JP3918236B2 - 部分拡散合金化鋼粉の製造方法 - Google Patents

部分拡散合金化鋼粉の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、Cuを含有する合金鋼粉の製造方法に係わり、特に、Cuの偏析が少なく、圧縮性が高い、Cuを部分拡散合金化させた合金化鋼粉の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
粉末冶金法によって得られる焼結部品は、材料歩留に優れ、加工費が安価であるため、複雑な形状の部品を低コストで得られる利点がある。
従来、焼結部品は、純鉄粉を主原料にCuやNi、Moなどの金属粉と黒鉛を混合し、成形、焼結して製造していた。
【0003】
しかし、この方法では、純鉄粉、金属粉および黒鉛それぞれの形状、粒度、比重が異なるため、混合後の、輸送、ホッパへの装入、ホッパからの払い出し、成形処理などの際に、純鉄粉、金属粉および黒鉛それぞれが分離し、成分偏析が発生し、焼結部品の強度や寸法が不均一となる問題があった。
これに対して、Cuを部分拡散合金化させた偏析の少ない部分合金化鋼粉の製造方法に関するものとして、仕上げ還元を行っていない粉末冶金用鉄粉に対し、金属含有率で10〜50重量%となるように、平均粒径が5μm 以下、かつ、比表面積が10m2/g 以上である酸化銅を混合し、還元性雰囲気下、 700℃〜 950℃の温度で加熱還元することにより、金属銅を鉄粉表面に拡散付着させることを特徴とする粉末冶金用鉄基銅複合粉末の製造方法が開示されている(特開平 8-92604号公報)。
【0004】
この方法によれば、脱炭、還元並びに部分合金化を同時に行うが、酸化銅の粒径が小さく、昇温時の低温領域で酸化銅が還元され銅粉となり、鉄粉粒子内へ銅の拡散が進行しすぎて、圧縮性が低下するという問題があり、さらには、必要となる酸化銅のコストが高いという問題がある。
また、特開平1-290702号公報には、水アトマイズしたままの鉄系粉末に、金属Cu粉と酸化鉄粉とを混合し、還元性雰囲気中で加熱し、鉄系粉末表面に還元されたFeとCuを拡散付着する技術が開示されている。
【0005】
この方法は、脱炭、還元ならびに部分合金化を同時に行うので低コストであるが、還元鉄粉が気孔を有し、形状が不規則であるため見掛け密度が低く、圧縮性が劣る欠点があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記した従来技術の問題点を解決し、Cuの偏析が少なく、圧縮性が高い、Cuを部分拡散合金化させた合金化鋼粉を経済的に製造する方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、Cuを部分拡散合金化せしめる際の合金鋼粉の圧縮性の低下を抑制し、さらにCuの偏析が少ないCuの部分拡散合金化鋼粉の製造方法について鋭意検討した結果、本発明に至った。
本発明は、O:0.3 〜0.9wt %、C:0.3wt %未満を含有する水アトマイズしたままの鉄系粉末に、平均粒径が20〜100 μm のCuの金属粉を混合し、得られた混合物を、昇温速度を20〜 150℃/分、熱処理温度を 820〜1000℃とする還元性雰囲気下の熱処理で、前記鉄系粉末の表面にCuを部分拡散合金化せしめることを特徴とする部分拡散合金化鋼粉の製造方法である。
【0008】
前記本発明においては、前記水アトマイズしたままの鉄系粉末の平均粒径が50〜100 μm であることが好ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明においては、原料の鉄系粉末として、Oを0.3 〜0.9wt %、Cを0.3wt %未満含有する水アトマイズしたままの鉄系粉末に、平均粒径が20〜100 μm のCuの金属粉を混合し、得られた混合物を還元性雰囲気下、熱処理でCuを部分拡散合金化する。
【0010】
本発明において原料として用いる水アトマイズしたままの鉄系粉末粒子の表面は、未還元のため、FeO あるいはFe2O3 などの酸化物で覆われている。このため、還元性雰囲気下での仕上還元は、鉄系粉末粒子のCu粉と接触していない粒子表面から優先的に進み、Cu粉と鉄系粉末粒子との接触面は最後に還元されると考えられる。
【0011】
したがってこの場合、Cuの鉄系粉末粒子中への拡散は最小限に抑えられ、この結果、Cuの固溶硬化による部分合金化鋼粉の圧縮性の低下を抑制することができる。
さらに、本発明によれば、Cu粉の粒子径を大きくすることにより、鉄系粉末粒子に接するCu粉の接触点の数を減らせるので、Cuの固溶硬化量が少なくなり、得られる合金鋼粉の圧縮性の低下が抑制可能となる。
【0012】
本発明によれば、以上述べた作用により、アトマイズ鉄粉を還元した場合と同等の良好な圧縮性を有するCuの部分拡散合金化鋼粉を1回の熱処理で得ることができる。
本発明において用いる水アトマイズしたままの鉄系粉末としては、Oを 0.3〜 0.9wt%、Cを 0.3wt%未満含有する鉄系粉末を用いる。
【0013】
Oの含有量が 0.3wt%未満の場合、熱処理時にCuの鉄系粉末粒子中への拡散が過剰に進行し、Cuの固溶硬化によって、得られる合金鋼粉の圧縮性が低下し、逆に 0.9wt%超えの場合は、仕上げ還元速度が遅く実用的でない。
Cの含有量が 0.3wt%以上の場合は、仕上還元後に得られる合金鋼粉の圧縮性が低くなる。
【0014】
さらに、上記鉄系粉末としては、Oを 0.3〜 0.9wt%、Cを 0.3wt%未満含有し、不可避的不純物の含有量がSi: 0.2wt%以下、Mn: 0.2wt%以下、P:0.01wt%以下、S:0.01wt%以下である鉄粉が好ましい。
また、鉄系粉末の平均粒径は50〜100 μm とするのが好ましい。
鉄系粉末の平均粒径が50μm 未満では、水アトマイズ法ではアトマイズコストが高く実用的でなく、逆に100 μm を超えると、合金鋼粉から製造される焼結体の強度が低下するので好ましくない。
【0015】
金属Cu粉の添加量は、混合物中の重量%で 0.5〜 15wt %とするのが好ましい。金属Cu粉の添加量が0.5wt %未満では、Cu添加による焼結体の強度向上の効果がなく、逆に15wt%を超えると圧縮性が低下するので好ましくない。
金属Cu粉の平均粒径は20〜100 μm とする。
金属Cu粉の平均粒径が20μm 未満の場合には、仕上還元の熱処理中に、鉄系粉末粒子中へのCuの拡散量が増加し、圧縮性が低下する。一方、金属Cu粉の平均粒径が100 μm を超えると、仕上還元の熱処理でのCu粉の鉄系粉末粒子への拡散付着が不十分となり、仕上還元後の輸送、ホッパへの装入、ホッパからの払出し、成形処理等の際にCuの成分偏析が発生する。このため、金属Cu粉の平均粒径を20〜100 μm の範囲に限定した。
【0016】
なお、前記した平均粒径は、レーザ回折型マイクロトラック粒度分布計で測定した50%粒径で定義される。
前記した鉄粉などの鉄系粉末に合金成分であるCuを部分拡散合金化させる時の熱処理としては、還元性雰囲気下で、好ましくはH2を含むガス中で、 820〜1000℃の温度条件下で行う。
【0017】
還元時の熱処理温度が 820℃未満の場合、鉄系粉末の脱炭、還元が進まず、圧縮性が低下し、逆に1000℃を超えると合金成分であるCuが鉄系粉末粒子中に拡散しすぎて圧粉密度が低下するので好ましくない。
熱処理時の昇温速度は、20〜 150℃/分とする。
昇温速度が20℃/分未満の場合、合金化鋼粉の特性は影響されないが、生産性が低下し、経済的にも好ましくない。一方、逆に 150℃/分を超えると脱炭が完全には進行せず、圧縮性が低下し好ましくない。
【0018】
部分拡散合金化鋼粉のC、Oの含有量は、C:0.01wt%以下、O:0.15wt%以下であることが好ましい。これは、部分拡散合金化鋼粉のC、Oの含有量がこれらの範囲を外れると、圧縮性が低下するためである。
また、実際に使用する場合、本発明鋼粉と市販のアトマイズ純鉄粉や還元鉄粉と混合して用いても何ら問題はない。
【0019】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。
(実施例1)
表1に示す3種類の未還元の水アトマイズしたままの鉄粉(以下水アトマイズ鉄粉とも記す)に、表1に示す種々の粒径の金属Cu粉2wt%を添加、混合し、得られた混合粉を熱処理炉中で昇温速度50℃/分で昇温し、H2 雰囲気中、 880℃の条件下、1hr、部分合金化熱処理を行った。得られた熱処理後の混合粉を解砕、分級し、合金鋼粉(本発明例、試験No.1〜No.4および比較例、試験No.5)を得た。
【0020】
また、表1に示す未還元の水アトマイズしたままの鉄粉を、金属Cu粉無添加で上記と同様の条件下で熱処理し、熱処理後の混合粉を解砕、分級し、鋼粉(比較例、試験No.6)を得た。
一方、表1に示す未還元の水アトマイズしたままの鉄粉を、H2 雰囲気中、 950℃の条件下、1hr、脱炭、還元し、さらに得られた鉄粉に、Cu2O粉を、Cu換算で2wt%添加、混合した後、熱処理温度を 850℃とした以外は前記した本発明例1と同一の脱炭、還元条件で部分合金化熱処理を行った(従来例:2回還元法、試験No.7)。
【0021】
次に、上記した条件で製造した合金鋼粉および鋼粉について圧縮性を測定、評価し、また合金鋼粉および鋼粉のC、Oの分析を行った。
得られた結果を表1に示す。
なお、圧縮性の測定、評価は、合金鋼粉または鋼粉にステアリン酸亜鉛を1wt%混合した後、7t/cm2 の成形圧で直径が11mm、高さが10mmの成形体を作製し、その密度を求めることにより行った。
【0022】
本発明例の試験No.1〜No.4は、水アトマイズのまま鉄粉を還元した場合(比較例、試験No.6)とほぼ同等の圧縮性を有していることが分かる。また、本発明例の試験No.1〜No.4と比較例の試験No.6とを比較すると、金属Cu粉の粒径が20μm 未満では圧縮性が低下することがわかる。
また、本発明によれば、水アトマイズのまま鉄粉を還元した後、Cu2O粉を添加、混合し、得られた混合粉を還元性雰囲気下で熱処理する方法、すなわち、従来の2回還元法、による鋼粉より、優れた圧縮性を有する鋼粉が得られることが分かった。
【0023】
【表1】
Figure 0003918236
【0024】
(実施例2)
実施例1の試験No.4と同じ、平均粒径65μm 、O量0.65wt%、C量0.21wt%の水アトマイズのままの鉄粉に、平均粒径45μm のアトマイズ銅粉を2wt%添加混合して、昇温速度、還元時の熱処理温度を表2に示す各種条件に設定し熱処理を行い、得られた合金鋼粉の圧縮性を実施例1と同様の方法で測定、評価し、また合金鋼粉のC、Oの分析を行った。
【0025】
得られた結果を、熱処理条件と併せて表2に示す。
表2に示されるように、本発明例の試験No.8〜No.12 は、比較例の試験No.13 〜No.15 に比較して、高圧縮性の部分拡散合金化鋼粉となっていることが分かる。熱処理時の最高温度が820 ℃未満の場合(試験No.13 )、1000℃を超えた場合(試験No.14 )、昇温速度が150 ℃/分を超えた場合(試験No.15 )は、いずれの場合も合金鋼粉の圧縮性が低下している。
【0026】
【表2】
Figure 0003918236
【0027】
(実施例3)
表3に示す平均粒径が75μm の未還元の水アトマイズしたままの鉄粉に、平均粒径が35、60、80、100 μm の電解銅粉を各2wt%添加、混合し、得られた混合粉を熱処理炉中で昇温速度80℃/分で昇温し、H2 雰囲気中、熱処理温度が880 ℃の条件下、1hr、部分合金化熱処理を行い、熱処理後の混合粉を解砕、分級し、合金鋼粉(本発明例、試験No.16 〜No.19 )を各1ton 製造した。
【0028】
また、比較例として、平均粒径が150 μm の電解銅粉を使用した以外は上記本発明例と同様の方法で合金鋼粉(比較例、試験No.20 )を1ton 製造した。
さらに、比較例として、Cu粉無添加とした以外は上記本発明例と同様の方法で鋼粉を製造し、得られた鋼粉に平均粒径が30μm の電解銅粉を単純混合し1ton の鋼粉(比較例、試験No.21 )を製造した。
【0029】
得られた合金鋼粉および鋼粉を、各々別個に、チューブ式搬送機(型式:TSO5-7AB、日本興産社製)を用いて25kg/分の速度で搬送し、25kg毎に、搬送機から合金鋼粉または鋼粉を採取し、得られた試料のCuの分析値の標準偏差(1σ)によりCuの偏析の程度を評価し、その結果を表3に示す。
【0030】
【表3】
Figure 0003918236
【0031】
表3から、本発明例の合金鋼粉(試験No.16 〜No.19 )では、σ=0.02〜0.05%であるのに対し、比較例の試験No.20 の合金鋼粉では、σ=0.15%、比較例の試験No.21 の単純混合粉の鋼粉では、σ=0.20%であり、本発明によれば、銅の偏析が大幅に防止できることが分かった。
(実施例4)
表4に示す平均粒径が75μm の未還元の水アトマイズしたままの鉄粉に、平均粒径が45μm のアトマイズ銅粉を5wt%、または10wt%添加、混合し、得られた混合粉を熱処理炉中で昇温速度80℃/分で昇温し、H2 雰囲気中、熱処理温度が880 ℃の条件下、1hr、部分合金化熱処理を行い、熱処理後の混合粉を解砕、分級し、合金鋼粉(本発明例、試験No.22 、No.23 )を各1ton 製造した。さらに、これら合金鋼粉に、市販の純鉄粉(川崎製鉄製 KIP 301A )を表4に示す配合量で配合し、混合して1ton の鉄粉とした。なお、これら鉄粉のCu含有量は2wt%と同一である。
【0032】
得られたこれら鉄粉を、実施例3と同様に、各々別個に、チューブ式搬送機(型式:TSO5-7AB、日本興産社製)を用いて25kg/分の速度で搬送し、25kg毎に、搬送機から鉄粉を採取し、得られた試料のCuの分析値の標準偏差(1σ)によりCuの偏析の程度を評価し、その結果を表4に示す。
【0033】
【表4】
Figure 0003918236
【0034】
表4から、本発明例の鉄粉(試験No.22 )ではσ=0.02%、本発明例の鉄粉(試験No.23 )ではσ=0.03%であった。本発明例の鉄粉は、比較例の試験No.20 の合金鋼粉(σ=0.15%)、比較例の試験No.21 の単純混合粉の鋼粉(σ=0.20%)に比べ、銅の偏析が大幅に防止できることが分かった。
【0035】
【発明の効果】
本発明によれば、圧縮性が高く、Cuの偏析が少ない合金化鋼粉を経済性に優れた方法で製造することが可能となり、その工業的価値は大きい。

Claims (2)

  1. O:0.3 〜0.9wt %、C:0.3wt %未満を含有する水アトマイズしたままの鉄系粉末に、平均粒径が20〜100 μm のCuの金属粉を混合し、得られた混合物を、昇温速度を20〜 150℃/分、熱処理温度を 820〜1000℃とする還元性雰囲気下の熱処理で、前記鉄系粉末の表面にCuを部分拡散合金化せしめることを特徴とする部分拡散合金化鋼粉の製造方法。
  2. 前記水アトマイズしたままの鉄系粉末の平均粒径が50〜100 μm である請求項1記載の部分拡散合金化鋼粉の製造方法。
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