JP3938500B2 - 低誘電正接化方法及びそれを用いた低誘電正接樹脂組成物及び電気部品 - Google Patents

低誘電正接化方法及びそれを用いた低誘電正接樹脂組成物及び電気部品 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は高周波信号に対応するための誘電損失の小さな電気部品ならびにそれらを製造するために用いる樹脂組成物及び樹脂組成物の低誘電正接化方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、PHS、携帯電話等の情報通信機器の信号帯域、コンピューターのCPUクロックタイムはGHz帯に達し、高周波数化が進行している。電気信号の誘電損失は、回路を形成する絶縁体の比誘電率の平方根と誘電正接、使用される信号の周波数の積に比例する。そのため、高周波信号ほど誘電損失が大きくなる。誘電損失は電気信号を減衰させて信号の信頼性を損なうので、これを抑制するために絶縁体には誘電率、誘電正接の小さな材料を選定する必要がある。絶縁体の低誘電率、低誘電正接化には分子構造中の極性基の除去が有効であり、従来、主にフッ素樹脂が低誘電正接樹脂として使用されてきた。これに対して有機溶媒に可溶な熱硬化性低誘電正接樹脂として硬化性ポリオレフィン、シアネートエステル系樹脂、硬化性ポリフェニレンオキサイド、アリル変性ポリフェニレンエーテル、ジビニルベンゼンまたはジビニルナフタレンで変性したポリエーテルイミド等種々の提案がなされている。
【0003】
例えば、特開平8−208856号公報記載のポリブタジエン等のジエン系ポリマーをガラスクロスに含漬して過酸化物で硬化した例;特開平10−158337号公報に記載の如く、ノルボルネン系付加型重合体にエポキシ基を導入し、硬化性を付与した環状ポリオレフィンの例;特開平11−124491号公報記載の如く、シアネートエステル、ジエン系ポリマー、エポキシ樹脂を加熱してBステージ化した例;特開平9−118759号公報に記載のポリフェニレンオキサイド、ジエン系ポリマー、トリアリルイソシアネートからなる変性樹脂の例;特開平9−246429号公報に記載のアリル化ポリフェニレンエーテル、トリアリルイソシアネート等からなる樹脂組成物の例;特開平5−156159号公報に記載のポリエーテルイミドと、スチレン、ジビニルベンゼン又はジビニルナフタレンとをアロイ化した例;特開平5−78552号公報に記載のジヒドロキシ化合物とクロロメチルスチレンからウイリアムソン反応で合成した例えばヒドロキノンビス(ビニルベンジル)エーテルとノボラックフェノール樹脂からなる樹脂組成物の例など多数が挙げられる。前述の例の多くには、架橋剤又は架橋助剤としてジビニルベンゼンを含んでも良いとの記述がある。これは、ジビニルベンゼンが構造中に極性基を有しておらず、その硬化物が低誘電率、低誘電正接であること、および熱分解温度が350℃以上と高いことに起因する。
【0004】
特開平5−78552号公報ではジビニルベンゼンに代わりヒドロキノンビス(ビニルベンジル)エーテル等の多官能ビニルベンジルエーテル化合物を使用している。ヒドロキノンビス(ビニルベンジル)エーテルは不揮発性であり、ノボラックフェノール樹脂と共に硬化することによって柔軟性の高い硬化物を与えることを明らかにしている。
【0005】
このほか、ジビニルベンゼンの類似化合物としては、スチレン基間をエチレン基で結合した1、2−ビスビニルフェニルエタン(特開平9−208625号公報)、Makromol.Chem.vol.187、23頁記載の側鎖にビニル基を有するジビニルベンゼンオリゴマー等が知られているが、これらの多官能スチレン化合物の硬化物の誘電率、誘電正接、硬化性に関する検討はなされていなかった。更に該多官能スチレン化合物と他の硬化性樹脂とのブレンドによる樹脂組成物の低誘電正接化についても殆ど検討されていなかった。
【0006】
尚、「難燃性基板およびプリプレグ」と題する特開2000−187831号公報、更には「電力増幅モジュール」と題する特開2001−267466号公報には、有機樹脂材料としてポリビニルベンジルエーテル化合物を使用する技術が開示されているが、エーテル結合を含む材料の誘電特性は、エーテル基の影響により悪化する。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従来、低誘電正接樹脂として使用されてきたフッ素樹脂に代わり、有機溶剤に可溶で取扱いやすい熱硬化性低誘電正接樹脂が種々提案されている。これらの熱硬化性低誘電正接樹脂の例では誘電率、誘電正接が低く、硬化物の耐熱性が高いジビニルベンゼンを架橋成分、または架橋助剤として添加することが提案されている。しかし、ジビニルベンゼンの硬化物が脆いことに起因してその添加量は低く押さえられていた。そのため、ジビニルベンゼンを添加したことによる低誘電率化、低誘電正接化は、十分な効果を発揮していなかった。また、ジビニルベンゼンは揮発性を有するため、真空系、開放系で硬化硬化した際にはジビニルベンゼンが揮発してしまい硬化物の誘電特性が安定しないという問題があった。
【0008】
ジビニルベンゼンに代わる架橋成分として不揮発性の多官能ビニルベンジルエーテル化合物を樹脂組成物に添加する提案もあるが、多官能ビニルベンジルエーテル化合物はエーテル結合を有するためジビニルベンゼンほどの低誘電正接性は有しておらず、樹脂組成物の低誘電正接化の能力はジビニルベンゼンには及ばない。ジビニルベンゼンに代わる好ましい架橋成分としてはスチレン基間をアルキレン基やアリーレン基で結合した全炭化水素の多官能スチレンが考えられるが、硬化性樹脂とブレンドした際の誘電特性、硬化性、揮発性については十分な評価が実施されていなかった。
【0009】
本発明の目的は、安定した誘電特性を再現でき低誘電正接樹脂組成物、それを絶縁層として用いた電気部品を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、汎用の硬化性樹脂(A)に、180℃、100分で硬化させて得られる硬化物の10GHzでの誘電正接が0.002未満である低誘電正接性と52℃における蒸気圧が1hPa以下の不揮発性とを兼ね備えた硬化成分(B)をブレンドすることにある。
【0011】
本発明によれば、汎用の硬化性樹脂(A)に、180℃、100分で硬化させて得られる硬化物の10GHzでの誘電正接が0.002未満である低誘電正接性と52℃における蒸気圧が1hPa以下の不揮発性とを兼ね備えた硬化成分(B)をブレンドすることにより、後述する実施例の記載からも明らかなように、硬化時の硬化成分(B)の揮発に伴う誘電特性のばらつきを抑制しつつ、硬化性樹脂組成物を提供することができる
【0012】
前述の硬化成分(B)としては、アルキレン、アリーレンのような炭化水素骨格を有する多官能スチレン化合物が好ましく、これによって硬化時にひび割れのない低誘電率、低誘電正接な硬化物を安定して得ることができる。
【0013】
また、該低誘電正接樹脂組成物を電気部品の絶縁体に用いることによって誘電損失の少ない電気部品を作製することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の低誘電正接化方法、組成物および硬化物について説明する。
【0015】
本発明の低誘電正接化方法は、180℃、100分で硬化させて得られる硬化物の10GHzでの誘電正接が0.002以上である汎用硬化性樹脂(A)を安定して低誘電正接化する方法である。52℃における蒸気圧が1hPa以下の不揮発性と180℃、100分で硬化させて得られる硬化物の10GHzでの誘電正接が0.002未満の低誘電正接性を兼ね備えた硬化成分(B)を汎用の硬化性樹脂(A)にブレンドすることによって低誘電正接化がなされる。硬化成分(B)に52℃における蒸気圧が1hPa以下の不揮発性の化合物を用いることによって、樹脂組成物からの誘電正接が低い硬化成分(B)の揮発を防止することができるため、樹脂組成物の低誘電正接性が安定して再現できる。
【0016】
硬化性樹脂(A)としては、硬化性樹脂であれば特に制限はなく、一種類の硬化性樹脂であっても良く、複数の硬化性樹脂の混合物である樹脂組成物であっても良い。硬化性樹脂(A)の例としては、エポキシ樹脂、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、脂肪族型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂;エポキシ樹脂の硬化剤となるフェノール性水酸基を有する樹脂、例えばノボラック樹脂、レゾール樹脂、ポリヒドロキシスチレン、ポリヒドロキシフェニルマレイミド;シアネートエステル樹脂、例えば、ビス(4−シアネートフェニル)メタン、1、1−ビス(4−シアネートフェニル)エタン、2、2'−ビス(4−シアネートフェニル)プロパン;マレイミド樹脂、例えば、ビス(4−マレイミドフェニル)メタン、2、2'−ビス(4−マレイミドフェニル)プロパン、側鎖にマレイミド基を有する(4−ビニルフェニル)マレイミド重合体、側鎖にスチレン基を有する(4−ビニルフェニル)マレイミド重合体;(メタ)アクリレート樹脂、例えば2-メチル−2−プロペニックアシッドオキシビスエチレンエステル、2-メチル−2−プロペニックアシッド[1、1'−ビシクロヘキシル]−4、4'−ジイルエステル、エポキシ樹脂にアクリル基、メタクリル基などの感光基を導入したエポキシアクリレート等が挙げられる。
【0017】
硬化成分(B)の好ましい例としては、側鎖にビニル基を有するジビニルベンゼン単独重合体及び共重合体等の炭化水素骨格からなる多官能スチレン化合物が挙げられる。特に好ましい例としては、下記、一般式〔1〕で示される重量平均分子量1000以下の多官能スチレン化合物である。
【0018】
【化4】
Figure 0003938500
(式中、Rは置換基を有していても良い炭化水素骨格を現わし、R2、R3、R4は、同一又は異なっても良い、水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基を表し、R5、R6、R7、R8は同一又は異なっても良い、水素原子又は炭素数1から20の炭化水素基を表し、nは2以上の整数を表す。)
前記式において、Rで表される炭化水素骨格は、該硬化成分(B)の重量平均分子量が1000以下となるものであれば特に制限はない。即ち、Rで表される炭化水素骨格はスチレン基における置換基、R2〜R8の有無及びその大きさ、nの数に応じて適宜選択することができるが、一般には炭素数1〜60であり、好ましくは炭素数2〜30である。Rで表される炭化水素骨格は、直鎖状又は分岐状のいずれでも良く、また、脂環式構造、芳香族環構造等の環構造を一つ以上含んでいても良く、更にビニレン、エチニレン等の官能基を有していても良い。
【0019】
Rで表される炭化水素骨格としては、例えばエチレン、プロピレン、ブチレン、メチルプロピレン、メチルブチレン、ペンタメチレン、メチルペンタメチレン、シクロペンチレン、シクロヘキシレン、フェニレンジエチレン、キシリレン、1−フェニレン−3−メチルプロペニレン等が挙げられる。
【0020】
前記式において、R5〜R8で表される炭化水素基としては、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10の、直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、ペンチル、ヘキシル、デシル、エイコシル;直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、例えばビニル、1−プロペニル、2−プロペニル、2−メチルアリル、;アリール基、例えばフェニル、ナフチル、ベンジル、フェニルエチル、スチリル、シンナミルが挙げられる。
【0021】
前記式において、そのような複数存在するR5〜R8は同一でも異なっていても良く、結合位置も同一でも異なっていても良い。
【0022】
前記式において、R2、R3、又はR4で表されるアルキル基としては、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、ヘキシル等が挙げられる。
【0023】
前記式において、置換基を有していても良いビニル基[(R3)(R4)C=C(R2)−]はベンゼン環上、Rに対して、好ましくはメタ位又はパラ位に存在する。
【0024】
本発明に用いる硬化成分(B)としては、置換基を有していても良い複数のスチレン基を有する重量平均分子量1000以下の多官能スチレンが好ましい。硬化成分(B)の骨格には誘電率、誘電正接の観点から炭化水素骨格を採用することが好ましい。これによってスチレン基の低誘電率性及び低誘電正接性を損なうことなく、該硬化成分(B)に不揮発性及び柔軟性を付与することができる。炭化水素骨格からなる多官能スチレン化合物は構造中に極性基を持たないため、誘電正接の値が非常に小さく、10GHzにおける誘電正接の値は0.002未満である。そのため、誘電正接の値が0.002以上の汎用の硬化性樹脂(A)とブレンドした際に樹脂組成物全体の誘電正接を低下することができる。また、硬化成分(B)として重量平均分子量1000以下の化合物を選択することによって、種々の硬化性樹脂、ポリマーとの相溶性を増すとともに、成形加工時の溶融流動性を増すことができ、加工性が改善できる。該硬化成分(B)の重量平均分子量には特に制限はないが、先に上げた理由から1000以下が好ましく、更に好ましくは200〜500である。
【0025】
本発明の樹脂組成物は硬化触媒を添加しなくとも加熱のみによって硬化することができるが、硬化効率の向上を目的としてスチレン基を重合しうる硬化触媒を添加することができる。その添加量には特に制限はないが、硬化触媒の残基が誘電特性に悪影響を与える恐れがあるので樹脂成分の総量を100重量部として、0.0005〜10重量部とすることが望ましい。本範囲においてスチレン基の重合、架橋反応を促進して、低温で硬化物を得ることができる。熱、光によってスチレン基を重合、架橋しうるカチオン、ラジカル活性種を生成する硬化触媒の例を以下に示す。カチオン系触媒としては、BF4、PF6、AsF6、SbF6を対アニオンとするジアリルヨードニウム塩、トリアリルスルホニウム塩、脂肪族スルホニウム塩が挙げられ、旭電化工業製SP-70、172、CP-66、日本曹達製CI-2855、2823、三新化学工業製SI-100L、SI-150L等の市販品を使用することができる。ラジカル重合触媒としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルのようなベンゾイン系化合物、アセトフェノン、2、2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノンのようなアセトフェノン系化合物、チオキサントン、2、4−ジエチルチオキサントンのようなチオキサンソン系化合物、4、4'−ジアジドカルコン、2、6−ビス(4'−アジドベンザル)シクロヘキサノン、4、4'−ジアジドベンゾフェノンのようなビスアジド化合物、アゾビスイソブチロニトリル、2、2−アゾビスプロパン、m、m'−アゾキシスチレン、ヒドラゾン、のようなアゾ化合物、2、5−ジメチル−2、5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2、5−ジメチル−2、5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジクミルパーオキシドのような有機過酸化物等が挙げられる。特に、官能基を持たない化合物の水素引き抜きを生じさせ、架橋成分と高分子量体間の架橋をなしうる有機過酸化物、ビスアジド化合物を添加することが望ましい。
【0026】
本発明の樹脂組成物には、保存安定性を増すために重合禁止剤を添加することができる。その添加量は誘電特性、硬化時の反応性を著しく阻害しない範囲が好ましく、樹脂成分の総量を100重量部として、0.0005〜5重量部とすることが望ましい。本範囲において保存時の不要な重合反応を抑制することができ、硬化時には著しい硬化障害をもたらすこともない。重合禁止剤の例としてはハイドロキノン、p−ベンゾキノン、クロラニル、トリメチルキノン、4−t−ブチルピロカテコール等のキノン類、芳香族ジオール類が挙げられる。
【0027】
本発明の樹脂組成物は配合する硬化性樹脂(A)と硬化成分(B)の相状態によって液状または固形の樹脂組成物とすることができる。固形の樹脂組成物は有機溶剤に溶解してワニスとして用いることもできる。
【0028】
本発明の硬化物は汎用の硬化性樹脂(A)単独で用いた場合よりも誘電率、誘電正接が低く、また不揮発性であるため低誘電正接化が安定して再現できるので、各種高周波機器の電気回路の絶縁体として好適に用いることができる。具体例としては、液状の組成物の場合はLSIの金ワイヤー配線の埋め込みに用いるポッティング用樹脂への応用が挙げられ、固形の樹脂の場合はプリプレグ、積層板、プリント基板への応用が挙げられる。
【0029】
また、硬化成分(B)としては、アルキレン、アリーレンのような炭化水素骨格を有する多官能スチレン化合物が好ましく、これによって硬化時にひび割れのない低誘電率、低誘電正接な硬化物を安定して得ることができる。
[実施例]
以下に実施例並びに比較例を示して本発明を具体的に説明する。なお、以下の表中の樹脂組成比は重量比を指す。
【0030】
以下に実施例、比較例に使用した試薬の名称、合成方法、ワニスの調整方法、硬化物の評価方法を説明する。
(1)合成:1、2−ビス(ビニルフェニル)エタン(BVPE)の合成
1、2−ビス(ビニルフェニル)エタン(BVPE)は、公知の方法で合成した。500mlの三つ口フラスコにグリニャール反応用粒状マグネシウム(関東化学製) 5.36g(220mmol)をとり、滴下ロート、窒素導入管、セプタムキャップを取り付けた。窒素気流下、スターラーによってマグネシウム粒を攪拌しながら、系全体をドライヤーで加熱脱水した。乾燥テトラヒドロフラン300mlをシリンジにとり、セプタムキャップを通じて注入した。溶液を−5℃に冷却した後、滴下ロートを用いてビニルベンジルクロライド(VBC、東京化成製)30.5g(200ml)を約4時間かけて滴下した。滴下終了後、0℃/20時間、攪拌を続けた。反応終了後、反応溶液をろ過して残存マグネシウムを除き、エバポレーターで濃縮した。濃縮溶液をヘキサンで希釈し、3.6%塩酸水溶液で1回、純水で3回洗浄し、次いで硫酸マグネシウムで脱水した。脱水溶液をシリカゲル(和光純薬製ワコーゲルC300)/ヘキサンのショートカラムに通して精製し、真空乾燥してBVPEを得た。得られたBVPEはm−m体、m−p体(液状)、p−p体(結晶)の混合物であり、収率は90%であった。1H-NMRによって構造を調べたところその値は文献値と一致した(6H-ビニル:α-2H、6.7、β-4H、5.7、5.2;8H-アロマティック:7.1-7.35;4H-メチレン:2.9)。本BVPEを窒素気流下で硬化した硬化物の10GHzにおける誘電率は2.5、誘電正接は0.001であった。本BVPEを硬化成分(B)として用いた。
(2)液状の架橋成分の精製
先に合成したBVPEをメタノールに溶解して再結晶した。ろ過により固形成分を除き、ろ液を濃縮、真空乾燥してm−m体、m−p体の液状BVPEを採取した。収率は66%であった。本液状BVPEを窒素気流下で硬化した硬化物の10GHzにおける誘電率は2.5、誘電正接は0.001であった。本液状BVPEを液状の樹脂組成物の硬化成分(B)として用いた。
(3)その他の試薬の名称
L−10:旭チバ製シアネートエステル樹脂(Arocy@ L−10);比較例1及び実施例1〜3の硬化性樹脂A成分。
【0031】
CL2021A:ダイセル工業製脂環式エポキシ樹脂(セロキサイド2021A);比較例2及び実施例4〜6の硬化性樹脂A成分。
【0032】
Ep828:油化シェル製ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコートEp828);比較例3及び実施例7〜9の硬化性樹脂A成分。
【0033】
R684:日本化薬製アクリレート樹脂(KAYARAD R−684);比較例4及び実施例10〜12の硬化性樹脂A成分。
【0034】
KRM2650:旭電化製クレゾールノボラック型エポキシ樹脂;比較例5、6及び実施例13〜15の硬化性樹脂A成分の一成分。
【0035】
PP1000:日本石油製フェノール樹脂;比較例5、6及び実施例13〜15の硬化性樹脂A成分の一成分。
【0036】
1421:大日本インキ製ジシクロペンタジエン骨格含有エポキシアクリレート樹脂;比較例5、6及び実施例13〜15の硬化性樹脂A成分の一成分。
【0037】
5X:龍森製酸化ケイ素フィラー(クリスタライト5X);比較例5、6及び実施例13〜15の充填剤。
【0038】
Co:和光純薬製ナフテン酸コバルト;比較例1及び実施例1〜3の硬化触媒。
【0039】
CP66:旭電化製熱酸発生剤;比較例2〜3及び実施例4〜9の硬化触媒。
【0040】
25B:日本油脂製ラジカル重合開始剤(パーヘキサ25B);比較例5、6及び実施例13〜15の硬化剤の一成分。
【0041】
SI100L:三新化学工業製熱酸発生剤;比較例5、6及び実施例13〜15の硬化剤の一成分。
【0042】
ガラスクロス:日東紡製#2116;実施例17のプリプレグの基材。
【0043】
DVB:ジビニルベンゼン;比較例6の硬化成分(B)。
(3)ワニスの調整方法
所定量の硬化性樹脂(A)、硬化成分(B)、硬化触媒、充填剤、溶媒を配合し、攪拌することによって硬化触媒、充填材を溶解、分散してワニスを作製した。
(4)樹脂板の作製
無溶剤系の比較例1〜4、実施例1〜12のワニスはテフロンスペーサーを貼り付けた二枚のガラス板の間に注入、密閉し、加熱、硬化して樹脂板を作製した。加熱条件は120℃/30分、150℃/30分、180℃/100分の多段階加熱とした。樹脂板は70×70×1mmとした。
【0044】
比較例5、6、実施例13〜15はMEKワニスとして各樹脂を混合した。MEKワニスは、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)上に塗布し、室温で1時間、90℃で30分間乾燥し、後にPETからフィルム状試料を剥離して成形用樹脂フィルムを得た。図1に示すように、成形用フィルム2を鏡板4及び離型フィルム3を介してテフロンスペーサー1内に入れ、真空下、加熱プレスして樹脂板を作成した。圧力は1.5MPa、加熱条件は120℃/30分、150℃/30分、180℃/100分の多段階加熱とした。樹脂板は70×70×1mmとした。
(5)誘電率、誘電正接の測定
誘電率、誘電正接は空洞共振法(アジレントテクノロジー製8722ES型ネットワークアナライザー、関東電子応用開発製空洞共振器)によって、10GHzの値を測定した。
[比較例1]
比較例1は、シアネートエステル樹脂L−10の硬化物である。組成及び誘電特性を表1に示した。誘電率は2.85、誘電正接は0.016であった。本硬化物の誘電正接はやや高く、高周波信号に対応する電気部品の絶縁体には十分対応できていなかった。
[実施例1〜3]
実施例1〜3は、比較例1のシアネートエステル樹脂L−10に液状のBVPEを添加した液状ワニスの例である。BVPEの添加により、誘電率、誘電正接の値は低下し、誘電率は2.71〜2.60、誘電正接は0.009〜0.005となった。誘電特性(特に誘電正接)を小さくすることができたため、従来の比較例1に比べて誘電損失の小さな絶縁体を有する電気部品の製造が可能となった。実施例1〜3のワニスを5mmHg/室温で30分間真空乾燥した後、硬化したが硬化物の誘電特性は変化しなかった。これにより、液状BVPEの揮発による誘電特性の変化がないことを確認した。
【0045】
【表1】
Figure 0003938500
[比較例2]
比較例2は、脂環式エポキシ樹脂CL2021Aの硬化物である。組成及び誘電特性を表1に示した。誘電率は2.86、誘電正接は0.039であった。本硬化物の誘電正接はやや高く、高周波信号に対応する電気部品の絶縁体には十分対応できていなかった。
[実施例4〜6]
実施例4〜6は、脂環式エポキシ樹脂CL2021Aに液状のBVPEを添加した液状ワニスの例である。組成及び誘電特性を表2に示した。BVPEの添加により、誘電率、誘電正接の値は低下し、誘電率は2.80〜2.65、誘電正接は0.029〜0.017となった。誘電特性(特に誘電正接)を小さくすることができたため、従来の比較例2に比べて誘電損失の小さな絶縁体を有する電気部品の製造が可能となった。
【0046】
【表2】
Figure 0003938500
[比較例3]
比較例3は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂Ep828の硬化物である。組成及び誘電特性を表3に示した。誘電率は2.78、誘電正接は0.037であった。本硬化物の誘電正接はやや高く、高周波信号に対応する電気部品の絶縁体には十分対応できていなかった。
[実施例7〜9]
実施例7〜9は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂Ep828に液状のBVPEを添加した液状ワニスの例である。組成及び誘電特性を表3に示した。BVPEの添加により、誘電率、誘電正接の値は低下し、誘電率は2.74〜2.61、誘電正接は0.017〜0.010となった。誘電特性(特に誘電正接)を小さくすることができたため、従来の比較例3に比べて誘電損失の小さな絶縁体を有する電気部品の製造が可能となった。
【0047】
【表3】
Figure 0003938500
[比較例4]
比較例4は、アクリレート樹脂R684の硬化物である。組成及び誘電特性を表4に示した。誘電率は2.66、誘電正接は0.019であった。本硬化物の誘電正接はやや高く、高周波信号に対応する電気部品の絶縁体には十分対応できていなかった。
[実施例10〜12]
実施例10〜12は、アクリレート樹脂R684に液状のBVPEを添加した液状ワニスの例である。組成及び誘電特性を表4に示した。BVPEの添加により、誘電率、誘電正接の値は低下し、誘電率は2.61〜2.56、誘電正接は0.017〜0.007となった。誘電特性(特に誘電正接)を小さくすることができたため、従来の比較例4に比べて誘電損失の小さな絶縁体を有する電気部品の製造が可能となった。
【0048】
【表4】
Figure 0003938500
[比較例5]
比較例5は、エポキシ樹脂Ep828、KRM2650、エポキシアクリレート樹脂1421、フェノール樹脂PP1000等表記の物質をMEKに溶解分散した後、乾燥・硬化した硬化物である。誘電率は2.84、誘電正接は0.022であった。本硬化物の誘電正接はやや高く、高周波信号に対応する電気部品の絶縁体には十分対応できていなかった。
[比較例6]
比較例6は、比較例5にDVBを架橋成分として加えた樹脂組成物の硬化物である。組成及び誘電特性を表5に示した。実施例5と同様にして乾燥処理を行った後に硬化したため、DVBが蒸発してしまい、十分な低誘電正接化はなされなかった。誘電率は2.84、誘電正接は0.021であった。
[実施例13〜15]
実施例13〜15は、比較例5の樹脂組成物にBVPEを添加した固形樹脂組成物の例である。組成及び誘電特性を表5に示した。BVPEの添加により、誘電率、誘電正接の値は低下し、誘電率は2.67〜2.52、誘電正接は0.015〜0.007となった。誘電特性(特に誘電正接)を小さくすることができたため、従来の比較例5に比べて誘電損失の小さな絶縁体を有する電気部品の製造が可能となった。
【0049】
【表5】
Figure 0003938500
[実施例16]
以下に本発明の樹脂組成物を絶縁層とする半導体装置の作成例を図2に基づき説明する。
【0050】
図2において、5はシールド、6は基板電極、7は基板、8は金ワイヤ配線、9はアルミ電極、10はICチップ、11はダイボンド樹脂、12は低誘電正接樹脂硬化物を示し、(A)ワイヤボンディング方式で作製された半導体装置のICチップ10の周辺に液漏れ防止のシールド5を形成した。(B)ワイヤー配線8を保護するために実施例3の低誘電正接樹脂組成物12を滴下(ポッティング)して、真空下(約5mmHg)、120℃/30分、150℃/30分、180℃/100分の多段階加熱で硬化した。ワイヤー配線8回りへの気泡の残存、樹脂組成物12の発泡、ワイヤー配線8の断線、ショート等は発生していなかった。以上のように高周波信号に対応した半導体装置を作製した。本半導体装置は配線周辺を誘電率、誘電正接が低い絶縁層で被覆しているため、電気信号のロスが少ない半導体装置となった。
[実施例17]
実施例14の樹脂組成物のMEKワニスにガラスクロスを浸して、室温で1時間、90℃/60分間乾燥してプリプレグを作製した。本プリプレグを真空下、加熱加圧して模擬基板を作製した。加熱条件は120℃/30分、150℃/30分、180℃/100分、プレス圧力1.5MPaの多段階加熱とした。模擬基板は樹脂含有率が約35wt%、サイズは70×70×0.15mmとした。本模擬基板の誘電率は3.2、誘電正接は0.012と良好な誘電特性を示した。
[実施例18]
実施例17で作製したプリプレグの両面に電解銅箔の粗面を張り付け、真空下、加熱加圧して両面銅張り積層板を作製した。加熱条件は120℃/30分、150℃/30分、180℃/100分、プレス圧力1.5MPaの多段階加熱とした。銅箔とプリプレグは良好な接着性を示した。これにより多層プリント基板の作製が可能となった。
[実施例19]
本発明の多層プリント基板の作製例を図3に示す。(a)実施例17で作製した両面銅張積層板(樹脂基板14及びその両面に設けた電解銅箔13)の片側の銅箔13の表面にフォトレジスト(日立化成製HS425)15をラミネートして全面露光した。次いで残る銅箔13の表面にフォトレジスト(日立化成製HS425)15をラミネートしてテストパターンを露光し、未露光部のフォトレジスト15を1%炭酸ナトリウム溶液で現像した。(b)硫酸5%、過酸化水素5%のエッチング液で露出した銅箔13をエッチング除去して、両面銅張積層板の片面に導体配線を形成した。(c)3%水酸化ナトリウム溶液で残存するフォトレジスト15を除去し、片面に配線を有する配線基板を得た。同様にして2枚の配線基板を作製した。(d)二枚の配線基板の配線側の面に実施例17のプリプレグを挟み、真空下、加熱、加圧して多層化した。加熱条件は120℃/30分、150℃/30分、180℃/100分、プレス圧力1.5MPaの多段階加熱とした。(e)作製した多層板の外装銅面にフォトレジスト(日立化成製HS425)15をラミネートしてテストパターンを露光し、未露光部のフォトレジスト15を1%炭酸ナトリウム溶液で現像した。(f)硫酸5%、過酸化水素5%のエッチング液で露出した銅箔13をエッチング除去し、3%水酸化ナトリウム溶液で残存するフォトレジスト15を除去して外装配線18を形成した。(g)外装配線18と内層配線17を接続するスルーホール19をドリル加工で作製した。(h)配線基板をめっき触媒のコロイド溶液に浸して、スルーホール19内、基板表面に触媒を付与した。(i)めっき触媒の活性化処理の後、無電解めっき(日立化成製CUST2000)によって約1μmの種膜21を設けた。(j)フォトレジスト(日立化成製HN920)15を配線基板の両面にラミネートした。(k)スルーホール19及び配線基板の端部をマスクして露光後、3%炭酸ナトリウムで現像して開孔部22を設置した。(l)配線基板の端部に電極23を設置し、電解めっきでスルーホール部にめっき銅24を18μm形成した。(m)電極23部分を切断除去し、残存するフォトレジスト15を5%水酸化ナトリウム溶液で除去した。(n)硫酸5%、過酸化水素5%のエッチング溶液に配線基板を浸して、約1μmエッチングして種膜21を除去して多層配線板を作製した。本多層配線板の絶縁層は通常のエポキシ樹脂組成物に比べて誘電率、誘電正接が低く、高周波信号の誘電損失を低減できる配線基板である。
【0051】
【発明の効果】
本発明によれば、汎用の硬化性樹脂(A)に、180℃、100分で硬化させて得られる硬化物の10GHzでの誘電正接が0.002未満である低誘電正接性と52℃における蒸気圧が1hPa以下の不揮発性とを兼ね備えた硬化成分(B)をブレンドすることにより、後述する実施例の記載からも明らかなように、硬化時の硬化成分(B)の揮発に伴う誘電特性のばらつきを抑制しつつ、硬化性樹脂組成物の低誘電正接化を図ることができる。
【0052】
前述の硬化成分(B)としては、アルキレン、アリーレンのような炭化水素骨格を有する多官能スチレン化合物が好ましく、これによって硬化時にひび割れのない低誘電率、低誘電正接な硬化物を安定して得ることができる。
【0053】
また、該低誘電正接樹脂組成物を電気部品の絶縁体に用いることによって誘電損失の少ない電気部品を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】樹脂板作製時の治具の配置図である。
【図2】ワイヤボンディング方式で作製された半導体装置の断面模式図である。
【図3】多層プリント基板作製時のプロセスを現わす模式図である。
【符号の説明】
1…スペーサー、2…成形用フィルム、3…離型フィルム、4…鏡板、5…シールド、6…基板電極、7…基板、8…金ワイヤ配線、9…アルミ電極、10…ICチップ、11…ダイボンド樹脂、12…低誘電正接樹脂硬化物、13…電解銅箔、14…樹脂基板、15…フォトレジスト、16…プリプレグ、17…内層配線、18…外層配線、19…スルーホール、20…めっき触媒、21…種膜、22…開孔部、23…電極、24…めっき銅。

Claims (6)

  1. 180℃、100分で硬化させて得られる硬化物の10GHzでの誘電正接が0.002以上の硬化性樹脂(A)と下記一般式:
    Figure 0003938500
    (式中、Rは置換基を有していても良い炭化水素骨格を現わし、R2、R3、R4は、同一又は異なっても良い、水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基を表し、R、R6、R7、R8は同一又は異なっても良い、水素原子又は炭素数1から20の炭化水素基を表し、nは2以上の整数を表す。)で示される複数のスチレン基を有する重量平均分子量1000以下の硬化成分(B)を含有する樹脂組成物。
  2. 請求項1又は2に記載の樹脂組成物の硬化物。
  3. 請求項2に記載の硬化物を絶縁層とする電気部品。
  4. 180℃、100分で硬化させて得られる硬化物の10GHzでの誘電正接が0.002以上で、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネートエステル樹脂、マレイミド樹脂、アクリレート樹脂、メタクリレート樹脂から選ばれる少なくとも一種類の硬化性樹脂ある(A)と下記一般式:
    Figure 0003938500
    (式中、Rは置換基を有していても良い炭化水素骨格を現わし、R2、R3、R4は、同一又は異なっても良い、水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基を表し、R5、R6、R7、R8は同一又は異なっても良い、水素原子又は炭素数1から20の炭化水素基を表し、nは2以上の整数を表す。)で示される複数のスチレン基を有する重量平均分子量1000以下の硬化成分(B)を含有する組成物を有機又は無機のクロス又は不職布に含浸させ、乾燥させてなるプリプレグ。
  5. 請求項4に記載のプリプレグ又はその硬化物の両面又は片面に導体層が設置されてなる積層板。
  6. 請求項5に記載の積層板の導体層に配線加工を施し、プリプレグを介して積層板を積層接着してなる多層プリント基板。
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