JP3948113B2 - 軟磁性薄帯 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、トランス、リアクトル、モータなどの鉄心用として好適である高周波損失の低い軟磁性薄帯に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に軟磁性薄帯の損失は励磁周波数が高くなると急激に上昇することが知られている。一方、近年、軟磁性材料が広く用いられているトランス、リアクトル、モータなどの駆動周波数は、コアの小型化や高効率化をはかるために、年々高周波化してきている。
【0003】
この駆動周波数の高周波化に伴い、軟磁性薄帯の損失によるこれら鉄心の温度上昇や効率の低下が間題となるケースがとみに増加してきている。このような理由から軟磁性材料の高周波鉄損を低減することが必要とされるようになってきている。
【0004】
従来、軟磁性薄帯の高周波損失を低減する方法としては、珪素鋼板においてSi含有量を高めて固有抵抗を高くすることで高周波損失(この場合には高周波鉄損)を低減する方法と、板厚を薄くして渦電流損失を抑えることで高周波損失を低減する方法がとられている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来技術のうち、珪素鋼板のSi含有量を高める方法は、珪素鋼板の加工性を著しく低下させるため、珪素鋼板そのものの生産性の低下を招くことに加え、コア(鉄心)の加工コストの上昇も招くという問題点がある。
【0006】
また板厚を薄くする方法も、薄くするほど薄帯そのものの製造コストが増加し、なおかつコアの積層枚数が増えることからコアの製作コストの上昇を招くという問題点がある。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、トランス、リアクトル、モータなどのコア用として好適である高周波損失の低い軟磁性薄帯を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上述した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、軟磁性薄帯において薄帯中心部の透磁率に対する薄帯表面の透磁率を特徴の範囲に規定することにより、軟磁性薄帯の損失、特に高周波損失を著しく低くすることができることを見出した。
【0010】
本発明は、このような知見に基づいて完成されたものであって、C≦0.02質量%、Si、0.05質量%≦Mn≦0.5質量%、P≦0.01質量%、S≦0.02質量%、0.001質量%≦sol.Al≦0.06質量%、N≦0.01質量%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなり、厚さ方向に対してSi濃度勾配を有する軟磁性薄帯であって、薄帯の両表面の透磁率が、薄帯の板厚中心部の透磁率に対して2倍以上であり、Siを薄帯の全板厚の平均で3.5質量%以下含有することを特徴とする軟磁性薄帯を提供するものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下本発明について詳細に説明する。
本発明に係る軟磁性薄帯は、上述したように、薄帯表面の透磁率が、薄帯中心部の透磁率に対して2倍以上である。
【0013】
図1は、Fe−Si合金薄帯において、薄帯中心部の透磁率に対する薄帯表面の透磁率の比と高周波損失W1/10k(周波数10kHz、磁束密度1kGaussでの損失値)との関係を示す図である。
【0014】
図1より、薄帯中心部の透磁率に対する薄帯表面の透磁率の比を2倍以上とすれば、損失が著しく低下することがわかる。なお、軟磁性材料において透磁率が高ければ損失が低いことは一般的に知られているが、本発明のように薄帯表面の透磁率と薄帯中心部の透磁率との比に着目した例はない。このように、表面の透磁率を中心部の透磁率の2倍以上とすることにより、Fe−Si合金薄帯において最も軟磁気特性の優れた6.5質量%Siの均質材(全板厚にわたってSi量6.5質量%)の損失に対して、最大約30%損失を低減することができる。
【0015】
このように、全体にわたって均一な透磁率を有する薄帯よりも、本発明のように薄帯表面と中心部とで透磁率に違いを持たせることで損失が低減する理由は、薄帯表層を高透磁率とすることにより表層部分に磁束が集中し、その結果、薄帯中心部付近での渦電流が低減し、実効的に表皮効果がより強調される結果となるためのと考えられる。
【0016】
したがって、本発明は、原理的に材料に限定されるものではなく、上記Fe−Si合金薄帯に限らず、軟磁性材料一般に適用されるものである。また、本発明は薄帯表面の透磁率を薄帯中心部の透磁率の2倍以上にできさえすればよく、このような透磁率分布を形成する方法は限定されるものではないが、Fe−Si合金薄帯の場合には、板厚方向にSi濃度勾配を付与することでこのような透磁率分布を形成することができる。さらに、表面の高透磁率部の厚みは、板厚の5%以上であることが好ましい。本発明が適用される軟磁性材料としては、上記Fe−Si合金の他、Fe−Al、Fe−Co、Fe−Ni、パーマロイ、センダストが例示される。
【0017】
また、図2(出典:R.M.Bozorth,Ferromagnetusm,vanNostrand,NewYork,1951)に示されるように、Si量が少なくなるほど飽和磁束密度が高くなり、特にSi量が3.5質量%以下となると飽和磁束密度が2.0T(テスラ)以上と極めて高い値が得られる。したがって、本発明では、上記Fe−Si合金薄帯において、低い高周波損失を保ったまま飽和磁束密度を特に高くする条件として、薄帯表面の透磁率が、薄帯中心部の透磁率に対して2倍以上であること、および板厚方向にSi濃度勾配を有することの他、Siを平均3.5質量%以下含有することを規定する。
【0018】
なお、本発明でいう平均Si濃度は化学分析により得られる。また、Si濃度勾配は、サンブル断面についてEPMA(電子線プローブマイクロアナライザ)で分析することにより確認することができる。また、表層Si濃度を高くしていた厚方向にSi濃度勾配を形成するための方法には、特に限定されず、CVD、PVD等、種々の方法を採用することができる。
【0019】
さらに、本発明において、軟磁性薄帯としてFe−Si合金薄帯、つまり珪素鋼板を用いる場合には、Si以外の成分は、C≦0.02質量%、0.05質量%≦Mn≦0.5質量%、P≦0.01質量%、S≦0.02質量%、0.001質量%≦sol.Al≦0.06質量%、N≦0.01質量%の範囲であり、残部がFe及び不可避不純物である。
【0020】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
表1の組成を有する板厚0.1mmの鋼板を圧延法にて作製し、1200℃ののSiCl4雰囲気中で浸珪処理を行い、その後1200℃のN2雰囲気中で拡散処理を行って種々のSi濃度分布を有する珪素鋼板を作製した。Si濃度分布はサンブル断面についてEPMA(電子線ブローブマイクロアナライザ)で分析した。Si以外の元素の量は、浸珪、拡散処理の前後でほとんど変化しなかった。
【0021】
【表1】
【0022】
このようにして作製した鋼板から外径31mm、内径19mmのリング試料を採取し、周波数10kHz、磁束密度0.1Tでの交流磁気特性を測定した。図1は鉄損W1/10kの、鋼板表層透磁率と鋼板中心透磁率との比に対する依存性を示す図である。ただし、表層および板厚中心部の透磁率は、EPMAで測定したSi量から図3(出典::R.M.Bozorth,Ferromagnetusm,van Nostrand,NewYork,1951)によって求めた。
【0023】
図1に示すように、鋼板表面の透磁率が鋼板中心部の透磁率に対して2倍以上とすれば、高周波鉄損が著しく低下することが確認された。
【0024】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれぱ、加工性を損なうことなく、かつ板厚を低減することなしに、高周波鉄損の低い軟磁性薄帯を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】鉄損W1/10kの、鋼板表層透磁率と鋼板中心透磁率の比の板厚方向に対する依存性を示す図。
【図2】Fe−Si合金のSi量と飽和磁束密度との関係を示す図。
【図3】Fe−Si合金のSi量と最大透磁率との関係を示す図。
Claims (1)
- C≦0.02質量%、Si、0.05質量%≦Mn≦0.5質量%、P≦0.01質量%、S≦0.02質量%、0.001質量%≦sol.Al≦0.06質量%、N≦0.01質量%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなり、厚さ方向に対してSi濃度勾配を有する軟磁性薄帯であって、薄帯の両表面の透磁率が、薄帯の板厚中心部の透磁率に対して2倍以上であり、Siを薄帯の全板厚の平均で3.5質量%以下含有することを特徴とする軟磁性薄帯。
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