JP3921603B2 - エレベータ駆動用ベルト - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、エレベータ駆動用ベルトに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、人や物をかご状の容器に乗せて建物の階層間を縦方向に運搬するエレベータが使用されている。
【0003】
図8に示すように、このエレベータは人や荷物を乗せるかご31(ケージ)とつり合いおもり32(カウンターウェイト)がワイヤ製のエレベータロープ33でつながっており、このエレベータロープ33を昇降路の頂部の巻き上げ機34(モータ)のシーブプーリ35に巻き掛けてつるべ式に動作させる。
【0004】
ところで、前記かご31やつり合いおもり32の軽量化ができれば、エレベータ全体のコストを低減することができ、建築物への負担も軽減することができるものと期待される。
【0005】
しかし、かご31やつり合いおもり32を軽量化するとこの重量減によってシーブとエレベータロープ33との間の摩擦力が減少し、巻き上げ機からの駆動力がエレベータロープ33に有効に伝達できず制御不良となり、人や荷物を乗せるかご31が安全に駆動できなくなるという問題があった。すなわち、エレベータの軽量化はなかなか困難である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこでこの発明は、エレベータの軽量化に寄与することができるエレベータ関連商品を提供しようとするものである。
【0007】
前記課題を解決するためこの発明では次のような技術的手段を講じている。
(1)この発明のエレベータ駆動用ベルトは、エレベータのかごとつり合いおもりとをつなぐエレベータロープに摩擦力を及ぼして駆動するようにし、且つエレベータの運転時のせん断歪みによるクリープ滑りを制御するようにゴム硬度が約50〜90度に設定され、芯体材料を埋設していることを特徴とする。
【0008】
このエレベータ駆動用ベルトは、エレベータのかごとつり合いおもりとをつなぐエレベータロープに摩擦力を及ぼして駆動するようにしたので、かごやつり合いおもりの軽量化による重量減に起因してエレベータロープへ及ぼされる摩擦力が減少したとしても、このエレベータ駆動用ベルトからエレベータロープへ及ぼす摩擦力によりエレベータの駆動力を担保することができる。
【0009】
またエレベータの運転時のせん断歪みによるクリープ滑りを抑制するようにゴム硬度を設定したので、運転中の安定性を担保することができる。前記運転には、駆動している態様や停止している態様などがある。
【0010】
さらにベルトのゴム硬度を約50〜90度に設定したので、内側から油が滲出して滑りやすいエレベータロープとの間のグリップ力が十分となる摩擦係数を担保しつつ(ゴム硬度をできるだけ低く設定した方が好ましい)、エレベータの停止時のせん断歪みによるクリープ滑りを抑制することができ(ゴム硬度をできるだけ高く設定した方が好ましい)、これらの相反する重要な特性を両立させることができる。
【0011】
ここで、ベルトのゴムの材質としてニトリルゴム、クロロプレンゴム、ポリブタジエンゴム、EPDM、H−NBR、ミラブルウレタン、またこれらの2種以上を複合したものなどを例示することができる。
【0012】
また、前記ベルトのゴムにはアラミド繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、ガラス繊維、スチール繊維などから成るコードや、これらの1種又は2種以上を無端状に織り上げた無端の芯体材料を埋設することができる。
【0013】
さらに、ゴムの弾性材料にはアラミド繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、ガラス繊維、綿繊維から成る短繊維の1種か2種以上を配合して補強することもできる。
(2)表面層に短繊維が配合されたこととしてもよい。
【0014】
このようにエレベータロープに摩擦力を及ぼす表面層に短繊維を配合すると、耐磨耗性やグリップ力を向上させることができ、せん断歪みを抑制することができる。ここで、前記短繊維の材質としてアラミド繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、ガラス繊維、綿繊維から成る1種か2種以上を例示することができる。
(3)エレベータのかごとつり合いおもりとをつなぐエレベータロープに摩擦力を及ぼして駆動するようにし、且つエレベータの運転時のせん断歪みによるクリープ滑りを制御するようにゴム硬度が約50〜90度に設定された表面層と、表面層の内方側に表面層と同等かそれ以上のゴム硬度に設定された中間層とを有する多層構造とし、芯体材料を埋設していることを特徴とするエレベータ駆動用ベルトとすることもできる。
【0015】
このようにベルトのゴム材料を多層構造とし、その中間層を形成する弾性材料が、表面層のゴム材料と同等かそれ以上の硬度からなるゴムとすると、せん断歪みによるクリープ歪みをより抑制することができる。
【0016】
積層するゴム材料として、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ポリブタジエンゴム、EPDM、H−NBR、ミラブルウレタン、またこれらの2種以上を複合したものを例示することができる。
(4)1層又は2層以上の織布又は/及び編布が埋設されたこととしてもよい。
【0017】
ゴムの弾性材料の内層に、アラミド繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、ガラス繊維、綿繊維などから成る織布や編布の1種か2種以上を埋設して補強すると、せん断歪みをより抑制することができる。
(5)表面層にエレベータロープの形状に対応した溝部が形成されると共に、前記溝部に沿って細溝条が形成されたこととしてもよい。
【0018】
このように、エレベータロープに摩擦力を及ぼすゴム材料の表面層に、エレベータロープの形状や本数(複数本でもよい)に対応させたR状溝やV字状溝などの溝部を形成すると、エレベータロープと接触する表面積を増やしてグリップ力をより高めることができる。そして、エレベータロープに摩擦力を及ぼすゴム材料の表面層の溝部に沿って、縦溝や横溝、斜溝などの細溝条を形成すると、所謂くさび効果によりグリップ力を高めることができ、またこの細溝条によりエレベータロープの表面に付着した油を逃がしてグリップ力を維持することができる。(6)表面層はアラミド繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、ガラス繊維、綿繊維から成る織布又は/及び編布の1種か2種以上で被覆されたこととしてもよい。
【0019】
このように構成し、ゴムや接着剤が含浸され或いはコーティングされた織布や編布を表面のゴム層に形成すると、耐摩耗性やグリップ力を向上させることができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0021】
図1乃至図7に示すように、このエレベータは人や荷物を乗せるかご1(ケージ)とつり合いおもり2(カウンターウェイト)がスチール・ワイヤ製のエレベータロープ3でつながっており、このエレベータロープ3を昇降路の頂部のシーブプーリ4に巻き掛けてつるべ式に動作させる。
【0022】
そして、対向する一対のエレベータ駆動用ベルト5により、エレベータロープ3を挟み込んで摩擦力を付与するようにしている。すなわち、片方のエレベータ駆動用ベルト5は巻き上げ機6(モータ)の出力軸と同軸の駆動プーリ7と従動プーリ8との間に巻き掛けられ、他方のエレベータ駆動用ベルト5は2つの従動プーリ8の間に巻き掛けられており、これら一対のエレベータ駆動用ベルト5によりエレベータロープ3を挟圧して摩擦力を付与するようにしている。
【0023】
このエレベータ駆動用ベルト5は、エレベータのかご1とつり合いおもり2とをつなぐエレベータロープ3に摩擦力を及ぼして駆動し、且つエレベータの停止時のせん断歪みによるクリープ滑りを抑制するようにゴム硬度が設定されたものとしている。
【0024】
図2に示すように、表面層11には、エレベータロープ3の形状に対応した3本のR状(半円状)の溝部12を形成している。前記ベルトのゴムには、溶剤処理した高強度の芯体材料たる無端状のシームレス・アラミドコード13と、3層のポリアミド織布14を埋設している。よって高弾性で高強度のベルトとなっている。更に、耐摩耗性や耐クラック性などの耐久性を有する。
【0025】
前記ゴム硬度は、約50〜90度に設定している。すなわち表面層11はクロロプレンゴムで硬度63度に設定し、その内方側の中間層15はクロロプレンゴムで硬度80度に設定した多層構造とした。
【0026】
次に、この実施形態のエレベータ駆動用ベルトの使用状態を説明する。
【0027】
このエレベータ駆動用ベルト5は一対の油圧装置17によりエレベータロープ3に向けて押圧され、エレベータ駆動用ベルト5とエレベータロープ3の相互間に摩擦力が付与されている。また、一対の油圧装置17による押圧力を調整することにより、エレベータ駆動用ベルト5からエレベータロープ3への摩擦力を調整している。
【0028】
したがって、かご1やつり合いおもり2の軽量化による重量減に起因してエレベータロープ3へ及ぼされる摩擦力が減少したとしても、このエレベータ駆動用ベルト5からエレベータロープ3へ及ぼす摩擦力によりエレベータの駆動力を担保することができ、エレベータを支えるロープ3やガイドレール16も軽量化することができ、エレベータ全体のコストを低減することができ、エレベータの軽量化に寄与することができるという利点がある。建築物への負担も軽減することができる。また、エレベータの停止時のせん断歪みによるクリープ滑りを抑制するようにゴム硬度が設定されたので、停止時の安定性を担保することができる。
【0029】
ゴム硬度を約50〜90度に設定したので、内側から油が滲出して滑りやすいエレベータロープ3との間のグリップ力が十分となる摩擦係数を担保しつつ(ゴム硬度をできるだけ低く設定した方が好ましい)、エレベータの停止時のせん断歪みによるクリープ滑りを抑制することができ(ゴム硬度をできるだけ高く設定した方が好ましい)、これらの相反する重要な特性を両立させることができるという利点がある。
【0030】
そのうえベルトのゴム材料を多層構造とし、その中間層15を形成する弾性材料が、表面層11のゴム材料と同等かそれ以上の硬度からなるゴムとしたので、せん断歪みによるクリープ歪みをより抑制することができるという利点がある。ゴムの弾性材料の内層にポリアミド織布を埋設して補強したので、せん断歪みがより抑制されている。
【0031】
エレベータロープ3に摩擦力を及ぼすゴム材料の表面層11に、エレベータロープ3の形状や本数(3本)に対応する溝部12を形成したので、エレベータロープ3と接触する表面積を増やしてグリップ力をより高めることができる。
【0032】
【実施例】
次に、この発明の構成をより具体的に説明する。
【0033】
図3に示すように、エレベータロープ3が周囲に固着され且つ回転不能に固定された406Φのシーブプーリ4と他のプーリ18との間にエレベータ駆動用ベルト5を巻き掛けると共に、前記エレベータ駆動用ベルト5にアンバランス荷重WをボルトB留めして荷重した。
【0034】
そして、ベルト5軸荷重Fを300kgfとし、何kgfまでのアンバランス荷重Wに耐えられるかを測定した。具体的には、アンバランス荷重Wを増加させていって、シーブプーリ4に固着されたエレベータロープ3に対してエレベータ駆動用ベルト5が滑り始める荷重を記録した。
【0035】
滑り始める荷重の値が大きいほどベルトのゴム層における歪みが小さく、表面層11のゴムとロープ類の滑りが小さいと評価できる。
[1] 図4に示すように、R状の溝部12を有するエレベータ駆動用ベルト5を用い、表面層11と中間層15のゴム硬度を以下のように変えて試験を行った。
(実施例1)
表面層11はクロロプレンゴムで硬度63度に設定し、その内方側の中間層15もクロロプレンゴムで硬度63度に設定した。その結果、荷重は104kgfであった。
(実施例2)
表面層11はクロロプレンゴムで硬度63度に設定し、その内方側の中間層15はクロロプレンゴムで硬度80度に設定した。その結果、荷重は120kgfであった。
(実施例3)
表面層11はクロロプレンゴムで硬度80度に設定し、その内方側の中間層15もクロロプレンゴムで硬度80度に設定した。その結果、荷重は98kgfであった。
(実施例4)
表面層11はクロロプレンゴムで硬度80度に設定し、その内方側の中間層15はクロロプレンゴムで硬度63度に設定した。その結果、荷重は80kgfであった。
(実施例5)
表面層11はクロロプレンゴムで硬度72度に設定し、その内方側の中間層15もクロロプレンゴムで硬度72度に設定した。その結果、荷重は98kgfであった。
(実施例6)
表面層11はクロロプレンゴムで硬度68度に設定し、その内方側の中間層15もクロロプレンゴムで硬度68度に設定した。その結果、荷重は101kgfであった。
【0036】
[2] エレベータロープ3が嵌まり込む溝部12の形状を、以下のように変えて試験を行った。なお上記実施例2のように、表面層11はクロロプレンゴムで硬度63度に設定し、その内方側の中間層15はクロロプレンゴムで硬度80度に設定した。
(実施例2)
図4に示すように、ゴム材料の表面層11にR状の溝部12を有するが、前記溝部12に沿った細溝条19は形成していない。その結果、上記の通り荷重は120kgfであった。なおこの実施例2は、前記[1] の実施例2と同じものである。
(実施例7)
図5に示すように、ゴム材料の表面層11の溝部12に沿って、縦溝1条の細溝条19を形成している。その結果、荷重は133kgfであった。
(実施例8)
図6に示すように、ゴム材料の表面層11の溝部12に沿って、縦溝2条の細溝条19を形成している。その結果、荷重は188kgfであった。
(実施例9)
図7に示すように、ゴム材料の表面層11の溝部12に沿って、縦溝3条の細溝条19を形成している。その結果、荷重は171kgfであった。
【0037】
実施例7〜9のように縦溝の細溝条19を形成すると、所謂くさび効果によりグリップ力を高めることができ、またこの細溝条19によりエレベータロープ3の表面に付着した油を逃がすことができるという利点がある。
[3] 図4に示すように、R状の溝部12を有するエレベータ駆動用ベルト5を用い、表面層11と中間層15のゴム硬度を以下のように変えて試験を行った。また表面層11には、短繊維を配合した。
(実施例10)
表面層11はクロロプレンゴムで硬度70度に設定し、その内方側の中間層15はクロロプレンゴムで硬度80度に設定した。表面層11には、短繊維として綿繊維を配合した。その結果、荷重は150kgfであった。
(実施例11)
表面層11はクロロプレンゴムで硬度80度に設定し、その内方側の中間層15もクロロプレンゴムで硬度80度に設定した。表面層11には、短繊維としてアラミド繊維を配合した。その結果、荷重は300kgfであった。
【0038】
実施例10,11のように、エレベータロープに摩擦力を及ぼす表面層11に短繊維を配合すると、グリップ力や耐磨耗性を向上させることができるという利点がある。
【0039】
【発明の効果】
この発明は上述のような構成であり、次の効果を有する。
【0040】
かごやつり合いおもりを軽量化してもベルトからの押圧力により駆動力を担保することができるので、エレベータの軽量化に寄与することができるエレベータ関連商品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明のエレベータ駆動用ベルトの実施形態の説明図。
【図2】図1のエレベータ駆動用ベルトの要部拡大断面斜視図。
【図3】エレベータ駆動用ベルトの試験方法の説明図。
【図4】実施例1〜6のエレベータ駆動用ベルトの要部拡大断面斜視図。
【図5】実施例7のエレベータ駆動用ベルトの要部拡大断面斜視図。
【図6】実施例8のエレベータ駆動用ベルトの要部拡大断面斜視図。
【図7】実施例9のエレベータ駆動用ベルトの要部拡大断面斜視図。
【図8】従来のエレベータの説明図。
【符号の説明】
1 かご
2 おもり
3 エレベータロープ
5 エレベータ駆動用ベルト
11表面層
12溝部
15中間層
19 細溝条
Claims (6)
- エレベータのかごとつり合いおもりとをつなぐエレベータロープに摩擦力を及ぼして駆動するようにし、且つエレベータの運転時のせん断歪みによるクリープ滑りを制御するようにゴム硬度が約50〜90度に設定され、芯体材料を埋設していることを特徴とするエレベータ駆動用ベルト。
- エレベータのかごとつり合いおもりとをつなぐエレベータロープに摩擦力を及ぼして駆動するようにし、且つエレベータの運転時のせん断歪みによるクリープ滑りを制御するようにゴム硬度が約50〜90度に設定された表面層と、表面層の内方側に表面層と同等かそれ以上のゴム硬度に設定された中間層とを有する多層構造とし、芯体材料を埋設していることを特徴とするエレベータ駆動用ベルト。
- 表面層に短繊維が配合された請求項1又は2記載のエレベータ駆動用ベルト。
- 1層又は2層以上の織布又は/及び編布が埋設された請求項1乃至3のいずれかに記載のエレベータ駆動用ベルト。
- 表面層にエレベータロープの形状に対応した溝部が形成されると共に、前記溝部に沿って細溝条が形成された請求項1乃至4のいずれに記載のエレベータ駆動用ベルト。
- 表面層はアラミド繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、ガラス繊維、綿繊維から成る織布又は/及び編布の1種か2種以上で被覆された請求項1乃至5のいずれかに記載のエレベータ駆動用ベルト。
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