JP3963856B2 - エポキシド製造用触媒担体、エポキシド製造用触媒およびエポキシドの製造方法 - Google Patents

エポキシド製造用触媒担体、エポキシド製造用触媒およびエポキシドの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エポキシド製造用触媒担体、エポキシド製造触媒およびエポキシドの製造方法に関し、詳しくは炭素原子数2〜4の不飽和炭化水素を分子状酸素含有ガスにより気相部分酸化して対応するエポキシドを製造するためのエポキシド製造触媒に用いる担体、この担体を用いて得られるエポキシド製造触媒、およびこのエポキシド製造触媒の存在下に炭素数2〜4の不飽和炭化水素を分子状酸素含有ガスにより気相部分酸化して対応するエポキシドを製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
炭素数2〜4の不飽和炭化水素を分子状酸素含有ガスにより気相部分酸化して対応するエポキシドを製造するエポキシド製造触媒には、その性能として、高選択性、高活性および高耐久性が要求される。そこで、これら性能を改善するために、エポキシド製造触媒の担体、反応促進剤、熱処理条件などについて今日までに種々の検討がなされている。
【0003】
例えば、特開昭55−145677号公報には、アルミナ、シリカ、およびチタニアの合計含有量が99質量%以上で、周期表(IUPACで表示;以下同じ)第5A、6A、7A、8Bおよび2Bの各族の金属の含有量が金属酸化物合計量として0.1質量%未満であり、かつpKaが+4.8のメチルレッドにより酸性色を呈しない非酸性担体に銀および必要に応じてさらにアルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分を担持し、空気または水素などの気流中で100〜1000℃の焼成を施して得られる銀触媒が開示されている。
【0004】
特開昭62−4443号公報には、アルミナに1〜30質量%のスズ化合物を添加した担体を用いることを特徴とするエチレンオキシド製造用銀触媒が記載されている。
【0005】
特開平4−363139号公報には、周期表第3A〜7Aおよび3B〜5B族の第4、5および6周期の元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物をα−アルミナに添加し、焼成して得られる担体を用いることを特徴とするエチレンオキシド製造用銀触媒が記載されている。
【0006】
特開平2−194839号公報には、α−アルミナを主成分とし、非晶質シリカを担体1g当たりSi原子として3×10-4〜2×10-1gを含有させた担体上に、銀および反応促進剤として完成触媒当たり0.001〜0.05g当量のセシウム化合物を析出させた後に、含有酸素濃度が3容量%以下の不活性ガス中で400〜950℃の範囲で熱処理を施したエチレンオキシド製造用銀触媒が開示されている。
【0007】
特公昭51−36424号公報には、担体調製時ではなく、触媒の調製時に加える反応促進剤としてSbの添加が有効であることが開示されている。その原子比は、Agが100に対しSbが0.15以下である。
【0008】
特開昭57−107240号公報には、銀および反応促進剤としてアルカリ金属および/またはタリウムを担体上に担持し、酸素濃度が3%以下の不活性ガス中で500〜950℃の範囲内で高温加熱処理することを特徴とするエチレンオキシド製造用銀触媒が開示されている。
【0009】
しかしながら、前記のような従来公知のエチレンオキシドなどのエポキシドを製造する触媒は、選択率などの性能がなお不十分であり、更なる改善が望まれている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、本発明の目的の一つは、改善されたエポキシド製造用担体、詳しくはこの担体を使用することにより、選択率などの性能に優れたエポキシド製造触媒が得られるエポキシド製造触媒用担体を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、選択率などの性能に優れたエポキシド製造触媒を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、エポキシドを高選択率など、工業的に有利に製造するエポキシドの製造方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らの研究によれば、α−アルミナを主成分とする担体を製造するにあたり、(a)α−アルミナと、(b)ケイ素またはその化合物と、(c)アンチモンなどの元素またはその化合物とを含む担体前駆体を非酸化性ガス中で熱処理することにより、前記本発明が目的とする改善されたエポキシド製造用担体が得られることがわかった。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。
【0014】
すなわち、本発明は、炭素原子数2〜4の不飽和炭化水素を分子状酸素含有ガスにより気相部分酸化して対応するエポキシドを製造するためのエポキシド製造触媒の調製に用いる担体であって、(a)α−アルミナと、(b)ケイ素またはその化合物と、(c)ゲルマニウム、スズ、鉛、リン、アンチモンおよびビスマスよりなる群から選ばれるすくなくとも1種の元素またはその化合物とを含有する担体前駆体を調製し、次いで該前駆体を非酸化性ガス中で熱処理して得られたものであることを特徴とするエポキシド製造触媒用担体である。
【0015】
また、本発明は、上記エポキシド製造触媒用担体に銀を担持してなる、炭素原子数2〜4の不飽和炭化水素を気相部分酸化して対応するエポキシドを製造するためのエポキシド製造用触媒である。
【0016】
また、本発明は、上記エポキシド製造用触媒の存在下に炭素原子数2〜4の不飽和炭化水素を分子状酸素含有ガスにより気相部分酸化して対応するエポキシドを製造するエポキシドの製造方法である
【0017】
【発明実施の形態】
酸化エチレン触媒を製造する際に使用する担体として、α−アルミナを主成分とし、さらに周期表第4B族および5B族の第4〜6周期の元素よりなる群から選ばれるすくなくとも1種の元素を含む担体それ自体は、前記の特開平4−363139号公報に記載されている。しかしながら、同公報には、担体の具体的調製法についての記載は一切なく、単に「焼成する」と記載されているにすぎないので、この焼成は通常の空気中での焼成と認められる。
【0018】
本発明の特徴は、α−アルミナを主成分とする担体を調製するにあたり、(a)α−アルミナと、(b)ケイ素またはその化合物、(c)ゲルマニウム、スズ、鉛、リン、アンチモンおよびビスマスよりなる群から選ばれるすくなくとも1種の元素またはその化合物とを含有する担体前駆体を調製し、次いで該前駆体を非酸化性ガス中で熱処理する点にある。そして、このようにして得られる担体に銀を担持してなる銀触媒は、特開平4−363139号公報に記載のように空気中で焼成して得られる担体に銀を担持してなる銀触媒に比べて、エポキシドの選択率などの点において著しく優れている(後記実施例および比較例参照)。
【0019】
本発明における炭素原子数2〜4の不飽和炭化水素とは、エチレン、プロピレン、n−またはイソブチレンおよび1,3−ブタジエンであり、これらを気相部分酸化して得られるエポキシドとは、それぞれエチレンオキシド、プロピレンオキシド、n−またはイソブチレンオキシドおよび3,4−エポキシ−1−ブテンである。なかでも、エチレンおよび1,3−ブタジエンが好適であり、さらにエチレンが最適である。
【0020】
本発明の「担体前駆体」とは、(A)α−アルミナを主成分とする担体、詳しくはエポキシド製造触媒の調製に用いることのできる、銀成分を担持する前の担体に(c)ゲルマニウム、スズ、鉛、リン、アンチモンおよびビスマスよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素またはその元素を含む化合物(以下、それぞれ添加元素、添加化合物ということもある。)を含浸などの操作により担持させたもの、(B)(A)の方法において、必要量のケイ素またはその化合物を欠く場合には、(c)の元素またはその化合物と同時またはその前後にケイ素またはその化合物を担持されたもの、および(C)α−アルミナ、添加元素または添加化合物、その他エポキシド製造触媒用の担体の調製に一般に用いられている無機または有機バインダー、気孔形成剤、増粘剤、保温剤などを適当量の水とともに混練し、必要に応じて成形した後、焼成したものを意味する。
【0021】
なお、上記担体前駆体は、担体の改良に一般に用いられている成分、詳しくはシリカ、チタニア、シリコンカーバイドなどの担体材料として用いることのできる成分やアルカリ金属、アルカリ土類金属などの担体の改良を目的として用いることのできる成分などを、得られるエポキシド製造触媒用担体の性能を損なわない範囲で含有していてもよい。
【0022】
α−アルミナ(a)の原料としては、α−アルミナの他に、γ−アルミナ、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム等のように焼成することによってα−アルミナを生成するアルミニウム化合物があるが、好ましくはα−アルミナである。
【0023】
担体調製に用いられるα−アルミナの純度は約98質量%以上、好ましくは約98.5質量%を上回り、そしてナトリウム不純物含量は0.02〜0.06質量%のように約0.06質量%未満である。該アルミナは、好ましくは約0.5〜約5μm、より好ましくは約1〜約4μmの平均粒度を示すα−結晶からなる。さらに平均粒径30〜100μm、より好ましくは40〜80μmからなる粒子を形成しているものが好ましい。平均微結晶寸法は、透過電子顕微鏡(TEM)像からいくつかの微結晶の最大寸法および最小寸法を測定してその平均をとることによって決定した。該α−アルミナは、焼成した担体において、全担体の90.0〜99.9質量%、好ましくは92〜99.6質量%の量で存在する。
【0024】
上記担体前駆体に配合されるケイ素またはその化合物(b)は、通常シリカゾル、ケイ素(元素状)粉末、シリカ粉末、各種のケイ酸塩等の形でα−アルミナ(a)の生成時または生成後に添加される。その使用量は、熱処理後の担体にケイ素換算で0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。
【0025】
上記担体前駆体に配合される元素(c)としては、ゲルマニウム、スズ、鉛、リン、アンチモンおよびビスマスよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素またはその化合物であり、好ましくはアンチモン、リン、ビスマス等であり、より好ましくはアンチモンである。
【0026】
添加元素または、添加化合物の使用量については、非酸化性ガス中での熱処理後の担体中に、金属元素が元素換算で各々0.001〜5質量%、好ましくは0.01〜4質量%の割合で含まれるように決定するのがよい。含有量が上記範囲外では、優れた性能のエポキシド製造触媒を得ることができない。
【0027】
添加化合物の形態については特に制限はなく、酸化物、塩化物、硝酸塩、酸素酸のアンモニウム塩など、取扱いの容易性などを考慮して、適宜選択すればよい。例えば、添加元素がアンチモンの場合には、塩化アンチモン、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、各種アンチモンゾル、酒石酸アンチモン、乳酸アンチモンや、ヘキサヒドロキシアンチモン酸カリウムなどの各種アルカリ金属塩などを用いることができる。
【0028】
なお、アンチモンの場合、高温での熱処理時に揮散するので、アンチモンまたはアンチモン化合物の使用量についてはこの点を考慮して決定するのがよい。その使用量が少ないと担体中のアンチモン含有量が0.001質量%を下回ることになり、目的とするエポキシド製造触媒用担体が得られなくなる。
【0029】
担体前駆体を製造する方法としては、例えば、つぎの方法がある。
【0030】
(1) α−アルミナ粉体またはα−アルミナ粉体を形成し得るアルミニウム化合物と、シリカゾル、アルミナゾル、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ等の有機および/または無機バインダーおよび/または完全燃焼剤とを適当量の水を加えて十分混練し、押出形成法等により所定の形状、例えば、球状、ペレット状等に成形したのち、必要に応じて乾燥工程を加えた後に、焼成(例えば1,000〜1,700℃、好ましくは1,200〜1,600℃)したのち、所定量の前記添加元素またはその化合物の溶液を含浸させ、乾燥することにより担体前駆体が得られる。
【0031】
(2) α−アルミナ粉体またはα−アルミナ粉体を形成し得るアルミニウム化合物と、シリカゾル、アルミナゾル、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ等の有機および/または無機バインダー、完全燃焼剤および前記添加元素またはその化合物と、適当量の水を加えて十分混練し、押出形成法等により所定の形状、例えば、球状、ペレット状等に成形したのち、必要に応じ乾燥し、焼成することにより担体前駆体が得られる。
【0032】
バインダーは、滑性を付与することによって押出工程を容易にせしめる。無機バインダーには、特に硝酸または酢酸のようなペプタイザーと組合せたアルミナゲルが含まれる。さらに適当な有機バインダーは完全燃焼剤としても働きうる炭素基材料であり、セルロース、(メチルセルロース、エチルセルロースおよびカルボキシエチルセルロースのような)置換セルロース、有機ステアレートエステル(例えば、メチルまたはエチルステアレート)、ワックス、ポリオレフィンオキシドなどが含まれる。好ましいバインダーはメチルセルロース、コンスターチ等である。
【0033】
完全燃焼剤は、焼成時に担体から完全に除去されて、該担体中に制御された気孔が残るように混合物に添加される材料である。これらの材料は、コークス、炭素粉末、グラファイト、(ポリエチレン、ポリスチレン、ポリカーボネート等のような)粉末プラスチック、ロジン、セルロースおよびセルロース基材料、おが屑、ならびに粉砕堅果穀(例、ペカン(pecan)、カシュー、くるみ、杏、むらさきはしばみの殻等)のような他の植物材料、のような炭質材料である。炭素基材バインダーもまた完全燃焼剤として役に立つことができる。該完全燃焼剤は、好ましくは約10〜80cc/g、さらに好ましくは30〜70cc/gの範囲の細孔容積を示す最終担体を提供するような量および寸法分布で供給される。好ましい完全燃焼剤は、粉砕堅果穀のようなセルロース由来材料である。
【0034】
このようにして得られる担体前駆体は、非酸化性ガス雰囲気中で熱処理される。
【0035】
本発明の、「非酸化性ガス」とは、酸素を10容量%を越えない濃度で含有していてもよいガスを意味し、具体的には(A)還元性ガス、(B)不活性ガスおよび(C)酸素濃度が10容量%以下、好ましくは3容量%以下のガスを挙げることができる。
【0036】
上記(A)還元性ガスとしては、水素ガス、一酸化炭素ガス、酸化窒素ガス、酸化二窒素ガス、アンモニアガスなどや、これらガスと不活性ガスとの混合ガスを挙げることができる。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガスなどのほかに、希ガス、二酸化炭素ガス、アルカンガスなど、熱処理に上記水素ガスや一酸化炭素ガスなどと望ましくない反応を起こさない不活性なガスを用いることができる。なかでも、水素ガスと窒素ガスとの混合ガスが好適に用いられる。この混合ガス中の水素ガス濃度は0.1〜50容量%、好ましくは0.1〜15容量%、より好ましくは0.1〜10容量%である。
【0037】
上記(B)不活性ガスとしては、上記のような、窒素ガス、アルゴンガスなどのほかに、希ガス、二酸化炭素ガス、アルカンガスなどを挙げることができる。
【0038】
上記(C)酸素濃度が10容量%以下のガスとしては、10容量%以下の酸素と不活性ガスとの混合ガスが挙げられる。不活性ガスとしては、上記のような、窒素ガス、アルゴンガスなどのほかに、希ガス、二酸化炭素ガス、アルカンガスなどを用いることができる。そのほか、空気を窒素ガスで希釈して酸素濃度を10容量%以下にしたガス、空気から酸素を除去して酸素濃度を10容量%以下にしたガスなどを用いることができる。
【0039】
これらのガスのなかでも、水素ガスと窒素ガスとの混合ガス、詳しくは水素ガス濃度が0.1〜10容量%の混合ガスが特に好適に用いられる。
【0040】
熱処理は400〜1700℃、好ましくは450〜1500℃の範囲の温度で行うのがよい。熱処理温度が上記範囲外では目的とするエポキシド製造触媒用担体を得ることができない。
【0041】
本発明のエポキシド製造触媒用担体の形状には特に制限はなく、エポキシド製造触媒の調製に一般に用いられている担体の形状、例えば、リング状、サドル状、球状、ペレット状などから、圧力損失、強度などの工業的なポイントを考慮して適宜選択することができる。
【0042】
本発明のエポキシド製造用触媒の担体のBET(Brunaner−Emmett−Teller)比表面積は、通常、0.1〜10m2/gであり、好ましくは0.3〜5m2/g、より好ましくは0.5〜2m2/gである。比表面積が低すぎると焼結が過度に進行しているため十分な吸水率が得られず、触媒成分の担持が困難になり、逆に比表面積が高すぎると細孔径が小さくなり、生成物であるエポキシドの逐次酸化が促進される。吸水率は、通常、10〜50%であり、好ましくは20〜50%である。吸水率が低すぎると触媒成分の担持が困難になり、逆に高すぎると十分な担体の強度が得られない。平均細孔径は、通常、0.1〜5μmであり、好ましくは0.2〜3μm、より好ましくは0.3〜0.9μmである。平均細孔径が大きすぎると担体の強度が低下し、逆に小さすぎるとガスの滞留により生成物である酸化エチレンの逐次酸化が促進される。気孔率は、通常、20〜80%であり、好ましくは40〜75%である。気孔率が低すぎると担体比重が過度に大きくなり、逆に高すぎると十分な担体の強度が得られない。
【0043】
また、該担体の平均相当直径は、通常3〜20mmであり、好ましくは5〜10mmである。
【0044】
本発明のエポキシド製造触媒は、担体として、前記のようにして得られる本発明のエポキシド製造触媒用担体を使用する点を除けば、この種の銀担持触媒の調製に一般に用いられている方法によって銀および、適宜、反応促進剤を担持させることにより調製することができる。
【0045】
具体的には、銀化合物と錯形成剤とから水溶液中に均一に分散する錯体を形成し、好ましくはセシウムなどの反応促進剤を加え、これを本発明の担体に含浸させた後、焼成して銀を析出させればよい。銀化合物としては、シュウ酸銀、酢酸銀、炭酸銀、硫酸銀、塩化銀などの各種銀塩が挙げられる。なかでも、シュウ酸銀が好適に用いられる。錯形成剤としては、エタノールアミン、エチレンジアミンなどの各種アミン類が挙げられる。なかでも、エタノールアミンやエチレンジアミンが好適に用いられる。賦活温度は120〜700℃、好ましくは120〜600℃、より好ましくは、150〜500℃である。銀の担持量は、通常、1〜30質量%であり、好ましくは5〜20質量%である。
【0046】
また、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムのアルカリ金属およびタリウムよりなる群から選択される少なくとも1つの元素を反応促進剤として用いる場合、合算して、触媒の質量基準で、通常0.0001〜5質量%(酸化物M2Oとして換算)、好ましくは、0.001〜3質量%、より好ましくは0.01〜2質量%、さらに好ましくは0.1〜1質量%である。
【0047】
また、銀の担持量は、通常、5〜30質量%であり、好ましくは5〜20質量%である。銀の担持量が低すぎると銀の凝集により活性点が減少するため触媒寿命に悪影響を及ぼし、一方、高過ぎると反応中の銀の凝集が甚だしく、細孔が閉塞するため、エポキシドの逐次酸化が促進され、いずれの場合も好ましくない。
【0048】
本発明のエポキシド製造触媒のなかでも、エチレンを気相部分酸化してエチレンオキシドを製造するための、α−アルミナを主成分とする担体に銀を担持してなるエチレンオキシド製造用銀触媒であって、この担体として、α−アルミナとアンチモンまたはアンチモン化合物とを含有する担体前駆体を調製し、次いでこの前駆体を水素と不活性ガスとの混合ガス中で400〜1700℃の範囲の温度で熱処理して得られたものを用いたエチレンオキシド製造用触媒が特に好適である。
【0049】
上記のようなエポキシド製造触媒を用いて炭素原子数2〜4の不飽和炭化水素を分子状酸素含有ガスにより気相部分酸化して対応するエポキシドを製造する反応は、この種の反応に一般に用いられている方法に従って行うことができる。例えば、エチレンからエチレンオキシドを製造するには、エチレン1〜40容量%、酸素1〜20容量%、炭酸ガス1〜20容量%、その他一般にバラストガスとしてのメタン、エタンあるいは窒素ガス、過剰な酸化活性の抑制のために添加するエチルクロライド、エチレンジクロライド、ビニルクロライド、メチルクロライドなどの塩化アルキルなどを含む反応ガスを圧力0.1〜3.5MPa、温度180〜300℃、好ましくは200〜270℃で本発明のエポキシド製造触媒に接触させればよい。なお、塩化アルキルの添加量は0.1〜数10ppmが好ましく、この塩化アルキルの添加により活性は若干低下するものの選択率は大幅に改善される。このときの空間速度は、1,000〜30,000hr-1(STP)、好ましくは、3,000〜8,000hr-1(STP)である。
【0050】
なお、上記残余ガス中のエタンは3容量%以下が好ましく、さらに0.5容量%以下が好適である。
【0051】
また、上記残余ガス中の有機ハロゲン化物は100ppm以下が好ましく、さらに10ppm以下が好適である。
【0052】
本発明のエポキシド製造触媒担体のその他の具体的用途としては1,3−ブタジエンを気相酸化して3,4−エポキシ−1−ブテンを製造するための銀担持触媒の担体としての使用を挙げることができる。この銀担持触媒は、α−アルミナ、シリカなどの担体に銀成分を担持して得られることは一般に知られているところであり、この担体として本発明の担体は好適に用いられている。
【0053】
3,4−エポキシ−1−ブテン製造用触媒は、担体として、本発明の担体を使用する点を除けば、一般に知られている方法によって調製することができる。また、1,3−ブタジエンの気相酸化による3,4−エポキシ−1−ブテンの製造も同様に、触媒として、本発明のエポキシド製造用触媒を使用する点を除けば、一般に知られている方法に従って実施することができる。
【0054】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
【0055】
なお、完成担体中の添加元素(例えばアンチモン)の量はXRF測定(株式会社リガク製RIX−2000、FP法にて定量)により決定した。また、エチレン転化率およびエチレンオキシド選択率は下記式により算出した(他の不飽和炭化水素についても同様である)。
【0056】
エチレン転化率(%)=[(反応前のエチレンのモル数−反応後のエチレンのモル数)/(反応前のエチレンのモル数)]×100
エチレンオキシド選択率(%)=[(エチレンオキシドに変化したエチレンのモル数)/(反応したエチレンのモル数)]×100
実施例1
α−アルミナ粉体(一次粒子平均経1.5μm、二次粒子平均経45μm)900g、10%シリカゾル250g、20%アルミナゾル250g、カルボキシメチルセルロース50g、コーンスターチ50gおよびアンズブリッド100gに水200gを加えて十分混練し、押出成形した後、ペレット状に切断した。これを乾燥した後、1400℃で空気焼成して、α−アルミナを主成分とするアルミナ担体(α−アルミナ96質量%、シリカ2.6質量%、その他1.4質量%、BET比表面積1.2m2/g、吸水率40%、気孔率61%)を得た。このアルミナ担体に10%アンチモンゾル(日産化学工業(株)製A−1510LP)を金属換算で1.37質量%(対アルミナ担体)となる量で水で希釈し湯浴上にて含浸させた後、乾燥して担体前駆体を得た。
【0057】
この担体前駆体を水素ガス4容量%と窒素ガス96容量%との混合ガス気流中で室温から1200℃まで10℃/minの速度で昇温し、1200℃で2時間保持するという熱処理を行った後、室温まで冷却して完成担体を得た。この完成担体の吸水率、気孔率を表1に示す。なお、熱処理前後において比表面積はほとんど変化しなかった。
【0058】
上記完成担体を沸騰した純水で洗浄し、この完成担体80mlに銀および促進剤としてセシウムを担持した。すなわち、シュウ酸銀16.6gにエタノールアミン14ml、硝酸セシウム0.064gを加えたものに、純水を追加して均一溶液とし、この溶液に上記完成担体を湯浴上で含浸し、乾燥した後、空気流中200℃で10分、400℃で10分の賦活処理を行って銀触媒を得た。
【0059】
上記銀触媒を600〜850μmに粉砕したものを内径3mmの反応器に充填し、エチレン容量23%、酸素容量7.5%、炭酸ガス7容量%、エチルクロライド5ppm、バラストガスとしてメタンからなる反応ガスを流通させ、圧力2.4MPa、空間速度5500hr-1でエチレン転化率を11%となるように反応させ、そのときのエチレンオキシド選択率を測定した。結果を表1に示す。
【0060】
実施例2
α−アルミナ粉体(一次粒子平均径1.5μm、二次粒子平均径45μm)900g、10%シリカゾル250g、20%アルミナゾル250g、10%アンチモンゾル(日産化学工業(株)製A−1510LP)137g、カルボキシメチルセルロース50g、コーンスターチ50gおよびアンズブリッド100gに水200gを加えて十分混練し、押出成形した後、ペレット状に切断した。これを乾燥した後、1400℃で空気焼成して担体前駆体を得た。この担体前駆体はアンチモンを、α−アルミナ粉体、ゾルなどを混練する時に、添加した点を除けば、実施例1の担体前駆体とアンチモン添加量は同一であり、またその他の比表面積なども実質的に同一なものである。
【0061】
以下、上記担体前駆体を用いた以外は、実施例1と同様の熱処理を行って完成担体を製造し、この完成担体に実施例1と同様にして銀を担持して銀触媒を製造し、さらにこの銀触媒を用いて実施例1と同様にしてエチレンの気相酸化を行いエチレンオキシド選択率を測定した。結果を表1に示す。
【0062】
実施例3
実施例1において、熱処理を行う際の混合ガスとして、酸素ガス1.5容量%と窒素ガス98.5容量%とからなる混合ガスを用いたほかは、すべて実施例1と同様にしてエチレンの気相酸化を行い、エチレンオキシド選択率を測定した。結果を表1に示す。
【0063】
実施例4
実施例2において、アンチモンゾルの替わりに二酸化ゲルマニウムを15g添加して調製した担体前駆体を用いた以外は、実施例1と同様の熱処理を行って完成担体を製造し、この完成担体に実施例1と同様にして銀を担持して銀触媒を製造し、さらにこの銀触媒を用いて実施例1と同様にしてエチレンの気相酸化を行いエチレンオキシド選択率を測定した。結果を表1に示す。
【0064】
実施例5
実施例2において、アンチモンゾルの替わりに二酸化スズを13g添加して調製した担体前駆体を用いた以外は、実施例1と同様の熱処理を行って完成担体を製造し、この完成担体に実施例1と同様にして銀を担持して銀触媒を製造し、さらにこの銀触媒を用いて実施例1と同様にしてエチレンの気相酸化を行いエチレンオキシド選択率を測定した。結果を表1に示す。
【0065】
実施例6
実施例2において、アンチモンゾルの替わりに二酸化鉛を12g添加して調製した担体前駆体を用いた以外は、実施例1と同様の熱処理を行って完成担体を製造し、この完成担体に実施例1と同様にして銀を担持して銀触媒を製造し、さらにこの銀触媒を用いて実施例1と同様にしてエチレンの気相酸化を行いエチレンオキシド選択率を測定した。結果を表1に示す。
【0066】
実施例7
実施例2において、アンチモンゾルの替わりにリン酸アルミニウム水和物を55g添加して調製した担体前駆体を用いた以外は、実施例1と同様の熱処理を行って完成担体を製造し、この完成担体に実施例1と同様にして銀を担持して銀触媒を製造し、さらにこの銀触媒を用いて実施例1と同様にしてエチレンの気相酸化を行いエチレンオキシド選択率を測定した。結果を表1に示す。
【0067】
実施例8
実施例2において、アンチモンゾルの替わりに五酸化ビスマスを24g添加して調製した担体前駆体を用いた以外は、実施例1と同様の熱処理を行って完成担体を製造し、この完成担体に実施例1と同様にして銀を担持して銀触媒を製造し、さらにこの銀触媒を用いて実施例1と同様にしてエチレンの気相酸化を行いエチレンオキシド選択率を測定した。結果を表1に示す。
【0068】
実施例9
ノートン社製アルミナ担体SA−5552を沸騰した純水にて洗浄したものに10%アンチモンゾル(日産化学工業株式会社製A−1510LP)を金属換算で1.37質量%(対アルミナ担体)となる量で水で希釈し、湯浴上にて含浸させた後、乾燥して担体前駆体を得た。
【0069】
この担体前駆体を水素ガス4容量%と窒素ガス96%との混合ガス気流中で室温から1200℃まで10℃/minの速度で昇温し、1200℃で2時間保持するという熱処理を行った後、室温まで冷却して完成担体を得た。
【0070】
この完成担体80mlに銀および促進剤としてセシウムを担持した。すなわち、シュウ酸銀16.6gにエタノールアミン14ml、硝酸セシウム0.03gを加えたものに、純水を追加して均一溶液とし、この溶液に上記完成担体を湯浴上で含浸し、乾燥した後、空気流中200℃で10分、400℃で10分の賦活処理を行って銀触媒を得た。
【0071】
この触媒を用いて実施例1と同様にしてエチレンの気相酸化を行いエチレンオキシド選択率を測定した。結果を表1に示す。
【0072】
実施例10
実施例2に用いた完成担体100gにシュウ酸銀30g、エチレンジアミン16ml、硝酸セシウム0.244g、純水25mlを加えて均一溶液としたものを湯浴上で含浸し、乾燥した後、空気流中200℃で10分、400℃で10分の賦活処理を行って銀触媒を得た。
【0073】
この触媒を用いて1,3−ブタジエンの気相酸化を行い3,4−エポキシ−1−ブテン選択率を測定した。反応は、触媒を0.85〜1.2mmの粒子径に粉砕したものを内径7.5mmの反応器に充填し、酸素18容量%、1,3−ブタジエン9容量%、エチレンクロライド5ppm、バラストとしてn−ブタンからなる反応ガスを流通させ、ゲージ圧で50kPa、空間速度6000hr-1で1,3ブタジエン転化率が40%となるように反応させ、その時の3,4−エポキシ−1−ブテン選択率を測定した。結果を表1に示す。
【0074】
比較例1
実施例1において、α−アルミナを主成分とするアルミナ担体へのアンチモンの添加および熱処理を施さなかったほかは、すべて実施例1と同様にしてエチレンの気相酸化を行い、エチレンオキシド選択率を測定した。結果を表1に示す。
【0075】
比較例2
実施例1において、熱処理を行う際の混合ガスとして、水素ガスと窒素ガスとの混合ガスに替えて酸素ガス12容量%と窒素ガス88容量%との混合ガスを用いたほかは、すべて実施例1と同様にしてエチレンの気相酸化を行い、エチレンオキシド選択率を測定した。結果を表1に示す。
【0076】
比較例3
実施例2において、熱処理を行う際の混合ガスとして、水素ガスと窒素ガスとの混合ガスに替えて酸素ガス12容量%と窒素ガス88容量%との混合ガスを用いたほかは、すべて実施例2と同様にしてエチレンの気相酸化を行い、エチレンオキシド選択率を測定した。結果を表1に示す。
【0077】
比較例4
実施例2において、担体前駆体の水素ガスと窒素ガスとの混合ガス中での熱処理を行わなかったほかは、すべて実施例2と同様にしてエチレンの気相酸化を行い、エチレンオキシド選択率を測定した。結果を表1に示す。
【0078】
比較例5
実施例10において、担体前駆体調製時にアンチモンゾルを添加しなかった以外は、実施例10と同様にして銀を担持して銀触媒を製造し、さらにこの銀触媒を用いて実施例10と同様にして1,3−ブタジエンの気相酸化を行い、3,4−エポキシ−1−ブテン選択率を測定した。反応条件は、1,3−ブタジエン濃度が17%、1,3−ブタジエンの転化率が17%となるように設定した以外は実施例9と同様であった。結果を表1に示す。
【0079】
比較例6
実施例10において、水素ガス4容量%と窒素ガス96%との混合ガス気流中での熱処理を施さない以外は、実施例10と同様にして銀を担持して銀触媒を製造し、さらにこの銀触媒を用いて比較例5と同様にして1,3−ブタジエンの気相酸化を行い、3,4−エポキシ−1−ブテン選択率を測定した。活性低く、規定の添加率に達しなかった。結果を表1に示す。
【0080】
比較例7
実施例10において、担体前駆体への金属添加を実施せず、さらに水素ガス4容量%と窒素ガス96%との混合ガス気流中での熱処理を施さない以外は、実施例9と同様にして銀を担持して銀触媒を製造し、さらにこの銀触媒を用いて比較例5と同様にして1,3−ブタジエンの気相酸化を行い、3,4−エポキシ−1−ブテン選択率を測定した。結果を表1に示す。
【0081】
【表1】
Figure 0003963856
【0082】
表1の結果から、熱処理を行う際のガス中の酸素濃度が10容量%を超えるとエチレンオキシド選択率が低下することがわかる。つまり、空気中のように酸素濃度が10容量%を超えるガス中で熱処理(すなわち焼成)を行ったのでは、高選択率のエチレンオキシド製造触媒用担体、ひいてはエチレンオキシド製造用銀触媒を得ることはできない。
【0083】
【発明の効果】
本発明のエポキシド製造触媒用担体に銀成分を担持して得られるエポキシド製造触媒は優れた性能を有し、この触媒の存在下に炭素数2〜4の不飽和炭化水素を気相部分酸化することにより高選択率で対応するエポキシドを製造することができる。

Claims (8)

  1. 炭素数2〜4の不飽和炭化水素を気相部分酸化して対応するエポキシドを製造するためのエポキシド製造触媒の調製に用いる担体であって、(a)α−アルミナと、(b)ケイ素またはその化合物と、(c)ゲルマニウム、スズ、鉛、リン、アンチモンおよびビスマスよりなる群から選ばれるすくなくとも1種の元素またはその化合物とを含有する担体前駆体を調製し、次いで該前駆体を非酸化性ガス中で400〜1700℃の範囲の温度で熱処理して得られたものであることを特徴とするエポキシド製造触媒用担体。
  2. 非酸化性ガスが、還元性ガスである請求項1に記載の担体。
  3. 該還元性ガスが、水素ガスと不活性ガスとの混合ガスである請求項2に記載の担体。
  4. 該還元性ガスが、水素濃度が0.1〜15容量%である水素ガスと窒素ガスとの混合ガスである請求項3に記載の担体。
  5. 該担体前駆体が(a)α−アルミナと、(b)ケイ素またはその化合物と、(c)アンチモン、リンおよびビスマスよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素またはその化合物とを含有するものである請求項1〜4のいずれか一つに記載の担体。
  6. 該担体前駆体が(a)α−アルミナと、(b)ケイ素またはその化合物と、(c)アンチモンまたはアンチモン化合物とを含有するものである請求項1〜5のいずれか一つに記載の担体。
  7. 請求項1〜6のいずれか一つに記載の担体に銀を担持してなる炭素原子数2〜4の不飽和炭化水素を分子状酸素含有ガスにより気相部分酸化して対応するエポキシドを製造するためのエポキシド製造用触媒。
  8. 請求項7のいずれか一つに記載の触媒の存在下に、炭素原子数2〜4の不飽和炭化水素を分子状酸素含有ガスにより気相部分酸化することによる対応するエポキシドの製造方法。
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