JP3935394B2 - 弾性封止体、その製造方法およびそれを用いた薬剤容器 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば輸液バッグ、薬液容器等の医療用容器における口部、輸液回路の混注口(側注管)等を封止するのに好適な弾性封止体と、それを用いた薬剤容器に関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】
点滴液や注射液を収容する輸液バッグ、薬液容器等の医療用容器における口部や、輸液、点滴液などを注入するための輸液回路における混注口(側注管の口部)は、一般に、ゴム栓によって封止されている。従って、かかる口部、混注口等から薬液・薬剤を注入、混合する場合には、先端が鋭利な金属製注射針を有する注射器等が用いられてきた。
【0003】
一方、近年、感染症等の観点から、前記金属製注射針等の先端が鋭利な中空針で誤って手指を刺してしまう事故が問題視されている。そこで、先端が鋭利な針を用いずに薬液・薬剤を注入、混合する方法として、特開平7−236697号公報には、側注管の口部を封止するゴム栓にあらかじめ切込みを設けた輸液ラインが開示されている。
上記公報に開示のゴム栓のようにあらかじめ切込みを設けた封止体を用いれば、先端が鋭利ではない中空針であっても容易に挿通させることができる。しかしながら、あらかじめ切込みが設けられていることによって、口部の密閉性が損なわれるという新たな問題が生じる。特に、薬液容器に充填される薬液・薬剤によっては、充填後の容器に高圧蒸気滅菌や熱水滅菌等の滅菌処理を要する場合があり、封止体にあらかじめ切込みが設けられていると滅菌蒸気や熱水が浸入するのを防止できない。従って、封止体にあらかじめ切込みを設ける方法は、薬液容器の種類によっては採用できない問題があった。
【0004】
これに対し、スリットから、例えば滅菌水や消毒液等の異物が入り込まないように、弾性体の天面や底面をフィルムで被覆したり、スリット自体を未貫通の状態にしたりする対策がとられている(特開平5−124664号公報参照)。
しかしながら、封止体にあらかじめスリットを設けていることで、当該スリットに外部から異物が侵入するおそれがある。この異物は、スリットに中空針等の穿刺具を刺し込む際に、穿刺具とともに薬液等の中に混入するおそれがあり、最終的に人体内に入る危険性がある。
【0005】
上記の問題を解決するために、スリットを完全に挿通させずに、封止体の一部に未貫通の部分を設けることが提案されているが、当該未貫通の部分は、先端が鋭利ではない穿刺具であっても挿通させるために、必然的にその厚みが少なくなっており、その引裂強さが小さいことから、封止体を使用する前に開裂が生じてしまうおそれがある。
また、封止体の表面に被覆フィルムを設けることで、スリット部分を封鎖することも提案されているが、この方法を採用すると、被覆フィルム分の材料費が余分にかかってしまい、被覆フィルムの形成に際しても余分な作業を要して製造工程が複雑になることから、製造コストの上昇につながる。
【0006】
そこで本発明の目的は、構造が簡易で安価に製造することができ、先端が鋭利ではない中空針等であっても容易に挿通させることができ、しかも当該中空針等の穿刺具を圧入しない限りは十分な密閉状態を保つことのできる弾性封止体を提供することである。
また、本発明の他の目的は、十分な密封性を有し、かつ先端が鋭利な針を用いずに薬剤・薬液の注入、混合が可能な口部閉塞システムを有する薬剤容器を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、従来公知のスリット入り弾性封止体と同様にして弾性封止体の内部にスリットを設けた後、当該スリット部分をブロッキングによって密着させて、いわゆる易剥離接着状態としたときには、当該弾性封止体に穿刺具を圧入する前の状態で密閉性を確保することができ、しかも前記スリット部分において弾性封止体の引裂強度を小さくすることができ、その結果、当該スリット部分では、先端が鋭利ではない中空針であっても容易に挿入させることができるという全く新たな事実を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に係る弾性封止体は、内部に、一方向に伸びるスリット状の易引裂部を有する弾性封止体であって、前記弾性封止体が、熱可塑性エラストマーからなり、かつ、実質的にアンチブロッキング剤を含有せず、前記スリット状の易引裂部が、前記弾性封止体の内部に設けられたスリットを、加熱によるブロッキングで易剥離接着し、閉鎖したものであることを特徴とする。
【0008】
上記弾性封止体によれば、スリット部分が易剥離接着によって閉鎖されていることにより、注射針等の部材を圧入しない限りは弾性封止体の密閉性を確保することができる。従って、当該スリットを介して異物が混入するといった問題を防止することができる。
【0009】
しかも、当該スリット部分は、易剥離接着によって易引裂部を構成しており、すなわち、弾性封止体の内部にあって部分的に引裂強度が小さい個所を区画している。従って、先端が鋭利ではない中空針等の穿刺具であっても、これを容易に挿入させることができ、その結果、当該易引裂部を開裂させて穿刺具を弾性封止体中に容易に挿通させることができる。
【0010】
本発明の弾性封止体におけるスリット部分の易剥離接着は、当該スリット部分の弾性体をブロッキングにより接着させることによって達成することができる。
【0011】
上記弾性封止体において、ブロッキングによる接着は、封止体に圧をかけて、前記スリット部分の弾性体が密着した状態を所定期間持続させることによって達成することができるが、前記弾性体を加熱することによって達成するのが、作業性等の観点から好ましい。
この場合において、前記弾性体の加熱は、100〜126℃で10〜120分間行うのが好適である。
【0012】
本発明に係る弾性封止体において、弾性体には、易剥離接着の程度を良好なものにするという観点から、熱可塑性エラストマーが用いられ、好ましくは、オレフィン系またはスチレン系の熱可塑性エラストマーが用いられる。上記本発明の弾性封止体において、易引裂部は、前記弾性体の一方の端面から他方の端面側へ伸びて設けられており、かつ、当該他方の端面近傍では前記弾性体の薄肉部が設けられているのが、易引裂部が穿刺具の圧入によらずに開裂してしまうのを防止するという観点から好ましい。
【0013】
また、上記本発明の弾性封止体においては、穿刺具の刺通性を良好なものとする上で、弾性体の一方の端面における易引裂部の近傍には窪みが設けられているのが好ましい。
【0014】
本発明の弾性封止体は、医療用容器の口部用または輸液回路の混注口用の封止体として、すなわち、例えば輸液バッグ、薬液容器等の医療用容器における口部や、輸液回路の混注口(側注管の口部)等を封止する部材として好適である。
本発明の弾性封止体は、例えばそのままの状態で、直接に、前記口部や前記混注口等に挿入したり、あるいは当該弾性封止体を略筒状の外枠体内に配置してキャップとした上で、これを前記口部や前記混注口等に取り付けたりすることによって使用することができる。
【0015】
すなわち、本発明に係る第1の薬剤容器は、口部に、本発明に係る弾性封止体が取り付けられてなるものである。
また、本発明に係る第2の薬剤容器は、口部に、本発明に係る弾性封止体を備えるキャップが取り付けられてなるものである。
上記第1および第2の薬剤容器によれば、先端が鋭利な針を用いなくても当該薬剤容器の口部から薬剤・薬液を注入、混合することができる。しかも、薬剤容器の密封性が十分に確保され、そのままの状態で滅菌処理に供することができる。
かかる薬剤容器は、使用時の安全性を高めるものとして、医療現場等において好適に用いることができる。
【0016】
上記第1の薬剤容器は、さらに口部の外周部または外表面に固着された筒状ホルダーと、当該ホルダーの内部で摺動自在に保持された両頭針と、を備えるものであるのが好ましい。
また、上記第2の薬剤容器は、さらにキャップの外枠体に固着された筒状ホルダーと、当該ホルダーの内部で摺動自在に保持された両頭針と、を備えるものであるのが好ましい。
【0017】
これらの薬剤容器によれば、あらかじめ薬剤容器の口部またはキャップに装着されている両頭針を筒状ホルダー内で摺動させるという簡単な操作を経ることによって、容易に本発明の弾性封止体に注入針等を挿通させ得ることから、薬剤容器の取扱性をより一層良好なものとすることができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
〔弾性封止体〕
次に、本発明に係る弾性封止体について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
本発明に係る弾性封止体10は、図1に示すように、先端が鋭利ではない中空針等の穿刺具を挿通可能な易引裂部(スリット)12を有する封止体11からなるものである。なお、同図(a) は弾性封止体10の斜視図であって、同図(b) はそのA−A断面図である。
【0019】
この弾性封止体10は、例えば点滴液、注射液等を収容する輸液バッグ、薬液容器等の医療用容器における口部や、輸液、点滴液などを注入するための輸液回路における混注口(側注管の口部)に嵌装させて用いることができる。このほか、例えば弾性封止体10の封止体11の周囲に略筒状の外枠体21を設けるとともに、こうして得られるキャップ20を前記口部や前記混注口等に接着、溶着させることによって用いることもできる。
【0020】
(易引裂部・スリット)
本発明の弾性封止体10における易引裂部12は、前述のように、封止体11にあらかじめ設けておいたスリットを、ブロッキング等の手段によって接着させてなるものである。
この易引裂部12は、図1(a) に示すように1ヶ所にのみではなく、1の弾性封止体中に複数設けてもよい。
【0021】
易引裂部の形状は、易剥離接着を十分に達成し得る形状であれば特に限定されるものではない。具体的には、封止体11の軸方向xと直交する方向での断面における形状が、図1(a) に示すようにマイナス(−)字状となるもの、単に点として表される針穴状のもの、プラス(+)字状(または十字状)のもの、放射線状のもの等の、種々の形状を採用することができる。
易引裂部(およびスリット)のサイズについては特に限定されるものではなく、弾性封止体に挿通させる穿刺部材の径などに応じて適宜設定すればよいが、通常、その幅(弾性封止体の軸方向xと直交する方向における長さ)が3〜10mm程度となるように設定するのが好ましい。
【0022】
易引裂部は、軸方向xに沿って封止体11を貫通していてもよいが、先端が鋭利ではない中空針等の穿刺具を容易に挿通させ得る範囲であれば、図1(b) に示すように、封止体11の一方の端部(図1(b) では底面14側)に薄肉部15を残すように形成されているのが好ましい。この場合、前記穿刺具の圧入によらずに易引裂部12が完全に開裂してしまうといった不具合が生じるのを防止できる。
【0023】
前記薄肉部15の厚み(弾性封止体の軸方向xにおける長さ)は、特に限定されるものではないが、通常0.2〜2mm程度となるように設定するのが好ましい。厚みが上記範囲を下回る薄肉部を形成するのは、技術的な困難を伴う。逆に、厚みが上記範囲を超える薄肉部を形成すると、十分な長さの易引裂部(スリット)を形成できなくなるおそれがある。
【0024】
本発明の弾性封止体10においては、図1および図2に示すように、封止体11の天面13における易引裂部12近傍に、窪み16を設けるのが好ましい。このような窪み16を設けることによって、例えば中空針等の穿刺具を封止体11の天面13に押し当てたときに易引裂部12に応力が集中することとなり、穿刺具をより一層刺通し易くすることができる。
前記窪みの大きさや形状は特に限定されるものではないが、直径1〜5mm、深さ0.5〜2mm程度の円形すり鉢状であるのが好ましい。
【0025】
(弾性体)
本発明の弾性封止体において、封止体を構成する弾性体としては、薬液容器の口部を封止する栓体などに用いられている従来公知の種々の材料を用いることができる。具体的には、天然ゴム、シリコーンゴム等のゴムや、熱可塑性エラストマー等の弾性部材が挙げられる。
本発明においては、上記例示の弾性部材のうち、熱可塑性エラストマーを用いるのが好ましい。この場合、例えば天然ゴムやシリコーンゴム等のゴムを用いる場合に比べて、封止体内部のスリットに対する易剥離接着性を良好なものとすることができる。
また、本発明の弾性封止体を前述のキャップとして用いる場合には、外枠体を形成するプラスチックとともに熱成形を可能にすべく、封止体を構成する弾性体として熱可塑性エラストマーを用いるのが特に好ましい。
【0026】
本発明に使用可能な熱可塑性エラストマーとしては、例えばスチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、マレイン酸変性等の変性SEBS、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン/ブチレンブロック共重合体(SEB)、スチレン−エチレン/プロピレンブロック共重合体(SEP)等のスチレン系エラストマー;エチレン−プロピレンブロック共重合体等のオレフィン系エラストマー;ポリウレタン系エラストマーなどが挙げられる。
【0027】
本発明に用いられる弾性体の特性については特に限定されるものではなく、一般に、先端が鋭利ではない中空針等の穿刺具を貫通させるのが困難なほどに強靭または高硬度でなく、かつ通常の保管時において容易に変形したり、破損したりしない程度の強度を有するものであればよい。
本発明のキャップに用いられる弾性体は、JIS A硬度〔JIS K 6301に記載の方法にて測定したスプリング硬さHs(JIS A)〕が20〜70であるのが好ましく、30〜50であるのがより好ましい。また、弾性体の圧縮永久歪みは、前記穿刺具を繰り返し抜き差ししても破損することがないように、JIS K 6301に記載の方法にて測定した値〔圧縮永久歪み率CS(%)、熱処理温度・時間:70℃×22時間〕が30以下であるのが好ましい。
【0028】
(ブロッキングによる易引裂部の形成)
本発明の弾性封止体における易引裂部は、前述のように、あらかじめ封止体内に設けておいたスリット部分を、ブロッキングによって易剥離接着させることによって形成することができる。
ブロッキングによって易剥離接着させる場合において、封止体を構成する弾性体は、実質的にアンチブロッキング剤を含有しないものであるのが好ましい。
【0029】
弾性封止体として従来用いられている熱可塑性エラストマー等の弾性部材は、穿刺具を挿通させるという目的から、比較的硬度の低いものが選ばれている。このような低硬度の弾性部材(とりわけ、熱可塑性エラストマーは一般にその表面の粘着性が高いことから、弾性部材同士を接触させて放置すると、熱または圧力によって互いに溶着してしまい、塊状になってしまうおそれがある。そこで、従来、かかる低硬度の弾性部材には、アンチブロッキング剤が添加されている。
【0030】
これに対し、本発明において、弾性封止体を構成する弾性体にアンチブロッキング剤を含有しない場合には、封止体(弾性体)同士の溶着が生じないように配慮する必要が生じるものの、スリット部分における易剥離接着が生じ易くなるという利点がある。
ブロッキングによる接着は、(a) あらかじめスリットを形成しておいた封止体を加熱することによって、または、(b) あらかじめスリットを形成しておいた封止体に圧をかけて(通常、封止体11の軸方向xと直交する方向から圧をかけて)、前記スリット部分の弾性体が密着した状態を所定時間持続させることによって、それぞれ達成することができる。
【0031】
本発明においては、上記(a) および(b) のいずれの方法を採用することもできるが、作業性等の観点から、上記(a) の弾性体の加熱によって達成するのが好ましい。
上記(a) の弾性体の加熱によってブロッキングを達成する場合において、弾性体の加熱は、100〜126℃で10〜120分間(好ましくは15〜60分間)行われるのが好適であって、より好ましい加熱条件は102〜112℃で25〜45分間である。
なお、例えば本発明の弾性封止体を薬液容器の口部に設置した場合には、当該薬液容器内に薬液を充填して加熱滅菌処理を施す際に、上記の加熱処理を併せて行ってもよい。
【0032】
上記(b) に示す弾性体の加圧によってブロッキングを達成するには、これに限定されるものではないが、1.0〜2.5kg/cm2 、好ましくは1.2〜2.3kg/cm2 程度の加圧を10分間以上、好ましくは30分間以上行えばよい。
【0033】
なお、本発明の弾性封止体を、前述のように略筒状の外枠体内に配置して、キャップとして用いる場合には、封止体が外枠体によってある程度加圧される。従って、特別に上記(a) または(b) の処理を施さなくても、スリット部分においてブロッキングが進行するものと考えられるが、易引裂部において十分な密閉状態を得るには、外枠体による加圧だけでなく、弾性体への加熱処理を組み合わせることが望ましい。
【0034】
本発明の弾性封止体には、低融点の油脂を含有させるのが好ましい。これにより、弾性体の柔軟性を保つことができ、さらにはスリット部分におけるブロッキングがより形成し易くなる。
ここで、低融点の油脂の具体例としては、常温で液体の低分子量非芳香族炭化水素が挙げられる。かかる油脂の市販品としては、出光興産(株)製の商品名「ダイアナプロセスオイル」等が挙げられる。上記油脂の配合量は、弾性体に対して30〜70重量%程度とするのが好ましい。
【0035】
(易引裂部の溶着度)
本発明の弾性封止体において、易引裂部の引裂強さの程度(または、スリットを易剥離接着する際の溶着の程度)については、前述のように、先端が鋭利ではない中空針等の穿刺具を容易に挿通させる程度であればよい。
従って、その程度については特に限定されるものではないが、例えば注射筒の先端部である直径4mmの筒状部材を圧入して、易引裂部(スリット)に挿通させる場合には、圧入時の最大抵抗が、弾性封止体の厚さ1mm当たり40〜200Nであるのが好ましく、45〜100Nであるのがより好ましい。
【0036】
上記筒状部材を圧入する際の最大抵抗が上記範囲を下回る場合は、易引裂部の引裂強さが小さすぎて、中空針等の穿刺具を圧入しなくても引き裂かれてしまい、弾性封止体の密閉性が損なわれるおそれがある。逆に、上記筒状部材を圧入する際の最大抵抗が上記範囲を超える場合は、易引裂部の引裂強さが大きすぎて、中空針等の穿刺具の圧入を容易に行うことができなくなるおそれがある。
なお、穿刺具を圧入する際の最大抵抗値は、弾性封止体の厚さに略比例するものであって、易引裂部(スリット)の幅や形状、易引裂部(スリット)が弾性封止体全体を貫通しているか否かは、最大抵抗にほとんど影響を及ぼすものではない。
【0037】
(窪み)
本発明の弾性封止体において、封止体11の一方の端面(天面13または底面14)における易引裂部12の近傍に設けられる窪みについて、その深さ等は特に限定されるものではないが、封止体11の厚みに対して5〜95%の範囲で設定するのが好ましく、10〜90%の範囲とするのがより好ましい。図1〜4に示す弾性封止体10では、くぼみ6は封止体11の天面13に設けられている。窪みの形状も特に限定されるものではなく、円錐状、V字状等の、種々の形状を採用することができる。
【0038】
(外枠体)
本発明の弾性封止体は、例えば薬剤容器等の口部に直接取り付けて用いるほかに、略筒状である外枠体の内部に配置したキャップとして用いることができる。本発明の弾性封止体をガラス製の薬剤容器に採用する場合、外枠体としてはアルミニウム等の金属板を用いるのが好ましい。この場合、金属板からなる外枠体を薬剤容器の口部のフランジに巻き締めることによって、弾性体を固定することができる。
【0039】
一方、本発明の弾性封止体をプラスチック製の薬剤容器、または輸液ラインの側注部に適用する場合、外枠体には、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチルペンテン〔例えば三井化学(株)製の商品名「TPX」〕等のポリオレフィン;エチレン−テトラシクロドデセン共重合体〔例えば三井化学(株)の商品名「アペル」〕等のポリ環状オレフィン;アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS);ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアリレート等のポリエステル;ポリフェニレンサルファイド(PPS)等のベンゼン系重合体などの、医療器具に従来用いられている種々のプラスチックからなるものを用いることができる。
【0040】
〔薬剤容器〕
次に、本発明に係る弾性封止体を用いた薬剤容器について、図面を参照しつつ、説明する。
本発明の薬剤容器は、前述のように、
(i) 上記本発明に係る弾性封止体を、プラスチック製等の薬剤容器やガラスバイアル容器における口部に直接取り付けたもの、または、
(ii)上記本発明に係る弾性封止体を備えるキャップを、プラスチック製等の薬剤容器やガラスバイアル容器における口部に取り付けたものである。
【0041】
上記本発明に係る薬剤容器によれば、先端が鋭利な針を用いなくても当該薬剤容器の口部から薬液を注入、混合することができる。しかも、薬剤容器の密封性が十分に確保されており、そのままの状態で滅菌処理に供することができる。
本発明の弾性封止体を備えるキャップをプラスチック製の薬剤容器における口部に取り付ける場合、その方法は特に限定されるものではなく、本発明の弾性封止体を備えるキャップにおけるプラスチック製の外枠体と、プラスチック製薬剤容器の口部とを熱溶着させるなど、従来公知の種々の方法を採用することができる。
なお、本発明の弾性封止体を備えるキャップにおける外枠体がアルミニウム等の金属の場合には、薬剤容器の口部に前記外枠体を巻き付けたり、加締めたりすればよい。
【0042】
本発明の薬剤容器は、本発明の弾性封止体を口部に取り付けたり、本発明の弾性封止体を備えるキャップを薬剤容器の口部に固着させたりしたものに限定されるものではなく、例えば図3および図4に示すように、本発明の弾性封止体を備えるキャップの外枠体に、さらに両頭針を備えた筒状のホルダーを固着してなる、いわゆるキットタイプのものであってもよい。
【0043】
図3に示すキットタイプの薬剤容器70は、略筒状である外枠体62の内部に本発明の弾性封止体10を設けてなるキャップ61を薬剤容器90の口部91に固着したものである。このキャップ61の外枠体62には筒状ホルダー71が取り付けられており、蓋体73でカバーされている。筒状ホルダー71は、その内部に両頭針72を摺動自在に保持している。図3中、符号11は弾性体を、符号15は薄肉部を、符号16は窪みを、それぞれ示す。
【0044】
かかる薬剤容器70を使用するには、蓋体73を取り外して筒状ホルダー71内の両頭針72を摺動させ、この両頭針72を弾性封止体10の易引裂部(スリット)12に挿通させればよい。
図3に示す薬剤容器70によれば、両頭針72があらかじめ薬剤容器90のキャップ61に装着されていることから、両頭針72を薬剤容器90側に摺動させるという簡易な操作を経るだけで両者を互いに連通させることができ、薬剤容器90内の薬液を排出するといった処理を行うことができる。
【0045】
薬剤容器90の口部に設けられているキャップ61は、前述のように先端が鋭利でない注入針を容易に挿通させ得るものであることから、筒状ホルダー71内に設置される両頭針72もそのキャップ61側の針先を丸くすることができる。それゆえ、両頭針72を取り外す際に誤って手指を指すという問題を防止することができる。
両頭針72のキャップ61側とは反対側の針先についても丸くすることができるが、この場合は両頭針にセットされるバイアル瓶等の薬剤容器におけるキャップが、先端が鋭利でない注入針を挿通可能なものであることが求められる。
【0046】
図4に示すキットタイプの薬剤容器70’は、図3に示す薬剤容器70の設計変更例である。キットタイプの薬剤容器70’は、略筒状の外枠体62の内部に本発明の弾性封止体10を設けてなるキャップ61を薬剤容器90の口部91に固着したものであって、外枠体62には筒状ホルダー74が取り付けられている。この筒状ホルダー74はその内部に両頭針72を摺動自在に保持しており、筒状ホルダー74の外周面には、バイアル瓶76を保持した蓋体75が摺動自在に冠着されている。
【0047】
かかる薬剤容器70’を使用するには、蓋体75を両頭針72側に摺動させて、バイアル瓶76の切込み部79に両頭針72の一方の先端を挿通させるとともに、さらに両頭針72をバイアル瓶76ごとキャップ61側に摺動させて、両頭針72の他方の先端をキャップ61の切込み部12に挿通させればよい。
図4に示す薬剤容器70’によれば、両頭針72やバイアル瓶76があらかじめ薬剤容器90のキャップ61に装着されていることから、バイアル瓶76および両頭針72を薬剤容器90側に摺動させるという簡易な操作を経るだけで薬剤容器90とバイアル瓶76とを互いに連通させることができ、バイアル瓶76内の薬剤を薬剤容器90側に移動させるといった処理を行うことができる。
【0048】
薬剤容器90の口部に設けられているキャップ61は、前述のように先端が鋭利でない注入針を容易に挿通させ得るものであることから、筒状ホルダー74内に設置される両頭針72もそのキャップ61側の針先を丸くすることができる。それゆえ、両頭針72を取り外す際に誤って手指を刺すという問題を防止することができる。
両頭針72のキャップ61側とは反対側の針先についても、バイアル瓶76に本発明のキャップ装着することにより、針先を両方とも丸くすることができる。なお、図4中、符号77はバイアル瓶76の口部を、符号78は弾性体を、符号80は薄膜を、符号81は外枠体を、それぞれ示す。
【0049】
【実施例】
次に、実施例および比較例を挙げて、本発明を説明する。
実施例1
弾性封止体を構成する弾性体には、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)を用いた。このSEBSには、軟化剤としてのパラフィン系プロセスオイル〔出光興産(株)製の「ダイアナプロセスオイルPW−200」〕を配合したが、アンチブロッキング剤は配合しなかった。また、前記プロセスオイルの配合量は、弾性体の総重量に対して50重量%となるように調整した。
【0050】
上記SEBS組成物を用いて、厚さ1mm、直径20mmの円盤状の封止体11を成形した。また、この封止体11には、幅wが7mmのスリット12(スリット部分の厚み約30μm)を、封止体11の天面13側から底面14側へ貫通するようにして設けておいた(図1参照)。
次いで、上記スリット入り封止体11を、水を充填した輸液バッグの口部に嵌装させた。この状態で、封止体11は、輸液バッグの口部内においてその軸方向xと直交する方向に圧を受けていることから、スリット12部分から輸液バッグの内容液が漏出する現象は観察されなかった。
さらに、上記輸液バッグを高圧蒸気滅菌に供した。高圧蒸気滅菌の条件は、107℃、30分間であった。
こうして、前記スリット部分が易剥離接着によって密着して易引裂部12を形成した弾性封止体10を得た。
【0051】
比較例1
輸液バッグに対する高圧蒸気滅菌を行わなかったほかは、実施例1と同様にして弾性封止体を得た。すなわち、比較例1の弾性封止体はそのスリット部分で易剥離接着が生じておらず、輸液バッグの口部から受ける圧によってのみ密着している状態であった。
【0052】
比較例2
上記SEBS組成物からなる封止体にスリットを設けることなく、そのままの状態で輸液バッグの口部内に装着した。
【0053】
(易剥離溶着度の測定試験)
上記実施例1および比較例1,2の弾性封止体に対して、注射筒の先端部である直径4mmの筒状部材を圧入した。ここで、実施例1と比較例1では、封止体の易引裂部に前記筒状部材を圧入した。
前記筒状部材を封止体11の易引裂部12に圧入する際の最大抵抗を、LLOYD材料試験機〔LLOYD−LRX,安田精機製〕によって測定したところ(測定サンプル6個についての平均値)、比較例1での最大抵抗が33.0Nであったのに対し、実施例1での最大抵抗は49.4Nであった。
実施例1での最大抵抗は比較例1での値に比べて大きかったものの、注射筒先端部の筒状部材を容易に封止体内に挿通させることができる程度であって、易引裂部の開裂はスムーズに行うことができた。
【0054】
実施例1の弾性封止体では、スリット部が易剥離接着によって閉鎖されていることから、輸液バッグを高圧蒸気滅菌に供した場合にも、その内部に上記が進入するという問題を生じることがなかった。また、当該輸液バッグを常温常圧下で静置した場合に、弾性封止体からの液漏れを生じることもなかった。
これに対し、比較例1の弾性封止体は、スリット部分が閉鎖されていないために、輸液バッグを軽く押圧するだけで当該スリット部から液漏れが生じるという問題があった。
【0055】
比較例2の弾性封止体では、スリット部分が設けられていないことから、先端が鋭利ではない前記筒状部材を挿通させることができなかった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る弾性封止体の一実施形態を示す図であって、(a) はその斜視図、(b) はそのA−A断面図である。
【図2】本発明に係る弾性封止体を用いたキャップの一例を示す図であって、(a) はその斜視図、(b) はそのB−B断面図である。
【図3】本発明に係る薬剤容器の一実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明に係る薬剤容器の他の実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
10 弾性封止体, 11 封止体, 12 易引裂部(スリット), 13天面, 14 底面, 15 薄肉部, 16 窪み, 61 キャップ, 62 外枠体, 70 薬剤容器, 70’ 薬剤容器, 71 筒状ホルダー, 72 両頭針, 74 筒状ホルダー.
Claims (11)
- 内部に、一方向に伸びるスリット状の易引裂部を有する弾性封止体であって、
前記弾性封止体が、熱可塑性エラストマーからなり、かつ、実質的にアンチブロッキング剤を含有せず、
前記スリット状の易引裂部が、前記弾性封止体の内部に設けられたスリットを、加熱によるブロッキングで易剥離接着し、閉鎖したものであることを特徴とする、弾性封止体。 - 前記加熱が、100〜126℃で10〜120分間行われることを特徴とする、請求項1に記載の弾性封止体。
- 前記熱可塑性エラストマーがオレフィン系またはスチレン系の熱可塑性エラストマーであることを特徴とする、請求項1または2に記載の弾性封止体。
- 前記易引裂部が前記弾性封止体の一方の端面から他方の端面側へ伸びて設けられており、かつ、当該他方の端面近傍では前記弾性封止体の薄肉部が設けられていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の弾性封止体。
- 前記弾性封止体の一方の端面における易引裂部の近傍に窪みが設けられていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の弾性封止体。
- 医療用容器の口部用または輸液回路の混注口用の封止体であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の弾性封止体。
- 熱可塑性エラストマーからなり、かつ、実質的にアンチブロッキング剤を含有しない弾性封止体の内部に、一方向に伸びるスリットを設けた後、前記弾性封止体を加熱して、前記スリットをブロッキングにより易剥離接着させて閉鎖し、前記弾性封止体の内部に、一方向に伸びるスリット状の易引裂部を形成することを特徴とする、弾性封止体の製造方法。
- 口部に、請求項1〜6のいずれかに記載の弾性封止体が取り付けられていることを特徴とする、薬剤容器。
- さらに、前記口部の外周部または外表面に固着された筒状ホルダーと、前記筒状ホルダーの内部で摺動自在に保持された両頭針と、を備えていることを特徴とする、請求項8に記載の薬剤容器。
- 口部に、請求項1〜6のいずれかに記載の弾性封止体を備えるキャップが取り付けられていることを特徴とする、薬剤容器。
- さらに、前記キャップの外枠体に固着された筒状ホルダーと、前記筒状ホルダーの内部で摺動自在に保持された両頭針と、を備えていることを特徴とする、請求項10に記載の薬剤容器。
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