JP3933430B2 - 無段変速機 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は無段変速機、特に車両用のVベルト式無段変速機に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、例えば特許第2548259号公報に示されるように、駆動プーリと、従動プーリと、駆動プーリと従動プーリとの間に巻きかけられた金属ベルトと、少なくとも一方のプーリに設けられ、伝達トルクに対応した軸力を付与する調圧機構と、駆動プーリおよび従動プーリのそれぞれに設けられ、回転力により可動シーブを軸方向に移動させるストローク機構と、変速操作時にストローク機構を作動させる変速操作装置とを備えた無段変速機が提案されている。
この変速操作装置は、変速用モータと、駆動プーリおよび従動プーリの各ストローク機構に連結される一対のギヤを有する操作軸と、モータと操作軸とを連結する可逆伝動可能なギヤ列からなる減速装置と、変速用モータの非作動時にモータの出力軸を停止状態に保持する電磁ブレーキとを備えたものである。
この場合には、減速装置として可逆回転可能なギヤを用いることができるので、減速装置の伝達効率を向上させ、変速用モータを小型化できるとともに、変速レスポンスを向上させることができる利点がある。
【0003】
しかし、ベルトとして金属ベルトを使用している関係で、プーリとの摩擦係数μが非常に小さく、そのため所定の伝達トルクを得るために少なくともいずれかのプーリに調圧カム機構などの調圧機構を設ける必要がある。調圧機構はプーリの固定シーブを背後から押圧し、ベルトとプーリとを強く圧接させるものであるが、この押圧力がベルト、可動シーブを介してストローク機構に伝達され、ストローク機構に多大の負荷を掛けることになる。
ストローク機構としては、例えばボールネジ機構などのネジ機構が用いられるが、ネジ機構は大きな軸力が作用した状態で作動させると、摩耗が激しく、寿命を低下させる欠点がある。
また、ストローク機構に大きな軸力がかかることで、その必要回転トルクが大きくなり、変速用モータの大型化や消費電力の増大を招いてしまう。そのため、減速装置の伝達効率を向上させても、変速用モータの小型化、省電力化には必ずしも繋がらない。
【0004】
一方、上記無段変速機とは異なる方式の無段変速機として、特開平4−46248号公報に記載のように、駆動プーリおよび従動プーリにおける可動シーブを互いに連係して移動させる手段を設けるとともに、ベルト張力を固定・可動シーブ間の軸力ではなく、別のテンション機構によって与えるようにした無段変速機が提案されている。
すなわち、この無段変速機では、駆動プーリおよび従動プーリの各可動シーブをそれぞれ相対する固定シーブとの接離が逆方向になるように移動させる駆動機構として油圧シリンダを設け、両シリンダの油圧室に対し圧油を互いに逆方向に給排することで、両プーリの開閉を連係させるようにしている。そして、テンション機構は、ベルト推力を得るために、プーリ間に巻きかけられたベルトの緩み側を張力よりも大きい張力で押圧している。
【0005】
ところで、ベルトには上述のような金属ベルト(湿式ベルト)の他に、プーリとの接触面に摩擦面を持つ乾式ベルトとがある。金属ベルトの場合には、油で潤滑されるので、プーリとの摩擦係数μが低く、所定の伝達効率を得るために調圧機構によってベルトを強く挟圧する必要がある。これに対し、乾式ベルトでは油で潤滑されないので、プーリとの摩擦係数μが高く、プーリによってベルトを強く挟圧しなくても高い伝達効率を得ることができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
このような乾式ベルトを用いた無段変速機では、当然ながらベルトに油が付着しないように、最大限の注意を払う必要がある。しかし、前述の特開平4−46248号公報のように、駆動機構として油圧シリンダを用いた場合には、油漏れによるベルトの滑りが発生する懸念がある。
また、各プーリの背圧を変速切換シリンダの2つの油室に接続し、このシリンダのピストンを操作して各プーリの可動シーブを作動させるので、ピストンの僅かな動きで変速比は大きく変化してしまう。つまり、ある所望の変速比へ制御しようとしても、両プーリの油圧変化によって変速比を精度よく制御できないという問題が生じる。
また、乾式ベルトの場合、ベルトとの摩擦熱によって駆動プーリおよび従動プーリが発熱する。両プーリが同一温度であればよいが、両プーリ間で温度差がある場合、その温度差により油の体積変化が発生し、変速比が自然に変化してしまい、安定した変速比が取れない。
さらに、油圧シリンダを使用しているので、ピストンのシール部の摺動抵抗が大きく、変速レスポンスが悪い。特に、急停止時のLow戻り性能はVベルト式無段変速機の大きな問題であるが、上記のような油圧シリンダを用いた無段変速機では、急停止時にLowまで戻れず、円滑な発進ができない問題が生じる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、乾式ベルトを用いた無段変速機において、ベルト滑りを発生させる懸念がなく、変速比を精度よくかつ安定して制御でき、変速レスポンスを向上させるとともに、変速用モータの小型化、省電力化を図ることができる無段変速機を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、駆動軸に固定された固定シーブと駆動軸に軸方向移動可能に支持された可動シーブとを有する駆動プーリと、従動軸に固定された固定シーブと従動軸に軸方向移動可能に支持された可動シーブとを有する従動プーリと、駆動プーリと従動プーリとの間に巻きかけられた無端状の乾式ベルトと、駆動プーリと従動プーリの中間部に配置され、ベルトの緩み側を押圧してベルト張力を得るテンショナ装置と、駆動プーリおよび従動プーリのそれぞれに設けられ、回転力が入力される変速ギヤを有し、上記回転力により上記可動シーブを軸方向に移動させるボールネジ機構と、ボールネジ機構と可動シーブとの間に設けられたベアリングと、変速用モータと、この変速用モータの回転力を上記両ボールネジ機構の変速ギヤへ伝達するとともに、両方のプーリの可動シーブが同期して軸方向に移動するよう両ボールネジ機構を機械的に連結するギヤ機構と、を備え、上記変速ギヤはプーリとは共に回転せず、変速時のみ変速用モータによって回転させられることを特徴とする無段変速機を提供する。
【0009】
変速用モータの回転力は、ギヤ機構を介して両プーリのストローク機構に伝達され、両プーリのプーリ溝幅を相反方向に変化させる。変速用モータの回転量はそのままストローク機構を介して可動シーブの軸方向移動量に変換されるので、所望の変速比へ高精度に制御できる。
乾式ベルトを用いているので、ベルトに油などが付着するのを防止する必要があるが、油圧シリンダとは違い、ギヤ機構および変速用モータは油漏れを起こす恐れがないので、ベルトに油が付着する懸念を解消できる。
本発明では、ベルト張力を得るために、プーリに軸方向の挟圧力を与えるのではなく、テンショナ装置を用いてベルトの緩み側を押圧している。そのため、ストローク機構には余計な軸力が作用せず、ストローク機構が円滑に作動できる。つまり、変速用モータの回転力はギヤ機構およびストローク機構を介して可動シーブの軸方向移動に無駄なく変換される。そのため、変速レスポンスが向上し、急減速時のLow戻り性能を向上させることができる。また、同様の理由から、変速用モータを小型化できるとともに、その消費電力も低減できる。
【0010】
ストローク機構とは、回転入力を可動シーブの軸方向移動に変換する機構のことであり、例えばボールネジ機構などのネジ機構を用いることができる。ボールネジ機構にも種々の形式があるが、例えば可動シーブにベアリングを介して相対回転自在にかつ軸方向に移動不能に取り付けられた雌ねじ部材と、変速機ケースなどの固定部材に固定された雄ねじ部材と、両部材の間に配置されたボールとで構成できる。この場合には、雌ねじ部材に設けられたギヤに回転力を伝えることにより、雌ねじ部材が雄ねじ部材に対して回転しながら軸方向に移動し、この軸方向移動のみを可動シーブに伝えることができる。そのため、可動シーブが軸方向にのみ移動でき、固定シーブとの間で相対捩れが発生しない。
【0011】
好ましい実施態様によれば、ギヤ機構は、駆動プーリと同軸に設けられた駆動プーリ側変速ギヤと、変速用モータの回転力を駆動プーリ側変速ギヤへ伝達するギヤ列と、従動プーリと同軸に設けられた従動プーリ側変速ギヤと、駆動プーリ側変速ギヤの回転力を従動プーリ側変速ギヤへ伝達するアイドラ軸に設けられたアイドラギヤとで構成するのがよい。
すなわち、変速用モータの回転力は、先に駆動プーリのボールネジ機構に設けられた駆動側変速ギヤへ伝達され、この変速ギヤからアイドラ軸に設けられたアイドラギヤを介して従動プーリのボールネジ機構に設けられた従動側変速ギヤに伝達される。そのため、ギヤ機構などのガタや撓みによって駆動プーリの動作に比べて従動プーリの動作に若干の遅れが生じる。急減速時には車両停止までにLow位置へ戻すため、駆動プーリが開き方向に、従動プーリが閉じ方向に移動するが、上記のように駆動プーリが先に開き始めるので、従動プーリの閉じ動作が容易になる。そのため、変速用モータ〜従動側変速ギヤ〜アイドラギヤ〜駆動側変速ギヤへと伝達する場合や、変速用モータの回転力を分岐させて駆動側変速ギヤと従動側変速ギヤとに伝達する場合に比べて、Low戻りを早くすることができる。
【0012】
好ましい実施態様によれば、アイドラ軸に設けられるアイドラギヤを、駆動プーリ側変速ギヤと噛み合う第1のアイドラギヤと、従動プーリ側変速ギヤと噛み合う第2のアイドラギヤとで構成し、第1のアイドラギヤと第2のアイドラギヤを、それぞれ駆動プーリのボールネジ機構のストローク長および従動プーリのボールネジ機構のストローク長に対応した長さのギヤとし、駆動プーリ側変速ギヤおよび従動プーリ側変速ギヤを樹脂製ギヤで構成し、第1,第2のアイドラギヤを金属製ギヤで構成するのがよい。
本発明では乾式ベルトを用いるので、油で潤滑することができない。つまり、プーリを収容した室は無潤滑空間であるから、このプーリ室に配置されるギヤ機構も無潤滑となる。そこで、駆動プーリ側変速ギヤおよび従動プーリ側変速ギヤを樹脂製ギヤで構成することで、無潤滑駆動を可能としている。この場合、第1,第2のアイドラギヤも樹脂製ギヤとしてもよいが、これらアイドラギヤは変速比によって噛合位置が変化するので、アイドラギヤが偏磨耗を起こし易くなる。そこで、第1,第2のアイドラギヤを樹脂製ギヤより高強度の金属製ギヤで構成している。
なお、ギヤ機構の中に樹脂製ギヤを配置することで、樹脂製ギヤの弾性により、駆動プーリの動作に対する従動プーリの遅れを大きくでき、急減速時におけるLow戻り性能が一層向上する。
【0013】
好ましい実施態様によれば、上記ギヤ機構を円形の可逆ギヤ列で構成するのが望ましい。可逆ギヤとしては、平歯車やはすば歯車などがある。
ギヤ機構として可逆ギヤを使用すれば、高い伝達効率でトルクを伝達するので、小型の変速用モータでも高いレスポンスで変速できる。但し、可逆ギヤの場合には、可動シーブに働く軸力によってボールネジ機構が逆回転し、さらにギヤ機構を介してモータ軸を逆回転させる可能性がある。つまり、モータへの非通電時に変速比が変化してしまう可能性があるため、モータ軸の逆回転を防止するブレーキ手段を別に設ける必要がある。しかし、高い摩擦係数μを持つ乾式ベルトを用いた無段変速機の場合、可動シーブに働く軸力そのものが小さいので、専用のブレーキ手段を設けなくても、モータ内のマグネットによる起動抵抗(非通電時のみ発生)のみで変速比を保持することが可能である。但し、安全のためにブレーキ手段を設けてもよいことは勿論である。
【0014】
前述の特許第2548259号公報の場合、減速装置を構成するギヤのうち、操作軸と駆動プーリのストローク機構との間には円形ギヤが用いられているが、操作軸と従動プーリのストローク機構との間には非円形ギヤが用いられている。この非円形ギヤは、ストローク機構の移動と、ベルトにより規定される可動シーブの移動量との差、つまりベルトアライメント変化を吸収するためであるが、非円形ギヤを用いると、1回転以上の回転ができないので、低回転高トルク型のモータ、つまり大型のモータを使用しなければならない。
これに対し、本発明ではベルトアライメント変化をテンショナ装置で吸収するので、非円形ギヤを使用する必要がない。そのため、High〜Lowの間で円形ギヤを複数回転させることができ、高回転低トルク型のモータ、換言すれば小型のモータを使用できる。
【0015】
【発明の実施の形態】
図1〜図7は本発明にかかる無段変速機の一例の具体的構造を示し、図8はその骨格構造を示す。
この無段変速機はFF横置き式の変速機であり、大略、エンジン出力軸1により発進機構2を介して駆動される入力軸3、カウンタ軸4、駆動プーリ11を支持する駆動軸10、従動プーリ21を支持する従動軸20、駆動プーリ11と従動プーリ21に巻き掛けられた乾式のVベルト15、減速軸30、車輪と連結された出力軸32、変速用モータ40、テンショナ装置50などで構成されている。入力軸3,カウンタ軸4,駆動軸10,従動軸20,減速軸30および出力軸32はいずれも非同軸で、かつ平行に配置されている。
【0016】
この実施例の発進機構2はクラッチやトルクコンバータなどで構成される。入力軸3は軸受を介して変速機ケース6によって回転自在に支持され、入力軸3には相対回転する前進用ギヤ3aと一体回転する後進用ギヤ3bとが設けられ、前進用ギヤ3aはシンクロ式の前進切替機構5によって入力軸3に固定されたクラッチハブ3cに対して選択的に連結される。この前進切替機構5は、フォーク7によって前進位置Dと中立位置Nと後退位置Rの3位置に切替可能である。
【0017】
カウンタ軸4には、前進用ギヤ3aと噛み合うギヤ4aと、駆動軸10のエンジン側端部に固定されたギヤ10aと噛み合うギヤ4bとが一体回転可能に設けられている。カウンタ軸4のギヤ4a,4bの減速比を適切に設定することで、入力軸3から駆動軸10へ駆動力をベルト駆動に適した減速比で伝達している。
【0018】
駆動プーリ11は、駆動軸10上に固定された固定シーブ11aと、駆動軸10上に軸方向移動自在に支持された可動シーブ11bと、可動シーブ11bの背後に設けられたストローク機構14とを備え、ストローク機構14はVベルト15よりエンジン側に配置されている。この実施例のストローク機構14は、変速用モータ40によって可動シーブ11bを軸方向に移動させるボールネジ機構であり、可動シーブ11bに軸受14aを介して相対回転自在に支持された雌ねじ部材14bと、変速機ケース6に固定された雄ねじ部材14cと、その間に配置されたボールとを備え、雌ねじ部材14bの外周部には変速ギヤ14dが固定されている。変速ギヤ14dは駆動プーリ11を構成する可動シーブ11bより大径で、かつ薄肉な樹脂製ギヤである。
【0019】
従動プーリ21は、従動軸20上に固定された固定シーブ21aと、従動軸20上に軸方向移動自在に支持された可動シーブ21bと、可動シーブ21bの背後に設けられたストローク機構22とを備え、ストローク機構22はVベルト15より反エンジン側に配置されている。このストローク機構22も駆動プーリ11のストローク機構14と同様の構成を有するボールネジ機構であり、可動シーブ21bに軸受22aを介して相対回転自在に支持された雌ねじ部材22bと、変速機ケース6に固定された雄ねじ部材22cと、その間に配置されたボールとを備え、雌ねじ部材22bの外周部には変速ギヤ22dが固定されている。この変速ギヤ22dも従動プーリ21を構成する可動シーブ21bより大径で、かつ薄肉な樹脂製ギヤである。
【0020】
従動軸20の従動プーリ21よりエンジン側の部位には、後進用ギヤ24が回転自在に支持されており、このギヤ24は入力軸3に固定された後進用ギヤ3bと噛み合っている。ギヤ24は後進切替機構25によって従動軸20に固定されたクラッチハブ26に対して選択的に連結される。後進切替機構25には、上述の前進切替機構5を操作するフォーク7が係合しており、フォーク7を操作することで両方の切替機構5,25を同時に切り替えることができる。
つまり、フォーク7を図8の右側にシフトすると、前進切替機構5がクラッチハブ3cと前進用ギヤ3aとを連結し、後進切替機構25は後進用ギヤ24から離れており、D位置となる。中間位置では、前進切替機構5および後進切替機構25がそれぞれ前進用ギヤ3a、後進用ギヤ24と離れており、N状態となる。フォーク7を図8の左側にシフトすると、後進切替機構25がクラッチハブ26と後進用ギヤ3bとを連結し、前進切替機構5は前進用ギヤ3aと離れているため、R位置となる。
このように、1本のフォーク7で前進切替機構5および後進切替機構25を操作するので、前進切替機構5がD位置の時に後進切替機構25がR位置になるいった不具合を解消できる。
【0021】
従動軸20のエンジン側端部には、減速ギヤ27が一体に形成されており、この減速ギヤ27は減速軸30に固定されたギヤ30aと噛み合い、さらに減速軸30に一体に形成されたギヤ30bを介して差動装置31のリングギヤ31aに噛み合っている。そして、差動装置31に設けられた出力軸32を介して車輪が駆動される。
【0022】
上記入力軸3の前進用ギヤ3a、後進用ギヤ3b、前進切替機構5、カウンタ軸4のギヤ4a,4b、駆動軸10のギヤ10a、従動軸20に設けられた後進用ギヤ24、後進切替機構25、減速ギヤ27、減速軸30のギヤ30a,30bおよび差動装置31は、変速機ケース6のエンジン側に形成されたギヤ室6a内に収容されている。このギヤ室6aは油で潤滑されている。
一方、駆動プーリ11と従動プーリ21は、ギヤ室6aと隔壁6cで仕切られた変速機ケース6のプーリ室6b内に配置されている。プーリ室6bは無潤滑空間である。
【0023】
上記構成よりなる無段変速機の前進時および後進時の動力伝達経路は次の通りである。
前進時には、フォーク7を操作して前進切替機構5を前進位置Dへ切り替える。発進機構2から入力軸3に入力されたエンジン動力は、前進用ギヤ3a、カウンタ軸4、駆動軸10、駆動プーリ11、Vベルト15、従動プーリ21、従動軸20、減速軸30、差動装置31を介して出力軸32に伝達される。
一方、後進時には、フォーク7を操作して後進切替機構25を後進位置Rへ切り替える。発進機構2から入力軸3に入力されたエンジン動力は、後進用ギヤ3b,24、従動軸20、減速軸30、差動装置31を介して出力軸32に伝達される。つまり、後退時にはVベルト15を経由せずに動力が伝達される。
【0024】
後述するように、Vベルト15の緩み側を押し付けてベルト張力を与えるテンショナ装置50が設けられているが、後進時にはVベルト15が逆回転し、その緩み側も逆転するので、テンショナ装置50が緊張側を押しつけることになり、Vベルト15に過大な負荷がかかる。しかしながら、この実施例では、前進時のみVベルト15にトルクが伝達され、後退時にはVベルト15にトルクが伝達されないので、テンショナ装置50は常にVベルト15の緩み側を押し付けることになり、Vベルト15の負担を軽減し、ベルトの寿命向上を実現できる。
【0025】
次に、この無段変速機における変速比可変機構について説明する。
変速機ケース6の外側部、特に駆動プーリ11より斜め上方の部位に変速用モータ40が取り付けられている。変速用モータ40はブレーキ41付きのサーボモータであり、その出力ギヤ42は第1変速軸45の一端に設けられた減速ギヤ45aに噛み合っている。第1変速軸45は変速機ケース6内に架け渡して設けられ、出力ギヤ42とともにプーリ室6b内に収容されている。第1変速軸45の他端部に設けられたギヤ45bは駆動プーリ11の可動シーブ11bの移動ストローク分の長さを有する平歯車またははすば歯車であり、駆動プーリ11に設けられた変速ギヤ14dと噛み合っている。なお、第1変速軸45およびギヤ45a,45bはともに金属材料で形成されている。第1変速軸45のギヤ45bを回転させると、変速ギヤ14dが追随回転することでボールネジ機構(ストローク機構)14の作用により、可動シーブ11bを軸方向へ移動させることができる。つまり、駆動プーリ11のプーリ溝幅(ベルト巻き掛け径)を連続的に変化させることができる。
【0026】
駆動プーリ11の変速ギヤ14dは、変速機ケース6に架け渡して設けられた第2変速軸(アイドラ軸)46の第1アイドラギヤ46aとも噛み合い、さらに第2変速軸46の第2アイドラギヤ46bは従動プーリ21の変速ギヤ22dと噛み合っている。これらアイドラギヤ46a,46bも、第1変速軸45のギヤ45bと同様に、可動シーブ11b,21bの移動ストローク分の長さを有する平歯車またははすば歯車で構成されている。第2変速軸46およびアイドラギヤ46a,46bは金属材料で形成されている。第2変速軸46は、図2に示すように、駆動プーリ11と従動プーリ21との間であって、かつVベルト15の周回内に配置されている。変速用モータ40の回転力は、第1変速軸45,駆動プーリ11の変速ギヤ14d,第2変速軸46を介して従動プーリ21の変速ギヤ22dへと伝達される。そのため、駆動プーリ11の可動シーブ11aと従動プーリ21の可動シーブ21aは互いに同期し、かつ互いにプーリ溝幅(ベルト巻き掛け径)を逆方向に変化させながら軸方向へ移動することができる。
【0027】
上記のように、変速用モータ40の回転力をストローク機構14,22に伝達し、かつ駆動プーリ11と従動プーリ21の両ストローク機構14,22を機械的に連結するギヤ機構(42,45a,45b,14d,46a,46b,22d)が設けられているので、可動シーブの位置、つまり変速比は機械的に決まる。そのため、変速用モータ40のみで変速比を高精度に制御でき、かつ温度変化などによって変速比が変化することもない。
上記ギヤ機構を構成するギヤのうち、変速ギヤ14d,22dのみが樹脂で構成されている。上記ギヤ機構は無潤滑のプーリ室6bに配置されているので、樹脂製ギヤ14d,22dを用いることで無潤滑駆動が可能である。また、樹脂製ギヤである変速ギヤ14d,22dの撓みによって、急減速時に駆動プーリ11の開き動作に比べて従動プーリ21の閉じ動作を遅らせることができ、Low戻り性能を向上させることができる。なお、変速比によって噛合位置が変化するアイドラギヤ46a,46bおよび第1変速軸45のギヤ45bは金属材料で形成されているので、偏磨耗を防止できる。
【0028】
また、ギヤ機構(42,45a,45b,14d,46a,46b,22d)がすべて伝達効率のよい円形の可逆ギヤ(平歯車、はずば歯車など)で構成されている関係で、変速用モータ40の非通電時、ベルト張力による可動シーブの反力によってギヤ列が回転して変速比が変化する恐れがある。しかし、乾式ベルト15を用いているので、可動シーブの反力が小さく、非通電時、変速用モータ40に内蔵されたマグネットの起動抵抗のみでギヤ列の回転を防止することが可能である。なお、上記実施例では安全のために、変速用モータ40の非通電時に出力ギヤ42の回転を停止させるブレーキ41を設けたが、このブレーキ41を省略することも可能である。
【0029】
次に、Vベルト15にベルト張力を与える機構、すなわちテンショナ装置50について説明する。
上記のようにプーリ11,21のプーリ溝幅(ベルト巻き掛け径)は変速用モータ40によって可変されるが、それだけでは伝達トルクによってVベルト15とプーリ11,21との間に滑りが発生してしまう。そこで、Vベルト15に滑りを生じさせないベルト張力を与えるため、図2,図4〜図7に示されるようなテンショナ装置50が設けられている。テンショナ装置50はテンションローラ51を備え、このテンションローラ51はリンク52を介してテンショナアーム53によって揺動可能に支持されている。リンク52の一端部の軸52aはテンショナアーム52の先端部に回動自在に取り付けられ、他端部52bに中心軸51aの両端部が固定され、この中心軸51aにベアリング51bを介してテンションローラ51が回転自在に支持されている。
【0030】
図2に示すように、テンショナアーム53の回動軸53aは駆動プーリ11の半径方向外側(特に上方位置)の近傍位置に設けられている。テンショナアーム53は、駆動プーリ11の直径より長く、駆動プーリ11の外周面に沿って湾曲している。そして、テンショナアーム53の回動支点53aを中心とするテンションローラ取付部52aの回転軌跡が駆動プーリ11と従動プーリ21の間を通るように配置されている。
上記のようにテンショナアーム53の回動支点53aを駆動プーリ11の半径方向外側に設けること、換言すればテンショナアーム53を駆動プーリ11と軸方向ほぼ同一位置に配置することで、テンションローラ51の中心軸51aとテンショナアーム53の回動支点53aとを軸方向ほぼ同一位置に配置できる。つまり、テンションローラ51の中心軸51aを傾きなく支持することが可能となり、テンションローラ51とVベルト15との片当たりを抑制できる効果を有する。
【0031】
テンショナアーム53は駆動プーリ11の外周面に沿って湾曲しているので、テンショナアーム53が駆動プーリ11と干渉することがない。また、テンショナアーム53は駆動プーリ11の直径より長く、テンションローラ取付部52aの回転軌跡が駆動プーリ11と従動プーリ21の間を通るように配置されているので、テンションローラ51とプーリ11,21との干渉も抑制できる。特に、Vベルト15は使用に伴って伸びや摩耗が発生し、テンションローラ51とVベルト15との接触位置が使用初期に比べて大きく変化するが、テンションローラ取付部52aの回転軌跡が駆動プーリ11と従動プーリ21の間を通るように設けることで、テンションローラ51をプーリ11,21と最も干渉しにくい位置に配置できる。つまり、リンク52を用いた場合でも、リンク52の振れ角を小さくできるとともに、リンク52の長さを短くでき、テンションローラ51の支持剛性を確保できる。
【0032】
テンショナアーム53を間にして駆動プーリ11と対向する変速機ケース6の位置に、冷却風をプーリ室6bに取り入れるための空気取入れ口60が設けられている。すなわち、空気取入れ口60は、変速機ケース6の上部前面(駆動プーリ11の前側に面する部位)に形成されている。一方、空気排出口61は、従動プーリ21の半径方向外側でかつ空気取入れ口60と従動プーリ21を挟んで反対側、つまり変速機ケース6の下部後面に形成されている。
【0033】
図4に示すように、空気取入れ口60と対面するテンショナアーム53の部位に、冷却風通過用の穴53dが設けられている。空気取入れ口60から入った冷却風の一部は、テンショナアーム53の穴53dを通って駆動プーリ11とベルト15の接触部に当たるとともに、テンションローラ51とベルト15との接触部にも直接当たる。そのため、駆動プーリ11およびベルト15が冷却されるとともに、冷却しにくかったテンションローラ51も効果的に冷却される。また、冷却風の残部は、テンショナアーム53を迂回してプーリ室6bの中を流れ、ベルト15を冷却する。従動プーリ21の可動シーブ21bの背面には、空気取入れ口60から空気排出口61への気流を発生させるためのフィン21cが設けられている。特に、最もベルト15が発熱しやすい高速走行時には、駆動プーリ11に比べて従動プーリ21の方が高速回転するので、この従動プーリ21にフィン21cを設けることで、空気取入れ口60から空気排出口61への気流を効果的に発生させることができる。そのため、多量の空気をプーリ室6bに流通させることができ、冷却効率を向上させることができる。
【0034】
図7に示すように、テンショナアーム53の先端部側面には2本の軸53b,53cが突設されており、一方の軸53bには引張バネ54の一端部が係止され、他方の軸53cに4圧縮バネ57をガイドする伸縮ガイド56の一端部が回転自在に連結されている。
引張バネ54は、駆動プーリ11の固定シーブ11aの背面側であって、駆動軸10と従動軸20の軸間を通りテンショナアーム53と反対側に位置する変速機ケース6に設けられた軸55に係止されている。そのため、引張バネ54の引張力によって、テンションローラ51がVベルト15の緩み側を外側から内側に向かって押圧する方向にテンショナアーム53は回動付勢される。このように外側から内側に向かってVベルト15を押圧することで、所定のベルト張力を得るとともに、プーリ11,21に対するVベルト15の巻き掛け長さを長くし、伝達効率を高めている。
【0035】
圧縮バネ57をガイドする伸縮ガイド56の他端部は変速機ケース6に設けられた軸58に回転自在に連結されている。伸縮ガイド56には圧縮バネ57が介装されており、圧縮バネ57は、その向きが変化しても捩れや曲がりが生じないように、伸縮ガイド56によって伸縮方向にのみガイドされている。
【0036】
次に、引張バネ54および圧縮バネ57によるテンションローラ51のベルト押圧力が変速比に伴って変化する作用を、図9〜図14を参照して説明する。
図9は最高速比、図10は中間変速比、図11は最低速比における状態変化を示す。また、図12は引張バネ54のみを用いた時、図13は圧縮バネ57のみを用いた時、図14は両方のバネを併用した時のベルト張力の変化を示す。
【0037】
図9,図11から明らかなように、最高速比および最低速比ではベルト長さに余裕がないので、テンションローラ51によるVベルト15の撓み量が少なく、テンションローラ51はプーリ11,21の間に沈み込んでいない。これに対し、中間変速比では図10のようにベルト長さに余裕が生じるので、テンションローラ51によるVベルト15の撓み量が大きく、テンションローラ51がプーリ11,21の間に沈み込む形となる。
【0038】
引張バネ54の変速機ケース側の支点55は、Vベルト15を挟んで反対側に位置している。そのため、引張バネ54のばね力はテンションローラ51がVベルト15を押圧する方向(P方向)に作用し、図12に示すように、引張バネ54によるベルト張力は、中間変速比で最も小さく、最高速比および最低速比と中間変速比とのベルト張力の差が大きい。
【0039】
これに対し、圧縮バネ57は、その変速機ケース側の支点58と、テンショナアーム53の揺動支点53aとを結ぶ直線Lの近傍に配置されている。そして、最高速比および最低速比では圧縮バネ57とテンショナアーム53との連結点53cが直線Lより反ベルト側に位置しており、中間変速比では連結点53cが直線Lよりベルト側に位置している。そのため、圧縮バネ57のばね力は、最高速比および最低速比ではテンションローラ51をVベルト15から離す方向(M方向)に作用し、中間変速比ではVベルト15を押圧する方向(P方向)に作用する。すなわち、図13に示すように、圧縮バネ57によるベルト張力は、中間変速比ではプラス(押圧側)であるが、最高速比および最低速比ではマイナス(引張側)となる。
【0040】
したがって、両方のバネ54,57によるベルト張力を加算すると、図14のように、最高速比および最低速比と中間変速比とのベルト張力の差が小さくなり、良好な張力特性が得られる。例えば、中間変速比におけるベルト張力をVベルト15に滑りが生じない必要最低限の値(例えば700N)とした場合、最高速比および最低速比では950〜1000N程度に抑制でき、過大張力になるのを防止できる。そのため、ベルトの滑り防止とベルトの寿命向上とを両立させることができる。
【0041】
本発明は上記実施例に限定されるものではない。
上記実施例では、ストローク機構をボールネジ機構で構成したが、雄ねじ部材と雌ねじ部材とが直接螺合する通常のネジ機構で構成してもよい。
上記実施例のテンショナ装置50は、引張バネ54と圧縮バネ57とを用いてVベルト15の緩み側を押圧したものであるが、これらバネと共に、あるいはこれらバネに代えてモータや油圧シリンダなどのアクチュエータを用いてテンショナアーム53を回動付勢し、Vベルト15を押圧するようにしてもよい。この場合には、アクチュエータを制御することで、ベルト張力を任意に制御可能である。なお、モータを用いた場合には、テンショナアーム53の先端部にラックを形成し、このラックに噛み合うピニオンをモータで駆動すればよい。また油圧シリンダを用いる場合には、ピストンをテンショナアーム53に連結し、テンショナアームを回動付勢すればよい。なお、油圧シリンダを用いる場合には、変速機ケース外部に設けるのがよい。
上記実施例では、変速用モータの回転力を、先に駆動プーリのストローク機構に設けられた駆動側変速ギヤへ伝達し、この変速ギヤからアイドラ軸に設けられたアイドラギヤを介して従動プーリのストローク機構に設けられた従動側変速ギヤに伝達するようにしたが、これとは逆に、変速用モータ〜従動側変速ギヤ〜アイドラギヤ〜駆動側変速ギヤへと伝達してもよいし、変速用モータの回転力を分岐させて駆動側変速ギヤと従動側変速ギヤとに伝達するようにしてもよい。
【0042】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、請求項1に係る発明によれば、乾式ベルトを用いた無段変速機において、変速用モータの回転力をギヤ機構を介して両プーリのストローク機構に伝達し、同期駆動させるようにしたので、油圧シリンダのような油漏れによるベルト滑りを発生させる懸念がなく、変速比を精度よくかつ安定して制御できる。また、摺動抵抗もないので、変速レスポンスを向上させることができる。
また、ベルト張力をプーリの挟圧力によって与えるのではなく、ベルトの緩み側を押圧するテンショナ装置によって与えるので、ストローク機構に過大な負荷が掛からない。そのため、ストローク機構の寿命向上に役立つとともに、変速用モータの回転力がギヤ機構およびストローク機構を介して可動シーブの軸方向移動に効率よく変換され、変速レスポンスの向上、変速用モータの小型・省電力化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる無段変速機の一例の展開断面図である。
【図2】図1の無段変速機のプーリ室の断面図である。
【図3】図1の無段変速機のギヤ室の断面図である。
【図4】図2のA−A線断面図である。
【図5】図2のB−B線断面図である。
【図6】図1の無段変速機のテンショナ装置を示す部分断面図である。
【図7】テンショナアームの斜視図である。
【図8】図1の無段変速機のスケルトン図である。
【図9】最高速比におけるテンションローラとベルトとの接触位置を示す図である。
【図10】中間変速比におけるテンションローラとベルトとの接触位置を示す図である。
【図11】最低速比におけるテンションローラとベルトとの接触位置を示す図である。
【図12】引張バネのみを用いた時のベルト張力と変速比との関係を示す図である。
【図13】圧縮バネのみを用いた時のベルト張力と変速比との関係を示す図である。
【図14】引張バネと圧縮バネとを併用した時のベルト張力と変速比との関係を示す図である。
【符号の説明】
6 変速機ケース
10 駆動軸(プーリ軸)
11 駆動プーリ
14 ストローク機構
14d 駆動プーリ側変速ギヤ
15 Vベルト
20 従動軸(プーリ軸)
21 従動プーリ
22 ストローク機構
22d 従動プーリ側変速ギヤ
40 変速用モータ
45 変速軸
46 変速軸(アイドラ軸)
14d,22d,42,45a,45b,46a,46b ギヤ機構
Claims (1)
- 駆動軸に固定された固定シーブと駆動軸に軸方向移動可能に支持された可動シーブとを有する駆動プーリと、
従動軸に固定された固定シーブと従動軸に軸方向移動可能に支持された可動シーブとを有する従動プーリと、
駆動プーリと従動プーリとの間に巻きかけられた無端状の乾式ベルトと、
駆動プーリと従動プーリの中間部に配置され、ベルトの緩み側を押圧してベルト張力を得るテンショナ装置と、
駆動プーリおよび従動プーリのそれぞれに設けられ、回転力が入力される変速ギヤを有し、上記回転力により上記可動シーブを軸方向に移動させるボールネジ機構と、
ボールネジ機構と可動シーブとの間に設けられたベアリングと、
変速用モータと、
この変速用モータの回転力を上記両ボールネジ機構の変速ギヤへ伝達するとともに、両方のプーリの可動シーブが同期して軸方向に移動するよう両ボールネジ機構を機械的に連結するギヤ機構と、を備え、
上記変速ギヤはプーリとは共に回転せず、変速時のみ変速用モータによって回転させられることを特徴とする無段変速機。
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