JP3965708B2 - 靱性に優れた高強度継目無鋼管の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高強度かつ高靭性で、しかも特性のバラツキが小さく、特にラインパイプとして用いるのに好適な継目無鋼管を、高い生産効率で製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ラインパイプ用の継目無鋼管には高強度と優れた靱性とが要求されるが、さらにパイプライン敷設時に溶接によって接続される関係上、優れた溶接性も必要である。また、曲げ加工性や使用中の破壊安全性の確保のために、引張強さに対する降伏強さの比が小さいこと、即ち、降伏比が小さいことも望まれる。
【0003】
このような継目無鋼管は、従来、圧延ラインとは別に焼入れ装置と焼戻し装置を設置し、圧延ラインで製造され、一旦室温まで冷却された鋼管を再加熱して、焼入れ−焼戻しの処理を行う、という方法で製造されてきた (以下、この方法を「再加熱−焼入れ法」という) 。
【0004】
一方、高強度高靭性の継目無鋼管を得る方法として、直接焼入れ法も既に採用されている。「直接焼入れ法」とは、圧延材の保有熱を利用し、実質的な再加熱を行うことなく、焼入れを行う方法である。
【0005】
溶接性を考慮する必要のない炭素当量の高い、即ち焼入性の高い鋼種に対しては、上記の直接焼入れ法でも高強度および高靱性を付与することができる。しかし、圧延による継目無鋼管の製造では、潤滑の困難性などから、圧延仕上げ温度を低くすることが難しく、通常、仕上げ温度は 800℃以上である。従って、圧延工程でオーステナイト結晶粒を微細化することが困難であり、特に、溶接性を高めるために低炭素当量の成分系とするラインパイプ用の継目無鋼管を通常の直接焼入れで製造した場合には低温靱性に劣るものとなる。
【0006】
一方、厚鋼板の製造においては、高い靱性を得る手段として圧延後直ちに水冷し、一定の温度域で水冷を停止した後、空冷するプロセス(以下「制御冷却法」と略称する)が提案されている。
【0007】
例えば、特開平2-205628号公報、特開平2-80516 号公報および特開平5-148543号公報には、圧延後に水冷を行い、500 ℃前後で水冷を停止することによって、組織を細粒とし、強度、靭性に優れた厚鋼鈑を製造する方法が開示されている。
【0008】
しかし、これらの方法をラインパイプ用継目無鋼管の製造に適用した場合、鋼管の各部分での性能のバラツキが著しく、局部的な硬化部分や軟化部分が生じ、鋼管全体として所定の性能を確保することは困難である。その理由は、次のように考えられる。
【0009】
平行な一対のロールで圧延が行われる厚鋼板の製造では、ロールとの接触による冷却が鋼板の幅全体に均一に起こる。従って、焼入れ前の鋼板には殆ど温度ムラはない。しかし、継目無鋼管の場合には、複雑なロール群によって中空円筒形に成形されるため、ロールとの接触が鋼管の円周方向位置によって異なり、さらに圧延後の鋼管の搬送時にも、鋼管と搬送床のビームとの接触が均等でないために、鋼管の長手方向にも温度ムラが生じる。このように部位によって温度ムラのある鋼管をそのまま水冷すると、温度の高い部分は膜沸騰によって冷却速度が低下するのに対して、温度の低い部分は膜沸騰が起らず冷却速度が高くなりやすく、鋼管部位の温度ムラは一層大きくなる。
【0010】
焼入れを完全に室温まで冷却することによって行う場合には、鋼管の部位によって多少の冷却速度の相違があっても、完全に変態するまで冷却されるため水冷の効果は比較的均一に現れる。しかし、500 ℃前後で水冷を停止する制御冷却法では、冷却前の鋼管に温度ムラがあると、水冷停止時にもなお 600℃以上の二相温度域にある部分と、500 ℃以下の完全に変態を終了した部分とが生じる。従って、以後の空冷の際には部位によって異なった組織が生成し、当然に機械的性質等にもバラツキが発生する。
【0011】
上記のように、鋼板と継目無鋼管とでは、圧延条件を始めとする様々な製造条件に大きな違いがあるため、鋼板の製造で行われている技術をそのまま継目無鋼管の製造に転用することはきわめて困難である。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の第1の課題は、ラインパイプ用鋼管のような低炭素当量の継目無鋼管を、直接焼入れ法に準じた生産性の高い方法で製造することにある。第2の課題は、製品鋼管として高い強度と優れた低温靱性を有し、かつ、これらの特性にムラ(バラツキ) のないものを製造することにある。そして、本発明は、上記の二つの課題をともに解決できる新しい継目無鋼管の製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
既に述べたように、ラインパイプ用鋼管のような低炭素当量の鋼を素材とするものでは、単なる直接焼入れ法では高強度かつ高靱性の製品は得られない。一方、前記の制御冷却法を適用すれば、鋼管は微細なフェライトとベイナイトの混合組織となって、強度−靱性のバランスの良いものとなるが、実際の継目無鋼管の製造にこの2段冷却法を適用すると製品鋼管中に特性のバラツキが発生する。
【0014】
本発明方法は、これらの問題点を一挙に解決した画期的なものであり、その要旨は次の継目無鋼管の製造方法にある。
【0015】
下記の(a)式で定義される炭素当量Ceqが0.6重量%以下で、かつ後述する組成を有する鋼片を用いて熱間圧延により継目無鋼管を製造し、熱間圧延後の鋼管を、炉温が「A3変態点−50℃」を超えて1100℃以下に設定された保熱炉に装入して1〜30分間保熱し、その後、650℃から300℃の範囲内の温度まで5℃/sec以上の冷却速度で冷却し、以後、空冷することを特徴とする靱性に優れた高強度継目無鋼管の製造方法。
【0016】
Ceq=C+ Mn/6 + (Cu+Ni)/15 + (Cr+Mo+V)/5 〔%〕 ・・・ (a)
本発明方法は、熱間圧延機の後段に保熱炉を設置した設備を用いて製管工程から熱処理までオンラインで連続的に実施できる。保熱は、圧延後の鋼管に再結晶を起こさせてオーステナイト粒を細かく均一にすること、および鋼管全体を均一な温度にして、部位による温度ムラを小さくすることが目的である。
【0017】
熱間圧延後の鋼管は、保熱炉に装入する前に暫時空冷されてもよいが、 Ar1変態点以下に冷却してはならない。保熱炉内で保持することを、以下、「保熱」と記すが、それは炉内に装入された鋼管が、前記「A3変態点−50℃」を超える温度で、しかも1100℃以下の温度 (以下、この温度範囲を「保熱温度範囲」と記す) に設定された保熱炉内に置かれることを意味する。従って、鋼管は、保熱温度範囲内の一定温度に保持されてもよいし、昇温または冷却されてもよく、そのヒートパターンには何ら制約はない。要するに、保熱温度範囲内での所定時間の保持が重要なのである。
【0018】
本発明方法では、炭素当量が0.6重量%以下の鋼として下記の組成を持つ鋼を用いる(%は重量%を意味する)。
【0019】
C:0.02〜0.20%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.02〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、N:0.02%以下、sol.Al:0.001〜0.2%、Ti:0.005〜0.10%、ならびにCr: 0.02 〜 1.5 %、Mo: 0.02 〜 1.5 %、Ni: 0.05 〜 2.5 %、Cu: 0.05 〜 2.0 %、Nb: 0.005 〜 0.10 %、V: 0.01 〜 0.3 %、Ca: 0.0002 〜 0.01 %およびB: 0.0006 〜 0.0030 %のうちの1種または2種以上、残部:Feと不可避的不純物。
本発明方法で得られる鋼管は、前記の空冷までの処理を施したままでも優れた特性を持つが、必要に応じて、さらに焼戻し処理を施してもよい。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の継目無鋼管の製造方法を工程順に説明する。
【0021】
1.素材鋼片、その加熱および穿孔:
素材となる鋼片(ビレット)は、丸棒状に分塊圧延した鋼片あるいは横断面が円形の鋳型を持つ連続鋳造機で鋳造した鋳片など、いわゆる丸形鋼片(以下、これらを単に「ビレット」という)である。なお、エネルギー節減のためにはビレットは、分塊圧延や連続鋳造された後、室温まで完全に冷却する前に加熱炉に装入するのがよい。
【0022】
ビレットの加熱温度は、熱間加工で穿孔できる温度であればよく、材質の高温延性と高温変形抵抗を考慮して定めればよい。通常は、1100〜1300℃の範囲に加熱する。穿孔工程においては、例えば傾斜ロール圧延機のようなピアサーを用いて中実のビレットに熱間で貫通孔を開け中空素管(ホローシェル)を製造する。
【0023】
2. 延伸圧延加工および仕上げ圧延加工:
穿孔された中空素管は、延伸圧延機および仕上げ圧延機によって延伸され、かつ寸法調整される。この圧延を行う設備にも幾つかの方式があるが、例えばマンネスマン・マンドレルミル方式では、マンドレルミルで延伸圧延が、サイザーまたはレデューサーで仕上げ圧延が行われる。
【0024】
製品鋼管の結晶粒を微細化し低温靭性を高めるためには、延伸圧延、仕上げ圧延とも、なるべく低い温度で行うことが望ましい。しかし、圧延温度を低くしすぎると、圧延後マンドレルバーの引き出しのとき、焼き付きが生じ、マンドレルバーの分離が困難になることがある。従って、仕上げ温度が 800℃以上、望ましくは 900℃以上となる範囲で、できるだけ低温側で加工を行うべきである。
【0025】
3. 保熱:
仕上げ圧延後の鋼管を「A3変態点−50℃」を超えて1100℃以下の「保熱温度範囲」で保熱するのが本発明方法の大きな特徴である。
【0026】
保熱炉に装入する圧延材の温度は、 Ar1変態点以上、望ましくは Ar3変態点以上とする。
【0027】
保熱炉の温度(炉温)は、上記の保熱温度範囲内の所定の温度に設定する。1100℃よりも高い温度ではオーステナイト粒が粗大化し、靱性が低下する。他方「A3変態点−50℃」以下の低温では、保熱炉内でフェライト析出が起き、次の冷却工程で望ましい変態組織が得られない。炭素当量が前記の範囲にある成分系の鋼では「A3変態点−50℃」以上(概ね800 ℃以上)の温度としておけば実質的にフェライトの析出は起こらない。
【0028】
保熱炉中での鋼管の在炉時間としては、再結晶によって十分にオーステナイト粒を微細化させ、かつ鋼管全体の温度を均一にするために、少なくとも1分は必要である。しかし、30分を超えて装入してもその効果は飽和し、生産性を低下させるだけである。
【0029】
一般には、圧延ラインの中に保熱炉のようなものを置くのは、設備価格が嵩むので、好ましいものではない、とされる。実際、厚鋼板のような鋼板製造の場合は、保熱炉等を使用せずに、直接焼入れ法を実施している。しかし、低炭素当量の鋼の継目無鋼管を直接焼入れ法に準ずる方法で量産し、しかも製品鋼管に均一な特性を持たせるには、炉温を任意に調整できる保熱炉が必要である。それによって始めて製品の長手方向および円周方向の組織および性能の均一性を確保することが可能になる。この利点は、保熱炉設置のコスト増を補って余りある。
【0030】
4. 冷却(5℃/sec以上での急冷とその後の空冷):
保熱炉で温度を均一化された鋼管を水冷等により 650℃ないし 300℃の温度域まで冷却して、細粒なフェライトとベイナイトとの混合組織とする。このときの冷却は、早ければ早いほど組織の均一性を増すことができるので上限を設け必要はない。5℃/sec以下では、強度が低下し、また組織も粗大になって、靱性も低下する。冷却停止温度が 650℃よりも高温であると、この急冷の効果が十分でなく、強度、特に降伏強さが低くなる。しかし、300 ℃よりも低温まで冷却すると過度に焼入れされた状態になって靱性が低下する。従って、第1段冷却の停止温度は 650℃以下、300 ℃以上の温度とする。
【0031】
上記の急冷の後は、空冷で適当な温度、例えば室温まで冷却すればよい。
【0032】
5. 焼戻し処理:
上記の制御冷却のままでも、製品鋼管は優れた特性のものとなる。しかし、これに焼戻し処理を施せば、組織の硬さを減じ、靱性をさらに改善することができる。但し、焼戻し温度が Ac1変態点を超えると、強度の低下と組織の粗大化による靱性の低下が起こる。従って、焼戻しを行う場合は、その温度は Ac1変態点以下とする。
【0033】
次に、本発明方法で用いる素材鋼について、それを構成する合金成分の作用と含有量の限定理由について説明する。
【0034】
C:
Cは、鋼の焼入れ性を高め、鋼管の強度を向上させる元素である。0.02%未満では焼入れ性が低下し必要とする強度が得難い。一方、0.20%を超えると、母材の靭性が低下するのみならず、溶接後の熱影響部における靭性が低下する。従って、C含有量の望ましい範囲は0.02〜0.20%である。
【0035】
Si:
Siは、鋼の脱酸を目的として添加され、鋼材の強度上昇にも寄与する。従って、鋼管の強度を上げるために、 0.1 %以上とするのがよい。しかし、Siの含有量が1.0%を超えると、製品鋼管の靱性が低下する。
【0036】
Mn:
Mnは、鋼の焼入れ性を高め、直接焼入れによって所定の組織とし、鋼管の強度と靱性を確保するのに有効な成分である。その含有量が 0.02 %未満では、焼入れ性が低下して所期の強度、靭性を確保することが困難である。一方、Mnの含有量が 2.0%を超えると、鋼中での偏析が生じ、また、製品鋼管を過度に強化して靭性を低下させ、降伏比を高める。従って、Mn含有量の望ましい範囲は0.02〜2.0 %である。
【0037】
P:
Pは、不純物として鋼中に不可避的に存在する。0.05%を超えると、粒界に偏析して靱性を低下するのみならず、溶接時に高温割れを招く。従って、P含有量は、0.05%以下でできるだけ低いことが望ましい。
【0038】
S:
Sは、Pと同様に不純物として鋼に混入する。0.02%を超えると粗大なMnSなどの硫化物を形成し、これが熱間圧延によって延伸され製品鋼管の耐水素誘起割れ性および靱性を低下させる。従って、S含有量は0.02%以下で、かつできるだけ低いことが望ましい。
【0039】
N (窒素) :
Nも、不可避的不純物であり、含有量は少ないほど良い。適正量のTiが含有されている場合には、Tiによって固定されて悪影響を与えることが少ないが、0.020 %を超える場合にはTiN系の粗大介在物が形成され、靱性を低下させる。従って、N含有量は0.02%以下とすべきである。
【0040】
Ti:
Tiは、不純物であるNの固定と、析出強化による強度上昇を図るためには、少なくとも0.005%含有させるのが望ましい。ただし、Tiが0.1%を超えると、過度の析出強化によって鋼管の靱性が劣化する。従って、Tiの含有量は 0.005〜0.1%の範囲とするのがよい。
【0041】
sol.Al:
Alは鋼の脱酸のために必須な元素である。しかし、sol.Al含有量で0.001 %以下では脱酸不足となって鋼質の劣化を招く。また、sol.Alが 0.2%を超えると、鋼管そのものの靱性の劣化や、溶接部の靭性の低下を招く。従って、sol.Al含有量は 0.001〜0.2 %とするのがよい。
【0042】
Cr:
Crは、鋼の焼入性を高めるのに有用な元素である。しかし、他の元素で本発明に必要な焼入性は確保できるのでCrは、必ずしも添加しなくともよい。しかし、肉厚の厚い鋼管の焼入れ性を確保するため、または焼戻し軟化抵抗を高めるためには 0.02 %以上含有させることが望ましい。一方、Crの含有量が 1.5%を超えると溶接部の靱性が低下する。従って、Crを添加する場合でもその含有量は 1.5%までとするべきである。
【0043】
Mo:
Moの添加も必須ではない。しかし、Crと同じく、厚肉の鋼管の焼入れ性向上、または焼戻し軟化抵抗を高めるためには、0.02%以上含有させることが望ましい。しかし、1.5 %を超えると溶接部の靱性が劣化する。
【0044】
Cu:
Cuの添加も必須ではない。しかし、Cuには直接焼入れにおける焼入性を高め、鋼材の強度と耐食性の向上に有効なので、0.05%以上含有させるのが望ましい。しかし、2.0 %を超えて含有させても、コスト上昇に見合った性能の改善が得られない。従って、Cuを添加する場合には、その含有量は 2.0%までとするのがよい。
【0045】
Ni:
Niも必須ではない。しかし、固溶状態において鋼のマトリックス(基地)の靱性を高める効果があるので、より優れた靱性を安定して得たい場合に添加すればよい。その場合には、その含有量を0.05%以上とするのが望ましい。しかし、2.5 %を超えても、材料コストの上昇に見合うほどの靱性の向上が得られない。
【0046】
Nb:
Nbも必須ではないが、適正量のNbを含有する鋼では圧延の際の鋼の未再結晶温度域が高温まで拡大される。従って、圧延による加工歪を蓄積した状態で、直接焼入れ前の加熱(徐冷)中に再結晶が起こり、結晶粒は細かくなり靱性が向上する。また、Nbは焼戻し時のNbCの二次析出により焼戻し軟化抵抗を高める効果もある。これらの作用を得るためには 0.005%以上含有させるのが望ましい。しかし、その含有量が 0.10 %を超えると溶接部の靱性が低下する。従ってNb含有量は0〜0.10%の範囲、積極的に添加する場合は 0.005〜0.10%とするのがよい。
【0047】
V:
Vも必須ではなく、必要に応じて添加すればよい成分である。Vは、直接焼入れした後に焼戻しを行えば、その時に析出して、焼戻し軟化抵抗を高めるので、降伏強さを特に高めたい場合に添加すればよい。Vには焼入性を向上させる効果もある。これらの効果を狙う場合には、0.01%以上含有させるのが望ましい。しかし、0.3 %を超えると鋼の靱性が低下する。
【0048】
Ca:
CaはSと反応して溶鋼中で硫酸化物を生成する。この硫酸化物は、MnSなどと異なり、圧延加工によって圧延方向に伸びることがなく、圧延後も球状である。このため、延伸した介在物の先端等を割れの起点とする溶接割れまたは水素誘起割れを抑制する。これらの効果を得ようとする場合には 0.0002 %以上含有させるのが望ましいが、その添加は必須ではない。一方、Ca含有量が 0.01 %を超えると母材靱性が低下し、同時に鋼管表面に疵が多発することになる。従って、Caを添加する場合は、その含有量は 0.01 %までとするべきである。
【0049】
B:
Bは必須ではなく、必要に応じて添加すればよい成分である。微量の含有で焼入れ性を増し、母材強度を高めることができるので、特に鋼管の強度を高める必要がある場合に含有させるのが望ましい。しかし、0.0030%を超えると母材および溶接熱影響部の靱性が低下する。
【0050】
素材鋼に添加することができる元素として、上記の諸元素の他に、Zr、REM(希土類元素)等もある。Zrは、固溶Nの固定と、組織を細粒化する作用をもち鋼の靱性を改善する。REMは、溶接熱影響部の組織の微細化や、Sの固定に寄与する。
【0051】
炭素当量 (Ceq) :
前記 (a)式で定義される炭素当量Ceqを 0.6%以下とするのは、鋼管の溶接性を確保するためである。ラインパイプ用継目無鋼管は、パイプラインの敷設現場で周溶接して連結される。炭素当量の大きな鋼管では、溶接の際に割れを生じたり、割れ防止のために予熱が必要になる等の問題がある。炭素当量が 0.6%以下であれば、予熱等の余分な作業を要せずに、周溶接ができる。
【0052】
本発明法によれば、高靱性であるだけでなく、低降伏比の鋼管を製造することも可能である。鋼材に要求される降伏比は、用途に応じて様々であり、例えば建築用鋼材においては、70%以下のものを要求されることもある。このような建築用低降伏比鋼材は、構造物が衝撃を受けた場合、意識的に鋼材を降伏させ、変形させつつ衝撃のエネルギーを吸収させて、構造物の安全性を高めることに狙いがある。
【0053】
上記のような特殊用途でなくとも、強度スペックを鋼材の降伏強さで決めている場合には、降伏から破断に至る強度の余裕を確保する目的で、降伏比を一定の上限以下に抑えることを要求する場合も多い。このような場合には、極端な低降伏比は必要としないため、本発明方法を適用して継目無鋼管を製造する場合でも、靱性確保を主眼とした製造条件を選択することになる。
【0054】
炭素当量 (Ceq) :
前記 (a)式で定義される炭素当量Ceqを 0.6重量% 以下とするのは、鋼管の溶接性を確保するためである。ラインパイプ用継目無鋼管は、パイプラインの敷設現場で周溶接して連結される。炭素当量の大きな鋼管では、溶接の際に割れを生じたり、割れ防止のために予熱が必要になる等の問題がある。炭素当量が 0.6重量%以下であれば、予熱等の余分な作業を要せずに、周溶接ができる。
【0055】
【実施例】
〔実施例1〕
表1に示す化学組成を有する溶鋼を、70トン転炉で溶製し、通常の造塊および分塊工程を経て鋼片を得た。これらの鋼片を1250℃に加熱し、傾斜圧延式穿孔機により中空素管を得た。その後、延伸圧延と仕上げ圧延によって外径 457 mm 、長さ10m、肉厚12.7mmから25.4mmの管に仕上げた。そのときの仕上げ圧延温度は、 970℃から1000℃の範囲で変化させた。
【0056】
【表1】
【0057】
本発明方法の特徴は保熱炉に装入し、組織調整と温度調整を行った後に制御冷却を行うことにある。そこで、圧延仕上げ温度、鋼管の肉厚、保熱炉装入前の温度、保熱炉の設定温度、鋼管の在炉時間、最初の冷却の速度および冷却停止温度を変化させた試験を行った。
【0058】
熱処理後の鋼管の管端から長手方向に3mおきの3カ所、およびこれらの各位置について円周方向に4等分した位置、合計12カ所から管軸方向に引張試験片とシャルピー衝撃試験片を採取した。引張り試験は常温で、シャルピー試験は温度を変えて行い、強度と靭性のバラツキを調査した。
【0059】
引張試験には、直径4mm、標点距離20mmの引張試験片を用い、衝撃試験には2mmVノッチ付きフルサイズシャルピー試験片(JIS4号)を用いた。
【0060】
得られた結果を、降伏強さ、引張り強さ、降伏比およびシャルピー衝撃試験の破面遷移温度(vTrs) として最大値、最小値、バラツキおよび12個の単純平均値を測定した。
【0061】
【表2】
【0062】
まず、表2のD鋼を素材とした場合の結果をみれば、下記の事実が明らかである。即ち、発明例のNo.1〜3 は、降伏強さ、引張り強さ、降伏比および破面遷移温度の平均値は、435 MPa 以上、530 MPa 以上、83.0%以下、−75℃〜−81℃が得られ、また、降伏強さ、引張り強さ、および破面遷移温度のバラツキは、13〜18 MPa、 8〜13 MPa、 6〜8 ℃となり良好である。
【0063】
比較例のNo.7から9までは、保熱炉に装入することなく急冷処理したので、降伏強さ、引張り強さ、および破面遷移温度のバラツキは、108 から122 MPa 、62から161 MPa 、58から67℃となり、品質にバラツキの大きいことがわかる。
【0064】
No.10 は、保熱炉の温度を 760℃と、「A3変態点−50℃」よりも低くしたため、保熱中に軟質のフェライトが析出したため、均一で良好な靱性を示すものの、強度が非常に低くなっている。
【0065】
No.11 は、保熱炉の温度が1150℃と高すぎたため、オーステナイト粒が粗大化して、水冷後の組織も粗大になり、靱性が低下した。
【0066】
次に、表2のE鋼についての試験結果をみると、下記のとおりである。
【0067】
本発明例のNo.4〜6 は、降伏強さ、引張り強さ、降伏比および破面遷移温度の平均値は、472 MPa 以上、590 MPa 以上、85.2%以下、−65℃〜−68℃が得られ、また、降伏強さ、引張り強さ、および破面遷移温度のバラツキは、19〜20 MPa、14〜16 MPa、 6〜9 ℃となり良好である。
【0068】
比較例のNo.12 は、急冷を途中で停止することなく室温まで冷却したので、降伏強さの平均値は 493 MPa、引張り強さの平均値は 679 MPaと、いずれも高く、降伏比は72.4%と低く良好であるが、破面遷移温度の平均値は3℃と靱性が低下した。
【0069】
比較例のNo.13 は、急冷停止温度が 680℃と高くなったので、降伏強さの平均値は 411 MPa、引張り強さの平均値は 506 MPaといずれも低い。
【0070】
比較例のNo.14 は、急冷を途中で停止することなく室温まで冷却速度1℃/sで冷却したので、降伏強さの平均値は 331 MPa、引張り強さの平均値は423 MPa といずれも低く、また破面遷移温度の平均値は−20℃と靱性が低下した。
【0071】
No.15 は、保熱炉の温度が760 ℃と、Ar3点温度よりも低くなったため、保熱炉中で軟質なフェライトの析出が起こり、強度が著しく低くなった。
【0072】
No.16 は、保熱炉の温度が1150とと高いため、オーステナイト粒が粗大化し、冷却後の最終組織も粗大化して靱性が低下した。
【0073】
〔実施例2〕
表1に示す5種の鋼片について、保熱炉の効果を調べる試験を行った。試験方法は実施例1で示した方法と同様である。それらの処理条件と試験結果を表3に示す。
【0074】
【表3】
【0075】
表3から本発明例のNo.17 〜23は、降伏強さ、引張り強さ、降伏比および破面遷移温度の平均値は、359 MPa 以上、461 MPa 以上、85.2 %以下、−88℃〜−65℃が得られ、また、降伏強さ、引張り強さ、および破面遷移温度のバラツキは、11〜17 MPa、14〜22 MPa、 7〜11℃と良好であることがわかる。
【0076】
しかし、比較例のNo.24 から28は、保熱炉に装入することなく急冷処理したので、破面遷移温度の平均値は−39〜−52℃と高く、靱性が劣る。また降伏強さ、引張り強さ、および破面遷移温度のバラツキは、47〜66 MPa、50〜102MPa、33〜48℃となり、品質にバラツキの大きいことがわかる。
【0077】
【発明の効果】
本発明方法によれば、低炭素当量でありながら高強度で靱性に優れた継目無鋼管が、安定して高い生産性で製造できる。この方法で製造される鋼管は、性能が鋼管全体で均一であるため、特にラインパイプ用として好適であり、その信頼性、安全性を著しく高める。
Claims (2)
- 下記の(a)式で定義される炭素当量Ceqが0.6重量%以下で、かつ下記の組成を有する鋼片を用いて熱間圧延により継目無鋼管を製造し、熱間圧延後の鋼管を、炉温が「A3変態点−50℃」を超えて1100℃以下に設定された保熱炉に装入して1〜30分間保熱し、その後、650℃から300℃の範囲内の温度まで5℃/sec以上の冷却速度で冷却し、以後、空冷することを特徴とする靱性に優れた高強度継目無鋼管の製造方法。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 [%] ・・・ (a)
鋼片の組成(重量%)
C: 0.02 〜 0.20 %、Si: 0.1 〜 1.0 %、Mn: 0.02 〜 2.0 %、P: 0.05 %以下、S: 0.02 %以下、N: 0.02 %以下、 sol. Al: 0.001 〜 0.2 %、Ti: 0.005 〜 0.10 %、ならびにCr: 0.02 〜 1.5 %、Mo: 0.02 〜 1.5 %、Ni: 0.05 〜 2.5 %、Cu: 0.05 〜 2.0 %、Nb: 0.005 〜 0.10 %、V: 0.01 〜 0.3 %、Ca: 0.0002 〜 0.01 %およびB: 0.0006 〜 0.0030 %のうちの1種または2種以上、残部:Feと不可避的不純物。 - 空冷した後の鋼管にAc1以下の温度での焼戻しを施すことを特徴とする請求項1に記載の靱性に優れた高強度継目無鋼管の製造方法。
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