JP3941400B2 - 新規な脱水素触媒及びそれを用いるカルボニル化合物の製造方法 - Google Patents

新規な脱水素触媒及びそれを用いるカルボニル化合物の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は新規な脱水素触媒に関し、より詳細にはアルコールの脱水素触媒に関する。また、上記触媒の存在下にアルコールを脱水素してカルボニル化合物を製造する方法に関する。本発明は、1,4−ブタンジオールからのガンマブチロラクトンの製造に好適である。
【0002】
【従来の技術】
従来、特定の遷移金属と特定の有機ホスフィンを組み合わせた脱水素触媒及びそれを用いてアルコールを脱水素し、カルボニル化合物を製造する方法は、いくつか提案されていた。例えば、J.Organomet.Chem.,1992,429,269−274には、イリジウム−トリイソプロピルホスフィン触媒、ルテニウム−トリフェニルホスフィン触媒及びレニウム−トリイソプロピルホスフィン触媒を用いてジオールを脱水素してラクトン化合物を得る反応が記載され、J.Org.Chem.,1987,52,4319−4327及びTetrahedron Let..1981,22,5327−5330には、上記とは異なるルテニウム−トリフェニルホスフィン触媒を用いてジオールを脱水素してラクトン化合物を得る反応が記載され、Bull.Chem.Soc.Jpn.,1982,1179−1182には、ルテニウム−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン化合物を触媒としてジオールを脱水素してラクトン化合物を得る反応が記載されている。また、Bull.Chem.Soc.Jpn.,1988,61,2291−2294には、ルテニウム−エチルジフェニルホスフィン触媒を用いて、メタノールを脱水素して蟻酸メチルを得る反応が記載されている。
【0003】
しかしながら、遷移金属及びP−N結合を有するリン化合物を含む脱水素触媒については全く記載も示唆もなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、新規な脱水素触媒、特にアルコールを脱水素する触媒の提供である。また、本発明の別の課題は、アルコールを脱水素してカルボニル化合物を製造する方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、遷移金属と、リン原子と窒素原子の結合を有するリン化合物とを含む触媒が、効率よくアルコールを脱水素してカルボニル化合物を製造する触媒として有用であることを見出し、この知見に基づいて発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明の第一の要旨は、白金族金属及び下記一般式で表されるP−N結合を有するリン化合物を含む脱水素触媒にある。
P−(NR343
(式中、R3及びR4は、水素原子、アルキル基又は芳香族炭化水素基を示す。但し、R3及びR4が共にアルキル基の場合には、両者は結合して窒素原子と共に環を形成していてもよい)
また、本発明の第二の要旨は、上記の脱水素触媒の存在下に、第1級水酸基及び/又は第2級水酸基を有するアルコールを脱水素することを特徴とするカルボニル化合物の製造方法に存する。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の脱水素触媒は、遷移金属とP−N結合を有するリン化合物とを含む触媒であり、特にアルコールの脱水素触媒である。該触媒は、予め調製して脱水素反応に用いてもよく、また、触媒を構成する各成分を反応系に存在させ、反応系内で触媒を生成させることもできる。
【0008】
本発明で用いる遷移金属は白金族金属である。好ましくはルテニウム、イリジウム、ロジウムが挙げられ、特に好ましくはルテニウムである。
【0009】
本発明の脱水素触媒を反応系内で生成させる場合、白金族金属の供給形態としては特に制限されるものではなく、白金族金属単体又は白金族金属化合物であってよい。白金族金属化合物としては、特に限定されるものではなく、例えば、酸化物、水酸化物、無機酸塩、有機酸塩、錯化合物等が挙げられる。
【0010】
これらの具体例としては、白金族金属がルテニウムである場合、二酸化ルテニウム、四酸化ルテニウム、水酸化ルテニウム、三塩化ルテニウム、三臭化ルテニウム、三沃化ルテニウム、硝酸ルテニウム、酢酸ルテニウム、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム、トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)ルテニウム、トリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ルテニウム、ヘキサクロロルテニウム酸ナトリウム、テトラカルボニルルテニウム酸ジカリウム、ペンタカルボニルルテニウム、シクロペンタジエニルジカルボニルルテニウム、ジブロモトリカルボニルルテニウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ヒドリドルテニウム、テトラ(トリフェニルホスフィン)ジヒドリドルテニウム、テトラ(トリメチルホスフィン)ジヒドリドルテニウム、ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)トリカルボニルルテニウム、テトラヒドリドデカカルボニルテトラルテニウム、ドデカカルボニルトリルテニウム、オクタデカカルボニルヘキサルテニウム酸ジセシウム、ウンデカカルボニルヒドリドトリルテニウム酸テトラフェニルホスフォニウム等が挙げられ、好ましくはトリス(アセチルアセトナト)ルテニウム、トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)ルテニウム等が挙げられる。
【0011】
白金族金属がイリジウム又はロジウムである場合、三塩化イリジウム、三臭化イリジウム、三沃化イリジウム、硝酸イリジウム、酢酸イリジウム、トリス(アセチルアセトナト)イリジウム、トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)イリジウム、三塩化ロジウム、三臭化ロジウム、三沃化ロジウム、硝酸ロジウム、酢酸ロジウム、トリス(アセチルアセトナト)ロジウム、トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)ロジウム、等が挙げられる。
【0012】
上記した化合物は、通常市販されているものを用いてもよく、また、定法に従って合成して用いてもよい。
本発明における「P−N結合を有するリン化合物」とは、リン原子と窒素原子が直接結合した結合を有する化合物を表わす。該リン化合物は、1分子中にリン原子を1個と窒素原子を3個有している。
【0015】
窒素原子の置換基の一つはリン原子であり、その他の置換基としては、例えば、水素原子、炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜10の、直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基、芳香族炭化水素が挙げられる。これらの置換基は同一でも異っていてもよいが、これが共にアルキル基である場合には窒素原子とともに複素環構造を形成していてもよい。
【0020】
窒素原子の置換基のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−又は1−プロピル、n−又は2−ブチル、n−、2−又は3−へブチル、n−、2−又は3−ヘキシル、シクロヘキシル、n−、2−又は3−オクチル、n−、2−又は3−ノニル、n−、2−又は3−デシル等が挙げられる。また、2個のアルキル基が結合して窒素原子と共に環を形成する場合、すなわちアルキル基が実際にはアルキレン基であるものとしては、ジメチレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレン等が挙げられる。好ましいアルキル基は炭素数1〜10の直鎖状ものである。
【0022】
芳香族炭化水素基としては、炭素数〜10の置換されていてもよいものが挙げられ、具体的には、例えば置換されていてもよいフェニル、ナフチル等が挙げられる。その置換基としては、メチル、エチル、n−、i−プロピル等のアルキル基;ェニル、トリル、キシリル等のアリール基等が挙げられる。
【0025】
本発明で用いられるP−N結合を有する化合物の具体例としては、トリス(ジメチルアミノ)ホスフィン、トリス(ジエチルアミノ)ホスフィン、トリス(ジプロピルアミノ)ホスフィン、トリス(ジブチルアミノ)ホスフィン、トリス(ジヘキシルアミノ)ホスフィン、トリス(ジオクチルアミノ)ホスフィン、トリス(ジフェニルアミノ)ホスフィン、トリス(1−ピロリジル)ホスフィン、トリス(メチルアミノ)ホスフィン、トリス(エチルアミノ)ホスフィン、トリス(プロピルアミノ)ホスフィン、トリス(ブチルアミノ)ホスフィン、トリス(ヘキシルアミノ)ホスフィン、トリス(オクチルアミノ)ホスフィン、トリスアミノホスフィン等が挙げられる。
【0033】
上記したP−N結合を有するリン化合物は、通常市販されているものを用いてもよく、また、公知の方法で合成して用いてもよい。合成方法の1例を挙げると、三塩化リンとその3倍モル以上の量のジアルキルアミンとを、窒素雰囲気下で加熱処理することにより縮合反応させ、蒸留するとトリス(ジアルキルアミノ)ホスフィンが得られる。また、別の合成方法を挙げると、例えば、Tetrahedron.Lett.1988.29.5983−5986等に記載されたごとく、トリス(ジアルキルアミノ)ホスフィンとその3倍モルの2級アミンとを、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、攪拌下、70℃程度にて8時間程度反応させることにより、トランスアミノ化を行ない、所望のホスフィンを得ることができる。
【0034】
P−N結合を有するリン化合物の使用量としては、白金族金属に対し、リン原子/金属の原子比で、通常0.1〜1000、好ましくは1〜100、更に好ましくは2〜10の範囲である。リン化合物の使用量が少なすぎると触媒劣化により反応活性の低下が大きくなり、多すぎるとアルコール等の原料の触媒への接触が抑制されることにより反応速度が低下する
【0035】
本発明の脱水素触媒は、上記のごとく白金族金属とP−N結合を有するリン化合物とを含むことを特徴としているが、これに任意成分として更に中性化合物などを含有させてもよい。このような任意成分としては、例えばエチレン、プロピレン、ブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、ブタジエン、シクロペンタジエン、シクロオクタジエン、ノルボナジエン等のエチレン性不飽和結合を有する炭化水素;ジエチルエーテル、アニソール、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;プロピオン酸、カプロン酸、酪酸、安息香酸、安息香酸メチル、酢酸エチル;酢酸アリル、ガンマブチロラクトン等のカルボン酸やカルボン酸エステル;ジメチルスルフィド、トリブチルホスフィンオキシド、エチルジフェニルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィンオキシド、トリオクチルホスフィンオキシド、ジエチルフェニルホスフィネート、ジフェニルエチルホスフィネート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスファイト、トリオクチルホスフェート、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の有機リン化合物;更には一酸化炭素、エチレングリコール、二硫化炭素、カプロラクタム等が挙げられる。従って、中性配位子を添加しない場合、あるいは反応が一旦進行し始めると、反応原料、反応生成物又は溶媒等が任意成分として機能することもある。
【0036】
更に本発明における触媒は、pkaが2よりも小さい酸の共役塩基を用いて、カチオン性触媒の形で用いることもできる。カチオン性錯体化することにより、触媒の安定化、活性の向上等好ましい結果が得られることがある。
【0037】
pkaが2よりも小さい酸の共役塩基を与える化合物としては、通常pkaが2よりも小さいブレンステッド酸又はその塩を用いればよい。具体的には、例えば、硝酸、過塩素酸、ホウフッ化水素酸、ヘキサフルオロリン酸、フルオロスルホン酸等の無機酸;トリクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、ドデシルスルホン酸、オクタデシルスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、テトラ(ペンタフルオロフェニル)ホウ素酸、テトラ(ビス3,5−トリフルオロメチルフェニル)ホウ素酸、スルホン化スチレン−ジビニルベンゼン共重合体等の有機酸;これら無機酸や有機酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、銀塩、トリチル塩などが挙げられる。また、これらの酸の共役塩基を与え得る化合物、例えば酸ハロゲン化物、酸無水物、エステル、酸アミド等を用いることもできる。
【0038】
これらのpkaが2よりも小さい酸の共役塩基を与える化合物の使用量は、白金族金属に対して通常1000倍モル以下、好ましくは100倍モル以下、より好ましくは10倍モル以下、特に好ましくは5倍モル以下であり、また通常0.1倍モル以上、好ましくは1.0倍モル以上となる何れの範囲でもよい。
【0039】
本発明の脱水素触媒を予め調製して用いる場合、その調製方法としては特に制限されるものではないが、例えば、白金族金属化合物とP−N結合を有するリン化合物とを、水素雰囲気下で加熱すると触媒のアルコール溶液が生成する。なお、加熱の際に撹拌をすることが好ましく、用いるP−N結合を有するリン化合物の量は、白金族金属化合物の5〜20倍モル量が好ましい。またこれをカチオン性触媒とするには、例えば、上記で得た触媒またはその溶液にpkaが2以下の酸の共役塩基を与える化合物を、白金族金属化合物に対し0.1〜20モル倍、好ましくは1〜10モル倍となるように添加すればよい。反応原料アルコール中に、白金族金属化合物、P−N結合を有するリン化合物及びpkaが2以下の酸の共役塩基を与える化合物を添加して撹拌しても、カチオン性触媒を合成することができる。
【0040】
本発明における触媒製造時の加熱処理は、水素雰囲気下であれば、溶媒中であっても溶媒非存在下であってもよいが、溶媒を用いる場合、その具体例としては、ジエチルエーテル、アニソール、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;メタノール、エタノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール、フェノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、脱水素反応の原料アルコール等のアルコール;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、トルイル酸等のカルボン酸類;酢酸メチル、酢酸ブチル、安息香酸ベンジル等のエステル類、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素;n−ヘキサン、n−オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素;ジクロロメタン、トリクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のカルボン酸アミド;ヘキサメチルリン酸トリアミド等その他のアミド類;N,N−ジメチルイミダゾリジノン等の尿素類;ジメチルスルホン等のスルホン類;ジメチルスルフォキシド等のスルフォキシド類;ガンマブチロラクトン、カプロラクトン等のラクトン類;テトラグライム、トリグライム等のポリエーテル類;ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート等の炭酸エステル類等が挙げられ、好ましくは上記エーテル類、ポリエーテル類等が挙げられる。また反応原料アルコールや生成物(ポリ)アルコールのエステル類であってもよい。
【0041】
上記加熱処理における水素圧は、特に制限されないが、通常、圧力ゲージの示す値として0〜10MPa、好ましくは0.1〜3MPa、更に好ましくは0.1〜0.99MPaである。本発明の触媒は、水素圧1.0MPa未満での加熱処理によってさえ製造しうるものであるため、製造設備の材料等の費用を低減化でき、また安全面でも有利とすることができ、工業的に有利な製造設備とすることが可能である。
【0042】
上記加熱処理時の温度は、通常100℃〜250℃、好ましくは150℃〜220℃である。温度が低すぎると触媒の活性化に要する時間が増大する傾向があり、温度が高すぎるとリン化合物が進行する傾向がある。加熱時間は、通常1〜24時間、好ましくは2〜10時間である。加熱時間が短すぎると触媒の活性化が不十分となり、加熱時間が長すぎるとリン化合物の分解が進行する傾向がある。なお、加熱処理の際には、攪拌をすることが好ましい。
【0043】
本発明の脱水素触媒の反応原料としては、特に制限されないが、アルコールが好ましい。アルコールとしては、1級又は2級の水酸基を有するものであれば、1価アルコールでも多価アルコールでもよい。また、該アルコールは飽和でも不飽和でもよく、更には置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、アルキル基またはオレフィン、芳香族等の炭化水素基や、アルコキシ基、スルフィド基、アミノ基、アミド基等の官能性置換基が挙げられる。
【0044】
アルコールの具体例としては、飽和又は不飽和の1価アルコール、多価アルコールが挙げられ、1価アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、4−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、3−オクタノール、4−オクタノール、1−ノナノール、2−ノナノール、3−ノナノール、4−ノナノール、5−ノナノール、1−デカノール、2−デカノール、3−デカノール、4−デカノール、5−デカノール、アリルアルコール、1−ブテノール、2−ブテノール、1−ペンテノール、2−ペンテノール、1−ヘキセノール、2−ヘキセノール、3−ヘキセノール、1−ヘプテノール、2−ヘプテノール、3−ヘプテノール、1−オクテノール、2−オクテノール、3−オクテノール、4−オクテノール、1−ノネノール、2−ノネノール、3−ノネノール、4−ノネノール、1−デセノール、2−デセノール、3−デセノール、4−デセノール、5−デセノール、シクロヘキサノール、シクロペンタノール、シクロヘプタノール、1−フェネチルアルコール、2−フェネチルアルコール、メタノールアミン、エタノールアミン等が挙げられる。なお、不飽和アルコールの場合には不飽和結合の位置は任意である。
【0045】
多価アルコールとしては、例えば、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1−ヒドロキシメチル−2−ヒドロキシエチルシクロヘキサン、1−ヒドロキシ−2−ヒドロキシプロピルシクロヘキサン、1−ヒドロキシ−2−ヒドロキシエチルシクロヘキサン、1−ヒドロキシメチル−2−ヒドロキシエチルベンゼン、1−ヒドロキシメチル−2−ヒドロキシプロピルベンゼン、1−ヒドロキシ−2−ヒドロキシエチルベンゼン、1,2−ベンジルジメチロール、1,3−ベンジルジメチロール等の2価アルコールが挙げられる。
【0046】
上記したアルコールの中で、複数個の第1級水酸基を有する多価アルコール、具体的には、炭素数4以上の多価アルコールが好ましく、更に具体的には、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール等の炭素数4以上の2価アルコールがより好ましい。
【0047】
本発明の触媒の存在下に、アルコールを脱水素すると、通常、カルボニル化合物が生成する。1価アルコールを原料とした場合、2級アルコールならばケトンを与え、1級アルコールならばエステルを与える。また、2個の1級水酸基を有するアルコールを原料とすると、脱水素された生成物同士の分子間反応によりポリエステルを生成することもある。また1級水酸基が結合している炭素原子間に2〜4個の炭素原子が介在している場合には、通常、分子内環化してラクトンを形成する。
【0048】
従って、本発明の触媒によりアルコールを脱水素した生成物としては、上記した反応原料に対応するカルボニル化合物であるが、具体的には、例えば、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等のケトン;酪酸ブチル、蟻酸メチル等のエステル;ガンマブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン等が挙げられる。なお、本発明の触媒は、1,4−ブタンジオール原料からのガンマブチロラクトンの製造に特に好適に用いることができる。
【0049】
本発明のアルコールの脱水素反応は、通常、無溶媒すなわち原料であるアルコール又は生成物であるカルボニル化合物以外の溶媒を存在させずに行われるが、所望ならば他の溶媒を用いることもできる。このような溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、アニソール、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;メタノール、エタノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール類;フェノール等のフェノール類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、トルイル酸等のカルボン酸類;酢酸メチル、酢酸ブチル、安息香酸ベンジル等のエステル類;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素;n−ヘキサン、n−オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素;ジクロロメタン、トリクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のカルボン酸アミド;ヘキサメチルリン酸トリアミド等の他のアミド化合物;N,N−ジメチルイミダゾリジノン等の尿素;ジメチルスルホン等のスルホン類;ジメチルスルフォキシド等のスルホキシド類;ガンマブチロラクトン、カプロラクトン等のラクトン類;ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート等の炭酸エステル類;トリグライム、テトラグライム等のポリエーテル類等が挙げられる。
【0050】
これらの中で好ましくは、エーテル類、ポリエーテル類、生成物のアルコール、エステル類である。
反応温度は、通常20〜350℃、好ましくは100〜250℃、更に好ましくは150〜220℃の範囲である。反応温度が低すぎると反応速度が低下する傾向があり、高すぎると触媒成分の分解による反応活性の低下が進行する傾向がある。
【0051】
触媒の使用量は、工業的に所望な活性を示す程度でよいが、通常、反応液に対し白金族金属として0.0001〜100モル/L、好ましくは0.001〜10モル/Lとなるように反応系に存在させればよい。反応は通常均一触媒反応として進行する。
【0052】
本発明で用いる触媒は、高活性でアルコールの脱水素反応を進行させることができるため、特に反応系内に水素受容体等の反応助剤等を存在させる必要はないが、所望により存在させてもよい。また、該水素受容体を反応系内に存在させる時期については、特に制限されるものではなく、所望により存在させることができる。ここで水素受容体とは、分子内に2重結合を有し、原料化合物から引き抜かれた水素原子と結合することにより、原料化合物の脱水素反応を促進させる作用を有する化合物である。具体的には、例えば、アセトン、ジフェニルアセチレン、ビニルメチルケトン、ベンザルアセトン、エチルメチルケトン、パラベンゾキノン、ニトロベンゼン、アセトニトリル、塩化ビニル、ベンゾニトリル、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。
【0053】
反応圧力は、反応系が液相に保たれる程度の圧力であれば任意である。本発明のアルコール脱水素反応は、水素を生成する反応であるため、その水素を系外に抜き出しながら行うのが好ましい。そのため、反応は大気圧下で開放系で行うことが好ましい。閉鎖系で行う場合には、雰囲気は、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素などの不活性ガスが好ましい。反応は回分方式でも連続方式でも行うことができる。
【0054】
反応生成液からは、蒸留等の方法により生成物であるカルボニル化合物を回収できる。また生成物を回収した後の残留液には、触媒が溶解しているので、直接又は間接的に循環させて、再度反応に用いることができる。該残留液を循環させる際、特開平7−323232号公報等に記載されるように該残留液を水と非極性有機溶媒で処理し、触媒を有機溶媒相に抽出して循環することも可能である。
【0055】
得られた粗生成物は、特開平11−286482号公報等に記載されている通常用いられる方法により精製されて製品となる。ここで製品とは、それ自体工業製品である場合と工業製品の製造中間体である場合がある。例えば、本発明により得られるラクトン、特に、ガンマブチロラクトンは、それ自体溶媒としての用途があるが、メチルアミン等のアルキルアミンと反応させて、N−メチルピロリドン等のピロリドン類を製造し、洗浄剤、溶剤等として工業的に広く用いることができる。メチルアミン及びN−メチルピロリドンの製造方法としては、特に制限されるものではなく、それ自体既知の通常行なわれる方法を採用すればよい。
【0056】
メチルアミンの製造方法としては、例えば、米国特許3,387,032号公報、特開平9−12514号公報等に記載された方法が挙げられるが、通常、メタノールとアンモニアとをシリカ及び/又はアルミナ若しくはゼオライト等の触媒の存在下に反応させることによって製造できる。N−メチルピロリドンの製造方法としては、例えば、特公昭47−18751号公報又は特公平6−78305号公報等に記載された方法が用いられうるが、モノ、ジ及び/又はトリメチルアミンとガンマブチロラクトンとを加熱反応させることによって得られる。
【0057】
また、ガンマブチロラクトン等のラクトンは、例えば、特開平11−97062号公報又は特開平11−135374号公報等に記載されている如く、電解液の溶剤として、特開平9−176695号公報等に記載されている如く、ポリウレタン洗浄溶液等として用いられ得る。
【0058】
【実施例】
以下に実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、下記の実施例中、転化率及び選択率は、ナフタレンを内部標準とした内部標準法を用い、ガスクロマトグラフィーにより反応液を分析して求めた。
【0059】
実施例1
70mLのSUS製オートクレーブに、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム1.00g、10モル当量のトリスジエチルアミノホスフィン6.21gを導入し、190℃まで1時間かけて昇温し、水素圧0.8MPaで水素ガスを導入し、7時間熱処理することによりルテニウム触媒を調製した。
【0060】
攪拌器、冷却管、温度測定装置、サンプリング口を設置した100mLの2つ口フラスコ中に、1,4−ブタンジオール10.17gを加え、205℃まで加熱昇温した。そこに上記で調製したルテニウム触媒を0.57g加え、205℃で7時間加熱攪拌を行った(Ru金属濃度2000重量ppm)。その結果、1,4−ブタンジオールの転化率は88モル%であり、ガンマブチロラクトンの選択率は92モル%であった。

Claims (8)

  1. 白金族金属及び下記一般式で表されるP−N結合を有するリン化合物を含む脱水素触媒。
    P−(NR343
    (式中、R3及びR4は、水素原子、アルキル基又は芳香族炭化水素基を示す。但し、R3及びR4が共にアルキル基の場合には、両者は結合して窒素原子と共に環を形成していてもよい)
  2. 白金族金属及び下記一般式で表されるP−N結合を有するリン化合物を含む脱水素触媒。
    P−(NR343
    (式中、R3及びR4はアルキル基を示す)
  3. 白金族金属がルテニウム、イリジウム又はロジウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の脱水素触媒。
  4. ルテニウム及びトリス(ジアルキルアミノ)ホスフィン(但しアルキル基は炭素数1〜10の直鎖状アルキル基である)を含む脱水素触媒。
  5. 請求項1ないし4のいずれかに記載の触媒の存在下に、第1級水酸基及び/又は第2級水酸基を有するアルコールを脱水素することを特徴とするカルボニル化合物の製造方法。
  6. 請求項1ないし4のいずれかに記載の触媒の存在下に、複数個の第1級水酸基を有する多価アルコールを脱水素することを特徴とするラクトンの製造方法。
  7. 請求項1ないし4のいずれかに記載の触媒の存在下に、1,4−ブタンジオールを脱水素することを特徴とするガンマブチロラクトンの製造方法。
  8. 水素雰囲気下で、白金族金属化合物と下記式で示されるP−N結合を有するリン化合物とを加熱することを特徴とする脱水素触媒の製造方法。
    P−(NR343
    (式中、R3、R4はアルキル基を示す)
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