JP3954668B2 - 非水電解液電池活物質用ニッケル−コバルト水酸化物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、非水電解液二次電池の正極活物質のLixNiyCozO2(0.90≦x≦1.05、0.7≦y≦0.9、y+z=1)で表されるリチウム複合ニッケルーコバルト酸化物の合成に原材料として用いるニッケル−コバルト水酸化物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、民生用電子機器のポータブル化、コードレス化が急激に進んでいる。現在、これら電子機器の駆動用電源としての役割を、ニッケルーカドミウム蓄電池あるいは密閉型小型鉛蓄電池が担っているが、ポータブル化、コードレス化が進展し、定着するにしたがい、駆動用電源となる二次電池の高エネルギー密度化、小型軽量化の要望が強くなっている。また、近年二次電池は、携帯電話用の電源として注目されており、急速な市場の拡大と共に、通話時間の長期化、サイクル寿命の改善への要望は非常に大きいものとなっている。
【0003】
このような状況から、高い充放電電圧を示すリチウム複合遷移金属酸化物、例えばLiCoO2(例えば特開昭63−59507号公報)や、さらに高容量を目指したLiNiO2(例えば米国特許第4302518号)が報告されている。
特にLiNiO2は、LiCoO2に比べ高エネルギー密度が期待され、各方面で開発が進められている。しかし、LiNiO2は、充電時の分極が大きく、Liが十分取り出せないうちに電解液の酸化分解電圧に達してしまうため、期待される大きい容量が得られなかった。
【0004】
このような問題を解決するため、ニッケル元素の一部をコバルトで置換したものを正極活物質に用い、リチウムイオンの挿入・離脱を利用した非水電解液二次電池が提案されている。例えば、特開昭62−256371号公報では、炭酸リチウムと炭酸コバルト、炭酸ニッケルを混合し900℃で焼成することによってリチウム複合ニッケル−コバルト酸化物を合成している。また、特開昭63−299056号公報では、リチウムとコバルト、ニッケルの水酸化物、酸化物を混合する方法が報告されている。さらに、特開平1−294364号公報には、ニッケルイオンとコバルトイオンを含む水溶液中から炭酸塩としてニッケルイオンとコバルトイオンを共沈させ、その後炭酸リチウムと混合し、リチウム複合ニッケル−コバルト酸化物の合成を行った例が報告されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これまで報告されているようなLixNiyCozO2(0.90≦x≦1.05、0.7≦y≦0.9、y+z=1)で表されるリチウム複合ニッケル−コバルト酸化物では、置換Co量(z値)が大きくなるにつれて放電容量は徐々に大きくなるものの、充放電容量は理論容量である275mAh/gに比べてかなり小さく、十分なものではなかった。
【0006】
本発明者らが、十分検討を重ねた結果、活物質の放電容量が小さくなる要因として以下のことが原因であることが解った。
すなわち、LiNiO2は、電池の充放電にともない、その格子定数が変化することが報告されており(W.Li,J.N.Reimers and J.R.Dahn, Solid State Ionics,67,123(1993))、Liを脱離するに伴い結晶相が六方晶(Hexagonal)から単斜晶(Monoclinic)、さらに第2六方晶(Hexagonal)、第3六方晶(Hexagonal)へと変化していくことが報告されている。このような結晶相変化は可逆性に乏しく、充放電反応を繰り返すうちにLiを挿入・脱離できるサイトが徐々に失われてしまうことが原因と考えられる。
【0007】
ニッケルの一部をコバルトで置換することによって、このような結晶相の変化は著しく緩和される。これはコバルトの酸素との結合力がニッケルに比べ強いため、結晶構造がより安定化したためと考えられ、Co置換しない(z=0)場合のような結晶相の変化が起こらなくなる。
このため、Co置換量(z値)が大きくなるほど結晶相がより安定化し、放電容量、サイクル特性ともに改善されると考えられる。
しかし、実際には特開昭62−256371号公報や特開昭63−299056号公報で報告されているようなコバルト、ニッケルの炭酸塩、水酸化物、酸化物等のそれぞれの化合物を混合することによって合成されたリチウム複合ニッケル−コバルト酸化物は、Co置換量(z値)が大きくなると(z≧0.1)実際にはニッケルとコバルトが均一に分散されておらず、部分的にLiNiO2とLiCoO2の混合物になっていることが明らかになった。
【0008】
このため、このような活物質では、放電容量はある程度大きいものの、放電容量として満足できるものではなく、また、充放電を繰り返すと、Coが十分置換されていない部分において前述の結晶相変化により結晶構造が破壊され、放電容量が低下し、電池活物質として十分なものではなかった。
また、特開平1−294364号公報のようにニッケルイオンとコバルトイオンを炭酸塩として共沈させた場合、ニッケルとコバルトが均一に分散するため良好なサイクル特性が確保された。しかし、この場合、塩基性炭酸塩として析出するため、実際には不定含量のNi(OH)2を含む複塩NiCO3・xNi(OH)2となっており、リチウムとの合成過程が均一でない。また、炭酸塩では結晶性が低く、放電容量が小さいという問題があった。
【0009】
本発明の目的は、上記した従来の正極に関する問題点の解決を図ることであり、充放電特性の優れた非水電解液二次電池を与える正極活物質リチウム複合ニッケル−コバルト酸化物を合成するための、物性の制御されたニッケル−コバルト水酸化物を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、このような問題を解決するために、正極活物質の原料であるニッケル、コバルト源として、硫酸ニッケルと硫酸コバルトから共沈によって生成した水酸化物を用いると共に、その物性について鋭意検討を行い、特にその結晶構造を制御することにより、放電容量の大きい活物質を得ることに成功した。
LiNiO2は、通常、原材料としてニッケル水酸化物とリチウム塩、例えば、硝酸リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウムを混合し、熱処理を行うことで合成される。これらの反応過程は、原材料双方の熱分解の後、ニッケル化合物にリチウムが侵入する形で進行する。本発明者らは、原料を混合し、温度上昇させながらX線構造を測定するHTーXRD法を用いて検討を行った結果、特にニッケル水酸化物を原料とした場合に、原料−中間生成物−反応生成物の間に結晶学的な相関関係が得られることが明らかとなった。このような現象は、トポタキシーと呼ばれ、トポ反応では結晶の形態が維持されたままで反応が進行する。
【0011】
このため、LiNiO2を合成するための自由エネルギーを小さくし、反応をより容易に進行させるためには、LiNiO2の結晶格子により近い構造を持つ原料を用いることが望ましい。
従って、例えばNi−Ni原子間距離が2.878オングストロームであるLiNiO2を合成するためには、Ni−Ni原子間距離が4.609オングストロームである炭酸ニッケルを用いるよりも、Ni−Ni原子間距離が3.126オングストロームであるニッケル水酸化物を用いる方が望ましいといえる。
Niの一部をCoで置換したニッケル−コバルト水酸化物についても、結晶構造が異なると、合成過程において中間的に生成する中間生成物の結晶構造(この場合の生成過程である500〜600℃付近での結晶構造)も異なることが明らかとなり、更にこれが電池活物質の放電容量と相関があることが見いだされた。
【0012】
このように、結晶構造と活物質の放電容量に相関関係が得られるのは、六方晶の層状構造を有するLixNiyCozO2(0.90≦x≦1.05、0.7≦y≦0.9、y+z=1)において、例えばLi原子層にNiもしくはCo原子が紛れ込むと、充放電反応の際にLi原子の拡散を阻害し、結果として分極が大きくなり、放電容量が小さくなることが考えられる。
通常、LixNiyCozO2(0.90≦x≦1.05、0.7≦y≦0.9、y+z=1)は、650〜850℃で結晶化を進行させて活物質として取り出すため、最終的には非常に結晶化が進行した状態となり、中間生成物の時に現れた結晶構造の違いはほとんど区別できなくなってしまう。このため単にLixNiy Co zO2(0.90≦x≦1.05、0.7≦y≦0.9、y+z=1)の結晶構造を調べるだけでは活物質の放電容量が小さい原因を明らかにすることができなかった。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の非水電解液二次電池正極活物質リチウム複合ニッケル−コバルト酸化物、LixNiyCozO2(0.90≦x≦1.05、0.7≦y≦0.9、y+z=1)を合成するためのニッケル−コバルト水酸化物は、NivCow(OH)2(0.7≦v≦0.9、v+w=1)で表され、CuKα線を線源とするX線回折における(101)面のピークの半価幅が1.0゜以下である。
さらに、このニッケル−コバルト水酸化物は、CuKα線を線源とするX線回折における(101)面のピークと(001)面のピークの積分強度比(101)/(001)が0.9〜1.2の範囲とするものである。
【0014】
このニッケル−コバルト水酸化物は、pH、温度を調整した槽内に硫酸ニッケル水溶液、硫酸コバルト水溶液、およびか性アルカリ水溶液をその濃度、流量を制御しながら連続的に供給し、連続的に槽からオーバーフローする液から生成物を採取することによって物性を制御することができる。
このような、ニッケルとコバルトを水酸化物として共沈させる方法は、ニッケルーカドミウム蓄電池用正極に使用される水酸化ニッケルの製法として報告がなされている。例えば、特開昭63−16556号公報、特開昭63−211563号公報、特開昭64−42330号公報では、水酸化ニッケルの製造方法としてpH、温度を調整した槽内にニッケル塩水溶液、コバルト塩水溶液およびか性アルカリ水溶液をその濃度、流量を制御しながら連続的に供給、採取する方法が報告されている。
【0015】
さらに、特開昭63−152866号公報、特開平5−41212号公報、特開平7−73877号公報では、反応槽内にCoを含む多種の金属元素を共沈法により水酸化ニッケル中に固溶させる方法が報告されている。
しかし、これらの発明におけるCoの添加は、いずれも水溶液系のニッケルーカドミウム電池もしくはニッケルー水素吸蔵合金電池等のアルカリ蓄電池の特性改良が目的であり、以下の理由によって行われている。
【0016】
▲1▼電池の放電容量の低下をもたらすγ−NiOOHの生成を抑制させる。(例えば M.Oshitani, K.Takashima, and Y.Matsumara,Proceedings of the Symp. on Nickel Hydroxide Electrodes, Volume 90-4 /The Electrochemical Soc., 197 (1989) 、特開平5−41212号公報)
▲2▼水酸化ニッケル表面における水素のイオン化速度や、水酸化ニッケル中のプロトン伝導の促進による利用率、高率充放電効率の向上。
(例えばI.Matsumoto,M.Ikeyama,T.Iwaki,Y.Umeo and Y.Ogawa,Denkikagaku,54, 159〜164 (1986)等)
【0017】
以上のように、これらの発明におけるCoの役割は、いずれも触媒的作用を目的としており、水酸化ニッケル結晶マトリックス内での活物質として添加されているわけではない。このため、あまりCo添加量が増すと逆に活物質の利用率が小さくなるため、通常添加される量はNivCow(OH)2(v+w=1)においてw≦0.1である場合がほとんどである。
また、ニッケル水酸化物のX線構造についても例えば、特開平4−328257号公報、特開平5−41213号公報に報告されているが、基本的にはCoを含まないか含んでいても共晶しないCoを添加した例であり、これらの発明はいずれもアルカリ電池におけるプロトンの移動度の向上を目的として発明されたものであって、本発明の目的とは本質的に異なるものである。
【0018】
本発明は、非水電解液電池の特性改良を目的としたものであり、活物質LixNiyCozO2(0.90≦x≦1.05、0.7≦y≦0.9、y+z=1)で表されるリチウム複合ニッケル−コバルト酸化物の合成に原材料として用いるニッケル−コバルト水酸化物NivCow(OH)2(0.7≦v≦0.9、v+w=1)の物性を制御したものである。
当然のことながらCoは、活物質の結晶マトリックス中に固溶しており、活物質として作用するため、前述のアルカリ蓄電池の特性改善とは全く異なるものである。
【0019】
LiNiO2の合成反応は、熱処理を加えることによりニッケル塩の結晶中にリチウム原子が拡散する形で進行し、LiNiO2が合成される。本発明におけるニッケル−コバルト水酸化物は、ニッケル塩濃度、コバルト塩濃度、槽温度、攪拌速度、pH等を制御することにより、槽内で生成した微細な結晶が成長する形でニッケルーコバルト水酸化物粒子を形成するため、Co置換量(w値)が0.1以上と大きくても、ニッケルとコバルトが原子レベルで固溶すると共に、結晶性を制御することが可能となる。しかも、結晶構造がLixNiyCozO2と同じ六方晶であるため、リチウム塩と混合し合成を行っても、原子の配列は維持される。
なお、Co置換量(w値)が0.3を越えると、結晶成長が困難となり、多結晶のNivCow(OH)2が生成してしまう。このためCo置換量は0.1≦w≦0.3であることが望ましい。
また、Co添加方法として合成時に酸化コバルトや炭酸コバルト、水酸化コバルトを添加した場合、共沈法で得られるような原子レベルでの固溶は実現できず、部分的にLiNiO2やLiCoO2として存在することになるため、容量低下の原因となる。
【0020】
本発明によるX線回折における(101)面のピークの半価幅が1.0゜以下と結晶性が大きいものを合成の原材料として用いた場合、この結晶を基本構造として合成が進行するため、中間生成物における結晶性も大きく、結果として非常に結晶の乱れの少ない活物質が容易に合成でき、放電容量の大きい活物質を実現することができる。
ただし、NivCow(OH)2(v+w=1)で表されるニッケル−コバルト水酸化物のCoの置換量(w値)が0.1以上と大きいものでは、結晶性を大きくするのは困難であり、(101)面のピークの半価幅が0.3゜以下のものを製造しようとすると、その生産性が著しく低下する。
このため電池用活物質の原料としてのニッケル−コバルト水酸化物は、本発明の様にX線回折における(101)面のピークの半価幅が0.3〜1.0゜の範囲であることが望ましい。
【0021】
さらに、X線回折における(101)面のピークと(001)面のピークの積分強度比(101)/(001)が0.9〜1.2の範囲であることが望ましい。
このような本発明のニッケル−コバルト水酸化物を原料として用いた場合、結晶性が大きく、結晶粒界の非常に少ないLixNiyCozO2の合成が可能となる。このような構造を持つNivCow(OH)2(0.7≦v≦0.9、v+w=1)を合成の原材料としたLixNiyCozO2(0.90≦x≦1.05、0.7≦y≦0.9、y+z=1)を用いて二次電池を構成し、充放電を行った場合、Coを添加することによって結晶の安定性が向上し、充放電に伴う結晶相の転移がなくなると共に、結晶のLi層におけるNi原子の混入を激減させることができる。その結果、電池活物質として大きい放電容量を実現することができる。
【0022】
【実施例】
以下、図面とともに本発明を具体的な実施例に沿って説明する。
《実施例1》
図1に本実施例および比較例でニッケル−コバルト水酸化物を原料として合成した非水電解液二次電池用活物質の評価に用いた円筒形電池の縦断面図を示す。耐有機電解液性のステンレス鋼板を加工した電池ケース1内には、正極板5と負極板6とをセパレータ7を介して渦巻状に巻回した極板群4が上下に絶縁板8、9を配して収納されている。電池ケース1の開口部は、安全弁を設けた組立封口板2および絶縁パッキング3により密封されている。そして、上記正極板5からはアルミ製正極リード5aが引き出されて封口板2に接続され、負極板6からはニッケル製負極リード6aが引き出されて電池ケース1の底部に接続されている。
【0023】
以下、負極板6、電解液等について詳しく説明する。
負極板6は、黒鉛粉100重量部に、フッ素樹脂系結着剤10重量部を混合し、カルボキシメチルセルロース水溶液に懸濁させてペースト状にした。そして、このペーストを厚さ0.015mmの銅箔の表面に塗着し、乾燥した後、厚さ0.2mmに圧延し、幅37mm、長さ280mmの大きさに切り出して負極板とした。
電解液には、炭酸エチレンと炭酸ジエチルの等容積混合溶媒に、六フッ化リン酸リチウム1モル/リットル(L)の割合で溶解した溶液を用いて極板群4に注入した後、電池を密封口し、試験電池とした。
【0024】
次に、本発明のニッケル−コバルト水酸化物を用いたリチウム複合ニッケル−コバルト酸化物の製造法について詳しく説明する。
コバルト水酸化物を製造する析出槽として、容積50Lのタンクを用いた。ニッケル塩水溶液として、金属ニッケル量が40〜60g/L相当の硫酸ニッケル水溶液を用い、これに、コバルトがニッケルに対しモル比で5、10、20、30、40%になるように硫酸コバルトを添加、溶解して硫酸ニッケル−コバルト混合水溶液を調製した。また、か性アルカリ水溶液として、25重量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いた。
【0025】
上記の析出槽内へ硫酸ニッケルーコバルト混合水溶液を2〜5L/hの一定流量で導入し、十分攪拌しながら、水酸化ナトリウム溶液を導入し、生成するニッケル−コバルト水酸化物のX線回折における(101)面のピークの半価幅が0.75゜になるように反応槽のpH値、塩濃度、流量を制御した。得られたニッケル−コバルト水酸化物は、水中で水洗し、80℃で乾燥した。
なお、X線回折の測定は、乾燥後の試料をX線回折分析装置(株式会社リガクのRINT2000型)にCuKα管球およびグラファイト製モノクロメーターを使用し、管電圧40V、管電流150A、発散スリット0.5deg、散乱スリット0.5deg、受光スリット0.15mm、走査速度1.00deg/min、サンプリングピッチ0.010degの条件で測定を行った。
【0026】
代表的な測定例として、図2にCの試料のX線回折図を示した。
半価幅の算出は、図3に示したように、ピークの最大強度の1/2の点を通る直線の幅に対応する2θ値で算出した。
また、ピークの積分強度は、回折図のバックグラウンドをSonneveldとVisserの方法によって除去した後、ピークの面積を算出することによって算出した(Sonneveld,E.J. and Visser, J.W. J.Appl. Cryst.8, 1(1975).参照)。
また、原子吸光分析によりA〜Fのニッケル−コバルト水酸化物中に含まれるCo量を分析した。
以上の条件で作製したニッケル−コバルト水酸化物の物性を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
次に、LixNiyCozO2の合成方法について説明する。
上記の方法で作製したニッケル−コバルト水酸化物A〜Fを、水酸化リチウムと(ニッケル+コバルト)が原子比で1.05対1になるように混合し、酸化雰囲気下において700℃で10時間焼成して活物質LixNiyCozO2(y+z=1)を合成した。ニッケル−コバルト水酸化物A〜Fから得られた活物質をそれぞれ活物質A〜Fとする。
合成されたLixNiyCozO2は、比較的ほぐれやすい凝集塊状物として得られたので、乳鉢を用いて粉砕した。
【0029】
以下に、正極板の製造法を説明する。
まず、正極活物質であるLixNiyCozO2(y+z=1)の粉末100重量部に、アセチレンブラック3重量部、およびフッ素樹脂系結着剤5重量部を混合し、この混合物を前記結着剤の溶媒N−メチルー2ーピロリドンに懸濁させてペースト状にした。このペーストを厚さ0.020mmのアルミ箔の両面に塗着し、乾燥した後、厚み0.130mm、幅35mm、長さ270mmの正極板を作製した。
そして正極板と負極板を、セパレータを介して渦巻き状に巻回し、直径13.8mm、高さ50mmの電池ケース内に収納した。
電解液には、炭酸エチレンと炭酸ジエチルの等容積混合溶媒に、六フッ化リン酸リチウム1モル/Lの割合で溶解した溶液を用い、極板群4に注入した後、電池を密封口し、試験電池とした。上記の活物質A〜Fを用いた電池をそれぞれ電池A〜Fとする。
【0030】
これらの電池について以下の条件下で試験を行った。
20℃の環境下で120mAの電流で4.2Vまで充電した後、1時間休止し、その後同様に120mAの電流で3Vまで放電した。この方法で充放電を3回繰り返し、3回目の放電容量を電池内に含有されるリチウム複合ニッケル−コバルト酸化物の重量で割ることにより活物質の比容量(mAh/g)を算出した。表2に、電池A〜Fの活物質の比容量を示す。
【0031】
【表2】
【0032】
表2から明らかなように、Coを置換していない活物質を用いた電池AやCo置換量の少ない活物質を用いた電池Bは、充放電の際に前述したような結晶相変化が観察され、分極が大きくなり活物質の比容量が著しく小さいことがわかった。これに対し電池C〜Eのリチウム複合ニッケル−コバルト酸化物は、いずれも利用率が170mAh/g以上を示し、良好な結果が得られた。これはNiの一部をCoで置換することによって、結晶相の変化が著しく緩和されたためである。
【0033】
しかし、Co添加量(w値)が0.4である活物質を用いた電池Fでは、Coが安定にニッケル−コバルト水酸化物の結晶層内に存在することが困難となり、表1に示したように(101)面の半価幅が1.0゜より大きくなり、結晶性が小さくなった。そして、合成されたリチウム複合ニッケル−コバルト酸化物において、Li層にNi原子が混入し比容量が低下すると共に、さらにはこのような共沈法を用いてもニッケルとコバルトが均一に分散されておらず、部分的にLiNiO2とLiCoO2の混合物になっているものと考えられる。このため、Coが十分置換されていない部分において、前述の結晶相変化により結晶構造が破壊され、放電容量が低下したものと考えられる。
以上の結果より、リチウム複合ニッケル−コバルト酸化物の原料としてのニッケル−コバルト水酸化物は、NivCow(OH)2(0.7≦v≦0.9、v+w=1)で表されるニッケル−コバルト水酸化物を用いた場合に、放電容量の大きい非水電解液二次電池が得られる。
【0034】
《実施例2》
硫酸ニッケル水溶液に、ニッケルに対するコバルトがモル比で20%になるように硫酸コバルトを添加、溶解して硫酸ニッケル−コバルト混合水溶液を調製した。この硫酸ニッケル−コバルト混合水溶液を容積50Lの析出槽へ一定流量で導入し、槽内温度を50℃に保ち、十分攪拌しながら、25重量%の水酸化ナトリウム水溶液を導入し、反応槽のpH値、流量を制御し、表3に示す種々の(101)面の半価幅の値を持つニッケル−コバルト水酸化物を生成させ、水洗、乾燥した。得られたニッケル−コバルト水酸化物のCo含量はほぼw=0.2であった。こうして作製したニッケル−コバルト水酸化物の物性を表3に示す。
【0035】
【表3】
【0036】
ニッケル−コバルト水酸化物G〜Kを原料としてリチウム複合ニッケル−コバルト酸化物を合成する他は全て実施例1と同様にして電池を作製した。ニッケル−コバルト水酸化物G〜Kを原料とした酸化物を用いた電池をそれぞれ電池G〜Kとする。表4に、電池G〜Kの活物質の比容量を調べた結果を示す。
【0037】
【表4】
【0038】
表3の結果より、ニッケル−コバルト水酸化物のX線回折における(101)面のピークの半価幅と、(101)面のピークと(001)面のピークの積分強度比(101)/(001)は相関関係があり、どちらも物性を評価する基準として重要であることがわかる。
(101)面ピークの半価幅が1.0゜よりも大きく、ピークの積分強度比(101)/(001)が0.9よりも小さいものを原料とした活物質を用いた電池Gは、出発原材料であるニッケル−コバルト水酸化物の結晶性が小さいため、反応過程で生成する中間生成物の結晶性も同様に低く、結果として得られた活物質の比容量も160mAh/g以下と小さくなった。
【0039】
これに対し、本実施例の(101)面のピークの半価幅が0.3〜1.0゜の範囲にあるものを原料とした活物質を用いた電池H〜Jでは、活物質の比容量が170mAh/g以上と良好な特性が得られた。
(101)面のピークの半価幅が0.3よりも小さい電池Kは、放電比容量が168mAh/gと活物質としては十分な性能を示した。しかし、このように半価幅を小さくするためには、ニッケル−コバルト水酸化物の生成速度をかなり小さくすることが必要となるため、工業的には不向きであった。よって半価幅が0.3以上であることが望ましい。
同様にX線回折における(101)面のピークと(001)面のピークの積分強度比(101)/(001)が0.9〜1.2の範囲であることが望ましい。
【0040】
上記実施例においては、円筒型の電池を用いて評価したが、角型やコイン型など電池形状が異なっても同様の効果が得られる。
さらに、上記実施例において、負極には炭素質材料を用いたが、本発明における効果は正極板において作用するため、リチウム金属や、リチウム合金、Fe2O3、WO2、WO3等の酸化物など、他の負極材料を用いても同様の効果が得られる。
【0041】
また、上記実施例において、電解質として六フッ化リン酸リチウムを使用したが、他のリチウム含有塩、例えば過塩素酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、六フッ化ヒ酸リチウムなどでも同様の効果が得られる。
さらに、上記実施例では、炭酸エチレンと炭酸ジエチルの混合溶媒を用いたが、他の非水溶媒例えば、プロピレンカーボネートなどの環状エステル、テトラヒドロフランなどの環状エーテル、ジメトキシエタンなどの鎖状エーテル、プロピオン酸メチルなどの鎖状エステルなどの非水溶媒や、これらの多元系混合溶媒を用いても同様の効果が得られる。
【0042】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明によるX線回折による結晶性を制御したニッケル−コバルト水酸化物は、放電容量の大きい優れた非水電解液二次電池を与える正極活物質リチウム複合ニッケル−コバルト酸化物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例における円筒型電池の縦断面図である。
【図2】本発明の実施例におけるニッケル−コバルト水酸化物のX線回折図である。
【図3】半価幅を説明する図である。
【符号の説明】
1 電池ケース
2 封口板
3 絶縁パッキング
4 極板群
5 正極板
5a 正極リード
6 負極板
6a 負極リード
7 セパレータ
8、9 絶縁リング
Claims (3)
- リチウム塩と混合、焼成してLixNiyCozO2(0.90≦x≦1.05、0.7≦y≦0.9、y+z=1)で表されるリチウム複合ニッケルーコバルト酸化物を合成するための原材料であるニッケル−コバルト水酸化物であって、硫酸ニッケルと硫酸コバルトから合成され、かつ、NivCow(OH)2(0.7≦v≦0.9、v+w=1)で表され、CuKα線を線源とするX線回折における(101)面のピークの半価幅が1.0゜以下であることを特徴とする非水電解液電池活物質用ニッケルーコバルト水酸化物。
- ニッケル−コバルト水酸化物は、CuKα線を線源とするX線回折における(101)面のピークの半価幅が0.3〜1.0゜の範囲である請求項1記載の非水電解液電池活物質用ニッケルーコバルト水酸化物。
- ニッケル−コバルト水酸化物は、CuKα線を線源とするX線回折における(101)面のピークと(001)面のピークの積分強度比(101)/(001)が0.9〜1.2の範囲にある請求項1記載の非水電解液電池活物質用ニッケルーコバルト水酸化物。
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