JP3924397B2

JP3924397B2 - 電子銃電極用Ｆｅ−Ｃｒ−Ｎｉ系合金素材

Info

Publication number: JP3924397B2
Application number: JP19028099A
Authority: JP
Inventors: 俊之小野
Original assignee: Nippon Mining and Metals Co Ltd
Current assignee: Nippon Mining Holdings Inc
Priority date: 1999-07-05
Filing date: 1999-07-05
Publication date: 2007-06-06
Anticipated expiration: 2019-07-05
Also published as: US6391254B1; MY120184A; CN1279300A; CN1114712C; KR20010015139A; KR100365712B1; TW573019B; JP2001020043A

Description

【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は、非磁性が要求される電子銃電極用合金に係り、特に、絞り加工のためのプレス性を向上させたＦｅ−Ｃｒ−Ｎｉ系電子銃電極用合金に関する。
【０００２】
【従来の技術】
一般に、カラ−ブラウン管などに用いられる電子銃の電極は、板厚０．０５ｍｍから０．５ｍｍ程度の非磁性ステンレス鋼であるＦｅ−Ｃｒ−Ｎｉ系合金素材を、プレス加工により所定形状に絞り加工することによって製造される。この絞り性を向上させるため、特にバ−リング成形（丸い穴を開けて穴の周縁を筒のように突き出させる加工）を容易にするために、圧延加工率や焼鈍条件を検討した技術（特願平６−２５７２５３）が提案されている。また、プレス生産性を上げるために使用されるようになってきた脱脂しやすい低粘度油を使用したプレス成形において、表面粗さにおける中心線平均粗さと最大粗さを規定することによってプレス加工性を向上させる技術（特願平８−２０５４５３）や、バ−リング加工においては、穴をプレス打ち抜きした時のバリの残存がバ−リング割れに関係することを見い出し、打ち抜き性を確保するためにＳをある程度含有させたうえで微量成分を制御することで絞り性を向上させる技術（特願平９−２８３０３９）が提案されている。
【０００３】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、近年のコンピュ−タ−用ブラウン管における高精細化と高輝度化の進展によって、電子銃のフォ−カス特性への要求も厳しくなってきている。このため、電極レンズ径を大きくかつ高精度に加工できる材料であることは勿論のこと、プレス加工速度の向上へも対応できることが要求されるようになってきており、従来の材料では、絞り面において割れが発生するために充分に満足できるものではなかった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、近年より一層厳しくなった絞り性、特に絞り後の表面品質に優れた電子銃電極用合金素材を提供することを目的としている。
【０００４】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、かかる課題に対処すべく材料表面の状態について鋭意研究を行った結果、材料の表面粗さの突起部の尖りの程度で絞り性が変わることを見出した。具体的には、突起部の先端が尖っており、かつ突起と突起との間が深く急峻な場合に絞り性が悪く、絞り面の表面割れが起きやすいことを見出した。特に、谷が深く急峻でその底に介在物等の異物が存在すれば確実に割れが発生すると推定された。そして、本発明者は、表面粗さの突起部の尖りの程度をクルトシスＫｒで表し、これと絞り性との関係を定量的に解析することで本発明を完成するに至った。ここで、クルトシスＫｒは下記数３で表される。
【０００５】
【数３】
Ｋｒ＝Σ（ｙ_ｉ／Ｒ_ｑ）^４／Ｎ
ｙ_ｉ：粗さ曲線
Ｒ_ｑ：二乗平均平方根粗さ
Ｎ：デ−タ数
【０００６】
すなわち、本発明のＦｅ−Ｃｒ−Ｎｉ系電子銃電極用合金素材は、重量％で、Ｃｒ：１５〜２０％、Ｎｉ：９〜１５％、Ｃ：０．１２％以下、Ｓｉ：０．００５〜１．０％、Ｍｎ：０．００５〜２．５％、Ｐ：０．０３％以下、Ｓ：０．０００３〜０．０１００％、Ｍｏ：２．０％以下、Ａｌ：０．００１〜０．２％、Ｏ：０．００３％以下、Ｎ：０．１％以下、Ｔｉ：０．１％以下、Ｎｂ：０．１％以下、Ｖ：０．１％以下、Ｚｒ：０．１％以下、Ｃａ：０．０５％以下、Ｍｇ：０．０２％以下、残部Ｆｅおよび不可避的不純物からなるＦｅ−Ｃｒ−Ｎｉ系合金素材であって、素材表面の粗さにおける圧延平行方向と圧延直角方向のクルトシスをそれぞれＫｒ_０，Ｋｒ_９０としたときに下記式を満足する表面粗さを有することを特徴としている。
【数４】
Ｋｒ_０≦４，Ｋｒ_９０≦４
【０００７】
以下、本発明の電子銃電極用Ｆｅ−Ｃｒ−Ｎｉ系合金素材における表面粗さと合金成分の限定理由を本発明の作用とともに説明する。なお、以下の説明において「％」は重量％を示すものとする。
Ｋｒ_０，Ｋｒ_９０：上記したクルトシスの範囲は、本発明者の定量的解析によって見出されたものである。本発明者の検討によれば、Ｋｒ_０およびＫｒ_９０が４より大きいと、表面粗さのプロフィールで非常に尖った高い突起部や深い谷部が多くなり、その結果、絞り面に割れが発生することが判明している。よって、Ｋｒ_０およびＫｒ_９０は４以下とした。
【０００８】
Ｃｒ：電子銃電極としては非磁性が要求される。通常、非磁性であるためには透磁率が１．００５以下であることが要求され、これを満たすためにＣｒの含有量を１５〜２０％とした。なお、より好ましい範囲は１５〜１７％である。
Ｎｉ：Ｎｉの含有量が９％より少ないと磁性が高くなりすぎ、１５％を超えると原料コストが割高となる。よってＮｉの含有量は９〜１５％とした。
Ｃ：Ｃの含有量が０．１２％を超えると炭化物の生成が著しく絞り性が劣化するので、Ｃ含有量は０．１２％以下とした。
【０００９】
Ｓｉ：Ｓｉは脱酸の目的で添加されるが、０．００５％未満では脱酸の効果がなく、１．０％を超えると加工性が劣化する．よって、Ｓｉの含有量は０．００５〜１．０％とした。
Ｍｎ：Ｍｎは脱酸の目的と、ＭｎＳを析出させる目的で添加されるが、０．００５％未満ではその効果がなく、２．５％を超えると材料硬さが上昇し絞り性が劣化する。よって、Ｍｎの含有量は０．００５〜２．５％とした。
Ｐ：Ｐの含有量が０．０３％を超えると絞り性を著しく劣化させる。よって、Ｐの含有量は０．０３％以下とした。
【００１０】
Ｓ：Ｓは適量含有するとＭｎとＭｎＳを形成し、穴をプレス打ち抜きする際のバリの発生を抑え、バ−リング加工時のバ−リング割れの発生を抑えることにつながる。しかしながら、Ｓの含有量が０．０００３％未満ではその効果が得られず、０．０１００％を超えると粗大なＭｎＳが生成し、逆に絞り性が劣化する。よって、Ｓの含有量は０．０００３〜０．０１００％とした。
Ｍｏ：Ｍｏは耐食性を向上させるので、耐食性が強く要求される場合には添加することが望ましい。ただし、２．０％を超えると絞り性が劣化するので、Ｍｏの含有量は２．０％以下とした。
Ａｌ：Ａｌは脱酸材として添加されるが、その含有量が０．００１％未満では脱酸効果が十分でなく、０．２％を超えると加工性が劣化する．よって、Ａｌの含有量は０．００１〜０．２％とした。
【００１１】
Ｏ：Ｏの含有量が多いと酸化物系介在物が多くなり絞り性が劣化する。よって、Ｏ含有量は０．００３％以下とした。
Ｎ：Ｎの含有量が０．１％を超えると加工性が劣化する。よって、Ｎの含有量は０．１％以下とした。
Ｔｉ：Ｔｉは炭化物、硫化物、酸化物、窒化物を形成して絞り性を劣化させる。よって、Ｔｉの含有量は０．１％以下とした。より好ましい範囲は０．０２％以下である。
Ｎｂ：Ｎｂは炭化物、硫化物、酸化物、窒化物を形成して絞り性を劣化させる。よって、Ｎｂの含有量は０．１％以下とした。より好ましい範囲は０．０２％以下である。
Ｖ：Ｖは炭化物、酸化物、窒化物を形成して絞り性を劣化させる。よって、Ｖの含有量は０．１％以下とした．より好ましい範囲は０．０２％以下である。
Ｚｒ：Ｚｒは酸化物を形成して絞り性を劣化させる．よって、Ｚｒ含有量は０．１％以下とした．より好ましい範囲は０．０２％以下である。
Ｃａ：Ｃａは硫化物、酸化物を形成して絞り性を劣化させる．よって、Ｃａ含有量は０．０５％以下とした．より好ましい範囲は０．０１％以下である。
Ｍｇ：Ｍｇは酸化物を形成して絞り性を劣化させる。よって、Ｍｇ含有量は０．０２％以下とした。より好ましい範囲は０．００５％以下である．
【００１２】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
本発明者は、さらに、素材表面の水平断面形状において圧延平行方向と圧延直角方向とで異方性が大きいと絞り性が劣化することを見出した。具体的には、本発明者は、素材表面の凹凸の斜面の傾斜の標準偏差を示す水平断面形状の二乗平方根傾斜に着目し、凹凸の水平断面形状の圧延平行方向と圧延直角方向との異方性を、二乗平均平方根傾斜Δｑの圧延平行方向と圧延直角方向との比で表し、この比と絞り性との関係を検討した。その結果、圧延直角方向の二乗平均平方根傾斜を圧延平行方向の二乗平均平方根傾斜で割った値が大きい場合には、絞り加工を行った場合の両方向の潤滑性に大きな差を生じ、そのために絞り性が劣化することを見出した。ここで、二乗平均平方根傾斜Δｑは下記数５で表される。
【数５】
Δｑ＝｛Σ（Δｙ／Δｘ）^２／Ｎ｝^１／２
Δｙ：水平方向微小距離Δｘに対する垂直方向の増分
【００１３】
本発明者の検討によれば、素材表面の粗さにおける圧延平行方向と圧延直角方向の二乗平均平方根傾斜をΔｑ_０，Δｑ_９０としたときに、Δｑ_９０／Δｑ_０が４より大きいと、圧延平行方向と圧延直角方向の潤滑性に大きな差を生じて絞り性が劣化することが判明している。よって、Δｑ_９０／Δｑ_０は４以下であることが望ましい。
なお、ＪＩＳＧ０５５５に規定されている清浄度が０．０３％を超えると絞り性、特に深絞り性及びバ−リング加工性が劣化するので、清浄度は０．０３％以下であることが望ましい。
【００１４】
上記のようなクルトシスおよび水平断面形状の二乗平方根傾斜を得るためには、素材を所望の板厚まで最終圧延した後に、各種の粗さを有する研磨剤やＳｉＣ等を含有させた羽布で素材の表面を機械的に研磨すると良い。あるいは、最終圧延で使用するダルロールの表面粗さを適宜設定することによっても、クルトシスや水平断面形状の二乗平方根傾斜を制御することができる。
【００１５】
【実施例】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明する。表１に示す組成の合金成分をそれぞれ溶解してインゴットに鋳造し、ついで、分塊圧延、皮剥き、熱間圧延およびスケ−ル除去を施した後に、冷間圧延と焼鈍を繰り返し、板厚０．４ｍｍの焼鈍材を製造した。なお、鋳造は連続鋳造でスラブにしても良く、分塊圧延の代わりに鍛造を行っても良い。また、表１において含有量が本発明の範囲を逸脱する化学成分の値には下線を付してある。
【００１６】
この焼鈍材の表面を各種の粗さを有する研磨剤およびＳｉＣを含有させた羽布で機械的に表面を研磨した。また、焼鈍前の最終圧延を粗さの異なるダルロ−ルを用いて圧延し、表面粗さの異なる素材を製造した。研磨剤の粗さとダルロールの表面の中心線平均粗さを表２に併記した。次いで、各焼鈍材に対して深絞り試験を行い、それらの限界絞り比を測定した。なお、プレス時の潤滑材として水溶性ワックスを用いた。また、絞り比を１．３３として平板ポンチを用いて絞り、加工品に割れが生じているかどうかの評価を行った。表２に表面粗さの測定結果とプレス性の評価結果を示す。
【００１７】
【表１】

【００１８】
【表２】

【００１９】
表２から明らかなように、本発明例のＮｏ．１〜Ｎｏ．５は、比較例のＮｏ．６〜Ｎｏ．１２と比較していずれも限界絞り比が大きく、優れた絞り性を示している。そのうち、Ｎｏ．５は、本発明の請求項１（Ｋｒのみの規定）を満足しているが、請求項２（ＫｒとΔｑ９０／Δｑ０との規定）を満足していないため、限界絞り比が若干低くなっている。これに対して、Ｎｏ．６およびＮｏ．７では、化学成分は本発明の範囲内であるが、Ｋｒ_０，Ｋｒ_９０の一方または両方が４を超えているために絞り面に微細な割れが認められた。また、Ｎｏ．８〜Ｎｏ．１１では、化学成分が本発明の範囲を逸脱しているためにいずれも限界絞り比が小さく、Ｋｒが４を超えるＮｏ．１１では絞り面に割れが認められた。さらに、Ｎｏ．１２では、化学成分が本発明の範囲を逸脱し、さらにＪＩＳＧ０５５５に規定されている清浄度が０．０３％を超えているため、絞り部の割れの発生頻度が多くなった。
【００２０】
【発明の効果】
以上説明したように本発明のＦｅ−Ｃｒ−Ｎｉ系合金素材では、素材表面の粗さにおける圧延平行方向と圧延直角方向のクルトシスを４以下としているので、絞り性を著しく向上させ厳しいプレス条件で加工されても割れが発生し難いという効果を奏する。したがって、電子銃電極用として最適な合金素材を得ることができる。

Claims

重量％で、Ｃｒ：１５〜２０％、Ｎｉ：９〜１５％、Ｃ：０．１２％以下、Ｓｉ：０．００５〜１．０％、Ｍｎ：０．００５〜２．５％、Ｐ：０．０３％以下、Ｓ：０．０００３〜０．０１００％、Ｍｏ：２．０％以下、Ａｌ：０．００１〜０．２％、Ｏ：０．００３％以下、Ｎ：０．１％以下、Ｔｉ：０．１％以下、Ｎｂ：０．１％以下、Ｖ：０．１％以下、Ｚｒ：０．１％以下、Ｃａ：０．０５％以下、Ｍｇ：０．０２％以下、残部：Ｆｅおよび不可避的不純物からなるＦｅ−Ｃｒ−Ｎｉ系合金素材であって、素材表面の粗さにおける圧延平行方向と圧延直角方向のクルトシスをそれぞれＫｒ_０，Ｋｒ_９０としたときに、下記式を満足する表面粗さを有することを特徴とする電子銃電極用Ｆｅ−Ｃｒ−Ｎｉ系合金素材。
素材表面の粗さにおける圧延平行方向と圧延直角方向の二乗平均平方根傾斜をそれぞれΔｑ_０，Δｑ_９０としたときに、下記式を満足することを特徴とする請求項１に記載の電子銃電極用Ｆｅ−Ｃｒ−Ｎｉ系合金素材。
ＪＩＳＧ０５５５に規定されている清浄度が０．０３％以下であることを特徴とする請求項１または２に記載の電子銃電極用Ｆｅ−Ｃｒ−Ｎｉ系合金素材。