JP3931844B2 - ブレーキ液圧制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、ブレーキ液圧制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
特開平11−105687号公報には、(1) 作動液の液圧により作動させられるブレーキのブレーキシリンダと、(2) そのブレーキシリンダの液圧を制御可能な電磁制御弁装置と、(3) その電磁制御弁装置を制御することによってブレーキシリンダの液圧を制御する制御弁制御装置とを含むブレーキ液圧制御装置が記載されていた。この公報に記載のブレーキ液圧制御装置においては、電磁制御弁装置が、実際のブレーキシリンダの液圧が運転者によるブレーキ操作力に基づいて決まる目標値に近づくように制御される。しかし、上記ブレーキ液圧制御装置によって電磁制御弁装置が制御される場合には、ブレーキの制御遅れが生じたり、オーバシュートが生じたりすることがあった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題,課題解決手段および効果】
そこで、本発明の課題は、ブレーキの制御遅れやオーバシュートを抑制し得るブレーキ液圧制御装置を得ることである。この課題は、ブレーキ液圧制御装置を下記各態様の構成のものとすることによって解決される。各態様は、請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、本発明の理解を容易にするためであり、本明細書に記載の技術的特徴およびそれらの組合わせが以下の各項に限定されると解釈されるべきではない。また、1つの項に複数の事項が記載されている場合、常に、すべての事項を一緒に採用しなければならないものではなく、一部の事項のみを取り出して採用することも可能である。
(1)作動液の液圧により作動させられるブレーキのブレーキシリンダと、
そのブレーキシリンダにおける作動液の流入流量と流出流量との少なくとも一方を制御可能な電磁制御弁であって、その電磁制御弁の前後の差圧に応じた差圧作用力とソレノイドへの供給電流量に応じた電磁駆動力との和が、その電磁制御弁が閉状態となるように付勢するスプリングの弾性力より大きくなると開状態となる少なくとも1つの電磁制御弁を含む電磁制御弁装置と
その電磁制御弁装置に含まれる少なくとも1つの電磁制御弁である第1電磁制御弁のソレノイドへの供給電流を制御することによって前記ブレーキシリンダの液圧を制御する制御弁制御装置と
を含むブレーキ液圧制御装置であって、
前記制御弁制御装置が、前記ブレーキシリンダの実際の液圧あるいはその実際の液圧に対応する物理量である実液圧関連量が、所要ブレーキ力に基づいて決まる制御目標液圧あるいはその制御目標液圧に対応する物理量である目標液圧関連量に近づくように、前記ソレノイドへの供給電流量を、前記第1電磁制御弁を閉状態から開状態に移行させるための開弁電流量と、前記目標液圧関連量の変化勾配に応じた大きさである目標液圧関連量対応電流量とを含む量として決定する供給電流量決定部を備えた目標液圧対応制御値決定部を含むとともに、その目標液圧対応制御値決定部が、前記ブレーキシリンダにおける作動液の液量の変化量と液圧の変化量との関係である液圧変化特性であって、前記ブレーキシリンダ液圧が低い場合は高い場合より液量の変化量に対する液圧の変化量が小さい関係に基づいて、前記ブレーキシリンダの実際の液圧が設定液圧以下である場合に設定液圧より高い場合より大きい係数を前記目標液圧関連量対応電流量に掛けることにより、前記供給電流量を補正する制御補正部を含むことを特徴とするブレーキ液圧制御装置(請求項1)。
本項に記載のブレーキ液圧制御装置においては、ブレーキシリンダにおける液圧変化特性に基づいて決まる係数に基づいて、電磁制御弁装置に含まれる少なくとも1つの第1電磁制御弁のソレノイドへの供給電流量が補正される。
液圧変化特性は、例えば、ブレーキシリンダにおける作動液の液量と液圧との関係とすることができる。ブレーキシリンダの液圧はブレーキシリンダにおける作動液の液量の変化に伴って直線的に変化するわけではなく、液圧が低い場合は高い場合より液量の変化量に対する液圧の変化量が小さい。ここにおいて、ブレーキシリンダにおける作動液の液量は、ブレーキが非作動状態にある状態ですでにブレーキシリンダ内に存在する作動液の液量は含まず、ブレーキを作動させるために実質的に有効な作動液の液量である。
また、ブレーキ操作部材の操作ストロークとブレーキシリンダの液圧との関係を液圧変化特性とすることもできる。操作ストロークの変化に伴ってブレーキシリンダに作動液が流入,流出させられ、液圧が変化させられるのであるが、操作ストロークが小さい場合は大きい場合より、操作ストロークの変化量に対するブレーキシリンダの液圧の変化量が小さい。この場合には、ブレーキ操作部材に連携させられた加圧ピストンを含むマスタシリンダとブレーキシリンダとを接続する液通路における液圧伝達特性や、加圧ピストンとマスタシリンダとの間に設けられたシール部材,マスタシリンダ本体の弾性変形状態等も考慮されることになる。このように液圧変化特性は、ブレーキ操作部材の操作に対するブレーキ力の変化の割合、すなわち、当該ブレーキ液圧制御装置が設けられたブレーキ装置のブレーキ剛性(ブレーキ堅さ)であると考えることができる。
これらの事情により、液圧変化特性に基づく係数は、ブレーキ液圧が低い場合は高い場合より大きくされる。ブレーキ液圧が低い場合に高い場合より供給電流量の補正量を大きくして、電磁弁制御装置における流出流量や流入流量を大きくすれば、ブレーキ液圧が低い場合と高い場合とにおけるブレーキ液圧勾配の差を小さくすることができる。
また、ソレノイドへの供給電流量は、第1電磁制御弁を閉状態から開状態に移行させるための開弁電流量と、目標液圧関連量の変化勾配に応じた大きさである目標液圧関連量対応電流量とを含む量として決定されるが、係数を目標液圧関連量対応電流量に掛けることにより、供給電流量が補正される。
係数は、上述のように、ブレーキ液圧に応じて変わる可変値とすることが望ましい。例えば、ブレーキ液圧の変化に伴って連続的に変化させられる値としたり、段階的に変化させられる値としたりすることができる。
このように、本項に記載のブレーキ液圧制御装置によれば、液圧変化特性を考慮して電磁制御弁装置の制御が行われるため、ブレーキの制御遅れやオーバシュートを良好に抑制することができる。
また、本項に記載のブレーキ液圧制御装置におけるように、電磁制御弁装置の制御が液圧変化特性に基づく係数で補正される場合、すなわち、液圧変化特性に基づかない一般的な供給電流量が決定され、その一般的な供給電流量が液圧変化特性に基づいて決まる係数で補正される場合には、液圧変化特性を考慮した供給電流量を容易に決定することができるという効果もある。例えば、実際のブレーキシリンダの液圧と目標値との差と、液圧変化特性とに基づいて、ブレーキシリンダの液圧を目標値に近づけるためにブレーキシリンダにおいて必要な作動液量が求められ、その作動液量に基づいて第1電磁制御弁のソレノイドへの供給電流量が決定されるようにすることや、第1電磁制御弁において許容される作動液の流量に基づいてブレーキシリンダにおける作動液量が推定され、その推定された作動液量と液圧変化特性とに基づいてブレーキ液圧が推定され、その推定されたブレーキ液圧が目標値に近づくように供給電流量が決定されるようにすることも可能であるが、それらの場合より、容易に液圧変化特性に基づいた供給電流量を決定することができるのである。
さらに、液圧変化特性が異なるブレーキ液圧制御装置に適用する場合には、係数を変更すればよいという利点もある。
(2)前記供給電流量決定部が、前記供給電流量を予め定められた制御サイクルタイム毎に決定するとともに、前記開弁電流量を、その制御サイクルタイム毎に、前記第1電磁制御弁の前後の差圧を検出し、その差圧が大きい場合は小さい場合より小さい値に決定する手段を含む (1) 項に記載のブレーキ液圧制御装置(請求項2)。
( )前記制御補正部が、前記係数を、前記ブレーキシリンダの実際の液圧に基づいて決定する係数決定部を含む(1)項または(2)項に記載のブレーキ液圧制御装置(請求項)。
(4)前記制御補正部が、前記ブレーキシリンダから作動液が流出する場合と前記ブレーキシリンダに作動液が流入する場合とで、前記係数を異なる大きさにする(1)項ないし (3) 項のいずれか1つに記載のブレーキ液圧制御装置(請求項)。
(5)前記電磁制御弁装置が、前記ブレーキシリンダと高圧源との間に設けられた増圧制御弁と、前記ブレーキシリンダと低圧源との間に設けられた減圧制御弁との少なくとも一方を含む(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載のブレーキ液圧制御装置。
増圧制御弁と減圧制御弁との少なくとも一方を制御すれば、ブレーキシリンダの液圧を制御することができる。電磁制御弁装置が、増圧制御弁と減圧制御弁とを含む場合において、増圧制御弁を制御する場合と減圧制御弁を制御する場合とで、前記係数を同じものとしても異なるものにしてもよい。ブレーキシリンダの液圧が同じであっても、ブレーキシリンダにおける作動液の流入流量と増圧勾配との関係と、流出流量と減圧勾配との関係とが異なる場合には、増圧制御弁についての係数と減圧制御弁についての係数とを異なるものとするのが妥当である。また、増圧制御弁と減圧制御弁とのいずれか一方の制御が係数で補正され、他方の制御は補正されないようにすることもできる。
(6)前記電磁制御弁装置が、弁座と、その弁座に対して接近・離間可能な弁子とを含むシーティング弁と、コイルを含み、コイルへの供給電流の制御により、前記弁子に加わる電磁駆動力を制御可能なソレノイドとを含む電磁制御弁を含む(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載のブレーキ液圧制御装置。
シーティング弁は、弁子を弁座から離間させる方向に弾性力を加えるスプリングを含む常開弁であっても、弁子を弁座に着座させる方向に弾性力を加えるスプリングを含む常閉弁であってもよい。また、弁子には、そのシーティング弁が設けられた液通路の前後の差圧に応じた差圧作用力が作用する。したがって、弁子には、スプリングの弾性力とソレノイドによる電磁駆動力と前後の差圧による差圧作用力とが作用することになり、弁子の弁座に対する相対位置は、これら力の関係によって決まるのであり、コイルへの供給電流を制御することによって、相対位置を制御することができる。
コイルへの供給電流の制御により、弁子の弁座からの相対距離が大きくされた場合は、シーティング弁における開度が大きくなる。シーティング弁を流れる作動液の許容流量が大きくなり、ブレーキシリンダにおける作動液の流入流量や流出流量が大きくされる。逆に、相対距離が小くされて、開度が小さくされた場合には、シーティング弁における許容流量が小さくなり、ブレーキシリンダにおける作動液の流入流量や流出流量が小さくなる。
電磁制御弁装置は、弁座と、その弁座に対して接近・離間可能な弁子と、弁子を弁座に着座させる方向に弾性力を付与するスプリングとを含むシーティング弁と、コイルを含み、コイルへの供給電流の制御により、前記弁子を弁座から離間させる方向の電磁駆動力を制御可能なソレノイドとを含む常閉の電磁制御弁を含むものとすることができる。
(7)前記制御補正部が、前記電磁弁制御装置の制御を、さらに、前記ブレーキシリンダの実際の液圧に関連する実液圧関連量の変化量と、所要ブレーキ力に基づいて決まる制御目標液圧に関連する目標液圧関連量の変化量との少なくとも一方に基づいて補正する(1) 項ないし(6) のいずれか1つに記載のブレーキ液圧制御装置。
電磁弁制御装置の制御を、さらに、実液圧関連量の変化量や目標液圧関連量の変化量に基づいて補正すれば、ブレーキ液圧の制御遅れやオーバシュートをさらに良好に抑制することができる。
実液圧関連量や目標液圧関連量の変化量には、一定時間当たりの変化量、ブレーキ操作部材の一定操作ストローク当たりの変化量、時間に対する変化勾配、ブレーキ操作部材の操作ストロークに対する変化勾配等が含まれる。
(8)前記目標液圧対応制御値決定部が、前記供給電流量を、予め定められた制御サイクルタイム毎に決定するとともに、さらに、その制御サイクルタイム毎に、前記目標液圧関連量の変化量に対する前記実液圧関連量の変化量の比を検出し、その比が設定値より小さい場合に、前記供給電流量を、前記第1電磁制御弁あるいは別の電磁制御弁の流入流量と流出流量との少なくとも一方が大きくなるように補正し、その比が前記設定値以上である場合に前記流入流量と流出流量との少なくとも一方が小さくなるように補正する前記制御補正部とは別の制御補正部を含む(1) 項ないし (7) 項のいずれか1つに記載のブレーキ液圧制御装置(請求項)。
目標液圧関連量の変化量に対する実液圧関連量の変化量の比(実液圧関連量の変化量/目標液圧関連量の変化量)が小さい場合は大きい場合より制御遅れが大きい。そのため、例えば、比を検出し、その比が小さい場合に流出流量と流入流量との少なくとも一方が大きくなるように制御を補正すれば、制御遅れを小さくすることができる。逆に、比が大きい場合に流出流量と流入流量との少なくとも一方が小さくなるように制御を補正すれば、オーバシュートを抑制することができる。
ブレーキシリンダの実際の液圧に関連する実液圧関連量には、ブレーキシリンダの実際の液圧や、実際の液圧に対応する物理量等が含まれる。ブレーキシリンダの実際の液圧は、直接検出しても、ブレーキシリンダに接続された液通路の液圧を検出する等間接的に検出してもよい。液圧に対応する物理量には、例えば、電磁液圧制御弁装置の状態が該当する。電磁液圧制御弁装置の状態に応じてブレーキ液圧が決まるからである。また、車両に液圧ブレーキ力以外のブレーキ力が加わらない場合(例えば、当該ブレーキ液圧制御装置が搭載された車両が液圧ブレーキ装置以外のブレーキ装置を備えていない場合)には、車両減速度も該当する。車両減速度はブレーキ液圧に応じた大きさになるからである。目標液圧関連量についても同様であり、ブレーキシリンダ液圧の目標値,電磁液圧制御弁装置の目標状態,目標減速度等が該当する。
目標液圧関連量は、当該ブレーキ液圧制御装置が搭載された車両の状態に基づいて決めることができる。車両が液圧ブレーキ装置以外のブレーキ装置を含まない場合には、例えば、運転者によるブレーキ操作部材の操作状態に応じた値(例えば、要求ブレーキ力)とすることができる。また、車両に液圧ブレーキ力以外のブレーキ力、例えば、回生ブレーキ力が加えられる場合(例えば、当該ブレーキ装置が液圧ブレーキ装置と回生ブレーキ装置とを備えた場合)には、上述のブレーキ操作状態で決まる要求ブレーキ力と実際に得られた実回生ブレーキ力とに基づいて決まる値とすることができる。実回生ブレーキ力が要求ブレーキ力以上である場合には、目標液圧関連量が0とされ、要求ブレーキ力より小さい場合には、要求ブレーキ力から実回生ブレーキ力を引いた値とすることができる。実回生ブレーキ力が上限値に達した場合には、目標液圧関連量は要求ブレーキ力の増加に応じて増加させられる。
また、車両が、物体に対する接近速度が設定速度以上である場合等自動ブレーキを作動させる必要がある状態にある場合においては、目標液圧関連量を、その接近速度等に応じた値とすることができる。
さらに付言すれば、電磁制御弁装置の制御が行われる場合には常に変化量の比に基づく補正が行われるようにすることは不可欠ではなく、予め定められた条件が満たされた場合に補正が行われるようにすることができる。例えば、オーバシュートが生じる可能性がある場合や、液圧の制御遅れが大きくなる可能性がある場合等に補正されるようにするのである。
また、本項に記載のブレーキ液圧制御装置には、(1) 項ないし(9) 項に記載の技術的特徴を採用することができる。
(9)前記目標液圧対応制御値決定部が、前記係数とその係数とは別の係数とを用いた式により前記供給電流量を決定するものであり、前記の制御補正部が、前記別の係数を、前記比が小さい場合に大きい場合より大きい値に決定する係数決定部を含む(8)項に記載のブレーキ液圧制御装置(請求項)。
前述のように、変化量の比の値に基づいて補正する場合より、変化量の比で決まる係数で補正する方が供給電流量を容易に決定し得る場合が多い。
また、これらの変化量の比で決まる係数は、変化量の比が大きい場合は小さい場合より小さくなる値とすることが望ましい。変化量の比が大きい場合は小さい場合より補正量を小さくすれば、オーバシュートを抑制することができる。
(10)前記別の制御補正部が、前記目標液圧関連量から前記実液圧関連量を引いた値である偏差が負の設定値以下である場合に、前記供給電流量の前記比の値に基づく補正を行い、前記偏差が正の設定値以上である場合には、前記供給電流量の前記比の値に基づく補正を行わないものである(8) 項または (9) に記載のブレーキ液圧制御装置(請求項)。
(11)前記別の制御補正部が、前記実液圧関連量の減少勾配が第1の設定勾配以下であることと前記目標液圧関連量の減少勾配が第2の設定勾配以下であることとの少なくとも一方が満たされた場合に、前記供給電流量の前記比の値に基づく補正を行うものである(8) 項または (9) に記載のブレーキ液圧制御装置(請求項)。
(12)前記制御弁制御装置が、前記所要ブレーキ力が増加傾向にある場合に、前記目標液圧関連量の増加量を前記所要ブレーキ力に対応する量の増加量より大きくする第1目標値決定手段と、前記所要ブレーキ力が増加傾向にない場合に、前記目標液圧関連量の変化量を前記所要ブレーキ力に対応する量の変化量より小さくする第2目標値決定手段とを含む(1)項ないし(11) のいずれか1つに記載のブレーキ液圧制御装置(請求項)。
目標液圧関連量の増加量を所要ブレーキ力の増加量以上とすれば、ブレーキ液圧の増加遅れを抑制することができる。また、目標液圧関連量の変化量を所要ブレーキ力の変化量以下とすれば、オーバシュートを抑制することができる。
(13)前記制御弁制御装置が、
前記目標液圧関連量の増加勾配を前記所要ブレーキ力に対応する量の増加勾配以上にする第1目標値決定手段と、
前記目標液圧関連量の変化量を前記所要ブレーキ力に対応する量の変化量以下にする第2目標値決定手段と、
前記所要ブレーキ力が増加傾向にある場合に前記第1目標値決定手段を選択し、前記所要ブレーキ力が増加傾向にない場合に前記第2目標値決定手段を選択する決定手段選択手段と
を含む(1)項ないし(12) のいずれか1つに記載のブレーキ液圧制御装置。
(14)前記制御弁制御装置が、
前記目標液圧関連量の増加量を前記所要ブレーキ力に対応する量の増加量以上にする第1目標値決定手段と、
前記目標液圧関連量の変化量を前記所要ブレーキ力に対応する量の変化量以下にする第2目標値決定手段と、
前記所要ブレーキ力が増加傾向にあり、かつ、前記ブレーキシリンダに作動液が流入させられる状態である場合に前記第1目標値決定手段を選択し、前記所要ブレーキ力に対応する量が増加傾向にない場合は、前記ブレーキシリンダに作動液が流入させられる状態であっても前記第2目標値決定手段を選択する決定手段選択手段と
を含む(1)項ないし(13) のいずれか1つに記載のブレーキ液圧制御装置。
ブレーキシリンダに作動液が流入させられる状態であっても、所要ブレーキ力が増加傾向にない場合は、目標液圧関連量の増加勾配が抑制される。その結果、ブレーキシリンダから作動液が流出させられる状態にある場合に、目標液圧関連量の増加勾配が大きくされたことに起因して、流出状態から流入状態に切り換えられることを回避することができる。
【0004】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態であるブレーキ液圧制御装置を含む車両制動システムについて図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本車両制動システムは、エンジン12を含む内燃駆動装置14と、電動モータ16を含む電気的駆動装置20とを含む駆動源22を含むハイブリッド車に搭載されている。左右前輪24にはエンジン12と電動モータ16とが接続され、本ハイブリッド車は前輪駆動車なのである。
【0005】
内燃駆動装置14は、エンジン12およびエンジン12の作動状態を制御するエンジンECU40等を含むものであり、電気的駆動装置20は、前述の電動モータ16、電力変換装置としてのインバータ42、蓄電装置44、モータECU46、発電機50、動力分割機構52等を含むものである。発電機50は、エンジン12の作動によって電気エネルギを発生させるものである。動力分割機構52は、図示しないが、遊星歯車装置を含むものであり、サンギヤに発電機50が連結され、リングギヤに出力部材54が接続されるとともに電動モータ16が連結され、キャリヤにエンジン12の出力軸が連結される。エンジン12,電動モータ16,発電機50等の制御により、出力部材54に電動モータ16の駆動トルクのみが伝達される状態、エンジン12の駆動トルクと電動モータ16の駆動トルクとの両方が伝達される状態等に切り換えられる。出力部材54に伝達された駆動力は、減速機,差動装置を介して前輪24のドライブシャフト56に伝達される。
【0006】
本実施形態においては、電動モータ16の電流は、インバータ42によりモータECU46の指令に基づいて制御される。モータECU46にはハイブリッドECU60から指令が供給される。電動モータ16は、蓄電装置44から電気エネルギが供給されて回転させられる回転駆動状態,発電機として機能させて、運動エネルギを電気エネルギに変換して、蓄電装置44に充電させる回生制動状態等に切り換えられる。回生制動状態においては、電動モータ16の回転が抑制され、前輪24の回転が抑制される。
このように、前輪24には電動モータ16の回生制動による回生制動力が加えられるのであり、この意味において、電気的駆動装置20は、回生制動装置であるとすることができる。回生制動力は、電動モータ16の電流の制御により制御される。
【0007】
本車両制動システムには、前輪24および後輪68(図2参照)に摩擦制動力としての液圧制動力を加える液圧制動装置70が設けられる。液圧制動装置70は、液圧制御アクチュエータ72、図2に示すように、左右前輪24のブレーキシリンダ74、左右後輪68のブレーキシリンダ78、ブレーキペダル92、ハイドロブースタ付きマスタシリンダ94、動力式液圧源96等を含む。ブレーキシリンダ74,78に作動液が供給されると、その液圧に応じた押し付け力によって、車輪と共に回転するブレーキ回転体に摩擦部材が押し付けられ、摩擦制動力としての液圧制動力が左右前輪24、左右後輪28に加えられて、回転が抑制される。
【0008】
動力式液圧源96は、ポンプ100,ポンプモータ101,アキュムレータ102,アキュムレータ圧センサ103,逆止弁104,リリーフ弁105等を含む。アキュムレータ圧センサ103は、アキュムレータ102の液圧を検出するものであり、アキュムレータ圧センサ103による検出液圧に基づいてポンプモータ101の作動状態が制御される。ポンプモータ101の制御により、アキュムレータ102の液圧が予め定められた設定範囲内に保たれる。逆止弁104は、ハイドロブースタ付きマスタシリンダ側からアキュムレータ側への作動液の逆流を阻止するために設けられたものである。また、リリーフ弁105により、ポンプ100の吐出圧が過大になることが回避される。
【0009】
ハイドロブースタ付きマスタシリンダ94は、液圧を、動力式液圧源96の液圧を利用して加圧ピストンに加えられるブレーキペダル92の操作力に応じた大きさに制御する調圧部106と、調圧部106の液圧によってブレーキペダル92の操作力が倍力された大きさの液圧を発生させる加圧部108とを含むものである。加圧部108には、左右前輪24のブレーキシリンダ74が接続され、調圧部106にはリニアバルブ装置109を介して左右前輪24のブレーキシリンダ74および左右後輪68のブレーキシリンダ78が接続されている。調圧部106の液圧が大気圧になっても加圧部108にはブレーキ操作力に対応した高さの液圧が発生させられ、ブレーキシリンダ74に作動液が供給され、ブレーキが作動させられる。
【0010】
本実施形態において、液圧制御アクチュエータ72は、リニアバルブ装置109、後述する複数の電磁制御弁等を含む。リニアバルブ装置109は、図3に示すように、増圧リニアバルブ110と減圧リニアバルブ111と減圧用リザーバ112とを含む。
増圧リニアバルブ110は、調圧部106とブレーキシリンダとを接続する液通路113の途中に設けられたものであり、弁子114と弁座115とを含むシーティング弁と、コイル116を含むソレノイドとを含むものである。コイル116に電流が供給されない間は、スプリング117の弾性力F1 により弁子114が弁座115に着座させられる閉状態にあるが、コイル116に電流が供給されると、その供給電流に応じた電磁駆動力F2 が、弁子114を弁座115から離間させる方向に作用する。また、弁子114を弁座115から離間させる方向には、増圧リニアバルブ110の前後の液圧差ΔPに対応する差圧作用力F3 も作用する。
【0011】
したがって、コイル116に電流が供給された状態においては、弁子114の弁座115に対する相対位置が、これらスプリング117の弾性力F1 ,電磁駆動力F2 ,差圧作用力F3 の関係によって決まる。この場合においてスプリング117の弾性力F1 がほぼ一定であると見なせば、電磁駆動力(コイル116への供給電流)の制御により、差圧作用力を制御することができるのであり、増圧リニアバルブ110におけるブレーキシリンダ側の液圧と調圧部側の液圧との差を制御することができる。本実施形態においては、ブレーキシリンダ側の液圧が、後述する所要液圧制動トルクに対応する所要液圧と同じ大きさになるように、コイル116への供給電流が制御される。
また、弁子114と弁座115との間の相対距離が大きく、開度が大きい場合は、当該増圧リニアバルブ110において許容される作動液の流量が大きくなり、ブレーキシリンダに供給される作動液の流入流量が大きくなる。ブレーキシリンダに供給される作動液の流入流量も、コイル116への供給電流の制御により制御される。
【0012】
減圧リニアバルブ111についても同様であるが、減圧リニアバルブ111は、ブレーキシリンダと減圧用リザーバ112とを接続する液通路119の途中に設けられている。また、減圧リニアバルブ111においては、ブレーキシリンダ側の液圧と減圧用リザーバ側の液圧との差に応じた差圧作用力F3 が作用するが、減圧用リザーバ側の液圧はほぼ大気圧であるため、これらの液圧差ΔPはブレーキシリンダ側の液圧と同じ大きさになる。
【0013】
また、増圧リニアバルブ110,減圧リニアバルブ111をバイバスする通路には、それぞれ逆止弁122,123が設けられている。逆止弁122は、ブレーキシリンダからハイドロブースタ付きマスタシリンダ94への作動液の流れを許容し、逆向きの流れを阻止するものであり、ブレーキペダル92の操作力が緩められた場合にブレーキシリンダの作動液を速やかに戻すためのものである。逆止弁123は、減圧用リザーバ112からハイドロブースタ付きマスタシリンダ94への作動液の流れを許容し、逆向きの流れを阻止するものであり、制動終了時に、減圧用リザーバ112の作動液をハイドロブースタ付きマスタシリンダ94に早急に戻すためのものである。
【0014】
液通路113のリニアバルブ装置109と左右後輪68のブレーキシリンダ78との間の部分(液通路)125にはそれぞれ保持弁126が設けられ、ブレーキシリンダ78とマスタリザーバ127とを接続する液通路128にはそれぞれ減圧弁129が設けられている。
また、液通路113のリニアバルブ装置109と左右前輪24のブレーキシリンダ74とを接続する部分(液通路)130には、それぞれ保持弁131が設けられ、ブレーキシリンダ74とマスタリザーバ127とを接続する液通路132には、それぞれ減圧弁133が設けられている。また、それぞれの保持弁126,131に対応する部分には、逆止弁134が設けられたバイパス通路が設けられている。そのため、ブレーキ解除時には、ブレーキシリンダ74,78からリニアバルブ装置109を経てハイドロブースタ付きマスタシリンダ94へ作動液が早急に戻される。
液通路130の保持弁131よりリニアバブル装置109側の部分、すなわち、後輪のブレーキシリンダ78と前輪のブレーキシリンダ74との間の部分には、遮断弁136が設けられている。遮断弁136はコイルに電流が供給されなくなることにより閉状態に切り換えられる。当該車両制動システムの異常時等に、前輪側と後輪側とを遮断するために設けられたものである。
【0015】
前記加圧部108と前輪のブレーキシリンダ74とは液通路140によって接続される。液通路140には、マスタ遮断弁141が設けられ、回生協調制御時等、ブレーキシリンダ74を加圧部108から遮断する必要がある場合に遮断状態に切り換えられるが、異常時等には開状態とされ、加圧部108の作動液がブレーキシリンダ74に供給されることにより、前輪のブレーキが作動させられる。
液通路140には、ストロークシミュレータ142が開閉弁143を介して接続され、マスタ遮断弁141が閉状態にある場合に、運転者によるブレーキペダル92のストロークが殆ど0になることが回避される。開閉弁143は、異常時等に閉状態とされ、加圧部108の作動液が不要にストロークシミュレータ142に供給されることを回避する。
【0016】
液圧制動装置70は、ブレーキECU150の指令に基づいて制御される。ブレーキECU150は、CPU151,ROM152,RAM153,入・出力インタフェイス154等を含むコンピュータを含むものである。ブレーキECU150の入力部には、前述のアキュムレータ圧センサ103、各車輪24,68の車輪速度をそれぞれ検出する車輪速センサ170、加圧部108の液圧を検出するマスタ圧センサ175、ブレーキペダル92が操作状態にあるか否かを検出するブレーキスイッチ176、ブレーキペダル92のストロークを検出するストロークセンサ182、リニアバルブ装置109の調圧部側の液圧Preg を検出する液圧センサ183およびブレーキシリンダ側の液圧Pout1を検出する液圧センサ184、液通路130の遮断弁136よりブレーキシリンダ74側の部分の液圧Pout2を検出する液圧センサ185等が接続されている。出力部には、リニアバルブ装置109のコイル116,ポンプモータ101,各電磁開閉弁126,129,131,133,136,141のコイル等が図示しない駆動回路を介して接続されている。また、ROM152には、図5のフローチャートで表されるリニアバルブ装置制御プログラムや図6のフローチャートで表される所要液圧決定プログラム等の複数のプログラムや、図7のマップで表される制御モード決定テーブル、図8のマップで表される開弁電圧決定テーブル、図9のマップで表される液量補償係数決定テーブル、図10のマップで表される勾配比補正係数決定テーブル等の複数のテーブルが記憶されている。
【0017】
また、前述のモータECU46、ハイブリッドECU60、エンジンECU40も、CPU,ROM,RAM,入・出力インターフェイス等を含むコンピュータを主体とするものである。ハイブリッドECU60の入力部には、蓄電装置44の状態を検出する電源状態検出装置196等が接続されている。電源状態検出装置196は、蓄電装置44の充電状態を検出する充電状態検出部と、蓄電装置44の電圧や温度を検出する異常検出部とを含む。充電状態検出部によって蓄電装置44における充電量が検出されるが、充電量が多いほど充電可能な容量が少ないことがわかる。
前述のハイブリッドECU60と、モータECU46、エンジンECU40、ブレーキECU150との間においては情報の通信が行われる。
【0018】
以上のように構成された車両制動システムにおける作動について説明する。
通常制動時においては回生協調制御が行われる。ブレーキECU150において、液圧センサ183による検出液圧Preg に基づいて運転者が所望する要求総制動トルク(運転者の意図に応じて決まる操作側上限値)Bref が演算により求められる。そして、この要求総制動トルクBref がハイブリッドECU60に供給される。ハイブリットECU60においては、要求総制動トルクBref と、モータECU46から供給された電動モータ16の回転数等を含むモータの作動状態を表す情報や蓄電装置44に蓄電可能な電気エネルギ量である蓄電容量等に基づいて決まる回生制動トルクの上限値である発電側上限値とのうちの小さい方を要求回生制動トルクとしてモータECU46に出力する。
【0019】
モータECU46は、ハイブリッドECU60から供給された要求回生制動トルクの回生制動トルクが得られるように、インバータ42を制御する。電動モータ16の電流は、インバータ42の制御によりそれぞれ制御される。
また、電動モータ16の実際の回転数等の作動状態が図示しないモータ作動状態検出装置によって検出される。モータECU46においては、電動モータ16の作動状態に基づいて実回生制動トルクBm が求められ、その実回生制動トルクBm を表す情報がハイブリッドECU60に供給される。ハイブリッドECU60は、実回生制動トルクBm を表す情報をブレーキECU150に出力する。
【0020】
ブレーキECU150においては、要求総制動トルクBref から実回生制動トルクBm を引いた値(Bref −Bm )に基づいて所要液圧制動トルクBprefが求められ、所要液圧制動トルクBprefに対応する所要液圧Pref が実現されるように、リニアバルブ装置109への供給電流が決定される。
液圧制動装置70においては、マスタ遮断弁141が閉状態にされ、遮断弁136が開状態にされた状態で、リニアバルブ装置109のコイル116への供給電流が制御されることによって、ブレーキシリンダ74,78の液圧が制御される。この制御が回生協調制御である。
【0021】
なお、上述の総要求制動トルクBref が、液圧センサ183による検出液圧Preg に基づいて求められるようにすることは不可欠ではなく、液圧センサ175による検出液圧(マスタ圧)に基づいて求められるようにしたり、ストロークセンサ182による検出ストロークに基づいて求められるようにしたり、検出液圧Preg ,マスタ圧,検出ストロークの2つ以上に基づいて求められるようにしたりすることができる。また、上述の要求回生制動トルクはブレーキECU150において決定されるようにすることもできる。この場合には、発電側上限値が、ハイブリッドECU60からブレーキECU150に供給され、その情報に基づいて要求回生制動トルクがブレーキECU150において決定され、ハイブリッドECU60に供給され、そのまま、モータECU46に供給されることになる。
【0022】
図4は、ブレーキECU150によって実行される液圧制御の概要を示す機能ブロック図である。制御対象としてのリニアバルブ装置109がフィードフォワード制御部300とフィードバック制御部302とにより制御される。また、制御の目標値はブレーキシリンダの所要液圧Pref であり、出力は液圧センサ184による出力液圧Pout1である。出力液圧Pout1がブレーキ液圧と同じであるとされるのであり、以下、ブレーキ液圧Pw と称する。
フィードフォワード制御部300は、所要液圧Pref に基づいてフィードフォワード増圧電流IFSLA およびフィードフォワード減圧電流IFSLR を算出する。また、フィードバック制御部302は、所要液圧Pref から液圧センサ184によって検出されたブレーキ液圧Pw を減じた値である偏差errorを0に近づけるための電流としてのフィードバック増圧電流IBSLA およびフィードバック減圧電流IBSLR を算出する。このように、本実施形態におけるブレーキECU150の制御は、フィードフォワード制御とフィードバック制御とを共に含んでいるのである。
【0023】
以下、フィードフォワード制御部300における処理(供給電流IFSLA ,IFSLR の決定)、フィードバック制御部302における処理(供給電流IBSLA ,IBSLR の決定)について説明するが、本実施形態においては、これら供給電流が決定される際に、ブレーキシリンダ74,78における消費液量とブレーキシリンダの液圧との関係である液圧変化特性が考慮される。
ブレーキシリンダにおける作動液の液量と液圧との間には、図12に示す関係があることが知られている。図12に示すように、液量とブレーキ液圧とは比例関係にあるわけではなく、ブレーキ液圧を単位量だけ変化させるのに必要な作動液量がブレーキ液圧が低い場合は多く、ブレーキ液圧が高い場合は少ないことがわかる。そこで、ブレーキ液圧が低い場合は高い場合よりリニアバルブ装置109への供給電流の補正量を大きくして、ブレーキシリンダにおける作動液の流入流量や流出流量が大きめになるように補正すれば、ブレーキ液圧が低い場合と高い場合とにおけるブレーキ液圧の変化勾配の差を小さくすることができる。
【0024】
所要液圧Pref の変化勾配に対するブレーキ液圧Pw の変化勾配の比率(γ=dPw /dPref )も考慮される。勾配比γが小さい場合は大きい場合よりブレーキ液圧の変化遅れが大きい。そのため、供給電流が、勾配比γが小さい場合は大きい場合より大きくされれば制御遅れを小さくすることができる。また、勾配比γが大きい場合に小さい場合より供給電流が小さくされれば、オーバシュートを抑制することができる。さらに、本実施形態においては、勾配比γが考慮されるのは減圧リニアバルブ111についてだけであり、増圧リニアバルブ110については考慮されない。
【0025】
さらに、所要液圧Pref が、要求総制動トルクBref から実回生制動トルクBm を引いた仮所要液圧制動トルクBprefに基づいて決定されるのであるが、仮所要液圧制動トルクBprefが増加傾向にあるか否か、ブレーキ液圧が増圧制御中であるか否かによって異なる方法で決定される。
【0026】
リニアバルブ装置109の増圧リニアバルブ110,減圧リニアバルブ111各々への供給電流は、図5のフローチャートで表されるリニアバルブ装置制御プログラムの実行に従って決定される。本プログラムは、予め定められた制御サイクルタイム毎に実行される。
ステップ1(以下、S1と略称する。他のステップについても同様とする)において、所要液圧Pref が読み取られ、S2において、ブレーキ液圧Pw が検出され、所要液圧Pref からブレーキ液圧Pw を引いた値が偏差error(Pref −Pw )として求められる。そして、S3において、偏差errorに基づいて制御モードが決定される。後述するように、図7のマップで表される制御モード決定テーブルに従って、増圧モード,減圧モード,保持モードのいずれかに決定されるのである。
【0027】
決定された制御モードが保持モードである場合には、S5において、増圧リニアバルブ110,減圧リニアバルブ111への供給電流が0とされる。
増圧モードである場合には、S6において液量補償係数Kpq1 が決定され、S7において、増圧リニアバルブ110への供給電流ISLA が決定される。この場合には、減圧リニアバルブ112への供給電流ISLR は0である。
減圧モードである場合には、S8において流量補償係数Kpq2 が決定され、S9において勾配比補正係数Khs2 が決定され、S10において減圧リニアバルブ112への供給電流ISLR が決定される。この場合には、増圧リニアバルブ110への供給電流ISLA は0とされる。
【0028】
所要液圧Pref は、図6のフローチャートで表される所要液圧決定プログラムの実行に従って決定される。所要液圧決定プログラムは割り込みにより予め定められた設定時間毎に実行される。
S101において、液圧センサ183による出力信号に基づいて液圧Preg が検出され、S102において、要求総制動トルクBref が演算される。S103において、実回生制動トルクBm が読み込まれ、S104において、仮所要液圧制動トルクBpref(Bref −Bm )が求められ、それに対応する仮所要液圧Pref(n)′が求められる。
そして、S105において前回の制御モードが増圧モードであったか否かが判定される。前回増圧モードであった場合には、S106において、仮所要液圧Pref ′が増加傾向にあるか否かが判定される。本実施形態においては、仮所要液圧の変化量ΔPref(n)′が今回の仮所要液圧Pref(n)′から本プログラムが5回前に実行された場合に検出された仮所要液圧Pref(n-5)′を引いた値として求められる。この変化量ΔPref(n)′が0より大きい場合に仮所要液圧Pref ′が増加傾向にあるとされるのである。
【0029】
前回増圧モードであり、かつ、仮所要液圧Pref ′が増加傾向にある場合には、S105,106の判定がいずれもYESとなり、S107において、本所要液圧Pref(n)が、式
Pref(n)=MAX{Pref(n-1),Pref(n)′,Pref(n-1)′+α}
に従って決定される。本所要液圧Pref(n)が、前回の本所要液圧Pref(n-1),今回の仮所要液圧Pref(n)′,前回の仮所要液圧に変化量αを加えた値{Pref(n-1)′+α}のうちの最大値に決定される。本所要液圧は、たいていの場合には、今回の仮所要液圧Pref(n)′と前回の仮所要液圧に増加量αを加えた値{Pref(n-1)′+α}の大きい方に決まる。仮所要液圧の増加勾配が変化量αに対応する勾配より大きい場合には、今回の仮所要液圧Pref(n)′に決まり、変化量αに対応する勾配より小さい場合には前回に基づく値{Pref(n-1)′+α}に決まるのである。すなわち、本所要液圧Pref(n)の増加勾配が、変化量αに対応する勾配以上とされるのであり、仮所要液圧Pref(n)′の増加勾配以上とされる。運転者によるブレーキ操作力の増加勾配に対応する勾配より大きな勾配で増加させられるのである。
【0030】
増圧モードが設定され、増圧リニアバルブ110を経てブレーキシリンダに作動液が供給される場合には、作動液の流れに起因して増圧リニアバルブ110の上流側の液圧(液圧センサ183による検出液圧Preg )が小さくなる場合がある。そのため、液圧Preg に基づいて本所要液圧が決定されるようにされている場合には、運転者によるブレーキペダル92の操作力に応じて決まる本所要液圧より小さくなる場合がある。本所要液圧が小さめの値に決定され、増圧遅れが生じる場合があるのである。それに対して、本実施形態においては、増圧モードが設定されている場合において、運転者によるブレーキ操作力が増加傾向にある場合には、本所要液圧の増加勾配が大きくされるため増圧遅れを抑制することができる。
【0031】
前回増圧モードでない場合には、S105における判定がNOとなり、S108において仮所要液圧の変化量dPref ′が0より大きいか否かが判定される。
前回増圧モードでない場合であって、仮所要液圧Pref ′が増加傾向にある場合には、S107において、上述の場合と同様に、本所要液圧Pref が、運転者によるブレーキ操作力の増加勾配以上の勾配で増加させられる。
仮所要液圧Pref ′が増加傾向にある場合には、前回の制御モードが減圧モードや保持モードである場合においても、近い将来増圧モードとされる可能性が高い。そのため、本所要液圧Pref を予め大きめの値に決定しておけば、増圧モードにされた場合における増圧遅れを小さくすることができる。
【0032】
仮所要液圧Pref ′が増加傾向にない場合には、前回増圧モードであっても増圧モード以外の制御モードであっても、本所要液圧が、S109において、式
Pref(n)=MED{Pref(n-1)+β,Pref(n)′,Pref(n-1)−γ}
に従って決定される。本所要液圧Pref(n)は、前回の本所要液圧に増加量βを加えた値{Pref(n-1)+β}、今回の仮所要液圧Pref(n)′,前回の本所要液圧に減少量γを加えた値{Pref(n-1)−γ}の中間値に決定される。本所要液圧Pref は、たいていの場合には、仮所要液圧Pref(n)′と前回の本所要液圧から変化量γを引いた値{Pref(n-1)−γ}との大きい方に決まる。本所要液圧Pref が、運転者によるブレーキ操作力の変化勾配以下の勾配(減少傾向にある場合には勾配の絶対値がブレーキ操作力の減少勾配の絶対値より小さい勾配)で変化させられることになるのであり、本所要液圧Pref の変化勾配が抑制され、制御ハンチングが生じることが回避される。
【0033】
従来の液圧制御装置においては、増圧モードが設定された場合には、本所要液圧が大きめに決定されるようにされていた。前述のように、増圧リニアバルブ110を経てブレーキシリンダに作動液が供給されることに起因して液圧センサ183による検出液圧Preg がブレーキペダル92の操作力に対応する値より低くなる場合があり、それにより、本所要液圧が小さめの値に決定され、増圧遅れが生じるおそれがあるからである。しかし、従来の液圧制御装置においては、検出液圧Preg が減少傾向にある場合にも増圧モードが設定された場合には本所要液圧が大きめの値にされるため、本所要液圧,ブレーキ液圧が図16に示すように変化させられることになり、制御ハンチングが生じる場合があった。
それに対して、本実施形態においては、増圧モードが設定されても、検出液圧Preg に基づいて決まる仮所要液圧Pref ′が減少傾向にある場合には本所要液圧が大きめの値に決定されることはないため、本所要液圧,ブレーキ液圧が図15に示すように変化させられることになり、制御ハンチングが生じることを回避することができる。以下、本所要液圧を所要液圧と称し、仮所要液圧と区別する必要がある場合にのみ、本所要液圧と称することとする。
【0034】
制御モードは、図7のマップで表されるテーブルに従って決定される(S3)。偏差error(所要液圧Pref −実際のブレーキシリンダ液圧Pw )が増圧しきい値DPLA より大きい場合(▲1▼の場合)、増圧側保持しきい値D0aより大きいが、減少中である場合(▲2▼の場合)には増圧モードが設定され、偏差errorが減圧しきい値DPLR より小さい場合(▲3▼の場合)、減圧側保持しきい値D0rより小さく、増加中である場合(▲4▼の場合)には減圧モードが設定される。換言すれば、偏差errorの絶対値が減圧しきい値DPLR の絶対値より大きい場合(▲3▼の場合)、偏差errorの絶対値が減圧側保持しきい値D0rより大きく、減少中である場合(▲4▼の場合)には減圧モードが設定されるのである。また、それ以外の場合には保持モードが設定される。
本実施形態においては増圧側,減圧側保持しきい値D0a,D0rは0とされる。図7の増圧しきい値DPLA と増圧側保持しきい値D0aとの差KHP1, 減圧しきい値DPLR と減圧側保持しきい値D0rとの差KHP2 がそれぞれ増圧しきい値DPLA ,減圧しきい値DPLR と同じ値にされているのである。
【0035】
増圧モードが設定された場合において、偏差errorが増圧側保持しきい値D0 より大きが、減少中である場合(▲2▼の場合)には、増圧リニアバルブ110に供給される電流が漸減させられる。増圧モードから保持モードに切り換えられる場合において、電流が制御値から0まで急激に減少させられると、弁子114が弁座115に着座させられる際の当接速度が大きくなる等の問題がある。それに対して、電流を漸減させれば当接速度を減速することができる。同様に、減圧モードが設定された場合において、偏差errorが減圧側保持しきい値D0rより小さく、増加中である場合(▲4▼の場合)においても、減圧リニアバルブ111に供給される電流が漸減させられる。
【0036】
なお、図7中の増圧しきい値DPLA と増圧側保持しきい値D0aとの差KHP1 ,減圧しきい値DPLR と減圧側保持しきい値D0rとの差KHP2 の大きさを、それぞれ、増圧,減圧しきい値DPLA,DPUR と同じ値にすることは不可欠ではなく、異なる値に設定することもできる。その場合には、増圧側,減圧側保持しきい値D0a,D0rは0以外の値になる。また、差KHP1, 差KHP2 をリニアバルブ装置109の制御中に変更することも可能である。さらに、制御モードが増圧モード,減圧モード,保持モードのいずれかに決定されるようにされるようにすることも不可欠ではなく、増圧モードと減圧モードとのいずれか一方に決定されるようにすることもできる。例えば、偏差errorが0より大きい場合は増圧モードとされ、0以下の場合は減圧モードとされるようにするのである。また、偏差errorだけでなく、所要液圧の変化勾配dPref も考慮して制御モードが決定されるようにすることもできる。
【0037】
次に、増圧リニアバルブ110への供給電流の決定について説明する(S6,7)。
フィードフォワード制御部300においては、増圧リニアバルブ110への供給電流IFSLA が、式
IFSLA =(Kpq1 ・KFF1 ・dPref +Vadj-ap)×0.6
に従って決定され、フィードバック制御部302においては、供給電流IBSLA が、式
IBSLA =Kpq1 ×(KP1・PB+KI1・SPB +KD1・dPB )×0.6
に従って決定される。
そして、増圧リニアバルブ110への供給電流ISLA は、式
ISLA =MED(0,IFSLA +IBSLA ,ISLAmax)・・・(1)
に従って決定される。(1) 式に示すように、供給電流ISLA は、最大値ISLAmaxにより大きくならないようにされている。最大値ISLAmaxは、増圧リニアバルブ110を加熱保護する必要が生じた場合には通常の場合より小さくされる。例えば、増圧リニアバルブ110のソレノイドの温度が高くなった場合には小さくされるのであり、それによって、ソレノイドの過熱が防止される。
【0038】
まず、フィードフォワード制御部300において供給電流IFSLA が決定される場合について説明する。フィードフォワード制御部300における供給電流IFSLA の物理的な意味は、増圧中において、液圧差ΔP(Pw −Preg )の値が徐々に小さくなり、増圧リニアバルブ110の弁子114を弁座115から離間させようとする力が小さくなっても、フィードフォワード制御によって、増圧リニアバルブ110を開いた状態にし、増圧を続行できる電流にすることである。つまり、液圧差ΔPが比較的大きい場合には、フィードフォワード増圧電流IFSLA の値は比較的小さくてよいのであるが、ブレーキシリンダの液圧の増加に伴って液圧差ΔPが小さくなった場合には、増圧リニアバルブ110が開いた状態にするために、より大きな電流を供給する必要がある。フィードフォワード増圧電流IFSLA は、増圧リニアバルブ110を開状態にするために必要な開弁電圧と実際のブレーキ液圧を所要液圧に近づけるために必要な電圧との和の電圧に対応する電流なのである。
【0039】
ここで、電圧Vadj-apは、図8(a)のマップで表される開弁電圧決定テーブルに従って決定される開弁電圧であり、係数Kpq1 が前述の液量補償係数であり、図9のマップで表される流量補償係数決定テーブルに従って決定される値である。また、係数KFF1 は、増圧リニアバルブ110の構造等に起因して決まる係数であり、0.6は、電圧を電流に換算するための値である。
開弁電圧Vadj-apは、その時点の増圧リニアバルブ110の前後の液圧差ΔPに基づいて決まる。前述のように、増圧リニアバルブ110は、差圧作用力F3 と電磁駆動力F2 との和とスプリングの弾性力F1 (ほぼ一定の値とみなすことができる)との大小によって開閉させられるからである。開弁電圧Vadj-apは、液圧差ΔPの増加に伴って減少する値であり、開弁電圧Vadj-apに対応する電流がコイル116に供給された場合は、差圧作用力と電磁駆動力との和とスプリング117の弾性力とが釣り合う状態にある。また、増圧リニアバルブ110において、液圧差ΔPを実現するのに必要な電圧であると考えることもできる。
【0040】
この開弁電圧決定テーブルは学習によって変更される。増圧リニアバルブ110のスプリング117の個々のセット荷重のばらつき等に起因して開弁電圧と液圧差ΔPとの関係(開弁電圧決定テーブル)は増圧リニアバルブ毎で異なる。また、これらの関係は、スプリング117の経時的な変化によっても変わる。そこで、本実施形態においては、これらの関係が学習によって変更されるのである。
学習の一例について図13,14に基づいて説明する。開弁電圧決定テーブルが、開弁電圧が実際の値より低い状態で作成された場合には応答が遅くなり、開弁電圧が高い状態で作成された場合には応答が速くなる。図13に示すように、保持モードから増圧モードへ切り換えられ、増圧リニアバルブ110に電流の供給が開始された場合には、時間Tup遅れてブレーキシリンダ液圧が増加させられるのであるが、その増圧遅れ時間Tupが設定時間Ta より長い場合(Tup>Ta )に応答が遅過ぎるとされ、設定時間Tb より短い場合(Tup<Tb )に応答が速過ぎるとされ、増圧遅れ時間Tupが設定時間Ta と設定時間Tb との間にある場合(Tb <Tup<Ta )には適正であるとされるのである。
【0041】
適正である場合にはテーブルは補正されないが、応答が速過ぎるとされた場合には図14のNewマップ1に変更され、応答が遅過ぎるとされた場合にはNewマップ2に変更される。Newマップ1は現在のマップを開弁電圧が低くなる方向に予め定められた値だけ平行移動して作成されたものであり、Newマップ2は、増圧時間Tup経過時(ブレーキ液圧の増加が開始された時)の増圧リニアバルブ110の前後の液圧差ΔP(ΔPup)と供給電流量Iup(前述の(1) 式に従って決定された電流)とに基づいて変更される。このように変更されるようにすれば、開弁電圧決定テーブルをスプリング117の実際のセット荷重に応じた関係に修正することができる。
【0042】
なお、マップの変更が頻繁に行われることは望ましくないため、応答が遅過ぎるとされた回数、応答が速過ぎるとされた回数がそれぞれ設定回数以上になった場合に変更されるようにすることができる。また、例えば、遅過ぎるとされた回数を−1としてカウントし、速過ぎるとされた回数を+1としてカウントし、カウント値が予め定められた正または負の設定回数を越えた場合に、変更されるようにすることもできる。さらに、これら回数は、予め定められた設定時間の間の回数とすることができる。また、応答が速過ぎたか否かは、ハンチングが生じたか否かに基づいて判定することができる。例えば、増圧リニアバルブ110への供給電流が0以上から0に変化した回数が予め定められた設定時間内に設定回数以上あった場合にハンチングが生じたとするのである。
【0043】
さらに、マップを変更する場合には、平行移動することによって作成することは不可欠ではなく、Newマップ3のように勾配が異なるマップとすることもできる。Newマップ3においては、液圧差ΔPが小さい場合(ΔP<α)、大きい場合(ΔP>β)の場合には、平行移動したマップから大きく隔たった値となる。また、Newマップ2のように、ブレーキ液圧の増圧が開始された時点の供給電流に基づいてマップを変更すると、開弁電圧が高めになることが多い。その場合には、複数の学習結果に基づいて(供給電流と液圧差との複数の組)変更することが望ましい。さらに、マップを変更する際にはガードを設け、急激な変更が抑制されるようにすることが望ましい。
【0044】
また、マップの学習は、保持モードから増圧モードに切り換わった場合に常に行われるようにしても、保持モードから増圧モードに切り換わった場合の予め定められた許可条件が満たされた場合に許可されるようにすることができる。具体的には、当該車両制動システムが正常である場合、リニアバルブ装置109が正常である場合、液圧センサ183,185等のチェックが終了した場合等の条件が満たされた場合に許可されるようにする。このように、学習許可条件が満たされた場合に学習が許可されるようにすれば、誤った学習が行われることを回避することができる。
【0045】
上述の流量補償係数Kpq1 は、図9のマップで表される流量補償係数決定テーブルに従って決定される。係数Kpq1 は、図9に示すように、ブレーキ液圧が高い場合は低い場合より小さくなる値である。図12に示すように、ブレーキ液圧が低い場合は高い場合より、ブレーキ液圧の変化量を同じにするためにブレーキシリンダにおいて消費される液量は大きい。そのため、液量補償係数Kpq1 がブレーキ液圧が低い場合に大きい値とされて、供給電流の補正量を大きくすれば、ブレーキ液圧が低い場合と高い場合とにおける、ブレーキ液圧の変化勾配の差を小さくすることができる。
【0046】
液量補償係数Kpq1 によって補正されるのは、所要液圧の変化量dPref に基づいて決まる供給電流分である。この電流に対応する電圧は、図11に示すように、所要液圧の変化量dPref に係数KFF1 を掛けることによって決定されるのであるが、本実施形態においては、さらに、流量補償係数Kpq1 が掛けられる。なお、供給電流を決定する際に、所要液圧の変化量dPref は0より小さい値にならないように制限が加えられている。また、増圧リニアバルブ110を開閉させるのに必要な開弁電圧に対応する電流分についてはブレーキシリンダにおける液圧変化特性を考慮する必要がないため、開閉電圧に対応する電流分については、液量補償係数Kpq1 が考慮されないのである。
ここで、図9に示すように、増圧リニアバルブ用のテーブルと減圧リニアバルブ用のテーブルとが異なるのは、ブレーキシリンダ液圧と消費液量との関係(液圧変化特性)が厳密にいうとブレーキシリンダに作動液が流入させられる場合と流出させられる場合とで異なるからである。
【0047】
なお、増圧リニアバルブ用のテーブルと減圧リニアバルブ用のテーブルとを異ならせることは不可欠ではなく、これらを同じにすることもできる。また、開弁電圧に対応する電流に流量補償係数を考慮することを排除するわけではない。
【0048】
次に、フィードバック制御部302においてIBSLA が決定される場合について説明する。上述の式において、KP1,KI1,KD1は係数である。また、PBが偏差errorであり、SPBは偏差の積分に関連する値で、DPBが偏差の微分に関連する値である。
偏差の積分に関連する値SPBは、偏差PBの和であるが、所要液圧の変化勾配が設定勾配以上である場合、増圧モードが終了した場合、減圧モードが終了した場合のいずれか1つの条件が満たされた場合に0にリセットされる。変化勾配が大きい場合は、SPBの増大に伴う供給電流の増加分が大きくなり、望ましくないからである。
偏差の微分に関連する値DPBは、偏差の過去複数回の微分に基づいて、式
DPB =C1・DPB1(n) +C2・DPB1(n-1) +C3・DPB1(n-2) +D2・DPB(n-1)+D3・DPB(n-2)
に従って決定される。ここで、DPB1 は偏差errorの今回値から前回値を引いた値であり、式
DPB1 (n) =PB(n) −PB(n-1)
に従って求められる。
【0049】
以上のようにフィードフォワード制御部300,フィードバック制御部302の各々において供給電流が決定され、これらに基づいて増圧リニアバルブ110への供給電流が決定されるのであるが、▲1▼の条件が成立することによって増圧モードが設定された場合には、前述の(1) 式に従って決定され、▲2▼の条件が成立することによって増圧モードが設定された場合には、前回の供給電流ISLA に0.5を掛けた値
ISLA(n)=ISLA(n-1)・0.5
に決定されるのである。
【0050】
減圧モードが選択された場合には、S8〜10において減圧リニアバルブ111への供給電流ISLR が決定される。
フィードフォワード制御部300においては、減圧リニアバルブ111への供給電流IFSLR が、式
IFSLR ={Kpq2 ・KFF2 ・( −dPref)+Vadj-re}×0.6
に従って決定され、
フィードバック制御部302においては、減圧リニアバルブ111への供給電流IBSLR が式
IBSLR =Kpq2 ×{KP2・(-PB) +KI2・(-SPB)+KD2・(-DPB)}×0.6
に従って決定される。
そして、減圧リニアバルブ111への供給電流ISLR は、式
ISLR =MED(0.6,Khs2 ×IFSLR +IBSLR ,ISLRmax)・・(2)
に従って決定される。
【0051】
ここで、係数Kpq2 が前述の液量補償係数であり、係数KFF2 は減圧リニアバルブ110の構造等に起因して決まる係数であり、電圧Vadj-reは、図7(b)のマップによって表される開弁電圧決定テーブルに従って決定される開弁電圧である。この開弁電圧決定テーブルの変更は、保持モードから減圧モードに切り換わった場合における学習に基づいて前述の場合と同様に行われる。
減圧リニアバルブ111への供給電流は増圧リニアバルブ110への供給電流とほぼ同様に決定されるのであるが、減圧リニアバルブ111においては前後の液圧差ΔPはブレーキシリンダ側の液圧と減圧用リザーバ112側の液圧との液圧差になるが、減圧用リザーバ112側の液圧はほぼ大気圧にあるため、これらの液圧差はブレーキシリンダ側の液圧と同じであると考えることができる。
【0052】
ここでは、増圧リニアバルブ110への供給電流決定の際には考慮されなかった勾配比補正係数Khs2 について説明する。勾配比補正係数Khs2 は図10のマップで表される勾配比補正係数決定テーブルに従って決定される。勾配比補正係数Khs2 は、所要液圧の変化勾配dPref に対するブレーキ液圧の変化勾配dPw の比率(勾配比γ)が小さい場合は大きい場合より大きい値にされる。勾配比γが小さい場合には減圧遅れが生じていると考えられるため、供給電流が大きくされて減圧遅れの抑制が図られ、勾配比γが大きい場合は電流が抑制され、減圧し過ぎが回避される。
また、勾配比補正係数Khs2 は、所要液圧の減少勾配が設定勾配より急である場合は図10のマップに従って決定された値が使用されるが、所要液圧の減少勾配が設定勾配より緩やかである場合には前回の値が使用される。所要液圧の減少勾配が急でない場合には、勾配比補正係数Khs2 の変化が抑制されて(一定の値にされて)、供給電流の変化が抑制される。所要液圧の減少勾配が緩やかな場合は、減圧し過ぎることはないからである。
【0053】
勾配比補正係数Khs2 は、予め定められた開始条件が満たされてから終了条件が満たされるまでの間、図10のマップで表されるテーブルに従って決定されるが、それ以外の場合には1とされる。開始条件が、減圧モードが設定され、しかも、所要液圧の減少勾配や実際のブレーキ液圧の減少勾配が設定勾配より急である場合等に満たされる。減圧し過ぎが起きる可能性がある場合(ハンチングが生じる可能性が高い場合)等に開始条件が満たされるのである。
開始条件は、具体的には、
回生協調制御中であること
制御モードが減圧モードであること
開弁電圧Vadj-reが学習中でないこと
ブレーキ液圧が設定値以上であること
所要液圧が減少中であること(変化勾配が負の設定勾配以下であること)
ブレーキ液圧が減少中であること(変化勾配が負の設定勾配以下であること)
ブレーキ液圧の変化勾配が所要液圧の変化勾配より小さい状態が設定状態以上継続していること
のすべてが満たされた場合に、満たされたとすることができる。
また、終了条件は、例えば、
回生協調制御中でないこと
制御モードが減圧モード以外であること
電圧Vadjre が学習中であること
ブレーキ液圧が設定値以下であること
ブレーキ液圧の変化勾配が所要液圧の変化勾配より大きい状態が設定状態以上継続していること
の少なくとも1つが満たされた場合に、満たされたとすることができる。
【0054】
勾配比補正係数Khs2 によって補正されるのは、フィードフォワード制御部300によって決定された供給電流IFSLR であり、フィードバック制御部302によって決定された供給電流IBSLR は補正されない。前述のように、オーバシュートを抑制するためには、フィードフォワード制御部300によって決定された供給電流IFSLR を補正した方が有効だからである。
なお、開始条件や終了条件を設定することは不可欠ではなく、減圧リニアバルブ111の制御には、常に勾配比補正係数が考慮されるようにすることもできる。また、フィードフォワード項でなく、フィードバック項を補正したり、両方を補正したりすることもできる。
【0055】
以上のように、フィードフォワード制御部300,フィードバック制御部302の各々において供給電流が決定されるのであるが、▲3▼の条件が成立することによって減圧モードが選択された場合には、減圧リニアバルブ111への供給電流ISLR は、(2) 式に従って決定され、▲4▼の条件が成立することによって減圧モードが設定された場合には、上述の前回の供給電流ISLR に0.5を乗じた値に決定される。
【0056】
このように決定された供給電流が増圧リニアバルブ110,減圧リニアバルブ111に供給されれば、増圧リニアバルブ110,減圧リニアバルブ111における開度を、ブレーキシリンダ74,78における消費液量と液圧との関係(液圧変化特性)を考慮した大きさに制御することができ、ブレーキ液圧が低い場合と高い場合とで、液圧勾配の差を小さくすることができる。ブレーキ液圧の制御遅れを制御したり、オーバシュートを抑制したりすることができるのである。また、リニアバルブ装置109への供給電流が液圧変化特性に基づく係数で補正されるため、液圧変化特性に基づく供給電流を容易に決定することができる。
【0057】
以上のように、本実施形態においては、ブレーキECU150のS6,7,8,9,10を記憶する部分,実行する部分等によって制御補正部が構成される。そのうちの、S6,7,8,10を記憶する部分,実行する部分等によって第1の制御補正部が構成され、S9,10を記憶する部分,実行する部分等によって第2の制御補正部が構成される。また、S106,107,108を記憶する部分,実行する部分等によって第1目標値決定部が構成され、S106,108,109を記憶する部分,実行する部分等によって第2目標値決定部が構成される。
【0058】
なお、上記実施形態においては、勾配比補正係数Khs2 によって減圧リニアバルブ111への供給電流が補正され、増圧リニアバルブ110への供給電流が補正されることがなかったが、増圧リニアバルブ110への供給電流も補正されるようにすることもできる。また、逆に、減圧リニアバルブ111への供給電流の決定の際には考慮されないで増圧リニアバルブ110への供給電流の決定の際にのみ考慮されるようにすることもできる。
さらに、フィードバック制御部302においては、PID制御が行われることは不可欠ではなく、P制御,PI制御,PD制御等が行われてもよい。
また、図9,10のテーブルは一例であり上記実施形態におけるそれに限らない。例えば、流量補償係数の値,勾配比補正係数の値は他の値とすることができる。また、流量補償係数の特性,勾配比補正係数の特性等も、ブレーキ液圧,勾配比の増加に伴って曲線的に変化させられる特性とすることも可能である。
【0059】
さらに、本発明は、回生協調制御に限らず、例えば、ブレーキ液圧を運転者の意図する要求ブレーキ力に対応する制動力が得られるように制御する制動効果制御等に適用することも可能である。回生制動装置を含まない車両制動システムに適用することもできるのである。この場合には、例えば、要求総制動トルクに対応するブレーキ液圧を所要液圧とすることができる。
また、車両制動システムに含まれる液圧制動装置70は、上記実施形態におけるそれに限らない。例えば、各ブレーキシリンダ毎に増圧リニアバルブ,減圧リニアバルブが設けられた構造のものとすることもできる。
さらに、液通路130,125のブレーキシリンダ近傍にブレーキ液圧センサを設け、ブレーキ液圧センサによる検出値をブレーキ液圧Pw とすることもできる。
また、ブレーキペダル92に加えられる操作力を検出する操作力センサを設け、要求総制動トルクBref が操作力センサによる検出値に基づいて決定されるようにすることもできる。
【0060】
さらに、本所要液圧Pref を算出する場合の所要液圧決定プログラムは、上記実施形態における場合のそれに限らない。例えば、S106を設けることは不可欠ではない。その場合には、増圧制御中または仮所要液圧が増加傾向にある場合には、S107において、本所要液圧が大きめの値に決定されることになり、増圧遅れを良好に抑制することができる。
また、図17のフローチャートで表されるプログラムとすることもできる。
本プログラムと、上記実施形態におけるプログラムとでは、S105,106の実行の順番が逆にされており、仮所要液圧が増加傾向にあって、かつ、増圧制御中である場合にのみにS207において本所要液圧が決定されることになる。すなわち、仮所要液圧が減少傾向にある場合または増圧制御中でない場合には、S208において本所要液圧の変化勾配が抑制されるため、制御ハンチングが生じることを良好に回避することができる。なお、S207においては、本所要液圧が、前回の本所要液圧と前回の仮所要液圧に変化量αを加えた値との大きい方に決定される。
その他、本発明は、前記〔発明が解決しようとする課題,課題解決手段および効果〕の項について記載した態様の他、当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を施した態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態であるブレーキ液圧制御装置を含む車両制動システムが搭載された車両全体の概略図である。
【図2】上記車両制動システムの液圧制動装置の回路図である。
【図3】上記液圧制動装置に含まれるリニアバルブ装置の断面図である。
【図4】上記車両制動システムのブレーキECUにおける制御の概要を概念的に示すブロック図である。
【図5】上記ブレーキECUのROMに格納されたリニアバルブ装置制御プログラムを表すフローチャートである。
【図6】上記ブレーキECUのROMに格納された所要液圧決定プログラムを表すフローチャートである。
【図7】上記ブレーキECUのROMに格納された制御モード決定テーブルを表すマップである。
【図8】上記ブレーキECUのROMに格納された開弁電圧決定テーブルを表すマップである。
【図9】上記ブレーキECUのROMに格納された流量補償係数決定テーブルを表すマップである。
【図10】上記ブレーキECUのROMに格納された勾配比補正係数決定テーブルを表すマップである。
【図11】上記ブレーキECUのフィードフォワード制御部において決定された供給電流を概念的に表す図である。
【図12】上記液圧制動装置におけるブレーキシリンダ液圧と消費液量との関係を示す図である。
【図13】上記リニアバルブ装置への供給電流に対するブレーキ液圧の変化状態を示す図である。
【図14】上記ブレーキECUにおいて開弁電圧決定テーブルが変更された場合の一例を示す図である。
【図15】上記ブレーキECUにおけるリニアバルブの制御において、所要液圧の変化に対するリニアバルブへの供給電流の制御の状態の一例を示す図である。
【図16】従来のブレーキECUにおけるリニアバルブの制御において、所要液圧の変化に対するリニアバルブへの供給電流の制御の状態の一例を示す図である。
【図17】本発明の別の一実施形態であるブレーキ液圧制御装置のROMに格納された所要液圧決定プログラムを表すフローチャートである。
【符号の説明】
16 電動モータ
20 回生制動装置
42 インバータ
46 モータECU
70 液圧制動装置
72 液圧制御アクチュエータ
109 リニアバルブ装置
150 ブレーキECU

Claims (9)

  1. 作動液の液圧により作動させられるブレーキのブレーキシリンダと、
    そのブレーキシリンダにおける作動液の流入流量と流出流量との少なくとも一方を制御可能な電磁制御弁であって、その電磁制御弁の前後の差圧に応じた差圧作用力とソレノイドへの供給電流量に応じた電磁駆動力との和が、その電磁制御弁が閉状態となるように付勢するスプリングの弾性力より大きくなると開状態となる少なくとも1つの電磁制御弁を含む電磁制御弁装置と
    その電磁制御弁装置に含まれる少なくとも1つの電磁制御弁である第1電磁制御弁のソレノイドへの供給電流を制御することによって前記ブレーキシリンダの液圧を制御する制御弁制御装置と
    を含むブレーキ液圧制御装置であって、
    前記制御弁制御装置が、前記ブレーキシリンダの実際の液圧あるいはその実際の液圧に対応する物理量である実液圧関連量が、所要ブレーキ力に基づいて決まる制御目標液圧あるいはその制御目標液圧に対応する物理量である目標液圧関連量に近づくように、前記ソレノイドへの供給電流量を、前記第1電磁制御弁を閉状態から開状態に移行させるための開弁電流量と、前記目標液圧関連量の変化勾配に応じた大きさである目標液圧関連量対応電流量とを含む量として決定する供給電流量決定部を備えた目標液圧対応制御値決定部を含むとともに、その目標液圧対応制御値決定部が、前記ブレーキシリンダにおける作動液の液量の変化量と液圧の変化量との関係である液圧変化特性であって、前記ブレーキシリンダ液圧が低い場合は高い場合より液量の変化量に対する液圧の変化量が小さい関係に基づいて、前記ブレーキシリンダの実際の液圧が設定液圧以下である場合に設定液圧より高い場合より大きい係数を前記目標液圧関連量対応電流量に掛けることにより、前記供給電流量を補正する制御補正部を含むことを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
  2. 前記供給電流量決定部が、前記供給電流量を予め定められた制御サイクルタイム毎に決定するとともに、前記開弁電流量を、その制御サイクルタイム毎に、前記第1電磁制御弁の前後の差圧を検出し、その差圧が大きい場合は小さい場合より小さい値に決定する手段を含む請求項1に記載のブレーキ液圧制御装置。
  3. 前記制御補正部が、前記係数を、前記ブレーキシリンダの実際の液圧に基づいて決定する係数決定部を含む請求項1または2に記載のブレーキ液圧制御装置。
  4. 前記制御補正部が、前記ブレーキシリンダから作動液が流出する場合と前記ブレーキシリンダに作動液が流入する場合とで、前記係数を異なる大きさにする請求項1ないし3のいずれか1つに記載のブレーキ液圧制御装置。
  5. 前記目標液圧対応制御値決定部が、前記供給電流量を、予め定められた制御サイクルタイム毎に決定するとともに、さらに、その制御サイクルタイム毎に、前記目標液圧関連量の変化量に対する前記実液圧関連量の変化量の比を検出し、その比が設定値より小さい場合に、前記供給電流量を、前記第1電磁制御弁あるいは別の電磁制御弁の流入流量と流出流量との少なくとも一方が大きくなるように補正し、その比が前記設定値以上である場合に前記流入流量と流出流量との少なくとも一方が小さくなるように補正する前記制御補正部とは別の制御補正部を含む請求項1ないし4のいずれか1つに記載のブレーキ液圧制御装置。
  6. 前記目標液圧対応制御値決定部が、前記係数とその係数とは別の係数とを用いた式により前記供給電流量を決定するものであり、前記の制御補正部が、前記別の係数を、前記比が小さい場合に大きい場合より大きい値に決定する係数決定部を含む請求項に記載のブレーキ液圧制御装置。
  7. 前記別の制御補正部が、前記目標液圧関連量から前記実液圧関連量を引いた値である偏差が負の設定値以下である場合に、前記供給電流量の前記比の値に基づく補正を行い、前記偏差が正の設定値以上である場合には、前記供給電流量の前記比の値に基づく補正を行わないものである請求項5または6に記載のブレーキ液圧制御装置。
  8. 前記別の制御補正部が、前記実液圧関連量の減少勾配が第1の設定勾配以下であることと前記目標液圧関連量の減少勾配が第2の設定勾配以下であることとの少なくとも一方が満たされた場合に、前記供給電流量の前記比の値に基づく補正を行うものである請求項5または6に記載のブレーキ液圧制御装置。
  9. 前記制御弁制御装置が、前記所要ブレーキ力が増加傾向にある場合に、前記目標液圧関連量の増加量を前記所要ブレーキ力に対応する量の増加量より大きくする第1目標値決定手段と、前記所要ブレーキ力が増加傾向にない場合に、前記目標液圧関連量の変化量を前記所要ブレーキ力に対応する量の変化量より小さくする第2目標値決定手段とを含む請求項1ないしのいずれか1つに記載のブレーキ液圧制御装置。
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