3.5μm(カタログ値)のメラミン粒子(日産化学工業社製、オプトビーズ3500M)[30質量%]を混合したものをベント式二軸押出機に供給して予備混練りした後、溶融ポリマーを連続的にベント式単軸混練り機に供給して混練りして有機粒子含有マスターペレットを調整した。
[熱接着性二軸延伸ポリエステルフィルムの製造]
前記PET樹脂を原料Mとし、上記非晶性ポリエステル樹脂A1を90質量%とアタクチックポリスチレン樹脂(日本ポリスチレン社製、G797N;ガラス転移温度78℃)を10質量%含む混合物を原料Cとした。原料Mおよび原料Cを水分率80ppmまで真空乾燥して、各々別の押出機に供給した。押出しの際は、混合性と積層安定性を調整するため、原料Mは押出機内部で280℃まで加熱して溶融混合した後、樹脂温度270℃でフィードブロックに導いた。一方、原料Cは押出機内部で250℃まで加熱して溶融混合した後、樹脂温度280℃でフィードブロックに導いた。これを原料Mからなる中間層(基材)の両面に原料Cからなる熱接着層が積層されるようにフィードブロックで接合した。これをT型ダイスより20℃に調節された冷却ドラム上に押し出し、厚み2.4mmの3層構成の未延伸フィルムを製造した。なお、未延伸フィルム製造時、冷却ドラムの反対面には20℃、相対湿度30%に調節した冷風を吹き付けて冷却した。
得られた未延伸フィルムを、テフロン(登録商標)製加熱ロールを用いて65℃に均一に加熱し、さらにフィルムの両面に対向して設置した表面温度が700℃の金反射膜を備えた赤外線ヒーターを4本用いてフィルム温度が95℃となるように加熱しながら、セラミックロール間で速度差を利用して縦方向に3.4倍延伸した。縦延伸工程のロール径は150mmであり、サクションロール、静電密着、パートニップの密着装置を採用してフィルムをロールへ密着させた。このようにして得た縦一軸延伸フィルムの両端をクリップで把持し、フィルム表面温度がおよそ100℃になるよう乾燥熱風で予熱した後、およそ140℃まで加熱しながら横方向に3.8倍延伸した。その後、フィルム幅を固定した状態で面赤外線ヒーターと乾燥熱風によっておよそ230℃まで加熱して熱固定を行い、およそ200℃まで冷却しながら幅方向に5%の弛緩熱処理を行った。その後、150℃と100℃および室温相当に調節された乾燥温風で段階的に徐々に冷却を行い、フィルムの表面温度(熱接着層のガラス転移温度よりも十分に低い)50℃以下でフィルム端部を切除してフィルムロールとした。これによって厚さ190μmの熱接着性ポリエステルフィルムを得た。なお、フィルム断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、各層の厚み(熱接着層Aa/中間層(基材)/熱接着層Ab)は、およそ20/150/20(単位:μm)であった。
上記の方法で得られた熱接着性ポリエステルフィルムを用いてICカードを作成し、カード特性(熱接着性、凹凸吸収性、耐熱性)を評価した。すなわち、上記で得たフィルムを100mm×70mmの大きさに二枚切り出し、その間にICタグ用インレット(オムロン社製、V720S−D13P01)を配した。この二枚の両外面に、透明二軸延伸ポリエステルフィルム(東洋紡績製、コスモシャインA4300;188μm)を重ね合わせて、熱プレス(140℃,0.3MPa,10分間)により接着した。この積層体からインレット部分を含むように86mm×54mmに切り出し、四隅の角を落としてICカードを得た。フィルムの構成を表1に、フィルムとカードの特性を表2に、カードの構成を図1に示す。
この実施例1で得られた熱接着性ポリエステルフィルムは、ICカードに用いるコアシートとして好適な熱接着性や凹凸吸収性と滑り性を両立したフィルムである。また、耐熱性、平面性についても、ICカード用として好適であった。
比較例1
上記の実施例1で添加したポリスチレン樹脂に代えて、平均粒径1.5μmの無定形シリカ粒子を5000ppm含むポリエチレンテレフタレート樹脂を用いた。これ以外は実施例1と同様にして、熱接着性ポリエステルフィルムとICカードを得た。この比較例1で得られた熱接着性ポリエステルフィルムは、ICカードに用いるコアシートとして好適な熱接着性と凹凸吸収性を有するものの、滑り性が極度に悪くてブロッキングしたため摩擦係数が測定できなかった。このため、ICカードを作成する過程においても、ハンドリング性や熱膨張によるズレを緩和することができず、しわや折れ筋が発生した。
比較例2
上記の実施例1で添加したポリスチレン樹脂に代えて、平均粒径3μmの硫酸バリウム粒子を50質量%含むポリエチレンテレフタレート樹脂を用いた。これ以外は実施例1と同様にして、熱接着性ポリエステルフィルムとICカードを得た。この比較例2で得られた熱接着性ポリエステルフィルムは、ICカードに用いるコアシートとして好適な熱接着性と凹凸吸収性を有するものの、滑り性が極度に悪くてブロッキングしたため摩擦係数が測定できなかった。このため、カードを試作する過程においても、ハンドリング性や熱膨張によるズレを緩和することができず、しわや折れ筋が発生した。
実施例2
前記の空洞形成剤含有マスターペレット6質量%と前記酸化チタン含有マスターペレット14質量%、及び前記PET樹脂80質量%よりなる混合物を原料Mとした。また、非晶性ポリエステル樹脂A1を94質量%と上記のポリスチレン樹脂を5質量%、ポリエチレン樹脂(三井化学社製、ハイワックスNL500)を1質量%含む混合物を原料Cとした。さらに、熱接着層および中間層(基材)の積層厚みを、二軸延伸後で30/240/30(単位:μm)となるように各押出機から吐出される樹脂量を調節した。これ以外は実施例1と同様にして、熱接着性ポリエステルフィルムを得た。また二軸延伸ポリエステルフィルム(A4300)に代えて、空洞含有白色ポリエステルフィルム(東洋紡績製、クリスパーK1212、厚み188μm、見かけ密度1.1g/cm3)を用いて、ICカードを得た。この実施例2で得られた熱接着性ポリエステルフィルムは、ICカードに用いるコアシートとして好適な熱接着性や凹凸吸収性と滑り性を両立したフィルムである。また、耐熱性、平面性、隠蔽性、軽量性についてもICカード用材料として好適であった。また、得られたICカードは軽量性、隠蔽性に優れたものであった。
実施例3
前記空洞形成剤含有マスターペレット8質量%と前記酸化チタン含有マスターペレット6質量%、及び前記PET樹脂86質量%よりなる混合物を原料Mとした。また、原料Cにおけるポリスチレン樹脂の添加量を20質量%とした。これ以外は実施例1と同様にして、熱接着性ポリエステルフィルムを得た。またサンドマット加工を施した二軸延伸ポリエステルフィルムに代えて、空洞含有白色ポリエステルフィルム(東洋紡績製、クリスパーK2323、厚み188μm、見かけ密度1.1g/cm3)を用いて、ICカードを得た。この実施例3で得られた熱接着性ポリエステルフィルムは、ICカードに用いるコアシートとして好適な熱接着性や凹凸吸収性と滑り性を両立したフィルムである。また、耐熱性、平面性、隠蔽性、軽量性についてもICカード用材料として好適であった。また、得られたICカードは軽量性、隠蔽性に優れたものであった。
実施例4
酸化チタン含有マスターペレット15質量%とPET樹脂85質量%よりなる混合物を原料Mとした。非晶性ポリエステル樹脂A1を95質量%とポリカーボネート樹脂(出光石油化学社製、ガラス転移温度148℃)5質量%よりなる混合物を原料Cとして用いた。熱接着層および中間層(基材)の積層厚みを、二軸延伸後で14/47/14(単位:μm)となるように各押出機から吐出される樹脂量を調節した。また空洞含有白色ポリエステルフィルム(東洋紡績製、クリスパーK2323、厚み250μm、見かけ密度1.1g/cm3)を用いて、ICカードを得た。これ以外は実施例1と同様にして、厚さ75μmの熱接着性ポリエステルフィルムとICカードを得た。この実施例で得られた熱接着性ポリエステルフィルムは、ICカードに用いるコアシートとして好適な熱接着性や凹凸吸収性と滑り性を両立したフィルムである。また、耐熱性、隠蔽性についてもICカード用として好適であった。
実施例5
空洞形成剤含有マスターペレット15質量%とPET樹脂85質量%よりなる混合物を原料Mとした。また、非晶性ポリエステル樹脂A2を70質量%と共重合環状オレフィン樹脂(三井化学社製、APL8008T、ガラス転移温度70℃)30質量%よりなる混合物を原料Cとして用いた。さらに、押出機3台を用いて、両面の熱接着層の厚みを違えた三層構成の未延伸フィルムを製造した。この際、各層の厚み(熱接着層Aa/中間層(基材)/熱接着層Ab)が、二軸延伸後で36/140/14(単位:μm)となるように、各押出機のから吐出される樹脂量を調節した。なお、熱接着層Aが冷却ドラムに接する表面である。得られた未延伸フィルムは実施例1と同様に延伸したが、赤外ヒーターの温度をフィルム表裏で差をつけるよう微調整し、二軸延伸後の縦方向のカールが最小となるようにした。これ以外は実施例1と同様にして、厚さ150μmの熱接着性ポリエステルフィルムを得た。また、二軸延伸ポリエステルフィルム(東洋紡績製、コスモシャインA4300)に代えて、空洞含有白色ポリエステルフィルム(東レ社製、E60L、厚み188μm、見かけ密度0.9g/cm3)を用いて、実施例1と同様にICカードを得た。この実施例5で得られた熱接着性ポリエステルフィルムは、ICカードに用いるコアシートとして好適な熱接着性や凹凸吸収性と滑り性を両立したフィルムである。また、耐熱性、隠蔽性についてもICカード用材料として好適であった。平面性については若干の縦方向カールが発生したが、フィルムのハンドリング性に実用上の障害がない程度であった。
比較例3
熱接着層および中間層(基材)の積層厚みを、二軸延伸後で47/50/3(単位:μm)となるように各押出機から吐出される樹脂量を調節した。また縦延伸工程における赤外ヒーターの加熱において、フィルム表裏に温度差をつけ、フィルムのカールを低減する手段を採用しなかった。これ以外は実施例4と同様にして、熱接着性ポリエステルフィルムを得た。このフィルムの熱接着層Bの面に、アンテナ回路が対向するようにインレットを配置し、実施例5と同様にICカードを作成した。この比較例3で得られた積層二軸延伸ポリエステルフィルムでは、熱接着性、凹凸吸収性ともに不十分であった。また、フィルムを取り扱うのが困難なレベルのカールが生じた。また、平面で静置することができなかったため、カール値を測定することができなかった。このため、ICカードを作成する過程においてもハンドリング性が困難であり、インレットを熱接着性フィルムの熱接着層に貼り合わせる際に位置決めを正確に行うことができなかった。
実施例6
市販の非晶性ポリエステル樹脂(東洋紡績製、バイロン240;ガラス転移温度60℃)95質量%と低密度ポリエチレン樹脂(出光石油化学社製、ガラス転移温度−36℃)5質量%よりなる混合物を原料Cとして用いた。また各層の厚み(熱接着層Aa/中間層(基材)/熱接着層Ab)は、二軸延伸後で25/250/25(単位:μm)となるように、各押出機のから吐出される樹脂量を調節した。これ以外は実施例1と同様にして、厚さ300μmの熱接着性ポリエステルフィルムを得た。
また、透明二軸延伸ポリエステルフィルム(東洋紡績製、コスモシャインA4300)に代えて、サンドマット加工を施したポリエステルフィルム(表面粗さ0.1μm、厚さ188μm、見かけ密度1.4g/cm3)を用いて、ICタグを作成した。この実施例6で得られた熱接着性ポリエステルフィルムは、ICタグに用いるコアシートとして好適な熱接着性や凹凸吸収性と滑り性を両立したフィルムである。また、耐熱性、平面性についてもICタグ用として好適であった。
比較例4
原料Cの非晶性ポリエステル樹脂を、結晶性ポリエステル樹脂であるPET樹脂に変更したほかは実施例5と同様にして積層二軸延伸ポリエステルフィルム得た。しかしながら、該フィルムは熱接着性を有しておらず、ICタグを作成することができなかった。
比較例5
原料Mとして、実施例4の原料Cを用いた。また混合性と積層安定性を調整するため、原料Mは押出機内部で250℃まで加熱して溶融混合した後、樹脂温度280℃でフィードブロックに導いた。また未延伸フィルムの厚みを0.25mmに調節した。その他は実施例4と同様にして未延伸シートを得た。この未延伸シートを熱接着性ポリエステルフィルムの代わりに用いて、実施例5と同様にICタグを作成した。この比較例5で得られた未延伸シートは、良好な熱接着性、凹凸吸収性を示したものの、滑り性が悪く、ハンドリング性が困難であった。また、耐熱性においてもICタグとしての信頼性を得るには十分ではなかった。
本発明の熱接着性ポリエステルフィルムは、耐熱性や耐薬品性、環境適性に優れる二軸延伸ポリエステルフィルムにおいて、これまで困難であった熱接着性と凹凸吸収性、滑り性を両立させた。これにより、従来、ICカードまたはICタグに用いられてきた無配向のPVCシートやPETGシート、二軸延伸ポリエステルフィルム、またはそれらの貼り合わせによっては達し得なかった上記特性を達成することができる。本発明はICカードまたはICタグの性能向上のみならず、貼り合わせ工程の省略による経済的効果にも大きく寄与するものである。
本発明の実施例1で得られたICカードに用いるコアシートの断面の模式図である。
本発明の別の実施態様のICカードまたはICタグに用いるコアシートの断面の模式図である。
本発明のICカードまたはICタグの断面の模式図である。
本発明の別の実施態様のICカードまたはICタグの断面の模式図である。
符号の説明
1:熱接着層
2:二軸延伸ポリエステルフィルム
3:インレット(3A+3B+3C)
3A:プラスチックフィルム(基材)
3B:アンテナ回路
3C:ICチップ
4:無配向のポリエステルシートまたは二軸延伸ポリエステルフィルム