JP3866062B2 - 成形性および溶接作業性に優れたステンレス被覆処理鋼板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ステンレス被覆処理鋼板、特に成形性および溶接作業性に優れたステンレス被覆処理鋼板に関する。さらに詳述すれば、本発明は、例えばステンレス熱間圧延焼鈍酸洗板またはステンレス冷間圧延鋼板を母材とし、良好なプレス成形性および耐型カジリ性が発現されるとともに溶接時の作業性も良好であるステンレス被覆処理鋼板に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、ステンレス鋼板に対しては、例えば、自動車部品においてはプレス成形の際の材料歩留りや品位の向上、さらには工程省略等の要請が増加しており、一方、厨房機器や家電製品においてはより複雑な形状へのプレス成形等の要請が高まっている。このように、多くの分野から、ステンレス鋼板に対する成形性の向上が強く要求されている。これまで、ステンレス鋼板にプレス加工を行うに際しては、高粘度のプレス油を塗布したり、あるいは表面保護フィルムを装着していた。しかし、これでは作業環境が汚染されたり、保護フィルムの装着・剥離作業や廃却に手間を要するという問題があった。
【0003】
そこで、ステンレス鋼板が有する優れた特性をできるだけ損なうことなく、これらの問題を改善するため、環境に優しい所謂エコマテリアルとして、ステンレス被覆処理鋼板が注目されている。このステンレス被覆処理鋼板は、ステンレス鋼からなる母材の表面に数μm 程度の厚さの被覆処理層である皮膜を形成したステンレス鋼板である。このステンレス被覆処理鋼板は、プレス油を塗布しなくても優れたプレス成形性を奏することから、プレス油や表面保護フィルムを省略することが可能である。例えば特開平8−252887号公報には、アクリル樹脂からなる上層皮膜とエポキシ変性アクリル樹脂からなる下層皮膜との2層構造のアルカリ可溶型保護皮膜を有し、耐型カジリ性に優れたステンレス被覆処理鋼板が、また特開平11−268184号公報には、カルボキシル基を有するウレタン樹脂からなる耐型カジリ性および加工性に優れたアルカリ可溶型樹脂皮膜を有するステンレス被覆処理鋼板が、それぞれ開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、近年、ステンレス被覆処理鋼板の加工環境はますます過酷なものとなってきている。例えば、ステンレス被覆処理鋼板が用いられている自動車エンジン用エキゾーストマニホールドについて見ると、軽量化や居住空間の確保等の観点からエンジン周辺の省スペース化が強力に推進されていることから、その加工形状はますます複雑なものとなってきている。このため、ステンレス被覆処理鋼板にプレス成形を行って複雑な形状のエキゾーストマニホールドを製造しようとすると、プレス割れや型カジリ等が頻発する。一方、ステンレス被覆処理鋼板は、生産性を確保するため、クッション成形等の高速プレスで連続的に製造されたり、あるいはプレス成形後の脱脂工程を省略するためにプレス油を塗布しないでプレス成形されるようにもなってきた。
【0005】
このような加工環境の過酷化に伴って、これまでのステンレス被覆処理鋼板では、ダイス肩部やビ−ド部といった、局部的に高面圧となる部位において皮膜が剥離して、金型とステンレス鋼からなる母材との接触により型カジリが発生したり、剥離した皮膜のカス(いわゆるプレスカス)が金型に堆積して潤滑性が低下することに起因してプレス割れが発生したり、さらには、高速連続プレスによる加工発熱により皮膜の潤滑性能が劣化し、プレス成形性や耐型カジリ性が大幅に低下してしまうという問題が顕在化してきた。特に、型カジリが一度発生すると、成形品の外観品質を著しく損なうばかりでなくプレス割れの原因にもなる。このため、金型の手入れが必要となり、生産性が大きく損なわれてしまう。
【0006】
このような皮膜の剥離に起因した型カジリの発生や、加工発熱による潤滑性や型カジリ性の劣化を抑制するためには、皮膜の厚膜化を図ればよいのではと一見考えられる。しかし、皮膜の厚膜化によっても明確な効果が得られないばかりか、皮膜の剥離量が増加することに起因して、かえって剥離したプレスカスによるプレス成形後の表面汚染、表面欠陥さらにはプレス割れという不具合が一層顕著になる。金型からプレスカスを除去すればこれらの問題は解消されるものの、型手入れの頻度が増えるため生産性の低下を招いてしまう。
【0007】
また、プレス油の省略に伴う脱脂工程の省略により、これまでのステンレス被覆処理鋼板には溶接時の作業性に問題があることも判明した。すなわち、ステンレス表面被覆鋼板にプレス成形等を行って成形された部品は、その後に、TIG 溶接、MIG 溶接、アーク溶接さらにはシーム溶接等の溶接方法により他部品と接合されるが、プレス油の省略に伴う脱脂工程の省略により、皮膜が表面に残留したままで溶接に供される。このため、溶接時にこの皮膜が燃えて、煙や臭気が発生し、溶接時の作業環境を著しく劣化させてしまう。このような作業環境の劣化を改善するには、作業場に集煙設備や換気設備を設置する必要が生じるために設備費が増加したり、専用の溶接作業スペースを確保する必要が生じる。
【0008】
このため、これまでのステンレス被覆処理鋼板よりも、プレス成形性、型カジリ性およびプレスカス性がいずれも良好であり、さらに溶接時の作業性も優れたステンレス被覆処理鋼板が求められているが、これらの要求を満足することができるステンレス被覆処理鋼板はこれまで存在しなかった。
【0009】
本発明の目的は、特に成形性および溶接作業性に優れたステンレス被覆処理鋼板を提供することである。
具体的には、本発明の目的は、少ない処理量であっても良好なプレス成形性、型カジリ防止さらにはプレス成形時のプレスカス抑制に効果があり、さらに、溶接作業時に煙や臭気が発生せず溶接作業性も良好であるという2つの性能を併せ持つことから、自動車、厨房機器さらには家電製品等の各種部品に幅広く適用することができるステンレス被覆処理鋼板を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らはかかる課題を解決するために、各種の皮膜を表面に形成されたステンレス被覆処理鋼板のプレス成形性、型カジリ性、プレスカス性および溶接作業性について鋭意検討を重ねた結果、以下に列記する知見(i) 〜(iv)を得た。
【0011】
(i) 型カジリ性の向上やプレスカスの発生抑制のためには、皮膜自体の硬質化を図ることが重要である。この点、主としてケイ酸を含んだリチウムシリケートをベース組成物として有する皮膜は、硬度が高く有利である。また、成形性向上のために皮膜に潤滑剤を大量添加するが、この潤滑剤を保持するためにも、ベース皮膜構造としてシリケートを採用することが有効である。
【0012】
(ii)ステンレス鋼板のような強度の高い材料の厳しい加工環境下における型カジリ性を向上させるためには、高面圧あるいは高速プレスにおいても皮膜が変質せず優れた潤滑性を保持することが重要である。優れた型カジリ性を確保するためには、皮膜の硬質化以外に高温での潤滑性を向上させる必要があり、高温潤滑性を確保するためには金属石鹸の添加が有効である。
【0013】
(iii) 溶接時の作業性を確保するためには、通常常套的に用いられるアクリル樹脂、メタクリル酸樹脂さらにはウレタン樹脂等の有機樹脂は使用しないほうがよい。すなわち、優れた加工性を維持しつつ溶接時に煙や臭気が発生することなく優れた作業性を確保するためにもリチウムシリケートが好適である。また、潤滑性を確保するために添加されるワックスの粒径も溶接作業性に影響を及ぼすものであり、ワックス粒径がl.0 μm を超えると溶接作業性が著しく低下する。
【0014】
(iv)これら皮膜の付着量は、母材であるステンレス鋼板の成形性および型カジリ性を確保するためには、リチウムシリケートと潤滑剤との総量が、0.3g/m2 以上3.Og/m2 以下が好適である。
【0015】
(v) すなわち、ベース皮膜にリチウムシリケートを採用し、それにワックス類と金属石鹸類の2種類の潤滑剤をある一定比率で添加したステンレス被覆皮膜を用いることによって、複雑な加工形状を高速連続プレスで成形するという極めて厳しい加工環境下において、優れたプレス成形性、型カジリ性およびプレスカス性を確保できる。また、ステンレス鋼の表面に皮膜が付着した状態で溶接する場合、皮膜に有機系組成を有するものが添加されると、溶接時における煙や臭気の発生の原因となるため、従来一般的に用いられる有機樹脂を採用しない皮膜組成が好適であり、さらに極めて優れた溶接作業性を確保するために、有機組成を有するワックスの添加条件、特にその粒径が溶接作業性に大きく影響する。
【0016】
なお、従来にあっても、シリケートを適用した処埋皮膜に関する提案が幾つかなされている。例えば、特許第2998790 号公報に開示された潤滑皮膜は、有機樹脂と固形潤滑剤とを添加したリチウムシリケート皮膜であって、皮膜の造膜性と耐食性の向上を図るために有機樹脂を皮膜に添加することを前提とする。しかし、皮膜に有機樹脂を添加すると、高温潤滑性を十分確保できず、ステンレス鋼板のような強度の高い材料の型カジリ性を充分に防止できない。また、溶接時の作業性も改善できない。また、特許2857989 号公報には、有機樹脂と固形潤滑剤とを添加したリチウムシリケート皮膜が開示されているが、これも前述したように、皮膜の造膜性と耐食性の向上とを図るために、有機樹脂の添加を前提とする。
【0017】
しかし、前述したように、プレス時の型カジリの防止効果および溶接作業性の改善効果が不充分である。さらに、特許2857989 号公報には、成形性の向上を図るために、高軟化点のワックスと低軟化点のワックスとを併用する考え方が開示されている。確かにワックスを添加することにより常温での潤滑性能は確保できるものの、高速連続プレスのような厳しい加工環境下では高温での潤滑性能が不十分となり、ステンレス鋼板のような難加工材では型カジリ性が不足する。
【0018】
本発明は、いっそうの難加工化および高速連続成形化が推進されているステンレス鋼板のかかる課題を解決するため、従来以上にプレス成形性、型カジリ性およびプレスカス性に優れ、さらには、これまでは殆ど検討されることがなかった溶接作業性にも優れた、新規なステンレス被覆処理鋼板を上述した知見に基づいて提供するものである。
【0019】
本発明は、リチウムシリケートを皮膜成分としてこれに潤滑剤が配合されて構成される皮膜を少なくとも一方の面に備えるステンレス被覆処理鋼板であって、リチウムシリケート中のLi分が、原子比でLi/Si =0.2 〜0.7 であり、潤滑剤が質量比で、(潤滑剤の総質量) / (リチウムシリケートの質量) =0.3 〜1.8 であり、潤滑剤が金属石鹸類から選ばれた潤滑剤1と、ワックス類から選ばれた潤滑剤2とから成るとともに (潤滑剤1の質量) / (潤滑剤2の質量) =0.4 〜4.5 であり、さらに潤滑剤2の粒径が1.0 μm 以下であることを特徴とするステンレス被覆処理鋼板である。この本発明にかかるステンレス被覆処理鋼板は、リチウムシリケートと潤滑剤との総量が0.3 〜3.Og/m2 であることが望ましい。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明にかかるステンレス被覆処理鋼板の実施の形態を詳細に説明する。まず、母材であるステンレス鋼板の少なくとも一方の表面に形成される皮膜の構成を限定する理由を説明する。
【0021】
本実施の形態における潤滑処理鋼板の潤滑皮膜は、リチウムシリケートから成る基体皮膜に潤滑剤を配合してなるものである。しかし、その製造に当たっては、この種の皮膜に通常添加されるアクリル樹脂、メタクリル酸樹脂さらにはウレタン樹脂等の有機樹脂を実質上添加せずに、潤滑剤を分散させたリチウムシリケートを用い、必要により水酸化リチウムを添加して(Li/Si) 比を調整し、このようにして調整された塗布液を鋼板表面に塗布して乾燥させることにより製造される。リチウムシリケート単独で皮膜の骨格を構成することが、好ましい。
【0022】
本実施の形態において鋼板表面にリチウムシリケート皮膜を形成するには、例えばケイ酸リチウム水溶液またはケイ酸リチウム水溶液とケイ酸コロイドの混合物からなる塗布液を調製し、これを鋼板表面に塗布して乾燥すればよく、これにより、微細なシリカ粒子の強固な乾燥ゲルからなるガラス質の皮膜が形成される。
【0023】
なお、鋼板表面に設けたリチウムシリケート皮膜自体は、既に公知であって、本実施の形態においてもそれを利用すればよい。
本実施の形態においてリチウムシリケートを皮膜構造の構成要素として用いた理由はすでに述べたところであるが、そのときのリチウムの添加量を規定した理由は次の通りである。
【0024】
なお、リチウム量は、市販のモル比の異なるリチウムシリケートを適用した場合でも、必要に応じて、リチウムシリケートやナトリウムシリケートに水酸化リチウムを添加することにより、リチウム量およびシリカ量をそれぞれ所望の量に調整すればよい。
【0025】
すなわち、本実施の形態においてリチウムシリケート中のリチウム分は、原子比で(Li/Si) が0.2 以上0.7 以下と限定する。(Li/Si) の値が0.7 を超えると液安定性が劣化し、一方、0.2 未満であると造膜性が劣化するため優れた成形性や型カジリ性を確保することができないからである。同様の観点から、(Li/Si) の値は0.3 以上0.6 以下であることが望ましい。
【0026】
また、優れた成形性の確保には潤滑剤の添加が効果的であり、特に潤滑剤としてワックス類 (潤滑剤2) を添加することによって成形性は大きく向上する。ワックス類は、室温付近での成形性を改善する効果が大きい。しかしながら、高速連続プレスや強加工時の金型焼付を起こし易い100 ℃を超える高温環境下では潤滑効果が不安定である。
【0027】
本実施の形態において使用できるワックス類としては、ポリエチレンワックス、カルナバワックス、パラフィンワックスさらにはポリテトラフルオロエチレンワックス等が挙げられるが、シリケートが水溶性であることから、分散性の良好な水溶性のワックスが好適であり、具体的には、水分散性ポリエチレンワックス、あるいは水溶性のポリテトラフルオロエチレンワックスもしくはそれらの混合液を例示することができる。
【0028】
また、本実施の形態では、添加されるワックス類の粒径は1.0 μm 以下と限定する。ワックスの粒径が1.0 μm を超えるとリチウムシリケートにおける均一分散性が劣化し、ステンレス鋼板の表面に塗布した場合に、ワックスが部分的に凝集するために溶接時の煙や臭気の発生原因となり、好ましくない。
【0029】
また、高温時の潤滑性を補うためには、潤滑剤に金属石鹸類 (潤滑剤1) を添加することが効果的である。金属石鹸類をワックス類とともに併用することにより、優れた型カジリ性を示し、加工発熱によりプレス環境が高温となっても潤滑性能が低下せずより広い温度域で良好な潤滑性の確保が可能となる。高温潤滑性能に対し、ワックス類よりも金属石鹸類の方が有効である理由は必ずしも明らかではないが、ワックス類に比較し金属石鹸類のほうが高温での安定性に優れるためであると考えられる。
【0030】
本実施の形態において使用できる金属石鹸類としては、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、ラウリル酸塩、ドデシルベンゼンスルフォン酸塩等が例示されるが、これらのなかでもステアリン酸亜鉛が特に好適である。
【0031】
また、潤滑剤は、成形性以外に溶接作業性にも影響を及ぼす。したがって、本実施の形態にあっては、 (潤滑剤の総質量) / (リチウムシリケートの質量) =0.3 以上1.8 以下と限定する。これらの範囲に規定することにより、得られる潤滑処理鋼板のプレス成形性および型カジリ性が改善され、かつ溶接時における煙や臭気の発生が抑制され、優れた溶接作業性が確保される。上記質量比が1.8 を超えると、成形性改善効果が飽和してしまうか、むしろ、皮膜の脆弱化に伴い、成形性が劣化傾向となるとともに、潤滑剤成分、特にワックス類の影響で溶接時の煙や臭気の発生が顕著となる。一方、 (潤滑剤の総質量) / (リチウムシリケートの質量) の値が0.3 を下回ると成形性が十分でなくなる。同様の観点から、 (潤滑剤の総質量) / (リチウムシリケートの質量) の値は、0.5 以上1.5 以下であることが好ましい。
【0032】
本実施の形態の好適態様にあっては、潤滑剤としてワックス類および金属石鹸類を併用するが、併用する場合、 (金属石鹸類) / (ワックス類) の質量比は、0.4 以上4.5 以下と限定する。 (金属石鹸類) / (ワックス類) の質量比をこの範囲内に限定することにより、高温時の潤滑性を確保して型カジリ性を良好に維持することができる。 (金属石鹸類) / (ワックス類) の質量比が0.4 に満たないと所望の高温潤滑性能を確保することができなくなり、成形性や型カジリ性が低下する。一方、金属石鹸類の質量比が4.5 を超えると高温潤滑効果が飽和し、皮膜の安定性も低下するため必要以上の添加は好ましくない。同様の観点から、 (金属石鹸類) / (ワックス類) の質量比は、0.5 以上3.0 以下であることが望ましい。
【0033】
本発明における潤滑処理皮膜の処理量としては、0.3g/m2 以上3.0g/m2 以下であり、より好適な範囲としては、0.4g/m2 以上2.0g/m2 以下である。潤滑皮膜処理量が0.3g/m2 未満であると優れた成形性を確保することが困難となり、一方、処理量が3.0g/m2 超であると、成形性の向上効果が飽和するため液歩留まりの悪化を招き、プレスカス性や溶接作業性が低下するために好ましくない。
【0034】
本発明における潤滑処理材については、所定量の潤滑皮膜を形成することができればよく、その塗布方法は特定の方法である必要はない。具体的な塗布方法としては、処理液をスプレーした後に所定量にロールで絞るシャワーリンガー法や、ロールによりコーティングするロールコート法等が例示される。また、処理後の塗膜の乾燥手段についても、皮膜が乾燥する手段であればよく特定の手段には限定されない。例えば、温風乾燥でも充分な乾燥を図ることができる。
【0035】
また、本発明においてステンレス鋼からなる母材についても特定種に限定されるものではない。自動車、厨房機器さらには家電製品等の各種部品に一般的に用いられているSUS304、SUS430、SUS430JIL 、SUH409、SUS436L 等が例示される。また、表面仕様もJIS G4304 やG4305 に規定されたNo.1、2D、2B、BA等、何れのものでも良い。
【0036】
このようにして得られる本実施の形態のステンレス被覆処理鋼板によれば、良好な成形性および溶接作業性がともに得られる。
また、本実施の形態のステンレス被覆処理鋼板は、少ない処理量であっても良好なプレス成形性、型カジリ防止さらにはプレス成形時のプレスカス抑制に効果があり、さらに、溶接作業時に煙や臭気が発生せず溶接作業性も良好であるという2つの性能を併せ持つものである。このため、本実施の形態のステンレス被覆処理鋼板は、自動車、厨房機器さらには家電製品等の各種部品に幅広く適用することができる。
【0037】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
(実施例1)
表1に示す組成を有するSUS436L からなる、板厚1.2mm のステンレス鋼板を母材として、表2に示すように、Li含有比率(Li/Si) が0.2 〜0.7 の範囲で異なる各種リチウムシリケート液を準備し、ワックス類として、水溶性ポリエチレンワックス(PE)または水溶性ポリテトラフルオロエチレンワックス(PTFE)を、また金属石鹸類として、ステアリン酸カルシウム(St-Ca) 、ステアリン酸亜鉛(St-Zn) 、オレイン酸ソーダ(Or-Na) またはドデシルベンゼンスルフォン酸ソーダ(DBS-Na)を分散させ、所定量の潤滑処理量になるように母材の表面にロールコートし、熱風乾燥(板温=50℃)を行った。
【0038】
【表1】
【0039】
また、その比較材として、ミルボンド (日本油脂 (株) 、商標名)MC560J (塗布量=1.2g/m2)、および、シリケートとして、リチウムシリケート(Li/Si =0.4)に有機樹脂として水溶性アクリル樹脂をシリケート固形分に対して、5 %添加した樹脂含有シリケートを準備し、これに所定量の潤滑剤を添加した潤滑処理鋼板も併せて評価に供した。その際の各種処理試験片については、プレス成形性、耐型カジリ性、プレスカス性および溶接作業性を評価した。その評価方法および判定基準は以下に示す通りである。
【0040】
(プレス成形性)
パンチ直径50mmおよびパンチ肩半径5mmの円筒パンチを有する100 トン複動油圧式プレス機を用いて円筒深絞り試験を行った。この際、直径54mm、ダイス肩半径5mmのダイスを用い、母材は直径90mmの円形ブランクとしてパンチ速度200mm / 分の条件で円筒深絞り成形を行い、成形限界シワ押え圧によりプレス成形性を評価とした。なお、潤滑条件は無塗油の条件で行った。
【0041】
その評価基準は以下の通りであり、プレス油(日本工作油No.640)と同等以上を合格とし、ミルボンド以上を最良とした。
(判定基準)
◎:成形限界シワ押え圧 ≧200kN (ミルボンド以上)
○:成形限界シワ押え圧 160〜200kN (プレス油(日本工作油No.640)以上)
×:成形限界シワ押え圧 <160kN
(耐型カジリ性)
図1は、耐型カジリ性の評価試験方法およびその測定方法を示す模式図であって、図1(a) はポンチおよびダイの近傍を拡大して示す断面図であり、図1(b) は成形後のサンプルの形状を示す説明図である。
【0042】
耐型カジリ性は、図1に示すようにクランクプレス曲げによって評価した。すなわち、{ (板厚−クリアランス)/板厚}×100 により算出されるしごき率を10%として、連続して5枚成形した後における5枚目のサンプルでの正常部残存率{ (正常部幅/ 全幅) ×100 }を評価した。なお、加工条件を以下に列記する。
【0043】
(加工条件)
サンプルサイズ:30×150mm
クリアランス :1.08mm(しごき率=10%)
成形回数 :連続5枚
また、判定基準として、耐型かじり性が良好なミルボンド(MC560J、塗布量=1.2g/m2)が同条件での正常部残存率=50%であることから、50%以上を合格とし、正常部残存率≧80%のものを最良とした。
【0044】
(判定基準)
◎:正常部残存率 80〜100 %
○:正常部残存率 50〜80%未満 (ミルボンド同等)
×:正常部残存率 < 50%
【0045】
(プレスカス性)
プレスカス性は、プレス成形性と同様に円筒深絞り試験を行って評価した。すなわち、シワ押え圧を130kN とし、その他の条件はプレス成形性の評価と同一として、型手入れを行うことなく連続で10枚プレス成形を行い、10枚目の成形品の外観観察を行い、成形品の壁部に付着したプレスカスの程度を目視にて評価した。また、プレスカスの発生程度が著しいものは、連続プレスの途中でプレスカス起因による割れが発生したため、プレス割れの発生有無もあわせて判定基準とした。プレスカスの発生がないもの、あるいは軽度のものを合格とした。
【0046】
(判定基準)
◎:プレスカスなし 割れなし
○:プレスカス軽度 割れなし
△:プレスカスあり 割れなし
×:割れ発生
【0047】
(溶接作業性)
TIG 溶接により溶接作業性を評価した。すなわち、自動TIG 溶接機により電流8OA 、電圧10V 、トーチ送り速度400mm/分、アルゴンガスシール:ガス流量10L/分、溶接長さ400mm の条件で、TIG 溶接を行った。母材は被覆処理ままの状態であり、溶接部の脱脂等の前処理は行っていない。溶接作業時に明らかに皮膜の燃焼による煙や臭気(こげたような臭いを対象とした)が発生したか否かを評価し、煙および臭気が何れも発生しないものを合格とした。
【0048】
(判定基準)
○:煙および臭気ともに発生しない
△:煙あるいは臭気の何れかが発生した
×:煙および臭気ともに発生した
各皮膜組成における各種性能の評価結果を表2および表3にまとめて示す。
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
表2および表3から明らかなように、本発明例における皮膜組成を有するステンレス鋼板 (試料No.1〜試料No.23)は、従来のミルボンド(試料No.44)あるいは従来一般的に知られている有機系皮膜( 試料No.42 および試料No.43)と同等かそれ以上の優れたプレス成形性を有し、さらに、プレスカス性や溶接作業性がともに大幅に改善されていることがわかる。
【0052】
これに対し、試料No.24 〜試料No.44 は、本発明で規定する条件の少なくとも一つを満足しない比較例である。
例えば、試料No.24 や試料No.41 は、いずれも、シリケート量が適切でないために造膜性が安定せず、優れた成形性や型カジリ性を確保することができないとともに液の安定性が劣化し、ステンレス鋼板への均一塗布が困難であった。
【0053】
また、試料No.29 、試料No.30 および試料No.36 は、いずれも、シリケート成分に対して潤滑剤の総添加量が本発明で規定する範囲よりも少ないため、成形性や型カジリ性が劣化した。
【0054】
また、試料No.32 や試料No.37 は、潤滑剤添加量が本発明で規定する範囲よりも多いため、成形性の他に溶接作業性も低下した。
また、試料No.25 〜試料No.28 、試料No.38 〜試料No.40 は、いずれも、潤滑剤の総添加量が本発明で規定する範囲を満足するものの金属石鹸類とワックス類との添加比が本発明で規定する範囲を満足しないため、優れた成形性、型カジリ性、プレスカス性および溶接作業性を兼ね備えることができなかった。
【0055】
また、試料No.31 および試料No.34 は、いずれも、潤滑皮膜の付着量が本発明で規定する範囲よりも少ないため、優れた成形性を確保することができなかった。
【0056】
また、試料No.33 および試料No.35 は、いずれも、潤滑皮膜の付着量が本発明で規定する範囲よりも多いため、プレスカス性と溶接作業性とが低下した。
さらに、試料No.38 は、ワックス粒径が1.0 μm を超えるため、成形性、型カジリ性およびプレスカス性は優れるものの、溶接作業性が劣化した。
【0057】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明にかかるステンレス被覆処理鋼板は、優れたプレス成形性、型カジリ性およびプレスカス性を有しており、難加工化が進むステンレス鋼板からなる部品を、安定して量産化することができる。また、本発明にかかるステンレス被覆処理鋼板は、溶接時の煙や臭気の問題も改善されるため、脱脂工程の省略や溶接作業環境の大幅な改善を期待することができる。
【0058】
かかる効果を有する本発明の意義は極めて著しい。
【図面の簡単な説明】
【図1】耐型カジリ性の評価試験方法およびその測定方法を示す模式図である。
Claims (2)
- リチウムシリケートに潤滑剤が配合されて構成された皮膜を少なくとも一方の面に備えるステンレス被覆処理鋼板であって、前記リチウムシリケート中のLi分が、原子比でLi/Si=0.2〜0.7であり、潤滑剤が質量比で、(潤滑剤の総質量)/(リチウムシリケートの質量)=0.3〜1.8であり、前記潤滑剤が金属石鹸類から選ばれた潤滑剤1と、ワックス類から選ばれた潤滑剤2とから成るとともに(潤滑剤1の質量)/(潤滑剤2の質量)=0.4〜4.5であり、さらに潤滑剤2の粒径が1.0μm以下であることを特徴とするステンレス被覆処理鋼板。
- 前記リチウムシリケートと前記潤滑剤との総量が0.3〜3.0g/m2 であることを特徴とする請求項1に記載されたステンレス被覆処理鋼板。
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