JP3934009B2 - 光ファイバ心線 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、光ファイバ心線に係わり、特に、光ファイバ上の被覆を光ファイバの強度やその他の特性を低下させることなく除去することができ、また、光ファイバ上の被覆を除去した後において光ファイバの表面に被覆樹脂のくずが残留する虞のない光ファイバ心線に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、光ファイバ心線は、コアおよびクラッドを有する光ファイバと、この光ファイバの外周に順次設けられた一次被覆層および二次被覆層とを備えている。ここで、一次被覆層は、温度変化による光ファイバの伝送特性の変化を抑制するため、常温でのヤング率が1〜10MPa程度の合成樹脂で形成され、二次被覆層は、常温でのヤング率が400〜1000MPa程度の合成樹脂で形成されている。また、一次被覆層および二次被覆層は、シングルモード(SM)光ファイバ心線の場合、外径が125μmの光ファイバの外周に、外径がそれぞれ180〜200μm、230〜250μm程度となるように形成されている。
【0003】
ここで、汎用の光ファイバ心線は、Telcordia規格(Gr−20−CORE,Issue2)のストリップフォースの規定(0または45℃において、1.0N以上9.0N以下のストリップフォース)に適合するように設計されており、また、被覆を除去した後に光ファイバ(クラッド)の表面に樹脂が付着していても、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)などの溶剤を湿らした紙ワイパーで綺麗に拭き取れれば、上記規格に適合する光ファイバ心線とされている。
【0004】
一方、このような構成の光ファイバ心線においては、光ファイバ同士を接続したり、光コネクタなどに取り付けたりする場合には、光ファイバ上の被覆を除去する必要がある。
【0005】
従来、この種の光ファイバ心線の被覆除去方法としては、ストリッパを用いて被覆を剥ぎ取る方法や、溶剤に長時間浸漬して被覆を剥ぎ取る方法などが知られている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような光ファイバ心線の被覆除去方法においては、被覆除去中にストリッパの刃が光ファイバ(クラッド)の表面に触れる場合があり、このため光ファイバの強度を極端に低下させる虞があった。また、被覆を除去した後において、光ファイバ(クラッド)の表面に残留する被覆樹脂のくずをエタノール、イソプロピルアルコール(IPA)などの溶剤を湿らした紙ワイパーで拭き取る際に、光ファイバ(クラッド)の表面を擦り付ける場合があり、このため、前述と同様に、光ファイバの強度を極端に低下させる虞があった。さらに、光ファイバの被覆を端末から300mm以上の長さにわたって除去しようとする場合には、ストリッパの刃に付与された力によって光ファイバが曲がり、このため、被覆を除去する前に光ファイバが破断する虞があった。また、光ファイバ心線の端末を加熱し及び/又は溶剤に浸漬し、これを板状体などで挟持して引き抜く方法においては、光ファイバと一次被覆層との密着力が強いため、被覆を筒状で抜くことができないという難点があった。
【0007】
本発明は、上述の難点を解決するためになされたもので、光ファイバ上の被覆を、光ファイバの外表面に損傷を与えずに300mm以上の長さにわたって除去することができ、また、光ファイバの被覆を除去した後において、光ファイバの表面に被覆樹脂のくずを残留させる虞のない光ファイバ心線を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
このような目的を達成するため、本発明の光ファイバ心線は、光ファイバと、この光ファイバの外周に順次設けられた一次被覆層および二次被覆層とからなる被覆を備える光ファイバ心線において、一次被覆層の厚さが60〜200μm、引張強度が0.5〜1MPa、ケトン系あるいはアルコール系の有機溶剤浸漬後の膨潤率が5〜150%で、二次被覆層の厚さが20〜300μm、ヤング率が100〜1500MPaであり、かつ被覆を一括して除去する際に、被覆を有機溶剤に浸漬した後に500mm/minの引抜速度で引抜いた時の300mmの長さにおける引抜力が100gf以下とされている。
【0009】
さらに、本発明の光ファイバ心線は、一次被覆層および二次被覆層は、合成樹脂で形成されている。
【0010】
本発明の光ファイバ心線によれば、光ファイバ上の被覆を光ファイバの強度やその他の特性を低下させることなく除去することができ、また、光ファイバ上の被覆を除去した後において光ファイバの表面に被覆樹脂のくずが残留する虞もない。
【0011】
本発明の光ファイバ心線の被覆を除去する方法は、光ファイバ心線を、その端末から少なくとも300mmの長さにわたって溶剤に浸漬し、一次被覆層が膨潤した後に一次被覆層および二次被覆層を一括して除去するように構成されている。
【0012】
本発明の光ファイバ心線の被覆を除去する方法によれば、光ファイバ上の被覆を除去した後において光ファイバの表面に被覆樹脂のくずが残留する虞がないことから、従来の光ファイバ心線の被覆除去方法のように、被覆除去後における光ファイバの清掃作業を省略することができ、また、光ファイバの外表面が擦られる虞もないことから、光ファイバの強度やその他の特性を低下させる虞もなくなる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の光ファイバ心線およびこの光ファイバ心線の被覆除去方法を適用した好ましい実施の形態例について、図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、本発明における光ファイバ心線の横断面図を示している。同図において、本発明の光ファイバ心線は、石英ガラスを主成分とするコア1およびクラッド2を有する光ファイバ3と、この光ファイバ3の外周に順次設けられた一次被覆層4および二次被覆層5とを備えている。なお、二次被覆層5の外周には、必要によりナイロン樹脂などの熱可塑性樹脂の被覆層(不図示)が設けられる。
【0015】
ここで、一次被覆層4の厚さは、60〜200μmにすることが望ましい。一次被覆層4の厚さを60μm未満にすると、一次被覆層4の光ファイバ3に対する密着力が一次被覆層4の破断強度よりも支配的になるため、一次被覆層4を光ファイバ3から剥離する前に、一次被覆層4を除去する力によって当該一次被覆層4が破壊され、ひいては光ファイバ3の表面に被覆樹脂のくずが残留することになるからである。また、200μmを超えると、一次被覆層4の光ファイバ3に対する密着力よりも一次被覆層4の収縮力が支配的となるため、一次被覆層4の除去力が増加し、また、製造後における冷却と緩和によって光ファイバ3と一次被覆層4との界面に剥離が生じ、光ファイバ3の強度が低下する虞があるからである。
【0016】
また、一次被覆層4としては、これをケトン系溶剤、アルコール系溶剤などの有機溶剤に所定時間(例えば30分程度)浸漬させたときに、当該一次被覆層4が膨潤するような樹脂、例えば、ウレタン系紫外線硬化性樹脂などで形成することが望ましい。このような樹脂で一次被覆層4を形成すれば、溶剤への浸漬により、一次被覆層4が膨潤し、さらに、光ファイバ3と一次被覆層4との界面に溶剤が入り込んで、光ファイバ3に対する密着力が弱まり、ひいては、一次被覆層4の除去力を浸漬前に比べて著しく小さくすることができるからである。
【0017】
次に、一次被覆層4の溶剤浸漬後の膨潤率は5〜150%とすることが望ましい。一次被覆層4の溶剤浸漬後の膨潤率を5%未満にすると、光ファイバ3に対する密着力の低下が生ぜず、一次被覆層4を除去するときに当該一次被覆層4を破壊する虞があり、また150%を超えると、一次被覆層4が膨潤によって引張強度が低下し、一次被覆層4を除去するときに当該一次被覆層4を破壊する虞があるからである。ここで、一次被覆層4の膨潤率(材料のシート状態での膨潤率)は式1により求めることができる。
【0018】
【式1】
【0019】
さらに、一次被覆層4の引張強度は、0.5〜1MPaとすることが望ましい。一次被覆層4の引張強度を0.5MPa未満にすると、一次被覆層4の除去中におけるせん断力で一次被覆層4が切れ易くなり、1MPaを超えると、一次被覆層4が膨潤しても当該一次被覆層4の硬度があまり低下せず、ひいては一次被覆層4の除去に大きな引抜力を要することになるからである。
【0020】
次に、二次被覆層5は、これを筒形状の状態で除去するために、ヤング率が100〜1500MPaの樹脂で形成することが望ましい。二次被覆層5のヤング率を100MPa未満にすると、一次被覆層4に対する側圧が弱くなり、一次被覆層4が変形してファイバに損失を与え、またファイバに傷が生じ易くなるからである。また1500MPaを超えると、膨潤しようとする力が二次被覆層5によって抑制され、一次被覆層4の除去力が上昇するからである。
【0021】
ここで、引張強度およびヤング率は、一次被覆層4および二次被覆層5の材料を0.35J/cm2の紫外線で硬化させた厚さ0.20±0.01mmのフィルムシートをJIS K 7127-1999(試験片タイプ5)に準拠した試験片に切り出し、JIS K 7113−1995に準拠し測定した。試験時の引張強度およびヤング率の試験速度は、それぞれ50mm/min、1mm/minとし、ヤング率の場合はひずみを2.5%に規定した。なお、引張試験器として東洋精機(株)製 STROGRPH M2を使用した。また、上記のJIS規格においては、「引張破壊強さ」および「引張割線弾性率」の文言が使用されているが、本発明においては、同義の用語として、JIS規格における「引張破壊強さ」を「引張強度」として、「引張割線弾性率」を「ヤング率」として使用している。
【0022】
また、二次被覆層5の厚さは、20〜300μmの範囲で被覆することが望ましい。二次被覆層5の厚さを20μm未満にすると、二次被覆層5を除去する際にその把持力が一次被覆層4に伝播し、これにより、軟質の一次被覆層4が扁平し、ひいては二次被覆層5の除去時に余分な摩擦力が生ずるからである。また、300μmを超えると、二次被覆層5のヤング率と収縮力が相俟って、一次被覆層4が硬く締付けられ、ひいては一次被覆層4の密着力が向上し、二次被覆層の除去時に一次被覆層4が破壊する虞があるからである。
【0023】
次に、本発明者等は、クラッド径が125μmの石英系ガラスファイバの外周に、一次被覆層4および二次被覆層5(以下、一次被覆層4および二次被覆層5を「被覆6」という。)を表1に示す条件で形成して試料を作成し、各試料における被覆除去性および被覆樹脂のくずの残存性について検討した。なお、本実施例では、一次被覆層4および二次被覆層5の被覆材料として、共にウレタン系紫外線硬化型樹脂が使用されている。
【0024】
【表1】
【0025】
「引抜力の測定」
まず、図2に示すように、各試料の先端部から300mm離間した位置の被覆6に円周方向の切り込みを入れて当該被覆6の一部を切除して光ファイバ3を露出させた。また、軸方向の長さが500mmの長さを有する容器7内にメチルエチルケトンなどの溶剤8(25℃(室温))を充填した。次いで、各試料を被覆把持部材9(例えば二つ割り構成のシリコンゴム部材)を介して液密に把持するとともに、光ファイバ心線の端末をその先端部から300mmの長さにわたって溶剤8に浸漬した。そして、30分経過後、各試料を容器7から取り出して、被覆6の外表面を一対の平板部材(不図示)で挟持し、その状態で被覆6を500mm/minの引抜速度で矢符方向に向けて引張り除去した。このときに作用する力(最大値)を引抜力として測定した。なお、引張試験器として東洋精機(株)製 STROGRPH M2を使用した。ここで、被覆が筒形状の状態で抜ければ良(○印)とし、筒状の状態で抜けなければ不良(×印)とした。
【0026】
上述の引抜力の測定において、光ファイバ心線の端末の溶剤への浸漬長(被覆の除去長)を300mmとしたのは、300mm未満では長尺のフェルールに対する光ファイバの挿入作業効率が低下するためである。
「被覆樹脂のくずの残存の有無の測定」
次に、被覆を除去した後の光ファイバの外表面を顕微鏡で観察し、光ファイバの外表面に被覆樹脂のくずが残存している場合は不良(×印)とし、残存していない場合は良(○印)とした。
【0027】
表2は、その測定結果を示している。
【0028】
【表2】
【0029】
表2より、被覆除去後の光ファイバの外表面に被覆樹脂のくずが残存するか否かは、引抜力が重要な因子であることが分かる。すなわち、試料番号6、7、10および11より、引抜力が100gf以下ならば被覆6を筒形状の状態で引き抜くことができ、また被覆を除去した後に光ファイバの外表面に被覆樹脂のくずが残存しないことが分かる。
【0030】
次いで、表1に示す一次被覆層および二次被覆層の形成条件を表3に示すように代えて試料を作成し、各試料における被覆除去性および被覆樹脂のくずの残存性について検討した。
【0031】
【表3】
【0032】
表3から、膨潤率が175%の場合は、過剰な膨潤により一次被覆層が次工程に移る前に光ファイバから剥がれるため、作業性が悪くなり、また、膨潤率が2%の場合は、膨潤が不足し、一次被覆層の光ファイバに対する密着力が低下しないことから、被覆を筒形状の状態を維持して引抜くことができなかった。
【0033】
表4は、前述と同様に、引抜力の測定および被覆樹脂の残存の有無を測定した結果を示している。
【0034】
【表4】
【0035】
表4から、本発明の範囲内にある試料(試料番号22、23、26、27)は、何れも被覆を筒形状の状態で引き抜くことができ、また、光ファイバの表面に被覆樹脂のくずも残存していなかった。
【0036】
なお、前述の実施例においては、一次被覆層および二次被覆層の被覆材料としてウレタン系紫外線硬化型樹脂を使用しているが、本発明はこのような材料に限定されず、本発明の範囲内であれば、これらの材料に限定されない。
【0037】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明の光ファイバ心線によれば、光ファイバ上の被覆を光ファイバの強度やその他の特性を低下させることなく除去することができ、また、光ファイバ上の被覆を除去した後において光ファイバの表面に被覆樹脂のくずが残留する虞もない。
【0038】
さらに、本発明の光ファイバ心線の被覆除去方法によれば、光ファイバ上の被覆を除去した後において光ファイバの表面に被覆樹脂のくずが残留する虞がないことから、被覆除去後における光ファイバの清掃作業を省略することができ、また、光ファイバの外表面が擦られる虞もないことから、光ファイバの強度やその他の特性を低下させる虞もなくなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の光ファイバの一実施例を示す横断面図。
【図2】 本発明の光ファイバにおける引抜力の測定状態を示す説明図。
【符号の説明】
1 コア
2 クラッド
3 光ファイバ
4 一次被覆層
5 二次被覆層
6 被覆
Claims (2)
- 光ファイバと、この光ファイバの外周に順次設けられた一次被覆層および二次被覆層とからなる被覆を備える光ファイバ心線において、
前記一次被覆層の厚さが60〜200μm、引張強度が0.5〜1MPa、ケトン系あるいはアルコール系の有機溶剤浸漬後の膨潤率が5〜150%で、前記二次被覆層の厚さが20〜300μm、ヤング率が100〜1500MPaであり、かつ前記被覆を一括して除去する際に、前記被覆を前記有機溶剤に浸漬した後に500mm/minの引抜速度で引抜いた時の300mmの長さにおける引抜力が100gf以下であることを特徴とする光ファイバ心線。 - 前記一次被覆層および二次被覆層は、合成樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1記載の光ファイバ心線。
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