この種の光走査装置においては、反射ミラー部の振動周波数が、その反射ミラー部からの反射光の走査周波数を意味し、反射ミラー部の揺動角が反射光の走査角を意味する。この種の光走査装置においては、走査角の増加と走査周波数の増加とが背反する関係にあるが、走査角を確保しつつ、走査周波数をできる限り増加させることが強く要望される場合がある。
一方、この種の光走査装置においては、弾性変形部の幾何学的特徴(例えば、寸法、配向、周辺要素との相対位置関係等)を変化させると、弾性変形部の振動特性(例えば、振動し易さ、耐久性等)も変化する。
以上説明した事情を背景として、本発明は、反射ミラー部を有する振動体の少なくとも一部を振動させることにより、反射ミラー部に入射した光の反射方向を変化させて光を走査する光走査装置において、振動体のうちの弾性変形部の幾何学的特徴を改良することを課題としてなされたものである。
本発明によって下記の各態様が得られる。各態様は、項に区分し、各項には番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、本発明が採用し得る技術的特徴の一部およびそれの組合せの理解を容易にするためであり、本発明が採用し得る技術的特徴およびそれの組合せが以下の態様に限定されると解釈されるべきではない。すなわち、下記の態様には記載されていないが本明細書には記載されている技術的特徴を本発明の技術的特徴として適宜抽出して採用することは妨げられないと解釈すべきである。
さらに、各項を他の項の番号を引用する形式で記載することが必ずしも、各項に記載の技術的特徴を他の項に記載の技術的特徴から分離させて独立させることを妨げることを意味するわけではなく、各項に記載の技術的特徴をその性質に応じて適宜独立させることが可能であると解釈されるべきである。
(1)反射ミラー部を有する振動体の少なくとも一部を振動させることにより、前記反射ミラー部に入射した光の反射方向を変化させて光を走査する光走査装置であって、前記振動体は、前記反射ミラー部に連結され、ねじり振動が発生させられる第1のばね部と、その第1のばね部に連結され、かつ、前記振動体の固定枠部に前記第1のばね部の幅より広い分岐間隔で分岐して連結され、かつ、曲げ振動とねじり振動とが発生させられる複数の第2のばね部と、それら複数の第2のばね部をそれぞれ振動させる複数の駆動源とを含み、前記駆動源の変位が前記第2のばね部を構成する板材の板厚方向に対しての曲げ振動となり、前記第2のばね部の前記第1のばね部に連結される部分でその曲げ振動がねじり振動として第1のばね部に伝達され、前記振動体のうち、互いに対応する各第2のばね部と各駆動源とで構成される弾性変形部における断面2次モーメントが前記第1のばね部の断面2次モーメントより小さい光走査装置。
この装置においては、振動体が、反射ミラー部と固定枠部とが第1のばね部のみによって互いに連結されるのではなく、第1のばね部とそれから分岐して延びる複数の第2のばね部とによって互いに連結される。
さらに、この装置においては、それら複数の第2のばね部が、第1のばね部の幅より広い間隔で第1のばね部から分岐する状態でその第1のばね部に連結される。これにより、振動体のうちの弾性変形部に相当する複数の第2のばね部の幾何学的特徴が、同じ振動体のうちの他の部分に該当する第1のばね部との関係において適正化される。
さらにまた、この装置においては、それら複数の第2のばね部に、ねじり振動のみならず曲げ振動も発生させられる。すなわち、それら複数の第2のばね部は、形状変化に関する自由度が高い状態で弾性変形させられるのである。
したがって、この装置によれば、反射ミラー部と固定枠部との連結が第1のばね部のみによって行われる場合に比較し、反射ミラー部を振動させるために必要な負荷を第1のばね部と複数の第2のばね部とに分散させることが容易となる。
その結果、この装置によれば、反射ミラー部を振動させるために第1のばね部が受けなければならない負荷を軽減することが容易となる。例えば、第1のばね部のねじりを減少させたり、第1のばね部の、他の部分との連結部における応力集中を緩和することが容易となる。
さらに、この装置によれば、反射ミラー部を振動させるために各第2のばね部が受けなければならない負荷を軽減することが容易となる。例えば、各第2のばね部のねじりを減少させたり、各第2のばね部の、第1のばね部との連結部および固定枠部との連結部における応力集中を緩和することが容易となる。
よって、この装置によれば、反射ミラー部と固定枠部との連結が第1のばね部のみによって行われる場合に比較し、反射ミラー部の振動の程度の割に小さな負荷に第1のばね部および複数の第2のばね部がそれぞれ耐えれば足りる。
その結果、この装置によれば、反射光の走査角の増加と走査周波数の増加との両立の如き、反射ミラー部の振動に対する高度な要望を、振動体の高い耐久性のもとに実現することが容易となる。
さらに、この装置においては、振動体のうち、互いに対応する各第2のばね部と各駆動源とで構成される弾性変形部と、第1のばね部とが断面2次モーメントに関して互いに異ならせられている。具体的には、その弾性変形部の断面2次モーメントが、第1のばね部の断面2次モーメントより小さいものとされている。
一般に、ある部材の断面2次モーメントが小さいほど、その部材の曲げ剛性もねじり剛性も低下する傾向があるため、その部材への同じ入力に応答するその部材の弾性変形量が増加する傾向がある。
したがって、この光走査装置によれば、弾性変形部の断面2次モーメントが第1のばね部の断面2次モーメント以上である場合に比較し、弾性変形部が弾性変形し易くなり、よって、反射ミラー部の走査角を増加させることが容易となる。これにより、振動体のうちの弾性変形部に相当する複数の第2のばね部の幾何学的特徴が、同じ振動体のうちの他の部分に該当する第1のばね部との関係において適正化される。この光走査装置によれば、例えば、消費電力の割に大きな走査角を実現することが容易となる。
本項および下記の各項における「分岐間隔」は、例えば、図14において「L2」で示すように、複数の第2のばね部の外縁同士の間隔を意味するように解釈することが可能である。さらに、図示しないが、複数の第2のばね部をそれぞれ長手方向に貫通する複数の中心線間の間隔を意味するように解釈することも可能である。さらに、図示しないが、複数の第2のばね部の内縁同士の間隔を意味するように解釈することが可能である。
(2)反射ミラー部を有する振動体の少なくとも一部を振動させることにより、前記反射ミラー部に入射した光の反射方向を変化させて光を走査する光走査装置であって、前記振動体は、前記反射ミラー部に連結され、ねじり振動が発生させられる第1のばね部と、その第1のばね部に連結され、かつ、前記振動体の固定枠部に前記第1のばね部の幅より広い分岐間隔で分岐して連結され、かつ、曲げ振動とねじり振動とが発生させられる複数の第2のばね部とを含み、前記各第2のばね部は、前記第1のばね部と同じ弾性係数を有する一方、その第1のばね部より弾性変形し易い断面形状を有し、当該光走査装置は、さらに、前記複数の第2のばね部を振動させる駆動源を含み、前記駆動源の変位が前記第2のばね部を構成する板材の板厚方向に対しての曲げ振動となり、前記第2のばね部の前記第1のばね部に連結される部分でその曲げ振動がねじり振動として第1のばね部に伝達されることを特徴とする光走査装置。
この装置においては、各第2のばね部が、第1のばね部と同じ弾性係数を有する一方、その第1のばね部より弾性変形し易い断面形状を有するものとされている。したがって、この装置においては、各第2のばね部が、第1のばね部より弾性変形し易い機械的性質を有するものとなっている。
よって、この装置によれば、前記(1)項に係る装置と基本的に共通する原理に従い、第2のばね部が第1のばね部より弾性変形し易くない機械的性質を有する場合に比較し、第2のばね部が弾性変形し易くなり、よって、反射ミラー部の走査角を増加させることが容易となる。この光走査装置によれば、例えば、消費電力の割に大きな走査角を実現することが容易となる。
(3)前記分岐間隔は、前記反射ミラー部の幅を超えない(1)または(2)項に記載の光走査装置。
特開平10−104543号公報には、共振現象を利用して反射ミラー部を振動させる共振型の光走査装置の従来例が記載されている。この従来例は、可動部と固定部とそれらを互いに連結するはり部とを含むように構成された振動体を備えている。可動部にはミラー面が形成されている。一方、固定部には圧電素子が装着されており、その圧電素子によって振動体が加振されると、可動部と共にミラー面が振動させられ、それにより、そのミラー面からの反射光が走査される。
この従来例においては、振動体の共振振動モードの周波数でその振動体が加振されることにより、ミラー面が揺動させられる。さらに、この従来例においては、ミラー面からの反射光を高速で走査するため、振動体の共振振動モードのうち高次のものを利用してその振動体が振動させられるようになっている。
しかしながら、この従来例においては、振動体の高次の振動モードが利用されるため、振動体の振動周波数が高く設定される。そのため、高速での光走査は可能であるが、不要な高次の振動モードの重なり、外乱の進入等の理由により、安定した光走査が困難であった。
さらに、この従来例においては、振動体の高次の振動モードが利用されるため、振動体の振幅を確保するために弾性変形部としてのばね部の剛性を低下させることが必要であった。そのため、振動体が破損し易いという傾向があった。
一方、共振型の光走査装置においては、それの反射ミラー部からの反射光すなわち走査光の直進性を安定化させることが重要である。
これに対し、文献「2次元マイクロ磁気スキャナの実用化に関する考察((社)日本応用磁気学会 第117回研究会「薄膜アクチュエータの応用と新展開」−磁気工学における将来展望−上田譲、浅田規裕著 平成13年12月22日 資料 p.39−44)」には、両持ちはりで支持された振動体に反射ミラーが形成されたマイクロ磁気スキャナにおいて、高速かつ大振幅の光走査を実用化するための従来技術が記載されている。
この従来技術によれば、振動体のねじり共振モードの共振周波数が、その他の振動モード(例えば、垂直並進共振モード、水平並進共振モード、回転共振モード、傾斜共振モード等)の共振周波数より低下させられる。
しかしながら、この従来技術に従い、走査光の直進性を安定化させるため、ねじり共振モードの共振周波数をその他の振動モードの共振周波数より低下させると、ねじり共振周波数が低下してしまう。そのため、この従来技術を採用する場合には、高速な光走査を実現することは困難である。
本発明者らは、走査光の直進性を向上させることを目的とし、後に詳述する数値解析を行うなどして、種々の研究を行った。その結果、本発明者らは、次の知見を得た。
すなわち、光走査装置を、前記(1)または(2)項における振動体の構成を採用したうえで、複数の第2のばね部の分岐間隔を反射ミラー部の幅を超えないように設定すれば、振動体に発生し得る複数種類の振動モードのうち、必要な振動モードであるねじり振動モードの固有振動数より低い周波数範囲内において、不要な振動モードである垂直振動モードあるいは水平振動モードのうち高次のものの発生が抑制されるという知見を得たのである。
このように分岐間隔を設定すれば、ねじり振動モードの固有振動数が、他の振動モードの固有振動数から大きく隔たることになるため、振動体のねじり共振時に、その振動体に振動モードの重なりが発生せず、走査光の直進性が向上する。
さらに、このように分岐間隔を設定すれば、振動体を高周波かつ大走査角で振動させる際に、不要な振動モードの発生あるいは必要な振動モードと不要な振動モードとの重なりが原因で振動体が破損してしまう可能性が軽減される。
以上説明した知見に基づき、本項に係る光走査装置においては、前記(1)または(2)項における振動体の構成が採用されたうえで、複数の第2のばね部の分岐間隔が反射ミラー部の幅を超えないようにされている。
(4)前記複数の第2のばね部は、各板厚方向に対して平行な面内における曲げ振動が発生させられる(1)ないし(3)項のいずれかに記載の光走査装置。
(5)前記複数の第2のばね部は、互いに逆位相で曲げ振動が発生させられる(4)項に記載の光走査装置。
この装置によれば、複数の第2のばね部に各曲げ振動が、各曲げ振動から変換される第1のばね部のねじり振動を互いに強め合う状態で発生させられるため、反射ミラー部の振れ角すなわち走査角を増加させることが容易となる。
(6)前記複数の第2のばね部は、機械的な力により、互いに逆位相で曲げ振動が発生させられる(5)項に記載の光走査装置。
(7)前記駆動源は、前記複数の第2のばね部のうちの少なくとも一方である対象ばね部に装着される(6)項に記載の光走査装置。
(8)前記駆動源は、前記対象ばね部の両面のうちの少なくとも一方である対象面に固着される(7)項に記載の光走査装置。
(9)前記駆動源は、前記対象面と、前記固定枠部のうち前記対象ばね部と隣接した部分の両面のうち前記対象面に対応するものとに跨る姿勢で前記対象面に固着される(8)項に記載の光走査装置。
前記(8)項に係る装置は、駆動源が対象面に、固定枠部には及ばない姿勢で固着される態様で実施することが可能である。しかし、この態様を採用する場合には、第2のばね部と固定枠部との連結点に振動の節が安定的に位置する状態で振動体が振動させられるとは限らない。
これに対し、本項に係る装置においては、駆動源が対象面に、固定枠部に及ぶ姿勢で固着される。したがって、この装置によれば、第2のばね部と固定枠部との連結点に振動体の振動の節が安定的に位置する状態で振動体が振動させられることになる。
よって、この装置によれば、振動体の振動の節が、第2のばね部と固定枠部との連結点より、第2のばね部の側にずれた位置に位置する状態で振動体が振動させられる場合とは異なり、振動体の振動状態が安定する。
さらに、この装置によれば、第2のばね部の全体が、曲げ変形およびねじり変形の発生に関与し得ることとなる。したがって、この装置によれば、第2のばね部の全体を有効に利用することにより、駆動源の振動を第2のばね部に効率よく伝達することが容易となる。よって、この装置によれば、同じ駆動源の振動によって大きな走査角を実現することが容易となる。
なお付言するに、本項に記載の技術的特徴、すなわち、振動の節に位置的に一致するように駆動源を配置するという特徴は、先行する他の項に記載の技術的特徴から分離して実施することが可能である。
(10)前記駆動源は、薄膜形成法により、前記対象面に固着される(8)または(9)項に記載の光走査装置。
この装置によれば、駆動源を対象面に、接着剤を用いずに装着することが可能となる。よって、この装置によれば、駆動源を対象面に、接着層を介在させることなく、一体的にかつ強固に装着することが可能となる。
したがって、この装置によれば、駆動源と対象面との間に接着層が介在することから派生するずれや剥離という問題を心配せずに済み、振動体の振動を安定化させることが容易となる。
(11)前記薄膜形成法は、CVDと、スパッタリングと、水熱合成と、ゾルゲルと、微粒子吹き付けとのいずれかである(10)項に記載の光走査装置。
ここに、「CVD」は、よく知られているように、ガス−固体またはガス−液体の化学反応によって基板の表面に層または膜を被着させる化学気相成長技術である。スパッタリングは、真空中の放電により、基板の表面に層または膜を被着させる技術である。水熱合成は、高温高圧で水溶液中のイオンを結晶析出させて被膜を作製する技術である。微粒子吹き付けは、ガスと混合された超微粒子を、細いノズルを通して、基板上に加速して吹き付けて被膜を形成する技術である。
(12)前記駆動源は、前記対象ばね部に沿って延び、かつ、その延びる方向に伸縮させられる(7)ないし(11)項のいずれかに記載の光走査装置。
(13)前記駆動源は、前記振動体を直接的に加振する(2)項に記載の光走査装置。
(14)前記駆動源は、前記振動体を間接的に加振する(2)項に記載の光走査装置。
(15)前記駆動源は、前記振動体をその共振周波数と同じ周波数で加振する(1)ないし(14)項のいずれかに記載の光走査装置。
この装置によれば、振動体が共振状態にあることによって振動的に安定した状態においてその振動体が揺動させられるため、安定した光走査を行うことが容易となる。
(16)前記反射ミラー部は、前記ねじり振動により、揺動軸線まわりに揺動させられ、
前記振動体は、さらに、前記第1のばね部と、前記複数の第2のばね部とを互いに連結する連結部を含み、それら第1のばね部と複数の第2のばね部と連結部とが連結体を構成し、
その連結体は、前記振動体に、前記反射ミラー部を隔てて前記揺動軸線の方向において互いに対向する2個の対向位置にそれぞれ配置される(1)ないし(15)項のいずれかに記載の光走査装置。
この装置によれば、反射ミラー部を隔てて互いに対向する2個の連結体により、反射ミラー部がそれの両側において加振されるため、一側においてのみ反射ミラー部が加振される場合より、反射ミラー部の反射面の角度を安定化させることが容易となる。
なお付言するに、本項および下記の各項における「連結部」は、例えば、その連結部が属する連結体における第2のばね部の一部を構成するものとして定義することも、その連結部が属する連結体における第1のばね部の一部を構成するものとして定義することも可能である。
さらに付言するに、本項に記載の技術的特徴、すなわち、ばね部の対向配置は、先行する他の項に記載の技術的特徴から分離して実施することが可能である。
(17)前記2個の対向位置にそれぞれ配置された2個の連結体は、前記反射ミラー部の位置に関して互いに対称的に配置される(16)項に記載の光走査装置。
(18)前記振動体は、さらに、前記第1のばね部と、前記複数の第2のばね部とを互いに連結する連結部を含み、前記駆動源は、その連結部に装着されない(1)ないし(17)項のいずれかに記載の光走査装置。
この装置においては、第2のばね部の曲げ振動およびねじり振動が、連結部を経て、第1のばね部にねじり振動として伝達される。連結部はその弾性変形により、その振動伝達機能を果す。この装置においては、そのような振動伝達機能を果たす連結部に駆動源が装着されないようになっている。
したがって、この装置よれば、駆動源が連結部に装着される場合に比較し、駆動源が連結部の弾性変形を阻害してしまう可能性が軽減される。よって、この装置によれば、反射ミラー部の走査角が犠牲になってしまう位置に駆動源が配置されずに済む。
(19)前記振動体は、さらに、前記第1のばね部と、前記複数の第2のばね部とを互いに連結する連結部を含み、その連結部は、前記第1のばね部と、前記複数の第2のばね部とにそれぞれ実質的に直角に連結される(1)ないし(18)項のいずれかに記載の光走査装置。
この装置によれば、連結部が第1のばね部と各第2のばね部とにそれぞれ斜めに連結される場合と比較し、例えば、振動体に所期の振動特性を与えるための設計が複雑にならずに済む。
一方、各第2のばね部の変形のうち曲げ変形のみに着目すると、各第2のばね部と連結部とが互いに直角に連結される状態から、それらが互いに直列に連結される状態に移行するにつれて、各第2のばね部の曲げ変形が、連結部の伸縮に依存する傾向が増加するために、連結部によって阻害される傾向が増加する。
これに対し、本項に係る装置によれば、各第2のばね部と連結部とが互いに実質的に直角に連結されるため、各第2のばね部の変形のうち曲げ変形が連結部によって阻害されずに済む。
なお付言するに、本項に記載の技術的特徴、すなわち、ばね部同士の直交配置は、先行する他の項に記載の技術的特徴から分離して実施することが可能である。
(20)光束の走査によって画像を形成する画像形成装置であって、
前記光束を出射する光源と、
(1)ないし(19)項のいずれかに記載の光走査装置を有し、その光走査装置を使用することにより、前記光源から出射した光束を走査する走査部と
を含む画像形成装置。
この画像形成装置においては、高い走査周波数と大きな走査角との両立を容易に図り得る光走査装置を使用することにより、画像を形成するための光束の走査が行われる。
(21)前記走査部は、前記光束を第1方向に走査する第1走査と、その第1方向と交差する第2方向に前記第1走査より低速で走査する第2走査とを行うものであり、前記光走査装置は、前記第1走査を行うために使用される(20)項に記載の画像形成装置。
この画像形成装置においては、走査部により行われる2種類の走査のうち、より速い走査速度が要求される方が、上記光走査装置を使用して行われる。したがって、この画像形成装置によれば、2種類の走査のうち性能向上のために上記光走査装置を使用することがより適切なものが選択され、その選択された種類の走査に上記光走査装置が使用される。
(22)さらに、前記走査部によって走査された光束を観察者の網膜に向かって誘導する光学系を含む(20)または(21)項に記載の画像形成装置。
以下、本発明のさらに具体的な実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明する。
図1には、本発明の第1実施形態に従う光走査装置1を備えた網膜走査型の画像形成装置100が全体的には系統的に示され、部分的にはブロック図で示されている。
図1に示すように、光走査装置1を備えた画像形成装置100は、観察者の網膜上に直接画像を投影するように構成されており、観察者の頭部に装着して使用される型式のディスプレイ装置である。
図1に示すように、画像形成装置100は、光源ユニット部101と、走査部としての垂直走査系102および水平走査系103を備えている。画像形成装置100は、さらに、リレー光学系126,127と、コリメトリーレンズ122と、ビームディテクタ123(これは光センサの一例である。)とを備えている。
図1に示すように、光源ユニット部101は、映像信号供給回路104と、その映像信号供給回路104に接続された光源ドライブ回路105と、その光源ドライブ回路108により駆動される光源106とを備えている。光源ユニット部101は、さらに、コリメート光学系107と、ダイクロイックミラー115,115,115と、結合光学系116と、BD信号検出回路118とを備えている。結合光学系116とコリメトリーレンズ122とは、光ファイバ117により光学的に互いに接続されている。
図1に示すように、映像信号供給回路104には、光源ドライブ回路105を互いに共同して構成する青色レーザドライバ108、緑色レーザドライバ109および赤色レーザドライバ110が接続されている。映像信号供給回路104は、入力された映像信号に基づいて各色の駆動信号をそれらドライバ108,110,112に対して供給する。
図1に示すように、映像信号供給回路104は、水平走査系103の水平走査駆動回路121と、垂直走査系102の垂直走査駆動回路124とにも接続されており、走査動作の同期に必要な水平同期信号119および垂直同期信号120をそれぞれ、対応する駆動回路121,124に供給する。
図1に示すように、映像信号供給回路104は、BD信号検出回路118に接続され、そのBD信号検出回路118には、光走査装置1の走査光を検出するビームディテクタ123が接続されている。
走査光がビームディテクタ123に入射すると、そのことを示すBD信号がビームディテクタ123から出力される。その出力されたBD信号は、BD信号検出回路118に入力される。映像信号供給回路104は、そのBD信号検出回路118から入力されたBD信号を利用することにより、形成すべき画像の1フレームを構成する複数本のラインの1ラインごとに、そのフレームを形成するために各色の駆動信号を各ドライバ108,109,110に出力すべきタイミングを決定する。
青色レーザドライバ108、緑色レーザドライバ109および赤色レーザドライバ110はそれぞれ、映像信号供給回路104から供給される各色の駆動信号に基づき、各色のレーザ光の強度を変調するための駆動信号を青色レーザ111、緑色レーザ112および赤色レーザ113に供給し、それにより、各レーザ111,112,113を駆動する。青色レーザ111、緑色レーザ112および赤色レーザ113はそれぞれ、青色レーザドライバ108、緑色レーザドライバ109および赤色レーザドライバ110からの各駆動信号に基づき、青色、緑色および赤色の各波長に対応するレーザ光であって強度が変調されたものをレーザ光(レーザビーム)として発生させる。
図1に示すように、コリメート光学系107には、コリメートレンズ114,114,114が設けられている。それらコリメートレンズ114,114,114はそれぞれ、青色レーザ111、緑色レーザ112および赤色レーザ113から拡散的に放射された3色のレーザ光を平行光に変換してダイクロイックミラー115,115,115に入射させる。それらダイクロイックミラー115,115,115は、3色のレーザ光を合成し、その合成されたレーザ光は結合光学系116に入射する。
結合光学系116に入射したレーザ光は、光ファイバ117を経由してコリメートレンズ122に入射する。光ファイバ117の末端から拡散的に放射されたレーザ光は、コリメートレンズ122によって平行光に変換される。その平行光化されたレーザ光は、水平走査系103に水平走査装置として設けられた光走査装置1の反射ミラー8に入射する。
光走査装置1は、反射ミラー8に入射したレーザ光の反射方向を変化させてレーザ光を水平方向に走査するために利用される。光走査装置1においては、その水平走査のため、映像信号供給回路104から供給される水平同期信号119に基づいて水平走査駆動回路121が制御され、その水平走査駆動回路121によって反射ミラー8が振動させられる。その振動によって光走査装置1によって走査されたレーザ光は、リレー光学系126を経由して、垂直走査系102の反射ミラー部125に導かれる。
垂直走査系102は、映像信号供給回路104から供給される垂直同期信号120に基づいて制御される垂直走査駆動回路124を備えている。その垂直走査駆動回路124は、図示しないアクチュエータを駆動して反射ミラー部125を図1において矢印で示す方向に揺動(回転振動)させる。これにより、反射ミラー部125に入射したレーザ光の反射方向が変化させられてその反射レーザ光が垂直方向に走査される。
すなわち、本実施形態においては、水平走査系103の光走査装置1と垂直走査系102の反射ミラー部125との共同作用により、レーザ光が2次元的に走査されることになるのである。このようにして走査されたレーザ光は、リレー光学系127により整形されて観察者の瞳孔に入射し、網膜上に直接画像として投影される。
図2には、水平走査系103の水平走査駆動回路121の詳細がブロック図で示されている。水平走査駆動回路121は、発振器121aと、位相反転回路121bと、位相シフタ121c,121dと、アンプ121e,121fとを備えている。
発振器121aには、図1に示す映像信号供給回路104から水平同期信号119が供給される。その水平同期信号119に基づき、発振器121aは正弦波信号を生成し、その生成された正弦波は、位相反転回路121bと位相シフタ121cとにそれぞれ入力される。
水平同期信号119が入力された位相シフタ121cは、映像信号供給回路104の画像信号と光走査装置1の反射ミラー部125との位相を調整するための信号を生成する。その生成された信号がアンプ121eによって増幅されることにより、光走査装置1に設けられた駆動源aおよびbにそれぞれ駆動電圧が供給される。
一方、同じ水平同期信号119が発振器121aから入力された位相反転回路121bは、その入力された水平同期信号119の位相を反転させた反転信号を位相シフタ121dを経てアンプ121fに供給する。それら位相シフタ121dおよびアンプ121fは、上記の場合と同様にして動作する結果、上記反転信号を反映する駆動電圧が、光走査装置1に設けられた駆動源cおよびdにそれぞれ供給される。
本実施形態においては、駆動源aおよびbから成る第1組と、駆動源cおよびdから成る第2組とが、互いに逆位相で駆動されることにより、各駆動源a,b,c,dの各瞬間における変位方向が、それら2組間で互いに逆向きとなる。本実施形態においては、後述のように、それら第1組と第2組とが、反射ミラー8の揺動中心線を隔てて互いに対向するように光走査装置1に配置される。したがって、それら2組が互いに逆位相で駆動されることにより、反射ミラー8がねじり振動によって揺動させられ、その結果、反射ミラー8から反射するレーザ光が水平方向に走査される。
このようにして走査されたレーザ光は、前述のように、リレー光学系126を経由して垂直光走査系102の反射ミラー部125に導かれる。
ここで、図3ないし図5を参照することにより、画像形成装置100に使用される光走査装置1を詳細に説明する。図3は、光走査装置1の組付状態での斜視図であり、図4は、光走査装置1の分解斜視図であり、図5は、光走査装置1の反射ミラー8の表面の状態を説明するための斜視図である。
図3および図4に示すように、光走査装置1は、略直方体のベース台2を備えており、そのベース台2には凹部2aがベース台2の上面中央部に開口する状態で形成されている。そのベース台2の上面に振動体5が固着される。
振動体5は、固定枠部7を備えており、その固定枠部7はベース台2の上面に支持される。具体的には、固定枠部7は、ベース台2のうち凹部2aの周囲に形成された支持部3に支持される。支持部3の上面は、振動体5の固定枠部7と略同一の幅で延びる平面として形成され、かつ、その上面の中央部は空洞とされている。その結果、支持部3には、矩形状の中空枠であって固定枠部7に近似するものが形成されている。
ベース台2の上面に開口する凹部2aがベース台2に形成されているため、振動体5に形成された反射ミラー8の揺動時(振動時)に反射ミラー8がベース台2に干渉せずに済む。ベース台2は、微細な大きさを有するように形成されており、凹部2aは、例えばエッチングにより形成される。
ここで、図3および図4を参照することにより、振動体5を詳細に説明する。
振動体5は、平面視で略長方形を成す薄くて小さなシリコン板を基材として形成されている。振動体5の製造方法については後に詳述する。
そのシリコン板に振動体5の複数の構成要素が形成される。それら構成要素には、反射ミラー8と、その反射ミラー8に連結される第1のばね部9,10と、第1のばね部9に接続される第2のばね部12,13と、第1のばね部10に接続される第2のばね部15,16と、第2のばね部12,13,15,16が接続される固定枠部7とがある。
それら構成要素はエッチングによりシリコン板上に形成される。本実施形態においては、それら構成要素が一体的に形成されることにより、振動体5が構成されている。
図3および図4に示すように、反射ミラー8は、長方形または正方形を成して、振動体5の略中央部に配置されている。この反射ミラー8は、図3および図4において横方向に延びる揺動軸線まわりに揺動させられることにより、その反射ミラー8に入射した光の反射方向を変化させる。
振動体5においては、反射ミラー8の一側には、第1のばね部9から2本の第2のばね部12,13が互いに並列に分岐するように第1のばね部9と2本の第2のばね部12,13とが互いに連結されて成る第1連結体が配置されている。同様にして、反射ミラー8の他側には、第1のばね部10から2本の第2のばね部15,16が互いに並列に分岐するように第1のばね部10と2本の第2のばね部15,16とが互いに連結されて成る第2連結体が配置されている。それら第1および第2連結体は、反射ミラー8に関して互いに対称となる相対位置関係を有するように配置されている。
第1連結体においては、2本の第2のばね部12,13が、共に反射ミラー8の一側に位置して、揺動軸線を隔てて互いに対向し、同様に、第2連結体においては、2本の第2のばね部15,16が、共に反射ミラー8の他側に位置して、揺動軸線を隔てて互いに対向している。第1連結体に属する2本の第2のばね部12,13に駆動源a,bがそれぞれ固着される一方、第2連結体に属する2本の第2のばね部15,16に駆動源c,dがそれぞれ固着されている。
図5に示すように、反射ミラー8の表面には光反射膜8aが形成されており、高い反射効率が実現されている。光走査のために反射ミラー8を動作する際の振動周波数すなわち動作振動周波数は、反射ミラー8の共振周波数とほぼ等しくなるように設定することが反射ミラー8の振動状態を安定化させるために望ましい。
図3および図4に示すように、第1のばね部9,10および第2のばね部12,13,15,16は、固定枠部7の略中央部に配置された反射ミラー8をねじり振動可能に支持するものである。
具体的には、前述の説明から明らかなように、第1のばね部9,10はそれぞれ、一端部において反射ミラー8の両側縁の幅方向中央位置に連結され、揺動軸線まわりにねじり振動(ねじり変形の反復)させられる。
第2のばね部12,13,15,16は、それぞれの中心線(長手軸線)まわりにねじり振動(ねじり変形の反復)させられると同時に、各板面に直角な面内において曲げ振動(曲げ変形の反復)させられるように、形状、配向等、幾何学的特徴が予め設定されている。
2本の第2のばね部12,13は、共に、第1のばね部9の他端部に連結され、その第1のばね部9の幅より広い間隔でその第1のばね部9から分岐させられている。それら2本の第2のばね部12,13は、図3および図4から明らかなように、第1のばね部9の幅より広い隙間であって揺動軸線に沿って延びるものを隔てて互いに対向している。それら2本の第2のばね部12,13は、共に、それらの一端部において第1のばね部9の他端部に連結される一方、それらの他端部において固定枠部7に連結されている。
同様にして、2本の第2のばね部15,16は、共に、第1のばね部10の他端部に連結され、その第1のばね部10の幅より広い間隔でその第1のばね部10から分岐させられている。それら2本の第2のばね部15,16は、図3および図4から明らかなように、第1のばね部10の幅より広い隙間であって揺動軸線に沿って延びるものを隔てて互いに対向している。それら2本の第2のばね部15,16は、共に、それらの一端部において第1のばね部10の他端部に連結される一方、それらの他端部において固定枠部7に連結されている。
以上要するに、本実施形態においては、第1のばね部9,10が反射ミラー8をそれの両側において直接に支持する一方、第2のばね部12,13は第1のばね部9を介して、第2のばね部15,16は第1のばね部10を介して間接に反射ミラー8を支持しているのである。
上述のように、2本の第2のばね部12,13は、第1のばね部9の幅より広い間隔でその第1のばね部9から分岐させられ、同様にして、2本の第2のばね部15,16は、第1のばね部10の幅より広い間隔でその第1のばね部10から分岐させられている。
ここに、各第1のばね部9,10の幅寸法をW、第1組の第2のばね部12,13と第2組の第2のばね部15,16とのそれぞれの分岐間隔をDでそれぞれ表記する。さらに、分岐間隔Dを、図24におけるL2と同様に、第1組の第2のばね部12,13と第2組の第2のばね部15,16とのそれぞれの外縁同士の間隔を意味するように定義する。この定義によれば、分岐間隔Dは、幅Wの約10倍としたり(図24に示す振動体5の場合)、約9ないし11倍の範囲内の値としたり、約8ないし12倍の範囲内の値としたり、約2ないし15倍の範囲内の値とすることが望ましい。
図3および図4に示すように、第2のばね部12,13は、平面視でL状または逆L字状を成すように形成されており、各一端部は、第1のばね部9に略垂直に連結され、一方、各他端部は、固定枠部7に略垂直に連結されている。同様に、第2のばね部15,16は、平面視でL状または逆L字状を成すように形成されており、各一端部は、第1のばね部10に略垂直に連結され、一方、各他端部は、固定枠部7に略垂直に連結されている。
本実施形態においては、前述のように、1本の第1のばね部9に2本の第2のばね部12,13が一体的に連結され、同様に、1本の第1のばね部10に2本の第2のばね部15,16が一体的に連結されている。そして、第1のばね部9,10は、反射ミラー8の重心を通る直線(前述の揺動軸線)上に配置され、第2のばね部12,13はその直線を中心として対称となるように配置されている。また、第2のばね部15,16もその直線を中心として対称となるように配置されている。
したがって、本実施形態によれば、第1のばね部9,10および第2のばね部12,13,15,16が上記のように構成されることにより、光走査のために反射ミラー8がねじり振動させられる場合に、振動体5に発生する応力をその全体に分散させて、例えば、第2のばね部12,13,15,16と固定枠部7との連結点に発生する応力を緩和することが容易となる。
よって、本実施形態によれば、ばね部9,10,12,13,15,16がそれ発生する応力に耐えるためにばね部9,10,12,13,15,16を徒に太くしたり長くしたりしなくても、反射ミラー8の共振周波数すなわち走査周波数を確保しながら十分に大きなねじり角すなわち走査角を得ることが容易となる。
その結果、本実施形態によれば、光走査装置1ひいてはそれが搭載された画像形成装置100の小型化を図りつつ、走査周波数の増加と走査角の増加との両立を図ることが容易となる。
さらに、本実施形態によれば、ばね部9,10,12,13,15,16の大型化を抑制しつつ所期の目的を達成することが可能となるため、ばね部9,10,12,13,15,16の大型化に起因した不要振動モードの発生、すなわち、反射ミラー8にねじり振動モード以外の振動モードが発生することを回避することが容易となる。
なお付言するに、本実施形態においては、振動体5における前述の第1および第2連結体がそれぞれ、1本の第1ばね部と、2本の第2のばね部とにより構成されるが、各第2のばね部は、本来の第2のばね部と、その本来の第2のばね部を第1のばね部に連結させる連結部とが一体的に形成されて構成されると考えることが可能である。
後者の観点を採用すれば、図3においては、例えば、第2のばね部12を構成するために互いに直交する第1および第2の直線部のうち、第1のばね部9に直角に連結される第1の直線部が、上述の連結部の一例を構成することになる。この第1の連結部は、第1のばね部9にも、第2のばね部12のうちの第2の直線部にも直角に連結されている。
さらに、本実施形態においては、いずれの第2のばね部12,13,15,16にも、各駆動源a,b,c,dが、第1の直線部に及ばない姿勢で装着されており、それにより、第1の直線部のねじり振動および曲げ振動が駆動源a,b,c,dによって阻害されることが回避されている。
図4に示すように、固定枠部7は、反射ミラー8に連結された第1のばね部9,10に接続された第2のばね部12,13,15,16を支持する機能と、振動体5をベース台2に固着する機能とを有するものである。具体的には、固定枠部7は、それの下面においてベース台2の支持部3に固着されている。
ここで、振動体5の製造方法を詳細に説明する。
上記のような構造を有する振動体5を製造するためには、例えば、シリコンウエハ上に固定枠部7、反射ミラー8、第1のばね部9,10および第2のばね部12,13,15,16から成る振動体5のパターンを形成し、これをエッチングすることにより、それらを一体形成する。その後、図5に示すように、反射ミラー8となるべき箇所の表面に、金、クロム、白金、アルミ等の材料により反射膜8aを形成すれば、振動体5が完成する。この製造方法によれば、同じ仕様の振動体5を複数同時に製造することができる。
次に、図3、図4、図6および図7を参照することにより、駆動源a,b,c,dの形成方法を詳細に説明する。図6は、振動体5を幅方向から見た部分側面図であり、図7は、振動体5を幅方向から見て部分的に示すとともに、代表的な駆動源dの構造を詳細に示す部分側面図である。
図3および図4に示すように、駆動源a,b,c,dはそれぞれ、第2のばね部12,13,15,16上に直接に形成されている。
駆動源a,b,c,dは、PZT、ZnO、BST等の圧電体を用いて構成されている。圧電体は、電気−機械変換効率の高い素子であることから、駆動源a,b,c,dに圧電体を用いると、低消費電力化が容易となる。よく知られているように、圧電体に交番電圧が所定周波数で印加されれば、圧電体は、その電圧周波数と同じ周波数で伸縮を繰り返し、その結果、振動する。
PZT、ZnO、BST等の圧電体を用いた駆動源a,b,c,dの形成には、CVD、スパッタリング、水熱合成、ゾルゲル、微粒子吹き付け等の薄膜形成法が用いられ、それにより、駆動源a,b,c,dがそれぞれ第2のばね部12,13,15,16上に直接に形成されている。
本実施形態においては、図3,図4,図6および図7に示すように、駆動源a,b,c,dがそれぞれ、対応する第2のばね部12,13,15,16の上面と固定枠部7の上面とに跨る(及ぶ)姿勢で振動体5に装着されている。具体的には、図6および図7に示すように、代表的な駆動源dが、第2のばね部13と固定枠部7とが互いに隣接する固定端部13aを通過する姿勢で、振動体5に装着されている。
図3および図4に示すように、固定枠部7上には、駆動源aに駆動電圧を入力するための入力端子a1,a2と、駆動源bに駆動電圧を入力するための入力端子b1,b2と、駆動源cに駆動電圧を入力するための入力端子c1,c2と、駆動源dに駆動電圧を入力するための入力端子d1,d2とがそれぞれ金属薄膜により形成されている。
本実施形態においては、振動体5を形成する材料の脆弱性が高くてもそれを薄膜化すれば大変形が可能となるため、振動体5は、駆動源a,b,c,dの厚みと第2のばね部12,13,15,16の厚みを合計値が200μm以下になるように構成されている。
ここで、駆動源a,b,c,dの構造を、駆動源dを例にとり、図7を参照して詳細に説明する。
図7に示すように、駆動源dは、第2のばね部13から固定枠部7に延びるように形成されている。駆動源dは、それの厚さ方向において互いに対向する一対の電極d3,d4によって挟まれており、サンドイッチ構造が形成されている。図7においては、駆動源dの下側には下部電極d4が配置され、上側には上部電極d3が配置されている。
図3、図4および図7に示すように、上部電極d3は、入力端子d2に接続され、図3および図4に示すように、下部電極d4は、入力端子d1に接続されている。
なお付言するに、本実施形態においては、各駆動源a,b,c,dに一対の電極d3,d4が一体的に装着されているため、材料力学的観点からは、一対の電極d3,d4に各駆動源a,b,c,dがサンドイッチされて成る積層体を駆動源として認識してもよい。
次に、第1のばね部9,10の剛性と、第2のばね部12,13,15,16の弾性変形部との剛性との関係を、第1のばね部9と第2のばね部13との組合せを例にとり、図5および図7を参照することにより、説明する。
本実施形態においては、各第2のばね部12,13,15,16の弾性変形部は、主に、各第2のばね部12,13,15,16と、それに固着された駆動源a,b,c,dとの組合体を意味している。また、剛性は、外力に対する変形の抵抗を意味しており、具体的には、第1のばね部9,10の剛性は、ねじり剛性を意味し、弾性変形部の剛性は、ねじり剛性と曲げ剛性との双方を意味する。
図7に示す例については、まず、第1のばね部9の断面2次モーメント(図7に示すA−A’断面における断面2次モーメント)と、第2のばね部13の断面2次モーメント(図7に示すB−B’断面における断面2次モーメント)とが互いに比較される。第1のばね部9と第2のばね部13とは、板厚寸法に関しては互いに共通する。しかし、図5に示すように、幅寸法に関しては、第1のばね部9の方が第2のばね部13より長い。
一方、図10に示すように、板厚寸法hおよび幅寸法bを有する矩形断面のはり部材については一般に、板厚寸法hが一定である条件においては、幅寸法bが大きいほど、曲げ剛性もねじり剛性も増加し、外力に対する変形抵抗が増加する。このはり部材の曲げ剛性は、縦弾性係数Eと、断面2次モーメントIzとの積で表わされ、具体的には、
Ebh3/12
で表わされる。一方、ねじり剛性は、板厚寸法hが幅寸法bよりかなり小さい条件においては、横弾性係数をGで表わすと、近似的に、
Gbh3/3
で表わされる。図10において「dA」は、はり部材の中立軸(x軸と一致する)からyの距離にある微小面積要素を意味している。
したがって、本実施形態においては、第2のばね部13の断面2次モーメントが第1のばね部9の断面2次モーメントより小さい。
一方、そのような断面2次モーメントの関係は、本実施形態においては、第2のばね部13の幅寸法を第1のばね部9の幅寸法より短い寸法に選定したことに起因する。また、上述のように、矩形断面のはり部材においては、曲げ剛性の計算式にもねじり剛性の計算式にも「bh3」なる項が存在し、このことは、はり部材の幅寸法が短いほど、はり部材の曲げ剛性もねじり剛性も低下することを意味する。
したがって、本実施形態においては、第2のばね部13の方が第1のばね部9より弾性的にねじり変形し易い。第1のばね部9は基本的には曲げ変形させられないが、本実施形態においては、変形の種類の如何を問わず、第2のばね部13の方が第1のばね部9より弾性変形し易いといえる。
さらに、本実施形態においては、第2のばね部13と駆動源dとの積層体すなわち弾性変形部の断面2次モーメントが第1のばね部9の断面2次モーメントより小さくなるように、第2のばね部13および駆動源dの断面形状および駆動源dの弾性係数が予め選定されている。
その結果、本実施形態においては、各弾性変形部(1本の第2のばね部と、それに対応する駆動源との積層体)の曲げ変形およびねじり変形が、第1のばね部9のねじり変形より発生し易いようになっている。
一方、本実施形態においては、反射ミラー8の揺動角すなわち走査角が、第1のばね9のねじり変形量と、弾性変形部のねじり変形量および曲げ変形量とが合成されたものである。
したがって、本実施形態によれば、そのように変形し易い弾性変形部が第1のばね部9と組み合わせて使用されることにより、弾性変形部が存在しない場合に比較し、反射ミラー8の走査角を増加させることが容易となる。
さらに、本実施形態によれば、第1のばね部9が、それより変形し易い弾性変形部を介して固定枠部7に連結されるため、反射ミラー8の揺動時に第1のばね部9に発生する応力を軽減することも容易となる。
次に、上記のように構成された光走査装置1の作動を、図1,図2,図3および図8を参照して説明する。図8は、振動体5を共振状態で示す斜視図である。
図1に示す映像信号供給回路104から水平同期信号119が光走査装置1に供給され、その供給された水平同期信号119は、図2に示す水平走査駆動回路121の発振器121aに入力され、その発振器121aにより、水平同期信号119に基づいて正弦波が生成される。その生成された正弦波は、位相反転回路121bおよび位相シフタ121cにそれぞれ入力される。
その正弦波が位相シフタ121cに入力されると、その位相シフタ121cにおいては、画像信号と反射ミラー8との位相を調整するための信号が生成され、その生成された信号に基づき、アンプ121eとの共同作用により、駆動電圧が入力端子a1,a2を介して、第2のばね部12に形成された駆動源aに供給される。さらに、その駆動電圧と位相が同じ駆動電圧が入力端子b1,b2を介して、第2のばね部15に形成された駆動源bに供給される。
これに対し、上記正弦波が位相反転回路121bに入力されると、その位相判定回路121bにおいては、その入力された正弦波の位相が反転され、そのようにして生成された正弦波が位相シフタ121dに供給される。その位相シフタ121dにおいては、画像信号と反射ミラー8との位相を調整するための信号が生成され、その生成された信号に基づき、アンプ121fとの共同作用により、駆動電圧が入力端子d1,d2を介して、第2のばね部13に形成された駆動源dに供給される。さらに、その駆動電圧と位相が同じ駆動電圧が入力端子c1,c2を介して、第2のばね部16に形成された駆動源cに供給される。
したがって、各第2のばね部12,15の片面に貼り付けられた各駆動源a,bが伸長すると、第2のばね部12,15が図3において下向きに撓む。それと同時に、各第2のばね部13,16の片面に貼り付けられた各駆動源c,dが伸長すると、第2のばね部13,16が図3において上向きに撓むことになる。
さらに、駆動源a,bが上向きに撓むと、第2のばね部12,15も上向きに撓み、それと同時に、駆動源c,dが下向きに撓むと、第2のばね部13,16も下向きに撓むことになる。
このように、本実施形態においては、水平走査駆動回路121が、図1に示す映像信号供給回路104から供給される水平同期信号119に基づき、駆動源a,bおよび駆動源c,dにそれぞれ印加される駆動電圧を、反射ミラー8の共振周波数と同じ周波数で互いに逆位相で振動させる。
それにより、振動体5において第2のばね部12,15および13,16が互いに逆向きに曲がるように撓み、それに伴い、振動体5が共振周波数で共振する。この共振により、第1のばね部9,10に支持された反射ミラー8が、図8に示す中立位置(静止位置)Sと共振時の最大揺動位置(最大変位位置)Kとの間で振動を繰り返し、その結果、反射ミラー8に入射して反射するレーザ光が水平方向に走査される。
図1に示すように、反射ミラー8によって水平走査されたレーザ光は、リレー光学系126を経由して、垂直走査系102の反射ミラー部125に導かれる。その反射ミラー部125に入射したレーザ光は、垂直走査系102によって垂直方向に走査される。垂直走査されたレーザ光は、リレー光学系127によりビーム形状がビーム整形されて、観察者の瞳孔に入射され、やがて網膜上に直接に画像が投影される。
以上説明したように、本実施形態においては、駆動源aが形成された第2のばね部12と、駆動源dが形成された第2のばね部13との断面2次モーメントがそれぞれ、第1のばね部9の断面2次モーメントより小さくなるように振動体5が構成されている。さらに、駆動源bが形成された第2のばね部15と、駆動源cが形成された第2のばね部16との断面2次モーメントが、第1のばね部10の断面2次モーメントより小さくなるように振動体5が形成されている。
したがって、本実施形態によれば、駆動源a,b,c,dおよび第2のばね部12,13,15,16が相対的に変形し易くなり、その変形が最終的には反射ミラー8のねじりすなわち揺動に反映されるため、反射ミラー8の走査角(振れ角)を増加させることが容易となる。
さらに、本実施形態においては、駆動源a,b,c,dが第2のばね部12,13,15,16上に直接、薄膜形成法により形成されている。したがって、本実施形態によれば、各駆動源a,b,c,dと各第2のばね部12,13,15,16との間に、合成樹脂等から成る接着剤層を介在させずに済む。よって、本実施形態によれば、各駆動源a,b,c,dと各第2のばね部12,13,15,16との接合状態が安定し、振動体5の振動も安定する。
さらに、本実施形態においては、駆動源a,b,c,dの振動を拡大する機構が振動体5に採用されるため、反射ミラー8を所定の走査周波数および走査角のもとに振動させるのに必要な消費電力を節約することが容易となる。
さらに、本実施形態においては、各第2のばね部12,13,15,16に直接に各駆動源a,b,c,dが装着されており、弾性変形部と加振源とが互いに位置的に一致させられている。したがって、本実施形態によれば、各駆動源a,b,c,dの振動を効率よく振動体5に伝達することが容易となり、消費電力の節約が容易となるとともに、光走査装置1の小型化が容易となる。
さらに、本実施形態においては、図6に示すように、各駆動源a,b,c,dが、各第2のばね部12,13,15,16から固定枠部7に延びる姿勢で振動体5に形成されている。よって、本実施形態によれば、振動体5の振動の節が固定端部13aに安定的に位置することとなり、振動体5の振動状態が理想的な共振状態で安定する。
したがって、本実施形態によれば、図9に示すように、各駆動源a,b,c,dが、各第2のばね部12,13,15,16上のみに形成され、固定枠部7には及ばないように形成される場合と比較し、振動体5の振動状態を安定化させることが容易となる。
次に、本発明の第2実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態と共通する要素が多いため、共通する要素については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、詳細な説明を省略し、異なる要素についてのみ、詳細に説明する。
図11に示すように、本実施形態に従う光走査装置200は、第1実施形態に従う光走査装置1と構成が共通する要素として、ベース台2と振動体5とを備えており、ベース台2には、第1実施形態と同様に、図12に示すように、支持部3が形成されている。本実施形態においては、図11に示すように、振動体5が、第1実施形態と同様に、固定枠部7と、反射ミラー8と、第1のばね部9,10と、第2のばね部12,13,15,16とを備えている。
第1実施形態においては、図3に示すように、駆動源a,b,c,dの振動が直接に振動体5に伝達されるようになっている。すなわち、振動体5が駆動源a,b,c,dによって直接に加振されるようになっているのである。
これに対し、本実施形態に従う光走査装置200においては、図11に示すように、振動体5が駆動源e,fによって間接に加振されるようになっている。すなわち、光走査装置200が全体的に加振されるようになっているのである。
図11に示すように、本実施形態においては、ベース台2の下面に駆動源e,fが接着により固定されている。それら2個の駆動源e,fは、ベース台2の幅方向(ベース台2の長手方向と直角な方向)において互いに対向する2個の対向位置にそれぞれ配置されている。
それら駆動源e,fは、共に、積層型の圧電アクチュエータとして構成されている。積層型の圧電アクチュエータは、ベース台2の長手方向に延びるPZT、ZnO、BST等の圧電体が複数枚、各板面と直角な方向に積層されて構成されている。圧電体は、電気−機械変換効率の高い素子であることから、駆動源e,fに圧電体を用いると、低消費電力化が容易となる。
図12に示すように、駆動源eは、上側の電極e1と、下側の電極e2とによってサンドイッチ状に挟まれている。同様にして、駆動源fは、上側の電極f1と、下側の電極f2とによってサンドイッチ状に挟まれている。
駆動源eは、電極e1および電極e2間に印加する駆動電圧の極性を所定の周波数で変化させることにより、伸び縮みして振動する。同様にして、駆動源fは、電極f1および電極f2間に印加する駆動電圧の極性を所定の周波数で変化させることにより、伸び縮みして振動する。したがって、駆動源eおよび駆動源fに互いに逆位相で駆動電圧を印加すれば、それら駆動源eおよび駆動源fが互いに逆位相で振動し、それにより、ベース台2を介して振動体5を、第1実施形態と同様にして振動させることができる。
図11に示すように、ベース台2には、第1実施形態と基本的に共通するように、ベース台2の上面に開口する凹部が形成されているが、本実施形態においては、それが階段状に形成されている。具体的には、ベース台2の長手方向中央部には、深い底面を有する凹部2bが形成され、それを挟む2個の位置にそれぞれ、浅い底面を有する凹部2cが形成されている。
図13には、本実施形態における水平走査駆動回路121がブロック図で示されている。この水平走査駆動回路121は、第1実施形態と基本的な電気回路が共通しており、第1実施形態との相違点は、アンプ121eが1個の駆動源eに接続されるとともに、アンプ121fが1個の駆動源fに接続される点である。
このように構成された水平走査駆動回路121によれば、駆動源eおよびfにそれぞれ駆動電圧が互いに逆位相で印加され、それにより、それら駆動源eおよび駆動源fが互いに逆位相で振動させられる。その結果、第1のばね部9,10、第2のばね部12,13,15,16および反射ミラー8によって構成される振動体5に、それのねじり振動モードの共振周波数に一致する周波数の振動が加えられる。それにより、振動体5が共振して、反射ミラー8が共振周波数かつ大きな揺動角のもとにねじり振動を誘起される。
本発明者らは、以上説明した第1および第2実施形態に共通の振動体5につき、その振動体5の幾何学的特徴である形状寸法と振動特性との関係を解析すべく、コンピュータによるシミュレーションによって数値解析を行った。その数値解析は、有限要素法によるものである。
図14には、その数値解析のために使用された振動体5の解析モデルが簡略的に示されている。解析モデルは、振動体5を複数の有限要素に分割することによって構成されている。
図14に示すように、この解析モデルにおいては、反射ミラー8の幅寸法が「L1」で表記される一方、一対の第2のばね部12,13と、別の一対の第2のばね部15,16とのそれぞれにつき、分岐間隔が「L2」で表記されている。ここに、「分岐間隔L2」は、一対の第2のばね部12,13を例にとって説明すれば、それら第2のばね部12,13の外縁同士の間隔を意味する。分岐間隔L2は、各連結部17,18の長さと一致する。
なお付言するに、図14に示す解析モデルにおいては、2本の第2のばね部12,13のうち第1のばね部9と連結する部分が、それら2本の第2のばね部12,13から名称的に独立して連結部17と称される。同様にして、2本の第2のばね部15,16のうち第1のばね部10と連結する部分が、それら2本の第2のばね部15,16から名称的に独立して連結部18と称される。
振動体5の振動特性を解析するために上述の解析モデルを用いて第1の数値解析と第2の数値解析と第3の数値解析とが行われた。3種類の数値解析が行われたのであり、それら3種類の数値解析に共通する解析条件は以下のとおりである。
1.反射ミラー8(正方形)の寸法
厚さ:100μm
長さ:1mm
幅:1mm
2.第1のばね部9,10(長方形)の寸法
厚さ:100μm
長さ:0.5mm
幅:60μm
3.第2のばね部12,13,15,16(長方形)の寸法
厚さ:100μm
長さ:1.5mm
幅:40μm
4.連結部17,18(長方形)の寸法
厚さ:100μm
幅:40μm
したがって、それら3種類の数値解析を通じて、反射ミラー8の幅L1は、1mmに維持された。
一方、それら3種類の数値解析は、3種類の分岐間隔L2のもとに行われた。具体的には、第1の数値解析は、連結部17,18の長さが0.6mmであって、分岐間隔L2も0.6mmである条件のもとに行われた。この数値解析は、結局、反射ミラー8の幅L1を超えない分岐間隔L2のもとに行われたことになる。具体的には、この数値解析は、反射ミラー8の幅L1より小さい(例えば、50ないし70パーセントの範囲内、40ないし80パーセントの範囲内あるいは30ないし90パーセントの範囲内にある)分岐間隔L2のもとに行われたことになる。
これに対し、第2および第3の数値解析は、共に、分岐間隔L2が幅L1を超える条件のもとに実施された。具体的には、第2の数値解析は、分岐間隔L2が1.1mmである条件のもとに実施され、一方、第3の数値解析は、分岐間隔L3が2mmである条件のもとに実施された。
図15には、図14に示す振動体5の解析モデル(以下、単に「振動体5」ともいう。)が静止状態で示されている。第1の数値解析は、振動体5を4種類の振動モードで模擬的に振動させるべく実施された。それら4種類の振動モードは、振動体5を振動させる振動周波数に関して下記のように異なっている。
振動モード1:10.6kHz
振動モード2:15.1kHz
振動モード3:21.8kHz
振動モード4:25.2kHz
以下、図16ないし図23を参照することにより、第1の数値解析の結果を説明する。
それに先立ち、図16ないし図23の内容を簡単に説明する。
図16ないし図19は、各振動モードの解析結果を単独で示す図である。具体的には、図16は、振動モード1の解析結果を示す図であり、図17は、振動モード2の解析結果を示す図であり、図18は、振動モード3の解析結果を示す図であり、図19は、振動モード4の解析結果を示す図である。
図20ないし図23は、各振動モードの解析結果であって図16ないし図19にそれぞれ示されているものを、図15に示されている静止状態にある振動体5と対比するために便宜上重ね合わせて示す図である。具体的には、図20は、振動モード1の解析結果を静止状態にある振動体5と対比して示す図であり、図21は、振動モード2の解析結果を静止状態にある振動体5と対比して示す図であり、図22は、振動モード3の解析結果を静止状態にある振動体5と対比して示す図であり、図23は、振動モード4の解析結果を静止状態にある振動体5と対比して示す図である。
図16および図20に示すように、振動モード1、すなわち、10.6kHzで振動体5を振動させた場合には、反射ミラー8が反射面8aに平行な方向に振動(面内振動)して共振する状態となる。
また、図17および図21に示すように、振動モード2、すなわち、15.1kHzで振動体5を振動させた場合には、反射ミラー8が反射面8aに垂直な方向に振動(面外振動)して共振する状態となる。
また、図18および図21に示すように、振動モード3、すなわち、21.8kHzで振動体5を振動させた場合には、反射ミラー8が第1のばね部8,9の軸線まわりに回動してねじれ共振する状態となる。
また、図19および図23に示すように、振動モード4、すなわち、25.2kHzで振動体5を振動させた場合には、反射ミラー8が反射面8aの中心点を回転中心として、反射ミラー8が反射面8aに沿って往復回転して共振する状態となる。
第1の数値解析結果によれば、それら振動モード1ないし4のうち振動モード3が、光の走査に好適に使用できる振動モードである。
図24には、第2の数値解析が実施された解析条件が示されている。この第2の数値解析においては、振動体5の連結部17,18の長さが1.1mmというように、第1の数値解析の場合より長くされている。したがって、分岐間隔L2も、1.1mmとなり、反射ミラー8の幅寸法L1である1mmより、僅かではあるが長くなっている。
図25には、図24に示す振動体5が静止状態で示されている。第2の数値解析は、振動体5を4種類の振動モードで模擬的に振動させるために実施された。それら4種類の振動モードは、振動体5を振動させる振動周波数に関して下記のように異なっている。
振動モード1:10.0kHz
振動モード2:14.2kHz
振動モード3:22.0kHz
振動モード4:25.5kHz
以下、図26ないし図33を参照することにより、第2の数値解析の結果を説明する。
それに先立ち、図26ないし図33の内容を簡単に説明する。
図26ないし図29は、各振動モードの解析結果を単独で示す図である。具体的には、図26は、振動モード1の解析結果を示す図であり、図27は、振動モード2の解析結果を示す図であり、図28は、振動モード3の解析結果を示す図であり、図29は、振動モード4の解析結果を示す図である。
図30ないし図33は、各振動モードの解析結果であって図26ないし図29にそれぞれ示されているものを、図25に示されている静止状態にある振動体5と対比するために便宜上重ね合わせて示す図である。具体的には、図30は、振動モード1の解析結果を静止状態にある振動体5と対比して示す図であり、図31は、振動モード2の解析結果を静止状態にある振動体5と対比して示す図であり、図32は、振動モード3の解析結果を静止状態にある振動体5と対比して示す図であり、図33は、振動モード4の解析結果を静止状態にある振動体5と対比して示す図である。
図26および図30に示すように、振動モード1、すなわち、10.0kHzで振動体5を振動させた場合には、反射ミラー8が反射面8aに平行な方向に振動(面内振動)して共振する状態となる。
また、図27および図31に示すように、振動モード2、すなわち、14.2kHzで振動体5を振動させた場合には、反射ミラー8が反射面8aに垂直な方向に振動(面外振動)して共振する状態となる。
また、図28および図32に示すように、振動モード3、すなわち、22.0kHzで振動体5を振動させた場合には、反射ミラー8が反射面8aの中心点を回転中心として、反射ミラー8が反射面8aに沿って往復回転して共振する状態となる。
また、図29および図33に示すように、振動モード4、すなわち、25.5kHzで振動体5を振動させた場合には、反射ミラー8が第1のばね部8,9の軸線まわりに回動してねじれ共振する状態となる。
第2の数値解析結果によれば、それら振動モード1ないし4のうち振動モード4が、光の走査に好適に使用できる振動モードである。
次に、図34を参照しつつ、振動体5の近似モデルを用いることにより、振動体5の1次ないし3次の振動モードを説明する。
図34の上部には、振動体5の近似モデルが示されている。この近似モデルにおいては、反射ミラー8の質量が「M1」、第1のばね部が「無質量」、連結部17,18の質量がそれぞれ「M2」、第2のばね部が「無質量」とされるとともに、2本の第2のばね部が便宜上結合されて1本の第2のばね部とされている。
振動体5をこの近似モデルに近似すると、ばね部の質量を無視すれば、振動体5は、水平方向あるいは鉛直方向に関しては、それぞれ3自由度の振動系に相当する。
光走査を安定して行うには、振動体5の高次(2次以上)の振動モードが、ねじり振動の固有振動数より低い周波数領域において発生しないようにすることが望ましい。図34には、上部においては近似モデルが静止状態で示され、その下部においては3種類の振動モードがその近似モデルを用いて示されている。それら3種類の振動モードのうち、上段のものが1次モードであり、中段のものが2次モードであり、下段のものが3次モードである。
図16ないし図33を参照して説明した数値解析結果から明らかなように、振動体5について固有振動数のモード解析を行うと、垂直並進振動モード(面外振動モード)あるいは水平並進振動モード(面内振動モード)の1次固有振動が低周波数領域で発生する。
図14に示す振動体5に発生する4種類の振動モードをそれぞれ、図34に示す3種類の振動モードのいずれかに関連付けると、図16に示す振動モード1(水平並進振動モード)が図34に示す1次モードに該当し、図19に示す振動モード4(回転振動モード)が図34に示す2次モードに該当する。
今回の数値解析が実施された周波数より高い周波数について別の数値解析を実施すれば、3次モードあるいはそれより高次のモードについてまで振動体5を解析できる。
図34に示す近似モデルにおいて、M1の質量とばね部の剛性が一定であると仮定すると、高次のモードの周波数は、M2の質量に依存することになる。M2の質量増加は、図34に示す例においては、1次モードの振動周波数の低下を招き、それに加えて、2次モードの振動周波数の低下も招く。そのため、M2の質量増加は、高次モードの振動周波数が光走査に必要なねじり固有振動数に接近する要因になっていた。
これに対し、図14に示す振動体5、すなわち、第1および第2実施形態において使用される振動体5においては、連結部17,18の長さ、すなわち、第2のばね部12,13および第2のばね部15,16の分岐間隔L2が反射ミラー8の幅L1より短くされることにより、連結部17,18の質量M2が減少させられている。
したがって、図14に示す振動体5においては、反射ミラー8の揺動速度の高速化を図るにもかかわらず、振動方向が反射ミラー8に対して水平な方向および垂直な方向である1次モード以外の振動モードの発生が抑制され、その結果、振動体5のねじり振動が安定化し、光走査も安定化させられる。ここに、振動方向が反射ミラー8に対して水平な方向および垂直な方向である1次モードの発生を許容するのは、このモードは、光走査に必要な振動モードではないが、走査光の向きを予定外に変化させてその直進性を阻害してしまう振動モードではないからである。
第1および第2実施形態においては、図18に示す振動モード3が光走査装置1,200に好適な振動(共振)モードであり、このモードの固有振動数は21.8kHzであった。これより低い周波数においては、図16に示す振動モード1は反射ミラー8の反射面8aに対して水平な方向(面内方向)、図17に示す振動モード2は反射面8aに対して垂直な方向(面外方向)を振動方向とするモードであり、振動方向が垂直および水平である1次モードしか発生しない。
したがって、第1および第2実施形態によれば、振動体5のねじり振動が安定化し、光走査装置1,200による光走査も安定化する。
これに対し、図24に比較例として示すように、連結部17,18の長さすなわち分岐間隔L2を1.1mmにして幅L1より長くした場合には、必要な振動モード、すなわち、図29および図33に示すねじり振動モード4の共振周波数25.5kHzより低い周波数である22.0kHzで、図28および図32に示すように、振動モード3(回転振動モード)に振動モード1(面内振動モード)の2次モードが重畳させられた振動が振動体5に発生している。そのため、振動体5のねじり振動が安定せず、光走査装置1,200による光走査も安定しない。
図35には、第3の数値解析が実施された解析条件が示されている。この第3の数値解析においては、振動体5の連結部17,18の長さが2mmというように、第1および第2の数値解析の場合より長くされている。したがって、分岐間隔L2も、2mmとなり、反射ミラー8の幅L1である1mmの2倍の長さとなっている。
図36には、図35に示す振動体5が静止状態で示されている。第3の数値解析は、振動体5を8種類の振動モードで模擬的に振動させるために実施された。それら8種類の振動モードは、振動体5を振動させる振動周波数に関して下記のように異なっている。
振動モード1: 9.0kHz
振動モード2:12.1kHz
振動モード3:15.4kHz
振動モード4:17.6kHz
振動モード5:29.1kHz
振動モード6:32.1kHz
振動モード7:60.4kHz
振動モード8:64.2kHz
以下、図37ないし図48を参照することにより、第3の数値解析の結果を説明する。
それに先立ち、図37ないし図48の内容を簡単に説明する。
図37ないし図40は、各振動モードの解析結果を単独で示す図である。具体的には、図37は、振動モード1の解析結果を示す図であり、図38は、振動モード2の解析結果を示す図であり、図39は、振動モード3の解析結果を示す図であり、図40は、振動モード4の解析結果を示す図である。
図41ないし図45は、各振動モードの解析結果であって図37ないし図40にそれぞれ示されているものを、図36に示されている静止状態にある振動体5と対比するために便宜上重ね合わせて示す図である。具体的には、図41は、振動モード1の解析結果を静止状態にある振動体5と対比して示す図であり、図42は、振動モード2の解析結果を静止状態にある振動体5と対比して示す図であり、図43は、振動モード3の解析結果を静止状態にある振動体5と対比して示す図であり、図44は、振動モード4の解析結果を静止状態にある振動体5と対比して示す図である。
さらに、図42は、振動モード5の解析結果を単独で示す図であり、図43は、振動モード6の解析結果を単独で示す図である。図44は、振動モード5の解析結果を静止状態にある振動体5と対比して示す図であり、図45は、振動モード6の解析結果を静止状態にある振動体5と対比して示す図である。
図35ないし図48に示すように、第3の数値解析結果によれば、分岐間隔L2が反射ミラー8の幅L1の2倍である解析例においては、第2の数値解析の結果より多数の非ねじり振動モードが、ねじり振動モードの周波数より低い領域において発生し、そのため、光走査装置1,200による光走査の安定性が低下することが分かる。
以上説明した3種類の数値解析の結果を総合的に考察すれば、振動体5においては、連結部17,18の長さ、すなわち、第2のばね部12,13および第2のばね部15,16の分岐間隔L2を反射ミラー8の幅L1より短くすれば、連結部17,18の質量M2が減少し、反射ミラー8の揺動速度が高速化されるにもかかわらず、非ねじり振動モードのうち、1次の水平方向振動モード(面内振動モード)および垂直方向振動モード(面外振動モード)を除く振動モードの発生が抑制される。そのような振動モードは、反射ミラー8からの反射光の直線性を阻害する振動モードである。
したがって、分岐間隔L2を幅L1より短くすれば、振動体5のねじり振動がることができる。
以上、画像形成装置100に用いられる光走査装置に本発明を適用する場合のいくつかの実施形態を例にとり、本発明を説明したが、レーザプリンタ、バーコードスキャナ、プロジェクタ等、光走査を行う各種装置に用いられる光走査装置に本発明を適用することが可能である。
さらに、以上説明したいくつかの実施形態においては、振動体5が大気に直に曝されているが、レーザ光を透過可能なカバーで覆うことによって振動体5が密封され、その密閉空間が大気圧より減圧されるかまたはその密閉空間に不活性ガスが充填される態様で本発明を実施することが可能である。
以上、本発明の実施形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、前記[発明の開示]の欄に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。