JP3944532B2 - 高純度β−クリプトキサンチンの製造方法 - Google Patents

高純度β−クリプトキサンチンの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明に技術分野】
本発明は、ミカン果汁の沈殿物および/または該沈殿物を脱水または乾燥した粉末からビタミンA効果を有するカロチノイドの一種であるβ-クリプトキサンチンを工業的に高純度で抽出製造する方法に関する。
【0002】
【発明の技術的背景】
β-クリプトキサンチンは、栄養成分としてプロビタミンAの特性を備えているだけでなく、最近の抗癌性物質の研究においては、人参等の緑黄色野菜に含有されているカロチノイドであるβ-カロチンよりも高い抗癌作用を有することが明らかになり関心を集めている(Biol. Pharm. Bull. 18,2,227,1995)。このβ-クリプトキサンチンは、柑橘類に広く含有されており、温州ミカンなどのマンダリン系の果実は、他の柑橘類に比べてカロチノイドを多量に含有しているだけでなく、特にβ-クリプトキサンチンを多量に含有している。このβ-クリプトキサンチンは、たとえば岡山大農学報(69),17-25(1987)に記載されているように、カラムクロマトグラフィ(CC)と薄層クロマトグラフィ(TLC)を用いて柑橘類からβ-クリプトキサンチンを分離することができる。
【0003】
また、東京医科大学紀要第18号(1992)pp,1-7等に記載されているように、柑橘類から高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を用いてβ-クリプトキサンチンを分離することもできる。
【0004】
しかしながら、岡山大農学報(69),17-25(1987)には、オープンカラムのクロマトグラフィ等を用いてβ-クリプトキサンチンを分離しているのであり、そのカラム中における展開溶媒の線速度は極めて低く2cm/分に至ることはない。このため、その処理能力は著しく低く、大量の原料を用いる工業的β-クリプトキサンチンの製造方法として利用することはできない。
【0005】
また、東京医科大学紀要第18号(1992)pp,1-7に記載されている方法によれば、いわゆる実験室レベルの量でβ-クリプトキサンチンを分離することができるのであり、この文献に記載の方法によって得られるβ-クリプトキサンチンの量は数十mgオーダーである。しかも、分析装置で用いられる充填剤は5μm程度であり、さらに分析装置のカラムの直径は5mm程度であるので、相当高圧で展開溶媒を圧入しなければならず、またその処理能力も著しく小さく、大量の原料を用いる工業的β-クリプトキサンチンの製造方法として利用することはできない。
【0006】
同様に、β-クリプトキサンチンの分離・定性を目的とした記載は、Journal of Food Biochemistry., 18, 273-283(1995), Major Carotenoids in Juice of Ponkan Mandarin and Liucheng Orange, S. D. Lin, A. O. Chen および Lebensm.-Wiss. u.-Technol., HPLC Quantitation of Major Carotenoids of Fresh and Processed Guava, Mango, and Papaya. Viktor C. Wilberg, Delia B. Rodriguez-Amaya. 等にある。
【0007】
柑橘類にはα-カロチン、β-カロチン、γ-カロチン、リコピンなどが含有されており、少量のβ-クリプトキサンチンを長時間かけて分離することは可能であるが、単にこうした実験室レベルの分離方法をスケールアップしただけでは工業的な規模で高純度のβ-クリプトキサンチンを単離することはできない。
【0008】
特に、従来の方法は、分離・定性を目的としたものであり、工業的規模で複数のカロチノイドの中からβ-クリプトキサンチンを効率よく分離することはできない。また、β-クリプトキサンチンは210nm付近にUV吸収帯を有しており、ステロール類も同様に210nm付近にUV吸収帯を有している。このように同様のUV吸収帯を有するβ-クリプトキサンチンとステロール類とも従来のカラムあるいは溶媒を用いたのでは分離することが極めて困難であった。
【0009】
【発明の目的】
本発明は、柑橘類を原料として、高速液体クロマトグラフィを用いて工業的に高純度のβ-クリプトキサンチンを製造する方法を提供することを目的としている。
【0010】
【発明の概要】
すなわち、本発明は、ミカン果汁の沈殿物および/または該沈殿物を脱水または乾燥した粉末からのβ-クリプトキサンチンを含有する溶剤抽出分を加水分解した後、該加水分解物を一次展開溶媒と共に平均粒子径10〜80μmのシリカ粉末が充填された第1カラムに線速度2cm/分以上の流速で導入してβ-クリプトキサンチンを含むフラクションを分離し、脱溶媒した後に、該分離物を二次展開溶媒と共に平均粒子径10〜80μmのオクタデシルシランシリカが充填された第二カラムに線速度2cm/分以上の流速で導入して、β-クリプトキサンチンを95重量%以上の量で含有するフラクションを分離することを特徴とする高純度β-クリプトキサンチンの製造方法である。
【0011】
本発明において、第二カラムに充填されるオクタデシルシランシリカとは、オクタデシルシラン基を共有結合させたシリカ粉末である。
本発明において、第1カラムに導入する一次展開溶媒を石油エーテルを含有する溶媒とし、第2カラムに導入する二次展開溶媒をアセトニトリルを含有する溶媒とすることにより、より高純度のβ-クリプトキサンチンを得ることができる。
【0012】
本発明によれば、ミカン果汁を圧搾した後のパルプから工業的規模でβ-クリプトキサンチンを分離精製することができる。
【0013】
【発明の具体的説明】
次に本発明の方法について具体的に説明する。
図1に本発明の好ましい工程図を示す。以下、この工程図に基づいて説明する。
【0014】
本発明において、β-クリプトキサンチンを得るための原料としては、ミカン果汁の沈殿物および/または該沈殿物を脱水または乾燥した粉末を用いる。一般に柑橘類の果皮、果肉には、約30種類以上のカロチノイドが含まれている(日食工誌18,468,1971)。このような柑橘類のなかでも温州ミカンを使用することが好ましい。温州ミカンの果皮のカロチノイド構成比は、その成育過程で大きく変化するものの、果肉のカロチノイドの構成比はほとんど変化しない(日食工誌18,359,1971)。このため、カロチノイドを色素としてのみ利用するのではなく、その整理活性に注目するのであれば、果皮や全果(果皮+果肉)よりも果肉を用いたほうが品質面で安定した原料の製造が可能となる。
【0015】
本発明において、β-クリプトキサンチンを得るための原料となる、ミカン果汁の沈殿物およびこの沈殿物を脱水または乾燥した粉末は、温州ミカンを例にして説明すれば、次のようにして製造される。
【0016】
温州ミカンの果実は、選果、洗浄を経て搾汁される。搾汁機にはインライン搾汁機、チョッパーパルパー搾汁機、ブラウン搾汁機などが一般に用いられる。搾汁された果汁は、じょうのう皮の小片や粗大なパルプを含んでおり、これらの夾雑物を除去するために、フィニッシャーなどで濾過処理して使用することが好ましい。濾過処理されたジュースは、そのままストレート果汁として保管されるか、または濃縮操作を行う場合もあるが、果汁のパルプ量調整のために遠心分離操作を行う場合もある。本発明においては、この遠心分離操作で得られた沈殿物(以下「沈殿物」と記載する)を原材料とする。なお、本発明者は、果汁中でのパルプとカロチノイド含量は比例して存在しているのではなく、パルプの大きな粒子よりもむしろ小さい粒子と共に存在しており、軽遠心分離と重遠心分離とを組み合わせることにより高レベルで含有する沈殿物を製造できることを見いだして既に出願している(特願平9-238853号明細書参照)。本発明では、この明細書記載の方法により得られた沈殿物を用いることが好ましい。
【0017】
さらに、上記のような処理方法によって得られる小粒子の沈殿物、すなわち軽遠心分離して得られる上清部をさらに重遠心分離して得られる沈殿部を用いることにより、より高レベルでカロチノイドを含有する原料を得ることができる。
【0018】
上記のようにして得られる沈殿物には、通常は、β-クリプトキサンチンが100〜250ppm程度の濃度で含有されており、たとえば通常の遠心分離操作で得られる沈殿物中におけるβ-クリプトキサンチン含量が30〜70ppm程度であることからして、本発明において原料として上記沈殿物を用いることが好ましい。
【0019】
また、本発明では、原材料として、上記沈殿物を脱水または乾燥した粉末を用いることもできる。この粉末は、沈殿物から水分を除去したものであるが、たとえば、次のようにして製造した粉末であってもよい。
【0020】
たとえば、カロチノイド含有天然物の粉砕物を水中で生体高分子分解酵素と反応させて得られた酵素反応を終えた時点で、生成物を遠心分離して固液分離して水溶性成分と固形分を分離して固形分を得る。次いでこの固形分を乾燥、粉砕してカロチノイドを高含有率で含有する粉末を製造し、この粉末を使用することができる。この方法に関しての詳細は特開昭62-190090号公報に記載されている。
また、柑橘類の果実を搾汁・濾過後、遠心分離して得られる沈殿物に酵素剤を添加して凍結し、緩慢に解凍した後、脱水することにより得られる粉末を使用することもできる(特願平10-123046号明細書参照)。さらに、上述のカロチノイドを高含有率で含有する粉末に水を加え、脱水する操作を繰り返した後、乾燥して水分を除去する方法により製造された粉末を使用することもできる。
【0021】
これらの沈殿物および粉末は、単独であるいは組み合わせて使用することもできる。以下、本発明において、これらの原料を総称して「原料沈澱物等」と記載することもある。
【0022】
上記のような原料沈澱物等に溶媒を加えて原料沈澱物等に含有されるカロチノイド類を抽出する。ここで使用することができる溶媒としては、ケトン類(例:アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン)、アルコール類(例:メタノール、エタノール、イソプロパノール)、飽和炭化水素類(例:n-ヘキサン、n-ヘプタン)を挙げることができる。このような溶媒の中でもケトン類、特にアセトンが好ましい。このような溶媒は、原料沈澱物等重量に対して、通常は5〜10倍量、好ましくは6〜10倍量使用する。
【0023】
次いで、こうして得られた抽出液から溶媒を除去する。溶媒の除去は減圧下に加熱することによって行われる。たとえば、アセトンを用いた場合、40〜70mmHgの減圧下に40℃程度に加熱することにより、アセトンを留去することができる。
【0024】
こうして抽出溶媒を除去した後、抽出物にエーテル類(例;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル)またはアルコール類(例:メタノール、エタノール)のような有機溶媒を加えて抽出物をこの有機溶媒に溶解させる。加える有機溶媒の量は、抽出物であるカロテノイド類の重量に対して通常は2〜4倍である。
【0025】
次いで、このカロテノイド類の有機溶媒溶液に含まれるカロテノイド類を加水分解(鹸化)する。
たとえば上記のようにして得られたカロテノイド類のエーテル溶液に、アルカリ金属の水酸化物水溶液とアルコールとを添加してカロテノイド類を加水分解する。すなわち、この加水分解工程は、このエーテル溶媒中のカロテノイド類は、組織内ではエステルとなって存在しているものが多いので、これらのエステルをアルカリ金属の水酸化物を用いて鹸化する工程である。
【0026】
ここで使用されるアルカリ金属の水酸化物としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等を挙げることができる。このような水酸化物を水に溶解して、5〜35%程度の濃度の水溶液を調製する。また、ここで使用されるアルコールとしては、メタノール、エタノールを挙げることができる。このアルコールと、アルカリ金属の水酸化物の水溶液とは、通常9:1〜4:1の容量比で混合される。または、5〜20%程度のアルカリ金属の水酸化物のアルコール溶液を、カルテノイド類のエーテルに混合して鹸化してもよい。
【0027】
アルカリ金属の水酸化物として水酸化カリウムを用い、アルコールとしてメタノールを用いた場合を例にして説明すると、水酸化カリウムの20%メタノール溶液を調製し、この溶液を上記カロテノイド類のエーテル溶液に加える。上記混合液は、カロテノイド類100重量部に対して通常は80〜120重量部の範囲内の量で用いられる。
【0028】
両者の混合は、撹拌下に行われることが好ましく、さらに、混合後、容器内の空気を窒素ガス等の不活性ガスで置換することが好ましい。
この加水分解の条件は適宜設定することができるが、通常は、カロテノイド類に上記水酸化アルカリ金属水溶液/アルコールを加えて、0〜5℃の温度で、12〜24時間の条件で行われる。また、加温鹸化の場合は、60〜70℃に加熱し、30分以内の条件で行われる。加水分解処理は、薄層クロマトグラフィによりその進行度を容易に確認することができる。このときの展開溶媒としては、ベンゼン/ジエチルエーテル/メタノール=50/45/5(V/V/V)等を用いることができる。
【0029】
こうして加水分解を行った後、この反応液を分液ロート等に移して、有機溶媒と水とを加えて、水層中のカロテノイド類を有機溶媒層に移行させる。ここで使用することができる有機溶媒としては、水に対する溶解度の低いものを使用することができ、このような有機溶媒の例としては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル等のエーテル類;n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン等の飽和炭化水素類を挙げることができる。特に本発明ではジエチルエーテルを用いることが好ましい。反応液を有機溶媒に溶解後、水を加え、たとえば、ジエチルエーテルを用いて抽出する場合、一回の抽出に使用するジエチルエーテルの量は、反応溶媒100重量部に対して、通常は1〜4重量部の範囲内にある。水層のカロテノイド類が有機溶媒層に移行すると、水層(下層)の色が赤色から黄色に退色すると共に、有機溶媒層(上層)が赤乃至オレンジ色に変わる。
【0030】
カロテノイド類を有機溶媒層に移行させた後、水層と有機溶媒層とを分離する。
このような操作を通常は1〜5回、好ましくは1〜3回行って、水層のカロテノイド類を有機溶媒層に移行させる。カロテノイド類が全て有機溶媒層に移行すると、下層がほとんど退色しなくなると共に、上層の着色もなくなる。
【0031】
なお、水層と有機溶媒層とが分離しにくい場合、たとえば両者のエマルジョン(乳濁)物が生成して両者の界面が明確でなくなることがあるが、このような場合には、少量のアルコール類(例;メタノール、エタノール)、または、エーテル類(例;ジエチルエーテル)を加えるか、塩化カリウムあるいは塩化ナトリウム等を加えることにより、水層と有機溶媒層との分離が容易になる。塩化カリウムあるいは塩化ナトリウム等を加える場合、これらは粉末で加えることもできるし、飽和水溶液で加えることもできる。
【0032】
こうして、分離された有機溶媒層にはアルカリ成分が含有されているので、このカロテノイド類の有機溶媒溶液を水洗して、アルカリ成分を除去する。
この水洗には、有機溶媒とほぼ同量程度の水を加えてアルカリ成分を水層に移行させた後、水層を有機溶媒層とを分離することにより行われる。通常この水洗は、洗浄液のpH値が通常は7.0〜8.5程度になるまで行われる。通常は、1〜8回、好ましくは3〜6回の水洗で、洗浄液のpH値が上記範囲内になる。
【0033】
こうして水洗されたカロテノイド類の有機溶媒溶液中には水分が含有されているので、本発明では、次いで、有機溶媒中に含有される水分を除去する。この水分の除去には、通常は無水硫酸ナトリウム(芒硝)、塩化カルシウム等が使用される。これらの脱水剤を有機溶媒に加えて水分を脱水剤に吸収させた後、脱水剤を濾過等により除去する。この脱水処理は、通常は、1回〜3回行われる。
【0034】
次いで、こうして脱水されたカロテノイド類の有機溶媒溶液から、有機溶媒を除去する。
有機溶媒は、通常は、エバポレーター等を用いて減圧下に除去される。
【0035】
上記のようにして有機溶媒を除去した後の残査を一次展開溶媒に溶解させる。
ここで用いられる一次展開溶媒としては、石油エーテルを主成分とする有機溶媒が好ましい。ここで使用される石油エーテルは、沸点範囲が35〜80℃の軽質精製石油留分であり、n-へキサンを40〜80重量%含有している。本発明ではこのような石油エーテルを単独で使用することもできるが、通常は他の有機溶媒と共に使用される。この石油エーテルと共に使用される有機溶媒としては、沸点から計算される溶解度パラメータが通常は6〜14、好ましくは7〜12の範囲内にある有機溶媒であり、このような有機溶媒の例としては、n-へキサン(溶解度パラメータ;7.3)、アセトン(溶解度パラメータ;9.4)、メタノール(溶解度パラメータ;12.9)、酢酸エチル(溶解度パラメータ;8.6)を挙げることができる。
【0036】
上記のような石油エーテルを主成分とする一次展開溶媒の好適な例を以下に示す。なお、以下に示す有機溶媒の混合比は容量比である。
石油エーテル/アセトン/メタノール(混合比の例;97.5/7/0.5)。
【0037】
特に本発明では石油エーテル/アセトン/メタノールからなる混合溶媒が好ましい。
本発明において、カロテノイド類は上記のような一次展開溶媒と共に第1カラムに導入される。
【0038】
本発明の方法で使用される第1カラムは、通常は直径10mm以上、長さが100mm以上、好ましくは直径が15〜300mmの範囲内にあり、長さが150〜1000mmの範囲内にある。分析用に使用される高速液体クロマトグラフィのカラム直径は、通常は2〜5mm程度であり、長さが150〜250mm程度であり、本発明で使用されるような直径が10mmを超えるカラムは分析用の高速液体クロマトグラフィのカラムとしては使用されない。
【0039】
本発明の方法で使用される第1カラムには、平均粒子径10〜80μm、好ましくは15〜60μmのシリカ粉末が充填されている。このような平均粒子径を有するシリカ粉末を用いることにより、圧力をそれほど高くしなくとも、分離能力を低下させることなく、高速でβ-クリプトキサンチンを分離することができ、しかも圧力損失も少なく抑えることができる。従って、大量の原料を使用することが可能となる。また、上記のような平均粒子径を有するシリカ粒子は、オープンカラムのクロマトグラフィ(CC)用のシリカ粒子としては粒子径が小さ過ぎる。
【0040】
本発明では、上記カロテノイド類を一次展開溶媒と共に上記第1カラムに導入する。そして、本発明では第1カラムにおける一次展開溶媒の線速度(流量をカラム断面積で除した値)を2cm/分以上、好ましくは3〜5cm/分の範囲内に設定する。そして、本発明の方法で使用される第1カラムの直径は、上述の通り、10mm以上、好適には15〜300mmであるから、第1カラムにおける一次展開溶媒の流量は6〜3500ml/分、好適には9〜3000ml/分になり、非常に効率よくβ-クリプトキサンチンを分離することができる。しかも、このような流速を達成するための圧力は、カラムの直径が大きいこと、および第1カラムに充填されるシリカ粒子の平均粒子径がそれほど小さくはないことから、通常は3〜30kg/cm2、好ましくは、5〜15kg/cm2程度であり、それほど高い液送圧力を必要としない。
【0041】
上記のような第1カラムにより、β-クリプトキサンチンを含むフラクションを分離する。カロテノイドは、VIS 450nmの紫外光線を用いることにより検出することができ、また、有機化合物全体の検出には210nmの紫外光が使用される。
【0042】
こうして分取されたフラクション中に含有されるカロテノイドは、ほぼ一種類であり、第1カラムにより分離されたカロテノイド中におけるβ-クリプトキサンチンの含有率は、通常は90重量%以上になる。
【0043】
こうして得られたフラクションから、一次展開溶媒を減圧下に除去してβ-クリプトキサンチンを高濃度で含有するカロテノイド類を得、次いで、このカロテノイド類を二次展開溶媒と共に第2カラムに導入して高純度のβ-クリプトキサンチンを分離する。
【0044】
ここで使用される二次展開溶媒としては、アセトニトリル(溶解度パラメータ11.8)を主成分とする有機溶媒であることが好ましい。殊に本発明においては、この二次展開溶媒としてこのアセトニトリルと溶解度パラメータが8.0〜9.5の範囲内にある塩素系溶剤とを組み合わせて使用することが好ましい。このような塩素系溶媒としては、四塩化炭素(溶解度パラメータ;8.6)、クロロホルム(溶解度パラメータ;9.1)、ジクロロメタン(溶解度パラメータ;9.6)、ジクロロエタン(溶解度パラメータ;9.7)、トリクロロエタン(溶解度パラメータ;8.4)を挙げることができる。また、塩素系溶剤の代わりにアセトン(溶解度パラメータ;9.4)、エタノール(溶解度パラメータ;11.2)を組み合わせた混合溶媒、さらに、ヘキサン(溶解度パラメータ;7.3)を組み合わせた混合溶媒を使用することができる。
【0045】
本発明において二次展開溶媒として好適な例を以下に示す。
アセトニトリル/ジクロロメタン(混合比例;95/5)。
特に本発明では、溶解度パラメータが11.8であるアセトニトリルと溶解度パラメータが9.6であるジクロロメタンとを組み合わせて使用することが好ましい。すなわち、アセトニトリルよりも溶解度パラメータが低い溶媒を組み合わせて使用することが好ましい。
【0046】
上記のような二次展開溶媒が導入される第2カラムは、通常は直径10mm以上、長さが100mm以上、好ましくは直径が15〜300mmの範囲内にあり、長さが150〜1000mmの範囲内にある。分析用に使用される高速液体クロマトグラフィのカラム直径は、通常は2〜5mm程度であり、長さが150〜250mm程度であり、本発明で使用されるような直径が10mmを超えるカラムは分析用の高速液体クロマトグラフィのカラムとしては使用されない。
【0047】
本発明の方法で使用される第2カラムには、平均粒子径10〜80μm、好ましくは15〜60μmのオクタデシルシランシリカ粉末が充填されている。このような平均粒子径を有するオクタデシルシランシリカ粉末を用いることにより、圧力をそれほど高くしなくとも、分離能力を低下させることなく、高速でβ-クリプトキサンチンを分離することができ、しかも圧力損失も少なく抑えることができる。従って、大量の原料を使用することが可能となる。
【0048】
本発明では、上記カロテノイド類を二次展開溶媒と共に上記第2カラムに導入する。そして、本発明では第2カラムにおける一次展開溶媒の線速度(流量をカラム断面積で除した値)を2cm/分以上、好ましくは3〜5cm/分の範囲内に設定する。そして、本発明の方法で使用される第2カラムの直径は、上述の通り、10mm以上、好適には15〜300mmであるから、第2カラムにおける二次展開溶媒の流量は6〜3500ml/分、好適には9〜3000ml/分になり、非常に効率よくβ-クリプトキサンチンを分離することができる。しかも、このような流速を達成するための圧力は、カラムの直径が大きいこと、および第2カラムに充填されるオクタデシルシランシリカ粒子の平均粒子径がそれほど小さくはないことから、通常は5〜60kg/cm2、好ましくは、5〜30kg/cm2程度であり、それほど高い液送圧力を必要としない。
【0049】
上記のような第2カラムにより、β-クリプトキサンチンを含むフラクションを分離する。カロテノイドは、VIS 450nmの紫外光線を用いることにより検出することができ、また、有機化合物全体の検出には210nmの紫外光が使用される。
【0050】
こうして第2カラムにより分離されるβ-クリプトキサンチンを含むフラクションから二次展開溶媒を除去することにより、β-クリプトキサンチンを高純度で製造することができる。このように異なるカラムを使用し、上記のようにして展開溶媒を変えて高速液体クロマトグラフィによりβ-クリプトキサンチンを分離することにより、β-クリプトキサンチンと他のカロテノイド類とをほぼ完全に分離することができ、最終フラクション中にはβ-クリプトキサンチン以外のカロテノイド類はほとんど含有されていない。
【0051】
すなわち、上記のようにすることにより、本発明の方法では、β-クリプトキサンチンを95%以上、好ましくは97%の高純度で得ることができる。
なお、二次展開溶媒は、通常は減圧下に除去される。
【0052】
このように本発明の方法によれば、ミカン果汁を圧搾した後の原料沈澱物等から高純度のβ-クリプトキサンチンを工業的な規模で単離することができる。
【0053】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、ミカン果汁圧搾後の原料沈澱物等から、上記異なる充填剤が充填された2種類のカラムを用いることにより、工業的な規模でβ-クリプトキサンチンを高純度で得ることができる。殊に、第1カラムにおける一次展開溶媒と第2カラムにおける二次展開溶媒とをカラム充填物に適応するように変えることにより、β-クリプトキサンチンをより高い純度で得ることが可能になる。
【0054】
さらに、本発明では、カラム充填剤の平均粒子径が10〜80μmの範囲内にあり、しかもカラム直径が従来分析装置に用いられている高速液体クロマトグラフィ用のカラムよりも大きいので、大量の原料を用いても圧力損失が少なく、大量の原料を用いて短時間で多量のβ-クリプトキサンチンを単離することができる。すなわち、具体的には、本発明の方法によれば、分析装置のカラムよりもカラム断面積が数倍大きいカラムを用いて、20倍〜5600倍の量のβ-クリプトキサンチンを製造することができる。
【0055】
【実施例】
次に本発明の実施例を示して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
【実施例1】
愛知県産のミカンを圧搾して得られた原料4kgに、この原料の約10倍の量のアセトン400リットルを用いてカロテノイド類を抽出した。
【0057】
この抽出液から、エバポレーターを用いて約40℃の温度で減圧(40mmHg)下にアセトンを除去した。
こうして得られたカロテノイド類800gに、3.2リットルのジエチルエーテルを加えてカロテノイド類のジエチルエーテル溶液を調製した。
【0058】
これとは別に、20%水酸化カリウム水溶液のメタノール溶液4リットルを上記カロテノイド類のジエチルエーテル溶液に撹拌しながら加えた。この容器に窒素ガスを導入して容器内の空気を窒素ガスで置換した後、冷蔵庫内(約5℃)で1晩放置した。
【0059】
一夜放置後、反応液の一部を取り、薄層クロマトグラフィ(TLC板;商品名;Kieselgel 60, Merck社製、展開溶媒;ベンゼン/ジエチルエーテル/メタノール=50/45/5(v/v/v))を用いて展開させたところ、加水分解物に起因するRfの小さなスポットが生じ、加水分解反応が充分に進行していることが確認された。
【0060】
反応液を分液ロートに移し、この反応液と同量のジエチルエーテル7.2mlを加えて水層のカロテノイド類を上層のエーテル層に移行させた。カロテノイド類の移行に伴い、下層の水層の色が赤から黄色に変化すると共に上層のエーテル層の色が赤乃至オレンジ色に変化した。
【0061】
一部エマルジョンが形成され、下層と上層との境界が明確でないので、2リットルのメタノールを加えた。これにより上層と下層との境界が明確になったので上層と下層とを分離した。
【0062】
分離した下層の水層に同様にジエチルエーテル3.6リットルを加えてさらに水層に含有されるカロテノイド類を回収した。
このようにしてジエチルエーテルを用いた抽出を合計3回行った。最後の回の抽出の際には、水層の退色およびエーテル層に変色はほとんど認められなかった。
【0063】
上記のようにして得られたエーテル溶液を分液ロートに移し、この分液ロートに等量の水を添加してエーテル溶液を洗浄した。この水洗を水層のpH値が8になるまで5回行った。
【0064】
上記のようにして水洗されたエーテル溶液20リットルに無水硫酸ナトリウム400gを添加してこのエーテル溶液を脱水した。
次いで、このエーテル溶液をエバポレーターに移して40℃、40mmHgの減圧下にジエチルエーテルを留去した。ジエチルエーテル留去後、エバポレーターを減圧に戻す際に窒素ガスを導入して、エバポレーター内を窒素雰囲気にした。
【0065】
一次展開溶媒として、石油エーテル/アセトン/メタノール=96.5/3/0.5(v/v/v)を調製した。
二次展開溶媒として、アセトニトリル/ジクロロメタン=95/5(v/v)を調製した。
【0066】
また、第1カラムは、直径100mm、長さ500mmのカラムに、粒子径15〜30μm(平均粒子径;20μm)のシリカ粒子(綜研化学(株)製)を充填して調製した。
【0067】
さらに、第2カラムは、直径100mm、長さ500mmのカラムに、粒子径15〜30μm(平均粒子径;20μm)のオクタデシルシランシリカ粒子(綜研化学(株)製)を充填して調製した。
【0068】
エバポレーターによってエーテルを留去した残査を上記一次展開溶媒と共に、第1カラムに導入した。このときの流速は320ml/分であり、一次展開溶媒の液送圧力は20kg/cm2であり、第1カラムの直径は100mmであるから、一次展開溶媒の線速度は4.1cm/分である。
【0069】
210nmのUVおよび450nmのVISを用いて流出分からカロテノイドを検出し、カロテノイドを含有するフラクションを分液した。
この分液したフラクションから、一次展開溶媒を減圧下に除去した。
【0070】
得られた残査を二次展開溶媒と共に第2カラムに導入した。このときの流速は320ml/分であり、二次展開溶媒の液送圧力は30kg/cm2であり、第1カラムの直径は100mmであるから、二次展開溶媒の線速度は4.1cm/分である。
【0071】
流出分からβ-クリプトキサンチンを上記と同様のUVおよびVISを用いて検知し、このフラクションを分液した。
二次展開溶媒を減圧下に留去することにより、9g(1バッチ0.6g、15バッチ)のβ-クリプトキサンチンを得た。得られたβ-クリプトキサンチンの純度は、100%であった。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明のβ-クリプトキサンチンの製造方法における好適な工程の例を示す図である。

Claims (4)

  1. ミカン果汁の沈殿物および/または該沈殿物を脱水または乾燥した粉末からのβ-クリプトキサンチンを含有する溶剤抽出分を加水分解した後、該加水分解物を一次展開溶媒と共に平均粒子径10〜80μmのシリカ粉末が充填された第1カラムに線速度2cm/分以上の流速で導入してβ-クリプトキサンチンを含むフラクションを分離し、脱溶媒した後に、該分離物を二次展開溶媒と共に平均粒子径10〜80μmのオクタデシルシランシリカが充填された第二カラムに線速度2cm/分以上の流速で導入して、β-クリプトキサンチンを95重量%以上の量で含有するフラクションを分離することを特徴とする高純度β-クリプトキサンチンの製造方法。
  2. 第1および第2カラムが、それぞれ独立に、直径10mm以上、長さが100mm以上であることを特徴とする請求項第1項記載の製造方法。
  3. 一次展開溶媒が、石油エーテルを主成分とする有機溶媒であることを特徴とする請求項第1項記載の製造方法。
  4. 二次展開溶媒が、アセトニトリルを主成分とする有機溶媒であることを特徴とする請求項第1項記載の製造方法。
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