JP3967669B2 - 圧延性に優れた自動車熱交換器用高強度アルミニウム合金フィン材及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ラジエータなど、特にろう付工法により製造される自動車用熱交換器に使用されるアルミニウム合金フィン材及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に自動車のラジエータなどとして用いられている熱交換器の構造部材であるフィン材は冷媒通路形成体(例えば管材)にAl−Siろう材によりろう付して金属的に結合させ、伝熱面積を広くすることにより熱交換効率の向上を図っている。前記フィン材にはAA1050合金などの純Al系合金、AA3003合金などのAl−Mn系合金、Al−Fe系合金などが用いられている。
近年の自動車の軽量化により自動車用熱交換器もまた軽量化が求められており、フィン材にも薄肉、高強度化が求められている。
従来はフィン材としてAA1050合金、AA3003合金などが用いられているが、高強度化を目的として、Mn:0.6〜2.0%、Si:1.2〜2.5%、Fe:0.05〜2.0%からなる組成で規定した高強度Al合金フィン材(特許文献1参照)や、Mn:0.5〜2.0%、Si:0.4越え〜2%、Ni:0.1〜1.0%からなる組成で規定したAl合金フィン材(特許文献2参照)などが開発されている。
【0003】
【特許文献1】
特開平7−90446号公報(第2頁)
【特許文献2】
特開2000−273565号公報(第2頁)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、このような従来のフィン材でも高強度を達成するには限界があった。また、高強度を達成させようとすると、圧延性が著しく劣り、圧延時のサイドクラックなどが著しく大きく歩留りが低下したり、圧延中に破断が発生しやすくなるなどの問題が生じる。強度や自己耐食性が不足するものであったり、高強度ではあるが、耐エロージョン性や熱伝導性が不足するものであり、熱伝導性、自己耐食性や耐エロージョン性と強度を全て満足できるものはなかった。いずれの特性も欠けてしまうことによって、熱交換器のフィン材としての必要な特性を満足できなくなるばかりでなく、熱交換器性能の低下が避けられないという問題が生じてきた。
【0005】
そこで、本発明者らは上述のような観点から、高強度で優れた圧延性を保持するフィン材を得るべく研究を行った。この問題は特に、晶出物が粗大化することにより発生することを見出した。
本発明は、上記の知見に基づき、圧延性に優れた自動車熱交換器用高強度アルミニウム合金フィン材及びその製造方法を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため本発明の圧延性に優れた自動車熱交換器用高強度アルミニウム合金フィン材のうち、請求項1記載の発明は、重量%で、Mn:2.0超〜3.0%、Si:0.8〜1.5%、Fe:0.05〜0.4%未満、Zn:0.1〜3.0%、残部がAl及び不可避不純物からなる組成を有し、MnとSiとFeの含有量が、Mn/(Si+Fe)≧1.6の関係式を満足することを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の圧延性に優れた自動車熱交換器用高強度アルミニウム合金フィン材は、請求項1記載の発明において、さらに、重量%で、Ni:0.01〜1.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有し、MnとSiとNiの含有量が、Mn−(Si+Ni)≧0の関係式を満足することを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の圧延性に優れた自動車熱交換器用高強度アルミニウム合金フィン材は、請求項1又は2記載の発明において、さらに、重量%で、Zr:0.05〜0.20%、Ti:0.01〜0.30%のうちの1種または2種を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の圧延性に優れた自動車熱交換器用高強度アルミニウム合金フィン材は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、さらに、重量%で、In:0.001〜0.20%、Sn:0.01〜0.50%のうちの1種または2種を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の圧延性に優れた自動車熱交換器用高強度アルミニウム合金フィン材の製造方法は、請求項1〜4のいずれかに記載の組成を有する圧延性に優れた自動車熱交換器用高強度アルミニウム合金フィン材の製造方法において、鋳造時の冷却速度を、15〜1000℃/sとすることを特徴とする。
【0011】
以下に、本発明で限定する事項について説明する。
Mn:2.0超〜3.0%
Mnは、金属間化合物として晶出または析出し、ろう付後の強度を向上させる。また、Al−Mn−Si系化合物を形成して、マトリックスのSi固溶度を低くし、マトリックスの融点を向上させることができる。2.0%以下であると上記効果が小さく、3.0%を超えると、粗大晶出物を形成し鋳造性や圧延性が著しく低下する。
【0012】
Si:0.8〜1.5%
Siは、Al−Mn−Si、Al−Fe−Si、Al−Mn−Si−Fe、Zr−Si系化合物として分散あるいはマトリックスに固溶して強度を向上させる。また、このような化合物の形成によりろう付後のMnやZr固溶度を低下させ熱伝導性を向上させる。0.8%未満であると上記効果が小さく、1.5%を超えると、粗大晶出物を形成し鋳造性や圧延性が著しく低下する。また、融点が低下し、ろう付時に溶融する。さらにSi固溶度が増大し、熱伝導性が低下する。
【0013】
Fe:0.05〜0.4%未満
Feは、金属間化合物として晶出または析出し、ろう付後の強度を向上させる。また、Al−Mn−Fe、Al−Fe−Si、Al−Mn−Fe−Si系化合物を形成して、マトリックス中のMnやSi固溶度を低下させ、熱伝導性を向上させる。0.05%未満であると上記効果が小さく、0.4%以上であると、粗大晶出物を形成し鋳造性や圧延性が著しく低下する。
【0014】
Zn:0.1〜3.0%
Znは、非接合部材よりも電位を卑にし、犠牲陽極材として作用する。0.1%未満であると上記効果が小さく、3.0%を超えると自己腐食速度が著しく大きくなる。
【0015】
Mn/(Si+Fe)≧1.6
晶出物を微細化させて、強度の向上とともに圧延性を低下させないことから、上記関係式を満足することが好ましい。関係式が1.6未満であると晶出物が粗大化し圧延性が低下するとともに強度の低下を招くなどの不具合が生じる。
【0016】
Ni:0.01〜1.0%
Niは、金属間化合物として晶出または析出し、ろう付後の強度を向上させる。0.01%未満であると上記効果が小さく、1.0%を越えると自己腐食速度が著しく大きくなる。また、Al−Mn−Ni系の化合物を形成するため、過剰な単体Siを形成し、固相線温度低下を招き、ろう付時に溶融しやすくなる。
【0017】
Mn−(Si+Ni)≧0
化合物を形成しない単体Siがフィン材マトリックスに固溶して融点を低下させるため上記関係式を満足することが好ましい。関係式を満たさない場合は、ろう付熱処理時の溶融ろうによる侵食を受けやすくなったり、フィン材自身が溶融するなどの不具合が生じる。
【0018】
Zr:0.05〜0.20%、Ti:0.01〜0.30%
Zr、Tiは、ろう付後に微細な金属間化合物として分散し、強度を向上させる。Zr:0.05%未満、Ti:0.01%未満であると上記効果が小さく、Zr:0.20%超、Ti:0.30%超であると、鋳造性や圧延性が著しく低下する。
【0019】
In:0.001〜0.20%、Sn:0.01〜0.50%
In、Snは、非接合部材よりも電位を卑にし、犠牲陽極材として作用する。In:0.001%未満、Sn:0.01%未満であると上記効果が小さく、In:0.20%超、Sn:0.50%超であると自己腐食速度が著しく大きくなる。また、圧延性が低下する。
【0020】
鋳造時の冷却速度:15〜1000℃/s
鋳造時の冷却速度を、15〜1000℃/sとすると、冷却速度が速いため、粗大晶出物の形成を抑制することができ、さらなる圧延性の向上と強度向上ができる。なお、冷却速度を1000℃/sより速くしても一層の効果が得られないため、冷却速度は15〜1000℃/sに設定する。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明のフィン材に用いるアルミニウム合金は、上記組成に従って常法により製造することができる。本発明のフィン材は製造方法が限定されるものではない。上記により得られたフィン材は、通常はコルゲート加工を施してフィンとする。上記フィンは、チューブ間に設置するなどして組付けられ、ろう付処理が行われ熱交換器が得られる。
【0022】
【実施例】
表1に示す組成のアルミニウム合金を鋳造時の冷却速度を変えて鋳造し、熱間圧延およびまたは冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延を施すことにより、0.06mmの板厚の圧延材を作製した。
【0023】
ろう付後の引張強さ
ろう付後のフィン材の強度の評価として、フィン材単体を高純度窒素ガス雰囲気中でろう付相当熱処理(600〜610℃×5分、冷却速度100℃/分)を施し引張試験を行い、引張強さを測定した。AA3003合金を用いて作製された従来のフィン材の引張強さが110MPaであることから、引張強さが145MPa以上あったものを十分に強度があると判定した。
【0024】
圧延性
フィン材の圧延性は、圧延後のサイドクラックの合計長さを圧延後の材料の長さで除した値、により評価した。板厚2mmまで圧延後、端面を同一条件に切削し、200mm長さ×100mm幅のサンプルを得た。その後、560℃で60sの中間焼鈍を行った(いずれの材料も完全に軟化させるための条件とした)。その後、0.1mmまで冷間圧延を施し、圧延性を評価した。なお、0.5mm未満のサイドクラックは実質上問題とならないと判断し、0.5mm以上のサイドクラックを対象とした。0.15以下であれば十分な圧延性であると判断した。
【0025】
耐ろう侵食性
ろう付熱処理時のろうによる侵食やフィン材自身の溶融によりフィン材の座屈などについて評価するため、ろう付熱処理相当10℃/minの速度で昇温した際のフィン材溶融開始温度について調査した。ろう付熱処理温度が600℃程度で実施されていることからフィン材溶融開始温度が610℃以上であるものを耐ろう侵食性が十分であると判断した。
【0026】
各評価の結果を表1に示すが、本発明材は、いずれも優れた強度、圧延性を示した。
【0027】
【表1】
【0028】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の圧延性に優れた自動車熱交換器用高強度アルミニウム合金フィン材及びその製造方法によれば、優れた強度、圧延性を有するフィン材が得られる。
Claims (5)
- 重量%で、Mn:2.0超〜3.0%、Si:0.8〜1.5%、Fe:0.05〜0.4%未満、Zn:0.1〜3.0%、残部がAl及び不可避不純物からなる組成を有し、MnとSiとFeの含有量が、Mn/(Si+Fe)≧1.6の関係式を満足することを特徴とする圧延性に優れた自動車熱交換器用高強度アルミニウム合金フィン材。
- さらに、重量%で、Ni:0.01〜1.0%を含有し、MnとSiとNiの含有量が、Mn−(Si+Ni)≧0の関係式を満足することを特徴とする請求項1記載の圧延性に優れた自動車熱交換器用高強度アルミニウム合金フィン材。
- さらに、重量%で、Zr:0.05〜0.20%、Ti:0.01〜0.30%のうちの1種または2種を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の圧延性に優れた自動車熱交換器用高強度アルミニウム合金フィン材。
- さらに、重量%で、In:0.001〜0.20%、Sn:0.01〜0.50%のうちの1種または2種を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の圧延性に優れた自動車熱交換器用高強度アルミニウム合金フィン材。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の組成を有する圧延性に優れた自動車熱交換器用高強度アルミニウム合金フィン材の製造方法において、鋳造時の冷却速度を、15〜1000℃/sとすることを特徴とする圧延性に優れた自動車熱交換器用高強度アルミニウム合金フィン材の製造方法。
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