JP3962613B2 - 徐放性担体及び徐放剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は徐放性担体及び徐放剤に関し、更に詳しくは、高分子材料用の老化防止剤や硬化剤、農薬、肥料、殺菌剤、消毒剤、抗菌剤、防虫剤、殺虫剤、除草剤、芳香剤、害虫忌避剤、各種の医薬や生理活性物質等、種々の機能や作用を有する化学物質(本明細書においては、以下、これらの化学物質を「薬剤等」と言い、かつ、その分子を「機能性分子」という。)を貯留するとともに、これらの薬剤等を経時的に徐々に放出させるための徐放剤用担体、及び、これに薬剤等を担持させた徐放剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
様々な産業分野において、薬剤等を徐放性の担体に担持させ、徐放剤として使用したいという要求がある。
【0003】
かかる目的から、従来、▲1▼粒子状の薬剤等をセルロース等の分子で被覆して徐放性のマイクロカプセルとする技術(特開平3−145404号公報)や、▲2▼大環状の化学構造を有する化合物を合成し、これに機能性分子を包接させて、徐放性の包接化合物とする技術(特開平4−297429号公報)、▲3▼既知の雲母、カオリン、スメクタイト系粘土鉱物、シリカゲルやコロイダルシリカ、ゼオライト、セピオライト等の多孔性物質を徐放剤用担体とし、これに薬剤等を含浸させる技術(特開昭62−57486号公報、特開昭62−209161号公報、特開昭63−1442号公報、特開平2−202575号公報、特開平2−239176号公報、特開平3−229634号公報、特開平4−91023号公報、特開平4−224511号公報、特開平4−300801号公報)、▲4▼上記の多孔性物質に薬剤等を含浸させた後、更に多孔性物質の表面を適当な材料で被覆してマイクロカプセル化する技術(特開平2−30038号公報)等が開示されている。
【0004】
しかし、上記の従来技術にはそれぞれ問題があった。
例えば、上記▲1▼及び▲4▼のマイクロカプセル化技術については、薬剤等の適当な放出量と放出速度とを実現するために、薬剤等の粒子の粒径、被覆層の厚さや被覆層の成分等を微妙に調製する必要があり、生産工程が複雑になる。また、被覆層の材料は高価なものが多い。
【0005】
また、上記▲2▼の包接化合物については、ホストとゲストとの分子サイズの適合性が厳しく要求されるため、ゲストとして用い得る薬剤等の選択の幅が極めて狭い。しかもホストである大環状の化学構造を有する化合物の合成プロセスも煩雑であるため、コスト高となる。
【0006】
更に、上記▲3▼,▲4▼で用いられる多孔性物質は、概してナトリウムやアルミニウム等の各種の不純物含有量が多いので、反応性の高い薬剤等を含浸させる場合には、これらの薬物等がダメージを受け易いという問題がある。加えて、多孔性物質の種類によって、それぞれ次のような不具合がある。
【0007】
例えば、雲母やカオリン等の層状粘土鉱物は、うまく乾燥させると団粒構造を形成し、団粒の一次粒子間や二次粒子間の隙間に薬剤等を吸着させることができる。しかし、その吸着量は微小なものであり、しかも吸着力が弱いため薬剤等の大部分は早期に放出されてしまう。
【0008】
また、スメクタイト系の粘土鉱物(例えばモンモリロナイトやヘクトライト等)は、その層間に機能性分子をとり込んだ層間化合物を形成し得るので、上記の雲母やカオリン等よりも薬剤等の吸着可能量が多いが、それでもせいぜい5〜7重量%に過ぎない。しかも、層間化合物が形成されるのは、薬剤等が極性分子である場合に限られる。
更に、シリカゲルやコロイダルシリカは、その一次粒子間の隙間による薬剤等の吸着を利用できるが、やはり吸着量が不十分で、薬剤等の放出速度も制御し難い。また、耐水性が充分でないという課題もある。
【0009】
また、ゼオライトやセピオライトは、数Åの直径の多数の細孔を有するため、現在までのところ徐放剤用担体として最も広範囲に利用されているが、細孔容量が小さいので薬剤等の吸着量が不十分であり、細孔直径が小さいので吸着可能な薬剤等の種類が限定されるとともに一旦吸着した機能性分子を放出し難く、一方、放出可能な小さな機能性分子を吸着した場合には、細孔の構造が単純なので機能性分子を簡単に放出してしまい、長期間にわたる徐放効果を期待することが難しい。
【0010】
上述の従来技術に対して、上述の多孔性物質の中でも不純物含有量が比較的少ないシリカ系物質を材料に、各種特性により優れた徐放性担体を作製する試みがなされている。例えば、特開平7−11233号公報には、有機テンプレートを用いて細孔を形成する、いわゆるミセルテンプレートシリカの一種であって、細孔径,細孔の奥行き及び細孔容量を制御した徐放剤用担体が開示されている。この技術に拠れば、上述の各従来技術と比較して、より薬剤等の種類や機能性分子の大きさに対する選択の幅が広く、これらを多量に含浸させることができ、しかも安定した環境下であれば長期間にわたる徐放効果が得られる。しかしながら、得られるシリカゲルの細孔壁が薄いために耐水性が充分でないことに加えて、高価であり、且つ、製造工程が複雑で生産性が悪いという課題があった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
以上の背景から、生産が容易且つ安価であり、担持できる薬剤等の種類や機能性分子の大きさに対する選択の幅が広く、これらを多量に含浸可能であるとともに、純度が高く含浸させる薬剤にダメージを与えず、加えて耐水性や耐熱性,長期における物性安定性等にも優れた徐放性担体が望まれていた。
【0012】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、生産が容易且つ安価であり、担持できる薬剤等の種類や機能性分子の大きさに対する選択の幅が広く、これらを多量に担持可能であるとともに、純度が高く担持する薬剤等への悪影響が少なく、加えて耐水性や耐熱性、長期における物性安定性等にも優れた徐放性担体、及びそれを用いた徐放剤を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、シリコンアルコキシドから得られるシリカヒドロゲルを熟成することなく水熱処理したシリカゲルであって、シャープな細孔分布を有するとともに、純度が高く、且つ、構造が均質で歪みの少ないシリカゲルを徐放性担体として用いることによって、上記課題が効果的に解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の要旨は、シリコンアルコキシドから得られるシリカヒドロゲルを熟成することなく水熱処理したシリカゲルより構成され、細孔内に担持した物質を徐放し得る徐放性担体であって、(a)細孔容積が0.6〜2.0ml/gであり、(b)比表面積が300〜1000m2/gであり、(c)細孔の最頻直径(Dmax)が20nm未満であり、(d)直径がDmax±20%の範囲内にある細孔の総容積が、全細孔の総容積の50%以上であり、(e)非晶質であり、(f)金属不純物の総含有率が500ppm以下であり、且つ、(g)固体Si−NMRでのQ4ピークのケミカルシフトをδ(ppm)とした場合に、δが下記式(I)
−0.0705×(Dmax)−110.36>δ ・・・式(I)
を満足する、徐放性担体に関する。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の徐放性担体は、シリカゲルより構成され、細孔内に担持した物質を徐放するものであって、以下に挙げる特徴を有する。
【0016】
まず、本発明の徐放性担体は、細孔容積及び比表面積が通常のものより大きい範囲にあることを特徴とする。具体的に、細孔容積の値は、通常0.6〜2.0ml/gの範囲、好ましくは0.8〜1.6ml/gの範囲に、また、比表面積の値は、通常300〜1000m2/gの範囲、好ましくは300〜900m2/gの範囲、更に好ましくは400〜900m2/gの範囲に存在する。これらの細孔容積及び比表面積の値は、窒素ガス吸脱着によるBET法で測定される。
【0017】
また、本発明の徐放性担体は、細孔の最頻直径(Dmax)が20nm未満であることを特徴とする。最頻直径(Dmax)は、気体や液体の吸着や吸収に関する特性であり、最頻直径(Dmax)が小さいほど吸着や吸収性能が高い。従って、種々の特性の中で最頻直径(Dmax)は、特に触媒担体や薬剤担体,吸着剤として使用するシリカゲルにとって重要な物性である。本発明の徐放性担体の好ましい最頻直径(Dmax)は、中でも18nm以下、更には16nm以下である。また、下限は特に制限されないが、通常は2nm以上である。
【0018】
なお、上記の最頻直径(Dmax)は、窒素ガス吸脱着によるBET法で測定した等温脱着曲線から、E. P. Barrett, L. G. Joyner, P. H. Haklenda, J. Amer. Chem. Soc., vol. 73, 373 (1951) に記載のBJH法により算出される細孔分布曲線をプロットして求められる。ここで、細孔分布曲線とは、微分細孔容積、すなわち、細孔直径d(nm)に対する微分窒素ガス吸着量(ΔV/Δ(logd))を言う。上記のVは、窒素ガス吸着容積を表す。
【0019】
更に、本発明の徐放性担体は、上記の最頻直径(Dmax)の値を中心として±20%の範囲にある細孔の総容積が、全細孔の総容積の通常50%以上、好ましくは60%以上であることを特徴とする。このことは、本発明の徐放性担体が有する細孔の直径が、最頻直径(Dmax)付近の細孔で揃っていることを意味する。なお、上記の最頻直径(Dmax)の値の±20%の範囲にある細孔の総容積について、特に上限は無いが、通常は全細孔の総容積の90%以下である。
【0020】
かかる特徴に関連して、本発明の徐放性担体は、上記のBJH法により算出された最頻直径(Dmax)における微分細孔容積ΔV/Δ(logd)が、通常2〜20ml/g、特に5〜12ml/gであることが好ましい(なお、上式において、dは細孔直径(nm)であり、Vは窒素ガス吸着容積である)。微分細孔容積ΔV/Δ(logd)が前記範囲に含まれるものは、最頻直径(Dmax)の付近に揃っている細孔の絶対量が極めて多いものと言える。
【0021】
加えて、本発明の徐放性担体は、その三次元構造を見るに、非晶質であること、即ち、結晶性構造が認められないことを特徴とする。このことは、本発明の徐放性担体をX線回折で分析した場合に、結晶性ピークが実質的に認められないことを意味する。なお、本明細書において結晶質であるシリカゲルとは、X線回折パターンで6オングストローム(Å Units d-spacing)を越えた位置に、少なくとも一つの結晶構造のピークを示すものを指す。結晶性構造を有するシリカゲルの例として、前述のミセルテンプレートシリカが挙げられる。非結晶質のシリカゲルは、結晶性のシリカゲルに較べて、極めて生産性に優れている。
【0022】
また、本発明の徐放性担体は、不純物の含有率が非常に低く、極めて高純度であることを特徴とする。具体的には、シリカゲル中に存在することでその物性に影響を与えることが知られている、アルカリ金属,アルカリ土類金属,周期表の3A族,4A族及び5A族並びに遷移金属からなる群に属する金属元素(金属不純物)の合計の含有率が、通常500ppm以下、好ましくは100ppm以下、更に好ましくは50ppm以下、最も好ましくは30ppm以下である。このように不純物の影響が少ないことが、本発明の徐放性担体が高い耐熱性や耐水性などの優れた性質を発現できる大きな要因の一つである。
【0023】
更に、本発明の徐放性担体は、その構造に歪みが少ないことを特徴とする。ここで、シリカゲルの構造的な歪みは、固体Si−NMR測定におけるQ4ピークのケミカルシフトの値によって表わすことができる。以下、シリカゲルの構造的な歪みと、前記のQ4ピークのケミカルシフトの値との関連について、詳しく説明する。
【0024】
本発明の徐放性担体は非晶質ケイ酸の水和物であり、SiO2・nH2Oの示性式で表されるが、構造的には、Siの四面体の各頂点にOが結合され、これらのOに更にSiが結合して、ネット状に広がった構造を有する。そして、Si−O−Si−O−の繰り返し単位において、Oの一部が他の成員(例えば−H、−CH3など)で置換されているものもあり、一つのSiに注目した場合、下記式(A)に示す様に4個の−OSiを有するSi(Q4)や、下記式(B)に示す様に3個の−OSiを有するSi(Q3)等が存在する(下記式(A)及び(B)では、上記の四面体構造を無視し、Si−Oのネット構造を平面的に表わしている)。そして、固体Si−NMR測定において、上記の各Siに基づくピークは、順にQ4ピーク、Q3ピーク、・・と呼ばれる。
【0025】
【化1】
【0026】
本発明の徐放性担体は、上記のQ4ピークのケミカルシフトをδ(ppm)とした場合に、δが下記式(I)
−0.0705×(Dmax)−110.36>δ ・・・式(I)
を満足することを特徴とする。従来のシリカゲルでは、上記のQ4ピークのケミカルシフトの値δは、上記式(I)の左辺に基づいて計算した値よりも、一般に大きくなる。よって、本発明の徐放性担体は、従来のシリカゲルに比べて、Q4ピークのケミカルシフトがより小さな値を有することになる。これは、本発明の徐放性担体において、Q4ピークのケミカルシフトがより高磁場に存在するということに他ならず、ひいては、Siに対して2個の−OSiで表される結合角がより均質であり、構造的な歪みがより少ないことを意味している。
【0027】
本発明の徐放性担体において、Q4ピークのケミカルシフトδは、上記式(I)の左辺(−0.0705×(Dmax)−110.36)に基づき算出される値よりも、好ましくは0.05%以上小さい値であり、更に好ましくは0.1%、特に好ましくは0.15%以上小さい値である。通常、シリカゲルのQ4ピークの最小値は、−113ppmである。
【0028】
本発明の徐放性担体が有する、優れた耐熱性や耐水性と、上記の様な構造的歪みの関係については、必ずしも明らかではないが、次の様に推定される。すなわち、シリカゲルは大きさの異なる球状粒子の集合体で構成されているが、上記の様な構造的に歪みの少ない状態においては、球状粒子全体のミクロ構造的な高度の均質性が維持されるので、その結果、優れた耐熱性や耐水性が発現されるものと考えられる。なお、Q3以下のピークは、Si−Oのネット構造の広がりに制限があるため、シリカゲルの構造的な歪みが現れにくい。
【0029】
上記の特徴に関連して、本発明の徐放性担体は、固体Si−NMR測定によるQ4/Q3の値が、通常1.3以上、中でも1.5以上であることが好ましい。ここで、Q4/Q3の値とは、上述したシリカゲルの繰り返し単位の中で、−OSiが3個結合したSi(Q3)に対する−OSiが4個結合したSi(Q4)のモル比を意味する。一般に、この値が高い程、シリカゲルの熱安定性が高いことが知られており、ここから、本発明の徐放性担体は、熱安定性に極めて優れていることが判る。これに対して、結晶性である前述のミセルテンプレートシリカは、Q4/Q3の値が1.3を下回ることが多く、耐熱性が低い。
【0030】
なお、Q4ピークのケミカルシフト及びQ4/Q3の値は、実施例の説明において後述する方法を用いて固体Si−NMR測定を行ない、その結果に基づいて算出することができる。また、測定データの解析(ピーク位置の決定)は、例えば、ガウス関数を使用した波形分離解析等により、各ピークを分割して抽出する方法で行なう。
【0031】
本発明の徐放性担体は、従来のゾル−ゲル法とは異なり、シリコンアルコキシドを加水分解する加水分解工程と共に得られたシリカヒドロゾルを縮合する工程縮合工程を経てシリカヒドロゲルを形成する加水分解・縮合工程と、当該加水分解・縮合工程に引き続き、シリカヒドロゲルを熟成することなく水熱処理することにより、所望の物性範囲のシリカゲルを得る物性調節工程とを、ともに包含する方法で製造することができる。
【0032】
本発明の徐放性担体の原料として使用されるシリコンアルコキシドとしては、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、トリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等の炭素数1〜4の低級アルキル基を有するトリまたはテトラアルコキシシラン或いはそれらのオリゴマーが挙げられるが、好ましくはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン及びそれらのオリゴマーである。以上のシリコンアルコキシドは蒸留により容易に精製し得るので、高純度のシリカゲルの原料として好適である。シリコンアルコキシド中の金属不純物の総含有量は、通常100ppm以下、中でも50ppm以下、更には30ppm以下、特に10ppm以下が好ましい。これらの金属不純物の含有率は、一般的なシリカゲル中の不純物含有率の測定法と同じ方法で測定できる。
【0033】
シリコンアルコキシドの加水分解は、シリコンアルコキシド1モルに対して、通常2〜20モル、好ましくは3〜10モル、特に好ましくは4〜8モルの水を用いて行なう。シリコンアルコキシドの加水分解により、シリカのヒドロゲルとアルコールとが生成する。この加水分解反応は、通常、室温から100℃程度であるが、加圧下で液相を維持することで、より高い温度で行なうことも可能である。また、加水分解時には必要に応じて、水と相溶性のあるアルコール類等の溶媒を添加してもよい。具体的には、炭素数1〜3の低級アルコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルセロルブ、エチルセロルブ、メチルエチルケトン、その他の水と任意に混合できる有機溶媒を任意に用いることができるが、中でも強い酸性や塩基性を示さないものが、均一なシリカヒドロゲルを生成できる理由から好ましい。
【0034】
これらの溶媒を使用しない場合、本発明の徐放性担体の製造のためには、特に加水分解の際の攪拌速度が重要である。すなわち、シリコンアルコキシドと加水分解用の水は初期には分液しているため、攪拌によりエマルジョン化し、反応を促進させる。この際の攪拌速度は通常30rpm以上、好ましくは50rpm以上である。斯かる条件を満足しない場合には、本発明の徐放性担体を得るのが困難になる。なお、加水分解によりアルコールが生成して液が均一液となり、発熱が収まった後には、均一なヒドロゲルを形成させるために攪拌を停止することが好ましい。
【0035】
結晶構造を有するシリカゲルは、水中熱安定性に乏しくなる傾向にあり、ゲル中に細孔を形成するのに用いられる界面活性剤等のテンプレートの存在下でシリコンアルコキシドを加水分解すると、ゲルは容易に結晶構造を含むものとなる。従って、本発明においては、界面活性剤等のテンプレートの非存在下で、即ち、これらがテンプレートとしての機能を発揮する程の量は存在しない条件下で、加水分解を行なうことが好ましい。
【0036】
反応時間は、反応液組成(シリコンアルコキシドの種類や、水とのモル比)並びに反応温度に依存し、ゲル化するまでの時間が異なるので、一概には規定されない。なお、反応系に触媒として、酸,アルカリ,塩類などを添加することで加水分解を促進させることができる。しかしながら、斯かる添加物の使用は、後述するように、生成したヒドロゲルの熟成を引き起こすことになるので、本発明の徐放性担体の製造においてはあまり好ましくない。
【0037】
上記のシリコンアルコキシドの加水分解反応では、シリコンアルコキシドが加水分解してシリケートが生成するが、引き続いて該シリケートの縮合反応が起こり、反応液の粘度が上昇し、最終的にゲル化してシリカヒドロゲルとなる。本発明の徐放性担体を製造するためには、上記の加水分解により生成したシリカのヒドロゲルの硬さが上昇しないように、実質的に熟成することなく、直ちに水熱処理を行なうことが重要である。シリコンアルコキシドを加水分解すると、軟弱なシリカのヒドロゲルが生成するが、このヒドロゲルを安定した熟成、あるいは乾燥させ、更にこれに水熱処理を施し、最終的に細孔特性の制御されたシリカゲルとする従来の方法では、本発明で規定する物性範囲の徐放性担体を製造することができない。
【0038】
上記にある、加水分解により生成したシリカのヒドロゲルを、実質的に熟成することなく、直ちに水熱処理を行なうということは、シリカのヒドロゲルが生成した直後の軟弱な状態が維持されたままで、次の、水熱処理に供するようにするということを意味する。シリコンアルコキシドの加水分解反応系に酸、アルカリ、塩類等を添加すること、または該加水分解反応の温度を厳しくし過ぎることなどは、ヒドロゲルの熟成を進行させるため好ましくない。また、加水分解後の後処理における水洗,乾燥,放置などにおいて、必要以上に温度や時間をかけるべきではない。
【0039】
ヒドロゲルの熟成状態を具体的に確認する手段としては、ヒドロゲルの硬度を参考にすることができる。即ち、破壊応力が、通常6MPa以下、好ましくは3MPa以下、更に好ましくは2MPa以下の柔らかい状態のヒドロゲルを水熱処理することで、本発明で規定する物性範囲の徐放性担体を得ることができる。
【0040】
この水熱処理の条件としては、水の状態が液体、気体のいずれでもよく、溶媒や他の気体によって希釈されていてもよいが、好ましくは液体の水が使われる。シリカのヒドロゲルに対して、通常0.1〜10重量倍、好ましくは0.5〜5重量倍、特に好ましくは1〜3重量倍の水を加えてスラリー状とし、通常40〜250℃、好ましくは50〜200℃の温度で、通常0.1〜100時間、好ましくは1〜10時間実施される。水熱処理に使用される水には低級アルコール類、メタノール、エタノール、プロパノールや、ジメチルホルムアミド(DMF)やジメチルスルホキシド(DMSO)、その他の有機溶媒などが含まれてもよい。また、シリカゲルを膜状あるいは層状に粒子、基板、あるいは管などの基体上に形成させた材料の場合にも、この水熱処理方法は適用される。なお、加水分解反応の反応器を用い、続けて温度条件変更により水熱処理を行なうことも可能であるが、加水分解反応とその後の水熱処理とでは通常、最適条件が異なっているため、この方法で本発明の徐放性担体を得ることは一般的に難しい。
【0041】
以上の水熱処理条件において温度を高くすると、得られるシリカゲルの細孔径、細孔容積が大きくなる傾向がある。水熱処理温度としては、100〜200℃の範囲であることが好ましい。また、処理時間とともに、得られるシリカゲルの比表面積は、一度極大に達した後、緩やかに減少する傾向がある。以上の傾向を踏まえて、所望の物性値に応じて条件を適宜選択する必要があるが、水熱処理は、シリカゲルの物性を変化させる目的なので、通常、前記の加水分解の反応条件より高温条件とすることが好ましい。
【0042】
水熱処理の温度、時間を上記範囲外に設定すると、本発明の徐放性担体を得ることが困難となる。例えば、水熱処理の温度が高すぎると、シリカゲルの細孔径、細孔容積が大きくなりすぎ、また、細孔分布も広がる。逆に、水熱処理の温度が低過ぎると、生成するシリカゲルは、架橋度が低く、熱安定性に乏しくなり、細孔分布にピークが発現しなくなったり、前述した固体Si−NMRにおけるQ4/Q3値が極端に小さくなったりする。
【0043】
なお、水熱処理をアンモニア水中で行なうと、純水中で行なう場合よりも低温で同様の効果が得られる。また、アンモニア水中で水熱処理すると、純水中で処理する場合と比較して、最終的に得られるシリカゲルは一般に疎水性となるが、通常30〜250℃、好ましくは40〜200℃という比較的高温で水熱処理すると、特に疎水性が高くなる。ここでのアンモニア水のアンモニア濃度としては、好ましくは0.001〜10%、特に好ましくは0.005〜5%である。
【0044】
水熱処理されたシリカヒドロゲルは、通常40〜200℃、好ましくは60〜120℃で乾燥する。乾燥方法は特に限定されるものではなく、バッチ式でも連続式でもよく、且つ、常圧でも減圧下でも乾燥することができる。必要に応じ、原料のシリコンアルコキシドに由来する炭素分が含まれている場合には、通常400〜600℃で焼成除去することができる。また、表面状態をコントロールするため、最高900℃の温度で焼成することもある。
【0045】
乾燥(又は焼成)後のシリカゲルを、必要に応じて公知の各種手法により粉砕及び/又は分級することで、本発明の徐放性担体を得ることができる。なお、必要に応じて、粉砕及び/又は分級後のシリカゲルを公知の各種手法により成形(例えば、球状,錠剤状,押出品,ペレット品等の形状に成形)して、これを本発明の徐放性担体として使用するのも好ましい。
【0046】
本発明の徐放性担体の形状は特に限定されず、粉末状、粒状、球状、微粉凝集体、微粉を用いた成形体等の各種の形状の中から、用途に応じて適宜選択することができる。上述の粉砕,分級,成形等の有無及び条件については、選択した形状に応じて適宜決定すればよい。
【0047】
本発明の徐放性担体は、従来のシリカゲル等の徐放性担体と比較して、よりシャープな細孔分布を有するとともに、その細孔径をより精密に制御することが可能である。従って、徐放剤に使用する場合に、細孔内に担持させる各種物質(被担持成分)の分子サイズに応じて細孔径を精密に制御することができ、担持できる薬剤等の種類や機能性分子の大きさに対する選択の幅が広い。また、細孔内に担持させる各種物質(被担持成分)の分子サイズに応じて細孔径を適切に制御することによって、安定した速度で被担持成分を徐放させることが可能であり、徐放速度を制御するために一般に使用されている添加物の使用量を減らすことができると期待される。加えて、細孔特性等の品質再現性が高いので、徐放量や徐放速度の振れ幅が非常に問題となる医薬や農薬等の分野においても、安全性が高く品質が安定した徐放性製品を提供することが可能となる。
【0048】
また、本発明の徐放性担体は、非常に高純度である上に、細孔壁が比較的厚く、シロキサン結合角の歪みが少ない均質で安定な構造を有するので、過酷な使用条件においても細孔特性等の物性変化が少ないという特徴を有する。従って、従来のシリカゲル等の徐放性担体と比較して、耐熱性や耐水性等の各種物性に優れているともに、農薬などの長期にわたる使用条件下や、高分子材料への添加時における高温成形加工等の過酷な条件下で使用した場合、或いは、反応性が高く担体を劣化させ易い被担持成分等と使用した場合でも、これらの各種物性が安定して維持されるものと考えられる。また、非常に高純度であることから、被担持成分に対して不要な活性を示すことが無く、各種薬剤等を安定に担持できるものと期待される。
【0049】
更に、本発明の徐放性担体は、同程度の細孔径を有する従来の徐放性担体と比較して、より高比表面積かつ高細孔容積という特徴を有するので、被担持成分の担持可能容量がより大きく、これらを多量に担持可能である上に、被担持成分の吸着能力がより優れている。これによって、被担持成分を長期にわたり安定して、経時的に徐々に放出することができると考えられる。加えて、非結晶性であるので、生産が容易であり価格も安く抑えられる。
【0050】
以上列挙した各種利点を有することから、本発明の徐放性担体は、高分子材料用の老化防止剤、硬化剤、農薬、肥料、殺菌剤、消毒剤、抗菌剤、防虫剤、殺虫剤、除草剤、芳香剤、害虫忌避剤、各種の医薬や生理活性物質等、種々の機能や作用を持つ化学物質(薬剤等)を被担持成分として担持させることにより、これらの被担持成分を貯留すると共に経時的に徐々に放出させる徐放剤として、好適に使用することができる。
【0051】
本発明の徐放性担体に各種薬剤等を担持させ、徐放剤(本発明の徐放剤)として使用する場合、その薬剤等は用途に応じて自由に選択することができる。具体的には、例えば農薬用殺虫剤としてのサリチオン、マラソン、ジメトエート、ダイアジノン、ジエチルアミド、2−エチルチオメチルフェニル=メチルカルバメート、チオリン酸、2−メチル−3−シクロヘキセン−1−カルボン酸等があり、殺菌剤としてはノニルフェノールスルホン酸銅、ジネブ、アンゼブ、チウラム、ポリオキシン、シクロヘキシミド等があり、除草剤ではクロメトキシニル、ニトラリン、3−(3,3−ジメチルウレイド)フェニル=ターシャリーブチルカルバマート等があり、抗菌剤としてはヒノキチオール、害虫忌避剤としてはフェノール系化合物、プラスチック用酸化防止剤としては2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等のビスフェノール、シクロヘキサンの縮合物、ジサリチルレゾルシン、亜リン酸エステル等があり、老化防止剤としてはフェニル−β−ナフチルアミン等のアミン化合物、スチレン化フェノール等のフェノール化合物、チオ尿素誘導体、ベンゾイミダゾール類があり、肥料としては尿素、硫安、硝安等のアンモニア系化合物、過リン酸石灰、重過リン酸石灰等のリン化合物、カリを含む化合物等がある。更に、医薬や生理活性物質としては、降圧利尿剤、血管拡張剤、不整脈治療剤、強心剤、ホルモン剤、免疫調整剤、抗生物質、坑腫瘍剤、坑潰瘍剤、解熱剤、鎮痛剤、消炎剤、鎮咳去剤、鎮静剤、筋弛緩剤、抗癲癇剤等に分類される薬物を挙げることができる。これらの医薬・生理活性物質の具体的なものとしては、医業品要覧第5版(株式会社薬業時報社発行)に記載されている薬物又はそれらの類似薬物を挙げることができる。但し、上に列挙した薬剤はあくまでも一例であり、本発明の徐放性担体に担持させることのできる薬剤はこれらに限定されるものではない。
【0052】
上述の各種薬剤等が本発明の徐放性担体の細孔内に担持されている状態としては、固体状でも液体状でも良く、また、水や溶媒・分散媒等に溶解又は分散した溶液状・分散液状などの何れの状態であっても良い。更に、これらの薬剤等は、水溶性であっても油溶性であっても良い。
【0053】
これらの薬剤の担持方法には限定が無く、任意の方法を用いることができる。そのような方法の例としては次のようなものがある。これらの方法例は単独に用いても良く、適宜に組み合わせて用いても良い。
【0054】
▲1▼担持させる薬剤等を容器に密封し、加熱して機能性分子をガス化させ、本発明の徐放性担体をこのガス中に晒して、その細孔中に機能性分子を吸着させる方法。
【0055】
▲2▼薬剤等を加熱して溶融させ、その溶融液中に本発明の徐放性担体を浸漬して薬剤等を含浸させる方法。
【0056】
▲3▼薬剤等を溶媒に溶解し、その溶液に本発明の徐放性担体を浸漬して細孔内に薬剤等を含浸させ、その後溶媒を蒸発させる方法。
【0057】
▲4▼その他、本発明の徐放性担体と薬剤等とを適当な量比で混合した後にその混合物を薬剤等の融点以上に加熱する方法、薬剤等の原料物質を本発明の徐放性担体の細孔中に含浸させた後に、加熱等により細孔中で薬剤等を合成する方法等。
【0058】
以上のような含浸処理の後、更に、本発明の徐放性担体の表面を高分子膜やデキストリン等で覆うことにより、薬剤等の放出速度が一層遅くなるように調節することもできる。一方、以上のプロセスにより製造した徐放剤の濃度が高すぎる場合には、これを粘土やシリカゲル等の安価な粉体やバインダで増量しても良い。
【0059】
更には、従来より徐放性の材料として用いられている各種高分子樹脂材料と併用してもよい。具体的には、例えば高分子樹脂材料中に薬剤を分散させた形態の徐放剤へ応用する際には、先述の高分子樹脂材料(又はその溶液)に、徐放したい薬剤とともに本発明のシリカゲルよりなる徐放性担体を分散させ、これをスプレードライ等の従来公知の方法によって微粒子化することで、徐放剤を得ることができる。この際、本発明のシリカゲルよりなる徐放性担体は、その細孔特性等によって高分子樹脂材料(又はその溶液)中に均一に分散させることができるので、安定した品質の徐放剤を得ることが可能になる。
【0060】
こうして作成された本発明の徐放剤の使用形態は特に限定されず、その目的に応じて、そのままの状態で、又は、他の徐放剤の使用方法に倣い適宜な形状に成形されたり、通気・通水性の容器に封入されたりして、適宜使用される。特に、医薬や生理活性物質の場合には、経口投与、皮下投与、血管内投与等の各種投与形態を選択することが可能である。
【0061】
本発明の徐放剤は、先述した利点を有する徐放性担体を用い、この細孔内に各種薬剤等の被担持成分を担持させているので、従来のシリカゲル等の徐放性担体を用いた従来の徐放剤と比較して、被担持成分の徐放速度や徐放期間、徐放量の経時的変化等の各種徐放性能をより正確に制御することができる。また、従来の徐放剤と比較して、より多くの被担持成分を徐放性担体に担持させることができるとともに、徐放性担体や被担持成分の変性や劣化が少ないので、長期にわたり安定した徐放効果が得られるものと考えられる。
【0062】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に制約されるものではなく、種々変形して実施することが可能である。
【0063】
(1)徐放性担体の分析方法
(1−1)細孔容積、比表面積
カンタクローム社製AS−1にてBET窒素吸着等温線を測定し、細孔容積、比表面積を求めた。具体的には細孔容積は相対圧P/P0=0.98のときの値を採用し、比表面積はP/P0=0.1,0.2,0.3の3点の窒素吸着量よりBET多点法を用いて算出した。また、BJH法で細孔分布曲線及び最頻直径(Dmax)における微分細孔容積を求めた。測定する相対圧の各点の間隔は0.025とした。
【0064】
(1−2)粉末X線回折
理学電機社製RAD-RB装置を用い、CuKαを線源として測定を行なった。発散スリット1/2deg、散乱スリット1/2deg、受光スリット0.15mmとした。
【0065】
(1−3)金属不純物の含有量
試料2.5gにフッ酸を加えて加熱し、乾涸させたのち、水を加えて50mlとした。この水溶液を用いてICP発光分析を行なった。なお、ナトリウム及びカリウムはフレーム炎光法で分析した。
【0066】
(1−4)固体Si−NMR測定
Bruker社製固体NMR装置(「MSL300」)を使用するとともに、共鳴周波数59.2MHz(7.05テスラ)、7mmのサンプルチューブを使用し、CP/MAS(Cross Polarization / Magic Angle Spinning)プローブの条件で測定した。具体的な測定条件を下の表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
測定データの解析(Q4ピーク位置の決定)は、ピーク分割によって各ピークを抽出する方法で行なう。具体的には、ガウス関数を使用した波形分離解析を行なう。この解析には、サーモガラテック(Thermogalatic)社製の波形処理ソフト「GRAMS386」を使用することができる。
【0069】
(2)徐放性担体の製造及び評価
・実施例1〜3
ガラス製で、上部に大気開放の水冷コンデンサが取り付けてある5Lセパラブルフラスコ(ジャケット付き)に、純水1000gを仕込んだ。100rpmで撹拌しながら、これにテトラメトキシシラン1400gを3分間かけて仕込んだ。水/テトラメトキシシランのモル比は約6である。セパラブルフラスコのジャケットには50℃の温水を通水した。引き続き撹拌を継続し、内容物が沸点に到達した時点で、撹拌を停止した。引き続き約0.5時間、ジャケットに50℃の温水を通水して生成したゾルをゲル化させた。その後、速やかにゲルを取り出し、目開き600ミクロンのナイロン製網を通してゲルを粉砕し、粉体状のウェットゲル(シリカヒドロゲル)を得た。このヒドロゲル450gと純水450gを1Lのガラス製オートクレーブに仕込み、実施例1については130℃×3Hr、実施例2については150℃×3Hr、実施例3については200℃×3Hrの条件で、それぞれ水熱処理を実施した。所定時間水熱処理した後、No.5A濾紙で濾過し、得られたシリカゲルを水洗することなく100℃で恒量となるまで減圧乾燥した。乾燥後、乳鉢にて粉砕し、篩により分級して、いずれも平均粒径10μmの粉体のシリカゲルを得た。これらをそれぞれ実施例1〜3の徐放性担体とする。
【0070】
得られた実施例1〜3の徐放性担体の諸物性を表2に示す。何れのシリカゲルにおいても、周期的構造による低角度側(2θ≦5deg)のピークは認められない。なお、実施例1〜3の徐放性担体の不純物金属含有率は、何れについても、ナトリウム0.2ppm、カリウム0.1ppm、カルシウム0.2ppmであり、その他の金属は検出されなかった。また、固体Si−NMRのQ4ピークのケミカルシフトの値δは、いずれも前述した式(I)の左辺{−0.0705×(Dmax)−110.36}で計算される値より小さな値(よりマイナス側に存在する値)となった。
【0071】
・参考例1,2
富士シリシア化学(株)製の触媒担体シリカゲルCARIACT G−6を参考例1の徐放性担体として、同CARIACT G−10を参考例2の徐放性担体として用いた。それらの諸物性を下の表2に示す。粉末X線回折図によれば、参考例1及び2の何れの徐放性担体についても、周期的構造による低角度側のピークは認められない。また、固体Si−NMRのQ4ピークのケミカルシフトの値δは、参考例1及び2の何れの徐放性担体も、実施例1〜3のいずれの徐放性担体より大きく、且つ前述した式(I)の左辺{−0.0705×(Dmax)−110.36}より計算される値より大きな値(よりプラス側に存在する値)となった。すなわち、参考例1及び2の徐放性担体は、実施例1〜3の徐放性担体と比べて、その構造に歪みが多く、物性変化を受け易いものと判断される。
【0072】
・徐放性担体の水中熱安定性試験
実施例1〜3並びに参考例1及び2の徐放性担体に、各々純水を加えて40重量%のスラリーを調製した。容積60mlのステンレススチール製のミクロボンベに、上記で調製したスラリー約40mlを入れて密封し、280±1℃のオイルバス中に3日間浸漬した。ミクロボンベからスラリーの一部を抜出し、5A濾紙で濾過した。濾滓は100℃で5時間真空乾燥した。この試料について比表面積を測定した結果を表2及び表3に示す。実施例1〜3の徐放性担体は、参考例1及び2の徐放性担体に比べて、比表面積の減少が少なく、水熱安定性に優れていた。
【0073】
【表2】
【0074】
表2の結果から、実施例1〜3の徐放性担体は、参考例1及び2に代表される従来の徐放性担体と比較して、よりシャープで制御された細孔分布を有していることが分かる。従って、徐放剤に使用した場合に、細孔内に担持させる各種物質(被担持成分)の分子サイズに応じて細孔径を適切に制御することによって、被担持成分を安定した任意の速度で徐放させることが可能であると考えられる。
【0075】
また、実施例1〜3の徐放性担体は、参考例1及び2に代表される従来の徐放性担体と比較して、金属不純物が少なく遥かに高純度であるとともに、シロキサン結合角の歪みが少ない均質で安定な構造を有していることから、反応性が低く、耐熱性や耐水性等に優れており、且つ、過酷な使用条件においても細孔特性等の物性変化が少ないことが分かる。従って、徐放剤に使用した場合に、被担持成分に対して不要な活性を示すことが無く、各種薬剤等を安定に担持できるとともに、活性の高い被担持成分と共に用いても、変性や劣化が生じ難いものと考えられる。
【0076】
従って、実施例1〜3の徐放性担体は、各種薬剤等を被担持成分として担持させ徐放剤として使用した場合に、参考例1及び2に代表される従来の徐放性担体を用いた徐放剤と比較して、より優れた徐放性能を得ることができるものと推測される。
【0077】
なお、実施例1〜3の徐放性担体は粉砕された破砕状の粒子として得られたが、公知の成形技術により他の形状(例えば球状,錠剤状,押出品,ペレット品等)に成形しても良い。
【0078】
(3)徐放剤の製造
実施例1〜3の徐放性担体は、高分子材料用の老化防止剤、硬化剤、農薬、肥料、殺菌剤、消毒剤、抗菌剤、防虫剤、殺虫剤、除草剤、芳香剤、害虫忌避剤、各種の医薬や生理活性物質等、種々の機能や作用を持つ化学物質(薬剤等)を担持させることにより、これらの薬剤等を貯留すると共に経時的に徐々に放出させる徐放剤(実施例1〜3の徐放剤)として使用することができる。担持させる薬剤等の種類、薬剤等の被担持時の状態、薬剤等を担持させる手法については、上に詳述した通りである。
【0079】
具体例として、実施例1の徐放性担体に、農薬の一種であるジチオリン酸−0,0−ジメチル−S−(1,2−ジメトキシカルボニルエチル)(いわゆるマラソン剤)を含浸させて、このマラソン剤を担持する徐放剤を作製した。まず、上記マラソン剤をアセトンに30重量%の濃度となるよう溶解し、この溶液50ccに実施例1の徐放性担体10gを添加して攪拌した後、濾過してアセトンを乾燥除去し、マラソン剤担持シリカゲル(実施例1の徐放剤)を得た。マラソン剤の担持前に対する担持後のシリカゲルの重量増分を測定し、これを基に実施例1の徐放剤のマラソン剤含浸量を求めたところ、23重量%であった。
【0080】
(4)徐放剤の性能評価
実施例1〜3の徐放剤の各種性能は、例えば以下の手法により評価することができる。
【0081】
<薬剤担持量評価>
担持される薬剤等に金属が含まれる場合には、シリカゲルの不純物金属の分析と同様の方法で金属濃度を分析し、これを目的となる機能性分子の担持量に換算することができる。また、担持される薬剤等が有機物である場合には、担持前後の重量増分が目安となる他、熱重量分析法による重量減分を担持量の目安とする方法、担持された薬剤等を溶媒等で抽出し、滴定法、吸光光度法、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、赤外吸収分光法、NMR等の手段で定量する方法、担持された薬剤等を担持状態のまま滴定法、全炭素量分析法、各種分光分析法等により定量する方法などがある。
【0082】
<徐放性能評価>
薬剤等が溶出により徐放される系の簡易な評価法としては、薬剤等を担持した徐放剤をガラスカラム等に充填し、一定速度で水等の溶媒(実際の使用条件に類似した溶媒の種類、温度、pH等の条件を道宜選択する)を流通させ、溶出してくる薬剤等の濃度を全炭素量分析法、滴定法、吸光光度法、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、赤外吸収分光法、NMR等の方法で経時的に追跡する方法や、薬剤等を担持した徐放剤をガラスビーカーやフラスコ中にて実際の使用条件に類似した環境の溶媒中に浸漬し、一定温度に保持して、溶媒中に溶出してくる薬剤等の濃度を上記分析法にて経時的に追跡する方法などがある。
【0083】
薬剤等が揮発により徐放される系においては、徐放剤の経時的な重量減を追跡する方法が最も簡便である他、上記の方法に準じる方法として、徐放剤を液体の代わりに空気などの気体と接触させ、揮発した薬剤等を含む気体を経時的にサンプリングして、その気体における薬剤等の含有量をガスクロマトグラフィー等により分析する方法などがある。
【0084】
これら徐放剤に担持される薬剤等の種類や使用形態は様々であるので、簡易評価が難しい場合には、徐放剤を実際の使用条件に供し、その徐放性能の評価を各用途における実使用効果として直接観察する方法(高分子材科の劣化速度、殺菌・抗菌性能の持続性、医薬の血中濃度の経時変化などにより評価)等を行なっても良い。これらの各種評価方法は、評価の目的や評価対象の徐放剤の種類に応じて適宜選択される。
【0085】
実施例1〜3の徐放剤は、先述した利点を有する実施例1〜3の徐放性担体を用い、この細孔内に各種薬剤等の被担持成分を担持させているので、徐放速度や徐放期間、徐放量の経時的変化等の各種徐放性能について評価を行なった場合に、従来の徐放剤、例えば参考例1及び2の徐放性担体を用いた徐放剤と比較して、より制御された正確な徐放性能が得られると共に、その徐放性能が長期にわたって安定して得られると考えられる。
【0086】
【発明の効果】
本発明の徐放性担体は、従来の徐放性担体と比較して、生産が容易且つ安価であり、被担持成分の種類や被担持成分分子の大きさに対する選択の幅が広く、より多量の被担持成分が担持可能である上に、純度が高いので担持する薬剤等への悪影響が少ない。加えて、耐水性や耐熱性に優れており、しかも細孔特性等の各種物性が長期間にわたって安定して維持される。
【0087】
また、上記徐放性担体に薬剤等を担持させて作製した本発明の徐放剤は、従来の徐放剤と比較して、徐放性能がより正確に制御可能であるとともに、長期にわたり安定した徐放効果が得られる。
Claims (5)
- シリコンアルコキシドから得られるシリカヒドロゲルを熟成することなく水熱処理したシリカゲルより構成され、細孔内に担持した物質を徐放し得る徐放性担体であって、
(a)細孔容積が0.6〜2.0ml/gであり、
(b)比表面積が300〜1000m2/gであり、
(c)細孔の最頻直径(Dmax)が20nm未満であり、
(d)直径がDmax±20%の範囲内にある細孔の総容積が、全細孔の総容積の50%以上であり、
(e)非晶質であり、
(f)金属不純物の総含有率が500ppm以下であり、且つ、
(g)固体Si−NMRでのQ4ピークのケミカルシフトをδ(ppm)とした場合に、δが下記式(I)
−0.0705×(Dmax)−110.36>δ ・・・式(I)
を満足する
ことを特徴とする、徐放性担体。 - 最頻直径(Dmax)における微分細孔容積が、2〜20ml/gである
ことを特徴とする、請求項1記載の徐放性担体。 - 固体Si−NMR測定におけるQ4/Q3ピークの値が、1.3以上である
ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の徐放性担体。 - シリコンアルコキシドを加水分解する工程を経て製造されることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の徐放性担体。
- 請求項1〜4の何れか一項に記載の徐放性担体の細孔内に被徐放成分が担持されている
ことを特徴とする、徐放剤。
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