JP3932880B2 - 電子線分析装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、細く絞られた電子線を試料に照射して、この試料から放射される信号に基づいて試料表面の分析を行う電子線分析装置に関する。電子線分析装置としては走査型電子顕微鏡(SEM)や電子線マイクロアナライザ(EPMA)、オージェ電子分析装置(AES)、反射形高エネルギー電子線回折装置(RHEED)、低エネルギー電子線回折装置(LEED)などが含まれる。特に、細く絞られた電子ビームを試料表面上で走査して試料表面の形状を観察すると共に試料から放射されるX線を検出して試料の分析を行うエネルギー分散型または波長分散型のX線検出装置を備えたSEMおよびEPMAに関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、電子線分析装置の一種であるSEMでは、電子銃から発生した電子ビームを1kV程度から数十kVの電圧で加速すると共に電磁レンズなどで細く絞って試料表面に照射する。このとき試料からは試料に含まれる元素に応じて特性X線や反射電子、二次電子などが発生し、この各種の信号を検出しデータ処理を施すことによって、試料の形状をはじめとして、試料に含まれる元素の種類や含まれる濃度、化合形態や結晶状態などさまざまな情報を得ることができる。通常、電子ビームは走査手段により試料表面上で2次元的に走査され、試料から発生する2次電子の強度をこの走査に同期してCRTなどの表示装置に輝度として表示することで試料表面の2次電子像が得られる。また、試料からの特性X線を測定することで電子ビームが当たった部分に含まれる元素を特定し定量することができる。
【0003】
このような電子線分析装置では、通常は、試料表面を観察し分析位置を特定する目的のために、電子ビームを走査しながら2次電子信号を表示するという表示モードに設定しておかれることが多い。そして必要に応じてX線検出器からの信号を表示装置に送り元素分布の状態を2次元的に表示したり、時間をかけてX線強度を正確に測定し元素濃度の定量を行ったりする。すなわち、2次電子像の観察とX線のスペクトル測定などは別々に独立して行うように装置が構成されている。
【0004】
電子線分析装置で観察視野全体の例えば平均的元素濃度を得ようとする場合、電子線を目的視野内で走査しながらX線のスペクトル測定を行う。これは観察視野内には組成が均一な部分だけでなく介在物が存在するなどして一般的には均一とは言えない状態となっているからである。視野内の平均的スペクトルを正しく測定するためには、電子線の走査速度を遅くしてオペレータの操作によって1画面の走査の開始と同時にスペクトル測定を開始し、走査の終了と同時に測定を停止するか、電子ビームの走査速度を早くしてスペクトルの測定時間内に同一視野を多数回走査するよう設定し、スペクトルの測定開始や終了が視野の途中でおこることによる誤差の影響が少なくなるようにしていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
このような従来の方法では、オペレータの操作の正確さや、同一視野を電子ビームが走査する回数によって測定されるX線強度の誤差の大きさが変わってくる。また、通常電子線の走査は1ラインの終了から次のラインの開始までに間に若干の走査停止時間があるため、スペクトル測定の開始と終了をいくら正確に行っても、この走査停止時間中に電子ビームが照射されている部分からのスペクトルの強度が他の部分からの強度より多くの時間測定されることになり、正確な平均的情報を反映しなくなる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、電子ビームの走査範囲内にある試料表面の平均的情報をより正確に求めることができる電子線分析装置を提供することを目的とする。
【0007】
さらに本発明は、オペレータが特別に意識することなく、電子ビームの走査範囲内にある試料表面の平均的情報を常に得ることができる電子線分析装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1にかかる本発明は、上述した課題を解決するために、細く絞られた電子ビームを走査しながら試料表面に照射し試料から放射される信号に基づいて該試料表面の分析を行う電子線分析装置において、試料表面からの前記信号の測定を常時行うと共に、前記測定においては、信号の取り込みの開始および終了は、前記電子ビームの走査周期の開始および終了と同期して行う信号測定制御手段を備えることを特徴とする。
【0009】
さらに本発明は、1周期の前記電子ビームの走査期間中に前記信号測定に影響を与える操作が行われたかどうかを判断する判断手段とを備え、この判断手段が1周期の前記電子ビームの走査期間中に前記信号測定に影響を与える操作が行われなかったと判断した場合に、その1周期間に測定された信号を有効とすることを特徴とする。
【0010】
請求項1にかかる電子線分析装置においては、試料表面から発生する信号の測定を電子ビームの走査に同期して行うので、走査範囲内を電子ビームが実質的に走査している間だけの信号を取り込むことができ、試料表面の平均的状態を反映したデータとすることができる。すなわち電子ビームが走査範囲内を全体にわたって走査する期間と同じ期間だけ信号測定制御手段は信号を取り込むので、取り込まれた信号強度は全走査範囲の正しい平均を表すことになる。
【0011】
さらに、本発明にかかる電子線分析装置においては、走査されている電子ビームの動きに同期して常に信号を測定してメモリなどに一時的に取り込み、この信号の測定結果に影響を与える操作がされていない場合のときだけこのデータを有効なデータとして測定結果保持用のメモリなどに保存するので、オペレータが意識することなく常に電子ビームの全走査範囲の正しい平均情報を表したデータが得られることとなる。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の一実施の形態を図面を参照しながら説明する。図1に本発明の電子線分析装置の概略図を示す。
【0013】
電子線分析装置1は電子ビームを試料に照射しながら試料に含まれる元素に由来する各種信号を検出して定性分析・定量分析などを行う。電子発生源から発生し加速された電子は電磁レンズや軸調節のための各種電子光学素子の作用により細く絞られる。図1ではこれらの電子ビームの発生に関わる部分を電子ビーム源2としてまとめて表示してある。電子ビーム源2から出てくる電子ビーム3は偏向器4により周期的に偏向されて試料Sの表面を二次元的に走査される。電子ビームが照射された試料表面からは電子線やX線、光などの各種信号が発生する。このうちX線はX線検出装置5により波長(エネルギー)毎に分光されつつ検出され、電子は電子検出器6により検出される。
【0014】
これらの信号は制御器7に取り込まれ、周知の方法によりX線スペクトル9あるいは2次電子像10などとしてCRTなどの表示器8に表示される。X線スペクトル9とはX線検出装置で検出される測定値をグラフ化したものであって、横軸にX線の波長またはエネルギーをとり縦軸にX線強度をとったグラフであり、これから試料にどのような元素がどの程度含まれているかが分析できる。また2次電子像10は電子検出器6で検出される2次電子の強度を表示器上の輝度として電子ビームの走査に同期して表示したものであり試料表面の形状をよく表している。
【0015】
X線検出装置5はエネルギー分散型のX線検出器(EDX)を使用することができる。EDXは半導体を利用してX線の各波長成分を同時に検出できる検出器であり、短時間で広いエネルギー範囲のX線を検出できるので迅速な分析に適している。また、X線検出装置5として波長分散型のX線分光検出器(WDX)を使用することもできる。WDXは波長分解能がよいので精度のよい定量分析に適している。
【0016】
電子検出器6はシンチレータと光電子増倍管からなる2次電子検出器または半導体素子からなる反射電子検出器を使用することができる。本明細書においてはそれらを総称して電子検出器6という言葉を用いている。
【0017】
制御器7はX線検出装置5や電子検出器6からの信号を取り込み、それをメモリなどに記憶し、さらに各種の信号処理をしている。さらにこのような信号処理だけにとどまらず電子線分析装置1の各部を制御する機能を併せ持っている。たとえば偏向器4に対しては電子ビームに対する偏向量すなわち試料表面の電子ビームの走査範囲や速さを制御する。またX線検出装置5に対しては、測定するX線波長の設定や測定するタイミングや時間の設定などを行う。さらに表示器8に対しては取り込んだデータのどの部分を表示するかなどを制御している。
【0018】
電子ビーム3を試料S表面上で走査しながらX線検出装置5でX線を検出し、電子ビームが照射されている領域の平均的な元素濃度を測定する場合を考える。
【0019】
図2は電子ビームの走査を説明する図である。試料表面上にXY座標を考えると、電子ビームはXおよびY方向にラスタースキャンされ、試料表面上を電子ビーム3が走査していく軌跡は図2(a)のようになっている。偏向器4のX方向の偏向量は図2(b)に示すように時間に対してのこぎり状の波形をしており、Y方向の偏向量は図2(c)に示すようにX方向よりも周期の長いのこぎり状の波形をしている。図2(a)で実線で描かれた軌跡21は電子ビームが試料表面に比較的長い間実効的に照射されている間の軌跡であり一定の速度で移動している部分である。点線で描かれた軌跡22および23は電子ビームが早く戻ろうとしている間の軌跡である。
【0020】
図2(d)は図2(b)の1周期をより詳しく説明する図である。1周期である時刻T1とT2の間に、tsとtbの2つの期間が存在する。tsは時間に対して直線的に偏向量が増加している走査期間であり、図2(a)の軌跡21の期間に相当する。tbは電子ビームが元の位置に戻ろうとしている復帰期間であり、図2(a)の軌跡22の期間に相当する。このとき電子ビームは時間軸に対して直線的に戻るのではなく少しの時間だけ端に停滞したり、直線ではなく曲線を描いて復帰したりする振る舞いを示す。これは偏向器4をふくむ偏向制御系のインピーダンスや応答性などに起因するものであり、tbの間を直線的に電子ビームを復帰させることはかなり困難である。
【0021】
上述のような状態で電子ビームが照射されている領域の平均的な元素濃度を測定しようとする場合に、まずはじめにY方向の走査周期の全期間でX線信号を取り込むことが必要である。Y方向の走査周期に同期してX線信号を取り込むことによって走査領域の真の平均的データを得るという目的は大部分達成される。さらに詳しく見ると、試料からの信号量は電子ビームの滞留時間に比例して出てくるものであるから、電子ビームが等速度で動いていない期間、すなわち、上述の電子ビームの復帰時間の間は測定に適していないこととなるので、この期間を除いてX線信号を取り込んだ方がより好ましいこととなる。
【0022】
本発明の電子線分析装置は、Y方向の1周期の始まりの時刻にX線信号の取り込みを開始し、Y方向の1周期の終わりの時刻に取り込みを終了する同期測定手段を有している。さらには、X方向の走査周期のうちでは上述のtsの期間だけX線信号を取り込むための同期測定手段を有している。これを図3に示すブロック図で説明する。この同期測定手段11は制御器7に含まれる機能をブロック図で示したものである。
【0023】
同期測定手段11は偏向器4を制御すると共にX線検出装置5および電子検出器6からの信号をタイミングを計って取り込み記憶する。電子ビームを走査するための信号は信号発生器11aにより発生しドライバ11bを介して偏向器4に送られる。一方、この信号発生器11aの信号はY方向の走査およびX方向の走査とのタイミングを取るために同期信号AとしてX線検出装置からの信号を選別する選別器11cに送られる。すなわち、X線検出装置5からの信号は常時出力されているが、上述のts期間の間の信号だけカウンタ11dにより計測され、メモリ11eに記憶される。電子ビームY方向の走査に関しては、Y方向の1周期の全期間でX線信号を計測する。すなわち、図2に示した例で言うと、図2(c)で示されるようにY方向にはT1からT2の間に1回走査され、その間にX方向には何回か(図2(b)では4回)走査されるが、その全てのX方向走査時のtsの期間でX線信号を取り込むようにしている。もちろんX線信号を取り込むためのY方向の走査は1回に限られず、必要に応じて複数回にわたってもよい。
【0024】
また、この信号発生器11aの信号は同期信号Bとして電子検出器6からの信号を選別する選別器11fに送られる。すなわち、電子検出器6からの信号は常時出力されているが、そのうち上述のts期間の間の信号だけ次段のA/D変換器11gに送られ、メモリ11hに記憶される。Y方向の走査期間に関しては上述と同様である。
【0025】
このようにしてメモリ11eに貯えられたデータはY方向のすべてに走査されたX線データであり、しかも電子ビームが等しい速度で移動している間に得られたX線データである。したがって、試料表面の1部に電子ビームが滞留した期間のデータは含まれておらず、試料表面の平均的情報と考えることができる。このデータに基づいて周知のデータ処理方法によりX線スペクトルを表示し元素濃度を計算すれば平均的元素濃度を得ることができる。
【0026】
このように一つの領域の平均的X線スペクトルを測定し平均的元素濃度を測定しようとした場合に、少なくともY方向の電子ビームの走査に同期してX線検出装置からの信号を測定して記憶することで、電子ビームが照射される全ての領域を正しく平均したスペクトルや元素濃度を得ることができる。さらに、電子ビームが等しい速度で試料表面上を移動している間だけX線検出装置からの信号を測定して記憶するようにすれば、より正しく平均したスペクトルや元素濃度を得ることができる。
【0027】
さらにこれを変形して次のようにデータを取得しても試料表面の平均的情報を正しく得ることができる。すなわち、測定の初めのタイミングと終わりのタイミングをその都度指示するのではなく、常にデータを電子線ビームの走査に同期しながら取得しておき、かりにデータに影響を及ぼす操作をした時にだけデータを廃棄するようにしても試料表面の平均的情報を得ることができる。
【0028】
図4にこの変形された実施の形態を示す。同期測定手段11は上述したように電子ビーム3の走査に同期しながらX線検出装置5からのデータを休むことなく常に測定して記憶し、そのデータに基づいて表示器8に電子ビーム走査の1周期が終わる毎にリアルタイムに結果を表示している。このとき電子線測定装置1の動作条件を設定または変更する操作手段13によって何らかの操作が行われたとする。判断手段12はこの操作がX線信号の計測に影響を及ぼすかどうか判断する。そしてその判断結果は同期測定手段に伝えられ、その判断結果に基づいて、そのとき取得しつつあるデータを破棄するかどうかを決定する。破棄の場合は取得しつつあったデータは破棄され表示はされず、表示の更新は次のタイミングまで延期されることとなる。
【0029】
操作手段13の操作によって測定結果が影響されるかどうかの判断基準はあらかじめ判断手段に入力することができる。たとえば、電子線の加速電圧や電子ビームの電流値が変更されればこれはX線の測定結果に影響が出るので、このような場合は“影響あり”との判断となるよう入力しておく。一方、電子検出器に対する印加電圧を変えたり、単に表示器上の表示方法を変更する場合にはX線の測定結果に影響は与えないので“影響なし”との判断になるように設定しておく。
【0030】
図4に示した実施の形態によれば、試料面の形状を観察する2次電子像の取得と同時に平均的X線スペクトルを得ることができ、トータルの分析時間を短縮することができる。
【0031】
【発明の効果】
請求項1にかかる本発明によれば、試料からの信号の取得を電子ビームの走査に同期して必要にして有効な期間だけに限定することができるので、試料表面の正しい平均的状態を測定することができる。とくにX線信号の取得に限れば、試料の平均的スペクトルが正確に取得できるので、元素濃度を定量するときに分析対象領域の変動に対して再現性のよいデータを得る事ができる。
【0032】
また、本発明によれば、保存用の2次電子像の観察が終わった時点で平均的試料状態の測定も完了した状態になるため測定時間が短縮できる。とくに電子顕微鏡やEPMAの場合に、試料表面の観察とX線信号による元素分析という2つが主要な分析項目であるから、試料からの信号としてX線信号を取得し、試料表面形状取得と同時に試料の平均的スペクトルが正確に取得できることは、分析全体としての時間短縮に非常に有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の電子線分析装置の概略図である。
【図2】電子ビームの走査を説明する図である。
【図3】本発明の要部を説明する図である。
【図4】本発明の他の実施例の要部を説明する図である。
【符号の説明】
1…電子線分析装置 2…電子ビーム源
3…電子ビーム 4…偏向器
5…X線検出装置 6…電子検出器
7…制御器 8…表示器
9…X線スペクトル 10…2次電子像
11…同期測定手段 12…判断手段
13…操作手段
Claims (1)
- 細く絞られた電子ビームを走査しながら試料表面に照射し試料から放射される信号に基づいて該試料表面の分析を行う電子線分析装置において、試料表面からの前記信号の測定を常時行うと共に、前記測定においては、信号の取り込みの開始および終了は、前記電子ビームの走査周期の開始および終了と同期して行う信号測定制御手段と、1周期の前記電子ビームの走査期間中に前記信号測定に影響を与える操作が行われたかどうかを判断する判断手段とを備え、この判断手段が1周期の前記電子ビームの走査期間中に前記信号測定に影響を与える操作が行われなかったと判断した場合に、その1周期間に測定された信号を有効とすることを特徴とする電子線分析装置。
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