JP3948572B2 - 成形加工用潤滑処理アルミニウム板材 - Google Patents

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【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、成形加工用潤滑処理アルミニウム板材、詳しくは、アルミニウム(アルミニウム合金を含む、以下同じ)板を自動車用部品、家電用部品などに成形加工する場合、成形性を向上させるために、表面に潤滑処理を施した成形加工用アルミニウム板材に関する。
【0002】
【従来の技術】
軽量化の観点から、従来、鋼板から構成されていた自動車用部品、家電用部品にアルミニウム板を適用しようとする場合、鋼と同様の高強度を有するアルミニウムが選択使用されるが、高強度アルミニウム合金は一般に鋼より延性がわるく、鋼板に比べて深絞り性などの成形性が劣るため、部品への成形加工が困難な場合が少なくない。
【0003】
アルミニウム板を自動車用部品や家電用部品に成形する場合、成形性を向上させるために、予め表面に潤滑剤を塗布したアルミニウム板を使用することが行われており、発明者らは先に、下記(1)式で示されるα−オレフィン40〜95%、下記(2)式で示されるアルコキシアルキルエステル5〜60%からなる潤滑剤を表面に塗布した潤滑処理アルミニウム板を提案した。(特開平5-98274 号公報)
(1)CH=CH(CHCH(n=9〜27)
(2)RCOO(CHCHO)(R=C2n+1、n=9〜17、R=C2n+1、n=1〜17、m=1〜20)
【0004】
この潤滑処理アルミニウム板に塗布された潤滑剤は、成形時アルミニウム板と工具との摩擦を効果的に減少させるが、例えば複雑な形状の部品に成形する場合には、なお肌荒れや割れなどの欠陥を生じることがしばしば経験され、アルミニウム板に対してさらに安定した潤滑性を与える潤滑処理が要望されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、さらに潤滑性の優れた成形加工用潤滑処理アルミニウム板を得るために、先に提案した上記の潤滑剤処理アルミニウム板に塗布された潤滑剤における問題点を究明し、ベース油、添加剤などを多角的に見直した結果としてなされたものであり、その目的は、アルミニウム板に対して安定した潤滑性を付与するとともに、成形後フロンや有機塩素系溶剤などで脱脂する必要がなく、加熱除去または水洗浄除去が可能な潤滑剤を塗布した成形加工用潤滑剤処理アルミニウム板材を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するための請求項1による成形加工用潤滑処理アルミニウム板材は、アルミニウム板表面に、固体潤滑剤粒子として平均粒径が0.1〜5μmのフッ化カーボンを5〜80%含有し、残部がステアリン酸n−ブチルからなり、合計100%とした潤滑剤を500〜3000mg/m塗布したことを特徴とし、請求項2による成形加工用潤滑処理アルミニウム板材は、アルミニウム板表面に、固体潤滑剤粒子として平均粒径が0.1〜5μmの四フッ化エチレン樹脂を5〜80%含有し、残部がステアリン酸n−ブチルからなり、合計100%とした潤滑剤を500〜3000mg/m 塗布したことを特徴としする。
【0007】
また、請求項3による成形加工用潤滑処理アルミニウム板材は、アルミニウム板表面に、平均粒径が0.1〜5μmの四フッ化エチレン樹脂粒子5〜30%を含有し、残部が次式で示されるα−オレフィンからなり、合計100%とした潤滑剤を500〜2000mg/m塗布したことを特徴とする。
CH=CH(CHCH(n=7〜11)
【0008】
さらに、請求項4による成形加工用潤滑処理アルミニウム板材は、アルミニウム板表面に、平均粒径が0.1〜5μmの四フッ化エチレン樹脂5〜20%を含有し、つぎの(1)式で示されるα−オレフィン60〜90%およびつぎの(2)式で示されるアルコキシアルキルエステル5〜30%を含有してなり、合計100%とした潤滑剤を500〜2000mg/m塗布したことを特徴とする。
(1)CH=CH(CHCH(n=7〜11)
(2)RCOO(CHCHO)(R:C2n+1、n=9〜13、R:C2n+1、n=1〜3、m=1〜5)
【0009】
本発明に係る潤滑剤のベースとしては、ステアリン酸n−ブチルが好ましく、また上記のα−オレフィン、さらには上記(1)式で示されるα−オレフィンと上記(2)式で示されるアルコキシアルキルエステルの混合物も好適に使用される。α−オレフィンは、アルミニウムとの境界潤滑性に優れているとともに、特定のC数のものを選択使用することにより揮発性を向上させ、成形後の潤滑剤の除去作用を促進させる。好ましいα−オレフィンとしては、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセンなどが挙げられ、これらを単独または組み合わせて使用することができる。
【0010】
アルコキシアルキルエステルは、アルミニウム板に優れた潤滑性を付与するとともに、自己乳化性を有し潤滑剤の洗浄性の向上に寄与する。例えば、カプリン酸2−メトキシエチル、カプリン酸2−エトキシエチル、ラウリン酸メチルエチレンオキサイド2モル付加物、ラウリン酸プロピルエチレンオキサイド4モル付加物、ミリスチン酸プロピルエチレンオキサイド5モル付加物などが好適に用いられ、これらは単独または組み合わせて使用するすることができる。
【0011】
本発明の基本的実施態様は、アルミニウム板表面に、ステアリン酸n−ブチルをベース油とし、該ベース油に平均粒径が0.1〜5μmの固体潤滑剤粒子を5〜80%含有する潤滑剤を500〜3000mg/m塗布することにある。固体潤滑剤粒子としては、フッ化カーボンおよび四フッ化エチレン樹脂が使用するのが好ましい。これらの固体潤滑剤粒子は、アルミニウム板の成形加工時に、アルミニウム板と成形ダイスの間にそれらの粒径に応じた隙間を形成し、潤滑剤の膜厚を維持するとともに、摩擦係数を低くし剪断抵抗を低減させる。
【0012】
固体潤滑剤粒子の平均粒径は0.1〜5μmの範囲が好ましく、0.1μm未満では、成形時滑り部での潤滑剤の膜厚が薄くなり易いため摩擦係数の低減効果が小さく、5μmを越えると、成形されるアルミニウム表面に固体潤滑剤粒子が存在しない部分が増加するために摩擦係数が高くなり易い。
【0013】
潤滑剤中の固体潤滑剤粒子の含有量は5〜80%の範囲が好ましく、5%未満では摩擦係数の低減効果が十分でなく、80%を越えて含有すると、潤滑剤の流動性が低下し、滑り部への固体潤滑剤粒子の導入が不十分となり易い。アルミニウム表面への潤滑剤の塗布はロールコーターや静電塗布装置を使用して行われ、塗布量は500〜3000mg/mの範囲が好ましい。500mg/m未満の塗布では摩擦係数の低減効果が小さく、3000mg/mを越えて塗布されると、成形後の潤滑剤の水洗浄除去が困難となり易い。本発明による潤滑剤は薄膜でも安定した潤滑性を示すので、軽度の加工では塗布量が500mg/mでも十分な潤滑性が得られる。
【0014】
本発明の別の実施態様は、固体潤滑剤粒子として四フッ化エチレン樹脂5〜30%を含有させ、残部がn数7〜11の前記α−オレインからなる潤滑剤を使用するものである。四フッ化エチレン樹脂の含有量が30%を越えると、潤滑剤の流動性が低下して滑り部への四フッ化エチレン樹脂粒子の導入が十分でなくなるため摩擦係数の減少効果が得られ難い。ベース油となるα−オレフィンのn数が7未満では潤滑性が十分でなく、7〜11の範囲で安定した潤滑性能が得られる。この実施態様においては、アルミニウム板表面に対する潤滑剤の塗布量を500〜2000mg/mの範囲とするのが望ましい。
【0015】
本発明のさらに別の実施態様は、固体潤滑剤として四フッ化エチレン樹脂5〜20%を含有させ、残部がn数7〜11の前記α−オレフィン60〜90%と、Rのn数が9〜13、Rのn数が1〜3、mが1〜5のアルコキシアルキルエステル5〜30%からなる潤滑剤を使用するものである。四フッ化エチレン樹脂の含有量が30%を越えると、潤滑剤の流動性が低下して、滑り部への四フッ化エチレン樹脂粒子の導入が十分でなくなるため摩擦係数の減少効果が得られ難い。
【0016】
α−オレフィンにおけるn数が7〜11、アルコキシアルキルエステルにおけるRのn数が9〜13、Rのn数が1〜3、mが1〜5の範囲で、安定した潤滑性が与えられる。アルコキシアルキルエステルの含有量が5%未満では潤滑性が不足し、成形後水洗による潤滑剤の除去が困難となる。アルコキシアルキルエステルの含有量が30%を越えるとα−オレフィンの含有量が減少して潤滑性が低下する。本実施態様においても、潤滑剤の塗布量を500〜2000mg/mの範囲とするのが好ましい。
【0017】
【作用】
本発明においては、特定粒径の固体潤滑剤粒子を潤滑剤中に含有させることにより、成形加工時アルミニウム板と成形用ダイスとの間に粒子の径に応じた隙間が形成されて潤滑剤の膜厚が維持されるとともに、固体潤滑剤粒子の含有量を特定の範囲に規制することによって潤滑剤に適度の流動性が与えられ摩擦係数が減少する。潤滑剤のベース油として低粘度鉱油、ステアリン酸n−ブチル、α−オレフィン、アルコキシアルキルエステルを使用することにより、成形後の潤滑剤の水洗浄性、加熱除去性が向上する。
【0018】
【実施例】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明する。
実施例1
Al−Mg系アルミニウム合金、JIS5182合金の板材(調質:軟化(O)材、寸法:長さ200mm、幅30mm、厚さ1mm)の表面に、フッ化カーボンを含有させた表1に示す潤滑剤を塗布し、図1に示すように、アルミニウム板Sを板押え治具2で支持し、ポンチ1で成形する試験装置を使用してU字曲げ試験を行い、板押え力(H)とポンチ荷重(P)から摩擦係数を求め、潤滑剤の潤滑性能を評価した。なお、板押え力(H)は3000〜9000N、滑り速度は4mm/sで、P=A+2μHの関係から摩擦係数μを求めた。結果を表1に示す。
【0019】
また潤滑剤を塗布した上記板材を、液温50℃のリン酸ソーダの2%溶液中に2分間浸漬した後、水洗し、水洗後の水濡れ面積の大小から脱脂性(潤滑剤の除去容易性)を評価した。結果を表1に示す。表1に示されるように、本発明に従う試験材1〜6はいずれも、摩擦係数が0.20以下の優れた潤滑性を示し、脱脂後の水濡れ性も80%以上で、良好な脱脂性を示した。
【0020】
【表1】
Figure 0003948572
【0021】
実施例2
実施例1と同一のアルミニウム合金板材の表面に、固体潤滑材粒子として四フッ化エチレン樹脂粒子を含有させた表に示される潤滑剤を塗布し、実施例1と同様に潤滑性および脱脂性を評価した。結果を表に示す。表に示されるように、本発明に従う試験材7〜12はいずれも、摩擦係数が0.20以下の優れた潤滑性能をそなえ、水濡れ性80%以上の良好な脱脂性を示した。
【0022】
【表
Figure 0003948572
【0023】
実施例3
実施例1と同一のアルミニウム合金板材の表面に、表に示される組成を有する潤滑剤を塗布し、実施例1と同様に、潤滑性および脱脂性を評価した。また、潤滑剤を塗布した板材を10℃/minの昇温速度で加熱して、加熱による潤滑剤の減量が70%に達する温度を測定し、潤滑剤の揮発性も評価した。評価結果を表に示す。表にみられるように、本発明に従う試験材13〜21はいずれも、摩擦係数が0.20以下の優れた潤滑性能を有し、水濡れ性は80%以上で良好な脱脂性を示し、加熱減量が70%に達する加熱温度は200℃以下であり、潤滑剤の揮発性も優れていた。
【0024】
【表
Figure 0003948572
【0025】
【表
Figure 0003948572
【0026】
比較例
実施例1と同一のアルミニウム合金板材の表面に、表に示される組成を有する潤滑剤を塗布し、実施例3と同様に、潤滑剤の潤滑性、脱脂性および揮発性を評価した。評価結果を表に示す。なお、表において、本発明の条件を外れるものには下線を付した。
【0027】
【表
Figure 0003948572
【0028】
【表
Figure 0003948572
【0029】
に示されるように、試験材No.22は潤滑剤の塗布量が少ないため摩擦係数が高く、No.23はα−オレフィンのC数が小さいため摩擦係数の低減効果が小さい。No.24は四フッ化エチレン樹脂粒子の径が小さく、No.25は粒径が大き過ぎるため、いずれも摩擦係数が高くなっている。No.26は潤滑剤の塗布量が多過ぎるため脱脂性、揮発性ともに劣る。No.27はアルコキシアルキルエステルのC数が小さいため摩擦係数が高く、No.28 30は、アルコキシアルキルエステルのC数、m数が大きいため揮発性がわるい。
【0030】
【発明の効果】
以上のとおり、本発明によれば、アルミニウム板を成形加工する場合、成形を容易にするとともに、成形後における潤滑剤の洗浄工程の省略または簡易化を可能とする成形加工用潤滑処理アルミニウム板が提供され、自動車用部品あるいは家電用部品の成形にきわめて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明における摩擦係数の測定のために行われるU字曲げ試験の概要を示す断面図である。
【符号の説明】
1 ポンチ
2 板押え治具
S アルミニウム板

Claims (4)

  1. アルミニウム板の表面に、固体潤滑剤粒子として平均粒径が0.1〜5μmのフッ化カーボンを5〜80%(重量%、以下同じ)含有し、残部がステアリン酸n−ブチルからなり、合計100%とした潤滑剤を500〜3000mg/m塗布したことを特徴とする成形加工用潤滑処理アルミニウム板材。
  2. アルミニウム板の表面に、固体潤滑剤粒子として平均粒径が0.1〜5μmの四フッ化エチレン樹脂を5〜80%(重量%、以下同じ)含有し、残部がステアリン酸n−ブチルからなり、合計100%とした潤滑剤を500〜3000mg/m塗布したことを特徴とする成形加工用潤滑処理アルミニウム板材。
  3. アルミニウム板の表面に、平均粒径が0.1〜5μmの四フッ化エチレン樹脂粒子を5〜30%含有し、残部が下記の式で示されるα−オレフィンからなり、合計100%とした潤滑剤を500〜2000mg/m塗布したことを特徴とする成形加工用潤滑処理アルミニウム板材。
    CH=CH(CHCH(n=7〜11)
  4. アルミニウム板の表面に、平均粒径が0.1〜5μmの四フッ化エチレン樹脂粒子を5〜20%含有し、下記(1)式で示されるα―オレフィン60〜90%と下記(2)式で示されるアルコキシアルキルエステル5〜30%とを含有してなり、合計100%とした潤滑剤を500〜2000mg/m塗布したことを特徴とする成形加工用潤滑処理アルミニウム板材。
    (1)CH=CH(CHCH(n=7〜11)
    (2)RCOO(CH O)
    :C2n+1(n=9〜13)
    :C2n+1(n=1〜3)
    m=1〜5
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