JP4923681B2 - 潤滑処理鋼板および潤滑皮膜形成用処理液 - Google Patents

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本発明は、潤滑処理鋼板、特に脱膜性、従って、化成処理性に優れた潤滑処理鋼板、ならびにその製造に用いる潤滑皮膜形成用処理液に関する。本発明に係る潤滑処理鋼板は、熱延鋼板と冷延鋼板のいずれを母材鋼板としても、安定した脱膜性、化成処理性、接着性が確保でき、かつ良好なプレス成形性、耐型カジリ性を発現することができる。
熱延鋼板、冷延鋼板を問わず、最近では、各種材料について高張力鋼が広く採用されるようになって来ている。
しかし、高張力鋼板はもともと成形性が十分でないので、高張力鋼板を成形する際には金型の焼付きが起こり易い。そのため、鋼板の成形性を高める手段を講じて、金型の焼付き防止を図ることが求められる。
鋼板の成形性を改善する手段として、ミルボンドで代表される有機系の潤滑皮膜を鋼板表面に塗布する方法がある。有機系の潤滑皮膜は、成形性の改善効果は大きいが、皮膜の厚みが大きいため、プレス加工時に皮膜の剥離によるプレスかすの発生が不可避である。発生したプレスかすは、加工表面を汚染する、表面欠陥の原因になる、といった問題がある。特に、自動車用トルクコンバータ部品といった精密機器では、加工後に残存するプレスかす、汚れ等は、内部の機械動作不良の原因になる。そのため、プレスかすが低減でき、良好な可能性が確保できる鋼板の潤滑処理が求められる。
この要望に対して、次のように無機物、特にリチウムシリケートを適用した潤滑皮膜を鋼板表面に形成する潤滑処理に関する提案がいくつかなされている。
例えば、特許第2998790号明細書(特許文献1)および特許第2953654号明細書(特許文献2)に開示された潤滑皮膜は、有機樹脂と固形潤滑剤を添加したリチウムシリケート皮膜である。皮膜の造膜性と耐食性を確保するために、有機樹脂の添加が前提となっている。
特許2857989号明細書(特許文献3)には、固形潤滑剤を添加したリチウムシリケート皮膜が開示されている。成形性の向上を目的として、高軟化点のワックスと低軟化点のワックス併用する考え方が開示されている。しかし、皮膜の表面が実質的に低軟化点(低融点)のワックスで覆われるため、化成処理性が悪い。
特開2002−307613号公報(特許文献4)には、化成処理性、接着性、成形性に優れた潤滑処理鋼板として、リチウムシリケート皮膜が開示されている。具体的には、リチウムシリケートのLi分がLi/Si(原子比)=0.4〜0.7であり、かつ潤滑剤/リチウムシリケート質量比を0.1〜2.0とすることで、良好な化成処理性、接着性、成形性を得ることができる。
特開2000−309793号公報(特許文献5)には、化成処理後の金属材料の塑性加工用水系潤滑剤として、「無機塩+金属石鹸+ワックス」の組合せ処理が開示されているが、この技術では脱膜性が考慮されていない。
特開2004−99949号公報(特許文献6)には、塑性加工用金属材料の表面に、リン酸塩、硫酸塩、ホウ酸塩、ケイ酸塩、モリブデン酸塩およびタングステン酸塩から選ばれた少なくとも1種の無機化合物と、金属石鹸、ワックス、ポリテトラフルオロエチレン、二硫化モリブデンおよびグラファイトから選ばれた少なくとも1種の滑剤を主成分とする水系処理液を接触させた後、乾燥して、金属との界面側に位置する前記無機化合物を主成分とするベース層と表面側に位置する前記滑剤を主成分とする滑剤層とに分離した2層潤滑皮膜を形成することが開示されている。
特許第2998790号明細書 特許第2953654号明細書 特許第2857989号明細書 特開2002−307613号公報 特開2000−309793号公報 特開2004−99949号公報
本発明の課題は、プレス成形後に塗装が施される自動車用鋼材に要求される、脱膜性、化成処理性、接着性、および成形性を確保することができ、したがって車体パネルに適用可能な、熱延鋼板もしくは冷延鋼板をベースとする潤滑処理鋼板を提供することである。
めっき鋼板とは異なり、熱延鋼板・冷延鋼板の潤滑処理では、プレス成形性も重要であるが、むしろプレス加工時の型カジリの抑制が問題になる。今後、自動車用構造部材として高張力鋼板の適用が拡大していくと、型カジリの抑制はより大きな問題となると予想される。
したがって、本発明の更なる課題は、車体パネル用鋼板として要求される、脱膜性、化成処理性、接着性を確保した上で、特に厳しい成形性が要求され、高張力鋼板の適用が進行していく車体構造部品にも耐えうるプレス成形性、耐型カジリ性を確保するとともに、プレスかすの発生が少なく、自動車用鋼材として幅広く適用できる、熱延鋼板・冷延鋼板をベースとする潤滑処理鋼板を提供することである。
上述した特許文献に記載された従来技術には、良好なプレス成形性と耐型カジリ性が得られる潤滑性に加えて、脱膜性、化成処理性、接着性のいずれにも優れた潤滑皮膜を備えたものはなかった。
例えば、特許文献4に記載のリチウムシリケート質皮膜を有する潤滑処理鋼板は、少ない付着量の潤滑皮膜で良好なプレス成形を確保できるため、型カジリやプレスかす発生が抑制され、接着性にも優れているが、化成処理性と脱膜性になお不十分であった。
自動車用の潤滑処理鋼板では、プレス成形後に塗装されることが多いため、塗装前処理として行われるアルカリ脱脂によって、化成処理前に潤滑皮膜を完全に脱膜することが求められる。潤滑皮膜が残っている部分には化成皮膜がつきにくく、したがって塗装がのらないため、塗装ムラの原因となるからである。
本発明者らは、皮膜形成成分が無機化合物である方が、有機化合物である場合より特に耐型カジリ性がよくなることに着目し、潤滑性は無論、接着性にも優れ、特に脱膜性のよい潤滑皮膜について検討した。
その結果、皮膜形成成分がアルカリ金属ホウ酸塩である場合に、潤滑剤としてワックスに特定の金属石鹸(ステアリン酸亜鉛)を併用することにより、従来のリチウムシリケート系皮膜を著しく超える、非常に良好な脱膜性が得られることを見出し、本発明に到達した。
本発明は、皮膜形成成分中に潤滑剤を含有する潤滑皮膜を鋼板表面に備えた潤滑処理鋼板であって、該皮膜形成成分がアルカリ金属ホウ酸塩であり、該潤滑剤がステアリン酸亜鉛とワックスとの混合物であることを特徴とする、潤滑処理鋼板である。
潤滑剤/皮膜形成成分の固形分質量比は0.1〜2.0の範囲内であり、ステアリン酸亜鉛/ワックスの質量比は0.3〜5.0の範囲内であることが好ましい。また、皮膜形成成分と潤滑剤との総量が10〜1000mg/m2であることも好ましい。
別の側面からは、本発明は、アルカリ金属ホウ酸塩からなる皮膜形成成分と、ステアリン酸亜鉛およびワックスからなる潤滑剤とを含有し、潤滑剤/皮膜形成成分の固形分質量比が0.1〜2.0の範囲内であり、ステアリン酸亜鉛/ワックスの質量比が0.3〜5.0の範囲内である、潤滑皮膜形成用処理液である。
この処理液は、さらにポリアクリル酸および非イオン界面活性剤から選ばれた少なくとも1種の成分をさらに含有していてもよい。この成分は、処理液中においては分散剤として作用することにより、処理液の安定性を高める効果を発揮する。処理液のpHは好ましくは10〜13の範囲である。
本発明によれば、無機皮膜形成成分としてリチウムシリケートの代わりにアルカリ金属ホウ酸塩を使用することによって、リチウムシリケートを利用した特許文献4に記載されているのと同程度の優れた接着性、潤滑性、耐型カジリ性を確保しながら、脱膜性を大きく向上させることができる。その結果、潤滑性の向上のために付着量を比較的大きくしても、自動車用鋼材として広く適用するのに必要な良好な脱膜性と化成処理性とが得られ、金型焼き付き防止できると共に、化成処理性、接着性が一層向上するので、潤滑処理鋼板を自動車用により好適に適用することができる。
特に、将来的に自動車用鋼材として適用の拡大が見込める高張力鋼において、より過酷な成形に耐えうるとともに、従来の処理では適用が困難であった自動車用鋼材としての必須性能である化成処理性および接着性が確保できる点において、本発明の工業的貢献度は極めて高い。
本発明の潤滑処理鋼板のベース鋼板は、金型かじりなどが問題となる限り、高張力鋼はもちろん、一般の低炭、極低炭軟鋼、各種の合金鋼等を含む広範囲の鋼種の鋼板から要求性能に応じて選択できる。ベース鋼板は熱延鋼板と冷延鋼板のいずれでもよい。但し、本発明の潤滑処理鋼板は優れたプレス成形性を付与できるので、プレス成形が困難な高張力鋼板をベース鋼板とする場合に特に優れた成形性改善効果を得ることができる。
本発明の潤滑処理鋼板の用途は、自動車車体等の自動車構造材を念頭においているが、それに制限されるものではなく、プレス成形用の任意の鋼板に本発明を適用することができる。本発明の潤滑処理鋼板の有利な特性を生かすには、化成処理性、プレス成形性、接着性が要求される用途が好ましい。つまり、プレス成形後に接着剤を用いて接着され、さらに塗装が施される用途である。但し、接着以外の接合方法(例、溶接)が採用される用途にも、もちろん使用可能である。
本発明の潤滑処理鋼板は、ベース鋼板の表面に、アルカリ金属ホウ酸塩から成る皮膜形成成分に潤滑剤を含有させた潤滑皮膜を備える。この潤滑皮膜の皮膜形成成分は、従来の一般的な潤滑皮膜に皮膜形成成分として含有されているアクリル樹脂、ウレタン樹脂といった有機樹脂を実質的に含有していない。つまり、皮膜形成成分は、実質的に完全に無機質であって、かつ本質的にアルカリ金属ホウ酸塩のみからなる。但し、固形分基準で皮膜形成成分の10質量%以下、好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下の量であれば、他の皮膜形成成分(有機または無機)の1種または2種以上を共存させることもできる。アルカリ金属ホウ酸塩(以下、単にホウ酸塩ともいう)としては、四ホウ酸カリウム、四ホウ酸ナトリウムなどを使用することができるが、これらに限られるものではない。
プレス成形性を確保するために、潤滑皮膜に潤滑剤を含有させる。潤滑剤として、ワックスと金属石鹸との混合物を使用する。ワックスは比較的融点の低いもの(融点≦130℃)が多く、特に室温からワックス融点の温度域での成形性改善効果が大である。しかし、強加工時の金型焼付きを起こしやすい高温時(≧130℃)の潤滑性は不充分である。このような高温時の潤滑性は金属石鹸により確保することができる。潤滑剤として金属石鹸とワックスとを併用することにより、広い温度域で良好な潤滑性、したがって成形性改善効果を確保することができる。
アルカリ金属ホウ酸塩と潤滑剤(金属石鹸+ワックス)との組み合わせからなる皮膜は、高い潤滑性能、特に高い耐型カジリ性を示し、接着性にも優れた潤滑皮膜を形成し、プレスかす発生を抑制できる。この場合、潤滑剤として用いる金属石鹸がステアリン酸亜鉛であると、他の金属石鹸を使用した場合に比べて、潤滑皮膜の脱膜性が著しく向上することが判明した。その結果、例えば、繰り返し使用された脱脂液のように脱脂力が低下した脱脂液を用いた場合にも良好な脱膜性が得られるので、脱脂液の使用寿命が延び、化成処理性が安定化する。
本発明において使用できるワックスとしては、ポリエチレンワックス、カルナバワックス、パラフィンワックス、ワックス等があげられる。シリケートが水溶性であるため、水中での分散性または溶解性が良好なワックスが好適である。具体的には、水分散性のポリエチレンワックスやテフロン(登録商標)ワックス、またはそれらの混合物を好適に使用することができる。
金属石鹸としては、上述したようにステアリン酸亜鉛を使用する。但し、ステアリン酸亜鉛より少量であれば、他の金属石鹸を併用してもよい。他の金属石鹸を併用する場合、他の金属石鹸の量は金属石鹸全体の30質量%以下が好ましく、より好ましくは10質量%以下である。
潤滑剤は、成形性以外に、化成処理性や接着性にも影響を及ぼす。そのため、潤滑剤の量(ワックスと金属石鹸の合計量)は、潤滑剤/皮膜形成成分の質量比が0.1〜2.0となる量とすることが好ましく、この質量比はより好ましくは0.5〜1.5である。潤滑剤の量がこの範囲内であると、潤滑処理鋼板の成形性、化成処理性が改善された上で、接着性の確保も可能となる。上記質量比が3.0を越えると、成形性改善効果が飽和してしまうか、むしろ、皮膜の脆弱化に伴い、成形性が劣化傾向となるとともに、接着性が劣化する。一方、上記重量比が0.1を下回ると、成形性が十分でなくなる。
金属石鹸/ワックスの質量比は0.3〜5.0とすることが好ましく、より好ましくは0.5〜3.0の範囲とする。この範囲内では、耐型カジリ性を重視する場合に高温時の潤滑性を改善することができる。
接着性に関しては、皮膜形成成分がアルカリ金属ホウ酸塩であっても、シリケート皮膜と同様に良好な接着性の確保が可能とである。一方、潤滑剤として使用するワックスは、非常に不活性であるため、基本的に接着剤とは反応しない。従って、潤滑皮膜がワックスを多量に含有すると、接着性が劣化する。一方、金属石鹸はワックスほどは接着剤との相性が悪くない。従って、潤滑剤として金属石鹸をワックスに併用することは、接着性の劣化抑制の点でも効果的である。
潤滑剤の化成処理性への影響に関しては、潤滑剤の添加量が多くなると、脱膜性が向上し、従って化成処理性が向上する。化成処理性の確保の観点からも、潤滑剤/皮膜形成成分の質量比を0.1以上とし、金属石鹸/ワックスの質量比を0.3以上にすることが好ましい。
潤滑皮膜は、上記成分に加えて、処理液の安定性と潤滑皮膜の成形性を改善する目的で、ポリアクリル酸および非イオン性界面活性剤から選ばれた少なくとも1種の成分を分散剤としてさらに含有することが好ましい。好ましい分散剤はポリアクリル酸(PA)であるが、慣用の非イオン界面活性剤、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(POLE)などのポリオキシエチレンエーテル類も使用できる。
ポリアクリル酸および非イオン界面活性剤から選ばれた分散剤を使用する場合、潤滑皮膜中(従って、処理液の全固形分中)の分散剤の量は0.1〜5質量%、好ましくは0.5〜2質量%とする。0.1質量%より少ないと目的とする効果が十分に得られず、5質量%より多いと、相対的に他の成分の含有量が少なくなり、潤滑皮膜の密着性や成形性に悪影響を及ぼすことがある。
本発明の潤滑処理鋼板は、上述した成分を含有する潤滑皮膜形成用処理液を鋼板表面に塗布し、乾燥することにより製造される。即ち、潤滑皮膜形成用処理液は、アルカリ金属ホウ酸塩と潤滑剤のワックスおよびステアリン酸亜鉛と、場合によりさらに上記分散剤といった他の成分を含有する。潤滑剤の合計量は潤滑剤/皮膜形成成分の質量比が0.1〜2.0となるである。潤滑剤のステアリン酸亜鉛/ワックス質量比は0.3〜5.0とすることが好ましい。
処理液のpHは液安定性に影響する。本発明では、処理液pHを10〜13とするのが好ましい。pH10未満では、アルカリ金属ホウ酸塩の溶解性が低下し沈殿物が生成しやすくなる。pH13以上では潤滑剤の分散が低下して分離しやすくなる。
本発明の潤滑皮膜形成用処理液は、例えば、アルカリ金属ホウ酸塩の水溶液にポリアクリル酸および/または非イオン界面活性剤(使用する場合)を添加し、さらに潤滑剤のワックスと金属石鹸を添加して、よく攪拌し、潤滑剤を液中に分散させることにより調製することができる。
潤滑処理皮膜の皮膜量(皮膜形成成分と潤滑剤との合計量、即ち、本発明の場合はアルカリ金属ホウ酸塩+ワックス+ステアリン酸亜鉛の合計量)は10〜1000mg/m2の範囲とすることが好ましく、より好適な範囲は100〜500mg/m2である。付着量が10mg/m2未満であると、高潤滑性防錆油なみの成形性を確保することが困難となる。一方、付着量が1000mg/m2を超えると、潤滑皮膜が厚くなりすぎて、接着性評価において皮膜内で凝集破壊が生じるようになる上、アルカリ脱脂による脱膜が不完全になり易く、化成処理性が劣化することがある。
成形性に関して、潤滑皮膜の付着量が100mg/m2以上あれば、成形性に優れるミルボンド以上の成形性が確保でき、500mg/m2未満であれば、冷延鋼板と同等の化成処理性が確保できる。
処理液の塗布方法は、所定付着量の潤滑皮膜を形成できれば、特に問わない。具体的な塗布方法としては、処理液をスプレーし、所定量にロールで絞るシャワーリンガー法、ロールにてコーティングするロールコート法等があげられる。また、処理液後の乾燥については、皮膜が乾燥すれば充分であり、温風乾燥で対応可能であるが、加熱炉で加熱してもよい。
皮膜形成成分となる四ホウ酸カリウムの水溶液に、ワックス、金属石鹸、および分散剤を添加し、よく攪拌して均一に分散させて、潤滑皮膜形成用処理液を調製した。比較のため、皮膜形成成分としてLi/Si原子比が0.5または1.0であるリチウムシリケートの水溶液を使用して同様に潤滑皮膜形成用処理液を調製した。
各処理液の組成を表1にまとめて示す。表中、シリケートはリチウムシリケート、ホウ酸塩は四ホウ酸カリウム(即ち、アルカリ金属ホウ酸塩)をそれぞれ意味する。
使用したワックス、金属石鹸および分散剤は次の通りであった(カッコ内は表1に用いた記号):
ワックス:水溶性ポリエチレンワックス(PE)
金属石鹸:ステアリン酸亜鉛(St−Zn)またはステアリン酸カルシウム(St−Ca、比較用)
分散剤:ポリアクリル酸(PA)。
この処理液を、試験ごとに所定の鋼板の片面に、所定量の潤滑皮膜付着量(リチウムシリケートまたはアルカリ金属ホウ酸塩の固形分基準での量)になるようにロールコートし、熱風乾燥(板温=50℃)を行って、潤滑皮膜を形成した。
比較材として、ミルボンドのMC560J(塗布量=1.2g/m2)を用意し、併せて評価に供した。
形成された潤滑皮膜について、化成処理性、成形性、耐カジリ性、耐プレスかす性、接着性を評価した。その評価方法と判定基準は以下の通りである。これらの試験結果は表2にまとめて示す。
(化成処理性)
日本鉄鋼連盟規格の590MPa級高降伏比型冷延鋼板JSC590R(板厚=1.0mm)を処理原板とし、この鋼板の片面に試験する潤滑皮膜を形成したのち、化成処理性試験に供した。本試験において高張力鋼を採用した理由は、高張力鋼板はもともと化成処理性が一般軟鋼に比較して劣っているためである。
試験する潤滑処理鋼板をpH=10に調整したFC−E2001(日本パーカライジング製)に60秒間浸漬して脱脂した後、PB−WL35(日本パーカライジング製)を用いて指定の条件で化成処理を行った。形成された化成皮膜の外観観察と、化成結晶成長状態のSEM観察(倍率:×500倍)により、結晶のミクロ的なスケ状態を観察した。
判定基準:SEMにより求めたスケ発生面積率が、
◎=1%未満、○=1〜5%、△=5〜10%、×>10%。なお、均一な塗装外観を得るには、スケ発生面積率は0%(すなわち、評価が◎)であることが求められる。
(プレス成形性)
日本鉄鋼連盟規格の軟鋼板JSC270D(板厚=0.8mm)を処理原板として用い、この鋼板の片面に試験する潤滑皮膜を形成し、一般防錆油を2g/m2塗油した後、図1に示す要領で円筒深絞り試験を実施した。その評価基準は、以下の通りである。
判定基準:成形限界しわ抑え圧が、
◎+≧425kN、◎≧375kN(ミルボンド以上)、○=150〜375kN(高潤滑性防錆油以上)、×<150kN
(耐型カジリ性)
日本鉄鋼連盟規格の490MPa級汎用型熱延鋼板JSH440W(板厚=3.2mm)を処理原板として用い、その片面に試験する潤滑皮膜を形成し、一般防錆油を2g/m2塗油した後、クランクプレス曲げによる型カジリ性評価を実施した。その際の加工条件と評価方法は図2に示す通りであり、しごき率=15%で連続10枚成形後の10枚目のサンプルでの正常部残存率を評価した。
判定基準として、耐型カジリ性が良好なミルボンド(MC560J、塗布量=1.2g/m2)の同条件での正常部残存率が75%であることから、それ以上を合格とし、全く型カジリが発生しないものを最良とした。
加工条件:サンプルサイズ:25×150mm;クリアランス:2.72mm(しごき率=15%);成形回数:連続10枚
判定基準:正常部残存率が、
◎=100%、○=75〜100%(ミルボンド以上)、×<75%。
あわせて、本試験での摺動部のである側壁外観を観察することにより、摺動部でのプレスかすの発生状況を評価した。型カジリ試験により、潤滑皮膜が擦れ、剥離し、皮膜が型にビルドアップして鋼板に再付着することで、カジリ部にプレスかすが再付着するのであるが、蒸気脱脂により除去可能な場合は問題なしと判断した。
判断基準:側壁外観観察で、
◎:プレスかすによる黒変発生なし、○:プレスかすにより黒変発生するも蒸気脱脂により黒変除去可能、×:プレスかすによる黒変発生し、蒸気脱脂により除去不可能。
(接着性)
日本鉄鋼連盟規格の軟鋼板JSC270D(板厚=0.8mm)を処理原板として用い、その片面に試験する潤滑皮膜を形成し、一般防錆油を2g/m2塗油した後、図3に示す接着性試験を実施した。その評価基準は、以下の通りである。
判断基準:接着強度が、
◎≧4.0kN(高潤滑性防錆油以上)、○=3.5〜4.0kN(ミルボンド以上)、×<3.5kN。
Figure 0004923681
Figure 0004923681
表2の結果から分かるように、本発明にしたがって、皮膜形成成分がアルカリ金属ホウ酸塩で、潤滑剤がワックスとステアリン酸亜鉛であると、皮膜形成成分がリチウムシリケートで潤滑剤が同じであるか、皮膜形成成分が同じで潤滑剤の金属石鹸がステアリン酸カルシウムである場合に比べて、潤滑皮膜の脱膜性が著しく向上し、pH=10の脱脂力が低いアルカリ脱脂液でも十分に潤滑皮膜を脱膜することができ、安定した化成処理性を確保することができた。
即ち、皮膜形成成分がアルカリ金属ホウ酸塩であっても、リチウムシリケート皮膜の場合と同様の優れた成形性、耐型カジリ性、プレスかす発生の抑制、接着性などの効果を得ることができ、かつリチウムシリケートの弱点であった脱膜性と化成処理性を改善することができた。
円筒深絞り成形による成形性評価方法の模式図である。 耐型カジリ性の評価試験方法およびその測定方法を示す模式図である。 接着性(構造用接着剤)評価試験方法の模式図である。

Claims (5)

  1. 皮膜形成成分中に潤滑剤を含有する潤滑皮膜を鋼板表面に備えた、プレス成形後に潤滑被膜が除去されて化成処理が施されるプレス成形用潤滑処理鋼板であって、該皮膜形成成分がアルカリ金属ホウ酸塩であり、該潤滑剤がステアリン酸亜鉛とワックスとの混合物であり、皮膜形成成分と潤滑剤との総量が10〜1000mg/m 2 であることを特徴とする、プレス成形用潤滑処理鋼板。
  2. 潤滑剤/皮膜形成成分の固形分質量比が0.1〜2.0の範囲内であり、ステアリン酸亜鉛/ワックスの質量比が0.3〜5.0の範囲内である、請求項1に記載の潤滑処理鋼板。
  3. 請求項1または2に記載の潤滑処理鋼板の潤滑皮膜形成に用いる潤滑皮膜形成用処理液であって、アルカリ金属ホウ酸塩からなる皮膜形成成分と、ステアリン酸亜鉛およびワックスからなる潤滑剤とを含有し、潤滑剤/皮膜形成成分の固形分質量比が0.1〜2.0の範囲内であり、ステアリン酸亜鉛/ワックスの質量比が0.3〜5.0の範囲内である、潤滑皮膜形成用処理液。
  4. ポリアクリル酸および非イオン界面活性剤から選ばれた少なくとも1種を分散剤としてさらに含有する、請求項に記載の潤滑皮膜形成用処理液。
  5. pHが10〜13の範囲である請求項またはに記載の潤滑皮膜形成用処理液。
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