JP3958929B2 - 固体高分子型燃料電池用セパレータ製造装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電力を直接的駆動源とする自動車、小規模の発電システムなどに用いられる固体高分子型燃料電池に用いられるセパレータの製造装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
環境保全に対する意識の高まりから、化石燃料を利用した現行の内燃機関から水素を利用した固体高分子型燃料電池による電気駆動型の自動車や、分散型コジェネシステムへの移行が世界的に検討されている。これらの新技術が広く一般に利用できるようにするためには、低コスト化と高信頼化に関わる技術開発を燃料供給システムも含めて推進する必要がある。
【0003】
近年、電気自動車用燃料電池の開発が固体高分子材料の開発成功を契機に急速に進展し始めている。
固体高分子型燃料電池とは、従来のアルカリ型燃料電池、燐酸型燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電池、固体電解質型燃料電池などと異なり、水素イオン選択透過型の有機物膜を電解質として用いることを特徴とする燃料電池であり、燃料には純水素のほか、アルコール類の改質によって得た水素ガスなどを用い、空気中の酸素との反応を電気化学的に制御することによって電力を取り出すシステムである。
固体高分子膜は薄くても十分に機能し、電解質が膜中に固定されていることから、電池内の露点を制御すれば電解質として機能するため、水溶液系電解質や溶融塩系電解質など流動性のある媒体を使う必要がなく、電池自体をコンパクトに単純化して設計できることも特徴である。
【0004】
固体高分子型燃料電池は、水素の流路を持つセパレータ、燃料極、固体高分子膜、空気(酸素)極、空気(酸素)の流路を持つセパレータよりなるサンドイッチ構造を単セルとして、実際にはこの単セルを積層したスタックが用いられる。したがって、セパレータの両面は独立した流路を持ち、片面が水素、もう一方の片面が空気および生成した水の流路となる。
【0005】
冷却用水溶液の沸点以下の領域で稼働する固体高分子型燃料電池の構成材料としては、温度がさほど高くないこと、その環境下で耐食性・耐久性を十分に発揮させることが可能であること、さらに、任意の流路形状を形成するため炭素系の材料を切削加工などにより加工して使用されてきているが、より低コスト化や小型化、すなわちセパレータの薄肉化を目指してステンレス鋼やチタンの適用に関する技術開発が進んでいる。
【0006】
従来、燃料電池用ステンレス鋼としては、特開平4−247852号公報、同4−358044号公報、同7−188870号公報、同8−165546号公報、同8−225892号公報、同8−311620号公報などに開示されているように、高い耐食性が要求される溶融炭酸塩環境で稼働する燃料電池用ステンレス鋼がある。
また、特開平6−264193号公報、同6−293941号公報、同9−67672号公報などに開示されているように、数百度の高温で稼働する固体電解質型燃料電池材料の発明がなされてきた。
【0007】
さらに、特開平10−228914号公報には、単位電池の電極との接触抵抗の小さい燃料電池用セパレータを得ることを目的に、ステンレス鋼(SUS304)をプレス成形することにより、内周部に多数個の凹凸からなる膨出成形部を形成し、膨出成形部の膨出先端側端面に0.01〜0.02μmの厚さの金メッキ層を形成したことを特徴とする燃料電池用セパレータが開示され、その使用法として燃料電池を形成する際に燃料電池用セパレータを積層された単位電池の間に介在させ、単位電池の電極と膨出成形部の膨出先端側端面に形成された金メッキ層とが当接するように配設し、燃料電池用セパレータと電極との間に反応ガス通路を画成する技術が開示されている。また、特開平5−29009号公報では、安価に加工するため、プレス加工した波形状の穴明きバイポーラ板が開示されている。また、特開2000−202532号公報では、平板を金型に挟み込み、圧延ロールで金型を圧縮する製造方法が開示されている。
【0008】
しかし、これらの技術をもとに実際に固体高分子型燃料電池を試作すると、以下の5点の技術的問題があることがわかった。
a)長期耐久性が求められる固体高分子型燃料電池の環境において、ステンレス製セパレータの合金成分としては一般汎用鋼種であるSUS304では不十分となる場合があり、その対策としてCr、Ni、Moなどの含有量を上げる必要がある。
b)Cr、Ni、Moなどの合金組成を上げたステンレス鋼の場合、湿式の金メッキ法だけでは金メッキ層とステンレス鋼基板の間に、ステンレス鋼の不働態酸化皮膜がメッキ処理中に完全に還元されずに残留し、ステンレス鋼と金メッキ層の間の層間抵抗が生じ、電力ロスの原因となることがある。その対策として、皮膜を除去しながら貴金属を付着させる必要がある。
c)セパレータはプレス成形により内周部に多数個の凹凸からなる膨出成形部を形成した形を想定しているが、実際に四周に平坦部をもつ当該部材の加工を試みると、凹凸からなる膨出成形部において延性割れを生じ、さらに、長期信頼性向上のために合金組成を上げたステンレス鋼は、SUS304に比べ加工性が低下することから、この形状にプレス成形することが困難である。また、断面が波形状であると電解質膜との接触面積が小さくなり燃料電池特性が低下する。
d)プレス成形により微細な凹凸を成形する方法は、セパレータが大型化すると、プレス荷重が増大して、大がかりな設備を要する、という問題がある。
e)金型をロールで圧縮する製造方法は、金型の開閉、材料ハンドリング等で、生産性が低いこと、また金型の剛性のため、圧下荷重を精度良く加えることが困難になる、という問題がある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは既に、前記a)やb)の問題点に対しては、その解決手段を特開2000−256808号公報、特願平11−170142号などに提示している。
従って、本発明では、前記c)、d)およびe)の問題点に鑑み、低コスト・高耐久型の固体高分子型燃料電池に適用できる、プレス加工が可能なセパレータの製造装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上述の課題を解決するため、固体高分子型燃料電池の作用原理に基づき、プレス成型時の材料挙動を詳細に検討した結果、本発明を完成させたもので、その要旨とするところは以下の通りである。
(1) 周辺に平坦部を有し、周辺を除く部分はガス流路となる凸部及び凹部を有する固体高分子型燃料電池用セパレータ製造装置において、前記製造装置を構成する圧下ロールは、前記セパレータの凸部及び凹部の形状と相似形で、かつ上下ロールで同一形状の凹凸加工を表面に施した上下一対の圧下ロールのみを有することを特徴とする固体高分子型燃料電池用セパレータ製造装置。
(2)上下一対の圧下ロールの回転を同期させる回転同期手段を有することを特徴とする前記(1)記載の固体高分子型燃料電池用セパレータ製造装置。
(3)上下一対の圧下ロールは、軸方向に相対変位を発生させないように変位調整手段を有することを特徴とする前記(1)又は(2)記載の固体高分子型燃料電池用セパレータ製造装置。
(4) 前記圧下ロールの凹部は、平坦な底部で形成されていることを特徴とする前記(1)〜(3)の何れか1項に記載の固体高分子型燃料電池用セパレータ製造装置。
)前記圧下ロールの直近の上流側に、セパレータを挟む上下一対の平滑ロールを有することを特徴とする前記(1)〜()の何れか1項に記載の固体高分子型燃料電池用セパレータ製造装置。
)上下一対の圧下ロールの回転速度に差を付ける回転速度調整手段を有することを特徴とする前記(1)〜()の何れか1項に記載の固体高分子型燃料電池用セパレータ製造装置。
)上下面の潤滑状態に差を付ける潤滑状態調整手段を前記上下圧下ロールの少なくとも一方に有することを特徴とする前記(1)〜()の何れか1項に記載の固体高分子型燃料電池用セパレータ製造装置。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下に図面を用いて詳細を説明する。
前記(1)記載の発明に係る製造装置の例を図1に示す。
図中の矢印は、薄板の搬送方向を示す。ステンレスあるいはチタン等の薄板を、表面に凹凸の加工を施してある一対の圧下ロール2a、2bで、圧下して表面の凹凸模様3を薄板に転写させながら回転することにより、セパレータ1を連続的に製造することができる。
【0012】
上下圧下ロール2a、2bの凹凸の形状は、圧下ロールの軸方向に沿って凸部及び凹部が繰り返し構造となるもの(図2)、圧下ロールの円周方向に沿って凸部及び凹部が繰り返し構造となるもの(図3)、圧下ロールの軸方向に対して特定の角度傾斜して凸部及び凹部が繰り返し構造となるもの(図4)の他、凸部及び凹部が円形、楕円形、四角形等の他の任意の多角形としたもの(図5)などを用いることができる。
【0013】
凸部及び凹部が繰り返し構造となるものは、後述するように水素及び酸素の流路をセパレータに一筆書きで形成することができ、効率良い起電力を得ることができる。また、凸部及び凹部の形状を円形、多角形としたときは、生成水による流路の閉塞が防止できる。
【0014】
前記(2)記載の発明に係る上下一対の圧下ロールの回転同期手段の機構の1例を図6に示す。
バックラッシを抑え、高精度に加工された歯車6を用いて回転を同期させることにより、上下圧下ロール2a、2b表面の凹凸形状のずれを防止し、せん断変形を与えずに、良好なセパレータ形状が得られる。例では、機械的に同期させる方式であるが、上下圧下ロールの駆動系を、電気的に制御、同期させる方式であってもかまわない。
【0015】
前記(3)記載の発明に係る上下一対の圧下ロールを軸方向に相対変位させない変位調整手段の機構の1例を図7に示す。
この例では、下側圧下ロール2bの両端部に鍔を設けることにより、相対的な滑りを防止できる。鍔は上側圧下ロール2aに設けても良いし、互いに噛み合うように上下圧下ロールに設けても良い。
【0016】
前記(4)記載の発明に係る圧下ロール表面の凹凸形状の例を図8に示す。ロール凹部の断面は、直線状の底部4で形成され(即ち、ロール凹部は、平坦な底部で形成され)、板厚方向に圧下を加えることにより、頂部の平坦な、接触抵抗の少ない(接触面積の大きい)良好なセパレータ形状が得られる。また、端部を直線状の底部で挟み込むことにより、しわの発生が抑制される。
【0017】
前記()記載の発明に係るセパレータ製造装置の例を図9に示す。圧下ロール2a、2bの直近の上流側で、セパレータ1を平滑ロール5a、5bで挟み込むことにより、薄板がロールバイトに進入する際に、板端部から材料を引き込み、皺が発生することを防止する。
【0018】
セパレータ1の凹凸形状が、表裏対称でなく、中立軸が板厚中心からずれている場合、圧下後のセパレータは反りを生じ、燃料電池スタックを構成する際に、シール不良によりガス漏れが発生する場合がある。この場合、前記()記載の発明に係る上下一対のロールの回転速度に適切な差を付ける回転速度調整手段を設けることにより、薄板にせん断変形を与え、成形後の反りを防止することが可能となる。回転速度調整手段として、前記図6の歯車機構の減速比を変える方法、あるいは、上下圧下ロールの駆動系を、電気的に制御する方法等を用いることができる。回転速度に差を付ける場合、周速差0.05%以下、好ましくは0.01%以下とすることにより、良好な溝形状を成形し、かつ成形後の反りを防止することが可能となる。
【0019】
また、前記()記載の発明に係る上下面の潤滑状態に差をつける潤滑状態調整手段を設けることによっても、同様の効果が得られる。潤滑状態調整手段として、上下ロールの表面粗度を変えること、上下面に用いるそれぞれの潤滑油の粘度を変えること、温度を変えること等の手段を用いることができる。潤滑状態に差を付ける場合、摩擦係数の差を一方の20%以下、好ましくは10%以下とすることにより、成形後の反りを防止することが可能となる。
【0020】
【実施例】
直径200mm、長さ300mmの一対の圧下ロール表面に、図10に示すような凹凸パターンを機械加工により形成した。断面形状は図8に示すもので、凸部は曲率半径0.5mmの半円状であり、底部は幅0.5mmの平滑面である。また凹凸部は幅250mm、長さ(弧長)150mmである。図9に示すような装置を用い、板幅290mm、板厚0.1mmのオーステナイト系ステンレス鋼SUS316のコイルから連続的に板を供給し、上下圧下ロールの隙間(ロールギャップ)を0.05mmとして加工を行った。圧下ロールの材質はSKD11とした。また平滑ロールの材質はS45Cとし、直径100mm、長さ300mmの一対とし、圧下ロールの手前250mmに設置した。上下圧下ロールは図6に示す回転同期手段を設け、ロール軸方向に相対変位を発生しないように、下側の圧下ロールに図7に示す鍔を設けた。鍔の形状は上側圧下ロールとの重なり代を10mmとし、厚さ20mmの円盤状とした。また、回転速度調整手段、潤滑状態調整手段は設けずに成形を行った。
【0021】
間欠的に、凹凸形状が破断することなく成形された板は、燃料ガスおよび冷却水等の導入および排出のための穴あけ加工を行った後、所定の長さ毎に切断し、単位セルのセパレータが製造できた。また切断後も、反りやしわの発生は見られず、良好な形状が得られた。
その後、適当な表面処理等を施した後、燃料電池スタックを構成し性能試験を行ったところ、ガス漏れや水漏れも発生せず、本発明の製造方法によるセパレータを用いて燃料電池として良好に機能することが確認された。
【0022】
図11は、幅250mm×長さ150mmの同様の凹凸形状を、通常のプレスで行った場合と本発明とで、荷重を比較した結果を示す。
通常のプレスでは、約5000tonもの荷重が必要であったのに対して、本発明では約40ton程度であり、極めて安価な装置で製造が可能であった。
【0023】
【発明の効果】
本発明は、固体高分子型燃料電池用セパレータとして高耐食ステンレス鋼やチタンのプレス成形加工を可能にするものであり、低コスト固体高分子型燃料電池を実現する技術として極めて有効なものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のセパレータの製造装置の例である。
【図2】 本発明の圧下ロール表面形状の一例を示す模式図である。
【図3】 本発明の圧下ロール表面形状のさらに別の例を示す模式図である。
【図4】 本発明の圧下ロール表面形状のさらにまた別の例を示す模式図である。
【図5】 本発明の圧下ロール表面形状のさらにまた別の例を示す模式図である。
【図6】 本発明の圧下ロールの回転同期手段の例を示す模式図である。
【図7】 本発明の圧下ロールの軸方向変位調節手段の例を示す模式図である。
【図8】 本発明の別の圧下ロール表面形状の例を示す模式図である。
【図9】 本発明のセパレータの別の製造装置の例である。
【図10】 本発明の別の圧下ロール表面形状の例を示す模式図である。
【図11】 本発明と従来技術を用いた場合の荷重を示すグラフである。

Claims (7)

  1. 周辺に平坦部を有し、周辺を除く部分はガス流路となる凸部及び凹部を有する固体高分子型燃料電池用セパレータ製造装置において、前記製造装置を構成する圧下ロールは、前記セパレータの凸部及び凹部の形状と相似形で、かつ上下ロールで同一形状の凹凸加工を表面に施した上下一対の圧下ロールのみを有することを特徴とする固体高分子型燃料電池用セパレータ製造装置。
  2. 上下一対の圧下ロールの回転を同期させる回転同期手段を有することを特徴とする請求項1項記載の固体高分子型燃料電池用セパレータ製造装置。
  3. 上下一対の圧下ロールは、軸方向に相対変位を発生させないように変位調整手段を有することを特徴とする請求項1又は2項記載の固体高分子型燃料電池用セパレータ製造装置。
  4. 前記圧下ロールの凹部は、平坦な底部で形成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の固体高分子型燃料電池用セパレータ製造装置。
  5. 前記圧下ロールの直近の上流側に、セパレータを挟む上下一対の平滑ロールを有することを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の固体高分子型燃料電池用セパレータ製造装置。
  6. 上下一対の圧下ロールの回転速度に差を付ける回転速度調整手段を有することを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の固体高分子型燃料電池用セパレータ製造装置。
  7. 上下面の潤滑状態に差を付ける潤滑状態調整手段を前記上下圧下ロールの少なくとも一方に有することを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の固体高分子型燃料電池用セパレータ製造装置。
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