JP3934796B2 - 床材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はカーペットの裏打ち材、プラスチックタイル、クッションフロア等の床材に関する。詳しくは、廃棄焼却時にダイオキシンや塩化水素ガスの発生が無く、剛軟性に優れ、かつ、可塑剤の移行防止性に優れた性能を有する床材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、床材には木材、ピチュメンまたはポリ塩化ビニルを主成分とする樹脂等が用いられてきた。特に近来は価格および性能面よりプラスチックタイルや、カーペットの裏打ち材料ではポリ塩化ビニルを主成分とする樹脂が多用され、これら用途の主流になっている。
【0003】
しかしながら、塩ビゾルを用いた製品は、これを廃棄焼却した時に塩化水素ガスを発生し、これが焼却炉を損傷することがかねてから問題となっていた。また、近年では、塩化水素ガスによる酸性雨の問題、さらには焼却時に発生する毒性が極めて高いとされるダイオキシンによる人体や、地球環境への影響などが問題視されるようになり、塩ビゾルと同等の物性を有しながら環境問題の少ない代替材料の登場が期待されている。
【0004】
かかる状況に鑑み、ポリ塩化ビニル樹脂を使用しない床材を開発する試みがなされてきた。その例として、▲1▼アスファルト変性物を主成分とするピチュメンを使用する試み、▲2▼非晶質ポリオレフィンを主成分とする樹脂組成物を溶融成形して床材として使用する試み、が行われている。しかしながら、いずれの場合もポリ塩化ビニルを主成分とする樹脂を用いた床材が有する好適な剛軟性を実現するには至らず、床材に要求されるべき物性を完全に満足していない状況である。
【0005】
これに対して、ポリ塩化ビニルと同等の剛軟度を実現できる材料として、ポリ(メタ)アクリル/スチレン/ブタジエン系樹脂からなる水系エマルションが提案されている。この場合には、樹脂のガラス転移温度を最適化することにより、塩化ビニルを主成分とする樹脂を用いた場合と同等の剛軟性を実現することができる。しかし、反面、分散媒として多量の水を含有するため、床材の製造にあたってはこれを除去する工程が必要であり、従来使用していた製造ラインが使用できないばかりか、製造ラインの処理速度も遅くなり、生産性の低下と製造コストの増加を伴う。また、媒体の除去に必然的に伴う発泡を完全に防止することが困難であり、物性の面からも塩化ビニル樹脂に及ばないという問題点を有している。
【0006】
以上のように、現在多用されているポリ塩化ビニルを主成分とする床材は、廃棄焼却した場合に環境に対して悪影響を及ぼす懸念があるとされながら、これに代替できる好適な床材用材料を見出すことができない状況にある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、▲1▼床材を構成する材料に含有される塩素量を低減すること、▲2▼床材として具備すべき好適な剛軟度を有すること、および、▲3▼安価で生産能力の高い塩化ビニル樹脂用設備と同等の生産設備が使用できることであり、以てポリ塩化ビニルを主成分とする床材の持つ優れた物性を保持し、かつ、ポリ塩化ビニルを主成分とする床材の持つ環境への影響といった問題点を払拭した好適な床材を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題に対して鋭意検討を行い、▲1▼塩化ビニル樹脂の代わりに塩素を含有しないアクリル系重合体を用いる。▲2▼該アクリル系重合体を水などの分散媒を含有しない乾燥された状態で供給する。▲3▼可塑剤や充填剤などを配合することにより塩化ビニル樹脂の場合と同等のゾル状にする。▲4▼アクリル系重合体の構造を可塑剤に対して相溶性のコア部と非相溶性のシェル部からなるコアシェル構造とするという手段をとることによって、上記課題を解決できることを見出した。
【0009】
すなわち本発明の要旨とするところは、アクリル系重合体微粒子(A)、可塑剤(B)および充填剤(C)を必須成分とする床材であって、アクリル系重合体微粒子(A)が可塑剤(B)に対して相溶性を有するコア部と非相溶性を有するシェル部からなるコアシェル構造を有し、前記シェル部は、メチルメタクリレートが20〜94.5モル%、C2〜C8脂肪族および/または芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルが5〜40モル%、カルボキシル基またはスルホン酸基含有モノマーが0.5〜10モル%、他の共重合可能なモノマー30モル%以下(合計量が100モル%)であるモノマー混合物(Ms)を重合して得られたものであり、かつ、コア部とシェル部の重量比が10/90〜90/10であり、アクリル系重合体微粒子(A)に対する可塑剤(B)および充填剤(C)の配合量が重量比で(A)/(B)/(C)=100/50〜300/50〜800であることを特徴とする床材にある。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明においては粉末状のアクリル系重合体微粒子を用い、これを可塑剤に分散させることによりプラスチゾルとすることができる。これは、現在広く使用されている塩化ビニル樹脂系プラスチゾル(以後、塩ビゾルと略記する。)と同じ形態、性状を有するため塩ビゾルと同等の製造ラインを使用することができる。
【0011】
本発明のアクリル系重合体微粒子は、乾燥された状態にあるものが好ましい。このように乾燥されたアクリル系重合体微粒子を用いることにより、樹脂エマルションのように分散媒を除去する工程が不必要であり、製造工程の短縮ないしコスト低減において有利である。また分散媒を除去する必要がないため、床材に気泡が混入するおそれがなく、高い品質の床材を安定して生産することができる。
【0012】
また、本発明においてアクリル系重合体微粉末を用いることにより、これを可塑剤に分散させた場合の良好な貯蔵安定性、およびプラスチゾルを加熱して床材を製造する際の成形体の良好な可塑剤保持性のバランスをとることができる。アクリル系以外の重合体を用いた場合、貯蔵安定性と可塑剤保持性のバランスをとるために重要な溶解度パラメーター(以後、Sp値と略記する。)を最適化することを可能となるようなモノマーの選択肢が狭いか、モノマーの価格が高く、工業的に実用的なものが得られていない現状にある。アクリル系モノマーは幅広いSp値を有するモノマー群からなるため、自在にSp値をコントロールすることが可能であり、また工業的に実用的な範囲内で製造することが可能である。
【0013】
本発明で使用するアクリル系重合体微粒子(A)は、コアシェル構造を有し、かつ、コア部が可塑剤(B)に対して相溶性を有し、シェル部が可塑剤(B)に対して非相溶性を有することが必要である。
【0014】
アクリル系重合体微粒子(A)と可塑剤との相溶性は、基本的にアクリル系重合体のSp値と可塑剤のSp値との関係によって決定される。このとき、アクリル系重合体のSp値が可塑剤のSp値に近い場合、アクリル系重合体は室温で容易に可塑剤に膨潤あるいは溶解し、可塑剤を良好に保持したゲル化物を与える。これは床材の成形体としては好ましい性質であるが、プラスチゾルとしての貯蔵安定性に欠ける。逆に、アクリル系重合体のSp値が可塑剤のSp値と大きく異なる場合、アクリル系重合体は室温において可塑剤によって膨潤されたり溶解されたりすることなく良好に分散状態を保ちプラスチゾルとしての実用的な貯蔵安定性を満足するが、加熱してもゲル化が不良であり、床材の成形体としては好ましくない。
【0015】
したがって、アクリル系重合体微粒子(A)はコア部に可塑剤に対して相溶性を有する組成を持ち、シェル部に可塑剤に対して非相溶性を有する組成を持つコアシェル構造を有することが必要であり、このような構造をとらせることにより初めてプラスチゾルとしての良好な貯蔵安定性と床材としての良好な可塑剤保持性の両特性を満足することができる。
【0016】
アクリル系重合体微粒子(A)を構成するモノマーとしては、アクリル系モノマーを主成分としていれば特に限定はしない。好ましくは、コア部を構成するモノマー混合物(Mc)としてメチルメタクリレートが20〜85モル%、C2〜C8脂肪族および/または芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルが15〜80モル%、および他の共重合可能なモノマーを、合計が100モル%となるように配合したもの、シェル部を構成するモノマー混合物(Ms)としてメチルメタクリレートが20〜94.5モル%、C2〜C8脂肪族および/または芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルが5〜40モル%、カルボキシル基またはスルホン酸基含有モノマーが0.5〜10モル%、他の共重合可能なモノマーを合計が100モル%となるように配合したものである。
【0017】
これをまとめて示すと次のとおりである。
【0018】
アクリル系重合体微粒子(A)のコア部を構成するモノマー混合物(Mc)において、メチルメタクリレートの比率が20モル%未満の場合、あるいはC2〜C8脂肪族および/または芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルが80モル%より多い場合には、可塑剤に対する溶解性が上がりプラスチゾルの貯蔵安定性が低下したり、加熱後のゲル化物のガラス転移温度が下がり床材として好適な剛軟性が得られなくなる傾向にある。また、アクリル系重合体微粒子(A)のガラス転移温度が下がり、貯蔵時にブロッキングが発生しやすくなる。
【0019】
また、メチルメタクリレートの比率が85モル%より多い場合、あるいはC2〜C8脂肪族および/または芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルの比率が15モル%未満の場合には、コア部に要求される可塑剤保持性が不足するため、加熱しても良好にゲル化しない場合がある。また、可塑剤保持性が低いために得られた床材が経時的に可塑剤のブリードアウトを発生し、物性の低下の原因となったり、あるいは下地のモルタルと反応して異臭を発生しやすい傾向にある。
【0020】
アクリル系重合体微粒子(A)のシェル部を構成するモノマー混合物(Ms)において、メチルメタクリレートの比率が94.5モル%より多い場合、あるいはC2〜C8脂肪族および/または芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルの比率が5モル%より少ない場合には、シェル部に要求される貯蔵安定性は十分であるものの、コアシェル粒子全体としての可塑剤保持性が低下し、これらを用いて床材に加工した場合に可塑剤のブリードアウトを発生する傾向にある。
【0021】
また、メチルメタクリレートの比率が20モル%未満の場合、あるいはC2〜C8脂肪族および/または芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルの比率が40モル%より多い場合には、シェル部に要求される貯蔵安定性が不足する傾向にあるため、重合体微粒子は室温において可塑剤中で膨潤あるいは溶解しやすくなり、プラスチゾルに要求される貯蔵安定性が低下する傾向にある。
【0022】
カルボキシル基またはスルホン酸基含有モノマーの比率が0.5未満の場合には、重合体微粒子の可塑剤中への分散性が損なわれ、作業性が低下する傾向にあるとともに、プラスチゾルの貯蔵安定性が低下する傾向にある。また、10モル%より多い場合にはシェル部の非相溶性が上がり、コア部の相溶性をいくら高めても全体としての可塑剤保持性が低下する傾向にある。また、加熱した時のゲル化状態も良好でなくなる傾向にあり、脆くて弾性のない床材となりやすい。
【0023】
シエル部を構成するモノマー混合物(Ms)の中、カルボキシル基またはスルホン酸基含有モノマーとしては、特に限定はないが、たとえば、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、スルホン酸アリル、スルホン酸ビニル等を挙げることができる。
【0024】
コア部を構成するモノマー混合物(Mc)およびシエル部を構成するモノマー混合物(Ms)の中、C2〜C8脂肪族および/または芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルには特に限定はないが、たとえば、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の脂肪族アルコールの(メタ)アクリレート、あるいはベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族アルコールの(メタ)アクリレート等を単独で、あるいは組み合わせて用いることができる。
【0025】
上記モノマー混合物(Mc)および(Ms)において、他の共重合可能なモノマーとしては、上記のアクリル系モノマーとの共重合性が良好であれば特に限定しないが、たとえば、C9以上のアルコールの(メタ)アクリレート、たとえば、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等あるいはカルボン酸およびスルホン酸以外の官能基を有する(メタ)アクリレート、たとえば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アセトキシエチル(メタ)アクリレート、あるいはアクリルアミドおよびその誘導体であるジアセトンアクリルアミドやN−メチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−エトキシエチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド等、あるいはスチレンおよびその誘導体、酢酸ビニル、ブタジエン、アクリル変性シリコーン系モノマー、アクリル変性エポキシモノマー、アクリル変性ウレタンモノマー等を用いることができる。また、単官能モノマーだけでなく、多官能モノマー、たとえば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン等を架橋性モノマーとして使用することができる。
【0026】
アクリル系重合体微粒子(A)の組成において、コア部とシェル部を構成するモノマー混合物(Mc)および(Ms)の重量比は(Mc)/(Ms)=10/90〜90/10である。コア部(Mc)の比率が10未満の場合、あるいはシェル部(Ms)の比率が90より多い場合には、アクリル系重合体微粒子(A)全体としての可塑剤保持性が不足し、加熱してもゲル化が進行しなかったり、一旦ゲル化しても経時的に可塑剤のブリードアウトが発生しやすくなる。 コア部(Mc)の比率が90より多い場合、あるいはシェル部(Ms)の比率が10未満の場合には、アクリル系重合体微粒子(A)全体としての貯蔵安定性が低下する傾向にあり、室温においてプラスチゾルが増粘あるいはゲル化を生じやすくなる。
【0027】
本発明に用いる可塑剤(B)は特に限定はなく、ジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジヘキシルフタレート、ジブチルフタレート等のジアルキルフタレート系、ブチルベンジルフタレート等のアルキルアリールフタレート系、トリクレシルホスフェート等のトリアリールホスフェート系、ジフェニル−2−エチルヘキシルホスフェート等のアルキルアリールホスフェート系、アジピン酸エステル等のジカルボン酸エステル系、ポリエステル系、あるいはエポキシ化大豆油など、広く用いることができる。また、これらのうち複数を混合して用いることも可能であり、耐寒性、難燃性、耐薬品性などの要求性能に応じて配合することができる。これらのうちジオクチルフタレート系等のジアルキルフタレート系の可塑剤が好ましい。これらは安価であり、入手が容易であるため工業的に利用できるほか、塩化ビニル樹脂で広く用いられているためその製造ラインがそのまま利用できる利点がある。
【0028】
本発明で使用する充填剤の種類には特に限定はなく、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、パーライト、クレー、コロイダルシルカ、マイカ粉、珪砂、珪藻土、カオリン、タルク、ベントナイト、ガラス粉末、酸化アルミニウム、フライアッシュ、シラスバルーンなど広く用いることができる。
【0029】
本発明の床材に用いられるプラスチゾルは、通常のプラスチゾル同様、アクリル系重合体微粒子および充填剤を可塑剤に分散させたものである。充填剤は、アクリル系重合体微粒子と可塑剤だけでは実現できない床材としての物性を実現することができ、また、安価な充填剤を配合することによってプラスチゾルのコストを抑えるためでもある。
【0030】
本発明におけるアクリル系重合体微粒子(A)と可塑剤(B)の配合比率は重量比で(A)/(B)=100/50〜300である。可塑剤量が50よりも少ない場合には、アクリル系重合体微粒子(A)の分散性が不良となりやすくプラスチゾルとしての性状を与えないか、またはプラスチゾルの粘度が高くなり、床材として加工しずらくなる傾向にある。また、可塑剤量が300より多い場合にはプラスチゾルの粘度が低くなり、加工性が低下するのみならず、床材に要求される強度や剛軟性、耐久性などが低下する傾向にある。
【0031】
また、本発明におけるアクリル系重合体微粒子(A)と充填剤(C)の配合比率は重量比で(A)/(C)=100/50〜800の範囲である。充填剤(C)の配合比率が50より少ない場合には、成形体が柔らかくなり、床材として要求される好適な剛軟性が得られ難くなる傾向にある。また、安価な充填剤を多く含有しないため製品コスト的なメリットが得られなくなる。充填剤の配合比率が800より多い場合には、充填剤が多すぎるためにバインダーとして機能する樹脂分が相対的に不足し、成形体の強度や耐久性が低下する傾向にある。
【0032】
アクリル系重合体微粒子(A)は、上述した組成および構造が得られるものであれば、どのような方法によって製造されても構わない。通常は、シード乳化重合によってコアシェル型エマルジョンを調製し、これをスプレードライ法(噴霧乾燥法)、塩凝固法、酸凝固法、あるいはその他の凝固法、凍結乾燥法などによって固形分を回収することが可能である。
【0033】
本発明の床材には、アクリル系重合体微粒子(A)、可塑剤(B)、充填剤(C)の他に、必要に応じて様々なものを配合することができる。例えば、希釈剤、消泡剤、顔料、防黴剤、防臭剤、抗菌剤、界面活性剤、滑剤、紫外線吸収剤、香料、発泡剤、レベリング剤、接着剤等がこれに属する。
【0034】
本発明からなる床材を製造する場合、アクリル系重合体微粒子(A)、可塑剤(B)、充填剤(C)を混合して十分に練り混ぜ、得られたプラスチゾルを加熱成形できるものであれば、どのような装置を用いても構わない。
【0035】
本発明では、上記材料を配合して得られるプラスチゾルを加熱することによって床材を得ることができるが、この場合の加熱条件としてはアクリル系重合体微粒子が可塑剤によって良好にゲル化する条件であれば任意の条件を用いることができる。たとえば、好ましい温度範囲としては80〜220℃であり、加熱時間としては2〜40分であるが、これに限定されるものではない。
【0036】
【実施例】
以下に、本発明を実施例を用いて説明する。実施例中の「部」は重量部を示す。また実施例中の評価方法および評価基準は以下の通りである。
【0037】
[粘度]
アクリル重合体微粒子、可塑剤、充填剤を表2に示した配合処方にしたがって計量し、ディスパーミキサーによって混練し、プラスチゾルを得た(以下同じ。)。これを25℃に保温した後、BH型粘度計(7号ローター)を用いて、回転数5rpmで測定し、次の基準で評価した。
○:10以上30未満Pa・S
△:30以上50未満Pa・S
×:10未満または50以上Pa・S
【0038】
[貯蔵安定性]
プラスチゾルを粘度測定後40℃の恒温槽にて1週間保管し、再び粘度を測定し、次式により増粘率を計算し、次の基準で評価した。
増粘率(%)=(貯蔵後の粘度/初期の粘度)×100
○:増粘率40%未満
△:増粘率40%以上100%未満
×:増粘率100%以上
【0039】
[剛軟度]
プラスチゾルをカーペット基布の上に2mm厚で塗布し、これをオーブンにて140℃×10分加熱し、カーペットを得た。得られたカーペットを台の上に置き、台の端から何mmはみ出して置いた時に垂れ下がるかを測定し、次の基準で評価した。
○:200mm以上300mm未満
△:300mm以上400mm未満
×:400mm以上
【0040】
[非ブリードアウト]
得られたカーペットを40℃にて2週間保管し、パッキング層からの可塑剤の浸み出しの有無を目視にて判断した。
○:ブリードアウトなし
×:ブリードアウトあり
【0041】
[強度]
プラスチゾルを剥離紙の上に2mm厚に塗布し、140℃×10分加熱してゲル化させた。これを15mm幅×80mm長に切り出し、テンシロン測定器により引張試験(試験速度50mm/分)を行った。
【0042】
[実施例1]
[モノマー混合物(Mc)の調製]
メチルメタクリレート300部、n−ブチルメタクリレート200部、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(乳化剤、花王(株)製、商品名:ペレックスOTP)5部を混合し、モノマー混合物(Mc)とした。
【0043】
[モノマー混合物(Ms)の調製]
メチルメタクリレート390部、n−ブチルメタクリレート100部、メタクリル酸10部、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(乳化剤、花王(株)製、商品名:ペレックスOTP)5部を混合し、モノマー混合物(Ms)とした。
【0044】
[アクリル系重合体微粒子(Al)の調製]
2リットルの4つ口フラスコに、純水765部および乳化剤として脂肪酸ナトリウム(花王(株)製、商品名:フレークマルセル)5部を入れ、いかり型撹拌棒により200rpmで撹拌した。窒素ガスを30分間バブリングした後、80℃に昇温し、ラジカル重合開始剤として過硫酸カリウム0.25部を投入した。15分後にモノマー混合物(Mc)の滴下を開始し、150分かけてこれを滴下した。さらに、80℃にて撹拌したまま1時間保持した後、モノマー混合物(Ms)の滴下を開始し、150分かけてこれを滴下した。さらに、80℃にて1時間撹拌を継続した後、冷却し、白色のアクリル系重合体エマルションを得た。
【0045】
得られたエマルションをスプレードライヤー(大川原化工機(株)製、L−8型)により噴霧乾燥を行い、乾燥されたアクリル系重合体微粒子(A1)を得た。乾燥条件は入口温度180℃、出口温度70℃、アトマイザ回転数25000rpmであった。
【0046】
[プラスチゾルの調製]
得られたアクリル系重合体微粒子(A1)100部、可塑剤ジオクチルフタレート120部、充填剤炭酸カルシウム300部を計量し、ディスパーミキサーにて撹拌(約3000rpm×2分)し、さらに減圧脱泡して均一なプラスチゾルを得た。このプラスチゾルの粘度および貯蔵安定性を上述の方法により評価した。
【0047】
[カーペットの調製]
得られたプラスチゾルをカーペット用基布に2mm厚になるよう塗布し、140℃×10分加熱してゲル化させカーペットを得た。このカーペットの剛軟度および非ブリードアウトを上述の方法により評価した。
【0048】
[実施例2〜4、比較例1〜4]
実施例1と同様の手法により、表1に示した組成のアクリル系重合体微粒子(A1)〜(A3)を用いて、表2に示した配合処方に従いプラスチゾルおよびカーペットの評価を行った。その結果を表2に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
[各例の考察]
実施例1〜4
実施例1ではプラスチゾルの粘度および貯蔵安定性とも良好で、ポリ塩化ビニル樹脂からなるプラスチゾルと同等の優れた作業性を示した。また、得られたカーペットの物性も良好で、床材として要求される好適な剛軟度および非ブリードアウト性、強度を示した。
【0052】
実施例2は可塑剤の種類を変えて配合を行った例である。この場合も実施例1と同様に良好な作業性および床材としての物性を示した。実施例3および4は、充填剤の配合量を変えた例である。この場合も可塑剤の量を適度に調節することにより、良好な作業性と物性を実現することができた。
【0053】
比較例1〜2
比較例1および2は、可塑剤の配合量を変えた例である。比較例1では可塑剤量が少な過ぎるため、充填剤の配合量を低減してもプラスチゾルの粘度が高すぎ、作業性が不良となりカーペットを作成することができなかった。比較例2では可塑剤量が多すぎるため、プラスチゾル粘度が低くなり過ぎてかえって作業性が低下した。また、得られたカーペットは軟らか過ぎて実用に供することはできなかった。
【0054】
比較例3〜4
比較例3〜4はアクリル系重合体微粒子のコアシェル比を変えた例である。比較例3ではシェル比率が低すぎるため、ゾル粘度および貯蔵安定性が不良となり、作業性を低下させた。比較例4ではシェル比率が高すぎるため、可塑剤を保持する成分が不足し、得られたカーペットは経時的に可塑剤のブリードアウトを発生し、実用に供することはできなかった。
【0055】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明の床材は、アクリル系重合体を用いるため塩化ビニル樹脂を用いた床材が抱える環境への悪影響という問題が解消され、かつ、床材としての剛軟度や、可塑剤保持性に優れ、また、安価で生産性の高い製品を与えることができる等の効果を奏するものであり、その工業的意義は著大である。
Claims (2)
- アクリル系重合体微粒子(A)、可塑剤(B)および充填剤(C)を含有してなる床材であって、アクリル系重合体微粒子(A)が可塑剤(B)に対して相溶性を有するコア部と非相溶性を有するシェル部からなるコアシェル構造を有し、前記シェル部は、メチルメタクリレートが20〜94.5モル%、C2〜C8脂肪族および/または芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルが5〜40モル%、カルボキシル基またはスルホン酸基含有モノマーが0.5〜10モル%、他の共重合可能なモノマー30モル%以下(合計量が100モル%)であるモノマー混合物(Ms)を重合して得られたものであり、かつ、コア部とシェル部の重量比が10/90〜90/10であり、アクリル系重合体微粒子(A)に対する可塑剤(B)および充填剤(C)の配合量が重量比で(A)/(B)/(C)=100/50〜300/50〜800であることを特徴とする床材。
- 床材がカーペット裏打ち材であることを特徴とする請求項1記載の床材。
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