JP3962533B2 - 薄膜構造体の超臨界乾燥法及び超臨界乾燥装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、薄膜構造体の超臨界乾燥法に関する技術分野に属する。
【0002】
【従来の技術】
近年の新しい半導体集積回路(LSI)の層間絶縁膜や、通信用高周波(マイクロ波、ミリ波)回路基板として、従前よりも格段に誘電率(εr)や、誘電損失(tanδ)の低い誘電体材料が必要とされている。ところが、固体材料の誘電率はパーフロロカーボン系のεr=1.9が最も小さく、将来的にもこれを大きく下回ることは困難である。そこで、極めて微細なポア(孔)を多数含んだ多孔質体(多孔質薄膜)を用いることが検討されている。
【0003】
このような多孔質薄膜を作製する際に重要なポイントとして、多孔質体(多孔質薄膜)を液相から気相に置換(即ち乾燥)するときに気液界面に生じる毛管力から、いかに多孔質の微細構造を保護するかということがある。即ち、多孔質薄膜の作製過程において湿潤状態の多孔質体の乾燥が行われるが、この乾燥のときに気液界面に毛管力が生じ、この毛管力が多孔質体の機械的強度よりも大きくなると、その微細構造が破壊されて低誘電率、低誘電損失のものを得ることができず、このため、いかに多孔質の微細構造を保護するかということが重要となってくる。とりわけ、多孔質体の空孔率を増大させた場合、即ち、多孔質体の密度を下げて誘電率、誘電損失を下げた場合、一般に機械的強度が低下するので、微細構造の破壊を生じることなく乾燥することは飛躍的に困難になる。
【0004】
上記の場合と同様の超微細構造のものを乾燥(液相から気相への置換)する工程は、マイクロマシンや半導体製造工程の微細洗浄乾燥(超微細レジスト構造の乾燥等)等にもあり、毛管力フリーな乾燥方法、特に乾燥雰囲気を実現することが共通のキーテクノロジーとして認識されている。即ち、これらの分野及び前記多孔質薄膜の分野において、乾燥時に気液界面に毛管力が生じない乾燥法を開発し実現することが共通のキーテクノロジーとして認識されている。
【0005】
このような毛管力フリーな乾燥法として、超臨界流体を用いた乾燥法が知られている。ここで、超臨界流体とは、物質固有の臨界点以上の圧力・温度のもとで現出する流体であって、気液界面が消失して毛管力が無い超臨界状態の流体である。上記乾燥法としては、超臨界流体として超臨界状態のCO2 を用いるCO2 抽出超臨界乾燥法等がある。このCO2 抽出超臨界乾燥法は、圧力容器内に被乾燥物(多孔質薄膜やマイクロマシン等)を有機溶媒(例えばエチルアルコール)に浸漬した状態にし、この圧力容器内に超臨界状態にした炭酸ガス(CO2 )を流し込んで溶媒を抽出除去し、これにより、多孔質薄膜やマイクロマシン等の被乾燥物の微細構造を破壊することなく、乾燥させることができる。また、圧力容器内への超臨界流体の流し込みはせず、被乾燥物を浸漬する溶媒(例えばエチルアルコール)そのものを超臨界状態にして乾燥することも行われている。この乾燥法は、溶媒がアルコールである場合には、アルコール超臨界乾燥法といわれている。いずれの超臨界乾燥法の場合にも、毛管力フリーな超臨界流体の特性により、多孔質薄膜等の被乾燥物の微細構造を破壊することなく、乾燥でき、その結果、空孔率の高いものが得られる。尚、このような超臨界乾燥法により乾燥された後の多孔質シリカは、エアロゲルと呼ばれる。
【0006】
従来の超臨界乾燥法としては、例えば文献<L.W.Hrubesh ら、Mat. Res. Soc.Symp. Proc. Vol. 371,pp. 195-203 >に記載された超臨界乾燥法がある。この文献に記載された超臨界乾燥法は、超臨界乾燥装置の圧力容器内に被乾燥物を入れた後に、圧力容器内を溶媒で満たし、溶媒に被乾燥物を浸漬し、圧力容器を封入し、この後、超臨界乾燥する方法である。しかし、この超臨界乾燥法においては、圧力容器の容積と同量の溶媒が必要であり、且つ、この溶媒を全て抽出しなければならないため、溶媒使用量が多くなると共に、溶媒の抽出時間が長くなって乾燥処理のスループット(単位時間あたりの被乾燥物(薄膜構造体等)の乾燥処理枚数)が低下するという問題点があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような事情に着目してなされたものであって、その目的は、前記従来の超臨界乾燥法の有する問題点を解消し、超臨界乾燥装置の圧力容器内において薄膜構造体を浸漬する溶媒の量が少なくなると共に、溶媒の抽出時間が短くなって乾燥処理のスループットを高くすることができる薄膜構造体の超臨界乾燥法を提供しようとするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明に係る薄膜構造体の超臨界乾燥法は、請求項1〜2記載の薄膜構造体の超臨界乾燥法としており、それは次のような構成としたものである。
【0009】
即ち、請求項1記載の薄膜構造体の超臨界乾燥法は、薄膜構造体を小容器内の溶媒に浸漬した状態にし、この状態のものを複数個準備し、これらを超臨界乾燥装置の圧力容器内に導入した後、圧力容器を封入する前に圧力容器内を飽和蒸気圧以上の溶媒の蒸気で満たし、しかる後、この圧力容器内に流し込まれた超臨界状態の流体、または、この圧力容器内に導入され、この圧力容器内で超臨界状態にされた流体を通気して前記溶媒を抽出除去することにより、前記薄膜構造体を前記圧力容器内において超臨界乾燥させることを特徴とする薄膜構造体の超臨界乾燥法である(第1発明)。
【0010】
請求項2記載の薄膜構造体の超臨界乾燥法は、前記薄膜構造体の薄膜が半導体ウエハ上に形成されている請求項1記載の薄膜構造体の超臨界乾燥法である(第2発明)。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明は、例えば次のような形態で実施する。
先ず、乾燥すべき湿潤状態の薄膜構造体をトレイ状の小容器内に入れると共に該小容器内にエチルアルコール等の溶媒を注入し、薄膜構造体を溶媒に浸漬した状態にする。このような状態のものを複数個準備する。次に、これらを超臨界乾燥装置の圧力容器内に導入した後、圧力容器内に超臨界状態のCO2 等の超臨界流体を流し込んで溶媒を抽出除去することにより、圧力容器内において薄膜構造体を乾燥させる。このような形態で本発明が実施される。
【0013】
以下、本発明について主にその作用効果を説明する。
【0014】
本発明に係る薄膜構造体の超臨界乾燥法は、前述の如く、小容器内の溶媒に浸漬された薄膜構造体を超臨界乾燥装置の圧力容器内において乾燥させることとしている(第1発明)。即ち、溶媒に浸漬された薄膜構造体を超臨界乾燥装置の圧力容器内において乾燥させる際に、この溶媒は圧力容器内に満たされているのではなく、小容器内に保持されるようにしている。
【0015】
従って、本発明に係る薄膜構造体の超臨界乾燥法によれば、超臨界乾燥装置の圧力容器内において薄膜構造体を浸漬する溶媒の量が少なくなる。また、このために、溶媒の抽出時間が短くなり、このため乾燥処理のスループットを高くすることができる。このとき、小容器内の溶媒の量は薄膜構造体を浸漬するに足りる少量とすることができ、この場合は、さらに溶媒の量を少なくすることができると共に、溶媒の抽出時間が短くなって乾燥処理のスループットをより高くすることができる。
【0016】
前記薄膜構造体を小容器内の溶媒に浸漬した状態のものを超臨界乾燥装置の圧力容器内に導入した後、圧力容器を封入する前に、圧力容器内を飽和蒸気圧以上の溶媒の蒸気で満たすようにすることが望ましい。そうすると、薄膜構造体が空気に触れることによる支障の発生を確実に防止し得るようになるからである。即ち、小容器内の溶媒に浸漬された薄膜構造体を超臨界乾燥装置の圧力容器内に導入した後、小容器内の溶媒は蒸発して減ると、薄膜構造体の一部が空気に触れて乾燥し、微細構造の破壊などの支障を生じる可能性があるが、前記の如く圧力容器内を飽和蒸気圧以上の溶媒の蒸気で満たすようにすると、小容器内の溶媒の蒸発が生じ難くなって小容器内の溶媒の減少が抑制され、ひいては薄膜構造体の一部が空気に触れることによる支障の発生を確実に防止し得るようになるからである。
【0017】
薄膜構造体を浸漬する溶媒を保持する小容器を超臨界乾燥装置の圧力容器内に有することを特徴とする薄膜構造体の超臨界乾燥装置によれば、上記の如き本発明に係る薄膜構造体の超臨界乾燥法を行うことができる。このため、超臨界乾燥装置の圧力容器内において薄膜構造体を浸漬する溶媒の量を少なくし得ると共に、溶媒の抽出時間を短くし得て乾燥処理のスループットを高くし得るようになる。
【0018】
本発明において、薄膜構造体としては、その種類は特には限定されず、種々のものを使用することができ、例えば、薄膜が半導体ウエハ上に形成されているものを使用することができる(第2発明)。また、マイクロマシンや半導体分野における超微細レジスト構造のもの等を用いることができる。本発明は、特には、乾燥時に微細構造の変化を来しやすい構造の薄膜構造体、例えば極めて微細なポアを多数含んだ多孔質薄膜を有するものや、超微細構造を有するレジスト構造のものに用いて効果的である。
【0019】
小容器としては、その大きさ及び形状は特には限定されず、薄膜構造体を溶媒に浸漬できる大きさ及び形状のものであればよい。但し、溶媒量をできるだけ少なくすると共に、超臨界乾燥装置の圧力容器内にできるだけ多くの小容器を配置して乾燥処理のスループットをできるだけ高くするためには、薄膜構造体の大きさ及び形状に応じたものであって薄膜構造体を溶媒に浸漬できる最小の大きさのものを使用することが望ましい。このような小容器としては、例えばトレイ状のものがある。小容器の材質は超臨界流体の温度、圧力に耐えるものであれば特には限定されず、例えばアルミ製のものを使用することができる。
【0020】
溶媒としては、その種類は使用する超臨界流体(例えばCO2 )により抽出されるものであれば特には限定されず、種々のものを使用することができるが、通常は有機溶媒が使用され、有機溶媒としては、例えばエチルアルコールを使用することができる。
【0021】
超臨界乾燥装置としては、その大きさ、形状、種類は特には限定されず、種々のものを使用することができる。超臨界処理装置といわれるものも使用することができる。
【0022】
本発明において、小容器内の溶媒に浸漬された薄膜構造体を超臨界乾燥装置の圧力容器内において超臨界乾燥させるに際し、CO2 抽出超臨界乾燥法の場合の如く、圧力容器内に超臨界流体(例えば超臨界状態のCO2 )を流し込んで該超臨界流体により乾燥させる方式、あるいは、圧力容器内にCO2 等の流体を導入し該流体を圧力容器内で超臨界状態にして該超臨界状態の流体により乾燥させる方式を採用することができる。
【0023】
【実施例】
本発明の実施例を以下説明する。尚、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0024】
図1に示す如く、表面に厚さ3μm のシリカ湿潤ゲル膜を形成した8インチシリコンウエハを湿潤状態を維持させながら小容器であるアルミ製トレイに載せると共に溶媒としてエチルアルコールを注入し、前記ウエハをエチルアルコールに浸漬した状態にした。このとき、アルミ製トレイは直径220mm、深さ3mmであり、前記ウエハの厚さ(シリカ湿潤ゲル膜を含む)は700μm であり、擦り切れ一杯までエチルアルコールを注入したので、1トレイあたりのエチルアルコール量は約80cc(cm3 )であった。このような状態のものを10個準備した。
【0025】
次に、図2に示す如く、上記トレイ(上記の如くウエハをエチルアルコールに浸漬した状態のもの)を10枚積層して超臨界乾燥装置の圧力容器内に設置し、圧力容器内を飽和蒸気圧以上のエチルアルコール蒸気で満たした後、圧力容器を封入した。このとき、アルミ製トレイ間にはスペーサが挿入されており、トレイ同士が直接重なり合わないようになっている。また、圧力容器の出口にガスクロマトグラフィー(GC)を接続しており、超臨界乾燥の際の排気中のエチルアルコール濃度をオンラインで計測できるようにしなっており、超臨界乾燥の際にはこれを計測した。
【0026】
次に、圧力容器内にCO2 を注入し、圧力容器内を圧力160気圧、温度80℃まで加圧加熱して超臨界状態とした。そして、この圧力及び温度を保ったままCO2 を通気させ、超臨界状態のCO2 によりエチルアルコールを抽出除去し、前記ガスクロマトグラフィーによりエチルアルコールが検出されなくなるまでの時間(乾燥時間)を計測した。
【0027】
エチルアルコールが検出されなくなった後、温度を80℃に保持したまま圧力を1気圧(1.01325×105 Pa)まで減圧し、続いて温度を室温まで降温させ、圧力容器からウエハを取り出した。このとき、ウエハ上のシリカゲル膜は溶媒(エチルアルコール)が抽出乾燥された乾燥ゲル(エアロゲル)膜になっている。
【0028】
比較のために実施した比較例を以下説明する。
【0029】
前記アルミ製トレイも小容器も使用せず、図3に示す如く、通常の石英製キャリアボート(石英製ウエハキャリア)に前記本発明の実施例の場合と同様のシリカ湿潤ゲル膜を有するシリコンウエハをセットし、圧力容器内を溶媒(エチルアルコール)で満たして前記ウエハをエチルアルコールに浸漬した状態にした後、圧力容器を封入した。
【0030】
次に、前記本発明の実施例の場合と同様の方法及び手順により、圧力容器内を超臨界状態とし、CO2 を通気させ、エチルアルコールの抽出除去をし、乾燥時間を計測した。
【0031】
本発明の実施例の場合及び比較例の場合の結果として、抽出除去したエチルアルコール量(抽出アルコール量)、乾燥時間、及び、得られたエアロゲル膜の比誘電率を表1に示す。表1からわかる如く、本発明の実施例の場合は、比較例の場合に比較して、抽出除去したエチルアルコール量は約1/8と小さく、乾燥時間は1/4と短く、エアロゲル膜の比誘電率は比較例の場合と同様に小さくて優れている。従って、本発明の実施例の場合は、比較例の場合に比較して、超臨界乾燥装置の圧力容器内において薄膜構造体を浸漬する溶媒(エチルアルコール)の量が少なくなると共に、溶媒の抽出時間(乾燥時間)が短くなって乾燥処理のスループットを高くすることができることが確認された。
【0032】
【表1】
【0033】
【発明の効果】
本発明に係る薄膜構造体の超臨界乾燥法によれば、超臨界乾燥装置の圧力容器内において薄膜構造体を浸漬する溶媒の量を少なくし得、また、このために溶媒の抽出時間を短くし得、ひいては乾燥処理のスループットを高くし得るようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例に係るトレイ内溶媒に薄膜構造体が浸漬された状態を示す側断面図である。
【図2】 本発明の実施例に係る薄膜構造体の超臨界乾燥装置の概要を示す側断面図である。
【図3】 比較例に係る薄膜構造体の超臨界乾燥装置の概要を示す側断面図である。
Claims (2)
- 薄膜構造体を小容器内の溶媒に浸漬した状態にし、この状態のものを複数個準備し、これらを超臨界乾燥装置の圧力容器内に導入した後、圧力容器を封入する前に圧力容器内を飽和蒸気圧以上の溶媒の蒸気で満たし、しかる後、この圧力容器内に流し込まれた超臨界状態の流体、または、この圧力容器内に導入され、この圧力容器内で超臨界状態にされた流体を通気して前記溶媒を抽出除去することにより、前記薄膜構造体を前記圧力容器内において超臨界乾燥させることを特徴とする薄膜構造体の超臨界乾燥法。
- 前記薄膜構造体の薄膜が半導体ウエハ上に形成されている請求項1記載の薄膜構造体の超臨界乾燥法。
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