JP3941461B2 - 新規dnaポリメラーゼ補助因子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は遺伝子操作用試薬として有用な、DNA 合成酵素のDNA鎖合成活性を促進する補助因子、及びそのタンパク質をコードする遺伝子に関する。
【0002】
【従来の技術】
鋳型DNAの塩基配列に従って、その相補的な配列を有するDNA鎖を合成することができるDNAポリメラーゼは、PCR(ポリメラーゼ チェイン リアクション)、DNA の塩基配列決定、部位特異的変異導入法などをはじめとする、遺伝子操作実験に必要不可欠の試薬として、日常的に利用されている。分子医学、分子生物学、生化学の発展のために果たしてきたこの酵素の貢献度は、計り知れないものがある。DNAポリメラーゼと称されるこの酵素について詳細にみると、各酵素によって生化学的性質は異なり、現在までに多くの種類のDNAポリメラーゼが商品として市場に出回っている。
【0003】
それぞれの酵素は、熱安定性や、合成鎖伸長能、ミス合成の校正能、鋳型DNAの好みなどの性質が異なり、実験目的によって使い分けられている。しかしながら、これらの酵素で、全ての実験目的が十分に満足に達成されることはなく、さらに、各目的に、より優れた新規DNA ポリメラーゼの開発が期待されている。
例えば、DNAポリメラーゼが伸長反応を行う際に、鋳型となるDNA鎖の配列条件などによって特定の配列領域で反応が停止してしまうポージング現象というものがある(Biochemistry、第34巻、第5003−5010ページ、1995年、Molecular and Cellular Biology、第17巻、第6367−6378ページ、1997年)。これが起ると必要な長さの伸長DNAが得られず、かつ不十分な長さのDNAが蓄積され基質等が空費されてしまう。ポージング現象が起る原因としては、鋳型DNA の特定の配列、鋳型DNAとDNAポリメラーゼとの組合わせによると考えられるが、今のところポージングを起さないような予防手段として適当な方法はない。この解決法の一つとして、できるだけポージングを起しにくいDNA合成系の開発が考えられる。より優れたDNA合成技術の発明のためには、より優れたDNAポリメラーゼを探索する方法と共に、既存の酵素の合成活性を促進するような新規な補助因子を見つけだす方法も考えられる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、DNAポリメラーゼのDNA合成活性を促進する新規なタンパク質因子を特定し、新たな生化学的性質を有する新規DNAポリメラーゼ複合体を遺伝子操作用試薬として提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意研究の結果、超好熱性古細菌アエロピルム ペルニクス(Aeropyrum pernix) から新規DNAポリメラーゼ補助活性を発見し、該タンパク質をコードする遺伝子をクローニングすることに成功した。
従って本発明は、熱安定性であり、DNAポリメラーゼのDNA合成活性を促進する活性を有し、DNA鎖の伸長反応におけるポージング現象を防止するタンパク質に関する。本発明のタンパク質は、DNAの合成反応においてDNAポリメラーゼと共に用いてその活性を促進させるDNAポリメラーゼの補助因子である。「ポージング現象」とはDNAポリメラーゼがDNA鎖の伸長反応を行う際に、鋳型となるDNA鎖の全領域が複製されず、特定の配列領域で伸長反応が停止する現象を言う。本明細書で用いる「熱安定性」とは50℃においても上記の活性を保持することを言う。
【0006】
好ましい態様においては、本発明のタンパク質は、配列番号1、2、3若しくは4に示されるアミノ酸配列、又は配列番号1、2、3若しくは4に示されるアミノ酸配列において1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列を含む。
【0007】
本発明はまたこれらのタンパク質をコードする遺伝子にも関する。
本発明は更に、これらの遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能で、DNAポリメラーゼのDNA合成活性を促進させるタンパク質をコードする遺伝子にも関する。
【0008】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能か否かは以下のようにして調べることができる。先ず、ナイロン膜にハイブリダイズの対象となるDNAを固定化する。次にこの膜を、6×SSC、0.01M EDTA、5×Denhardt's溶液、0.5%SDS、100μg/ml変性サケDNAを含むプレハイブリダイゼーション溶液に68℃で2時間浸漬する。上記組成のプレハイブリダイゼーション溶液に、標識した配列番号1、2、3又は4に示すアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子または該遺伝子の転写産物である対応するRNAを加えた溶液(ハイブリダイゼーション溶液)を調製する。この溶液に上で得られたナイロン膜を浸漬し、68℃で3〜16時間ハイブリダイズさせる。その後、2×SSC、0.5%SDSを含む溶液中に一度浸して洗浄し、さらに2×SSC、0.1%SDS溶液中で室温で約15分洗浄する。そしてさらに0.5%または0.1%SDS溶液中で68℃で2時間洗浄する。その後標識に応じ適宜な手段で検出操作を行う。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明者らは、遺伝子工学用試薬として優れた性質を有するDNA合成酵素の開発を目指し、特に熱安定性を期待して、超好熱性古細菌をスクリーニングしてきた。超好熱性好気性古細菌として単離同定された、アエロピルム ペルニクス(Aeropyrum pernix)細胞抽出液を陰イオン交換カラムクロマトグラフィーにかけて分画し、DNA鎖合成活性を測定したところ、2つの活性画分が検出された。さらに、これらのDNAポリメラーゼ活性に対応する蛋白質をコードする遺伝子を同定すべく、Aeropyrum pernixのゲノムDNAから、目的の遺伝子をクローニングすることを試みた。その結果2種類のDNA ポリメラーゼ遺伝子をクローニングすることに成功した。その塩基配列から推定されるアミノ酸配列は、どちらもファミリーBのDNAポリメラーゼらしく、いくつかの特異的なモチーフがよく保存されていた。 これらをそれぞれDNAポリメラーゼI(Pol-1)、DNAポリメラーゼII(Pol-2)と名付け、大腸菌を宿主として産生させる組換え系を構築し、新規 DNA 合成酵素として特許出願した(特願平11−956号)。
【0010】
本発明者らは、さらにこれらのDNA ポリメラーゼのDNA 鎖合成活性を促進する補助因子を探索した結果、Aeropyrum pernixゲノムDNAの中に、真核生物の増殖細胞核抗原(Proliferating Cell Nuclear Antigen: PCNA)に類似した配列をコードする遺伝子が3種存在することを発見し、それらをそれぞれ独立にクローニングして、大腸菌での発現ベクターに挿入して組換えタンパク質として産生させた。得られたタンパク質を精製し、それぞれApePCNA-1(配列番号1)、ApePCNA-2(配列番号2)、ApePCNA-3(配列番号3)、 ApePCNA-2L(配列番号4)と名付けて、生化学的性質解析を行った。ApePCNA-2Lは、ApePCNA-2をアミノ末端側に16アミノ酸延長したものである。ApePCNA-1、ApePCNA-2、ApePCNA-3、ApePCNA-2Lは全て、Aeropyrum pernix由来のPol-1、Pol-2双方に対してDNA 合成活性の促進活性を有することが分かった。
これら4種のPCNAの中でも、特にPCNA-3及びApePCNA-2LはDNAポリメラーゼのDNA合成活性に対する促進効果が大きく、PCNAを用いない反応系と比較して、Pol-1で約4〜8倍および約6倍、Pol-2では約40〜200倍及び約40倍の促進活性をそれぞれ示すことがわかった。またPCNA-1およびPCNA-2に関しても同様のDNA合成活性に対する効果を測定したところ、Pol-1で約2〜3倍、Pol-2では約5〜30倍の促進活性が見られた。またPCNA−3とPCNA-2Lを同時に使用することによってもDNAポリメラーゼの合成活性に対し、さらに強力な促進効果が見られ、PCNAを用いない場合に比べPol-1で約8倍、Pol-2では約110倍の促進活性があった。この促進活性はPCNA−3あるいはPCNA-2Lを単独で使用した時に比べPol-1で約2倍及び約1.5倍、Pol-2の場合には約3倍及び約4倍の促進活性の増強がそれぞれ見られた(表2)。
【0011】
加えて、本PCNAを使用することにより、従来のDNAポリメラーゼとPCNAの組み合わせでよく見られるポージング現象を回避できるという利点があることも見出した。通常DNAポリメラーゼとPCNAを組み合わせると、DNAあるいはRNAの複製は少なくとも2,000〜3,000ヌクレオチドの長さ、若しくはそれ以上の長さの鋳型DNAまで途切れずに複製されるが、ポージングが生じるとDNAあるいはRNAの複製は鋳型DNAの最後まで到達することなく停止してしまう。本発明者らは、PCR反応などによく使用されるPyrococcus furiosus由来のDNAポリメラーゼおよびPCNAを使用した場合にポージングがはっきりと見られる、すなわち約700ヌクレオチドの長さで複製が停止する、鋳型DNA(全長約7,000ヌクレオチド)を用いて実験を行い、本発明のAeropyrum pernix 由来のDNAポリメラーゼとApePCNAを使用した場合にはこのような現象は起こらず、最長では7,000ヌクレオチドの長さのDNAの複製が得られ、スムーズなポリメラーゼ反応の実現が可能となることを発見し、本発明に至った。
【0012】
本発明のタンパク質ApePCNA-1、ApePCNA-2、ApePCNA-3 又はApePCNA-2Lは、次の組換えDNA法により製造することができる。
1)タンパク質ApePCNA-1(配列番号1)、ApePCNA-2(配列番号2)、ApePCNA-3(配列番号3)又は ApePCNA-2L(配列番号4)をコードする核酸配列を調製し、
2)該核酸配列を発現ベクターに挿入し、
3)該ベクターで宿主細胞を形質転換し、
4)該形質転換体を培養し、
5)該培養物から所望のタンパク質を単離する。
【0013】
本発明は、本発明による核酸分子を有するベクター、特にプラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージ、及び遺伝子操作で従来用いられる他のベクターにも関する。当業者に周知の方法を用いて様々なプラスミド及びベクターを構築することができる。例えば、 Sambrook, Molecular Cloning A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory (1989) N.Y. 及び Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology, Green Publishing Associates and Wiley Interscience, N.Y. (1989), (1994) に記載の技術を参照。本発明に従い好ましく用いられるプラスミド及びベクターには当業者に周知のものが含まれる。或いは、本発明の遺伝子及びベクターを標的細胞に運搬するリポソーム中へ再構築することができる。
【0014】
好ましい態様では、ベクター中に存在する核酸分子を原核又は真核細胞中で遺伝子を発現させることができるコントロール配列に作動可能に結合させる。
「コントロール配列」という用語は、それらが結合するコード配列を発現させるに必要な制御DNA配列を言う。そのようなコントロール配列の性質は、宿主生物により異なる。原核生物では、コントロール配列は一般にプロモーター、リボソーム結合部位及びターミネーターを含む。真核生物ではコントロール配列は一般にプロモーター、ターミネーター及びある場合にはトランスアクチベーター又は転写因子を含む。「コントロール配列」という用語は最小でもその存在が発現に必要であるすべての成分を含むことを意図し、更なる有用な成分をも含んでもよい。
「作動可能に結合した」という用語は、該成分がそれらの意図される方法で作用することを可能にする関係にある位置を言う。コード配列に「作動可能に結合した」コントロール配列は、コード配列の発現がコントロール配列と適合する条件下で達成されるような方法で結合される。コントロール配列がプロモーターである場合には、2本鎖核酸が好ましく用いられることは当業者に自明である。
【0015】
従って本発明のベクターは好ましくは発現ベクターである。「発現ベクター」は、選択した宿主細胞を形質転換し、選択した宿主細胞中でコード配列を発現させるため用いることができる構築物である。発現ベクターは例えばクローニング、バイナリーベクター又はインテグレイティングベクターであり得る。発現は好ましくは翻訳可能なmRNAへの核酸分子の転写を含む。原核及び/又は真核細胞中での発現を確実にする調節要素は当業者に周知である。真核細胞の場合、それらは通常転写の開始を確実にするプロモーター、及び場合により転写の終了及び転写物の安定化を保証するポリAシグナルを通常含む。一般的に用いられるプロモーターは、ポリユビキチンプロモーター、及びアクチンプロモーターである。更なる調節要素は転写エンハンサーを含みうる。原核宿主細胞での発現を可能にする可能な調節要素は、例えばEscherichia coliにおけるPL、lac、trp又はtacプロモーターであり、真核宿主細胞での発現を可能にする調節要素の例は、酵母におけるAOX1又はGAL1プロモーター、哺乳動物及び他の動物細胞におけるCMV−、SV40−,RSV−プロモーター(ラウス肉腫ウイルス)、CMVエンハンサー、SV40エンハサー又はグロビンイントロンである。Okayama-Bergの発現ベクターpcDV1(Pharmacia)、pCDM8、pRc/CMV、pcDNA1,pcDNA3(In-vitorogen)、pSPORT1(GIBCO BRL)等の適当な発現ベクターが当業者に知られている。該タンパク質を発現させるのに用い得る別の発現システムは昆虫システムである。そのようなシステムの1つにおいて、Autographa california 核ポリヘドロシスウイルス(AcNPV)をベクターとして用いて Spodoptera frugiperda 細胞又は Trichoplusia larvae中で外来遺伝子を発現させる。本発明の遺伝子のコード配列をポリヘドリン遺伝子等のウイルスの非必須領域にクローニングし、ポリヘドリンプロモーターの調節下に置いてもよい。該コード配列を首尾よく挿入すると、ポリヘドリン遺伝子が非活性になり、コートタンパク質を欠いた組換えウイルスが得られるであろう。その組換えウイルスを用いて、Spodoptera frugiperda 細胞又は Trichoplusia larvaに感染させ、その中で本発明のタンパク質を発現させる(Smith, J. Virol. 46 (1983), 584; Engelhard, Proc. Nat. Acad. Sci. USA 91 (1994), 3224-3227)。
【0016】
本発明はさらに核酸配列が宿主細胞にとって外来である、上記のベクター又は本発明の遺伝子を含む宿主細胞に関する。「外来」とは核酸分子が宿主細胞に関して異種であるか(これは異なった遺伝的背景を有する細胞又は生物に由来することを意味する)、或いは宿主細胞に関してはホモロガスであるが、該核酸分子の天然に存在する対応物と異なる遺伝的環境にあることを意味する。これは、核酸分子が宿主細胞に関してホモロガスであるなら、それは該宿主細胞のゲノムの天然の位置にはないこと、特に異なる遺伝子に取り囲まれていることを意味する。この場合、核酸分子はそれ自身のプロモーターの支配下にあるか、又はヘテロロガスなプロモーターの支配下にあってもよい。宿主細胞中に存在する本発明によるベクター又は遺伝子は宿主細胞のゲノムに組み込まれていてもよく、染色体外にある形で保持されていてもよい。これに関し、本発明の遺伝子はホモロガスな組換えにより変異体遺伝子を回復し、又は創出するのに用いてもよい(Paszkowski編, Homologous Recombination and Gene Sllencing in Plants, Kluwer Academic Publishers (1994))。
【0017】
従って、本発明は本発明のベクター又は遺伝子を含む宿主細胞に関する。宿主細胞は(古)細菌、昆虫、菌類、植物、又は動物細胞等のいずれの原核又は真核細胞でありうる。好ましい菌類細胞は、例えば Saccharomyces 属の細胞、特に Saccharomyces cerevisiae の細胞である。
「原核」と言う用語は、本発明のタンパク質の発現のためにDNA又はRNAで形質転換又はトランスフェクトされ得るすべての細菌、例えば古細菌を含むことを意図する。原核宿主は、例えばEscherichia coli、 S. typhimurium、 Serratia marcescens、及び Bacillus subtilis 等のグラム陽性及びグラム陰性細菌を含み得る。「真核」と言う用語は、酵母、高等植物、昆虫、そして好ましくは哺乳動物細胞を含むことを意味する。組換え製造方法に用いる宿主によって、本発明のポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質はグリコシル化されるかもしれないし、グリコシル化されないかもしれない。本発明のタンパク質は、最初のメチオニンアミノ酸残基を有していても、有していなくてもよい。当業者に一般的に知られたいずれかの技術を用いて本発明の遺伝子を用いて宿主を形質転換又はトランスフェクトすることができる。更に、融合し、機能的に結合した遺伝子の調製方法及びそれらを例えば哺乳動物及び細菌中で発現させる方法は当業者に周知である(Sambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, 1989)。
【0018】
pET21a(Novagen社)に組込んだプラスミドpAPEPC-1, pAPEPC-2, pAPEPC-3を大腸菌BL21(DE3)CPに導入して得られた組換え体はEscherichia coli BL21(DE3)CP/pAPEPC-1, Escherichia coli BL21(DE3)CP/pAPEPC-2, Escherichia coli BL21(DE3)CP/pAPEPC-3と命名、表示され、独立行政法人産業技術総合研究所にFERM P-18118、FERM P-18119、FERM P-18120として寄託されている。
【0019】
以下に実施例をもって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではないことは勿論である。
【0020】
【実施例】
実施例1
アエロピルム ペルニクス ゲノム DNA の調製
鹿児島県トカラ列島小宝島の硫気孔から採取した底泥より単離した、好気性超好熱性古細菌アエロピルム ペルニクス(Aeropyrum pernix)K1株はインターナショナル ジャーナル オブ システマティック バクテリオロジー(International Journal of Systematic Bacteriology)第46巻1070-1077頁(1996)に記載されている。この菌を文献に記載した条件で培養した。得られた菌体0.8 gを緩衝液L(10 mM トリスー塩酸, pH8.0, 1 mM EDTA, 100 mM NaCl) 15 mlに懸濁し、10% SDSを1.5 ml加えた。撹拌の後、プロテイナーゼK(20 mg/ml)を50 ml 加えて、55℃で60分静置した。その後反応液を順次フェノール抽出、フェノール/クロロホルム抽出、クロロホルム抽出した後、エタノールを加えてDNAを不溶化した。回収したDNAを15 mlのTE液(10 mM トリスー塩酸, (pH8.0), 1 mM EDTA) に溶解し、7.5 mgのRNase Aを加えて37℃で60 分反応させた。その後反応液をもう一度フェノール抽出、フェノール/クロロホルム抽出、クロロホルム抽出した後、エタノール沈殿によりDNAを回収した。0.6 mgのDNAが得られた。
【0021】
実施例2
PCNA タンパク質をコードする遺伝子のクローニング
アエロピルム ペルニクス菌体からのゲノムDNAの調製は、上記実施例1に記載されている方法により行った。そしてDNAリサーチ(DNA Research)第5巻55-76頁(1998)に記載の配列を利用し、配列番号5〜11に記載のオリゴヌクレオチドプライマーを調製した。100ngのゲノムDNAを含む50μlの反応液を、94℃ 30秒、55℃ 30秒、72℃ 30秒の25サイクルで増幅反応を行った。その結果、約700〜800塩基対の大きさのDNA断片が増幅されたので、それをpT7Blueベクター(Novagen社)を用いてクローニングし、得られた4個の独立クローンについて塩基配列を解読した。得られた塩基配列は、上記文献に記載の配列と相同で、4種類のPCNA遺伝子の配列を有するクローンが得られていることが分かった。これらをそれぞれ、ApePCNA-1, ApePCNA-2, ApePCNA-3,ApePCNA-2L遺伝子 とした。
【0022】
実施例3
Aeropyrum pernix の PCNA タンパク質をコードする遺伝子の多量発現系の構築
得られた塩基配列中でPCNAホモログであると思われるORFの両端に相当する塩基配列をもとにPCRプライマーを作製し、フォワードプライマー、リバースプライマー配列の中に、それぞれNdeI(CATATG)と、HindIII(AAGCTT)またはBamHI(GGATCC)配列を組み入れ、NdeI配列中のATGを翻訳の開始コドンとして利用できるように調節した。PCR 法により増幅した遺伝子をpET21aベクターに組み込んでPCNAを産生するプラスミドを得、該プラスミド中のPCRで増幅された部分の塩基配列に変化がないことを確認した後、pAPEPC1、pAPEPC2、pAPEPC3 及びpAPEPC2Lと命名した。また、該プラスミドで形質転換された大腸菌 BL21(DE3)CPを、それぞれEscherichia coli BL21(DE3CP)/pAPEPC1、 Escherichia coli BL21(DE3)CP/pAPEPC2、Escherichia coli BL21(DE3)CP/pAPEPC3、Escherichia coli BL21(DE3)CP/pAPEPC2Lと命名した。
【0023】
実施例4
Aeropyrum pernix の PCNA タンパク質の製造
上で得られた Escherichia coli BL21(DE3)CP/pAPEPC1を、アンピシリンが 100μg/ml、クロラムフェニコールが20ng/mlの濃度で存在するLB培地 [トリプトン10g/リットル、酵母エキス5g/リットル、NaCl 5g/リットル、pH7.2] 1,000 mlで、37℃で培養した。培養液の濁度が 0.5 A600 に達した時、誘導物質であるイソプロピル−β−D−チオガラクトシド(IPTG)を最終濃度が1.0mMになるよう添加し、さらに5時間培養を行った。
集菌後、菌体を25ml のバッファーA (50mM Tris-HCl, pH 8.0、0.1mM EDTA、0.5mM ジチオスレイトール、10%グリセロール)に懸濁し、超音波破砕機にかけた。16,000rpm、20分間の遠心分離により粗抽出液を上清として回収し、この溶液を75℃で15分インキュベートし加熱処理を行った。16,000rpmで20分遠心分離し、その上清を回収、ここに0.5MのNaClを含む0.2%ポリエチレンイミン溶液を加え、4℃で30分スターラーで撹拌した。この溶液を16,000rpmで20分遠心分離し、その上清を回収、ここに80% 飽和になるように硫酸アンモニウムを加えた。16,000rpm、20分間の遠心分離により得られた沈殿を10mlの、0.1M NaClを含むバッファーAに溶解し、同様に0.1M NaClを含む 1,000mlのバッファーAにて透析した。透析後の溶液を、0.1M NaClを含むバッファーAで平衡化したHiTrap Qカラム(ファルマシア社製)に供し、FPLC システム(ファルマシア社製)を用いてクロマトグラフィーを行った。展開は0.1M→1.0MのNaCl 直線濃度勾配により行った。目的のタンパクはSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により確認したところ、0.4-0.6M NaCl のところで溶出された。次にこのタンパクのある画分10ml を集め、0.1M NaClを含む 1,000mlのバッファーAにて透析した。透析後の溶液を、0.1M NaClを含む1,000mlのバッファーAで平衡化したHiTrap-Heparinカラム(ファルマシア社製)に供した。FPLCシステムを用いて0.1M→1.0MのNaCl 直線濃度勾配により展開した結果、目的のタンパクは0.2-0.3M NaClのところに溶出された。この画分を1,000mlのバッファーA で透析した後、ApePCNA-1の精製標品とした。
【0024】
同様に、Escherichia coli BL21(DE3)/pAPEPC3についても、ApePCNA-1と同様の手法で精製した。培養、粗抽出の後、硫酸アンモニウム沈澱して透析した溶液を、HiTrap Qカラム(ファルマシア社製)に供し、FPLC システム(ファルマシア社製)を用いてクロマトグラフィーを行った。0.1M→1.0MのNaCl 直線濃度勾配により展開したところ、0.4-0.6M NaCl のところで溶出された。次にこのタンパクのある画分10ml を集め、0.1M NaClを含む 1,000mlのバッファーAにて透析し、0.1M NaClを含む 1,000mlのバッファーAで平衡化したHiTrap-Heparinカラム(ファルマシア社製)に供した。0.1M→1.0MのNaCl 直線濃度勾配により展開した結果、目的のタンパクは0.5-0.6M NaClのところに溶出された。この画分を1,000mlのバッファーA で透析した後、ApePCNA-3の精製標品とした。
【0025】
Escherichia coli BL21(DE3)/pAPEPC2については、ApePCNA-1と同様に培養した後、超音波破砕し、その後加熱処理は行わずに、1.0MのNaClを含む0.2%ポリエチレンイミン溶液を加え、4℃で30分スターラーで撹拌した。この溶液を16,000rpmで20分遠心分離し、その上清を回収、1.5M NaCl濃度の溶液とした後、1.5M NaClを含むバッファーAで平衡化したHiTrapフェニルセファロースHPカラム(ファルマシア社製)に供し、FPLC システム(ファルマシア社製)を用いてクロマトグラフィーを行った。展開は1.5M→0MのNaCl 濃度勾配により行った。0.2M NaCl付近で溶出された目的のタンパクを含む溶液を、0.1M NaClを含む 1,000mlのバッファーAにて透析した。透析後の溶液を、0.1M NaClを含むバッファーA で平衡化したHiTrap Qカラム(ファルマシア社製)に供し、クロマトグラフィーを行った。0.1M→1.0MのNaCl 直線濃度勾配により展開し、0.4-0.6M NaClのところで溶出された目的のタンパクを含む画分を集め、0.1M NaClを含む 1,000mlのバッファーAにて透析した。そしてこの溶液を、0.1M NaClを含む1,000mlのバッファーAで平衡化したHiTrap-Heparinカラム(ファルマシア社製)に供した。0.1M→1.0MのNaCl 直線濃度勾配により展開した結果、目的のタンパクは0.3M NaCl付近で溶出された。この画分を1,000mlのバッファーA で透析した後、ApePCNA-2の精製標品とした。
【0026】
Escherichia coli BL21(DE3)/pAPEPC2Lについても、ApePCNA-3と同様の手法で精製した。培養、粗抽出の後、硫酸アンモニウム沈殿して透析した溶液を、HiTrap Qカラム(ファルマシア社製)に供し、FPLCシステム(ファルマシア社製)を用いてクロマトグラフィーを行った。0.1M→1.0MのNaCl直線濃度勾配により展開したところ、0.4-0.6M NaClのところで溶出された。次にこのタンパクのある画分10mlを集め、0.1M NaClを含む1,000mlのバッファーAにて透析し、0.1M NaClを含む1,000mlのバッファーAで平衡化したHiTrap-Heparinカラム(ファルマシア社製)に供した。0.1M→1.0MのNaCl直線濃度勾配により展開した結果、目的のタンパクは0.5-0.8M NaClのところに溶出された。この画分を1,000mlのバッファーAで透析した後、ApePCNA-2Lの精製標品とした。
【0027】
参考例1
Aeropyrum pernix の DNA ポリメラーゼI( Pol-1 )および DNA ポリメラーゼ II ( Pol-2 )の調製
Aeropyrum pernixのPol-1およびPol-2遺伝子を含むプラスミドを、Cannらの方法(Journal of Bacteriology, Vol.181, No.19, p5984-5992, 1999)により調製した。Pol-1遺伝子をpET15bベクターに組み込んだものをpAPP-1、Pol-2遺伝子をpET21aベクターに組み込んだものをpAPP-2と命名した。また、該プラスミドによって形質転換された大腸菌 BL21(DE3)を、それぞれEscherichia coli BL21(DE3)/pAPP-1、Escherichia coli BL21(DE3)/pAPP-2と命名した。
【0028】
上で得られたEscherichia coli BL21(DE3)/pAPP-1を、アンピシリンが 100μg/ml、クロラムフェニコールが20ng/mlの濃度で存在するLB培地 [トリプトン10.0g/リットル、酵母エキス5g/リットル、NaCl 5g/リットル、pH7.2] 1,000mlで、37℃で培養した。培養液の濁度が 0.5 A600 に達した時、誘導物質であるイソプロピル−β−D−チオガラクトシド(IPTG)を最終濃度が1.0mMになるよう添加し、さらに5時間培養を行った。
集菌後、菌体を30mlのバッファーAに懸濁し、超音波破砕機にかけた。16,000rpm、20分間の遠心分離により粗抽出液を上清として回収し、この溶液を75℃で15分インキュベートし加熱処理を行った。16,000rpmで20分遠心分離し、その上清を回収、ここに、0.5MのNaClを含む0.1%ポリエチレンイミン溶液を加え、4℃で30分スターラーで撹拌した。この溶液を16,000rpmで20分遠心分離し、その上清を回収、ここに80% 飽和になるように硫酸アンモニウムを加えた。16,000rpm、20分間の遠心分離により得られた沈殿を10mlの、0.1M NaClを含むバッファーAに溶解し、同様に0.1M NaClを含む 1,000mlのバッファーAにて透析した。透析後の溶液を、0.1M NaClを含むバッファーAで平衡化したHiTrap Qカラム(ファルマシア社製)に供し、FPLC システム(ファルマシア社製)を用いてクロマトグラフィーを行った。展開は0.1M→1.0MのNaCl 直線濃度勾配により行った。目的のタンパクはSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により確認したところ、0.2-0.3M NaCl のところで溶出された。次にこのタンパクのある画分10ml を集め、0.1M NaClを含む1,000mlのバッファーAにて透析した。透析後の溶液を、0.1M NaClを含む1,000mlのバッファーAで平衡化したHiTrap-Heparinカラム(ファルマシア社製)に供した。FPLCシステムを用いて0.1M→1.0MのNaCl 直線濃度勾配により展開した結果、目的のタンパクは0.45-0.55M NaClのところに溶出された。この画分を1,000mlのバッファーA で透析した後、ApePol-1の精製標品とした。
【0029】
同様に、Escherichia coli BL21(DE3)/pAPP-2についても、ApePol-1と同様の手法で精製した。培養、粗抽出の後、硫酸アンモニウム沈澱して透析した溶液を、HiTrap SPカラム(ファルマシア社製)に供し、FPLC システム(ファルマシア社製)を用いてクロマトグラフィーを行った。0.1M→1.0MのNaCl 直線濃度勾配により展開したところ、0.2-0.25M NaCl のところで溶出された。次にこのタンパクのある画分10ml を集め、0.1M NaClを含む 1,000mlのバッファーAにて透析し、0.1M NaClを含む 1,000mlのバッファーAで平衡化したHiTrap-Heparinカラム(ファルマシア社製)に供した。0.1M→1.0MのNaCl 直線濃度勾配により展開した結果、目的のタンパクは0.25-0.35M NaClのところに溶出された。この画分を1,000mlのバッファーAで透析した後、ApePol-2の精製標品とした。
【0030】
実施例5
DNA ポリメラーゼのDNA合成活性に及ぼす PCNA の効果
ApePCNA-1、ApePCNA-2、ApePCNA-3又はApePCNA-2Lの存在/非存在下で、ApePol-1またはApePol-2のデオキシリボヌクレオチドの取り込み活性の促進効果を調べた。
DNA鋳型としては、M13一本鎖閉環状DNA(宝酒造社製)および、これを直線状にしたM13直鎖状DNAの二種類を用いた。M13直鎖状DNAは、一本鎖閉環状DNAに切断用オリゴヌクレオチド(配列番号12)(M13ファージDNAの6260番目から6289番目のヌクレオチド配列と相補的な配列を有する)を加えて3分間煮沸し徐冷することによりアニールし、部分的に二本鎖DNA領域を生成させ、該二本鎖部分を制限酵素PstIで切断し、引き続きエタノール沈澱により精製することで調製した。
反応溶液として、20mM Tris-HCl(pH8.8)、5mM MgCl2、2mM 2-メルカプトエタノール、50mM NaCl、各0.1mMのdATP、dGTP、dCTPおよび227nMの[methyl 3H]dTTPを含む溶液を用意し、ここに上記いずれかのDNA鋳型0.2μgと、配列番号13に示したオリゴヌクレオチドプライマー(M13ファージDNAの6177番目から6206番目のヌクレオチド配列と相補的な配列を有する)1.0pmolを加えて3分間煮沸し徐冷することによりアニールさせた。
この反応溶液20μlに対して、0.5pmolのApePol-1またはApePol-2溶液を加え、次いで20pmolのApePCNA-1、 ApePCNA-2、ApePCNA-3、ApePCNA-2Lのいずれか、若しくはそれらの混合物、または、ブランクとしてグリセロール濃度を50%としたbuffer-Aを加えた。これを70℃で、ApePol-1の場合は5分間、ApePol-2の場合には20分間反応させた後、その一部をDE81ペーパーにスポットし、次いでこれを5%Na2HPO4 溶液で5回洗浄した。そして、DE81ペーパーフィルター上に残存する放射活性を液体シンチレーションカウンターで測定した。その結果を、以下の表1及び2に示す。
【0031】
【表1】
【表2】
【0032】
表1より明らかなように、DNAポリメラーゼApePol-1およびApePol-2のいずれに対しても、3種類のPCNAであるApePCNA-1、ApePCNA-2およびApePCNA-3はすべて取り込み活性の促進効果を示した。特にApePCNA-3は、ApePCNA-1およびApePCNA-2と比較して高い効果を示し、既に、ジャーナル オブ バクテリオロジー(Journal of Bacteriology)第181巻6591-6599頁(1999)に記載されているPyrococcus furiosus 由来のPCNAとも遜色ない反応性を示した。またApePCNA-1およびApePCNA-2についても、ApePCNA-3ほどではないが、ApePol-1に対して約2倍、ApePol-2では5〜30倍の促進効果を示していた。また閉環状のDNA鋳型と直鎖状のDNA鋳型では、閉環状鋳型よりも直鎖状鋳型の方が、測定値が高い傾向であった。その理由としては、直鎖状鋳型ではPCNAが鋳型の末端部分からDNA鎖にロードできるため反応が容易に進むが、閉環状鋳型では末端部分が存在しないためPCNAがロードしにくいためであると推定される。ただし本PCNAは閉環状鋳型においてもある程度のレベルで効果を示していることから、自ら閉環状鋳型に直接ロードできる能力があると考えられる。
【0033】
また、表2より明かなように、DNAポリメラーゼApePol-1およびApePol-2のいずれに対しても、ApePCNA-2をアミノ末端側に16アミノ酸延長したApePCNA-2Lは、他のPCNAと同様に取り込み活性の促進効果を示した。特にこのApePCNA-2Lは、それ自身がApePCNA-2よりも高い効果を示すのみならず、ApePCNA-3と共存させた場合には、それぞれを単独で使用した場合と比較してより一層高い効果を示した。このことは、PCNA-2LとPCNA-3とが複合体を形成している可能性を示唆し、それによって各PCNA単独での効果を上回る活性の向上をもたらしていることが予想される。また、PCNA-2とPCNA-3を共存させた際にはこのような相乗効果は見られないことから、PCNA-2Lのアミノ末端側16アミノ酸の一部あるいは全部がPCNA-3との複合体形成に寄与していると推察される。
【0034】
実施例6
ApePCNA による ApePol のプライマー伸長反応の促進効果
ApePCNA-1、 ApePCNA-2、ApePCNA-3、又はApePCNA-2Lの存在/非存在下で、ApePol-1またはApePol-2プライマー伸長反応の能力を調べた。
DNA鋳型としては、全長7,249ヌクレオチドのM13一本鎖閉環状DNAおよび、実施例5で用いた、直鎖状にしたM13直鎖状DNAの二種類を用いた。
これらのDNA鋳型0.2μgに、1.0pmolの5'末端を32Pでラベルしたオリゴヌクレオチド(配列番号13)を加え、最終濃度20mMのTris-HCl(pH8.8)、5mMのMgCl2および2mMの2-メルカプトエタノールを含む溶液中で3分間煮沸し徐冷することによりアニールさせた。
この反応液中に0.5pmolのApePol-1またはApePol-2溶液を加え、次いで5.0pmolのApePCNA-1、ApePCNA-2、ApePCNA-3、ApePCNA-2Lのいずれか、若しくはそれらの混合物、または、ブランクとしてグリセロール濃度を50%としたbuffer-Aを加えた。ここに0.2mMのdNTPを添加し、70℃で、ApePol-1の場合は5分間、ApePol-2の場合には20分間反応させた。反応後、3.0μlの反応停止液(98%のホルムアミド、1.0mMのEDTA、0.1%のキシレンシアノールおよび0.1%のブロムフェノールブルー)を加え、3分間煮沸して反応を完全に止めた後、アルカリアガロースゲル電気泳動によるDNAポリメラーゼ活性の検出を実施した。即ち、1.0 %のアガロースゲル電気泳動用のゲルを用意し、50mM-NaOHおよび1mM-EDTAを含む緩衝液中で、DNAポリメラーゼおよびPCNAの伸長反応生成物をアルカリアガロースゲルを用いて電気泳動した。泳動後、ゲルを中和するために、7.0%のトリクロロ酢酸溶液で20分間振とうし、さらに滅菌水で5分間2回振とうした。その後ゲルを乾燥して、オートラジオグラフィーをとった。その結果を、図1及び2に示す。
【0035】
図1より、Pol-1ではいずれのPCNAでも長鎖のDNAができ、プライマー伸長反応が促進されている。そのうち特に、PCNA-3が図の上方部分に濃いバンドを示し、促進効果が高いことを表している。またPol-2でも、PCNA-1および-2では伸長反応はこの図では見られないが、PCNA-3ではPfu-PCNAと同様に伸長反応を促進している。加えて、本PCNAの使用により、従来のDNAポリメラーゼとPCNAの組み合わせでよく見られるポージング現象が回避できることがわかった。ポージングとは、DNAポリメラーゼが伸長反応を行う際に、鋳型となるDNA鎖の配列条件などによって特定の配列領域で反応が停止してしまう現象である。図中で示した矢印部分がそれに相当し、これにより必要な長さの伸長DNAが得られにくくなる。今回比較のために使用した、PCR反応などによく使用されるPyrococcus furiosus由来のDNAポリメラーゼおよびPCNAにおいては、M13一本鎖DNAを使用した場合には約700ヌクレオチドの長さで複製が停止しポージングがはっきりと見られる。しかし本発明のAeropyrum pernix 由来のDNAポリメラーゼとApePCNAを使用した場合にはこのような現象は起こらず、最長で約7,000ヌクレオチドの長さまでスムーズなポリメラーゼ反応の実現が可能となることが観察された。
【0036】
また、図2より、DNAポリメラーゼApePol-1およびApePol-2のいずれに対しても、ApePCNA-2をアミノ末端側に16アミノ酸延長したApePCNA-2Lは、他のPCNAと同様にプライマー伸長反応の促進効果を示した。特にこのApePCNA-2Lは、それ自身がApePCNA-2と同等以上の効果を示すのみならず、ApePCNA-3と共存させた場合には、それぞれを単独で使用した場合と比較してより一層高い促進効果を示した。このことは、実施例5でも示したように、PCNA-2LとPCNA-3とが複合体を形成し、それによってプライマー伸長反応においても各PCNA単独での効果を上回る活性の向上をもたらしていることが予想される。また、PCNA-2とPCNA-3を共存させた際にこのような相乗効果は見られないことも同様であることから、プライマー伸長反応においてもPCNA-2Lのアミノ末端側16アミノ酸の一部あるいは全部がPCNA-3との複合体形成に寄与し、促進効果を向上させていると推察される。
【0037】
【配列表】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【図面の簡単な説明】
【図1】 M13一本鎖DNAに5'-末端を32Pで標識したプライマーを貼付け、DNA ポリメラーゼによるDNA鎖合成反応を行った。その際PCNAを加えた場合と加えない場合を比較した。左よりPCNAなし(No)、ApePCNA-1(1)、ApePCNA-2(2)、ApePCNA-3(3)およびPfuPCNA(Pfu)を加えた反応液の順に電気泳動を行った。また、左半分は閉環状鋳型DNA(Circular)、右半分は直鎖状鋳型DNA(Linear)を示し、それぞれApePol-1(Pol-1)またはApePol-2(Pol-2)を使用した結果である。最も右のレーンはサイズマーカーで、その数字はキロベース数を示している。
【図2】 M13一本鎖DNAに5’−末端を32Pで標識したプライマーを貼り付け、DNAポリメラーゼによるDNA鎖合成反応を行った結果を示す。その際PCNAを加えた場合と加えない場合を比較した。左よりPCNAなし(N),ApePCNA-2(1)、ApePCNA-2L(2)、ApePCNA-3(3)、ApePCNA-2+ApePCNA-3(4)、及びApePCNA-2L+ApePCNA-3(5)を加えた反応液の順に電気泳動を行なった。また左半分はApePol-1(Pol-1)、右半分はApePol-2(Pol-2)を示し、それぞれ閉環状鋳型DNA(Circular)または直鎖状鋳型DNA(Linear)を使用した結果である。図の右半分の最も左のレーンはサイズマーカーで、その数字はキロベース数を示している。
Claims (2)
- 配列番号4に記載のアミノ酸配列、又は配列番号4に記載のアミノ酸配列において1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列を含む、熱安定性であり、DNAポリメラーゼのDNA合成活性を促進する活性を有し、DNA鎖の伸長反応におけるポージング現象を防止するタンパク質。
- 請求項1に記載のタンパク質をコードする遺伝子。
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