JP3917713B2 - 油中ポリクロロビフェニルの分解処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、ポリクロロビフェニルによる環境汚染を防止するための分解処理方法に関し、詳しくは油中ポリクロロビフェニルの分解処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、ビフェニル(C6 H5 C6 H5 )の塩素置換体であるポリクロロビフェニル(以下、PCBと略記する。)は、多くの優れた特性を有するため、電気絶縁材、冷却油、熱媒体、作動油、潤滑油、可塑剤、塗料、インク、感圧紙などに広い用途を有する。
【0003】
しかしながら、熱媒に使用されたPCBが食用油に混入した油症事件をきっかに、PCBの生物に対する有毒性や自然環境における難分解性が問題になり、近年厳しい規制の下に使用されるようになった。
【0004】
因みに、PCBの自然環境での生物濃縮は約10000倍と推定されており、水には殆ど溶けず、僅かに懸濁するか、または浮遊物の表面に吸着されている他、大部分は底質に堆積している。
【0005】
このようなPCBを自然環境または工業材料から回収する方法として、硫酸アルミニウムその他の凝集剤や活性炭で処理し、懸濁物質として凝集沈澱処理する方法、または活性炭に吸着させて除去する方法がある。
【0006】
また、PCBを分解する方法として、特殊な焼却炉または噴霧燃焼によって焼却処理する方法、およびアルカリ性プロパノールに溶かして60Cのγ線または紫外線を照射することによって脱塩素化して分解する方法が知られている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記した従来の紫外線照射によるPCBの分解処理方法は、特に油中のPCBを分解する場合に分解効率が低く、またPCBから分離された塩素を油中から効率よく除去できないという問題点がある。
【0008】
そこで、この発明の第1の課題は、上記した問題点を解決して、紫外線照射による油中PCBの分解処理方法において、紫外線による脱塩素化効率をできるだけ簡易な手法によって高めて、比較的小型で簡易な設備で分解処理できる方法とすることである。
【0009】
また、この発明の第2の課題は、脱塩素化処理で生成した塩素を絶縁油などの脂肪族炭化水素油中から効率よく除去できるPCBの分解処理方法とすることである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の第1および第2の課題を解決するため、この発明においては、ポリクロロビフェニルを含有する脂肪族炭化水素油に、尿素、エチルアルコールおよび塩基性水酸化物を添加して混合し、この混合物に紫外線を照射してポリクロロビフェニルを脱塩素化することからなる油中ポリクロロビフェニルの分解処理方法としたのである。
【0011】
また、ポリクロロビフェニルを含有する脂肪族炭化水素油に、尿素、エチルアルコール、エチレングリコールおよび塩基性水酸化物を添加して混合し、この混合物に紫外線を照射してポリクロロビフェニルを脱塩素化することからなる油中ポリクロロビフェニルの分解処理方法としたのである。
【0012】
この発明の油中のPCBの分解処理方法は、パラフィン系(メタン列炭化水素)またはオレフィン系(エチレン列炭化水素)等の脂肪族炭化水素油と尿素とエチルアルコールとが所定量混合された際に、六方晶系尿素の中空六角管状の結晶性尿素付加物が生成され、この中に鎖状の脂肪族炭化水素が抱き込まれるので、その分だけ脂肪族炭化水素油の濃度が低下して被処理油の粘性が低下し、紫外線照射処理時に紫外線が被処理油の表面から深い距離まで到達するようになり、比較的短時間の紫外線照射処理で充分に脱塩素化反応が起こる。
【0013】
また、エチルアルコールおよびエチレングリコールは、脱塩素化されたビフェニル分子に対して塩素イオンよりも反応しやすいので、塩素がビフェニル分子と再結合する反応が阻止されて、紫外線照射による脱塩素化処理の効率が高まる。
【0014】
また、水酸化ナトリウムなどの塩基性水酸化物は、遊離した塩素イオンと化合して塩化物を形成し、油中の塩素濃度を低減するので、系の脱塩素化反応が促進される。
【0015】
【発明の実施の形態】
この発明に用いるポリクロロビフェニル含有の脂肪族炭化水素油は、ポリクロロビフェニルを任意濃度で含有し、主として直鎖状の合成または精製されたパラフィン系またはオレフィン系の炭化水素油からなる脂肪族炭化水素油である。
【0016】
ポリクロロビフェニルは、ビフェニル(C6 H5 C6 H5 )の水素原子に対する塩素原子の置換度が2〜8のものであり、すなわち塩素数2〜8のビフェニルの塩素置換体のいずれかまたは複数種のクロロビフェニルの混合物である。
【0017】
この発明に用いる塩基性水酸化物は、ナトリウムおよびカリウムなどから選ばれるアルカリ金属の水酸化物であり、塩素と化合して脂肪族炭化水素油中に沈澱物を形成可能なものである。具体例としては、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが挙げられる。このうち、水酸化ナトリウムは塩素と反応して有用な塩化ナトリウムを生成するため、特に好ましい塩基性水酸化物である。
【0018】
ポリクロロビフェニルを含有する脂肪族炭化水素油に、エチルアルコール、尿素、エチレングリコールおよび塩基性水酸化物を添加して混合する場合の各成分の配合割合は、以下の通りである。
【0019】
まず、脂肪族炭化水素油100重量部に対するエチルアルコールの配合割合は、500〜2000重量部であり、尿素(H2 NCONH2 )の配合割合は、150〜300重量部であることが適当である。
【0020】
エチルアルコールの配合割合が、上記所定範囲未満では、絶縁油等の粘性が障害となって分解処理効率が低下して好ましくなく、上記所定範囲を越える多量では、処理溶剤のコストが上昇し経済面から実用性を失することにもなるので好ましくない。
【0021】
尿素の配合割合が、上記所定範囲未満ではポリαオレフィン油等の脂肪族炭化水素油との結晶化が進まず、粘稠性が残留して好ましくなく、上記所定範囲を越える多量では結晶が過剰となり、紫外線照射の阻害となって好ましくないからである。
【0022】
その他の成分の処理溶剤100重量部に対する配合割合は、エチレングリコール0.3〜3.0重量部及び水酸化ナトリウム等の塩基性水酸化物0.3〜2.0重量部である。
【0023】
エチレングリコールの配合割合が、上記所定範囲未満では被処理物との接触率が低下し、処理時間が長くなって好ましくなく、上記所定範囲を越える多量では処理溶剤のコスト上昇や紫外線照射の処理効率を阻害することにもなるので好ましくない。
【0024】
また、水酸化ナトリウムの配合割合が上記所定範囲未満では、遊離した塩素イオンが化合しきれずに残留して好ましくなく、上記所定範囲を越える多量では処理溶剤のコストが上昇したり、紫外線照射による処理効率を阻害するので好ましくない。
【0025】
紫外線を照射する場合の条件としては、いわゆる紫外線と呼ばれる電磁波の波長1〜390nmの範囲で効果的に好ましいものを選択的に採用すればよいが、特に184.9nmの波長の紫外線が好ましく、この紫外線は253.7nmの波長の紫外線に比べてPCBの分解効率が高いことが判明している。
【0026】
紫外線の照射強度および照射時間については、照射強度12000〜20000μW/cm2 、照射時間15分〜60分の範囲に設定することが、実用的な分解処理を行なうためには好ましい。
【0027】
【実施例】
エチレングリコールの有効性および紫外線の照射時間による差異を調べるため、以下の参考実験を行なった。
【0028】
〔参考実験1〕
シャーレ内にPCB濃度が1.45mg/kgのトランス油原液(脂肪族炭化水素油)を1.0g入れて、これに2−イソプロピルアルコール(以下、IPAと略記する。)を0.5g添加して5分間攪拌し、次いで水酸化ナトリウムを0.5g添加して5分間攪拌し、シャーレの上端から上方5mmの距離から波長253.7nmの紫外線を30分照射し、油中ポリクロロビフェニルの分解処理を行なった。
処理後のPCB濃度をガスクロマトグラフ法(昭和46年環境庁告示第50号付表5)で測定したところ、0.87ppmであるとの結果が得られた。
【0029】
〔参考実験2〕
参考実験1において、紫外線の照射時間を90分としたこと以外は全く同様にして分解処理を行なった。処理後のPCB濃度を参考実験1と同様に測定したところ、0.54ppmであるとの結果が得られた。
【0030】
〔参考実験3〕
参考実験1において、IPAを0.5g添加することに代えてエチレングリコールを0.5g添加したこと以外は全く同様にして、分解処理を行なった。処理後のPCB濃度を参考実験1と同様に測定したところ、0.58ppmであるとの結果が得られた。
【0031】
〔参考実験4〕
参考実験3において、紫外線の照射時間を90分としたこと以外は全く同様にして分解処理を行なった。処理後のPCB濃度を参考実験1と同様に測定したところ、0.54ppmであるとの結果が得られた。
【0032】
参考実験1〜4の結果から、紫外線分解促進剤として採用したエチレングリコールは、IPAに比べて格段に良好な分解効率を示すことが判る。また、エチレングリコールの経時的な分解効率は、処理時間が30分または90分において殆ど差異がなく、IPAに比べて短時間にPCBを分解できることがわかる。
【0033】
なお、上記した参考実験において、紫外線波長を184.9nmとしたこと以外は、全く同様にして処理後の紫外線濃度を調べたところ、紫外線波長が184.9nmのほうが、波長253.7nmの紫外線処理に比べて7%高い分解効果を示した。
【0034】
〔実施例1〕
シャーレ内にPCB濃度が1.45mg/kgのトランス油原液(脂肪族炭化水素油)を1.0をg入れて、これに尿素とエチルアルコールの1:9混合物(重量比)を20gすると共に水酸化ナトリウムを1g添加して15分間攪拌し、シャーレの上端から上方5mmの距離から波長184.9nmの紫外線を30分照射し、油中ポリクロロビフェニルの分解処理を行なった。
処理後のPCB濃度をガスクロマトグラフ法(前記参考実験と同じ測定方法)で測定したところ、0.01ppm未満であるとの結果が得られた。
【0035】
〔実施例2〕
シャーレ内にPCB濃度が1.45mg/kgのトランス油原液(脂肪族炭化水素油)を1.0g入れて、これに尿素とエチルアルコールの1:9混合物(重量比)を20gすると共にエチレングリコール1gおよび水酸化ナトリウム1gを添加して15分間攪拌し、シャーレの上端から上方5mmの距離から波長184.9nmの紫外線を30分照射し、油中ポリクロロビフェニルの分解処理を行なった。
処理後のPCB濃度をガスクロマトグラフ法(前記参考実験と同じ測定方法)で測定したところ、0.01ppm未満であるとの結果が得られた。
【0036】
【発明の効果】
この発明の油中ポリクロロビフェニルの分解処理方法は、以上説明したように、被処理油に尿素を添加することによって結晶性尿素付加物を生成して被処理油の粘性が低下するので、紫外線照射処理効率が向上し、また添加されたエチルアルコールおよびエチレングリコールによって、解離した塩素がビフェニル分子と再結合しないので、紫外線照射による脱塩素化処理の効率が高まり、また水酸化ナトリウムなどの塩基性水酸化物が、遊離した塩素イオンと化合して脱塩素化反応を促進する。
【0037】
したがって、紫外線による脱塩素化効率が簡易な手法によって高めることができ、比較的小型で簡易な設備で分解処理できるようになる。また、脱塩素化処理で生成した塩素は絶縁油などの脂肪族炭化水素油中から効率よく除去できるPCBの分解処理方法となる利点もある。
Claims (2)
- ポリクロロビフェニルを含有する脂肪族炭化水素油に、尿素、エチルアルコールおよび塩基性水酸化物を添加して混合し、この混合物に紫外線を照射してポリクロロビフェニルを脱塩素化することからなる油中ポリクロロビフェニルの分解処理方法。
- ポリクロロビフェニルを含有する脂肪族炭化水素油に、尿素、エチルアルコール、エチレングリコールおよび塩基性水酸化物を添加して混合し、この混合物に紫外線を照射してポリクロロビフェニルを脱塩素化することからなる油中ポリクロロビフェニルの分解処理方法。
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